IPEの果樹園2018
今週のReview
1/1-6
*****************************
アメリカの税制改革 ・・・アメリカ国家安全保障戦略 ・・・クリスマス ・・・カタルーニャ ・・・ロボットに満ちた世界 ・・・EU改革 ・・・中国の世界戦略 ・・・暗殺、投獄、買収 ・・・BrexitとUK
******************************
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● アメリカの税制改革
NYT DEC. 21,
2017
Tax-Cut
Santa Is Coming to Town
Paul Krugman
今年もプレゼントの季節だ。人によっては素晴らしいプレゼントをもらう。でも、人によっては石炭のクズだ。しかし連邦政府に関する限り、サンタクロースは長い休暇中で、もしかすると永久に帰ってこない。彼の代わりに来た共和党の減税サンタはまったく違う好みを示す。
その中心にあるのは法人税の引き下げだ。共和党議員たちは、これが労働者たちにも高賃金をもたらす、という。しかし、ほとんどの研究機関によれば、それは5分の1から4分の1でしかない。これは、もっぱら株主に利益をもたらす。退職金の運用などで株式を保有しているアメリカ人は多い。しかし、国内保有の40%は所得の上位1%の家計で占められている。下から80%の家計はわずか7%の株式しか保有していない。減税サンタは富裕層が大好きだ。
個人所得の減税はわずかであり、だれも気が付かないほどだろう。しかも法人税の引き下げは恒久的だが、個人所得税は失効する。税制法案全体が実現するころには、多くの中産家族が今より多くの税金を負担する。何の合理的な理由も一貫した政策目的もなく、ビジネスのオーナーたちが多くの利益を得る。それはトランプのような人たちに降って湧いたような富をもたらす。
新しい税制は、すでに様々な抜け穴が見つかっている。共和党が宣伝していた、富裕層が減税によって得をしない、より簡素な税制にする、という約束はどうなったのか?
Bloomberg 2017年12月28日
The U.S.
Is Becoming the World’s New Tax Haven
By The Editors
7年前、アメリカは世界各地の政府が直面する問題を解決するよう指導していた。毎年、アメリカ人が所得税を免れる推定額は2.5兆ドルに達し、それがあれば貧困問題を解消し、インフラを更新し、法を守って納税する市民のために税率を抑えることができただろう。
しかし今や、アメリカは税の徴収を免れるために資産を隠す世界最良の場所の1つになりつつある。
2009年、財政赤字が深刻化する中でスイスのUBS銀行の脱税スキャンダルが起き、G20は合意に達した。すなわち、脱税を促すタックス・ヘイブン、シェル・カンパニー、秘密口座を、もはや容認しない、と。1年後、アメリカはthe Foreign
Account Tax Compliance Actを成立させた。外国金融機関は、アメリカの納税者に関するアイデンティティと潜在的資産額をIRSに報告せよ、と要求した。アメリカの金融システムにアクセスすることを許さないという脅しにより、バーミューダやケイマンの伝統的タックス・ヘイブンを含む、100以上の国がこれに従った。
アメリカは外国の徴税機関と情報を共有するはずであった。しかし、アメリカ議会はオバマ政権の度重なる税制改正を拒んだ。またアメリカは、世界で100以上の国が互いに情報を提供するCommon
Reporting Standardを承認しなかった。
世界はアメリカが求める透明性を提供したが、アメリカは急速に新しいスイスになろうとしている。グローバル・エリートたちの資産を管理する金融機関は、その口座を海外のタックス・ヘイブンから、アメリカのNevada,
Wyoming and South Dakotaに移し始めた。ニューヨークの弁護士たちはこれを積極的に売り込み、たとえば、ロシアの超資産家はアメリカの不動産に資産を隠して、アメリカからもロシアからも課税を免れている。
ある意味で、これは賢いやり方だ。海外のタックス・ヘイブンを閉じさせて、そのビジネスを横取りする。通商でも、気候変動でも、そうした発想はアメリカの地位を掘り崩す。公平なグローバル・ガバナンスを築くためにパワーを行使するのではなく、他国には基準を守るよう要求するが、自国はそれを受け入れない。
● アメリカ国家安全保障戦略
FP DECEMBER
21, 2017
Trump Has
Set a Scary Strategic Precedent
BY SALMAN AHMED, JAKE SULLIVAN
トランプ政権が発表した国家安全保障戦略NSSは、政権に批判的な人々が思った以上に一貫した内容を示している。
確かに、NSSは「アメリカ・ファースト」を強調する。しかし、これまでのすべての大統領もそうだった。しかし彼らは外国に向けた修辞的なスローガン、概念的な枠組みとともに、それを主張した。なぜなら、外国も自国の利益を優先するからだ。だから大統領たちは、アメリカがそのパートナーたちと協力して推進する国際システムが、相互利益を実現し、次の大恐慌や第3次世界大戦を防ぐ、と強調した。
トランプのNSSは3つの点で以前のものから転換した。第1に、ロシアと中国を、アメリカの世界的な優位に挑戦するリビジョニスト・パワーと呼ぶ。その戦略は、ロシアと中国の協力を刺激する。また、アメリカが国益を実現するために彼ら、特に中国、と協力しなければならないとき、それを難しくするだろう。
アメリカはこれまでも、競争的な挑戦に応じて、その戦略を調整した。ロシアや中国との興梠億に、さらに多くの代償を支払うことになる。同時に、長期的な対抗には、1.5兆ドルもの減税によって財政の均衡を破壊しながら、国内経済を再建しなければならない。
経済競争は、中国とのグローバル戦略で対抗関係の中心にある。オバマはTPPを中国の台頭を制御し、アメリカがアジアで指導旅行を確保する、重要な手段とみなした。しかし、トランプはTPPや地域経済戦略を否定し、2国間アプローチだけを取る、
第2に、トランプのNSSは、アメリカと世界の同盟諸国にとって重要な問題、たとえば気候変動を軽視する。また、オバマが約束した、核のない世界に向けたアメリカの取り組みを否定する。オバマは核抑止の効果を信じたし、自分たちの世代で核の廃止が実現できないことを認めたが、アメリカがその同盟諸国と長期的に実現するための協力を要請した。
第3に、トランプのTweetや講演の内容が、NSSの主張と矛盾したままである。NSSは民主的同盟諸国との関係強化がアメリカの利益となっていることを認めるが、トランプは安全保障にただ乗りしていると強く非難する。NSSは中国の不公正な貿易慣行を区別しても、トランプはしばしば、カナダ、中国、日本、ドイツ、メキシコとの貿易赤字を区別しないまま攻撃する。
トランプのNSSは、重要な諸問題についての答えを示したが、まだ多くに答えないままである。
● クリスマス
NYT DEC.
22, 2017
Where
Jesus Would Spend Christmas
By STEPHANIE SALDAÑA
ギリシャのレスボスLesbos島にあるMytileneにクリスマスがやってくる。広場のクリスマスツリーには青い明かりがついている。
わずか15分ほどで、Moriaと呼ばれる難民・移民のキャンプがある。6000人以上の人々が世界で最も暴力的な紛争から逃れてきた。シリア、イラク、アフガニスタン、イエメン、コンゴ民主共和国。彼らは2330平方メートルの狭い土地に押し込められている。恐るべき光景だ。ゴミの山、有刺鉄線、子供たちの泣き叫ぶ声、家族全部が粗末な夏用のテントに入る。キャンプの端ではしばしば喧嘩が起きる。悪臭がたちこめる。
私は多くの中東の難民キャンプを観たが、これほどひどいところはなかった。
クリスマスの物語とは、他の誰でもない、彼らの話である。マリアとヨゼフは住居からの立ち退きを強いられ、見知らぬ街でイエスは生まれた。イエスは社会の端で、貧しい、布に包まれていた。彼らには泊まる部屋もなかったからだ。天使はヘロデ王がイエスを殺しに来ると教え、彼らにエジプトへ逃げるよう命じた。彼ら3人は難民となったのだ。
私があった人たちは、今すぐにキャンプを出ることができなとしたら、凍えて死ぬかもしれない。しかしMoiraを観たことは、私にクリスマスが本当は何であるかを教えてくれた。救済の物語は、最も苦しんでいる人々のためにある。
今は、Morinaがベツレヘムだ。
NYT DEC.
22, 2017
Did Rome
Kill Its Christmas Tree?
By ILARIA MARIA SALA
クリスマスツリーの代表といえば、それはニューヨークのロックフェラーセンターにあるツリーだ。最も可哀そうなクリスマスツリーの代表は、間違いなくローマのPiazza
Veneziaにある今年のツリーである。立てられて数日後に、それは灰色になり、葉が落ち、透けて見えるようになった。その姿があまりにも悲しく、Spelacchioというあだ名まで付いた。
Spelacchioは、イタリアのオーストリアとの国境に近いTrentino郡から来た。輸送と飾りつけに、イタリア納税者の4万8000ユーロ(5万7000ドル)が費やされた。何が木を痛めたのか、明らかではない。しかし専門家はSpelacchioの根がコンクリートで固められていることを示して、木を安定させようとして、殺してしまったのだ、と述べた。
クリスマスツリーを代える時間も、資金も、政治的意志もなく、Spelacchioはそのまま休暇中の広場にあった。地元民の多くにとって、この木はローマ、そしてイタリアの、失策を示す喩えになった。今年もまた、衰退した経済、高い失業率、政治階級への代わらない不満が続いた。Spelacchioは年末のイタリアにおけるアンチ・ヒーローになった。
多くの者が彼の死んだ根っこに言葉を残していた。「負けるな」、どれほど醜く、みすぼらしくても、愛されているよ、と彼を励ます。この穴だらけのローマのように。
● カタルーニャ
FT
December 23, 2017
The
Catalonia question calls for a creative answer
スペインにおける法秩序が安定することをビジネスは求めている。それはEUの願いでもある。
法に反する分離派の住民投票実施、10月27日の一方的な独立宣言に始まる、一連の出来事に対して、ラホイMariano
Rajoy首相が地方議会の解散と選挙を求めたことは、スペインの民主主義と憲法を守る行動であった。憲法155条を行使して地方政府の権限を奪い、行政を中央政府の管理下に置いたことも、完全に正当である。
しかし、本来は慎重な政治家であるラホイが、地方選挙という賭けに出たことは失敗に終わった。ラホイは、議会でわずかに過半数を占める分離派が選挙でそれを失うことを期待した。しかし、そうはならず、さらに悪いことに、彼の与党である中道右派の故億眠党が支持を失い、地方議会の7番目に落ちた。
しかし、独立支持派の中身もバラバラだ。分離派の政党は3つあるが、漸進的な改革とダイハード型の独立に大きく分裂している。それにもかかわらず、統一を支持するサイレント・マジョリティーと都市住民を動員したマドリードの対応は、カタルーニャの政治意識を刺激し、82%という高い投票率となった。これは成果である。
ラホイが目指すべきは、憲法の下で、カタルーニャの地方自治を回復する、新しい長期的な合意である。当面は、プチデモンCarles
Puigdemontなど、独立派の政治家たちを法的に処罰するかどうかが問題だ。マドリードは、憲法から外れた彼らの行動は破滅につながることを示し、自治権の新しい合意には応えるべきだろう。
● ロボットに満ちる世界
PS Dec 22,
2017
Racing the
Machine
ROBERT SKIDELSKY
ロボットに関する不安が広がっている。ますます多くの仕事が自動化され、人間の仕事は減っていく。自動運転車が普及するとき、お雇い運転手や、タクシー・ドライバーはどうすればよいのか?
経済理論によれば、そんな心配は不要である。機械によって労働者たちは、時間当たりの生産量を増やす。同じ賃金で少ない時間働くか、あるいは、同じ時間働いて多くの賃金を得るか? また、既存の商品の生産コストが下落するから、消費者は同じ商品をより多く買うか、あるいは、異なる商品に支出する。
いずれにしても人間の仕事が減る理由はない。あるいは、人間の生活水準は改善され続けるだろう。
歴史もそれを示す。過去200年間ほど、特に西側で、生産性は安定して上昇し続けた。西側に住む人々は、より多くの余暇とより高い所得を実現したのだ。豊かな諸国の労働時間は1870年に比べて半減し、1人当たり実質所得は5倍になった。
The McKinsey Global Institute(MGI)が作成した重要な報告書によれば、世界経済における経済活動の約50%は理論的に自動化することが可能である。現在の趨勢で、2030年までに最大30%が自動化される。2030年までに、4億から8億人が他の仕事か今は存在しない仕事に移る必要がある。
そのスピードは過去の趨勢とそれほど変わらないが、大きな不安となっているのは、かつて人間しかできないと思われていた仕事の多くを機械が代わってするからだ。エコノミストがいつも信じている、需要と供給の均衡が、自動化でより高い雇用と収入をもたらす、とは言えなくなる。ロボットと人間との競争は、人間が過剰になるところまで進むかもしれない。
MGIの報告書やエコノミクスはそのような憂鬱な結論を示さない。そこには、不安が広がったことと深刻なギャップがある。
自動化の進展は、その広がる範囲とスピードにおいて、過去と全く異なる。移行期において、高い失業率や賃金の下落が発生するだろう。政策担当者のジレンマは、より早く新技術を導入することで利益を得るが、より多くの職場が失われることだ。MGIは自動化の範囲とスピードを制限する政策に反対する。それは新技術によるダイナミズムと成長を奪うだろう。
むしろ最優先されるべきは、「マーシャル・プラン」規模の教育と労働者再訓練への投資である。またMGIは、繁栄を分かち合うために、賃金と生産性上昇とをリンクする必要を認めている。だがそれは、生産性上昇の利益が少数者に独占されている事実に反する。しかも、高い効率性が実現可能であれば、もはやより非効率的な生産にもどることはない、という。
ここには哲学的な混乱がある。何かをより効率的に行うことが、事態を改善することになるには、技術だけでなくモラルの問題がある。ロボットが満ちる世界は、良い世界なのか?
もしわれわれが世界の姿をコントロールできないなら、人間であることの価値とは何か? MGIの報告書にはないこうした問題を、政治は議論しなければならない。
NYT DEC.
27, 2017
The Robots
Are Coming, and Sweden Is Fine
By PETER S. GOODMAN
スウェーデンの鉱山では自動運転のトラクターが開発中である。しかし、労働者たちは自動化を恐れない。自動化は進んでも、人間の労働は必ず必要とされるし、彼らはそのための生活を保障され、教育や訓練プログラムが利用できることを知っているからだ。労働組合は強く、政府は社会保障政策を充実させることでスウェーデンの社会契約と安定性を維持している。
雇用者と被雇用者の間には信頼関係があり、自動化によって生産性を高めることが両者に利益をもたらすと確信している。「もしスウェーデンで労働組合のリーダーに「新しい技術が心配ですか?」と尋ねたら、彼らは答えるだろう。「いいえ。私は古い技術が心配だ。」・・・職場が失われても、労働者たちは新しい職場に就く。われわれは職場を守るのではなく、労働者を守る。」
ロボットやAIを恐れる話は全く聞かない。
しかし、大学教育が35歳以上の学生に十分なキャリアを実現できない。スウェーデンのような社会保障制度を維持するには60%近い高い税金を支払っている。そこに亀裂が生じるかもしれない。
● EU改革
Bloomberg 2017年12月22日
Euro-Zone
Reform Proposals Don't Go Far Enough
By Sony Kapoor
過去の銀行破たんから教訓を学び、政府債券の危機を予防し、緩和し、解決することを学ばないとしたら、EUは愚かであろう。現在の改革はまだ不十分だ。
政府債券危機は、景気循環を緩和するアプローチによって回避できる。EUの成長安定協定は財政赤字や債務累積を制限するために必要だが、経済状態に応じて変化するパラメーターを入れて、不況の時期には財政赤字を増やすことができる定義が望ましい。また、GDPにリンクした債券を各国政府が発行し、債務返済を成長と逆に連動させる。これは銀行の破たんに求められるベイル・インに対応するルールだ。
不安定化した市場で満期債券の借り換えを行うことが銀行や政府債券の破たんにつながる。新しいバーゼル合意Ⅲは、銀行が短期資金によって長期融資を行う能力を制限する。同様のことを、政府債券の満期構造にも適用するのが良い。
現在、銀行のバランス・シートにストレス・テストが求められ、その国の経済状態が変化するリスクに耐えられるよう求められている。政府もストレス・テストによって危機に対応するプランを検討しておくべきだろう。リビング・ウィル(生前遺言、破たん処理計画)として、債務危機において削減する支出や増税の項目を示すべきだ。それは政権にとっての政治的優先順位を示すことになり、債務危機の透明性を高め、債務処理の主導権を執り、有権者への説明責任と処理スピードを高める。
銀行への取り付けが発生してしまったら、危機の封じ込め、波及・感染の阻止、信用回復が求められる。危機緩和策である。適時に、しかも迅速に、流動性を供給することが、銀行にも、政府債券にも重要だ。危機においてECBが流動性を供給し、銀行システムは政府債券を大量に購入した。また、欧州委員会はEMFを提案している。EMFからの資金は、破産処理を進める機関に優先的に供給されるのが良い。
リーマンの破たんがグローバルな金融危機を生じ、ギリシャ政府債券からユーロ圏に危機が波及したように、信頼できる破たん処理の枠組みがなければならない。特別な体制を設けたことで、EUの銀行を資本再強化し、再編し、破たん処理することができる。その場合、処理コストをステークホルダーの間でどのように分担するかが問題だ。返済できなくなった政府債券を処理する予測可能な、公式に認められたメカニズムが欠かせない。
そのようなメカニズムが信用されるには、政府からの独立性が求められる。その役割はIMFが担うべきだ。
● 中国の世界戦略
NYT DEC.
27, 2017
China Is
Pushing Its Luck With the West
By
LUKE PATEY
西側の価値を損ない、世界の民主主義諸国が享受している自由を破壊する、中国のグローバルな試みに警報が鳴り始めた。
アメリカの指導的な企業、Apple and
LinkedInに対して、中国の膨大な市場に参入させる代わりに、中国のルールを受け入れる、すなわち検閲に従うよう求めた。
アメリカの大学が、中国政治の孔子学院から資金を受け取り、研究の自由を制限している。
オーストラリアでは、中国共産党と結びついた中国人ビジネスマンが、外交政策に影響を持つため、指導的な2つの政党に多額の献金をした。
オーストラリア労働党の期待の星であったSam
Dastyariが上院議員を辞任した。彼は中国からの資金を受けたくて、中国政府寄りの立場をとったと疑われている。
中国の最大の貿易相手であるEUも、北京の行動を懸念している。ドイツでは、情報機関が中国によるドイツ政治家と外交官の個人情報収集を非難した。元デンマーク首相でNATO総司令官でもあったAnders
Fogh Rasmussenは、EUに中国による投資を調査し、制限する手段を求めた。
「一帯一路」イニシアティブによる発展途上諸国への進出も問題を生じている。パキスタンやミャンマーでは、中国からのインフラ建設とその融資条件に関して、国家の主権が失われたという批判が起きている。
ラテンアメリカでは、例えばアルゼンチンで、環境基準を満たしていないという不満がある。アフリカでも、中国の建設会社が土地の取得や地元での雇用を増やす努力をしないまま、鉄道や道路を建設している、という抗議が起きている。
スリランカは、中国とインド洋とをつなぐ重要な位置を占めるが、その戦略的な港湾を99年間の貸与として中国に管理される合意を結んだ。それも中国に対する債務を免除することの見返りである。
● 暗殺、投獄、買収
FT
December 28, 2017
Trump, Xi
and a dark year for democracy
GIDEON RACHMAN
ドナルド・トランプは、今もアメリカのエスタブリシュメントたちにとって摩擦と憤懣を産む源であるが、私は彼を以前より理解できたように感じている。特に彼が、南アフリカ、トルコ、ブラジル、中国に外遊したことで。トランプは、喚き散らす指導者であり、デマゴーグであり、威張りたがる大統領、自分のビジネスと政治的関心とが混じってしまう権力者である。
トランプの登場と中国の台頭が、世界の政治的雰囲気を一変させてしまった。ワシントンからも、北京からも、すべての信号が不安を掻き立てる。アメリカはもはや他国の民主主義やクリーンな政府に関心がない。中国はますます、民主主義を受け入れるが市民社会を破壊する権威主義型モデルについて、自信を深めている。
リベラルな価値が破壊されていく影響を顕著に示すのは、南アフリカ、トルコ、ブラジルである。これら3か国は、指導的な中堅国家としてG20に参加している。数年前まで、リベラルで民主的な諸価値が着実に推進されていた。しかし、これら3か国のすべてで、腐敗・汚職と闘い、政治指導者の権力をチェックする独立した諸制度が、今や、維持されることも困難となっている。これらは別々の危機、異なる土地の事情によって起きているが、リベラルたちは誰もがグローバルな潮流に抗して進むことに苦しんでいる。
南アフリカでJacob
Zumaは、10年に及ぶ政治腐敗で破たん国家をもたらした。Cyril
RamaphosaがANCの指導者に選ばれたことは希望である。他方、トルコは一層深刻だ。フェイク・ニュースを広め、個人的なカルトを育てるRecep
Tayyip Erdogan大統領が、トルコを専制国家にしつつある。ある意味で、ブラジルの司法はこれに強い姿勢でのぞみ、現職の大統領であったDilma
Rousseffを弾劾し、現在の大統領Michel
Temerと前任者Luiz
Inácio Lula da Silvaの汚職も告発する。その結果は、国民の強い政治不信であった。今や極右のポピュリストJair
Bolsonaroが高い支持を得ている。
個人的な会話の中で、ブラジルの検察官が挙げた反汚職のモデルは、イギリス統治下の香港であった。しかし、その香港では、1997年にイギリスから領土を返還した際に、中国がアレンジした「1国2制度」は解体されつつある。香港民主化を唱えて闘った「雨傘革命」の指導者たちJoshua
Wong, Nathan Law and Alex Chowは投獄された。
香港を圧殺し、他方で、「習思想」を共産党の後任イデオロギーとした中国は、対照的な2つの表情を示す。一方は、中国の飛躍に興奮するナショナリストたち。他方は、民主主義への移行がさらに遠くに流されたと感じて絶望するリベラルたち。
中国でも、世界のどこでも、リベラルな人々はもはやアメリカによって勇気を与えられることはない。トランプ政権が成立して数か月もたたない頃、中国はトランプのビジネスに欠かせない重要な商標を公認した。ある中国の学者は私に告白した。「われわれはアメリカ大統領も買収したようだ。」
● BrexitとUK
The
Guardian, Thu 28 Dec ‘17
The
Guardian view on social mobility: lost in Brexitland
Editorial
Alan Milburnは、他のすべての委員とともに、the Social Mobility Commission委員会を突然に辞任した。そして、「<われわれ>と<奴ら>との分断された社会という意識が高まる中で、国民の結束は深く浸食されている」という辞表を書いた。
メイ政権は、第1に、EU離脱を実現することのほかには、そのエネルギーを注ごうとしない。委員会はバラバラで、勧告は無視され、医院が辞任しても補充されず、利用できる資源はわずかである。第2に、たとえメイがいわゆる「取り残された人々」に誠実な言葉を述べているとしても、前任者ン位比べて、社会的移動性は優先順位に入らない。
社会的移動性とは、子供たちがその両親よりも高い社会的地位を得られる可能性をとらえた言葉である。この言葉はGordon
Brownによって国民の間に広まった。諸政策を統合する専門家として、Milburnが委員長に就くよう要請された。富裕層への増税から初期教育の重視まで、地域の政策の違いが調整された。年齢、地理、所得、資産によって分断された国家を委員会は検討した。
しかし、その活動は行き詰まっている。単に国家が縮小しているからとか、グローバリゼーションの影響というのではなく、保守党政権がそれを政治的成果とみなしていないからだ。保守党には、社会的移動性を能力主義と同じ意味だと考える者がいる。そうではない。才能を伸ばすのは、は平坦な競争条件以上のものである。しかも、能力主義・メリトクラシーは、容易に、エリートたちがその特権を正当化する言葉に転換される。
確かに、少数者のために行動する政治家はいない。しかし、イギリスという国全体のために、行動するべきだ。
********************************
The Economist December 16th 2017
Sharp power
China and the west: At
the sharp end
Vladimir Putin’s victory
lap: Mission accomplished
Energy disruptions in
Europe: The cracking forties
Free exchange: A lost
decade
Miniature robotics: Bot
flies
(コメント) アメリカの株価上昇や、中国の春節を前にした賃金不払いへの闘い、ユーロ圏の不十分な改革、カタルーニャの選挙、マクロンの外交意欲、アメリカ石炭業への支援、など、話題はいっぱいです。
私が重要と思ったのは、中国の「シャープ・パワー」論、プーチンの中東外交、ヨーロッパにおける石油危機の懸念、小型ロボットの軍事利用、です。中国における政治の管理体制と経済の自由化を維持する監視・介入システムが、貿易・投資・安全保障ともかかわり、国境を越えて諸外国の政策を変更します。
プーチンが中東世界に軍事的関与を深めたのは、国内的な支持を高めるショーでした。しかし、オバマの政策転換、トランプの新外交が、ロシアに大きな成果を与えたようです。地域の秩序はこれほど急激に、上から、変化するのか、と思います。
世界金融危機の後、主要中央銀行が採用した劇的な金融緩和策は、金融制度改革の政治的意志を弱め、大恐慌後のような長期的制度構築を、銀行に関わる既得権に阻まれたようです。「失われた10年」だった、と評価します。
******************************
IPEの想像力 1/1/18
年末、国家消滅について河合雅司、夏野剛が、田原総一朗と議論する、激論クロスファイアの最後の話(10月22日の放送)を観ました。かつて、日本がアジアの小国ベルギーになる、と考えたことを、私は思い出しました。
IPEの想像力 11/21/11
http://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/Review2011/112111review_s.html
IPEの想像力 5/7/12
http://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/Review2012/050712review_b.html
IPEの想像力 6/10/13
http://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/Review2013/061013review_b.html
長期の課題として最も重要なものに、日本の政治は応えていない。田原はそう主張します。「人口減少カレンダー」(河合雅司『未来の年表:
人口減少日本でこれから起きること』)は、その1つを明確に示しました。
河合・・・2020年、50歳以上の女性が半数を超える。子供を産めない女性しかいない地方の町や村は消滅に向かう。市町村を単位とした日本の政治が不可能になるだろう。
夏野・・・バブル崩壊による若者の就職難。その後、非正規雇用による低所得、不安定な将来によって、若い夫婦が子供を育てられなくなっている。
正規雇用は、安定性を保証されていて、しかも賃金が高い。これは矛盾している。安定性の高い職場は賃金が低い。リスクを取る職場は賃金が高い。それが経済原則だ。
非正規雇用を正規にするのではなく、正規雇用の方をなくす。すべて非正規雇用にする方がよい。
若い労働力だけでは足りない。移民を入れることには問題がある。高齢者がもっと働く。アメリカでは、年齢による差別が法律で禁止されている。定年制も違法だ。雇用において年齢を尋ねてはいけない。
女性の労働力がもっと活躍できる社会にするべきだ。女性が専業主婦であったのは、高度成長期にできた常識である。それ以前は、女性が働くのが当たり前だった。
そのためにすべきことは何か? フランスでは、3歳から事実上の義務教育にして、育児に多くの金を政府が投入した。また、リカレント教育に取り組む。もはや、企業の寿命はそれほど長くない。企業内の年功序列制に頼ることは間違いであり、労働者が企業を移っていけることが重要だ。
河合・夏野・・・コンパクトシティ建設が地方にとって重要だ。東京一極集中を恐れるより、20万都市が地方にいくつもできる方が良い。
****
こうした指摘は、私に、リバタリアンや、政治の中央による管理体制、権限の集中を予感させました。地方議会や選挙は、立候補する者もなく、話し合う意味を失いつつあります。そして、東京政府から任命された行政官が、中央から移転された財源を管理し、統治します。東京都の知事と日本政府とは一体化するのでしょう。
それは、強権型の自由市場、ローマ帝国や、現代のロシアのような、日本の未来です。
****
30年以上前に、初めてオランダを旅したとき、小さなケーキ屋さんで、とてもおいしいケーキを食べました。それより驚いたのは、お店の女性が英語もドイツ語も、フランス語?も話したことです。ヨーロッパで生きる小国の高い能力を実感しました。
すでに、日本の旅館や食堂も、外国人観光客を歓迎する工夫に努めています。労働者や公務員としても、外国人労働者を必要とする機会は増えるでしょう。
オランダのワークシェアリングや、北欧の社会保障制度は、開放的な経済成長を維持する工夫であった、と思います。グローバルな秩序と統合化の時代に、日本はアジアの辺境に位置し、アジア各地のダイナミズムを取り込みながら平和を維持し、その安定的な調整を促す制度について優れた構想を提示することで生きるしかありません。
ドイツにとっての難民危機、日本にとっての北朝鮮ミサイル危機(そして軍事衝突)は、人口危機に対する社会改革の触媒となるとき、政治がその使命を果たしたと言えるのです。
******************************