3回目となるゲストスピーカーは、
村田製作所の常任顧問・坂部様でした。
坂部様は、スライドを利用して、私たちに分かりやすく
講演をしてくださいました。
以下議事録です。
l 村田製作所とは
創業者時代に産学研究をベースに電子部品事業を拡大し確立してきた。そのベンチャー精神が今も息づく企業である。携帯電話やコンピュータ、AV機器など、エレクトロニクスの中心的な分野から、自動車や環境・エネルギー、ヘルスケアなどの新領域までをも支えるエレクトロニクス機器を中心に事業を展開している。新しい価値を提案し続け、私達が便利で豊かな生活を送れるような製品を提供している。
l 歴史に学ぶ
論語の孔子の教えを2つほど引用して説明してくださった。
そのうちの一つが「温故知新」である。
故きを温めて新しきを知る。
過去を知らないのはよくないが、新しいことをやらないのも良くない。
故きを知り、それをベースに新しいことに挑戦することが大事である。
創業者・村田昭様は父からの教えを胸に「ニューセラミックス」への挑戦が始まった。
人生において大切なのは巡り合いである。その時にどんな人・ものに出会うことができるか。
村田昭様は人・物とのマッチングに恵まれ、成功する。
l 経営スタンス
まず、垂直統合である。材料や生産設備は内作にこだわる。
次に高付加価値製品の開発である。世界シェアNo1の製品が多い。
そして研究開発・生産現場重視である。研究開発費の売上高比率は約7〜8%である。また、新製品比率は40%を目指している。
最後にグローバル経営である。市場のあるところで生産・販売する。国内生産は85%である。
最先端のことをやろうとすると、それに見合う材料や機械は中々見つからない。
「村田製作所の製品がないと商品が作れない」と言われるようにする。
l 経営哲学・理念
創業社長・村田昭様の経営哲学と理念である。
従業員が村田製作所に勤めることが誇りであるような会社にしたい。
技術者には自由な雰囲気で新しい技術に挑戦し、成し遂げてもらいたい。
材料から一貫した開発・生産で、圧倒的な市場シェアをとれ。
産学協同し、解らないことは専門家の知恵を借りるように。たとえ、70%のことを知っていても「知りません、教えてください」という気持ちで接するほうが良い。
ものづくりでは手を抜くな、工程改善に焦るな。
人のまねはするな、人のできない独自な製品で商売をするように。
お客様の信用が商売人にとって第一である。
顧客、協力者、従業員、株主各位に感謝のこころで経営する。
大事業に必要な3要素は「運」「鈍」「根」である。
「運」とは、信念を持って精進することで自分の周りに縁ができることである。
「鈍」とはつまり「限定的いい加減さ」であり、発見には必要な要素となる。この限定的いい加減さというのは、予想外のことがちょっとだけ起こるような、適度ないい加減さのことである。少しくらい鈍く抜けていたほうが、周りが助けてくれ、成功につながる。
「根」とは、粘り強い根気を持ち、商いに飽きないことである。
創業条件は3M+T(天の時)であり、「Man Materials Money and Time」のことを指す。
創業者の村田様はこれに恵まれていた。
l 日本の現状懸念
以前と比べ、日本の人口構造は大変動し、いまや高齢社会となり、しょうがなく海外から人材を確保している。
経済力も低下しており、GDPは減少、さらに巨額の財政赤字を出している。
次世代基幹産業が不透明である。以前日本はアメリカよりも進んでおり、逆にアメリカからバッシングを受けていた。しかし、そのアメリカは今、日本の先を行き、違う次元へ行ってしまった。
内需、購買力が低下し、デフレが進行している。
産業の空洞化が加速している。生産の海外シフトが加速し、外資の引き上げがあり、電力不足である。
安全・安心の食であった日本が、様々な問題に直面し、そのブランドは失墜している。
不安定な政治が続いている。
これからの日本を担う若者の理科離れが進んでいる。
日本の国際競争力は第1期科学技術基本計画を機に落ちてしまった。さらには欧米に対しても競争力は下がっている。
法人税がアジアは25%であるのに対して、日本は40%と高めである。
l 今後の課題
我が国の製造業が生き残れる条件として考えられるものはいくつかある。
社会が求める独創的・高付加価値製品を開発すること。そのときのニーズに合わせてつくる。
大学、企業ともに研究開発の国際化を進めること。
理系の人材を確保して、育成すること。
海外生産に対抗できる生産技術の革新をおこなうこと。
基礎的な科学基盤を充実させること。
起業家の育成に力を入れ、援助をすること。
法人税の低減を進めること。
真にグローバル企業になるために。
グローバルに受け入れられる企業文化を構築すること。
世界中から集めた多国籍な人材を進んで活用すること。
そのために他国の文化を理解し、融合することが必要である。
グローバルな分業体制で臨むこと。
国内生産できる高付加価値製品を開拓すること。
l 将来に向けた人材教育
最近の日本人は昔と比べ、変質しつつある。
理科・工学嫌いが増えた。
安定志向になり、リスクを回避するようになった。
我が国の将来に悲観的である。
若者は仕事より家庭重視派である。
新興国の台頭や、大震災で技術大国の自信を失いつつある。
基礎学力で世界に後れを取った。
日本の教育や経済力はもう誇れないものとなっている。
礼儀正しさや協調性、勤勉さといったものに対する意識も日本全体が低くなっている。
仕事と個人の生活ではどちらを優先するかという問いに対しては、若い年代ほど個人の生活を優先に考える傾向がある。
最近の若者は内向きがちである。
日本の大学進学率は世界に比べて案外低い。
海外へ行く日本人の留学生は少なくなっている。
理科嫌いや工学離れを解消するためには。
技術者に対する社会的な処置を改善することである。イノベーションを担う技術者が尊敬される社会を作る。
工学、ものづくり技術の魅力を社会的にPR、認知させることである。
女性の工学部進出を促進する。
これからは右脳が主役の「コンセプチュアル社会」である。そのためには6つの感性、ハイコンセプトが求められる。
機能だけでなく、デザインも必要となる。つまり、感情に訴えかけるものである。
議論よりは物語で、相手を納得させる能力が重要となる。
個別よりも全体の調和を大切にする。それにはまとめる力が必要になる。
論理でなく共感を大切にする。それは対人関係を築き、他人を思いやる能力が必要となる。
真面目だけでなく遊び心が必要となる。それは時間的、経済的豊かさを表す。
そして、モノよりも生きがいを大切にする。つまり、物質的な豊かさから精神的豊かさを求めることである。
技術者の生き方とは、
謙虚な心で自然に学び、科学することで得られた知恵と技術を結集して夢に挑戦し、人類の発展に貢献できる技術の達人を目指す。
人格を磨き、周りの人に幸せと感動を与える良き社会人となる。
▼質問
Q:どのようにしたら日本はアメリカのように違う次元へいくことができるか。
A:アメリカは日本と違い、大学で人が集まってみんなでやる。それをサポートする金持ちがいる。新しいものに挑戦する気持ちが日本にはない。また、これに投資しようとする人も日本にはいない。
Q:文系の女子でも働くことは出来ますか。
A:村田製作所では文系は20%で競争率は高いが、女性が活躍している。理系は大学院に行くべきである。
|