2月20日、同志社大学学習支援・教育開発センターの「教育方法・教材開発費」への採択が決まりました。テーマは、「『障害者でない者と等しく』学ぶための教材・試験のあり方」です。
2019年度の取組みでは、障害者差別解消法の施行やそれに伴う同志社大学での制度改革を受け、実際に「合理的配慮」の提供を担う教職員が、具体的に何をしなければならないかを探り、それを共有することを目指しました。
「合理的配慮を行ってください。方法は任せます」では、配慮提供を行う教職員には、「方法を考える」という負担がかかります。そして、合理的配慮の内容は、教職員の知識、経験、意欲によってばらつきが生じます。
具体的にどうすればよいかを示すことで、教職員の負担が軽減されると同時に、障がいのある学生がその所属学部や受講する科目にかかわらず、同志社大学全体で同じ水準の「合理的配慮」が受けられるよう環境を整えることができます。
2019年度の取組みは、まず、従来の障がい学生支援制度で提供されてきた「配慮」のノウハウを確認し、あるいは、より簡易かつ合理的な方法を開発することでした。しかし、その過程において、私たちは、障害者差別解消法で求められる「配慮」が、必ずしも従来の「配慮」とは同一でないことに気づきました。
従来の「配慮」は、教員の「教育的配慮」や学生の「友情」、つまり、周りの「思いやり」にもとづいて提供されてきました。その場合、配慮提供する側の能力や財源との関係での限界はあるものの、基本的に、配慮提供する側に意欲がある限り、無限に提供されてよいものでありました。
しかし、障害者差別解消法で求められるのは、「障害者でない者と等しく」活動するための「配慮」であり、かつ、障がい者の個別ニーズに合った「配慮」です。
この気づきのもと、2020年度は、「障害者でない者と等しく」学ぶためには何が必要か、という視点から、教材や試験のあり方を考えます。
「教育方法・教材開発費」の継続申請は1度しか出来ませんので、この予算での取組みは次年度で最後になります。
現場ですぐ使える情報を発信していきたいと思います。
よろしくお願い申し上げます。
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ハウリング問題
6月から、プロジェクトメンバーの担当講義で、字幕化の実験を行っています。
音声認識アプリを用いて、講師が話している内容を文字化し、プロジェクターに映し出す…それが最終目標です。しかし、誤って認識されたものがいきなり前に映し出されると、どうしても気になって、学生の集中力が途切れます。
ですから、まずは、手元タブレットのみに映し出し、認識率を確認することにしました。
と、いきなり、1つの大きな問題が確認できました。
「ハウリング」です。
大学の授業は大きな教室で行われることが多いため、マイクが必要です。
しかし、音声を拾うためのマイクとの間で、ハウリングを起こす可能性があります。
ハンドマイク+ロジャーマイク(音を披露ためのマイク)ではハウリングしましたので、
ピンマイク+ロジャーマイクを試みましたが、やはり若干のハウリングがある…ハウリングをなくそうとすると、ピンマイクをずいぶん下(みぞおちよりも下)につけなければならず、結局は、ほぼ地声で授業することとなりました。
今回、実験をしたのは70名ほどの授業でしたので、地声でもギリギリ何とか…という状況でしたが、これ以上の数になると、地声では厳しいでしょう。
「すべての講義に字幕を」プロジェクトにとって、ハウリングは1つの大きな壁です。
ちなみに、スピーカーの前にロジャーマイクを置くことが出来れば、スピーカーから音を拾って、音声認識させることはできるようです。
ただし、それは、元が「人の地声」である場合に限られており、テレビやPCなどを介した場合には、スピーカーから音を拾うことができないようです。
リアルタイムでの点字化に向けて その1
平成の終わりに「板書やパワポの情報をリアルタイムで点字情報に転換する実験」を行い、「これは意外と使えるかも!」との感触を得ました。
しかし、実際の講義で使うには、まず練習を重ねる必要があります。
まずは、パソコン2台をつないで、さらに、点字端末につなぐ…
このセッティング作業を、いかにスムーズに行うかは一つの大きな課題です。
セッティングにかけることができるのは、講義前の休み時間だけです。休み時間は15分、移動時間も考慮すると、使えるのは10分弱でしょう。
情報の入力は、PC通訳(パソコンノートテイク)の技術を使うことができます。
通常、PC通訳では、2人1組となって連携しながら、話者の音声情報を「要約」して入力していきます。
しかし、今回、入力の対象となるのは、文字情報です。
音声をそのまま文字情報にする時ほどのスピードは求められませんので、1人で対応できますが、何をどこまで入力するかの判断が必要となります。
たとえば、
レジュメなど紙資料の配布はなく、板書やパワーポイントだけの講義、
レジュメを配布したうえで、板書する講義、
パワーポイントを用い、パワーポイントのシートをそのまま印刷し配布する講義、
パワーポイントを用い、それとは別にまとめたレジュメなどを配布する講義、
といった講義スタイルに加え、
口頭でどれだけの情報が提供されるかによって、入力すべき情報は変わってきます。
そこで、実際に、パワーポイントを使っておられる「知的財産法概論」(法学部)の講義で、練習させていただくことになりました。
山根先生、ご協力ありがとうございます。
今日はセッティングなしに、「入力」の練習だけ。
しかも、パワーポイントの内容は事前に提供されているので、今日は、
「赤字」などで強調されている部分、
「図画」情報の説明
を中心に入力しました。
テキストデータになると、色や太字、下線といった強調部分が消えてしまいますので、何らかの形で補う必要があります。
普段、そうした情報は、全盲学生のとなりにスタッフが座り、口頭で伝えています。
けれど、文字情報が有益な場面もありそうで、使い分けができるとよいかも…というのが、今日、入力作業を行ったプロジェクトメンバー、土橋の感想です。
確かに、必ずしも「リアルタイム」でなくても、どこがポイントかを示すことができれば、講義の内容をより正確に伝えることができるかもしれません。
今日の「気づき」でした。
「練習」は、しばらく続きます。
リアルタイムで点字情報にする実験
今日は、筑波技術大学の白澤麻弓先生にお越しいただき、PC文字通訳ソフト「まあちゃん」と画面読み上げソフト「NVDA」を用いて、PC入力した情報をリアルタイムで点字端末に送り、点字情報にする方法を教えていただきました。
もともと、この技術は、筑波技術大学で盲ろう学生の支援のために開発されたものです。
詳しい内容については、こちらで(13ページ以下)。
現在、全盲学生に対しては、講義資料などをテキストデータにして事前に渡しています。
テキストデータ化された情報は、学生が携帯している点字端末に、点字で表示されます。
ただ、事前に渡せない資料があります。
たとえば、板書内容。
講師がその場で書きますから、事前には提供できません。
最近、パワーポイントを使う講義も増えています。
パワーポイントの内容が紙で配布されることも多いですが、板書がわりにパワーポイントが使われる場合もあります。
もちろん、講義後にテキストデータの提供があることもありますが、その場合であっても、講義時間中は、他の学生が得ている(視覚)情報なしに、話を聞かなければなりません。
その状況を何とか解消できないかという試みです。
今日は、飛び入り参加してくださった法学部教員の協力も得て、全盲学生に、実際に、パワーポイントの内容をリアルタイムで受け取る体験をしてもらいました。
セッティング、入力その他の機器の操作には慣れが必要ですが、「何度か練習すれば使えそう!」という実感が得られました。
PC2台をつなぐ方法のほか、音声認識アプリ「UDトーク」を使ってスマホで送る方法、BMチャットを使ってパソコンと点字端末のチャットで送る方法も教えていただきましたので、試してみたいと思います。
『聴覚障害学生サポートブック ー18歳から学ぶ合理的配慮ー』
PEPNet-Japan(日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク)の、平成29年度新たな時代のニーズに対応したモデル事例構築事業「障害者差別解消法に基づいた聴覚障害学生の権利擁護」で作成された冊子です。
プロジェクトメンバーである梶山が、「事例編」の解説を担当しています。
大学に進学したいと思っている高校生、大学で支援を受けたい大学生を対象に書かれたものですが、支援する側の大学教職員にも是非読んでいただきたいと思います。
大学の組織や授業、入学から卒業までのスケジュールなど、高校との違いを説明する部分もあり、障がいの有無にかかわらず、高校生や大学1年生には有益な情報が含まれています。
聴覚障がいのある生徒・学生のための冊子ですが、工夫すれば、他の障がいにも使えます。
下記URLで読むことが出来ます。
講義資料をテキストデータにするには
春学期の講義が始まりました。
今年度、全盲学生が受講する講義を担当する先生方から、「テキストデータ化ってどうするの?」などの質問が多数寄せられましたので、現時点での情報を整理した「Q
&A」を作成しました。
まだ「試作品」で、今後、コンテンツを充実させていく予定です。
同志社大学固有の話も含まれていますが、多くは、どの大学、どの学部でも使える内容となっています。
プロジェクト始動
3月7日、昨年秋に申請した「視聴覚に障がいのある学生が受講する講義における教育方法の開発」が「2019年度 教育方法・教材開発費」に採択されました。
法学部と障がい学生支援室の協力のもとに、立ち上げたプロジェクトです。
障がい学生支援室はともかく、なぜ法学部?と思われるかもしれません。
法学部には、2018年春、全盲の学生が入学しました。
これまでにも、視聴覚に障がいのある学生は、法学部にたくさん在籍していましたが、全盲の学生は初めてでした。
ですから、1年目は試行錯誤の連続でした。
「こういうことが知りたい」
「こういうことができたらいいのに」
と現場から声が上がりましたが、
障がい学生支援室にも、それに応えるだけの十分な情報がありませんでした。
そこで、全盲学生への対応に限らず、「こういうことが知りたい」「こういうことができたらいいのに」に少しでも応えるべく、プロジェクトを立ち上げることになりました。
3月13日、早速、第1回目の打ち合わせがありました。
1年間のプロジェクトですから、2つのことにしぼって取り組むことになりました。
1つは、全盲学生のための学習環境の整備
もう1つは、聴覚障がい学生を含む、「聞き取り」が苦手な学生のための学習環境の整備
です。
それぞれ、
「すべての資料を音声・点字に」
「すべての授業に字幕を」
を目指して取り組みたいと思います。