同志社大学理工学部 化学システム創成工学科
計測分離工学研究室

研究課題

研究課題

「計測分離」の関わる分野は、重要な学問領域であると同時に、企業や工場での開発・研究、さらに病院などあらゆる公共施設から家庭に至るまで、幅広く必要不可欠な技術です。私たちは、化学システム創成工学科で学ぶ化学工学の基礎(分離工学、反応工学、流体工学、拡散工学、生物化学工学など)を生かしながら、さらにシミュレーション工学も取り入れ、新しい「計測分離」(分析化学)の研究に取り組んでいます。新しい「計測分離」技術は、新たな情報を自然界から読み出し、開発や研究を促進し、さらには、人々の生活や社会を進化させていきます。

「計測分離工学研究室」では、20年来、流れ分析(フローアナリシス)、特にマイクロ空間を利用するフローアナリシスの研究に、様々な視点から取り組んでいます。

分析手法的には、「フローインジェクション分析法」、「高速液体クロマトグラフィー」、「キャピラリークロマトグラフィー」、「キャピラリー電気泳動法」、「マイクロチップクロマトグラフィー」、「マイクロチップ電気泳動法」等を、挙げることができます。

研究課題としては、2002年、はじめてHPを立ち上げたとき以来、以下の4テーマを主題として掲げてきました(残念ながら、最初のHPは、その維持・管理が継続できずに4、5年で終わってしまいました---)。

  • 「微量分析への挑戦」 -フェムトからアトへ-
  • 「生命科学、環境科学への展開」 -生体成分,環境ホルモン等の分離・検出-
  • 「μ-TAS (micro-total analysis system)の開発」 -超小型分析装置の開発-
  • 「生命プロセスの解明」 -遺伝子解析の基礎検討-

(補足説明)
上記4つの主題テーマには、「計測分離工学研究室」で長年取り組んできた「化学発光分析」が、大きく関わってきます。化学発光分析法は、吸光分析法、蛍光分析法に次ぐ第三世代の光分析法として注目されています。その特長として、次のような事がらを上げることができます。
(1)あらゆる領域に存在する、(2)生命活動に広く関与する、(3)Chemistryとして魅力的、(4)高感度検出を可能にする、(5)光源、分光器を必要としないため、装置のダウンサイズができる、(6)装置・試薬が安価で経済的かつ環境にやさしい。

また、扱ってきた分析対象物としては、対象の取り上げ方が一様ではありませんが、「有機化合物、金属イオン、金属錯体、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、糖質、ヌクレオシド、核酸、リポソーム、蛍光物質、高分子微粒子、アルカロイド、環境ホルモン、カテキン、抗酸化剤、腫瘍マーカー、発ガン性物質等」を挙げることができます。

具体的な研究テーマについては、教員紹介のところでの「研究活動」、「研究業績」、「科学研究費補助金採択研究課題」をご参照ください。

これまでの課題を生かしつつ昨今の取り組み

「マイクロ空間を利用したフローアナリシス」に関わる研究を抜本的に改良・発展させるには、マイクロ空間内の流体流れそのものを、研究対象として捉えていくことの必要性を感じています。たとえば、私たちが新しく見出した微小領域の流れ、「相分離混相流」、を挙げることができます。

「相分離混相流」は、見出されてまだ間もない流れです。非混和混相流と比較すると、その認知度は低いものです。しかし、「相分離混相流」は、今までに報告例がない興味深い微小領域の流れであることに変わりはありません。

これまでの研究を通して得られた知識や技術、ノウハウを活かしながら、「相分離混相流」の学術的体系化と実用的技術改良を進めていきたいと思います。それが、一つのbreak throughとなって、先にあげた4つの研究課題、

「微量分析への挑戦」-フェムトからアトへ-
「生命科学、環境科学への展開」-生体成分,環境ホルモン等の分離・検出-
「μ-TAS (micro-total analysis system)の開発」-超小型分析装置の開発-
「生命プロセスの解明」-遺伝子解析の基礎検討-
のさらなる発展に繋げていきたいと思っています。

相分離混相流の紹介

「相分離混相流」の学術的体系化と実用的技術改良について
参考著書:Investigation of Tube Radial Distribution Phenomenon (TRDP) and Its Function Application

身近な微小領域の流れ

動物の血管中の血液の流れや植物の道管・師管の中の水分、養分の流れは、身近な微小領域の流れとして挙げられます。このような生体中の流れは、日頃、あまり意識することはありませんが、生命を維持するため極めて優れた輸送や循環の機能を有しています。哺乳類の誕生を約2億年前に、維管束植物の誕生を4億年前あたりに考えると、生命体は驚くほど太古の昔から微小領域の流れを制御し、それを改良、発展させることで、進化の過程を歩んできたといえるでしょう。

工学的な微小領域の流れ

一方、工学的な視点から見ると、微小領域の流れの研究は歴史的に浅く、19世紀まで待つことになります。19世紀の代表的な微小管内の流れの研究として、電気浸透流と層流が挙げられます。その後は、これらが工学的あるいは人工的な主たる微小領域の流れとして、研究が展開されていきます。20世紀後半になると、工作技術や流体制御技術の飛躍的な進歩にともなって、様々な微小領域の流れが報告されてきます。たとえば、流路径内に障壁を設けたり、流れの向きを変化させたり、溶液を混合させたり、セグメントを作るなど、いろいろな工夫が施されます。これらの微小領域の流れの中には、水と油のように混ざり合わない溶液を合流させて得られる液-液界面を有する流れ、すなわち「非混和混相流」が加わってきます。

相分離混相流

ここでは、私たちが見出した「相分離混相流」を紹介します。微小領域に見出された新たな流体挙動です。従来の液-液界面を有する混相流、すなわち「非混和混相流」では、混ざらない2液を流路内で合流させ、液-液界面をつくります。これに対し、「相分離混相流」は、二相分離混合溶液を微小流路内に送液し、温度/圧力変化で混合溶液が一相から二相へ相分離することに基づき、安定な液-液界面を創出します。すなわち、一流路系で溶液を合流させることもなく、液-液界面がつくれます。

 二相分離混合溶液とは、温度/圧力変化で一相から二相へ可逆的に相変化する混合溶液のことを言います。水−親水性/疎水性有機溶媒混合溶液をはじめ、水−界面活性剤混合溶液、水−イオン液体混合溶液、フルオロカーボン/ハイドロカーボン有機溶媒混合溶液などが知られています。二相分離混合溶液は、相変化によって、回分式容器内では上層と下層に相分離しますが、それを微小領域に送液しながら相変化させると、液-液界面が創出され混相流が得られます(図1)。この流れを「相分離混相流」と呼んでいます[1]。

相分離混相流における環状流

「相分離混相流」では、液滴流、スラグ流、並行流、環状流などの流れを観測できます(図1)。なかでも内側と外側の2相から構成される環状流は、極めて興味深いものがあります。これまで内径が数百マイクロメートル以下の微小領域において、環状流は報告されていません。すなわち、微小領域での環状流は、「相分離混相流」のみが創出できます。径100マイクロメートルの蛇行したマイクロチャネルにおいても安定した環状流がえられます(図2)。

 環状流での内側と外側の相配置は、粘性散逸法則と二相混相流の線形安定性解析の結果から説明されました。すなわち、環状流においては、流れの安定性が増すように、内側と外側の相配置が決まってきます[2]。ここで、環状流の形成が、微小領域の内壁と溶媒分子との化学的相互作用から誘起されるという誤解がしばしば生じてきます。内壁の化学的性質は、環状流の外側相の流れの安定性に影響を与える可能性があるにしても、当然ながら「相分離混相流」としての環状流そのものを誘発するような主導的要因にはなりません。

微小領域における環状流の技術応用

微小領域における環状流を利用して、分離、抽出、混合、化学反応などに関わる新しいマイクロフロー化学技術を提案してきました[3]。ここでは、キャピラリークロマトグラフィーへの応用例を紹介します。主に、マイクロシリンジポンプ、キャピラリー(毛細管)、および検出器から構成されます。キャピラリーには、フューズドシリカ、ポリエチレン、PTFEなどの材質のチューブが使用できます。クロマトグラフィーは、溶質の移動相と固定相とへの分配比の違いから溶質を分離する手法です。キャピラリー内の環状流に基づき内側と外側の相が形成されると、層流条件下、内側の相が移動相、外側の相が低速度で移動し擬似固定相としての役割を果たします。分離メカニズム(図3)と分離例(図4)を示します[1,3]。分離は,未処理(中空)のキャピラリーと混合キャリア溶液を使用することで遂行できます。従来のキャピラリークロマトグラフィーのように、特殊な分離カラム(パックドカラムやモノリスカラム)を必要としません。

おわりに

ここでは、微小領域に見出された新たな流体挙動として「相分離混相流」を紹介しました。「相分離混相流」では、二相分離混合溶液を微小流路に送液し、温度/圧力変化で混合溶液が一相から二相へ相分離することに基づき、液-液界面を流れの中に創出します。従来の「非混和混相流」では、微小領域における環状流は報告されておらず、「相分離混相流」が、はじめて微小領域での環状流の形成を可能にしました。環状流を利用したキャピラリークロマトグラフィーは、クロマトグラフィーの固定相の概念を脱却するものであり、特殊な分離カラムを必要としない新しい分離手法として注目されます。

  • 1) J. Flow Injec. Anal., 32, 89 (2015), and references cited therein.
  • 2) Anal. Sci., 32, 455 (2016), and references cited therein.
  • 3) Anal. Sci., 30, 65 (2014), and references cited therein.
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