IPEの果樹園2019

今週のReview

11/25-30

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高齢者の公的介護 ・・・イギリス総選挙と労働党 ・・・億万長者の一掃 ・・・南米のカオス ・・・内政干渉と選挙監視 ・・・習体制と香港弾圧 ・・・金融秩序のゆるやかな崩壊 ・・・ウイグル人の再教育キャンプ

[長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 高齢者の公的介護

FT November 15, 2019

A consensus on personal care for the elderly is finally emerging

Camilla Cavendish

総選挙の大騒ぎの中で、保守党が1つだけ触れない問題がある。それは、65歳以上の高齢者に無料の介護を提供する、という労働党の公約だ。その公約は強く支持されており、NHS(国民医療サービス)は、Brexitの次に有権者の関心を集めている。政府は舞台裏で、労働党案をまねるべきかどうか、困惑した議論を続けているのだろう。

高齢者への社会支援(公的介護)は、諸政府が取り組む複雑な、解決困難な問題の1つである。1999年、トニー・ブレア(労働党政権)はNHSを適用せず、2017年、テリーザ・メイ(保守党政権)は複雑な提案を行った。なぜがん患者はNHSで治療できるのに、認知症は扱えず、治療や介護を家族が負担するしかないのか? コービン(労働党)の提案は国民合意になるだろうか?

有権者の多くは、自分が家族の介護に苦しむときまで、公的看護のことをよく知らない。この問題が選挙の重要な争点に挙げられるのは、それがNHSを壊しているからだ。病院のいくつかは高齢者のために入院ベッドの一部を使えなくなっている。医療的に入院する必要がなくても、彼らにはほかに行くところがないからだ。

労働党の公約は、高齢者のために入浴や着替え、食事の世話をするというが、それには費用が掛かる。納税者が負担することになる。それはスコットランドですでに行われているが、保守党政権は躊躇している。80億ポンドという推定額は低すぎるだろう。他の住民の医療や、若い納税者への負担が重くなる。

資産チェックを廃止すれば制度は簡素化できる。しかし、それは必要な改革の一部でしかない。非効率で、分割されたシステムが、このまま「無料」の医療・介護を提供することはできない。さらに根本的な問題に答えねばならない。われわれは、将来、自分や家族がどのように暮らせることを、文明的な社会として受け入れるのか? 単に、風呂で洗って、服を着せるための身体としてだけ、人は生きているのではない。

良い介護を受けると、人は脳梗塞から回復し、糖尿病を克服し、新しい友情が生まれる。できないことより、できることに注目し、共同で作業し、閉じこもった異なる言葉ではなく、1つの言葉を話すようになる。優れた介護スタッフは、人を全体として扱い、希望を与える。

私はオランダで、そのような看護師たちと信頼を築く組織Buurtzorgを観た。私は、ドイツや日本のような、リスクと負担を社会で共有する、洗練された公的介護の社会保険が好きだ。イギリスでも党派を超えて議論してほしい。国民のコンセンサスがあれば、「無料」公的介護を含む改革は可能であろう。

社会として、われわれの姿を問うことが、政治を動かすことに希望を見出す。


 イギリス総選挙と労働党

The Guardian, Fri 15 Nov 2019

The Guardian view on Labour’s broadband nationalisation: radical and necessary

Editorial

イギリスのインターネットは情報伝達の速度が遅い。1秒間に1ギガバイト以上のスピードも実現可能であるが、イギリスの12の建物の1つでしか利用できていない。スペインでは70%以上、韓国では100%で利用できる。

ジェレミー・コービンの公約は、すべてのイギリスの建物で、2030年までに、無料の光ファイバー・ブロードバンド接続を可能にする、というものだ。労働党は、そのためにBT Openreachのインフラ部門を国有化し、Virgin Mediaと取引する、と言う。イギリスは新しい資本主義へのアプローチを採用する。

国有化において、株主に支払う価格は議会が決定する。投資家によっては訴訟になるかもしれない。しかし、問題は、納税者や消費者にとっても、何がうまく機能するか、ということだ。国有産業のサービスの質が民間企業よりも劣っているのだろうか? しかし、BT Openreachは自然独占であり、それが民間企業の利益になっている。公共インフラは社会に利益をもたらすのであり、商業利益の問題ではない。


 億万長者の一掃

PS Nov 15, 2019

Abolish the Billionaires?

EDOARDO CAMPANELLA

億万長者たち(10億ドル以上の資産保有者)の勢力拡大はとどまるところがないようだ。IMFが世界経済の減速を予想しているときに、超富裕層の富は増大し続けている。Oxfamによれば、世界の億万長者の数は、2008年の世界金融危機以後、ほぼ倍増した。48時間ごとに1人増えている。

昨年、世界で最も裕福な26人の保有する資産が、世界人口の貧しい側の半分、38億人の富と等しかった。

アメリカで富がトップの少数者に集中するのは、中産階級から搾り取って、少数者の利益を優先し、世代を超えて特権を永久化する、社会経済システムの病的症状である。

アメリカの税制が全く累進的でないことは明らかだ。しかし、1913年に連邦所得税が導入されて以来、個人所得税は累進的であるが、ほとんどの富裕層は所得税を全く支払わない。彼らの収入の多くは配当であるから、その税率は20%、しかも社会保障に関する課税は労働収入に対してだけ課税されるからだ。

消費税も不平等をもたらす。富裕層の支出するサービスには課税されていない。ゴルフの会員証や弁護士への支払いだ。他方で、労働者家計にとって、食糧や衣服、家電製品の購入には課税される。また、価格より数量に対して、フランスの高級ワインでも安物のボトル・ワインでも税率は同じである。

アメリカの税制は、累進性と再分配の歴史であった。たとえば、17世紀のマサチューセッツ州が、ほとんどすべての所有(土地、船、宝石、家畜)に対する課税を導入した。強い累進的な税制を導入したのは、北欧諸国ではなく、アメリカであった。1917年、アメリカは最高税率が67%に達した再保の国であり、1930年代には不動産税が70%に達した。1950年、最富裕な400家族は平均税率が70%で、現在の実効税率の3倍であっただろう。

なぜそれほど高くできたのか? 平等主義は、エリート主義以上に、アメリカの文化と政治の構造に一部として組み込まれている。1830年代、アメリカを旅したAlexis de Tocquevilleが、社会経済条件に平等性が高いアメリカを、フランスと全く違う、と驚いた。その1世紀後に、Franklin D. Rooseveltは、経済的平等を最優先する大統領として、1942年、「税を支払った後、年に25000ドル以上も所得のある市民をなくすべきだ」と宣言した。それは、現在の貨幣価値で、まさに100万ドルである。ルーズベルトは、その水準を超える所得に100%の課税を提案した。議会はそれを極端として、94%に抑えた。

しかし税の累進性に関する態度は、1970年代に逆転し始めた。資本逃避、課税を逃れる攻撃的な産業、グローバルな課税競争が起きたからだ。その後、平均税率は貧困層も含めて低下したが、特に、富裕層がその最大の利益を受けた。

Pikettyは、現在の欠陥ある資本主義に代えて、新しい参加型の資本主義を要求する。そのために、アメリカだけでなく、世界に対して多くのラディカルな改革を主張する。彼は、所有権、特に、極端に大きな資産は、一時的なものにすべきだ、と言う。課税によって億万長者は消滅する。そして、それを公共財、社会保険、貧困層へのベーシック・インカムに使う。


 南米のカオス

SPIEGEL ONLINE 11/19/2019

Anti-Government Protests

Democracy's Crisis of Faith Reaches South America

By Marian Blasberg and Jens Glüsing

南米の抗議デモ参加者たちの多くにとって、民主主義は安定や繁栄を約束するものではなかった。指導者たちは腐敗し、不平等はなお蔓延しており、だれも将来に向けた経済計画を示さない。

ボリビアのモラレスEvo Morales元大統領がメキシコに去った数日後、モラレスの与党のメンバーで、小都市の市長Patricia Arceの部屋が怒った群衆に襲撃された。彼らはArceの髪を切り、赤いスプレーをかけて、建物に放火した。暴徒はその後、Arceを裸足のまま街を歩かせ、まるで戦争捕虜のように、罵声を浴びせた。

それは恐ろしい、見るに堪えない光景だが、南米の現状を象徴している。

ボリビアでは人々が大統領選挙の操作に憤慨した。チリでは地下鉄運賃の引き上げが暴動につながった。エクアドルの大統領がガソリン補助金を削減すると発表した後、抗議デモが政府庁舎に放火した。

腐敗し、国民を無視したエリートたちに対する不満が表面化した。彼らは民主主義のルールや制度を無視して、権力の地位にとどまっていた。社会を分断する不平等に、怒りが高まった。「もう十分だ。こんなことは続けられないぞ。」

抗議デモは1つのサイクルの終わりである。南米は、世界的な資源ブームのおかげで、比較的安定した20年を経験した。Bolivia, Brazil, Ecuador and Venezuelaの左派政権は、輸出収入によって、寛大な社会給付を行った。貧困は減少し、多くの新しい中産階級が現れた。グローバリゼーションが、新しいアイデンティティーと新しい期待を生んだ。それは今や、ブームの退潮とともに、社会的衰退への不安に変わっている。

「社会的不満」が国境を越えて膨張している。不安定な職に頼る貧困層が今も多い。他方で、少数の、ますます繁栄する富裕層は危機を免れ、ぜいたくな暮らしを続けている。彼らの住宅は民間の警備員が守り、子供たちは私立学校や私立大学へ行き、病気になれば私立の病院へ行く。

人びとは、富があまりにも不平等に分配されている、という意識を強めている。人びとは選挙による代表との間に疎外感を持つ。国家機関や政党への信頼は、劇的に低下した。政党は、政治家が公金を利用するための汚職を促している。こうした罪を罰することができない裁判所も、信頼を失った。


 内政干渉と選挙監視

FT November 21, 2019

How foreign intervention can save US democracy

Simon Kuper

「内戦をどうやって止めるか?

アメリカについて私は考えた。国際社会がアメリカ大統領選挙に介入するべきだ。もちろん、アメリカ人に自決権はあるが、最優先されるべきは、アメリカの民主主義を守ることだ。

政治的暴力のリスクは評価がむつかしい。モンタナ州の選挙では、対立候補がテレビの広告でライフルを発射した。アフガニスタンの軍閥のようだ。

より穏健に見えるが、UKも監視する必要がある。アメリカ人のように、イギリス人も政治的意見をアイデンティティーとみなし、反対派を裏切者と呼ぶ。

英米両国は選挙の勝者にすべてを与えて決める気だが、それは良い結果をめったにもたらさない。現在はOxfordの講師である、元イエメン政府閣僚のRafat Al-Akhaliは、国民対話の諸外国の経験をUSUKに移転すべきだ、と考える。

ワシントンは紛争諸国に予定表を決める。しかし、2大勢力による選挙は分断を悪化させる。最初の目標は、権力の共有だ。対立するすべての勢力を含む、移行のための政権を組織する。

次は、アフガニスタンのロヤ・ジルカ、大集会、国民対話のスタートだ。

真実が死んだ英米で、南アフリカのような「真実と和解のための委員会」は機能しない。アメリカはトランプの弾劾をやめて、彼が友好国に亡命することを許すべきだろう。ウクライナの親ロシア派、元大統領Yanukovichがロシアに亡命したように。

国民会議は新憲法を決める。UKが先だ。日本の法律家たちが、アメリカ人の書いた1947年の憲法に感謝したように、UKの憲法草案を助ける。アメリカの新憲法は、大統領の汚職や司法への介入を、弾劾理由として明確に規定する。

新憲法は、勝者が全てを決めるより連立政権を促し、外国による選挙介入に厳格に対処する。選挙は詳細に監視されるだろう。アメリカは他国の選挙が「自由かつ公平」であることを特に好むから、アメリカの選挙を監視することにも原則として反対しないはずだ。

しかし、楽観は禁物だ。介入は、アメリカのエスニック、経済、地域をめぐる対立の凍結が精いっぱいである。国際社会は、アメリカの民主主義のために、犠牲者や財源を負担するだろうか?


 習体制と香港弾圧

FT November 18, 2019

Hong Kong is Xi Jinping’s failure

Gideon Rachman

大学は戦場になった。抵抗派はモロトフ・カクテルを警察に投げる。彼らは民衆からの強い支持を得ている。中国の軍は現れていないが、路上の清掃には参加している。もし彼らがデモ隊に対して行動すれば、香港は長期の反政府活動に入るだろう。それは1970年代のベルファストや、1950年代のアルジェリアに似ている。

習近平はこの事態を引き起こした責任を回避する。容疑者の本土への送還を認める法案を提出したのは、香港の行政長官Carrie Lamだ。

しかし、習には広い意味で責任がある。彼が権力を握ってから7年経つが、中国の国家はますます権威主義的になった。汚職撲滅キャンペーンで、著名な指導者が公職から消え、共産党の役人に自殺が増えている。新疆では100万人が再教育の収容所に拘束されている。それは、香港の抗議デモで、習体制が文化・地域の多様性を破壊するものとみなされている。

中国本土のカフカ的な司法システムは、香港の伝統的な「法の支配」と全く対照的なものだ。反北京の著名な活動家Joshua Wong and Edward Leungは投獄された。彼の言葉“Free Hong Kong, revolution now”が抗議デモのスローガンとなっている。

香港が中国に返還された1997年から15年経って、2012年に習近平が権力の座に就いた。その間、「一国二制度」の問題はあったが、管理可能であった。香港市民たちは、中国本土がよりリベラルで、法の支配する社会になれば、2047年に予定されている完全な統合を受け入れることができると期待した。

しかし、習体制は政治的に反対の方向を取った。毛沢東時代のスローガンが復活し、「習近平思想」が憲法に書き込まれた。自由な言論は制約され、人権弁護士は投獄され、非政府組織は閉鎖された。香港が統合化を恐れるのは当然だ。最もラディカルな抗議活動を担うのは、10代、20代の若者たちである。たとえ彼らの戦術に賛成できなくても、彼らは自由を求める闘いにかけている。

「中国人民の復活」を掲げて、台湾を軍事的に威嚇し、国土の統一を唱えているが、習近平はそのプロジェクト全体を見直すべきだろう。しかし、謙虚な姿勢、開かれた態度、反対する意見への寛容さ、こうした性格を、習近平とその体制は全く示していない。


 ウイグル人の再教育キャンプ

NYT Nov. 18, 2019

This Is Not Dystopian Fiction. This Is China.

By The Editorial Board

1984年』、『素晴らしい新世界』、『華氏451度』・・・ しかし、これはディストピア小説ではない。

中国指導部が出した本当の官僚的指令、権威主義的指導者、習近平の一連の秘密演説に依拠し、イスラム教徒を無慈悲に処理するものだ。彼らが、「宗教的な」ラディカリズムを示しているから。

この指令により、西域・新疆地区のウイグル人、カザフ人、その他のイスラム教徒が、何万人も拘留キャンプに収容されている。共産党に忠誠を示すまで、何カ月も、何年も教育される。

現代の全体主義的な洗脳について、NYTに中国政府の匿名の職員から情報(403ページの内部文書)が与えられた。こうした再教育キャンプの存在は以前から知られていた。しかし、非正統的な思想を「ウィルス」とみなして、撃退することに躊躇しなくなったのは、習の固い決意によるものだ。

それはオーウェル的な思考だ。なぜ家に帰っても両親はいないのか? 両親は何か犯罪にかかわったのか? そう学生に問われたら、こう答えるべきだ。「そうではない。彼らは不健全な思想に感染したのだ。この「ウィルス」が彼らの嗜好から除去できたときだけ、彼らは自由になる。彼らは健康である。」

文書が伝えるのは、テロ対策の素晴らしい効果ではなく、思想と行動に全体的な忠誠を要求する指導者たちの狂気、強制と恐怖しか手段を持たない姿である。彼らは、ソ連崩壊がイデオロギーの緩み、意気地のない指導部のせいだ、と確信している。治安機関の幹部は、イギリスにおけるテロ攻撃を、イギリス政府が「治安より人権」を過度に重視したせいだ、と主張した。習は、顔認証、遺伝子テスト、ビッグ・データのような新技術を、ウイグル社会の監視や諜報活動に利用し、反体制派を取り除く、と主張した。

情報提供者の勇気ある選択は、世界に行動を求めている。中国指導部は目を覚ますべきだ。

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The Economist November 9th 2019

Cameroon’s forgotten war: Words and weapons

Squeezing the rich: In defence of billionaires

Fake nudes: Sex, lies and politics

Cameroon’s Anglophone crisis: War of words

Charlemagne: The risks of forgetting

Japan Inc in China: Neighbourly love-in

The economics of billionaires: The lives of the 0.0001%

Free exchange: When the iron is hot

(コメント) エスニックや信仰、そして言語(英語圏・フランス語圏)を利用した植民地支配が、独立後の成人においても分断状態を継承し、独裁体制を長期化させた。西側諸国も強権体制を地域の安定化に有益として黙認した。

億万長者にもいろいろある。確かに、能力によって富を得る場合、それを税金として奪われるように感じるのは、好ましくない。どのような条件で富が形成されるのか、その政治経済的メカニズムを変えるほうが良い。労働組合は、秩序形成に役割を果たすだろう。

トルコのアルメニア人虐殺に関して、トルコ政府、特に、エルドアンのトルコ復活路線は、歴史を解釈して利用した。その過ちは、日本の、特に安倍政権や令和天皇の諸行事にも共通している。

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IPEの想像力 11/25/19

20世紀の公権力や政治経済秩序が問われています。インターネットが世界に無法状態を拡大してきたことを、政府は許すべきではなかった、と思います。

世界金融危機も、フェイク・ニュースやヘイト・スピーチ、ポピュリストたちも、性暴力、誘拐・監禁、超富裕層の富の膨張、選挙の混乱と政治不信、主要政党の解体、世界の都市暴動、移民・難民と排外主義、右翼・保守主義・ナショナリズム、人口流出・減少・限界集落、規制・政策手段の無効化・・・

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2016年に、「文明の暗渠」として、各地に出現している問題群を指摘しました。

・・・「現代の文明が示す病的な,危機の日常的側面が,少女の誘拐・監禁事件にも表れたのではないか,と思うと,これほど身近に,日常生活の中に,文明の暗渠が口を開けているものか,という恐怖に襲われます.」

・・・「もちろん,これはインド洋大津波,『ショック・ドクトリン』が紹介したテロ容疑者や関係者への尋問・拷問,アブグレイブ収容所での暴行・虐待,戦場や国際政治で外交の一部として行われるスパイの要員確保や育成,オウム真理教の行った洗脳,極右・人種差別集団による弱者への示威行為や施設への放火,繰り返されるジェノサイドで指導者たちが広める集団的狂気,性的・暴力的な表現にあふれるマンガ,動画サイト,テレビや映画,小説,アミューズメント・パークなどの娯楽産業,老人たちから資産をだまし取る詐欺集団,介護や貧困の果てに心中する家族の苦しみ,などとつながるのです.」

https://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/Review2016/032816review_b.html

「マララの戦争」

https://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/Review2012/101512review_b.html

SNSで家出や家庭内のトラブルをつぶやく少女たちに、匿名や偽名の男たちが群がってくる。少女に連絡した男性は、彼女を連れ出して、お金と泊まる場所を提供する。「助けてあげる」、と。それは、セックスを求める男たちにとって好都合な理由であり、仲介者やホテルを通じた買春や暴力的な誘拐のような、あからさまな「犯罪」でもない。

政治家の汚職や、超富裕層の縁故主義を、繰り返し批判する女性ジャーナリストや女性政治家に、ネット上で、性的な嫌がらせをする。彼女の個人情報、住所や電話番号、職場、写真がネットに公開され(“doxxed”)、誰かが襲撃し、レイプする(処刑する)ことを挑発する。まったく無関係な主張や言説、噂を流され、真実ではないと主張しても、ネット上から消去できない。

ネットには多くのセックス動画やポルノがあふれている。性的暴力の加害者は、日本の性犯罪において女性の立場が法的・社会的に弱いこと、沈黙を強いる文化や社会規範があることを利用する。女性の社会的地位は低く抑えられ、就職や育児について、「女性」であることが「労働者」としては不利に扱われ、あるいは、活躍の場を大きく制約される。

国王ルイ16世に続いて斬首されたマリー・アントワネットは、王制を打倒する革命派によって、多くの愛人がいる、などの真実ではない情報を流布された、とThe Economistの記事は指摘する。しかも、デジタル技術が高度に進歩したため、だれでも、容易に「ディープフェイク」の動画や演説、セックス映像を、その人物の顔だけ変えて、ネット上に流布できる、という。

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インターネットが普及する過程で、エロチカ、売買春、ポルノ情報が強い刺激となった、と読んだことがあります。かつて、有益な金融革新はATMだけだ、とポール・ボルカーは述べました。金融ビジネスだけでなく、インターネットの社会的害悪と秩序破壊がその有益さを圧倒する臨界点を、私たちは超えたと思います。ネットやスマートホン、SNSの在り方を、根本的に是正するときです。

ロナルド・ドーア『金融が乗っ取る世界経済』は、金融取引の「無名化」、「証券化」によって、人間関係に対する信頼は「浸食」された、と書いています。インターネットは、まさに、それを加速し、ネットを介して全世界を破壊するプラットフォームになりました。今なお、破壊する楽しみ、喜びを、参加者に与え続けています。

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