IPEの果樹園2018

今週のReview

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アメリカの税制改革 ・・・アメリカ国家安全保障戦略 ・・・クリスマス ・・・カタルーニャ ・・・ロボットに満ちた世界 ・・・金融政策の目標 ・・・北朝鮮への安保理制裁 ・・・EU改革 ・・・中東の新秩序 ・・・中国の世界戦略 ・・・暗殺、投獄、買収 ・・・BrexitUK

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, そして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 アメリカの税制改革

NYT DEC. 21, 2017

Tax-Cut Santa Is Coming to Town

Paul Krugman

今年もプレゼントの季節だ。人によっては素晴らしいプレゼントをもらう。でも、人によっては石炭のクズだ。しかし連邦政府に関する限り、サンタクロースは長い休暇中で、もしかすると永久に帰ってこない。彼の代わりに来た共和党の減税サンタはまったく違う好みを示す。

その中心にあるのは法人税の引き下げだ。共和党議員たちは、これが労働者たちにも高賃金をもたらす、という。しかし、ほとんどの研究機関によれば、それは5分の1から4分の1でしかない。これは、もっぱら株主に利益をもたらす。退職金の運用などで株式を保有しているアメリカ人は多い。しかし、国内保有の40%は所得の上位1%の家計で占められている。下から80%の家計はわずか7%の株式しか保有していない。減税サンタは富裕層が大好きだ。

個人所得の減税はわずかであり、だれも気が付かないほどだろう。しかも法人税の引き下げは恒久的だが、個人所得税は失効する。税制法案全体が実現するころには、多くの中産家族が今より多くの税金を負担する。何の合理的な理由も一貫した政策目的もなく、ビジネスのオーナーたちが多くの利益を得る。それはトランプのような人たちに降って湧いたような富をもたらす。

新しい税制は、すでに様々な抜け穴が見つかっている。共和党が宣伝していた、富裕層が減税によって得をしない、より簡素な税制にする、という約束はどうなったのか?

FT December 22, 2017

An ageing population and the end of inheritance

BRONWEN MADDOX

FT December 23, 2017

Republicans gamble that they can sell their tax cuts

Sam Fleming and Barney Jopson in Washington

この減税案はもっぱら富裕層の利益になる、という民主党の主張を、共和党のユタ州選出上院議員Orrin Hatchは、日頃の礼儀正しい態度を忘れて、激しく反論した。豊かな者をさらに豊かにする、という意見は「クソだ。」 そして83歳の財政委員会委員長として、Hatchは槌で叩いて休憩を宣した。

プルートクラットのための減税だ、という認識は、トランプが選挙戦で約束した「汚れた沼を浚える」という主張と対照的である。政権は、政治的クローニズムを廃して、忘れられた男女を引き上げるために行動するはずであった。

ホワイトハウスは、減税が成長と雇用をもたらすと約束するが、エコノミストの多くはアメリカの所得や富がますます不平等になる、と観ている。「これほど不人気な法案を共和党員が一致して支持したことは、指導部の丸め込んだ手腕を私は称賛する。驚異的だ。」と、研究者は述べた

共和党議員たちは、現在の3%を超える成長が続いて、再選されることを目指している。しかし、アメリカの最も有力な企業や個人に多くの富をもたらしたことは、より広い支持を得るのを難しくするだろう。トランプの国家経済会議議長Gary Cohnは、ここがヘッジファンドやプライベート・エクイティの影響が強い町であると認めている。

他方で、アパートの火事で障害を負った36歳の女性は、この減税が、将来、財政赤字により社会保障削減につながることを憤慨する。

Bloomberg 20171228

Rent for the Poor Really Is Too High

By Noah Smith

貧困層の生活は改善したのか? 生活にかかわる重要なことは計測するのが難しい。

ホームレスは減少した。しかし、低所得層は借家に住む率が高く、賃貸料の上昇は生活を苦しくしている。生活費の負担は重く、政府は貧困層への支援を増やすべきだ。

住宅を失うことは子供たちに深刻な影響を与える。安心して寝る場所がないのは、ベーシック・ヒューマン・ニーズをも満たしていない。その対策として、1.賃貸料への補助金を支給する、2.供給側の規制緩和と需要側の小規模住宅補助を組み合わせる。3.家主による家賃滞納者が明け渡し要求をする前に、より長い事前通知期間を求める。

ただし、1.は家賃の高騰と家主の利益になる。3.も高いリスクを転嫁される家主がマイナスに反応するだろう。

低所得者層の生活改善には、政府の住宅対策が重要だ。

NYT DEC. 28, 2017

The College Sports Tax Dodge

By MIKE McINTIRE

Bloomberg 20171228

The U.S. Is Becoming the World’s New Tax Haven

By The Editors

7年前、アメリカは世界各地の政府が直面する問題を解決するよう指導していた。毎年、アメリカ人が所得税を免れる推定額は2.5兆ドルに達し、それがあれば貧困問題を解消し、インフラを更新し、法を守って納税する市民のために税率を抑えることができただろう。

しかし今や、アメリカは税の徴収を免れるために資産を隠す世界最良の場所の1つになりつつある。

2009年、財政赤字が深刻化する中でスイスのUBS銀行の脱税スキャンダルが起き、G20は合意に達した。すなわち、脱税を促すタックス・ヘイブン、シェル・カンパニー、秘密口座を、もはや容認しない、と。1年後、アメリカはthe Foreign Account Tax Compliance Actを成立させた。外国金融機関は、アメリカの納税者に関するアイデンティティと潜在的資産額をIRSに報告せよ、と要求した。アメリカの金融システムにアクセスすることを許さないという脅しにより、バーミューダやケイマンの伝統的タックス・ヘイブンを含む、100以上の国がこれに従った。

アメリカは外国の徴税機関と情報を共有するはずであった。しかし、アメリカ議会はオバマ政権の度重なる税制改正を拒んだ。またアメリカは、世界で100以上の国が互いに情報を提供するCommon Reporting Standardを承認しなかった。

世界はアメリカが求める透明性を提供したが、アメリカは急速に新しいスイスになろうとしている。グローバル・エリートたちの資産を管理する金融機関は、その口座を海外のタックス・ヘイブンから、アメリカのNevada, Wyoming and South Dakotaに移し始めた。ニューヨークの弁護士たちはこれを積極的に売り込み、たとえば、ロシアの超資産家はアメリカの不動産に資産を隠して、アメリカからもロシアからも課税を免れている。

ある意味で、これは賢いやり方だ。海外のタックス・ヘイブンを閉じさせて、そのビジネスを横取りする。通商でも、気候変動でも、そうした発想はアメリカの地位を掘り崩す。公平なグローバル・ガバナンスを築くためにパワーを行使するのではなく、他国には基準を守るよう要求するが、自国はそれを受け入れない。


 アメリカ国家安全保障戦略

FP DECEMBER 21, 2017

Trump Has Set a Scary Strategic Precedent

BY SALMAN AHMED, JAKE SULLIVAN

トランプ政権が発表した国家安全保障戦略NSSは、政権に批判的な人々が思った以上に一貫した内容を示している。

確かに、NSSは「アメリカ・ファースト」を強調する。しかし、これまでのすべての大統領もそうだった。しかし彼らは外国に向けた修辞的なスローガン、概念的な枠組みとともに、それを主張した。なぜなら、外国も自国の利益を優先するからだ。だから大統領たちは、アメリカがそのパートナーたちと協力して推進する国際システムが、相互利益を実現し、次の大恐慌や第3次世界大戦を防ぐ、と強調した。

トランプのNSS3つの点で以前のものから転換した。第1に、ロシアと中国を、アメリカの世界的な優位に挑戦するリビジョニスト・パワーと呼ぶ。その戦略は、ロシアと中国の協力を刺激する。また、アメリカが国益を実現するために彼ら、特に中国、と協力しなければならないとき、それを難しくするだろう。

アメリカはこれまでも、競争的な挑戦に応じて、その戦略を調整した。ロシアや中国との興梠億に、さらに多くの代償を支払うことになる。同時に、長期的な対抗には、1.5兆ドルもの減税によって財政の均衡を破壊しながら、国内経済を再建しなければならない。

経済競争は、中国とのグローバル戦略で対抗関係の中心にある。オバマはTPPを中国の台頭を制御し、アメリカがアジアで指導旅行を確保する、重要な手段とみなした。しかし、トランプはTPPや地域経済戦略を否定し、2国間アプローチだけを取る、

2に、トランプのNSSは、アメリカと世界の同盟諸国にとって重要な問題、たとえば気候変動を軽視する。また、オバマが約束した、核のない世界に向けたアメリカの取り組みを否定する。オバマは核抑止の効果を信じたし、自分たちの世代で核の廃止が実現できないことを認めたが、アメリカがその同盟諸国と長期的に実現するための協力を要請した。

3に、トランプのTweetや講演の内容が、NSSの主張と矛盾したままである。NSSは民主的同盟諸国との関係強化がアメリカの利益となっていることを認めるが、トランプは安全保障にただ乗りしていると強く非難する。NSSは中国の不公正な貿易慣行を区別しても、トランプはしばしば、カナダ、中国、日本、ドイツ、メキシコとの貿易赤字を区別しないまま攻撃する。

トランプのNSSは、重要な諸問題についての答えを示したが、まだ多くに答えないままである。

NYT DEC. 22, 2017

If This Is America

Roger Cohen

偉大な指導者にお世辞ばかり言う閣僚が並ぶ、これがアメリカか?

偉大な指導者が、自分に従わない同盟諸国を脅し、イギリスのファシストたちが示す反イスラムの人種差別をTwitterで広め、ロンドンのイスラム教徒の市長を侮辱し、ありもしないスウェーデンのテロ攻撃を取り上げ、メキシコ大統領が電話したと作り話をして、ロシアに関する話は「全部でたらめ」だと主張する。これがアメリカか?

アメリカを取り戻さねばならない。

FP DECEMBER 27, 2017

2017 Was the Year I Learned About My White Privilege

BY MAX BOOT


 クリスマス

NYT DEC. 21, 2017

Why Do I Give on the Subway?

By RICK HAMLIN

ニューヨーク市で暮らす誰もが、経験することだ。地下鉄でe-mailを読んでいると、車両の中を男がやってくる。歩いているときもあれば、車いすのときもある。彼は支柱や乗客たちの脚を避けてやってくる。小銭の入ったカップをゆすりながら。「お騒がせして申し訳ありません。今晩の部屋を利用するために私にはお金が要ります。」 あるいは、火事で、洪水で、金融危機で、食事を得るには、子供たちに何か買ってやるにはお金が要る、と。

NYT DEC. 22, 2017

Where Jesus Would Spend Christmas

By STEPHANIE SALDAÑA

ギリシャのレスボスLesbos島にあるMytileneにクリスマスがやってくる。広場のクリスマスツリーには青い明かりがついている。

わずか15分ほどで、Moriaと呼ばれる難民・移民のキャンプがある。6000人以上の人々が世界で最も暴力的な紛争から逃れてきた。シリア、イラク、アフガニスタン、イエメン、コンゴ民主共和国。彼らは2330平方メートルの狭い土地に押し込められている。恐るべき光景だ。ゴミの山、有刺鉄線、子供たちの泣き叫ぶ声、家族全部が粗末な夏用のテントに入る。キャンプの端ではしばしば喧嘩が起きる。悪臭がたちこめる。

私は多くの中東の難民キャンプを観たが、これほどひどいところはなかった。

クリスマスの物語とは、他の誰でもない、彼らの話である。マリアとヨゼフは住居からの立ち退きを強いられ、見知らぬ街でイエスは生まれた。イエスは社会の端で、貧しい、布に包まれていた。彼らには泊まる部屋もなかったからだ。天使はヘロデ王がイエスを殺しに来ると教え、彼らにエジプトへ逃げるよう命じた。彼ら3人は難民となったのだ。

私があった人たちは、今すぐにキャンプを出ることができなとしたら、凍えて死ぬかもしれない。しかしMoiraを観たことは、私にクリスマスが本当は何であるかを教えてくれた。救済の物語は、最も苦しんでいる人々のためにある。

今は、Morinaがベツレヘムだ。

NYT DEC. 22, 2017

Did Rome Kill Its Christmas Tree?

By ILARIA MARIA SALA

クリスマスツリーの代表といえば、それはニューヨークのロックフェラーセンターにあるツリーだ。最も可哀そうなクリスマスツリーの代表は、間違いなくローマのPiazza Veneziaにある今年のツリーである。立てられて数日後に、それは灰色になり、葉が落ち、透けて見えるようになった。その姿があまりにも悲しく、Spelacchioというあだ名まで付いた。

Spelacchioは、イタリアのオーストリアとの国境に近いTrentino郡から来た。輸送と飾りつけに、イタリア納税者の48000ユーロ(57000ドル)が費やされた。何が木を痛めたのか、明らかではない。しかし専門家はSpelacchioの根がコンクリートで固められていることを示して、木を安定させようとして、殺してしまったのだ、と述べた。

クリスマスツリーを代える時間も、資金も、政治的意志もなく、Spelacchioはそのまま休暇中の広場にあった。地元民の多くにとって、この木はローマ、そしてイタリアの、失策を示す喩えになった。今年もまた、衰退した経済、高い失業率、政治階級への代わらない不満が続いた。Spelacchioは年末のイタリアにおけるアンチ・ヒーローになった。

多くの者が彼の死んだ根っこに言葉を残していた。「負けるな」、どれほど醜く、みすぼらしくても、愛されているよ、と彼を励ます。この穴だらけのローマのように。

NYT DEC. 22, 2017

Cardinal Tobin, Am I a Christian?

Nicholas Kristof

NYT DEC. 24, 2017

Christians Need a New Right-to-Life Movement

Margaret Renkl

PS Dec 28, 2017

The Economists Who Stole Christmas

YANIS VAROUFAKIS

経済イデオロギーが衝突する世界で、クリスマスのプレゼントを交換するのはなぜか、彼らの説明を聞いてみたい。

新古典派:個人は効用を最大化するアルゴリズムであり、純粋に効用を交換する。クリスマスのプレゼント交換も同じだ。少しの違いも不合理であるから、同額の現金を交換する。つまり、そんな交換はしなくてよい。クリスマスを廃止せよ。

ケインズ派:不況を阻止するために、総需要の減少は投資によって相殺されるべきだ。クリスマスのプレゼントは追加の余剰を一掃し、新投資をもたらす。クリスマスを廃止することは論外であり、むしろ休暇期間中の消費税を引き下げる。不況の時期にはクリスマスを何度もする。しかし、財政赤字も心配だ。景気が良くなれば消費税を執り、完全雇用で景気が加熱すればクリスマスを取りやめるのが良い。

マネタリスト:通貨供給だけが政策手段である。物価の安定性を重視する。松が過ぎてクリスマスの前までに金利を徐々に引き上げ、1月になれば一気に引き下げる。

合理的期待形成学派:クリスマスツのプレゼントは何も影響しない。

オーストリア学派・リバタリアン:2つの理由で反対する。1.国家は企業に休暇を強制してはならない。2.クリスマスの消費と信用の膨張は、クリスマス・バブルをもたらす。

経験主義者:時間の順序で変化が生じる。

マルクス主義者:労働者が創造した「贈与」価値の収奪が行われる。一方で、それは非市場型の交換可能性を示すが、他方で、人類の最良の本質を資本主義的な利潤機会にしてしまう。純粋なマルクス主義者は、クリスマスによる「贈与」利潤が長期に逓減すると考え、その祝祭が終わるという。


 カタルーニャ

NYT DEC. 22, 2017

Catalonia’s Election Yields a Crisis That Is Here to Stay

By RAPHAEL MINDER

木曜日の地方選挙で、カタルーニャ独立を主張する政党が過半数の議席を得た。プチデモンは刑事訴追されているが、州知事になることを望み、ラホイとの対話を要求する。しかし、ラホイ首相は憲法違反の分離を主張するプチデモンとは会わない。金融危機の影響で反発するカタルーニャの世論が変わることを願ったが、地方選挙は事態を打開できなかった。

FT December 23, 2017

The Catalonia question calls for a creative answer

スペインにおける法秩序が安定することをビジネスは求めている。それはEUの願いでもある。

法に反する分離派の住民投票実施、1027日の一方的な独立宣言に始まる、一連の出来事に対して、ラホイMariano Rajoy首相が地方議会の解散と選挙を求めたことは、スペインの民主主義と憲法を守る行動であった。憲法155条を行使して地方政府の権限を奪い、行政を中央政府の管理下に置いたことも、完全に正当である。

しかし、本来は慎重な政治家であるラホイが、地方選挙という賭けに出たことは失敗に終わった。ラホイは、議会でわずかに過半数を占める分離派が選挙でそれを失うことを期待した。しかし、そうはならず、さらに悪いことに、彼の与党である中道右派の故億眠党が支持を失い、地方議会の7番目に落ちた。

しかし、独立支持派の中身もバラバラだ。分離派の政党は3つあるが、漸進的な改革とダイハード型の独立に大きく分裂している。それにもかかわらず、統一を支持するサイレント・マジョリティーと都市住民を動員したマドリードの対応は、カタルーニャの政治意識を刺激し、82%という高い投票率となった。これは成果である。

ラホイが目指すべきは、憲法の下で、カタルーニャの地方自治を回復する、新しい長期的な合意である。当面は、プチデモンCarles Puigdemontなど、独立派の政治家たちを法的に処罰するかどうかが問題だ。マドリードは、憲法から外れた彼らの行動は破滅につながることを示し、自治権の新しい合意には応えるべきだろう。

FT December 23, 2017

Polarised Catalonia and its political stalemate

カタルーニャの有権者は深く分裂したままだ。分離反対の市民党Ciudadanos3議席から37議席に躍進した。しかし、プチデモンの政党も支持を増やした。他の分離派の政党と合わせて、過半数を得たことは、問題を長期化するだろう。

FP DECEMBER 27, 2017

Catalonia’s Crisis Is Just Getting Started

BY RICARD GONZALEZ


 今年の言葉

FT December 22, 2017

A Year in a Word: En Marche

Anne-Sylvaine Chassany

FT December 24, 2017

A Year in a Word: GST

Amy Kazmin

FT December 28, 2017

Year in a Word: Grenfell

JOHN GAPPER


 ロボットに満ちる世界

PS Dec 22, 2017

Racing the Machine

ROBERT SKIDELSKY

ロボットに関する不安が広がっている。ますます多くの仕事が自動化され、人間の仕事は減っていく。自動運転車が普及するとき、お雇い運転手や、タクシー・ドライバーはどうすればよいのか?

経済理論によれば、そんな心配は不要である。機械によって労働者たちは、時間当たりの生産量を増やす。同じ賃金で少ない時間働くか、あるいは、同じ時間働いて多くの賃金を得るか? また、既存の商品の生産コストが下落するから、消費者は同じ商品をより多く買うか、あるいは、異なる商品に支出する。

いずれにしても人間の仕事が減る理由はない。あるいは、人間の生活水準は改善され続けるだろう。

歴史もそれを示す。過去200年間ほど、特に西側で、生産性は安定して上昇し続けた。西側に住む人々は、より多くの余暇とより高い所得を実現したのだ。豊かな諸国の労働時間は1870年に比べて半減し、1人当たり実質所得は5倍になった。

The McKinsey Global InstituteMGI)が作成した重要な報告書によれば、世界経済における経済活動の約50%は理論的に自動化することが可能である。現在の趨勢で、2030年までに最大30%が自動化される。2030年までに、4億から8億人が他の仕事か今は存在しない仕事に移る必要がある。

そのスピードは過去の趨勢とそれほど変わらないが、大きな不安となっているのは、かつて人間しかできないと思われていた仕事の多くを機械が代わってするからだ。エコノミストがいつも信じている、需要と供給の均衡が、自動化でより高い雇用と収入をもたらす、とは言えなくなる。ロボットと人間との競争は、人間が過剰になるところまで進むかもしれない。

MGIの報告書やエコノミクスはそのような憂鬱な結論を示さない。そこには、不安が広がったことと深刻なギャップがある。

自動化の進展は、その広がる範囲とスピードにおいて、過去と全く異なる。移行期において、高い失業率や賃金の下落が発生するだろう。政策担当者のジレンマは、より早く新技術を導入することで利益を得るが、より多くの職場が失われることだ。MGIは自動化の範囲とスピードを制限する政策に反対する。それは新技術によるダイナミズムと成長を奪うだろう。

むしろ最優先されるべきは、「マーシャル・プラン」規模の教育と労働者再訓練への投資である。またMGIは、繁栄を分かち合うために、賃金と生産性上昇とをリンクする必要を認めている。だがそれは、生産性上昇の利益が少数者に独占されている事実に反する。しかも、高い効率性が実現可能であれば、もはやより非効率的な生産にもどることはない、という。

ここには哲学的な混乱がある。何かをより効率的に行うことが、事態を改善することになるには、技術だけでなくモラルの問題がある。ロボットが満ちる世界は、良い世界なのか?

もしわれわれが世界の姿をコントロールできないなら、人間であることの価値とは何か? MGIの報告書にはないこうした問題を、政治は議論しなければならない。

NYT DEC. 27, 2017

The Robots Are Coming, and Sweden Is Fine

By PETER S. GOODMAN

スウェーデンの鉱山では自動運転のトラクターが開発中である。しかし、労働者たちは自動化を恐れない。自動化は進んでも、人間の労働は必ず必要とされるし、彼らはそのための生活を保障され、教育や訓練プログラムが利用できることを知っているからだ。労働組合は強く、政府は社会保障政策を充実させることでスウェーデンの社会契約と安定性を維持している。

雇用者と被雇用者の間には信頼関係があり、自動化によって生産性を高めることが両者に利益をもたらすと確信している。「もしスウェーデンで労働組合のリーダーに「新しい技術が心配ですか?」と尋ねたら、彼らは答えるだろう。「いいえ。私は古い技術が心配だ。」・・・職場が失われても、労働者たちは新しい職場に就く。われわれは職場を守るのではなく、労働者を守る。」

ロボットやAIを恐れる話は全く聞かない。

しかし、大学教育が35歳以上の学生に十分なキャリアを実現できない。スウェーデンのような社会保障制度を維持するには60%近い高い税金を支払っている。そこに亀裂が生じるかもしれない。

FT December 28, 2017

Winners and losers in the sharing economy

BROOKE MASTERS

新しいレコードの包装紙を破ったり、新車を買ったり、新しい家のドアを開けるとき、私は所有の喜び、やっと手に入れたことの喜びを実感した。

しかし、私の10代の子供たちは違う。彼らはSpotify Netflixに料金を支払って、オンラインの膨大な音楽やビデオのリストから好きなものを楽しみ、あるいは、限られたものをダウンロードするのだ。

新しい技術に依拠して、さまざまな分野で企業は消費者の思考を転換しつつある。消費者は、所有よりもアクセスを重視し、資産よりも経験を重視する、新しい時代に入りつつある。

フォードやGMUberの競争しているLiftに投資し、ダイムラーがフランスの乗り合い車検索アプリChauffeur Privéの多数株を買収するのは当然だ。


 金融政策の目標

PS Dec 22, 2017

Monetary-Policy Normalization in Europe in 2018

CARMEN M. REINHART

PS Dec 28, 2017

Misery Loves Inflation Targeters’ Company

KOICHI HAMADA

アメリカ、ヨーロッパ、日本がすべて経済見通しを改善している。アメリカの失業率は4%を少し超えるだけであり、ユーロ圏の失業率は9%近い高さであるが、以前から大幅に改善した。日本では事実上の完全雇用で、労働需要が強い。

しかし、インフレ率だけはあまり改善されていない。アメリカでは10月に消費者物価指数が2.2%に達したが、ECBと日銀は2%のインフレ目標に遠く及ばない。

しかし、インフレ目標を達成することに特に意味などない。それは好ましい経済状態を達成するための手段でしかないからだ。庶民の状態が重要であって、インフレ目標が常に最善の選択肢を示すわけではない。

なぜインフレ目標にこだわるのか? その答えは世代によって異なる。マクロ経済学における「合理的期待」革命の洗礼を受けた世代は、失業率が下がってもインフレ目標を達成するべきだと考える。しかし、私のように、Lawrence Klein, Franco Modigliani, and James Tobinから学んだ、それ以前の世代は、現実世界の経済状態は、少なくとも部分的に非合理的な行動の結果として決める、とみなす。

アベノミクスの成果を、インフレ目標が達成されていない、というのは政策評価として正しくない。

Bloomberg 20171228

5 Questions for the Fed in 2018

By Tim Duy


 北朝鮮への安保理制裁

FP DECEMBER 22, 2017

Will North Korea Blow Up the Winter Olympics?

BY TOM Z. COLLINA, CATHERINE KILLOUGH

FP DECEMBER 22, 2017

U.N. Votes For New Sanctions Against North Korea

BY MARTIN DE BOURMONT

アメリカのNikki Haley国連大使は、ドナルド・トランプ大統領がイスラエルのアメリカ大使館をエルサレムに移すとした決定に国連総会で圧倒的な数の非難決議が出た翌日に、151で、北朝鮮に対する強い制裁を決議した。それは決定的な安全保障に関する問題で、アメリカが受ける国際的な支持の強さを示すものだ。

北朝鮮が輸入する精製された石油輸入の90%を削減する。北朝鮮からの出稼ぎ労働をすべての加盟国が24か月以内に送還する。16人の個人と1つの基幹が核とミサイル開発にかかわったとして特定され、制裁対象になる。

もしこの制裁措置が効果を発揮するとしたら、それは北朝鮮社会を強い緊張下に置き、エリートたちの間に分裂をもたらすことだろう。それは最もコストの小さい選択肢である。エリートたちからの圧力で、金正恩が、選択した方向は間違いだったと認めることだ。

FT December 28, 2017

When a national capital becomes a vanity project

FP DECEMBER 27, 2017

The United States Should Resolve to Avoid War With North Korea in 2018

BY COLIN KAHL

FP DECEMBER 28, 2017

Trump Is Bluffing About Attacking North Korea in 2018

BY JEFFREY LEWIS


(後半へ続く)