多様性の科学

CIAの失敗、エベレスト山頂での遭難事故、イノベーションを生み出す環境、食事療法の矛盾。
豊富な実例を元に、「多様性」がヒト社会で果たす役割が明らかにされている。

多様性は、差別問題や倫理的な問題として語られることが多い。
しかし多様性は、業績を挙げる要因として、イノベーションを起こす要因として重要だという。
「多様性をうまく活用できれば、組織にも社会にも大きな恩恵がもたらされるだろう」(314ページ)。

認知的多様性の高い組織。そのような組織は集合知も高く、課題解決力も高い傾向にある。
「人類の知性は、個人ばかりでなく集団の多様性の上に成り立っている」(341ページ)というメッセージには説得力がある。

(キーワードのメモ)
・後知恵バイアス(17ページ)答えを知った後で「そうなると思っていた」「当然予測可能だった」と考える心理的傾向
・同類性選好(19ページ)外見や考え方が自分に似た者を選ぶ傾向、人材採用の場面でよく見られる
・創発 emergence(27ページ)部分の性質の単純な総和にとどまらない特性が全体として現れること
・認知的多様性(28ページ)ものの見方や考え方の違い
・普遍主義 universalism(32ページ)人の世界の捉え方はみな根本的に共通しているという考え方↔︎個人主義
・ミラーリング(40ページ)同じような人々の集団は盲点も共通しがちで、その傾向を互いに強化してしまうこと
・反事実 counterfact(75ページ)「仮に○○をしなかったらどうなっていたか」という、実際には起こらなかった「たら・れば」のシナリオのこと
・水平思考 lateral thinking(100ページ)既成概念にとらわれない考え方。垂直思考(vertical thinking)は水平思考と対比され、与えられた枠の中で解決を探る思考法
・不均衡なコミュニケーション問題(144ページ)リーダーや特定のメンバーが会議中の発話の大部分を占める
・情報カスケード(145ページ)構成員が同じ判断をして右に倣えとばかりに一方向に流れ込んでいく現象
・心理的安全性(155ページ)心理的安全性が高い環境とは、他者の反応に怯えることなく、自身の意見を表明できる環境。チームのパフォーマンスにおいて最重要と言われる
・情報のスピルオーバー効果(195ページ)新たなアイデアを人と共有すると、可能性はどんどん広がっていく。アイデアはおのずと新たなアイデアを誘発する。アイデアの共有を促す環境が、そうでない環境よりも生産的かつ革新的になるのはそのためだ。イノベーションは、社会的ネットワークの中で大勢の多様な頭脳(集団脳、集団的知性)が生み出す想像力の賜物だ
・エコーチェンバー現象(235ページ)同じ意見の者同士でコミュニケーションを繰り返し、特定の信念が強化される現象
・フィルターバブル(236ページ)泡の中に閉じ込められたようになって、多様な意見や視点へのアクセスが制限される
・エコーチェンバー現象の仕組み(242ページ)内側の当事者は、反対意見を聞けば聞くほど信念を強める。…反対派が攻撃すればするほど、あるいは間違いを指摘すればするほど、「弾圧」や「組織的な陰謀」の裏付けになる。エコーチェンバーの内側の人々にとって、反対派の意見は新たな情報ではなく、フェイクニュースでしかない。反対派が提示するデータはその一つひとつが自分自身を「正当化」する材料になる。その結果、両者の溝は深まる一方だ。…外部の意見を聞きはするものの、意見を変える材料には決してならない。…反対意見やその根拠となるデータは、考慮の上で価値がないと判断するのではなく、見聞きした瞬間にはねつける。まるで磁石の両極同士を近づけたときのように。…一方にとって、もう一方の情報やデータは常にフェイクニュースだ。
・「ポスト真実」の時代(245ページ)客観的事実より個人的感情や信条で世論が形成される時代
・人身攻撃(263ページ)人を抽象することを目的とした「人身攻撃」は、「反論相手、またはその議題に関連する人々の人格や信条などを攻撃し、肝心の論点に関する議論を迂回するための誤った論法」。イギリスの哲学者ジョン・ロックも次のように定義「人が議論をする際、優位に立とうとして、あるいは少なくとも相手を沈黙させようとして用いる論法」。人身攻撃を受けた者は、物証を持って異論を唱えられた時と同じくらい、自身の主張に自信をなくす。つまり論点ではなく論者を攻めても効くのだ

(多様性の科学ー画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織、マシュー・サイド著、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2021)