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IPEの風 3/19/2007
ノーム・チョムスキーの『覇権か,生存か』(集英社新書)を読んでいると,日本政府がアメリカの同盟国としてだけ安全保障を考えていることに,焼けるような不安を感じます.
・・・アメリカ政府は,アフガニスタンのテロ組織を育て,サダム・フセインを育て,インドとパキスタンの紛争を激化させて核戦争の瀬戸際にまで追いやり,イスラエルによる軍事侵攻と占領,アパルトヘイト下の南アフリカ白人政権による周辺諸国との戦争,そして中米からラテンアメリカにおける麻薬撲滅戦争を掲げたテロ集団の住民虐殺や,社会主義的政権へのクーデタを助けた.・・・そんな,まさか? チョムスキーは詳しく述べています.
ニカラグアの編集者は,テロ集団を使ったアメリカによる汚い戦争に抵抗する人々が「テロリスト」と呼ばれ,9・11の「ハルマゲドン」と同じことをアメリカが自分たちに与え続けている,と訴えます.「ニカラグアはほぼ毎日,世界の終わりを経験している」.・・・そんな事実は無い? チョムスキーは反論します.メディアは権力者によって支配されている.真理は操作される.
安全保障に限らず,何であれ,日本が大きく変わることに誰もが不安と不満を覚えます.しかし,すべての変化を拒むことはできません.未来の可能性は,それをつかもうとする者にだけ開かれます.
2050年に,「日本人」は8000万人に減少し,統一後の朝鮮や,上海の拡大行政区と並びます.
「日本人」の10%は海外に居住しています.日本に居住する永住権を持つ住民の20%が外国生まれです.
東京は首都でなくなり,日本のいくつかの地域が(安全保障・外交・通貨を除く)高度の自治権を持って,独自の教育・文化政策,産業振興を行っています.あるいは,実際に,独立します.
国民のすべてが20歳までに10ヶ月以上の兵役の義務を負い,自衛隊やNGOが海外の治安維持や経済再建に,中国,韓国など,諸外国の兵士といっしょに参加しています.
共通の戦没者慰霊公園において,過去の戦争を振り返り,共通の平和を祈念します.
失業や貧困を減らし,所得分配を平等化するために,積極的な公的介入が増えています.労働者の教育や移動が,転職や再雇用,起業と共に増大します.
女性の社会的な地位が大幅に改善して,主要企業・銀行の重役,政治家,地方政府,医師,裁判官・弁護士,官僚のトップの半数が女性で占められています.
若者の同棲や,結婚=離婚=再婚が制度として容易になり,公式に奨励されています.出産や子育て,コミュニティーの活性化が進みます.
土地と住宅の利用については,コミュニティーによる監視・検討委員会が長期開発計画を示し,安価で安定した供給を保証します.
老齢や病気,災害,障害,事故やケガなどで生活ができない,という不安は解消されます.マイノリティー・グループのさまざまな社会参加が支援されます.
大学の入学はすべて無試験となり,成績優秀であれば授業料がすべて免除,生活費もすべて低利で融資されます.人気講座は,歴史,そして思想,です.
さまざまな分野で,日本の主要企業は欧米やアジアの企業と提携もしくは合併しています.地域経済圏や生態系が重視され,広域経済への規制や課税は世界規模で協議,実施しています.
個人のガソリン車や大型旅客機の利用は廃止されます.自動車業界や航空業界はほとんど消滅し,環境維持型のエネルギーや各種ガバナンスのソフト,医薬学やヒューマノイドの研究が大きく進んでいます.
各地にブナやナラの森林が再生し,コンクリートの土手から自由になった河川には多様な生命が満ち,海岸に美しい砂浜を形成しています.
環境規制と環境政策を協調し,公害を克服するために援助機関が各国政府や企業の行動を監視,検査,勧告します.新技術を指導し,化石燃料への依存を大幅に減らしています.
エネルギー大量消費型の文明から離脱する地域が現れ,風や潮流・気流,地熱,太陽エネルギーが主要な動力源となっています.
長崎からイスタンブールまでアジア・ハイウェーが開通し,ムンバイや香港,釜山,ウラジオストックと,横浜や神戸などを結ぶアジア街道フェリーが人や荷物を運びます.
「日本人」とは,1年の内の8割以上,連続5年以上を「日本」に居住し,日本語と日本文化に深い理解を示すとともに,「日本人」になることを希望する者です.彼らは納税と兵役の義務を負います.
修正された憲法と,アジア共同体憲章,国連憲章に基づき,主要国と周辺諸国が国際会議を開いて,領土と主権に関する住民投票が認められれば,各地のコミュニティーは独立し,あるいは統合することもできます.
世界各地にある「日本」は緩やかな連邦制を採用して,各地の「日本人」(あるいは,日本語を駆使する人々)が異なった社会制度や文化を育て,互いに親しく交流し,批判し,助け合います.
・・・こうした考えは「ユートピア的だ」と否定されるかもしれません.しかし,私はそうではないと思います.これらは実際に,世界各地のコミュニティーや行政区,国家で試され,行われていることです.そのいくつかは成功し,いくつかは失敗し,多くは部分的な模索と修正を続けていると思います.その意味で,これらを「実験的」と呼ぶほうが良いでしょう.
確かに,さまざまな可能性は政治的に閉ざされています.私たちは,たとえささやかな実験を試みるにも,たとえば,日本の権力者や政治システムを変え,アメリカの安全保障や貿易・金融システム,資本市場を離脱する(もしくは遮断される)ことから生じる反発や,不安定化の衝撃に対抗しなければなりません.あるいは,国際システムを積極的に改革し,地域的な協力関係も深めるのです.
2050年に向けて.
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