前半から続く)


l  ドル体制の行方

FT October 8, 2012

The dollar’s days as reserve currency are numbered

By Barry Eichengreen

IMFと世界銀行が世界経済の成長見通しに関する警告を強める中で,世界中の中央銀行が市場に流動性の洪水をもたらしているとき,その不足を心配するのは奇妙なことに見えるだろう.しかし,まさに流動性の危機は迫っており,何もしなければ,我々が今見ているような21世紀のグローバリゼーションを脅かすだろう.

グローバルな貿易と金融のシステムは,低コストで売買でき,その価値が変わらないと期待できる,同質的な資産の潤沢な供給によって円滑化する必要がある.この半世紀の間は,アメリカの財務省証券(短期・長期国債)がその役割を果たしてきた.その安全性と流動性の特異な組み合わせにより,グローバルな銀行の資金調達・運用に利用されたのだ.

しかし,新興市場の成長につれて,アメリカの経済規模は不可避的に世界GDPのより小さな割合でしかなくなる.それゆえ,安全で流動的な資産を供給する能力がグローバルな取引の増大に追い付かない.アメリカの財政危機に関する国内政治はそのリスクをさらに高める.アメリカ政府の返済能力が(一時的でも)疑わしいとなれば,投資家の信頼が失われ,銀行が市場で資金調達するための安定した担保にならない.それは国際的な準備資産にも不適当になる.商品取引の仲介手段としての利便性も失うだろう.

国際流動性の不足が深刻になれば,国際取引のコストが増大し,グローバリゼーションが終わる.国際準備なしに安定化のための介入を行う政府・中央銀行の不便さは,こうした取引の自由を制限することに向かうだろう.

アメリカに代わって,安全で流動的な資産を供給することができるのは,経済規模から見て,ユーロ圏か中国である.しかし,ユーロ圏は現在の危機の影響が深刻であり,中国の通貨・人民元はまだ流動的な債券市場の発達が見られない.それ以上に,歴史上,すべての準備通貨は,政治的に民主主義国の通貨であった.民主制の下で,指導部はチェック・アンド・バランスに従う.それは,海外も含めて,投資家たちに資産収容から守られると確信させる.中国の一党支配体制が,この問題を解決したとは思えない.

民間部門の優良債券を国際準備として支持する意見もあるが,統一した規格を欠く証券ではリスク評価が難しく,多くのコストがかかる.他方,IMFを強化してSDRの供給を増やし,特に重要なことは,アメリカ連銀がドルの流動性(債券)とSDRとの交換を認めなければならない.そのような権限をアメリカ議会が連銀に承認することは考えられない.

唯一の解決策は,アメリカ,ヨーロッパ,中国が,この役割を分担することである.そのため,彼らの公的証券を投資家たちが信頼する措置を取るべきだ.いかなる場合も,その解決策は経済的であると同時に,政治的なものである.

FP NOVEMBER 2012

The Currency of Power

BY ROBERT ZOELLICK

アメリカが直面する最大の安全保障上の脅威は,アメリカ政府の債務累積である,とアメリカ統合幕僚長Mike Mullenは指摘した.アメリカの初代財務長官Alexander Hamiltonは,新生国家が信用を重視し,その強さと安全保障の手段とするよう求めた.

ところが,選挙の年である今,人々は経済問題を外交政策と切り離し,無視している.アメリカの安全保障政策は,なぜ二つを切り離してしまったのか? 最悪なのは,経済問題を重視すると言えば,国内問題に集中して,孤立主義に戻ることを意味することだ.そしてエコノミストたちは,数学モデルと,量的緩和策と刺激策との論争に没頭して,全く別の宇宙に住んでいる.

この分離はアメリカの最初の150年に築かれた外交政策の伝統からは,大きく離れた位置にある.すなわち,重商主義の支配的な世界で「貿易の自由」を求め,北米における領土を拡大し,その際,高い信用を利用してルイジアナをはじめ各地を購入した.西半球の統合化は,今もNAFTAをはじめ,各地のFTAによって進められている.アメリカ国民は伝統的に帝国主義を支持せず,「門戸開放」政策や,「文明」あるいは「諸価値」の輸出を支持してきた.そして,国際法や「ドル外交」と呼ばれるような経済的利益と安全保障を結ぶ,ルールに依拠した国際システムを目指した.しかし,大恐慌においては,アメリカがスムート=ホーレー関税法で世界経済から後退する姿勢を示し,世界経済会議にも参加せず,孤立主義に回帰した.

冷戦における安全保障の重視に始まり,国際政治経済学(特にRobert Keohane and Joseph Nye)が,ようやく1970年代に,アメリカ外交政策の伝統を回復した.強烈な個人(サッチャーとレーガン)が複雑な政治経済関係の頂点から,大きな影響を与える.経済学の視点から国際安全保障を見直す,新しい関係が整理されてきた.

アメリカはその予算に規律を与え,信用を回復しなければならない.そのためにも,長期の経済成長に必要なファンダメンタルズの改善を目指すべきだ.民間部門の技術革新と生産性上昇が必要だ.Charles Kindlebergerが,その古典的研究で述べたように,ある一つの大国が国際経済システムを支持し,貿易,資本移動,通貨の市場を健全に保つべきだ.もし今,アメリカがそうしなければ,他のどの国にそれができるだろうか?

WSJ October 8, 2012

An Agenda for the Bretton Woods Twins

By CURTIS S. CHIN

Project Syndicate 09 October 2012

The Renminbi Challenge

Barry Eichengreen

先月,中国は初めて空母を就航させ,南シナ海におけるアメリカへの圧力を強めた.また通貨の国際化を進めることで,アメリカ・ドルの国際通貨の地位に挑戦している.

人民元の国際化は,中国政府によって慎重に進められてきた.まず,中国企業が国際取引の決済に人民元を使うことを許した.その結果,中国に輸出する外国企業は人民元を受け取るようになった.それは香港の銀行口座に蓄積された.次に,中国への投資を望む外国企業に,人民元建の債券の購入を許した.また,適格と見なした外国金融機関が中国の銀行間債券市場に投資することを認めた.

そして,この夏,香港の銀行がShenzhen深圳の企業に融資することができるようになった.それがうまく行けば,次第に他の都市にも拡大するだろう.最後に,人民元を国際準備通貨にするため,中国は各国(フィリピン,韓国,日本,オーストラリア)とスワップを合意した.また,すでにいくつかの国(マレーシア,ナイジェリア,チリ)では人民元を外貨準備の一部として採用している.

中国の挑戦が成功するかどうかは,次の4つの問題にかかっている.

1.流動性の高い金融市場を育てられるか? アメリカ財務省証券の市場は非常に流動性が高いから,各国は準備通貨として採用している.

2.資本勘定の自由化をどのように円滑に実現できるか? 急激な資本自由化の後,金融危機を起こした例は歴史上に多く存在している.

3.中国は経済の減速をどのようにうまく管理できるか? もしハード・ランディングになれば,社会不安が高まり,国際化へ積み上げた成果も失われる.

4.最後に,中国の政治システムが人民元国際化の障害になるかもしれない.民主的な選挙によって政府を決める国は,深く流動的な金融市場を築く,という約束を守るだろう.また資産を収容せず,国内投資家の権利を守り,それが外国投資家によっても信用されるだろう.

中国でも指導部の交代が行われ,人民代表大会は儀式から実質的なものに変化しつつある.インターネットの影響で,他の分野では透明性が高まり,政策担当者の行動に労働や環境に関する基準が求められるようになった.債権者の権利も,重視されるのではないか?

人民元が国際化する前に,「中国の春」が必要だ,という意味ではない.しかし,議会の権限はもっと強化され,透明な,ルールに依拠した官僚制度が,通貨秩序を担うようになる.

2012-10-09 (China Daily)

Does China need to buy more gold?

By Zhang Zhouxiang

FP OCTOBER 10, 2012

Losing at the IMF

BY DOUGLAS REDIKER

IMFの役割はますます重要になっているが,アメリカはIMFにおける利影響力をますます失っている.

IMFのガバナンス ・・・オバマ政権は,2010年に,IMFのガバナンスを改革することを提案した.しかし,これはヨーロッパの過剰な代表権を減らす要求であり,その抑制された改革案では,ヨーロッパからの反発も,新興諸国からの不満解消も,できなかった.

IMFの資源 ・・・特に,アメリカ議会ではIMFの増資どころか,脱退を求める意見が強かった.ラガルド専務理事が融資枠の拡大を求めたときも,アメリカは参加しなかった.それはアメリカの影響慮臆を大きく損なった.

IMFの役割 ・・・世界経済システムの重要な一部として,IMFは次第に融資よりも多角的サーベイランスを重視するようになってきた.潜在的なリスクとその波及の可能性を分析している.そしてアメリカは,G20における指導的な役割を介して,IMFに影響力を行使するはずだった.そのG20が金融危機後の指導力を失うとともに,アメリカも影響力を失った.


l  ベネズエラ大統領選挙

FT October 8, 2012

Chávez’s challenge

FP OCTOBER 8, 2012

Venezuela's Next Inning

BY MICHAEL SHIFTER

カプリレスCaprilesはチャベスが貧困層に対する支援を行ったことを称えたうえで,この国の劣悪なガバナンスに対して批判を絞った.

FT October 9, 2012

Goliath wins, but Venezuela is at a turning point

By Moisés Naím

チャベスは勝利した.イデオロギー的で,有権者を分断する戦略を駆使した.しかし,カプリレスは国民の調和や,対立候補への寛容,プラグマティズムを説いて,チャベスの圧倒的な支持層であった貧しい人々からも支持されて,650万人の票を得た.

チャベスに勝利することは難しい.なぜなら,彼は石油の富と国家の官僚機構を意のままに利用できるからだ.それはロシアのプーチンについても言えることだ.たとえば,投票前の1週間で,チャベスが放送されたのは9時間あったが,カプリレスはその抗議によってもわずか2分間であった.

しかし,チャベスの権力は衰退していくだろう.選挙の後にも重要なテストが待っている.12月の地方選挙だ.また,チャベスがこれまで解決できなかったベネズエラ経済の悪化は選挙後も続く.インフレ高進,世界最高水準の自殺率,インフラの破損,石油生産の減少,大幅にゆがんだ経済,低い生産性,汚職.

国際関係においてもチャベスの影響力は失われ,何よりもチャベス自身の健康問題が深刻である.


SPIEGEL ONLINE 10/08/2012

The Inflation Monster

How Monetary Policy Threatens Savings

By Ferdinand Dyck, Martin Hesse and Alexander Jung


l  世界金融危機の勝者

FP NOVEMBER 2012

Capitalism

BY SLAVOJ ZIZEK

強欲で,規制されない資本主義がもたらした危機は,世界経済の基本的な性格を変えるだろう,と思うのは間違いだ.

確かに,反資本主義の気分は世界中に広まっているし,そのような主張の本も多く出版されたが,こうした批判にできることは知れている.民主的な監視,議会による調査,メディアの追究,などで資本主義の行き過ぎを抑えるのだ.しかし,ブルジョア国家の法律が疑われるわけではない.資本主義システムこそ,こうした批判者たちの牝牛であるから.

危機の最大の政治的影響とは,過激な左派が誕生することではなく,人種差別的なポピュリズム,多くの戦争,第三世界の最も貧しい諸国がさらに貧しくなること,貧富の格差拡大,である.危機の最初の反応は,革命ではなくパニックであり,人々は食糧と安全を求める.支配的なイデオロギーの基礎が疑われることはない.

もし資本主義の条件がさらに強まっていることに気付くなら,この100年間に生きた人々の中で誰の銅像を建てるべきか? それは,リー・クアンユーだろう.彼は「アジア的価値」という名目で資本主義と権威主義体制とを結びつけ,強烈な資本主義を動かした.その影響は世界中に及び,中国の高成長でも顕著である.

危機の犠牲者は資本主義ではない.それはむしろ左派であり,民主主義だ.資本主義の欠陥を正す唯一の解決策とは,一層の資本主義である.

FP NOVEMBER 2012

Extremists

BY J.M. BERGER

FP NOVEMBER 2012

Declinist Pundits

BY JOSEPH S. NYE

FP NOVEMBER 2012

The Ultra-Rich

BY MICHAEL LIND


l  EUにおける主権とは何か?

Project Syndicate 08 October 2012

The Truth About Sovereignty

Dani Rodrik

たとえば財政に関する新しい条約をめぐるフランス議会の論争に見られるように,主権について譲らない姿勢はEUの統合化を誤解している.

誰でも主権を譲歩することは嫌うものだが,左派の政治家に強いようだ.しかし,ユーロ圏が機能するには各国が主権を部分的に譲渡しなければならないのに,それを否定する政治指導者たちの主張は政治のヨーロッパ化を遅らせ,危機を悪化させて経済コストを増やしている.

ヨーロッパの完全な経済統合は取引コストの撤廃を目指すのであるから,各国は貿易や資本移動の制限を撤廃するだけでなく,もっと間接的な規制も国家を超えて調和させる必要がある.そのために各国のルールや規制は制限されるのだ.

要するに,ヨーロッパの統合とは主権の制限に依拠している.それはアメリカを観ればわかるように,フロリダの経常収支(それは膨大であろうが)を気にする者などいない.フロリダの州政府が破たんしても,銀行が破たんしても,連邦法により連邦制度が処理するし,フロリダの失業者には連邦財政から失業手当が支給される.フロリダの有権者は経済状態に不満なら州政府にではなく,アメリカ議会の代表に圧力をかける.

主権と民主主義の関係は誤解されている.「民主的な代表」という考え方が重要であり,主権は成果を高めるために自分で手を縛ることがある.例えば金融政策の実行だ.政治から切り離して,中央銀行に委ねる方が優れた成果を上げられる.それは,少数の,高度に複雑な,技術的問題領域に限られるだろう.

また,主権を失うことは,民主主義を失うことではない.グローバリゼーションに対応して,市場統合と民主主義とを組み合わせるには,各国は超国家的な政治制度を築いて,それによる民主的な代表制に移る必要がある.そこでは代表が説明責任を果たす.

われわれは政治的なトリレンマを逃れられない.すなわち,グローバリゼーション,民主主義,各国の主権,は同時に実現できない.もし民主主義を守るなら,グローバリゼーションと主権(政治同盟と経済の分断化)は選択しなければならない.国家を超えて民主的な空間を築くのか? あるいは,各国通貨と財政刺激策を実行するために通貨統合を放棄するのか?


l  パキスタンの少女

guardian.co.uk, Wednesday 10 October 2012

Malala Yousafzai: a young Pakistani heroine

Halima Mansoor

NYT October 10, 2012

Her ‘Crime’ Was Loving Schools

By NICHOLAS D. KRISTOF

タリバンは,2度,マララMalala Yousafzaiの家に脅迫状を入れた.パキスタンの14歳の少女が,世界で最も説得的な形で,少女たちへの教育を訴えたからだ.それを止めないと殺すぞ.

彼女はこれを拒んで,少女たちが教育を受けられるように支援基金も始めた.火曜日,武装した男たちが彼女のスクールバスに近寄り,彼女の名を呼んだ.そして,彼女の頭と首を撃った.

タリバンの幹部は,事件後に声明を出した.これを教訓とせよ.彼女が生き延びたら,タリバンが再び殺しに行く.

マララが銃撃された前日,はるか遠くのインドネシアで,教育を求めていた別の14歳の少女が不幸にあった.セックス・トラフィッカー(売春のための人身売買業者)がFacebookで少女に近づき,彼女を監禁して,1週間にわたってレイプした.地方紙が彼女の失踪を伝えてから,解放された.

彼女の中学校は大騒ぎになった.そして,学校のイメージを傷つけた,という理由で,彼女は生徒たちの前で,放校処分になった.レイプされたから.

木曜日は,最初の「国際少女の日」であった.彼女たちは我々に,世界が性の平等を求める激しい戦いの中にあることを思い出させる.それは,19世紀の奴隷解放運動,20世紀の全体主義からの解放,に等しい.

アメリカでは,こうした野蛮な行為は遠い土地の話として忘れてしまうが,売春のための人身売買が自分たちの町にもあることを人々は無視している.アメリカ中で,10代の少女たちはインターネット上に写真を示し,人身売買の対象になっている.しかも彼女たちは,学校を追い出されるどころか,警察に逮捕されるのだ.

マララは,政治家になりたい,と医師たちに語った.彼女が理想とするオバマのような.そして,少女たちが教育を受ける大義を実現したい,と.タリバンは良く理解していた.パキスタンンの武装した過激派にとって,最大の脅威はアメリカのドローンではない.教育を受けた少女たちである.

「これは単にマララの戦争ではない」と,ペシャワールの19歳の女性は語った.「二つのイデオロギーの間の戦争だ.教育の光と,暗黒が戦っている.」

パキスタンへの軍事援助の10分の1にも満たない教育支援しかしないアメリカ政府は,それを理解しているか?

NYT October 10, 2012

Malala Yousafzai’s Courage

WP October 11, 2012

A girl’s courage challenges us to act

By Laura Bush


l  アイスランド

WSJ October 9, 2012

Fishing for Trouble in Iceland

By BRIAN M. CARNEY


l  中国HuaweiXi Jinping

guardian.co.uk, Wednesday 10 October 2012

Huawei and the China difference

Isabel Hilton

FT October 10, 2012

Too late for America to eliminate Huawei

By John Gapper

中国のHuaweiは世界の通信市場で20%のシェアを持つ.しかし,アメリカはHuaweiの通信インフラへの参入を阻止した.企業による産業技術やデータの盗用,サイバー攻撃,などに利用される懸念を安全保障上の脅威と見なすからだ.Huaweiには共産党が企業幹部を指名し,人民解放軍の影響もある,と考えている.また,アメリカの通信インフラは2社の独占状態であるから,Huaweiの低価格競争を恐れている.

しかし,Huaweiを市場から締め出すことはアメリカの利益ではないし,世界市場における拡大は阻止できない.Huaweiの技術や中国の生産拠点は,シリコンバレーやアメリカ企業の多くも依存している.安全保障を重視するとしても,イギリスなどのように,Huaweiへの懸念を解消する他の仕組みを考える方が良い.

FT October 11, 2012

High-stakes choices for China’s leaders

By Philip Stephens

アメリカと中国の指導者が後退する時期が重なるのは偶然であるが,この二人が国際秩序の将来に重大な影響を与えることは間違いない.しかし,だからこそ中国の政治システムや指導者について,西側はほとんど何も知らない,ということが重大になる.


l  アイルランド偶像破壊

FT October 11, 2012

Ireland: A fallen idol

By Jamie Smyth

かつてアイルランドで最も裕福な企業家であった人物,Sean Quinnの,不動産に関わる裁判が行われている.

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The Economist August 18th 2012

In search of a dream

Special report India: Aim higher

Japanese politics: Aberration

Cambodia’s economy: Not a complete stitch-up

Banyan: Fighting monsters

The next crisis: Sponging boomers

(コメント) インド経済の成長が減速したことについて,特集記事はインドに一層の改革を促します.しかし,シン首相は高齢で,しかも学者もしくは官僚的体質であるから改革の指導力に賭け,ガンディー=ネルー王朝に過ぎない国民会議派は州政府を支配する地方政党や指導者に追いやられている.アメリカに匹敵する潜在力を持っていたインドが,今ないこれほど貧しいのは,まさに「ガバナンス」の劣悪さによるものだ,と主張しています.地方から中央へと,新興企業家や新しい世代の政治家によって,ガバナンスの革新が波及するかもしれません.

日本については,安倍晋三の復活や危険な主張をふりまく橋下徹の高い人気に,記事はショックを受け,大いに失望していると思います.Banyanは,世界各地で「非政治的な」政治指導者に期待する人々が増えていることを,矛盾した願い,と描きます.

他方,カンボジアが成功した,輸出アパレル産業の急速な成長に関する記事に,多くの関心を刺激されました.欧米日では,ベビーブーマー世代が享受した繁栄が消滅し,今や,その引退によって若者たちが担うマイナスの遺産に関心は移っています.

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IPEの想像力 10/15/12

大学で新入生たちに「プレゼンテーション」や「ディベート」を教えるようになって,もう何年も経ちます.

私は,その重要性や必要を認めながら,しかし,こうした技能を訓練することが苦手であり,決して好きになれませんでした.Moisés NaímIan Burumaの論説を読んで,その理由が少し分かりました.

確かに,テレビ時代の指導者であれば,話し方が明快で,表情に富み,外見の整った人物が,国民に語りかける方が良いでしょう.それは,優れた指導者が,演出家やカメラマン,演説原稿の書き手,さまざまな顧問たちによって作られる,ということでもあります.

有権者の側でも,私たちは,ますます広範囲に,互いに影響を与え合い,一つの選択が予想しないような形で他の選択を制約し,新しい選択を促すような世界に住んでいることを知っています.そのような現実に直面するとき,政府は,民主主義と,真理(デマゴーグ)と,優れた指導者(独裁者)とのトリレンマに閉じ込められる,と言えるでしょう.重要で複雑な選択ほど,説明することは難しく,科学的に証明できるものでもなくなります.

たとえば,誰がアメリカの大統領になるべきか? どのように大統領を決めるべきか? 同じ大統領選挙でも,アメリカ,韓国,ロシア,ベネズエラ,グルジア,では全く異なります.日本の首相が余りにも頻繁に交代し,その権力を改革のために行使するより,いつも党内対立や議会の審議拒否に苦しみ,困難な選択の末に,辞任する姿ばかり見ていると,むしろロシアや中国の指導者を理想と思う人が増えます.

本当に強い権力者にとっては,実現することが正しく,現実以外に真理というのは実体を失い,それは権力の効果を正当化する言葉に変わります.その結果,真理であると思わせるような話し方や態度,結果と関連付けられた多くの事実や虚偽のデータを集めて,(権力に都合の良い)真理の見せかけが構成されます.

だから私たちは,逆説的な形で,真理を教えるようになりました.経済学を学ぶのはエコノミストたちに騙されないためであり,統計学を学ぶのは統計的な嘘を見抜くためである,と.

そうであれば,大学では,理想,を基準として教えてはどうでしょうか? そして,善意もまた,共有されなければ生き残れません.現実を改善するために権力を行使するからこそ,私たちは政府を支持します.政府は国民に理想を説き,国民の善意を育てます.

理想や互いの善意を信じることができる人々の間では,権力のトリレンマが解決されます.

正しい意味で,真理は冷たく,外面的で,客観性,普遍性,再現性,法則性,などが強調されます.しかし,善意は暖かく,内在的で,個性的な,人格的な,信頼関係や,偶発的な幸運と不運を分かち合う.真理と違って善意は,仲間への労りの気持ちであり,不当な苦しみに同情し,それを何かの形で改善する能力を高め,正しい心や勇気と一緒に生じます.

それを手段としてだけ見るなら,「プレゼンテーション」や「ディベート」は,そもそも論争を導くのがイデオロギーであることを無視し,たとえ虚偽であっても,それを真理として見せる技能です.真理の見せかけを,正しい,と思うのが当然であるかのような前提で行われる,政治的真理のための「美人コンテスト」なのです.

しかし,何のためのディベートなのか? 何のために,あなたは政治家になったのか? 自分の中にある,本物のガッツを示せないなら,練習が優れた政治を生み出すことはないでしょう.

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映画「アルジェの戦い」を学生たちと観ながら,爆弾テロによる双方の犠牲者を描く映像と音楽に感銘を受けました.テロは卑怯だ,というフランス人記者に,われわれに戦闘機があれば戦争する,武器も持たない人民をナパーム弾で焼き殺すのは卑怯ではないのか,と解放戦線の指導者が応じました.

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サイボーグ009,の新作映画を観る前に,わずか50円で映像倉庫から借りてきたDVDの,主題歌を聴いて,哀切なメロディーと激しい歌詞に驚きました.

「吹きすさぶ風がよく似合う. 9人の戦鬼と人のいう.

だが我々は 愛のため, 戦い忘れた 人のため,

・・・涙で渡る 血の大河

・・・夢見て走る 死の荒野」

帰宅して夕食時にテレビで観た番組は,ハンバーガーのチャンピオンシップ,でした.飽食と饒舌.これほどわずかな時間で,私たちは尖閣諸島や大震災も忘れてしまうのでしょうか?

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