IPEの果樹園2020
今週のReview
7/20-25
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コロナとグローバリゼーション ・・・ハイテク大企業 ・・・中国の通貨戦略 ・・・ロシアのプーチン独裁 ・・・低賃金労働者 ・・・パンデミックの防疫戦略 ・・・パンデミックの経済政策 ・・・ナイル川のダム ・・・タイタニック号のトランプ再選 ・・・新しい財政原理を示せ ・・・主要通貨のインフレーション
[長いReview]
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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● コロナとグローバリゼーション
FP JULY 4, 2020
This Is What the Future of Globalization Will Look Like
BY HENRY FARRELL, ABRAHAM NEWMAN
奇妙なグローバリゼーションを観る。たとえば、感染リスクを最小化するために、トラックがルートを選ぶことだ。病院は感染予防の設備を得るために苦闘している。
パンデミックで各国政府がマスクや医療機器などを輸出規制している。食料をめぐる闘いが始まるかもしれない。
その黄金時代には、政治やビジネスの指導者たちが、自由市場の魔法を称賛した。しかし、それは彼らの想像力の中にしか存在しなかった。個々の企業は効率性を高め、市場の支配をめざし、それが収益や株価に反映された。しかし、こうした動きはシステムの脆弱性をもたらし、危機においてサプライ・チェーンを傷つけ、それは政府が支配的な企業を標的にして自国に有利な介入を試み、市民と国家に新しいリスクを生んだ。
グローバルな相互依存は新しい問題をもたらした。すなわち、パンデミック、温暖化、汚染、魚の過剰な捕獲。それはリベラルな国際機関の支援があれば、市場で解決できるかもしれない。
しかし、グローバリゼーションが平坦な世界ではなく、複雑なシステムである以上、国家は自分たちをリスクから切り離そうとする。世界のネットワークと脆弱性の地図を描くことが重要だ。
グローバリゼーションは機能停止に陥ったが、この危機は経済ナショナリズムや、ナイーブな自由市場イデオロギーに回帰することでは解決できない。むしろ、今とは違うグローバリゼーションが現れるチャンスである。新しいグローバリゼーションは、人びとの安全(健康)と繁栄を最優先する。
NYT July 6, 2020
Borders Won’t Protect Your Country From Coronavirus
By Robert E. Rubin and David Miliband
最近まで豊かな国に広がっていたコロナウイルスは、最も貧しい人々を最も厳しい犠牲者にした。今やパンデミックは、より所得の低い諸国で猛威を振るい始めた。
医療資源が十分でなく、貧困が広がり、巨額の債務負担がある場合、しかも、政治的な不安定さと紛争が起きている発展途上諸国が、パンデミックの最前線になる。
英米のような諸国が世界のパンデミック対策を支援し、人道的な危機を避けるのは、道義的な責務であるが、同時に、世界の他の地域におけるパンデミックを無視することは自己利益に反することだ。
新興市場諸国は開発の進んだ経済と強い経済関係を築いている。発展途上国は、輸出市場であり、原材料や製造部品の供給地である。多くの投資が向かっている。
アメリカのような国が率先して、グローバルな医療インフラに空いた危険な穴をふさぐべきだ。トランプ政権は、WHOから離脱し、その役割を果たす気がない。しかし、他の諸国が行動し、アメリカの協力を要請することが重要だろう。
医療機器やワクチンを求めて国際的な争いが起きている。それは倫理に反し、賢明でもない。グローバルなエイズ危機が猛威を振るっていたころ、国連事務総長であったコフィ・アナンは、公正な価格で薬を買い上げるための国際基金を提唱した。それは、薬品開発の動機を維持し、同時に、利用可能な価格で普及させるためだ。その基金the Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malariaは設立され、3200万人の命を救った。
二重の緊急要請、経済危機とパンデミックの対策は、主要工業諸国が発展途上国の重い債務を免除することから始めるべきだろう。G20が重債務国に支払い停止を許され、主要債権国となった中国も参加するべきだ。
FT July 7, 2020
Pursue self-interest by helping other economies too
Raghuram Rajan
低工業化諸国にパンデミックが及ぶとき、なお死者数は少ないが、その経済的ダメージは深刻である。財政に制約から、ロックダウンを十分な期間続けることができない。また、経済の再開は緩やかな回復しかもたらさない。人びとは消費や投資を控えるだろう。貿易、海外投資、観光業も、外国市場の見通しを悪化させる。
2年か3年でウイルスが克服できても、その後の債務超過と経済停滞は10年かそれ以上を要するだろう。政府は企業の債務を削減する支援策を示すべきだ。救済融資ではなく、債務削減が必要だ。破産処理システムは、あまりにも長期間を賭けて、債権の売却に偏った処理を強いる。
世界の最も工業化が進んだ諸国は、自分たちの利益として、他の世界を苦しめるような政策をやめるべきだ。工業化しつつある世界が10年も停滞するなら、それは発展した諸国にも親孤高な影響を及ぼす。そして大規模な長期の失業は、即座に、大規模な移民流出につながるだろう。
貿易や投資に国境を閉ざして自国の利益を主張する愚かな指導者たちは、単に、絶望した失業者たちのキャラバンが際限なく続くのを観るだけだ。成長を分かち合うことが、すべての者の利益である。
● ハイテク大企業
FP JULY 4, 2020
Margrethe Vestager Is Still Coming for Big Tech
BY RAVI AGRAWAL
FT July 5, 2020
Ad boycotts alone will not curb Big Tech
Rana Foroohar
社会的正義は経済的正義に至るのか? BLM(黒人の命は大切だ)運動は、アメリカにおけるシステム的な差別、そして、経済的不平等を問題にした。しかし、同じ問題が企業についても言える。特に、ハイテク企業だ。
サーベイランス資本主義のビジネス・モデルが有効であるのは、個人情報を商品化しているからだ。S&P500の中でハイテク部門の比重は、少数の巨大企業が支配し、約30%を占めている。データ収集・消費企業であるGoogle, Amazon, and Facebookがその代表だ。
もっと透明性を求めるべきだ。彼らはすべての情報交換を監視しながら、その取引は消費者や競争企業、規制当局に見えない。A・スミスが書いたように、取引の双方が情報の同じアクセスを持ち、何が交換されるのか共通に理解しているとき、市場は公平で効率的である。
オンライン取引の不透明さとハイテク大企業の市場支配力こそ、欧米規制当局が彼らのアルゴリズムを開くよう求める理由である。「銀行、住宅、都市問題に関する上院委員会」が、データ収集のダイナミズムを逆転する提出を提案した。
消費者は、ハイテク大企業の4000字におよぶプライバシー・ポリシーに「同意する」よう求められている。企業に対して、消費者(利用者)が自分の情報を収集し、さまざまな用途で、無制限に利用すること許諾するのではなく、データの貨幣化を1つの取引として扱う。それはアルゴリズムの監査を必要とするだろう。
COV-19の関連で、人工知能を融資の審査、申請、採用などに適用する範囲が急拡大している。アルゴリズムによる人種差別を撤廃することは、社会正義であるとともに、市場競争を促すことである。
● 経済学
The Guardian, Sun 5 Jul 2020
This pandemic has exposed the uselessness of orthodox economics
Jonathan Aldred
● メルケル
FT July 5, 2020
Will Angela Merkel save Europe?
Wolfgang Munchau
PS Jul 7, 2020
Europe’s Good Crisis
DANIEL GROS
数か月前、COV-19が襲うEUは、数次にわたる経済・金融危機を経て、崩壊するように見えた。加盟諸国は国境を遮断し、あらゆる協力を拒んだ。緊急に必要な医療器具の輸出を拒む国さえあった。しかし、今、国境は再開され、パンデミックによる経済破壊に対して、かつてない救済策に合意した。
なぜこれほど変わったのか?
EUはしばしば、中小規模の雑多な国が乗り込んだ船であり、何1つとして合意できない、と言われる。しかし、COV-19危機が示す経済的・病理学的な変化は、諸国家を超えて顕著に共通している。彼らの間に、基本政策の選択で違いはない。
各国はさまざまな分野で失業を抑えるために介入している。その目標は、中・大企業の特別な重要性を持つスタッフに、この一時的なショックを乗り越えてもらうことだ。そうすれば、企業はより迅速に生産を回復できる。
その重要な欠陥は、長期的には消滅する職場を支援することだ。しかし、問題は政策の評価ではなく、共通性である。EUレベルの救済が行われるだろう。それは絶望状態への対応であるだけでなく、広く共有された価値と考え方を表している。
EUは、条約や利己心によって維持されているのではなく、それらをはるかに超える紐帯が存在する、ということをパンデミックが示した。
FP JULY 8, 2020
Angela Merkel Is Back
BY SUDHA DAVID-WILP, ELISABETH WINTER
FT July 10, 2020
Can Germany handle a Bavarian revolution?
Frederick Studemann
The Guardian, Mon 13 Jul 2020
The world needs grown-up leadership. Time for Germany to step up
Shada Islam
● 中国の通貨戦略
FT July 6, 2020
China’s stock market surge is fuelled by liquidity not fundamentals
James Kynge
高揚した情緒がもたらす中国の株式ブームには注意が必要だ。
政府メディアが称賛する最長の株価上昇が1年以上も続いている。投資家は2015年お教訓を思い出すべきだ。産業部門の利潤が増えていない株価上昇は暴落で終わる。
当時も、公式の株価上昇賛美と金融緩和が上海株価指数を、2014年6月から2015年6月まで、150%も上昇していた。しかし、その後急落し、1カ月足らずに32%下落した。
COV-19から最初に回復する大規模市場になろうとする強烈な意志により。国営メディアは株価上昇にふさわしいニュースを流す。
FT July 7, 2020
China’s support for US dollar can no longer be relied upon
Michael Howell
永久に続けられないとき、それは終わる。中国によるUSドル買いもそうだ。第2四半期に外国人はUS政府債券を5000億ドル売却した。おそらく、その3分の1は中国の金融機関による売却だ。この趨勢には注意が必要だ。
2001年、中国がWTOに加盟して以来、中国はUSドルの価値を支え、US債券の利回りを抑える点で、目に見えない主要な役者であった。
わずか20年で、グローバルな流動性(貯蓄+融資)140兆ドルに占める中国のシェアは、6%から25%以上に跳ね上がった。中国はUSドル建で貿易し、USドル建で投資し、景気変動を抑えるために、ドル不足経済に財政・金融の刺激策を行った。
中国からの資本流出は、習近平の汚職撲滅運動が展開した2016-16年に顕著であったが、それはドル高とUS財務省証券の利回り急落につながった。
しかし、その有利さはもろいものだ。中国からの資本流出が逆転すれば、USドル価値は4文1を失い、財務省証券の利回りも2%を超えるかもしれない。現在の3倍だ。そしてアメリカが失ったものを得るのはヨーロッパの債券市場であろう。
もし中国が長期的に潜在成長力を最大限に実現するとしたら、ドルへの依存をやめて、自国通貨を輸出する必要がある。しかし問題は、中国の金融市場が未発達で、国際資本移動を仲介できないことだ。さらに中国の国内金融機関は、その負債(預金)が人民元建であるから、為替リスクを取ることに消極的である。そこで政府は、為替リスクを集中して管理する機関を設けた。その保有するドル建資産は1兆ドルを超えている。
最近、西側の経済的封じ込めに直面し、長期に及ぶ貿易・資本・技術の指導権争いを考えれば、中国は金融市場をかく乱するパワーを持っている。USドルから離反するわずかな動きでも、第2の世界通貨であるユーロに有利である。
ECBは、アメリカ連銀に匹敵するバランスシートの拡大で、パンデミック救済プログラムを準備している。USドル市場に幻滅した中国投資家がヨーロッパに向かう触媒は、7500億ユーロの通称「ユーロ債」発行であるだろう。フランスも、ドイツも、国債を発行してパンデミックと闘う。もはやUSドル債は商品の1つでしかない。
安全な資産は金融システムの健全さに欠かせない。銀行は規制によって保有が求められる。しかし、その供給は38%しか増えなかった。しかも中央銀行の量的緩和で政府債券が市場から減った。ヨーロッパでは特に枯渇している。多くのユーロ債がマイナスの利回りになっているのは当然だ。2008年の世界金融危機以降、世界の安全資産需要を満たしたUSドル債券は、総額で、USのGDP比で50%と推定される。
ECBの流動性供給、ユーロ圏の安全資産供給、中国の保有資産多様化、これらは資本移動に根本的な変化を生じる。USドルは急落し、ユーロ圏が予想以上の回復と株価上昇に向かう。
FT July 13, 2020
Capital Wars, by Michael Howell
John Plender
● ロシアのプーチン独裁
FT July 6, 2020
Russia’s fragile one-man rule
ソ連崩壊から30年近くが過ぎた。当時は、西側でもロシアでも、多くの人がヨーロッパ的なリベラル民主主義をロシアも採用すると思っていた。その願いはかなわなかった。旧ソ連の秘密警察に依拠した種族と忠実なオリガルヒたちが、ウラジミール・プーチンを指導者、そして、保証人として、さらにひどい見せかけだけの民主主義を運営してきた。
憲法改正の国民投票はプーチンが2036年まで大統領にとどまる道を開いた。そのとき彼は83歳になる。ピーター大帝以来、最も長期に及ぶ権力を保持するロシアの比類ない指導者になるだろう。それはまるで、ロシアの本来の姿、唯一人の支配、という歴史モデルに還ったようだ。
しかし、プーチンと彼の仲間たちのパワーはもっと壊れやすいものだ。2014年にクリミア併合でピークに達した支持率は、経済停滞、職と水準低下、年金支給年齢引き上げで低下してきた。クレムリンは、2024年の大統領選に立候補する前にレイムダックとなる「後継者問題」を可決しようとした。クレムリンの元政治顧問Gleb Pavlovskyによれば、プーチンのチームは「戦略家」ではなく、即興演奏が巧みな「ジャズバンド」である。
ロシアの指導者が最初に示唆したのは、憲法改正で大統領の権限を弱め、他の政府部門を強化することだった。それは彼が異なる意匠、「国父」として、2024年以後の権力に関わる、という憶測を生んだ。しかし、その後、クレムリンは方針転換した。プーチンは国会の提案という偽装を凝らして、大統領任期の2期という制限を破棄した。彼が老いるまで権力を握ることになる。
年金の物価連動制など、拒否できない項目と合わせて、200もの改正が一括して国民投票にかけられた。次善の予測に反して、プーチン自身が重要な役割を示さなかった。ウイルス対策で1週間に伸びた選挙期間は、監視をむつかしくした。
30年を経て、クレムリンは国民に支持される材料を失った。1990年代の混乱からロシアを安定化することがプーチン時代をもたらした。しかし、石油と人的資源があっても、指導者が製造業やイノベーションをもたらすことはなかった。ロシア人の能力を発揮させる近代化は、支配体制を脅かすからだ。
憲法改正が与えるはずだった余裕は、コロナウイルス対策の失敗で失われた。システムの若返りに役立つ若い政治家を探す。2024年、クレムリンの「ジャズバンド」は時代遅れだろう。
● 財政赤字は重要ではない
FT July 6, 2020
The Deficit Myth, by Stephanie Kelton
Gavin Jackson
● インド
PS Jul 6, 2020
The Crisis India Needed
DEVESH KAPUR
インドの外交と経済・軍事改革の方向は、ますます中国がインドに示す挑戦に影響されるだろう。今や中国がインド人にとっての最大の敵である。皮肉なことに、中国の影響力から脱け出そうとすることで、ない額起こるはずであったさまざまな変化の採取的な引き金を引くという意味で、インドはこの強大な隣国に感謝するだろう。
PS Jul 8, 2020
India’s China Strategy Is Changing
SHASHI THAROOR
FP JULY 8, 2020
Why India and Russia Are Going to Stay Friends
BY EMILY TAMKIN
● 大学のコロナ危機
PS Jul 6, 2020
Will Universities Learn from Lockdowns?
KENNETH ROGOFF
COV-19危機は高等教育にも技術破壊の衝撃をもたらすのか?
多くの産業がそうであるように、大学も再開に向けて様々な戦略を工夫している。高等教育でも、大教室やスタジアムはからっぽで、学生たちは授業料の払い戻しを求めている。留学生、特に中国からの留学生は大きく減少する。
しかし、COV-19がオンライン教育を実現すれば多くの人が安価に高等教育を受けることができる。誰にとっても利益ではないか?
それは大学が技術を取り入れる能力、その有益さを広めるやり方に依存する。大学のガバナンスはその限界になる。録画授業の可能性は40年前でも明らかだった。しかし、クラス授業の良さも失われることはない。
優れた講義を録画で聴ける有益さは、それに勝るだろう。高い水準の録画授業を提供するのは、リスクが高い、時間とコストを要する作業である。しかも、録画は容易に複製され、料金を徴収するのは難しい。
標準的な導入コースなら、数学、コンピューター・サイエンス、物理、会計など、科目によって可能である。経済学はそれに当てはまらないだろう。高等教育を、今のような形でまとめて提供する理由はなくなる。普及すれば、不平等を減らし、より公平で生産性の高い社会を実現する。
NYT July 8, 2020
College Courses Online Are Disappointing. Here’s How to Fix Them.
By Lisa Feldman Barrett
FT July 12, 2020
Universities must offer more than ‘Zoom from your room’
Andrew Delbanco
● 低賃金労働者
PS Jul 6, 2020
What We Owe Essential Workers
DARON ACEMOGLU
アメリカの労働者の半分を占める低賃労働者は、ハイテク、金融、娯楽産業の高等教育を受けた労働者に比べて地位が低下し続けている。
変化をもたらすのは可能だ。しかし、巨額の政治献金や労働組合潰しが続く時代に、それは困難である。最低賃金を観ればわかる。時給7.25ドルは、1968年から実質で30%も減少している。労働者の交渉力が低下したことも深刻だ。
技術が、低賃金労働者の条件を改善する最大の障害になっている。アメリカ経済は大幅に自動化され、ロボットやAIも使って高賃金の労働者を減らすことが推進されている。アメリカの税制では、企業が機械に投資する方を著しく有利に処理できる。
ハイテク部門のビジネス・モデルが問題だ。できるだけ早く労働者を取り除く。良い職場、質の高い職場が消滅するにつれて、すべての労働者が賃金上昇を失い、それとともに、ますます不均等な成長になって、社会的結束と民主主義の原則や制度が侵食され始めた。
これは決して不可避なことではない。人間の労働と競うのではなく、むしろ補完するような技術、既存部門や新興部門で、新しい職務を創り出し、労働者の生産性を高めるような技術を創り出すことは可能である。労働者を第1に考える技術政策と、最低賃金の引き上げなど、さまざまな改革が同時に進むなら、労働者の交渉力は増大するだろう。
無慈悲な機械化がたどり着くのは繁栄ではない。廃墟である。われわれすべてがそれを認める必要がある。
FT July 8, 2020
‘It’s a matter of fairness’: squeezing more tax from multinationals
Tabby Kinder and Emma Agyemang in London
PS Jul 8, 2020
Don’t Scapegoat Migrants for the Pandemic
GREGORY A. MANIATIS
FT July 10, 2020
Redesigning society after Covid-19
Minouche Shafik
● 合併
FP JULY 6, 2020
Annexation Will Probably Go Smoothly. The Problems Will Come Later.
BY PHILIP H. GORDON, ROBERT MALLEY
● イギリス予算案
The Guardian, Tue 7 Jul 2020
Rishi Sunak’s mini-budget will be the most leftwing in years. Can Labour capitalise?
Larry Elliott
The Guardian, Wed 8 Jul 2020
The Guardian view on Brexit and trade: an expensive geography lesson
Editorial
FT July 9, 2020
Sunak skilfully serves up a boost for consumption
Robert Shrimsley
FT July 10, 2020
Rishi Sunak’s short-term jobs plan tackles long-term failures in the UK economy
Camilla Cavendish
● パンデミックの防疫戦略
PS Jul 7, 2020
How to Live with the Pandemic
MICHAEL FERRARI, PARAG KHANNA, SPENCER WELLS
北半球は暑さと湿度によってウイルス感染の弱い時期に守られていたかもしれない。体系的な、全体を包括するアプローチが無ければ、指導者は困難な問題を解くことができない。
まず、自然と人間とを分割する発想は捨てるべきだ。環境を管理できるという幻想は捨てねばならない。われわれの行動が、気候変動やパンデミックと同じ連鎖的変化を加速している。われわれと自然体を分離するインフラは存在せず、地政学的な国境線もない。ナショナリズムや保護主義はパンデミックを止められない。
科学は多くの関連する知識を増やしているが、あまりにも多くのシナリオがあり、政治指導者はその適切な利用を求められている。誰も、ドナルド・トランプやボリス・ジョンソンのように、「ガッツ」を求める指導者に従わない。
● パンデミックの経済政策
PS Jul 7, 2020
A V-Shaped Recovery Could Still Happen
JIM O'NEILL
私は、パンデミックによる不況から、V字回復が起きることを公に主張してきた。現在も経済指標はそのことを支持していると考えている。
パンデミックはアメリカの大部分に拡大した。経験したことのないロックダウンが行われるだろう。多くの人が楽観論を疑うのは当然だ。
それにもかかわらず現時点で最も蓋然性の高いシナリオはV字回復である。世界中で、政府は金融・財政政策を駆使して、大規模な介入を行っている。回復が始まったら、議論は構造的な問題に向かうだろう。
VOX 07 July 2020
Economic policy under the pandemic: A European perspective
John Hassler, Per Krusell, Morten Ravn, Kjetil Storesletten
ヨーロッパ諸国はロロナ危機の現在と次の局面について、その対策を考えている。われわれは個々の政策を評価するのではなく、危機の異なる段階で、重要になる原則について考えたい。
最も重要なことは、起きているショックの経済的性格を理解することだ。パンデミックは、単独の、予測不能なショックである。例えば、ケインズ的な需要管理がふさわしいショックではない。
パンデミックの期間、政策がめざすのは前後の経済を橋渡しすることだ。ウイルス対策が終われば、趨勢に向けてできるだけ早く復帰させる。
ウイルスの義骸を受けた人々に財政的な支援を行うことも重要だ。政府がコロナ危機に対する保険として働くことだ。失われた市場に変わって需要を補助することだ。
しかし、危機からの回復に、気候変動の対策や他の長期的目標を実現するのは適当ではない。たとえば、民間航空旅客業を「消滅」させるのは、ふさわしい目標ではない。それは事態が正常化してから議論することだ。
FT July 8, 2020
New York vs London: my Covid-19 culture shock
Gillian Tett
NYT July 8, 2020
Stop Building More Roads
By Shoshanna Saxe and Kristen MacAskill
FT July 9, 2020
The Recessionals: why coronavirus is another cruel setback for millennials
Dave Lee in San Francisco
PS Jul 9, 2020
Trust Funds for All
KEMAL DERVIŞ, SEBASTIÁN STRAUSS
現在のパンデミック対策による景気回復は、旧状態への復帰、既得権の温存であるだろう。
しかし、いわゆる「リベラルな能力主義的資本主義」がそのシステムについて重大な挑戦を受けていることを多くの者が認めている。気候変動だけでなく、所得・資産・福祉・パワーにおける増大する不平等が、特にアメリカで深刻だ。最近の諸都市に広がった抗議デモは、その緊急性を示している。
D. ロドリックが述べたように、政府は3つの段階で不平等を抑える。第1に、生産前:教育、健康、資産賦与。第2に、生産段階:職場、技術変化、労使交渉。第3に、生産後:課税と財政的移転。これまで主に試みた、生産後、財政的再分配政策は十分に成功しなかった。
政府はもっと生産段階に関係する政策を用いるだろう。産業政策、イノベーション政策で、労働力を補完する技術革新を助成する。労働規制、最低賃金、労使協調体制を通じて、労働者の交渉力を高める。場所に依拠する、通商政策により、その土地の良い職場を増やす条件を最適化する。
しかし、不平等の最も重要な起源、不正義の源は、生まれる家族である。相続する資産が大きな不平等につながる社会は、我慢ならないものとみなされる。相続される資産の平等化は、十分ではないが、機会の不平等に対する是正と考えられる。
たとえば、Darrick Hamilton and Sandy Darityは、アメリカ政府が全ての新生児に、その家族の資産と反比例する額の、信託基金を与えるよう提案する。この「ベビー・ボンド(赤ちゃん債券)」は、18歳になったとき償還される(払い戻される)。2015年、Anthony Atkinsonは、富裕層に高率の相続税を払うか、あるいは、最低相続額に抑えさせ、そうやって資本を集めて、市民が成人するときにこれを支払うよう提案した。
Yanis Varoufakisは、社会が民間企業に投資して、その資本から得られる所得を使ったユニバーサル・ベーシック配当を提案した。Ray Dalio and Joseph Stiglitzは、納税者がCOV-19の危機において救済した企業の株式を取得し、政府信託基金を形成して、定期的に全市民に配当を分配するよう提案した。
市民の尊厳を回復し、公共投資に社会が収益を受け取る、という主張は強く支持される。しかし、それぞれの社会は選択しなければならない。どのように資本を賦与し、その規模や累進性、資金の利用範囲、例えば、教育や住宅にだけ使用できる、をどのように制限するのか。
こうした提案が実現するかどうかは、政治状況によっては、非常に困難である。しかし、Stiglitzが警告するように、穏便な提案では、「人民資本主義」という名目で、資産の集中を維持し、国民に資本に有利な政策を支持するよう求めるだけである。
より公正な社会を実現する万能薬はない。資本を与えられることで市民がより平等に機会を得るなら、それは資本主義の性格を転換する1歩になる。
PS Jul 9, 2020
What Will COVID-19 Do to Banking?
XAVIER VIVES
PS Jul 9, 2020
Sovereign Creditors Must Not Rewrite the Rules During the Pandemic
JOSEPH E. STIGLITZ, ROBERT HOWSE, ANNE-MARIE SLAUGHTER
アルゼンチン政府の債務処理交渉は、国際的な債務不履行問題について、ハゲタカ・ファンドを抑えるために形成された国際法的レジームを破壊する恐れがある。アルゼンチンをこのレジームから脱落させるのは間違いだ。
FP JULY 9, 2020
The Post-Pandemic Economy Could Be Green and Clean—but Not With These Plans
BY JASON BORDOFF
The Recessionals: why coronavirus is another cruel setback for millennials
Dave Lee in San Francisco
PS Jul 13, 2020
Training for the Pandemic Economy
BARRY EICHENGREEN
コロナ・ショックで破壊された部門と労働者たちに対して、政府は何をする準備があるのか。徒弟制の復活、コミュニティー・カレッジの財源拡大、技術訓練学校。
● ナイル川のダム
FT July 8, 2020
Ethiopia’s Nile mega-dam is changing dynamics in Horn of Africa
David Pilling
グランド・エチオピア・ルネサンス・ダム。ナイル川に建設されるアフリカ最大の水力電力所。480億ドルのプロジェクトである。サハラ以南のアフリカで最もダイナミックな経済となったエチオピアにさらなる力を与えるだろう。
しかしダムは、下流のエジプトとの紛争を引き起こしている。また、アフリカの角、とよばれるこの地域に諸外国が強い関心を寄せている。湾岸諸国、サウジアラビア、中国、トルコ、アメリカである。彼らは巨額の投資を港湾、空港、鉄道、農業、教育に対して行っている。
エチオピアの人口は1億1000万人であり、地域を圧倒している。エチオピアはキリスト教国家として植民地化を免れた。アフリカにおける唯一の「非植民地圏」である。
だが数百年におよぶ国境紛争は、今も境界線に関する怨恨を残している。しかも、マルクス主義者の権力集団が、王制を打倒し、恐怖支配を敷いて「20世紀の衰退」をもたらした。1980年代半ばの飢饉は、エチオピアをアフリカにおける破綻国家のシンボルにした。
1991年、左派のthe Derg体制は革命軍によって打倒され、エチオピアはよみがえった。過去20年間は、年成長率が10%に近い。世界の最貧国から中所得国になりつつある。青ナイル川に建設するダムはナショナリズムと復活のシンボルだ。
しかし、常に、外国はアフリカの角に強い関心を持っていた。スエズ運河のアクセスを支配するからだ。中国は巨額の投資を行い、隣国のジプチには軍事基地を持つ。ジプチとエチオピアのアジスアベバの間に鉄道を敷いた。
また、エチオピアの政治は安定していない。政治的な地殻変動が続き、2018年になってAbiy Ahmedが首相になった。そして民主主義、開放型の経済、エリトリアとの和平を主張した。アメリカはこのころから積極的に関与を拡大している。そして、市場改革を受け入れ、エジプトとのナイル川の水利権を共同管理する協定を結ぶよう、勧めている。
Abiyは選挙を控えて、いかなる妥協も受け入れにくい。
FT July 9, 2020
Sudan’s protest camp echoes the revolution of 2019
Yousra Elbagir
PS Jul 10, 2020
No Recovery Without Debt Relief
MO IBRAHIM
● 日本株
FT July 8, 2020
Why foreign investors are losing faith in Japanese stocks
Leo Lewis
アベノミクスは外国人投資家を集めたが、その約束は失敗に終わったようだ。
FT July 13, 2020
Virus releases Tokyo commuters’ silent scream
Leo Lewis
● タイタニック号のトランプ再選
FP JULY 9, 2020
Not So Fast: How Biden Could Still Lose
BY MICHAEL HIRSH
NYT July 9, 2020
The Deadly Delusions of Mad King Donald
By Paul Krugman
われわれは皆、タイタニック号の罠にはまった、とますます感じている。しかも、今度は船長が狂っており、氷山に向けて直進するよう命じている。船員たちは臆病で、船長に逆らえない。乗客たちを救うために船長に反乱するどころではない。
今や、専門家たちの警告が正しかったことは明白だ。毎日、新規感染者数が6月初めの2倍半に増えている。経済活動の早期再開を行った州では、病院が厳しい圧力に耐えている。
ふつうの大統領なら、また普通の政党なら、事態の悪化に震え上がるだろう。専門家たちの話をまじめに聴くはずだ。
しかし、トランプは違う。彼は就任演説を、狂ったような、事実に逆らう「アメリカの殺戮」によって開始した。パンデミックによる死者が増えても全く問題にしない。その数は過去10年間に殺害されたアメリカ人の数を超えるだろう。それでも彼は経験とガイドラインを無視し、学校再開を命じている。
トランプの、ウイルスに対する病理学的に無能な反応を、どう考えたらよいのか? その核をなすのはシニシズムであろう。トランプとその仲間は、アメリカ人がCOV-19で何人死んでも、どれほど苦しんでも、気にしないのである。政治が彼らの好む方向に進むだけでよい。
しかし、この冷笑主義は何層にも隠されている。第1に、トランプの支持者たちは現実を認めることができない。彼らは5か月前の、何でも好調に見えた、彼のすばらしい手腕を称賛していた時期に戻りたがっている。
第2に、トランプの戦略は彼らの視点からも失敗しつつある。支持率は下がっている、。しかし、彼は同じ人種主義の主張を繰り返す。彼は考え直すような人間ではない。穴を掘りだしたら、もっと、もっと深く掘る。今でも、感染者数が増えるのは検査を増やしたからだ、と主張している。
われわれに何ができるのか? トランプはまだ6カ月もホワイトハウスにいる。もしそれ以上にいるなら、神様に助けてもらうしかない。連邦主義は幸いである。まともな州知事なら方針を変える。
しかし、もっと多くのアメリカ人が死ぬ。
NYT July 11, 2020
The Republicans Who Want to Destroy Trump
By Frank Bruni
NYT July 10, 2020
The Most Dangerous Phase of Trump’s Rule
By Roger Cohen
戦後ヨーロッパの諸制度をファシズムに対する防壁と考えるべきだ。EUはナショナリストたちのアイデンティティーを排除した。福祉国家は独裁者が利用する社会的分断を緩和した。NATOはアメリカをヨーロッパに参加させ、全体主義イデオロギーに反対する民主主義の究極的保護者にした。
これは20世紀前半に2度も自爆したことへのヨーロッパの集団的対応だった。独裁者にあこがれるトランプ大統領がこうしたヨーロッパ諸制度を憎むのは当然だ。
フランスで、2人のカップルがトランプを「滑稽だfunny」と言うのを聞いた。ヨーロッパ人にとって、アメリカのショーマンは目新しさがない。ほら吹きの愚か者である。そう思うのは、苦痛に満ちた過去を清算し、中道の安全を得た社会であるからだ。アメリカはそうではない。私はトランプが最も危険な局面に入ったと思う。
トランプの重要性はその時代にある。彼が権力を得たのは、アメリカが4半世紀のトラウマを経たからだ。最初は、ソ連崩壊による慢心であった。9・11の衝撃で侵攻不可能な国という思い込みを粉砕され、勝利など望めない戦争に突き進んだ。さらに大不況だ。貧しい者はさらに貧しく、豊かな者はさらに裕福になった。その後、中国の台頭は否定できないものとなり、アメリカの相対的な衰退は事実として、最初の黒人大統領であるオバマが冷静にリアリズムを保持した。
この状況はアメリカ的ナショナリズムの培養に最適だった。巧妙なメディア操作により、トランプがそれに便乗した。アメリカに広まる屈辱感を食い物にし、彼らの声を代表すると称したのだ。トランプは滑稽ではない。凶悪である。
ナショナリズムはファシズムではない。その必要な要素ではあるが。ともに現在を否定するものだ。栄光だけが誇示された、あらゆる意味であいまいな未来を創るために、幻想的な過去を利用する。ファシズムの核心にはノスタルジアがある。ヒトラーのナチ党と建造物には、ドイツ帝国1000年紀を祝う筋肉質と記念碑性が顕著である。トランプのノスタルジアは、いつとも知れない、アメリカが偉大な瞬間だ。白人男性だけが所有し、支配する。アメリカの世界支配には挑戦する者などいない。女性は家庭にとどまり、性転換は不可能だ。
トランプは2016年の選挙戦で国民的な恥辱を切り札に使った。今度はコロナウイルスのパンデミックを利用して、論争を汚し、恐怖を広める。彼のツイートが示すように、バイデンに負けても自分が大統領にとどまるよう準備している。バー司法長官がそれを助けるのは明白だ。
そんなバカな、とあなたたちは言うだろう。ドイツの帝国議会が放火されたときも、ヨーロッパの人びとはそう言った。
NYT July 13, 2020
What a Second Trump Term Would Look Like
By Eric Posner
PS Jul 14, 2020
Trump and Putin by the Book
NINA L. KHRUSHCHEVA
ロシアのプーチンも、アメリカのトランプも、その複雑な権威主義的システムにもかかわらず、チャップリンの名作『独裁者』によく似ている。
アメリカの小説なら、Sinclair Lewis’s 1935 novel, It Can’t Happen Here, or Philip Roth’s 2004 novel, The Plot Against Americaであろう。
ロシア小説では、19世紀のNikolai Gogol によるThe Inspector-General、そして、Nabokov’s 1947 novel, Bend Sinisterである
ソ連時代の劇作家Evgeny Schwartzは、The Emperor’s New Clothes (1934), The Shadow (1940), The Dragon (1944)を書いた。19世紀の風刺家Mikhail Saltykov-Shchedrinの1870 parody, The History of a Townがある。そのオリジナル・タイトルはThe History of Foolsvilleだった。
● コンゴの社会契約
FT July 10, 2020
Industrial and artisanal miners in the Congo need a new cobalt compact
Anouk Rigterink and Nelleke van de Walle
コンゴ民主共和国における職人的な鉱夫たちによる採掘と権利を購入した採掘企業との合意を制度化するべきだ。Apple, Google, Microsoft and Teslaなどが、児童労働の禁止に対して採掘企業は無関係であることを証明しなければならない。
● 新しい財政原理を示せ
PS Jul 10, 2020
Toward a New Fiscal Constitution
MARIANA MAZZUCATO, ROBERT SKIDELSKY
COV-19のパンデミックが世界経済の至るところで、空前の規模の、予測不可能な衝撃を生じている。政府は財政政策の役割を見直すべきだ。
サッチャーとレーガン以来、政府による投資は実質的に否定され、財政均衡を求めるようになった。COV-19危機はネオリベラルな正統派の欠陥を明確に示した。しかし、財政に関する新思考は現れていない。2008年金融危機後の、流動性供給による金融資産市場の回復と、実物経済に対する無策を繰り返すだろう。
緊急時の対応が示す国家の財政権力は絶大だ。1カ月にわたり民間経済が停止しても家計を維持した。数か月か数年で、可能な限り早く、経済への支援をやめるのが目標ではない。むしろ、国家、民間企業、労働者の間に新しいパートナーシップを形成するような転換を実現することが目標であるべきだ。
政治の指導力や公共投資を求めている長期的な課題は多くある。経済をクリーンで持続可能な成長に向ける必要がある。「グリーン・ニュー・ディール」の実現は第2次世界大戦後の社会経済転換に匹敵する。しかし、レッセフェール政策の遺産で、重要産業が取り残され、労働力の慢性的な低雇用や低評価が放置されている。
現代版のニュー・ディールには、新しい財政原理が求められる。それなしには、緊急時の支援策が終わると、金融の正統派が復活するだろう。需要面だけでなく、供給面でも、生産を長期的な発展の必要性、すなわち、持続的で、革新的な、社会的包摂を可能にする経済に導くことだ。ケインズ的な完全雇用目標を再確立することで、次の経済転換においても、人的資本は浪費されたり侵食されたりしない。
現在、支配的な経済モデルは公共財を無視している。しかし、データへのアクセスやデジタル技術にも広がる公共財の重要性は、国家にもっと大胆な役割を求めている。公共財は、市場の機能を維持するというだけでなく、市場を創り出し、市場のロジックを形成するものを含む。
正統派は公共投資を浪費であり、最小限にするべきだ、と考えている。「自然」失業率という言葉が示すように、市場の自律的な回復能力で完全雇用が実現するという。市場の資源配分をじゃまする摩擦を減らすためにだけ、公共投資は意味がある。
2008年の金融危機はこうしたモデルの弱点を示した。1975年から2000年の間に、UKの公共投資はGDP比で8.9%から1.7%に減少した。その結果、多くの投資が投機に向かった。COV-19危機で顕著になったのは、医療インフラから諸個人を守る制度まで、公共財の極度の不足である。正統派は、民営化、特許権の保護、重要な政府機能のアウトソーシングを進めた。数年間の政府支出削減を経て、多くの西側諸国はパンデミックに無防備であった。
国家の投資機能を排除することは、政策担当者たちから、予期しない事態への対処能力、経済変動の安定化に必要な道具を奪った。ネオリベラルの「ワシントン・コンセンサス」では、国家の機能が大幅に市場に「アウトソースされた」。金融と労働市場の規制緩和、国有企業の民営化、緊縮財政が普遍的な公式となった。それは19世紀初頭のエコノミストたちにセイ法則が意味したものだ。あるいは、「厚生経済学」を利用して、完全市場を理想化し、「政府の失敗」だけを誇張する主張だ。
今、COV-19の衝撃で旧パラダイムのもたらした破壊が露見し、公共投資の新しい時代、われわれの技術や生産力、社会の新しい姿を描くときが来た。過去40年間を支配した金融化(フィナンシャリゼーション)と脱工業化は終わる。
新しい需要刺激策は、社会が求める新産業の振興や職場を創ることで効果を発揮するだろう。公共部門の雇用プログラムは、経済危機で職を得たれないまま過ごす労働者たちに、経済活動への参加を持続させることで、完全雇用と課税ベースを維持する。
こうした裁量的な財政刺激策として、アメリカのLevy Economics InstituteがPEP(政府雇用計画)を提案している。それはニュー・ディール期のWPA(公共事業促進局)やCCC(市民保全部隊)に由来する。WPAは、インフラ建設から交響楽団まで、あらゆる仕事の850万人を雇用した。CCCは若い100万人の失業者たちを組織して、森林火災、洪水、土壌の浸食、農作物の病気の予防など、大統領が望ましいと考える作業に従事させた。
PEPの労働者たちはグリーン・エコノミーへの移行を支える重要な役割を担うだろう。PEPは、労働市場の変動を抑えるバッファーとなり、労働者たちの職能を維持し、民間部門の賃金水準に下限を与え、雇用構造全体に影響を与える。
完全雇用に反対し、失業手当に厳しい条件を要求する前提は、問題を常に職場の消滅ではなく、失業した者たちの「やる気のなさ」にある、とみなす偏見だ。PEPは、意志と能力のある者すべてに職場と訓練を提供することで、こうした道徳論を克服する。失業者が必要だ、などとみなさない。
労働者たちから搾り取ることは、もはや企業の利潤を維持する方策から取り除かれるだろう。ネオリベラルの正統派は、資本が変化することを無視した。再生可能エネルギーやイノベーションが新しい生産物、サービス、素材、生活方法をもたらす。グリーンな成長に向けて、需要と投資の好循環を再起動するべきだ。
人民のために、地球のために、資本主義を改革する。
VOX 10 July 2020
Finance and politics: New insights
Thorsten Beck, Orkun Saka, Paolo Volpin
FT July 12, 2020
Central banks expand their role to address the crisis
Gavyn Davies
多くの先進諸国でゼロ以下の金利になったとき、金融政策にはもはやすることがないという沈滞した気分が広がっていた。しかし、パンデミックがそれを変えた。中央銀行は新しい手法で経済政策の重要な担い手に復帰している。
NYT July 15, 2020
Ben Bernanke: I Was Chairman of the Federal Reserve. Save the States.
By Ben S. Bernanke
2008年の金融危機後に議会が承認した財政刺激策は不十分だった。今、パンデミックが不況のショックを拡大しているとき、同じ失敗を繰り返してはならない。
FT July 17, 2020
Covid-19 aggravates adverse underlying trends
Martin Wolf
FT July 16, 2020
The IMF should turn to special drawing rights in its Covid-19 response
Yi Gang
FP JULY 16, 2020
To Pay for the Pandemic, Dry Out the Tax Havens
BY DAVID L. CARDEN
● NATO解体
FP JULY 10, 2020
Europe Needs to Push Back Against Trump
BY MEGHAN MCGEE
FP JULY 13, 2020
The EU Needs a New Balkan Strategy
BY ALEKS EROR
PS Jul 15, 2020
NATO Is Dying
ANA PALACIO
NATOを存続するには、ヨーロッパが防衛力を高めることだ。
● 香港、パンデミック、習近平
FT July 11, 2020
China, Hong Kong and the world: is Xi Jinping overplaying his hand?
James Kynge in Hong Kong
NYT July 11, 2020
The Chinese Decade
By Ross Douthat
NYT July 13, 2020
Life in Hong Kong Has Always Been Impossible
By Karen Cheung
PS Jul 16, 2020
China’s Deepening Geopolitical Hole
MINXIN PEI
フアウェーが5Gネットワークに参入することをUK政府は禁止した。
中国指導部は、UK、カナダ、オーストラリア、インド、中立的であった重要な諸国を敵にしてしまった、外交的な孤立をもたらす自分たちの攻撃的姿勢を考えるべきだ。
● 米中冷戦
The Guardian, Tue 14 Jul 2020
The US-China rivalry is not a new cold war, and it's dangerous to call it that
Mario Del Pero
FP JULY 14, 2020
The U.S. Declared China’s South China Sea Claims ‘Unlawful.’ Now What?
BY COLM QUINN
FT July 15, 2020
America’s eerie lack of debate about China
Janan Ganesh
FP JULY 15, 2020
Pompeo Draws a Line Against Beijing in the South China Sea
BY BILL HAYTON
● ブラジル
PS Jul 13, 2020
Will Bolsonaro Survive the Pandemic?
PETER SCHECHTER
● シャットダウンとワクチン
NYT July 14, 2020
Politics Won’t Stop the Pandemic
By John M. Barry
PS Jul 14, 2020
The Politics of a COVID-19 Vaccine
RICHARD N. HAASS
VOX 13 July 2020
The UK lockdown: Balancing costs against benefits
David Miles
PS Jul 15, 2020
The Fastest Way Out of the Pandemic
SETH BERKLEY, RICHARD HATCHETT, SOUMYA SWAMINATHAN
ワクチン市場をめぐる各国・企業間の開発競争は、最終的に、世界に多くのワクチンを利用できない国を残して、COV-19との闘いに敗北するだろう。むしろthe COVID-19 Vaccine Global Access Facilityを創設するべきだ。
● リベラル
FP JULY 13, 2020
The Pandemic Could Be the Crisis Liberalism Needed
BY MATT WARNER, TOM G. PALMER
FP JULY 14, 2020
Present at the Destruction of U.S. Power and Influence
BY PETE BUTTIGIEG, PHILIP H. GORDON
FP JULY 14, 2020
Will America’s Alliances Survive the Trump Era?
BY SAM WINTER-LEVY, NIKITA LALWANI
● シンガポール
FP JULY 14, 2020
Opposition Victories Force a Crack in Singapore’s Carefully Managed Democracy
BY KIRSTEN HAN
● ブレグジット
The Guardian, Wed 15 Jul 2020
Brexit was meant to make Britain global. It has made us friendless
Rafael Behr
The Guardian, Wed 15 Jul 2020
The Guardian view on Brexit and devolution: a crisis in the making
Editorial
FT July 15, 2020
Britain’s Brexit boosterism masks slow progress in talks with EU
Martin Sandbu
● 主要通貨のインフレーション
FT July 15, 2020
You say high inflation, I say show me the currency devaluation
Rui Soares
年率100%を超えるインフレを経験したケースは?
Venezuela 2017-2020. Zimbabwe 2018-2020 and 2006-2008. Turkey 1994-1995 and 1980. Argentina, Brazil and Latin America in the 1980s. Germany 1923-1924.
すべてのケースで、その前、3年以内に、通貨の価値がドルに対して80%以上も減少した。
つまり、インフレが起きると予想するのは通貨価値が急落すると予想することであり、主要通貨がどの通貨に対して、それほど急激な下落を示すことができるか、というのはむつかしい。インフレの時代はまだ戻ってこない。
● G20
PS Jul 15, 2020
G20, Heal Thyself
JEFFREY D. SACHS
パンデミックを止める明確な方法は何もない。G20は世界最大の経済圏として財政的な拡大策を協調して行うことに合意する責任がある。
● ポーランド
PS Jul 15, 2020
Poland Slouches on
SŁAWOMIR SIERAKOWSKI
● スレブレニッツァ
FT July 16, 2020
Srebrenica’s wounds remain unhealed after 25 years
Valerie Hopkins
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The Economist July 4th 2020
Retro or radical
Hong Kong: A safe harbor no more
The pandemic: The way we live now
The Nile: Dam bluster
Hong Kong’s freedoms: The evening of its days
Malawi’s new president: A lesson in democracy
Sierra Leone: Guild of thieves
(コメント) バイデンは、もはや現実を変える情熱も能力もない、老政治家なのか。バイデンの柔軟で、保守的な、妥協や修正を厭わない、人びとの合意を求め、自らの不幸を味わったことから、他人の苦しみを理解する姿勢は、実際には、オバマ以上に、困難なアメリカの改革を成し遂げるにふさわしい、もっともまれな歴史的機会を得るのかもしれない。
中国政府の高官が「香港への誕生日プレゼントだ」と言ったそうです。香港返還記念日の7月1日に間に合うように、6月30日の深夜に成立した国家安全法に関して、これほど傲岸不遜なジョークを飛ばすことができるのか、と思いました。
アフリカについてのいくつかの記事にも肝を冷やします。エチオピアの建設するナイル川のダムは、エジプトとの戦争にもなりかねない紛争です。マラウィの大統領選挙が、不正選挙の見本市のような状態から、民主的諸制度と市民の抵抗で覆される話も、シエラレオネにおける国家の崩壊状態が、泥棒や売春婦たちに同業組合や互助会を必要と感じさせる話にも。
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IPEの想像力 7/20/20
夕食のとき、新規感染者が増加したというニュースを聞くと、私は妻に言います。「これが最後の晩餐かもしれないね。」
明日、母のご飯を作りに地下鉄で大阪に行くとき、私は感染し、その2日後に発熱して検査を受け、そのまま隔離されます。妻は、実家にいるはずの私が病院にいるという連絡を受け、しかも、面会はできないと知るでしょう。私の肺炎はにわかに重篤化し、翌日には人工呼吸器につながれ、1週間後に死亡します。すでに、私が感染させた母は亡くなっており、自分の何が間違っていたのかな、と私は死ぬときに思うでしょう。
そして、葬式はできない、火葬は保健所が手配するから、✖月✖日✖時に、遺骨を取りに来るように、という連絡が妻にくるわけです。
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コロナ危機で財政赤字の規律を失い始めた日本に足りないものは、長期の展望、若者たちが目指す戦略だ、と思いました。
日本の人口減少、デフレ、債務累積が続く中で、今、だれにも成長の見通しがない。2050年の世界と日本を想像したとき、何が見えるのか。・・・日本はアジアのベルギーになる。
旧いエッセーを紹介します。
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★IPEの風 3/19/2007
https://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/ipe_notes_2007/031907note.htm
ノーム・チョムスキーの『覇権か,生存か』(集英社新書)を読んでいると,日本政府がアメリカの同盟国としてだけ安全保障を考えていることに,焼けるような不安を感じます.
・・・アメリカ政府は,アフガニスタンのテロ組織を育て,サダム・フセインを育て,インドとパキスタンの紛争を激化させて核戦争の瀬戸際にまで追いやり,イスラエルによる軍事侵攻と占領,アパルトヘイト下の南アフリカ白人政権による周辺諸国との戦争,そして中米からラテンアメリカにおける麻薬撲滅戦争を掲げたテロ集団の住民虐殺や,社会主義的政権へのクーデタを助けた.・・・
安全保障に限らず,何であれ,日本が大きく変わることに誰もが不安と不満を覚えます.しかし,すべての変化を拒むことはできません.未来の可能性は,それをつかもうとする者にだけ開かれます.
(以下、2050年の日本について20項目を列挙してあります。それらは、チョムスキーではなく、私の想像です。)
こうした考えは「ユートピア的だ」と否定されるかもしれません.しかし,私はそうではないと思います.これらは実際に,世界各地のコミュニティーや行政区,国家で試され,行われていることです.そのいくつかは成功し,いくつかは失敗し,多くは部分的な模索と修正を続けていると思います.その意味で,これらを「実験的」と呼ぶほうが良いでしょう.
★IPEの想像力 11/21/11
https://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/Review2011/112111review_s.html
私たちは、ずっと以前から、国家の領土を超えた社会秩序の構築・再編について、試行錯誤を続けています。・・・5000年以上も。
2050年。世界の人口予測は90億人を越えます。その半分以上、52億人がアジアに住み、日本はまだ1億1000万人を維持していますが、減少し続けます。中国は14億人、インドは16億人です。国際秩序を共有しなければ、小国は自由や豊かさを望めません。現在、人口5億人のEUにおいて50分の1の人口と言えば、ベルギー(1000万人)です。
世界で最も優れた社会・政治制度から多くを学ぶ市民たちの勇気と、内外の反対意見を説得できる指導者が、小国にはどうしても必要です。
IPEの想像力 11/26/12
https://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/Review2012/112612review_b.html
日本は人口7200万人の,高齢化した中所得国(アジア36か国中,人口規模で16位,GDPでは9位,一人当たりGDPで5位)になり,一部の先端産業を除いて,若者にとって希望の持てる雇用は国内にあまりない.国内少数民族の政治動向が海外情勢によって変わりやすく,人種差別主義・排外主義に偏り,民族純化を唱える党派が群小政党の連立政権を交代させる重要な役割を担う.彼らはしばしば国会を占拠し,都市の交通・通信施設を占拠する戦術も多用し,不安定な情勢が続いている.
次のアジア連邦サミットでは,日本の債務危機に第3次救済融資をするべきか,加盟諸国の首脳たちが議論する予定である.日本が財政破たんし,通貨圏を離脱しても,その市場規模やサプライ・チェーンの重要性が低下したことから見て,もはやアジア通貨圏に影響を与えず,競争する産業も円安の影響を受けない,という楽観論が出ている.破棄された日本各地の原発も,アジア連邦が廃炉を直接管理している.
★IPEの想像力 11/11/13
https://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/Review2013/111113review_b.html
国家は競争し,次第にその外郭が壊れて,優れたガバナンスだけを残します.ドイツ人は100年単位で政治体の数を10分の1にした,という歴史に驚きます.
急速な開発も,貧困と抑圧も,その底辺ではよく似た様相を呈します.伝染病や公衆衛生,治安問題,そして輸送や通信のインフラが最も激しく議論されています.こうした「都市問題」をめぐって,民主主義は具体的な制度や政策を革新してきたと思います.
底辺では,移民たちが非合法化され,国境を越えた人身売買や偽装結婚の形で,さまざまな奴隷制が広まっています.
アニメ作家たちは30年も前から,この現実を克明に描いています.それは第3次世界大戦後,「アキラ」で武装し,「攻殻機動隊」が都市の治安と政治システムを守り,「風の谷のナウシカ」が描くエコロジカル・タウンを全土に散在させた,2050年のJAPANです.
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高齢者の絶望と、若者の絶望は、どこかでリンクするはずです。
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