1. 周期的構造変化を行う分子集合体(塩井G)
両親媒性分子が自己組織化してつくる多くの分子集合体は、細胞とよく似た構造をもっています。この研究では、化学反応を利用して分子集合体を自在に動かすことを目的としています。生命体の中では、分子集合体の一種であるベシクルが必要な物質を内包してレールの上を化学反応の力で動いています。この運動によって必要な物質が必要な場所に運ばれ、内包される物質は途中に存在する様々な物質の影響をうけることもありません。このようなシステムを人工的に作成することを目指して研究を進めています。特定の化学環境や物質を求めて自ら運動し形を変えていくような分子集合体は、薬物送達や特定の場所で化学反応を起こすシステムなど、新しい物質移動の方法として発展する可能性があります。
 
pH勾配下で自転・反転を繰り返すベシクル(分子集合体)
※ベシクルサイズは数十 μm

2. 自己運動する触媒粒子(山本G)
生物は食物を摂取することでエネルギーを取得し、そのエネルギーを消費することで様々な運動を行っています。一方、触媒は化学反応の速度を大きくするための物質ですが、触媒粒子の中には、自らが触媒する化学反応のエネルギーを運動エネルギーに変換することで自発的に動くものがあります。この研究では、このような運動を秩序だった形に制御することを目指しています。例えば、自ら反応物質の多いところに移動していく触媒粒子や、反応が終わると一か所に集まる触媒粒子、均一な反応溶液中であっても並進や回転などの指向的運動を行う触媒粒子のような従前に無い機能性微粒子を開発できれば、ミクロな化学システムの動力源の開発につながるかもしれません。
 
反応物質によって運動方向が逆転する白金触媒粒子
(エタノール水溶液)反時計回り (H2O2水溶液)時計回り

3. 物理的振動からの仕事の創出(塩井G)

生命的な運動は基本的に等温系でなされており熱機関のように温度差は介在していません。熱力学で学ぶように均一な熱運動は力学的仕事(秩序ある運動)に変換することはできません。20世紀の中ごろまで等温系の熱運動は、秩序的な運動を取り出すための障害であると考えられていました。しかし、近年,生命はBrownian motorという概念を用いて、均一な熱運動に非平衡過程が介在して力学的仕事を生み出していることが分かってきています。この現象を工学的に見れば、非平衡性のノイズや雑音から秩序ある運動を取り出せることを意味しており、本研究では、このような広い意味でのBrownian motorの研究をしています。現在は加振器やスピーカーから出てくる様々な力学的ノイズを整流して秩序運動を得る研究を進めています。

 
上下振動エネルギーから一方向回転運動を生み出すギア
※ギア直径は4 cm

4. 水面上でのフッ素油の動的自己組織化(山本G)
蒸発や水への溶解を駆動力として水面上で運動する浮体物(樟脳、油滴など)の研究は多くなされています。本研究室では、浮体物として、炭化水素のHがFに置き換わったフッ素油に注目しています。フッ素油は、水に対して難溶性を示し、かつ揮発性の非常に高い物質です。このフッ素油を水面に滴下するだけで、フッ素油の種類や操作条件に応じて、特徴的なパターンが連続的に形成されることを見出しました。工学的な応用としては、固体物質が溶解した揮発性の溶媒に対して右図に示すような自己組織化能を付与することができれば、パターン形成後、蒸発がさらに進行することで固体粒子が析出するため、単純なマクロ操作で粒子合成と規則配列が同時に進行する協奏的プロセスとして利用できる可能性があります。
 
水面上でのフッ素油(PFOB)の動的自己組織化

5. 振動反応による自律運動系の構築(塩井G)
非平衡開放系で進む化学反応には、反応物質の濃度が規則的に増減を繰り返す化学振動が発生することが知られています。このように時間に対して単調でない化学反応は、生命システムで有効に利用されており、しばしば興味深いダイナミックな空間パターンを形成することもあります。このような化学振動には、化学物質の濃度が単調に変化する普通の反応に比べて遙かに多様な応用可能性があると考えられますが、研究の歴史が浅いため、現在でもそのようなアイデアは限られています。この研究では、人工的な化学振動を利用して溶液に潜む不均一性を検出したり、液滴、分子集合体や高分子に生命を思わせるような運動を発生させることを目的としています。
 
pH振動反応によって周回運動を行うオレイン酸油滴

6. 油中直流電場下での粒子の自励振動(山本G)

微細加工技術の進展に伴って、ナノ〜マイクロスケールのデバイスの作製が可能となりつつあります。このようなミクロなデバイスの実現には効率的な動力源を供給することが重要であり、 微小空間で駆動するモーターや微小流路に送流可能なポンプの開発が望まれます。しかしながら、ミクロスケールではレイノルズ数が極めて小さく、慣性よりも粘性が支配的となるため、従来のマクロなモーターやポンプを単純にダウンサイジングする手法では、仕事効率は著しく 低下すると考えられます。本研究では、粘性によるエネルギー散逸が極めて大きくなるマイ クロ領域においても効率的かつ安定に動力を供給しうる新しい基盤技術を提示し、微小空間で 駆動する極めてシンプルなモーターやポンプのプロトタイプを作製することを大目的としています。

 
直流電場下で高速回転(100 rpm)するポリスチレントリマー

7. 乾燥による粒子の幾何学パターン形成(塩井G)

粒子状物質を含む液体が乾燥すると、残された粒子状物質が特有の模様を形成します。これは乾燥パターンと呼ばれ、塗布などの工業分野や乾燥した土地に現れる亀裂の研究など、幅広い興味から研究がなされています。このパターンは粒子状物質がもっている様々な特性で顕著に変わることが分かっています。このような乾燥パターンは、スパイラル構造など平衡状態では形成されにくいが生命的な組織には頻繁に現れる構造を発現することが多く、非平衡系自己組織化の典型例として興味がもたれています。本研究では、粒子状物質として,シリカ粒子などのありふれた物質や、単層カーボンナノチューブなどの先端機能物質を用いて、どのような物質からどのようなパターンが形成されるか、また、形成されたパターン状物質がもつ面白い性質を解明するべく研究を進めています。

 
乾燥によるカーボンナノチューブの螺旋状規則的配列
※全長のスケールは約4 mm

8. 内部構造を自己生成する微粒子(山本G)
反応と拡散が組み合わさると、空間的なパターンが自己生成します。この研究では、ゲルの中の反応と拡散で粒子を形成させ、粒子の中に化学的・物理的なパターンを自己生成させることを目指しています。この研究では、内部で化学組成が周期的に分布する粒子や、コア・シェル構造をもつ粒子などが、寒天などのありふれた媒体の中で全く自発的に形成します。また粒子の集団が、ゲルの中で不思議なパターンを形成します。この研究は、周期的な模様をもつ鉱物や岩石の研究から始まりましたが、環境にやさしい水系の一段階プロセスを用いた、新しい機能性粒子の合成プロセスが開発できるかもしれません。
 
周期構造を持つ(Ba, Sr)SO4粒子

9. 油水界面・接触線の不安定性と振動運動(共同)
油水界面や界面と固体壁の接触線が化学反応により動き出すことがあります。この運動は様々な方法で秩序化することが可能であり、また、特定のイオンなどが含まれるときにのみ運動を始めるものなどもあります。この研究では、そのような動きが現れる原因を解明し、界面の新しい性質を見つけることを目的としています。細胞膜のような機能をもった界面の研究に発展する可能性があります。この研究では、例えば、イオン選択的なマランゴニ不安定性、電位差によって発生する油水界面の不安定性(電気化学的不安定性)、接触線の非線形振動の同期と電場による制御、微小水滴の自己運動などを対象としています。これらはすべて、界面での化学反応と吸・脱着が協同的に生み出す現象で、その結果、溶液は生命的な印象をあたえる動きを示します。

油水界面の自発的運動のモード分岐
(左)トラベリングウェーブ (右)上下運動

業績リスト
塩井章久:https://kendb.doshisha.ac.jp/profile/ja.e5b9412deef3ae4b.html
山本大吾:https://kendb.doshisha.ac.jp/profile/ja.cf74b9562145c46b.html

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