IPEの果樹園2019

今週のReview

11/25-30

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高齢者の公的介護 ・・・イギリス総選挙と労働党 ・・・億万長者の一掃 ・・・南米のカオス ・・・内政干渉と選挙監視 ・・・習体制と香港弾圧 ・・・金融秩序のゆるやかな崩壊 ・・・ウイグル人の再教育キャンプ

[長いReview

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主要な出典 FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Foreign Policy, The Guardian, NYT: New York Times, PS: Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, Yale Globalそして、The Economist (London)

[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 高齢者の公的介護

FT November 15, 2019

A consensus on personal care for the elderly is finally emerging

Camilla Cavendish

総選挙の大騒ぎの中で、保守党が1つだけ触れない問題がある。それは、65歳以上の高齢者に無料の介護を提供する、という労働党の公約だ。その公約は強く支持されており、NHS(国民医療サービス)は、Brexitの次に有権者の関心を集めている。政府は舞台裏で、労働党案をまねるべきかどうか、困惑した議論を続けているのだろう。

高齢者への社会支援(公的介護)は、諸政府が取り組む複雑な、解決困難な問題の1つである。1999年、トニー・ブレア(労働党政権)はNHSを適用せず、2017年、テリーザ・メイ(保守党政権)は複雑な提案を行った。なぜがん患者はNHSで治療できるのに、認知症は扱えず、治療や介護を家族が負担するしかないのか? コービン(労働党)の提案は国民合意になるだろうか?

有権者の多くは、自分が家族の介護に苦しむときまで、公的看護のことをよく知らない。この問題が選挙の重要な争点に挙げられるのは、それがNHSを壊しているからだ。病院のいくつかは高齢者のために入院ベッドの一部を使えなくなっている。医療的に入院する必要がなくても、彼らにはほかに行くところがないからだ。

労働党の公約は、高齢者のために入浴や着替え、食事の世話をするというが、それには費用が掛かる。納税者が負担することになる。それはスコットランドですでに行われているが、保守党政権は躊躇している。80億ポンドという推定額は低すぎるだろう。他の住民の医療や、若い納税者への負担が重くなる。

資産チェックを廃止すれば制度は簡素化できる。しかし、それは必要な改革の一部でしかない。非効率で、分割されたシステムが、このまま「無料」の医療・介護を提供することはできない。さらに根本的な問題に答えねばならない。われわれは、将来、自分や家族がどのように暮らせることを、文明的な社会として受け入れるのか? 単に、風呂で洗って、服を着せるための身体としてだけ、人は生きているのではない。

良い介護を受けると、人は脳梗塞から回復し、糖尿病を克服し、新しい友情が生まれる。できないことより、できることに注目し、共同で作業し、閉じこもった異なる言葉ではなく、1つの言葉を話すようになる。優れた介護スタッフは、人を全体として扱い、希望を与える。

私はオランダで、そのような看護師たちと信頼を築く組織Buurtzorgを観た。私は、ドイツや日本のような、リスクと負担を社会で共有する、洗練された公的介護の社会保険が好きだ。イギリスでも党派を超えて議論してほしい。国民のコンセンサスがあれば、「無料」公的介護を含む改革は可能であろう。

社会として、われわれの姿を問うことが、政治を動かすことに希望を見出す。

FT November 15, 2019

In search of an investment to last a lifetime

Merryn Somerset Webb

あなたは、自分が考えている以上に長生きする。それは退屈でも、病気でも、社会と切断することでもない。健康で、生産的で、社会に関与し続けることだ。そのためには、それにふさわしい金融資産が要る。

同じような長生きの金融資産がある。長期の運用に成功している投資信託だ。昨年、the F&C Investment Trust150歳を迎えた。Dunedin Income and Growth146歳、Scottish American144歳、The JPMorgan American Investment Trust136歳、The Mercantile Investment Trust133歳など。

FT November 17, 2019

‘Their house is on fire’: the pension crisis sweeping the world

Josephine Cumbo in London and Robin Wigglesworth in Oslo

低金利からマイナス金利の時代に、年金は削減されつつある。人びとは老後のためにますます多くの貯蓄を必要とし、それは金融緩和とは逆に、支出を減らす効果を強める。年金の運用機関は、安全な資産が年金のための収益をもたらさないことに苦しみ、よりリスクの高い、外国の資産に投資する。極端な金融緩和と未知の投資行動には、バブルのリスクが高くなる。

FT November 20, 2019

Impact investing is about more than saving the world

Sarah Gordon


 イギリス総選挙と労働党

The Guardian, Fri 15 Nov 2019

The Guardian view on Labour’s broadband nationalisation: radical and necessary

Editorial

イギリスのインターネットは情報伝達の速度が遅い。1秒間に1ギガバイト以上のスピードも実現可能であるが、イギリスの12の建物の1つでしか利用できていない。スペインでは70%以上、韓国では100%で利用できる。

ジェレミー・コービンの公約は、すべてのイギリスの建物で、2030年までに、無料の光ファイバー・ブロードバンド接続を可能にする、というものだ。労働党は、そのためにBT Openreachのインフラ部門を国有化し、Virgin Mediaと取引する、と言う。イギリスは新しい資本主義へのアプローチを採用する。

国有化において、株主に支払う価格は議会が決定する。投資家によっては訴訟になるかもしれない。しかし、問題は、納税者や消費者にとっても、何がうまく機能するか、ということだ。国有産業のサービスの質が民間企業よりも劣っているのだろうか? しかし、BT Openreachは自然独占であり、それが民間企業の利益になっている。公共インフラは社会に利益をもたらすのであり、商業利益の問題ではない。

FT November 15, 2019

Labour’s broadband plan shows nationalisation’s consumer appeal

Robert Shrimsley

労働党にとって国有化が「汚れた言葉」ではなくなったが、それは保守党政権が民間の独占を正しく規制できなかったからである。

The Guardian, Sat 16 Nov 2019

Win or lose, Labour’s radicalism has redefined what’s possible in British politics

Andy Beckett

混乱したイギリスを作り変える、新鮮なアイデアが政党には求められている、とよく言われる。

4年前にジェレミー・コービンが党首となって、よりラディカルな青写真を示してきた。その大胆な姿勢は今なお驚きだ。トニー・ブレアが長期に党首であったニュー・レーバーでは、美しい飾りつけであったが、現状維持にこだわった。その主張は、以前の保守党政権の姿勢と変わらず、穏健で、希薄なものだった。中道と左派を取り込む、選挙のためのマーケッティングを重視していた。

コービンの労働党は逆である。経済を変え、富の分配を変え、将来の仕事、国家の役割、外交政策の目標を変える。こうしたすべての、そして他の困難な問題を、毎日のように政治は議論している。エスタブリシュメントはこれを邪魔し、憤慨し、憂慮した。

過去に2度、労働党はラディカルな変化を公約して選挙に挑んだ。1974年と1983年だ。しかし、今度は左派のラディカリズムに有利な条件がある。緊縮策は信用を失い、自由市場型の資本主義は地球環境と両立しない。労働党は「グリーン産業革命」を提唱している。

Brexitでさえ、現在は、有毒のナショナリズムを広めて保守党政権を支えているが、長期的には労働党に有利である。有権者は、その破滅的なムードにおいて、2017年に労働党を支持した。問題は、そのラディカリズムをどのように有権者やジャーナリストたちに売り込むか、である。

すでに、多くの穏健なジャーナリストたちも労働党の優れたアイデアを承認している。「コービン後のコービニズム(労働党ラディカリズム)」について支持する声がある。2015年以来、イギリス政治は緩やかに左派に近寄ってきた。保守党の勝敗にかかわらず、その変化は止められない。

The Guardian, Sat 16 Nov 2019

Labour’s broadband pledge shows a return to the vision of its great election victories

Owen Jones

FT November 16, 2019

The Thatcher revolution is coming under threat

The editorial board

FT November 18, 2019

Labour is playing fantasy politics with its broadband pledge

Patience Wheatcroft

イギリスの影の財務大臣John McDonnellは、怒った、若い、トロツキストである。彼の関心は、有権者に歴代政府の失敗を示すことだけだ。

総選挙まで4週間。2大政党は争って無謀なバラマキ計画を示している。幻想の政治である。それらは財政を狂わせ、経済を破壊するだろう。

The Guardian, Thu 21 Nov 2019

Labour’s electrifying manifesto should jolt this election into life

Polly Toynbee

FT November 21, 2019

Labour’s promised transformation is an assault on business

Robert Shrimsley

FT November 22, 2019

Labour’s manifesto adds up to a recipe for decline


 億万長者の一掃

PS Nov 15, 2019

Abolish the Billionaires?

EDOARDO CAMPANELLA

億万長者たち(10億ドル以上の資産保有者)の勢力拡大はとどまるところがないようだ。IMFが世界経済の減速を予想しているときに、超富裕層の富は増大し続けている。Oxfamによれば、世界の億万長者の数は、2008年の世界金融危機以後、ほぼ倍増した。48時間ごとに1人増えている。

昨年、世界で最も裕福な26人の保有する資産が、世界人口の貧しい側の半分、38億人の富と等しかった。

富裕層に対する政治の態度は、特にアメリカで変化しつつある。アメリカでは、資産形成を、才能、創造性、リスク・テイクの報酬と考えるからだ。今や、民主党の大統領候補たちは、資産への課税、より累進的な所得税、より大きな相続税を提案している。

エリザベス・ウォレンは、5000万ドル以上の資産に2%10億ドル以上の資産には3%の課税(さらに、国民皆保険のためには税率を倍増)を提案する。バーニー・サンダースは、億万長者入らない、と主張し、100億ドル以上の資産には8%におよぶ、さらに高率の課税を提案する。もし富豪たちがアメリカ国籍を離脱するなら、純資産の40%10億ドル以上の資産家なら60%)を脱出税として徴収する。

アメリカで富がトップの少数者に集中するのは、中産階級から搾り取って、少数者の利益を優先し、世代を超えて特権を永久化する、社会経済システムの病的症状である。

Emmanuel Saez and Gabriel ZucmanUC, Berkeleyのエコノミスト、Thomas PikettyWarrenの資産税に助言するフランスの不平等研究の権威であるが、彼らの新著(The Triumph of Injustice)は、バフェットWarren Buffetの有名な観察を確認している。それは、 バフェットが彼の秘書よりも低い税率でしか支払っていない、というものだ。2018年、最富裕の家族400世帯は、実効税率が23%であり、平均的な国民の税率より5%低い、とSaez and Zucmanは言う。

その数値に関する論争は続いているが、少なくとも、アメリカの税制が全く累進的でないことは明らかだ。しかし、1913年に連邦所得税が導入されて以来、個人所得税は累進的であるが、ほとんどの富裕層は所得税を全く支払わない。彼らの収入の多くは配当であるから、その税率は20%、しかも社会保障に関する課税は労働収入に対してだけ課税されるからだ。

消費税も不平等をもたらす。富裕層の支出するサービスには課税されていない。ゴルフの会員証や弁護士への支払いだ。他方で、労働者家計にとって、食糧や衣服、家電製品の購入には課税される。また、価格より数量に対して、フランスの高級ワインでも安物のボトル・ワインでも税率は同じである。

アメリカの税制は、累進性と再分配の歴史であった。たとえば、17世紀のマサチューセッツ州が、ほとんどすべての所有(土地、船、宝石、家畜)に対する課税を導入した。強い累進的な税制を導入したのは、北欧諸国ではなく、アメリカであった。1917年、アメリカは最高税率が67%に達した再保の国であり、1930年代には不動産税が70%に達した。1950年、最富裕な400家族は平均税率が70%で、現在の実効税率の3倍であっただろう。

なぜそれほど高くできたのか? 平等主義は、エリート主義以上に、アメリカの文化と政治の構造に一部として組み込まれている。1830年代、アメリカを旅したAlexis de Tocquevilleが、社会経済条件に平等性が高いアメリカを、フランスと全く違う、と驚いた。その1世紀後に、Franklin D. Rooseveltは、経済的平等を最優先する大統領として、1942年、「税を支払った後、年に25000ドル以上も所得のある市民をなくすべきだ」と宣言した。それは、現在の貨幣価値で、まさに100万ドルである。ルーズベルトは、その水準を超える所得に100%の課税を提案した。議会はそれを極端として、94%に抑えた。

しかし税の累進性に関する態度は、1970年代に逆転し始めた。資本逃避、課税を逃れる攻撃的な産業、グローバルな課税競争が起きたからだ。その後、平均税率は貧困層も含めて低下したが、特に、富裕層がその最大の利益を受けた。

Kenneth Scheve and David Stasavageはその研究(Taxing the Rich)で、富裕層への高い税率を、多くを貯蓄できるものが支払う公平性、普通選挙権が実現する平等性、根本的な条件の変化によって強いられた不平等の補償を求める、という3つの原理で説明している。諸国の歴史的な例から、戦争による貧困化に対して、補償による累進性を導入したことが最も明確なケースである。さらに、第1次世界大戦では、戦争で利益を得た者たちの「貴族制」が出現することを防ぐために高率の課税がなされた。

戦争はないが、アメリカの不平等は耐え難い水準に達している。現代のエリートたちが、その富を「アメリカン・ドリーム」で正当化することに、大衆は不満を強めている。富裕な家族は、教育、社会、経済の機会を独占しているのだ。システムによって周縁化された人びとは、今や有権者として、補償としての再分配を求めている。

Pikettyは、新しい、1200ページの大著(Capital and Ideology)で、不平等が自然の産物ではなく、意識的な政治的選択の結果であり、それを支えるイデオロギー装置の発展がともなう、と主張する。彼はそれを「所有の神聖化」とよぶ。すべての不平等な社会は、資源の支配的な分配状態を合法化するイデオロギーを生み出し、社会的な分断や階級を正当化する。インドなら、カーストだ。

Pikettyは、膨大な歴史から、異なる社会の、資産所有を正当化するイデオロギーを調べて、この主張を確かめる。しかし、彼が最も優れているのは、政治的競争が現代の西側社会で展開され、その能力主義的イデオロギーが破綻したことを示すときだ。1950年代、60年代の左派政党は、教育機会や高所得への機会が労働者の家族にも開かれるよう強く求めた。しかし、その後、彼らはその成功によって、ますます教育を受けた、裕福な、上流中産階級を代表する“Brahmin left”になった。そして、階段を登れぬ、取り残された人びとは支持しなくなる。ポピュリストたちが、支配的イデオロギーに裏切られた人びとを、彼らの肥沃な票田とみなす。

Pikettyは、現在の欠陥ある資本主義に代えて、新しい参加型の資本主義を要求する。そのために、アメリカだけでなく、世界に対して多くのラディカルな改革を主張する。彼は、所有権、特に、極端に大きな資産は、一時的なものにすべきだ、と言う。課税によって億万長者は消滅する。そして、それを公共財、社会保険、貧困層へのベーシック・インカムに使う。

問題は、超富裕層が政治を支配していることa “wealthification” of politicsである。アメリカでは0.01%の富裕層が、政治献金の40%を行っている。また、少数の個人をスケープゴートにしても、アメリカ人の不幸は解決しない。すべての億万長者たちが同じわけではない。政治の縁故主義、レント・シーキング、規制の失敗によって富を得ている者は、むしろ市場を規制し、政治献金を制限するべきだ。

現代では、例外的な才能や成果によって莫大な資産を得る多くのケースがある。AmazonJeff Bezos, Microsoftの創業者Bill Gates, Michael Bloomberg Bloomberg LP)を悪者にするのは、企業家のもたらす富を邪魔する、非生産的な議論だ。アメリカでは、各産業の指導的企業が急速に入れ替わり、資本主義のエンジンが機能している。

もちろん、富裕層は正当な税負担を支払うべきだし、課税を逃れるビジネスを資産管理から排除するべきだ。そして、グローバリゼーションや技術革新の中で、ジェンダー、年齢、人種、地理、さまざまな差別・不平等の原因となり障壁を取り除くべきである。

億万長者の撲滅ではなく、新しい社会契約が必要だ。

NYT Nov. 16, 2019

Opportunity Zones — for Billionaires

By The Editorial Board

FT November 21, 2019

Managers are enriching themselves at shareholders’ expense

Ben Hunt


 マクロンのヨーロッパ構想

SPIEGEL ONLINE 11/15/2019

Paris Soloist

Macron Plays Fox in the EU Hen House

マクロンは、相談することなくEUの未来を構想し、同盟諸国を怒らせている。

The Guardian, Sat 16 Nov 2019

Europe is squeezed between a hungry China and surly US

Simon Tisdall

FT November 21, 2019

The rights and wrongs of Emmanuel Macron’s vision for Europe

Philip Stephens

マクロンは、NATOの崩壊について、悲観論が強すぎる。トランプの後、だれがアメリカ大統領になっても、ユーラシアにおける中国の台頭について、EUとの同盟を重視して対抗するはずだ。


 アルゼンチンかアベノミクスか

FP NOVEMBER 15, 2019

Trump Asks Tokyo to Quadruple Payments for U.S. Troops in Japan

BY LARA SELIGMAN, ROBBIE GRAMER

FT November 21, 2019

Abenomics provides a lesson for the rich world

エコノミストたちのジョークがあった。世界には4種類の経済がある。発展した経済、発展途上の経済、アルゼンチン、そして、日本だ。

しかし、発展した経済は今や日本と同じ問題に苦しんでいる。アベノミクスは成果を示した。国民所得に対する政府債務の割合が初めて安定した。「3本の矢」で、20年間の経済停滞とデフレーションを抜け出すことが目標であった。

デフレーションは世界的な現象であるから、アベノミクスの失敗とは言えない。アベノミクスの教訓は2つある。1.中央銀行の金融政策には、まだ拡大の余地がある。2.日本は、1人当たり所得水準を上昇させてきた。それは生産性の上昇による。そして、不平等の拡大を抑えた。

東京オリンピックで集まる豊かな諸国からの観光客は、日本を称賛し、共感するだろう。

FP NOVEMBER 20, 2019

India and Japan Eye the Dragon in the Room

BY AMAN THAKKER, ELLIOT SILVERBERG


 南米のカオス

FT November 16, 2019

Latin America faces a second ‘lost decade’

Michael Stott in London

「これは第2次世界大戦の光景に見えるが、サンティアゴの真ん中だ。」 ラテンアメリカでもっとも繁栄した都市の市長はそう言った。

ラテンアメリカの左派はピネラ大統領の経済政策の失敗を原因とみなして、このチリ大衆による革命を称賛した。しかし、ボリビアでは、大衆の蜂起で左派の大統領がメキシコに亡命した。

エクアドル、ハイチ、ホンジュラス、ヴェネズエラでも暴動が起きた。ペルーの議会は解体され、ブラジルでは極右の大統領が権力を握っている。エルサルバドルでは反エスタブリシュメントの大統領候補が当選し、アルゼンチン大統領選挙でも現職が敗北した。

景気の悪化が原因である。この地域の実質成長率は、過去6年間、平均0.8%であった。2014年に、グローバルな商品ブームが終わったからだ。左派政権の多くは再分配に費やし、インフラや教育への十分な投資を怠った。不況になっても、競争力のある産業を持っていない。

チリは、不安定なラテンアメリカ経済の中では、オアシスのような国だった。経済は成長し、雇用や賃金が伸び、マクロ経済のバランスが維持されている。そうピネラ大統領が自慢したのは、暴動の10日前だった。

社会不安が波及したことは、かつてA.O.ハーシュマンが指摘した「トンネル効果」で説明できる。それは、渋滞の中で、周りの車が走り出すと、自分の車が下がっているように見える、という錯覚だ。そして人びとは不平等を、突然、我慢できなくなった。政治の腐敗、民主主義の失敗が深い原因である。

ソーシャル・メディアによる不満は、さまざまな人びとの自発的な抗議運動となっている。システムの何かかが間違っている、と、だれもが感じるけれど、だれも何を変えたらよいかわからない。

ラテンアメリカは社会が分裂しており、困難を克服する社会的結束や合意が見いだせない。先住民族、政治的階級、さまざまな矛盾した要求が混じり合って、選挙が正しい結果を出すことはない。

SPIEGEL ONLINE 11/19/2019

Anti-Government Protests

Democracy's Crisis of Faith Reaches South America

By Marian Blasberg and Jens Glüsing

南米の抗議デモ参加者たちの多くにとって、民主主義は安定や繁栄を約束するものではなかった。指導者たちは腐敗し、不平等はなお蔓延しており、だれも将来に向けた経済計画を示さない。

ボリビアのモラレスEvo Morales元大統領がメキシコに去った数日後、モラレスの与党のメンバーで、小都市の市長Patricia Arceの部屋が怒った群衆に襲撃された。彼らはArceの髪を切り、赤いスプレーをかけて、建物に放火した。暴徒はその後、Arceを裸足のまま街を歩かせ、まるで戦争捕虜のように、罵声を浴びせた。

それは恐ろしい、見るに堪えない光景だが、南米の現状を象徴している。

ボリビアでは人々が大統領選挙の操作に憤慨した。チリでは地下鉄運賃の引き上げが暴動につながった。エクアドルの大統領がガソリン補助金を削減すると発表した後、抗議デモが政府庁舎に放火した。

腐敗し、国民を無視したエリートたちに対する不満が表面化した。彼らは民主主義のルールや制度を無視して、権力の地位にとどまっていた。社会を分断する不平等に、怒りが高まった。「もう十分だ。こんなことは続けられないぞ。」

抗議デモは1つのサイクルの終わりである。南米は、世界的な資源ブームのおかげで、比較的安定した20年を経験した。Bolivia, Brazil, Ecuador and Venezuelaの左派政権は、輸出収入によって、寛大な社会給付を行った。貧困は減少し、多くの新しい中産階級が現れた。グローバリゼーションが、新しいアイデンティティーと新しい期待を生んだ。それは今や、ブームの退潮とともに、社会的衰退への不安に変わっている。

「社会的不満」が国境を越えて膨張している。不安定な職に頼る貧困層が今も多い。他方で、少数の、ますます繁栄する富裕層は危機を免れ、ぜいたくな暮らしを続けている。彼らの住宅は民間の警備員が守り、子供たちは私立学校や私立大学へ行き、病気になれば私立の病院へ行く。

人びとは、富があまりにも不平等に分配されている、という意識を強めている。人びとは選挙による代表との間に疎外感を持つ。国家機関や政党への信頼は、劇的に低下した。政党は、政治家が公金を利用するための汚職を促している。こうした罪を罰することができない裁判所も、信頼を失った。

権力者たちは、民主主義を利用できる限り維持する。社会の分断が深まれば、教会が旧来のイデオロギーを繰り返すことで支持され、政治は右傾化する。ブラジルのボルソナーロJair Bolsonaroは演説で、自分を、際限なく汚職を繰り返す政治家たちへの対抗策として示した。また、ボリビアのカマチョLuis Fernando Camachoは、舌鋒鋭い弁護士で、右派市民の混成型委員会を基盤にしている。

ボルソナーロとカマチョは、新しい現象である。ソーシャル・メディア、フェイク・ニュース、ヘイトを煽るキャンペーンで大衆を動員した。しかし、新しいポピュリストたちには重要なことが欠けている。脆弱な経済モデルをどのように改革するか、その計画がない。彼らはトランプのミニチュアだ。


 トランプの基盤

NYT Nov. 16, 2019

Trump Isn’t the First President to Make War on the Federal Reserve

By Amity Shlaes

FT November 21, 2019

Why US farmers are falling out of love with Donald Trump

Gregory Meyer in Sioux Center, Iowa

トランプ政権の支持基盤は、コーン・ベルトと油田地帯との利害対立を抱えている。トウモロコシをバイオ燃料にする政策が後退したために、コーン・ベルトの農家やバイオ企業が苦しんでいる。

農民たちは、米中貿易戦争による輸出の減少に不満を強めている。

環境保護政策の後退も、エネルギー政策に影響している。


 政治広告

NYT Nov. 16, 2019

Four Ways to Fix Social Media’s Political Ads Problem — Without Banning Them

By Daniel Kreiss and Matt Perault


 内政干渉と選挙監視

FP NOVEMBER 17, 2019

If the United States Doesn’t Make The Rules, China Will

BY ABRAHAM NEWMAN, DANIEL NEXON

国内市場規模を利用して他国への交渉圧力にする、基準・ルールを強要する、新しい通商政策の時代が始まっている。特に、中国とアメリカがそうだ。

ヒューストン・ロケッツのジェネラル・マネージャーが香港の民主化デモに応援のメッセージをツイッターに書いたとき、NBAが開拓した推定5億人のバスケットボールのファンを失い、中国のパートナー企業であるTencentとその15億ドルのNBAの試合を運営・放送することへの投資を失う危険を考えていなかった。

中国市場の規模はすでにアメリカに追いつき、すぐに抜くだろうが、それでも、約5.5兆ドルのアメリカ市場は十分に魅力的である。しかし、アメリカ政府はこれを、政策目標に応じて、効果的に利用していない。特に、進歩派の勢力は、アメリカ市場を他国の経済政策を転換させるために利用する意思を持っている。

「左右の政策集団が、保護主義と孤立主義の周りに集まっている。」 Daniel Dreznerは「ウォレンの通商政策はトランプ以上に保護主義的なものになるだろう」と考える。

しかし、その政策のイデオロギーには違いがある。トランプが特定の利害ある産業や企業の利益を重視することに対して、民主党大統領候補者たちは、アメリカの労働者を保護し、海外の労働条件を改善することに向けて、このアプローチを重視する。「グローバリゼーションは消え去ることはない。われわれは都市の労働者たちがグローバリゼーションの犠牲者ではなく、重要な役割を果たす政策を主張しなければならない。

FT November 21, 2019

How foreign intervention can save US democracy

Simon Kuper

「内戦をどうやって止めるか?

アメリカについて私は考えた。国際社会がアメリカ大統領選挙に介入するべきだ。もちろん、アメリカ人に自決権はあるが、最優先されるべきは、アメリカの民主主義を守ることだ。

政治的暴力のリスクは評価がむつかしい。モンタナ州の選挙では、対立候補がテレビの広告でライフルを発射した。アフガニスタンの軍閥のようだ。

より穏健に見えるが、UKも監視する必要がある。アメリカ人のように、イギリス人も政治的意見をアイデンティティーとみなし、反対派を裏切者と呼ぶ。

英米両国は選挙の勝者にすべてを与えて決める気だが、それは良い結果をめったにもたらさない。現在はOxfordの講師である、元イエメン政府閣僚のRafat Al-Akhaliは、国民対話の諸外国の経験をUSUKに移転すべきだ、と考える。

ワシントンは紛争諸国に予定表を決める。しかし、2大勢力による選挙は分断を悪化させる。最初の目標は、権力の共有だ。対立するすべての勢力を含む、移行のための政権を組織する。

次は、アフガニスタンのロヤ・ジルカ、大集会、国民対話のスタートだ。

真実が死んだ英米で、南アフリカのような「真実と和解のための委員会」は機能しない。アメリカはトランプの弾劾をやめて、彼が友好国に亡命することを許すべきだろう。ウクライナの親ロシア派、元大統領Yanukovichがロシアに亡命したように。

国民会議は新憲法を決める。UKが先だ。日本の法律家たちが、アメリカ人の書いた1947年の憲法に感謝したように、UKの憲法草案を助ける。アメリカの新憲法は、大統領の汚職や司法への介入を、弾劾理由として明確に規定する。

新憲法は、勝者が全てを決めるより連立政権を促し、外国による選挙介入に厳格に対処する。選挙は詳細に監視されるだろう。アメリカは他国の選挙が「自由かつ公平」であることを特に好むから、アメリカの選挙を監視することにも原則として反対しないはずだ。

しかし、楽観は禁物だ。介入は、アメリカのエスニック、経済、地域をめぐる対立の凍結が精いっぱいである。国際社会は、アメリカの民主主義のために、犠牲者や財源を負担するだろうか?


(後半へ続く)