l 消費者と投資家の強欲
FT January 16, 2012
Insatiable consumers are undermining democracy
Robert Reich
グローバル金融,企業幹部の高報酬,そして資本主義の危機を責めるのは簡単だ.しかし,問題はそれで終わらない.危機の一番深いレベルでは,「消費者」と「投資家」が「労働者」と「市民」に対して勝利したのだ.われわれはこれら4つの役割を果たしているが,危機が示したのは,消費者と投資家が効率性の改善を求め,労働者や市民の声にこたえる能力を失っていく,ということだ.
近代的な技術は,ますます安価な商品を求める消費者,ますます多くの利潤を求める投資家に,世界的な規模で,もっとも有利な条件を与えている.電信速さで取引を比較し,彼らの能力はかつてない水準に達している.
他方,こうした取引は犠牲を意味する.労働者は賃金を削られ,雇用が不安定になる.市民として認められないような,貧しい国での一日12時間の児童労働がますます利用され,環境に対する何の規制もない国で有利な工場が多く建つ.その結果,われわれのコミュニティーは雇用を失い,死体してしまうのだ.その上,自分で運転する自動車は排気ガスをまき散らし,ジェット飛行機でビジネスや旅行をする便利さと楽しみは失いたくない.
たとえこうした結果を知ったとしても,それが我々の選択を変えることはない.なぜなら,自分が正しい「社会的に責任ある」選択をしても,何も変わらないとわかっているからだ.責任ある方法で生産した商品も売られているが,そのわずかな高い価格でさえ,支払う消費者はほとんどいない.
消費者と投資家の力を労働者と市民の力とバランスさせるもっとも良い方法は,民主的な制度が市場を規制し,制約することだ.法律とルールが,職場,賃金,コミュニティー,環境に,ある種の保護を与える.
しかし,技術は民主的な制度の能力を大幅に超えて進んでいる.国家の規制は国境を超えることができない.企業は規制のない国へ工場や雇用を移してしまう.さらに,企業の資金は政治に流れ込み,自分たちに都合の良い法律を作らせる.
安定した職場はなくなり,不平等が拡大し,コミュニティーは破壊され,気候変動は加速する.その背後には,われわれの,消費者や投資家として,満たされることのない欲望があるのだ.
FT January 16, 2012
Fighting the Front
自然は真空を嫌う,というが,フランスの極右はそれが大好きだ.フランス政治の右も左も,明確なビジョンや断固とした指導者がいない.その結果,春の大統領選挙は,ポピュリストで排外主義のナショナル・フロント,ル・ペン党首に大きな可能性を与えている.
反ユダヤの戯画的な過激集団であるとイメージを変えて,ル・ペンはその経済政策に,ユーロ離脱,成長戦略,紙幣増刷による政府債務解消,を掲げた.しかし本質は変わらない.不寛容,無責任,危険なほどに保護主義的だ.
l 中印米の安定化同盟
Project Syndicate 2012-01-16
Asia’s Energy, Asia’s Security
Sanjaya Baru
中国の温家宝首相は,エネルギー安全保障を得るためにサウジアラビア,アラブ首長国連邦,カタールを訪問し,中東の安全保障にも重要な役割を果たすことを明確にした.中国首相の中東歴訪は,アメリカがイランの石油輸出に対する制裁を発表したときであり,アメリカが中東からインド洋・太平洋に安全保障の重心を移すと表明したことに重ねて考えるべきだろう.
中国にとっても,インドにとっても,中東地域はエネルギー供給の最重要地域である.中国は中東に大量の工業製品を供給しているが,インドは大量の労働者を供給し,中東地域からインドへの移民送金は,インド人の海外からの送金額600億ドルのほぼ半分を占める.
アメリカも中国もインドも,単独では不可能であるが,中東地域に重要な役割を果たし,三極間の関係を築いて中東の平和を維持するだろう.
l 資本主義の未来
FT January 16, 2012
Capitalism in crisis: Perilous path to prosperity
By David Pilling
ヨーロッパの指導者たちが中国の救済融資を頼むとは思えない.中国の指導者がアメリカ政府の経済運営の失敗を改めるよう命じるとも思えない.
しかし,世界は急速に変化している.欧米の衰退に伴い,アジアの経済的な重要性は急速に増している.日本を除くアジア地域の成長率は2012年も7%前後だろう.
欧米の経済運営は信用を失った.ただし,アジアにも欧米の資本主義に変わるモデルはない.
FT January 17, 2012
A real market economy ensures that greed is good
By John Kay
強欲は,北朝鮮にも,アメリカにもある.両者の違いは,それをどのようにして満たそうとするかである.他者の富を奪うのではなく,新しい富を創りだす方がよい.
FT January 18, 2012
Self-interest, without morals, leads to capitalism’s self-destruction
Jeffrey Sachs
「見えざる手」が機能しないときがある.1.自然独占,外部性,公共財,情報の非対称性.2.極端な不平等.3.将来世代の収奪.4.心理的な枠組みの壊れやすさ.
それゆえ,資本主義システムが機能するには,道徳的な基礎が必要だ.マックス・ウェーバー(資本主義の誕生期について)もケインズ(19世紀の世界資本主義について)も,それを理解していた.
われわれが政治を金で支配し,市場が大きく環境を破壊し,無慈悲な欲望で個人の選択を翻弄するなら,究極的な矛盾に至る.技術的には繁栄できるのに,繁栄が自己破壊的になる.
FT January 19, 2012
Too Big to Fail undermines the free market faith
By Otmar Issing
「ベルリンの壁が崩壊し,鉄のカーテンもなくなった.歴史的な競争は終わったのだ.資本主義が共産主義に勝利し,市場経済が計画経済に勝利し,民主主義が独裁者に勝利した.」・・・歴史は終わった,とF・フクヤマは言った.人類はこれ以上の状態を実現できないのだから.
これはばかげたドクトリンだ.歴史は,たとえどのような社会主義の約束した平等は,その試みが経験的に失敗だったと示しても,魅力を失うことなどないと教えている.資本主義システムがすべての点で受け入れられた国などどこにもない.
冷戦後も,社会を組織する様々な方法の間で,競争は永久に続いていた.社会主義が大きく後退したために,今回の金融危機でもウォール街占拠運動のような小規模の反対しか起きなかった.しかし,そのもっとも重要な要素とは,金融産業への批判である.
金融機関を救済するための介入は大規模なものであり,それは金融部門が社会を,正確には納税者を,その人質にとったという意味である.政治家たちはシステムを安定化するために介入した,という.この「大き過ぎて潰せない」という主張は,自由市場の基礎を破壊する.
なぜなら自由市場とは,所有権と法律によって制約されるだけで,個人がすべてを決定できるシステムであるからだ.自由に機械を見出し,自由にリスクを評価し,個人はその投資によって得た利益をすべて自分のものにできる.もし結果として損失が生じたら,それは個人で支払い,その最大の制裁は破産である.破産のない自由市場はない.
もし金融機関だけ救済されるのであれば,それはどこまで社会の利益になる活動であるか,示す必要がある.社会にどうしても必要である金融だから許され,救済もされるが,そうでない分野には規制が課せられる.そのうえ,自己資本,透明性,など,様々な金融産業への改善策を社会は求めてきた.誰にも歴史が終わるときなど来ないのだ.
l 欧米金融危機の誕生
FP January 17, 2012
How China's Boom Caused the Financial Crisis
BY HELEEN MEES
2008年の金融危機以来、ウォール街は世界不況の罪でいつまでも鞭打たれている。サブプライム・モーゲージ、金融規制の失敗、格付け会社、ユーロ圏に入った政府の失敗、・・・・
しかし、こうした話は欧米を襲った双子の金融危機に関する基本的事実を見落としている。たとえば、2000年から2006年に、アメリカで発行されたモーゲージに占めるサブプライム・モーゲージの割合は5%でしかない。それが住宅ブームを破壊したとは思えない。また、ユーロ危機についての説明でも、スペインやアイルランドは財政安定(成長)協定の優等生であった。
欧米の金融危機の直接的な原因は、規制の失敗ではなく、2000年はじめの急激な金利低下であった。アメリカの政治家たちが金利の低下を求めるいつもの過ちを犯した以上に、このときには中国がいた。この世界最大の人口を持つ国家が世界経済に登場したことで、世界の交易条件が変化しただけでなく、世界の資本市場も衝撃を受けて変化したのだ。
金融危機の起点である2000年、アメリカ連銀は金利を下げた。それはITバブルの破裂後に不況を回避するため、伝統的に使用される政策手段であった。6.5%から12月には1.75%、2003年6月に1%まで下がった。そしてインフレ期待や失業率から見て危険であっても、グリーンスパンはインフレやバブルの可能性を否定し、1年間もその水準を維持した。
低金利が最初にもたらしたのは、借り替えブーム、だった。アメリカ人は自分の住宅をATMsとして利用したのだ。住宅モーゲージの3分の2が借り替えられ、その額は2005年だけで7500億ドル、GDPの4%以上に達した。この行動を連銀は肯定的に評価していた。住宅ブームが逆転する危険について、まるで意識していなかった。
しかし、アメリカ人の大規模な支出によって成長を加速したのは、アメリカ経済ではなく、中国だった。この世界最大の人口を擁する国は、2000年に入って二桁の成長率を続けた。しかも中国の貯蓄率は、アメリカの15%に比べて、2000年に38%、2006年には54%にもなった。中国人は貯蓄を安全な資産に換えた。それは中国の金融市場が未発達なまま自由化もされていなかったために、アメリカの財務省証券に集まった。
中国や新興市場から多くの資金がアメリカの財務省証券に投資されたために、債券価格は上昇し、金利は低下した。2004年半ばから、連銀はようやくインフレを心配し始めたが、それは遅すぎた。金融政策を引き締めても、長期金利は異常な低水準を続けたのだ。
ヨーロッパのバブルは少し違う。共通通貨を導入したことで、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ポルトガル、スペインの金利は急激に下がった。こうした諸国の政府債権がドイツの債券と同じ金利を与えられたのだ。為替レートの変動リスクがなくなって、北欧の銀行がこうした債券を好んで購入したからだ。1990年代後半、13%程度であった金利が、2005年にはわずか3%に低下した。ここにも中国や新興市場の貯蓄が作用していた。
ユーロ圏周辺部の住宅市場は低金利によって変わった。住宅価格、消費、支出、そして賃金が上昇した。低金利で、ギリシャ政府は過剰債務を拡大し続けた。そして、住宅バブルがはじけると、銀行も投資家も、政府債券が安全な資産ではないことを知った。かつて金利が急低下したのと同じメカニズムで、ユーロ圏周辺における金利は急上昇した。投資家たちは周辺から中枢の政府債券へと資金を移したのだ。それゆえ、ドイツなどは周辺諸国への救済融資を低コストで行った。
ユーロ圏の失敗も、アメリカ金融政策と金融市場の失敗も、もし中国の台頭がなければ、これほど大きな影響を及ぼさなかったであろう。
もし中国が影響しなかったら、アメリカ連銀による2000年の金融緩和はもっと早く景気回復をもたらし、金融引き締めも早期に行えたであろう。そしてECBもそれに続いたはずだ。中国の製造業に需要を奪われて、欧米の成長回復は遅れ、より大きな・長期の金融緩和を必要とした。中国の影響がなければ、アメリカ連銀とECBはもっと早期にインフレを抑える行動を取ったであろう。さらに重要なことは、中国と新興市場からの資本流入が長期金利を低くしていた。
しかし、悪いことばかりではない。欧米の生活水準は低下したが、中国やインドの数億人が貧困を抜け出せた。新興市場の成長が、今後、世界経済を支えるだろう。アメリカ企業は中国市場での売り上げ増大に利益を見ている。中国経済が成熟し、成長のエンジンとなることで欧米は債務の山から脱け出せるのだ。
guardian.co.uk, Wednesday 18 January 2012
Alan Greenspan's ship of fools
Dean Baker
住宅バブルが頂点に達した2006年の公開市場委員会FOMCの記録が最近公開されたが、楽しくもあり、苦しくもある内容が豊富に見つかる。
Project Syndicate 2012-01-18
Does Austerity Promote Economic Growth?
Robert J. Shiller
Project Syndicate 2012-01-19
Repairing the Global Plumbing
Mohamed A. El-Erian
問題についての異なる解釈が存在するとき,対立はますますイデオロギー的になり,政治や政策は機能しなくなる.
l 危機に対抗する政策
Project Syndicate 2012-01-17
Southern Resilience
Paulo M. Levy
2008年の金融危機以降も,ラテンアメリカ経済の成長は安定している.1980年代,90年代と比べて,その経済運営は大きく改善されたと言える.しかし,さらに金融市場の浮動性や裕福な諸国の経済が悪化する中で,ラテンアメリカの経済政策は戦略を整えておくべきだ.
2012年も,金融市場は緩和され,中国やインドは成長を維持できるだろう.ラテンアメリカが成長する条件は存在する.各国政府は景気変動を抑える政策介入を意識的に行っている.特に,ブラジルは欧米の金融危機に対して,金融緩和と強く景気拡大的な財政政策を実施した.
しかし,インフレの高まりに直面して,金融政策は大きく逆転した.競争力を改善する改革や高成長を続けるための改革に一層取り組む必要がある.
WP January 19, 2012
The economic lessons the rest of the world could teach us
By Fareed Zakaria
共和党の候補者選考は何かが変だ.
ミット・ロムニー,前マサチューセッツ州知事に対して,共和党内から,企業を買収・解体して,雇用を流出させたプライヴェート・イクイティ成金だ,というような激しい攻撃が行われている.しかし,市場が優れた企業を育て,非効率な企業を退出させる,ということなら,共和党も支持していたはずだ.
アメリカ経済の問題は,IT投資や金融ビジネスがバブル後の不況に入り,とにかく雇用が回復しないことだ.他方,アメリカの賃金水準が低下し,輸出向け製造業部門の雇用が伸びている.輸送費の上昇もアウトソーシングを逆転させている.その上で,アメリカに投資が増えるためには政府が条件を整備しなければならない.インフラ,訓練,研究開発.外国政府は投資を誘致するために多くの優遇策を用意している.
ドイツは不況に対して効果的な政策を取ることに成功した.企業に対して長期的な思考を取るように促し,労働者を簡単に解雇するより,雇用し続けてその能力に投資するよう促した.世界には低賃金の未熟練労働者があふれている.豊かな国は労働者に投資して,その技術や能力を高め,優れた製品を作る必要がある.そのためにも長期的な成長と社会の安定性が重要だ.ドイツ型のシステムはグローバリゼーションに生き残る優位を示した.
雇用について共和党員に尋ねると,減税,規制緩和,政府部門の削減,という.それも重要だが,東アジアや北欧の成功した例から,もっと学ぶべきだ.
l ハンガリーの右傾化
guardian.co.uk, Tuesday 17 January 2012
Viktor Orbán has crushed Hungary's 1989 dream
Yudit Kiss
SPIEGEL ONLINE 01/17/2012
Nosedive in Budapest
The Political Origins of Hungary's Economic Crisis
By Clemens Höges
ハンガリーの危機は政治に発している.オルバンViktor Orbán首相は政治に対する幻滅によって支持された人物だが,彼自身とその特異な政策がハンガリーを支払い不能にしつつある.ナショナリストの右翼で,ハンガリーのプーチンを目指す.新憲法は彼に多くの権限を集中させている.「共和国」というのは,単に,公式名称にすぎない.気に入らない批判的ジャーナリストはすでに解雇された.裁判官の指名も支配した.年配の裁判官たちは早く引退させる.
EUもアメリカも警告を発したが,資金が枯渇することが最も効果的であった.IMFとEUからの旧債務の借り換えができなくなったのだ.
NYT January 18, 2012
Hungary’s Junk Democracy
By GYORGY KONRAD
1月2日,オルバン首相は警察官の一群に守られて,新しい基本法Basic Lawを憲法に代えた.多元的民主主義の共和国は終わったのだ.10万人が抗議デモをしたが国営放送は何も伝えない.
私の故郷は,ますます中央アジアにある旧ソ連の独裁国家のようになっていく.すでにオルバニスタンと呼ぶ者がいる.
FP Tuesday, January 17, 2012
No military option in Syria
Posted By Marc Lynch
l ミャンマーと北朝鮮
BLOOMBERG Jan 17, 2012
World’s Worst Government May Be Ready for Change
By William Pesek
ミャンマーの民主化と開放に向けた改革をアメリカ政府が支持したことは、北朝鮮の新指導者に影響を与えるかもしれない。
(翻訳あり) http://www.bloomberg.co.jp/news/123-LXZ5NV0D9L3501.html
FP JANUARY 19, 2012
The Last Kim of Pyongyang?
BY DANIEL M. KLIMAN
金正恩は難しい選択に直面している.このまま中国への依存を強めて保護領のように浸食されるのか? あるいは,ミャンマーがやったように,アメリカとの和解を通じて,韓国や日本との貿易と投資,資源の移転による復興を図るのか?
アメリカは,中国から北朝鮮への投資が増えることに不安を抱くより,それが北朝鮮を開放政策とアメリカとの国交回復に向かわせる,と楽観しておけばよい.
VOX 18 January 2012
The spread of civil war
Maarten Bosker & Joppe de Ree
内戦は経済発展を破壊するだけでなく,エスニック・リンクがある場合,国境を超えて拡大する傾向がある.たとえば,リベリア,シエラレオネ,ギニアの内戦にはつながりがある.ブルンジの内戦は,ルワンダ,コンゴ,ウガンダに広がった.旧ユーゴ内戦はバルカン半島に,アフガニスタンはパキスタンに,戦争状態を拡大している.各地に内戦の感染がみられる.
ただし,高い感染力を持つのはエスニック・シビル・ウォーである.それは西アフリカの特徴である.
WSJ JANUARY 18, 2012
A Burma Balancing Act
l エクアドルの革新
guardian.co.uk, Thursday 19 January 2012
Could Ecuador be the most radical and exciting place on Earth?
Jayati Ghosh
エクアドルは,世界で最も革新的な政策を示している.このように不確実な時代に,新しい開発パラダイムを開拓できるだろうか?
10年前は,バナナ共和国,政治不安,不平等,経済実績の悪さ,アメリカからの政治介入,に苦しむ小国だった.しかし2000年,政府はハイパーインフレーションと国際収支問題に対して,自国通貨を廃止し,ドル化を選択した.それはインフレを抑えたが,何もまだ国内改革はできなかった.2007年,エコノミストのRafael Correaが大統領になった.新しい憲法に依拠し,国民投票を使って,大統領は既得権集団の影響を排した改革に成功した.
人権,自然保護,多元性,文化の多様性を推進し,大統領は国民の70%から支持されている.経済改革では,まず,多国籍企業との石油採取契約を見直した.直接税の徴収を大幅に増やした.その歳入はインフラ整備と社会支出に充てた.生物多様性のための保護区the Yasuní-ITT biosphere reserveを設けた.これには原住民の保護やエコ・ツーリズムも組み込んである.
貧しい国の人々は,暗鬱な現状維持に沈み込むことなく,エクアドルの実験を観ることだろう.
l スコットランド独立
FT January 19, 2012
Scotland needs to judge the costs of independence
By Martin Wolf
スコットランドの独立は経済的に利益をもたらすのか? 北海油田の収入がすべてではない.
国民投票で独立を問う場合,1,その決定は1世代に及ぶものである.2.選択肢は,独立か,同盟に残るか,である.短期的な独立はありえないし,同盟内の関係を変えることは別問題だ.ユーロ危機の経験は,独立が非常に複雑で深刻な問題であることを示している.
スコットランド政府は,その地理的な持ち分として,北海油田から2009-2010年度のGDPの10.6%が減っている,と考える.ただし,北海油田の収入は減少しつつある.他方,UK(英連邦)大蔵省によれば,政府債務額は,2013-14年度にピークに達し,GDPの71%である.
新興独立国で,スコットランドのような巨額の債務を抱える小国が,しかも歳入の12%を減少しつつある石油収入に依存する場合,その格付けがトリプルAであることは難しい.借り入れコストが急増するのを避けるためには,財政赤字を急激に減らす必要がある.それはUKが行っている緊縮政策よりも厳しいものだ.また,UK内の緊密な経済関係を前提すれば,企業や熟練技術者に課税することはできない(逃げ出してしまう).つまり,すべては政府の支出削減となる.
ここに第二の問題がある.通貨をどうするのか? ユーロ危機は,財政的に独立した国家が通貨同盟を維持することの難しさを示している.スコットランド国民党は,時期を示さない形で通貨同盟に留まる,と言う.それは一方的に選択できない.確かに,スコットランドがイングランド銀行の保護を求めないなら,それも可能だ.その場合,イングランド銀行が最後の貸し手ではなくなる.それを求めるなら,スコットランドの財政には規律が求められ,監視を受ける.スコットランドは,通貨も財政も独立することはない.
第三の問題は,金融産業だ.UK内に統合されているから,スコットランドには大規模な金融機関がある.スコットランドの政府は,こうした金融機関が危機に直面したとき,ちょうどアイスランドのように,何もできなくなるだろう.イングランド銀行も加わった独立の銀行監視委員会が提案されているが,スコットランド政府しか後ろ盾のない銀行に,預金者は残らない.
スコットランド人はこうした詳しい論争を聞いてから,国民投票に参加するべきだ.そして,独立が魔法の富ではないと理解し,同盟に留まることを選択してほしい.
l 日本人の消滅
WSJ JANUARY 19, 2012, 10:02 A.M. ET
Japan's Age of Denial
By MICHAEL AUSLIN
日本の人口は緩やかに消滅しつつあるが,その救済策は何もない.
今年,成人になるのは1970年の半分しかいない.国連統計によれば,2010年の人口は1億2700万人だが,2050年には1億160万人に減少する.しかも減少速度は増していく.2030-2050年に,13.4%も人口が減少するのは世界最悪だ.同じ時期にパキスタンでは3億3500万人が増加する.
しかし,日本人は移民による人口の維持を嫌う.他の多くの社会は移民を受け入れて教育や経済,政治にも大きな役割を認め,統合していくが,日本人は文化や社会の基盤を侵食されると恐れる.
日本人がこのまま人口を減少させるなら,移民を受け入れる社会に変わるか,移民を排除して老人介護やロボットの導入に(他の社会より)多くの資源を配分しなければならない.
WSJ JANUARY 19, 2012
Four Deficit Myths and a Frightening Fact
By ALAN S. BLINDER
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The Economist, January 7th 2012
The world economy: Self-induced sluggishness
Citizenship: In praise of a second (or third) passport
Damming the Mekong: In suspension
Rebuilding Haiti: Open for business
Somalia and Ethiopia: Might things get better for once?
Hungary’s government: The long march of Fidesz
Central banks: Crazy aunt on the loose
(コメント) 政府は自ら不況を悪化させるような支出削減を強制し,中央銀行は今までやったこともないような非伝統的な政策(「まともじゃない叔母さん」)に手を出すだけでなく,それに依存し続けます.インフレにならないまま失業率は高く,既に金利はゼロに近いまま,金融救済や量的緩和で中央銀行の資産が異常なほど膨張しています.回復の見通しは立たない,という印象です.
ハイチ(震災復興に民間投資を呼びこみたい新大統領),ソマリア(イスラム原理主義の武装勢力を排除する多国間軍事介入),ハンガリー(共和制から独裁体制への移行をEU・IMF・USそして資本市場が拒む),いずれもガバナンスが難しい局面にあります.しかし,メコン川の多国間管理・開発に特別な興味を覚えます.
ラオス北部のダム建設に対して,メコン河委員会(Mekong River Commission)が生物多様性を守るアセスメントを求めました.MRCは流域諸国が参加して「地域協力の精神」を高め,「開発の利益」と「エコロジー」のバランスを求めます.しかし,強制力はありません.ラオスが気にするのは,隣国ベトナム(漁業・農業)であり,タイ(ダム建設への融資,電力購入)です.さらに,アメリカと中国の外交的な対抗が作用し,中国企業の進出に期待と警戒感があります.
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IPEの想像力 1/23/12
世界のどこかに、本当にあるのでしょうか?
親の決めた見知らぬ高齢の男性と、身代金のために婚姻を受け入れ、男の家族が売春を強いて、それを拒んだ少女は鼻をそぎ落とされる。学校にも行けず、仕事に就くこともできず、一生を家屋の隅や地下室で過ごし、全身をヴェールで隠して、寡婦となれば路上で物乞いをするしか子供たちを育てることもできない。
アフガニスタンを描いた映画『カンダハール』の中で,「もし家が狭いと思ったら,蟻になってみなさい」と,家から出してもらえない少女たちを慰めた、校長先生の言葉を思い出しました.
http://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/ipe_notes_2007/050707note.htm
世界の各地で,本当に,人々はガバナンスを革新していると思います.たとえ今は可能性としてでしかなくても・・・イスラエルとイランを含む非核地帯・地域安全保障ができれば,中東地域の経済が統合・自由化されるでしょう.アメリカは国内の不平等を減らし,雇用や成長を回復するとともに,ユーロ危機の安定化に協力することで,ロシアを含めたユーラシアの安全保障や市場統合を促し,中国の改革と協力を促すこともできます.
金融危機に対して,ラテンアメリカが欧米よりも優れた対応を示し,アメリカではなく,中国とインドが石油の安定供給を求めて中東和平に大きく関与し,北朝鮮がミャンマーの改革開放に学び,貧しいエクアドルが新しい開発モデルを模索し,スコットランドが国民投票で英連邦からの独立を問う.・・・しかし,日本社会は女性や移民の活躍を拒んで,緩やかに消滅する道を選ぶのでしょうか?
根底から変化する世界に私たちが生きている限り,もっともっと優れたガバナンスを求めます.国家でも、都市でも、大企業やグローバルなNGOsでも、孤立した個人の能力を超えて、全体として可能な選択肢を豊かにし,個々の対応能力を高め、集団の戦略的な意思決定を行える政治権力装置を確立できる集団が繁栄します。
l ガバナンスの意味・価値・水準は、社会の底辺層が実現できる生活と社会の移動性によって示される。弱者が守られ,革新が,社会的な軋轢を緩和しながら,速やかに波及する.
l ガバナンスの疲労度・耐久性・頑健さは,金融危機、財政破綻、通貨・為替危機、資本逃避、銀行倒産、など,経済的衝撃=ショックが社会システムや政治過程に生じる動揺によって試される.
l ガバナンスの(外部からの)破壊は,天災、原発事故、軍事クーデタ,地下鉄サリン事件や9・11のようなカルト・原理集団によるテロ,などで起きる。
l ガバナンスの(内部からの)崩壊・破綻は,内戦、社会契約・司法制度の崩壊、ハイパーインフレーション,戦争の拡大・長期化、都市暴動,反政府デモ,難民流出、自殺者の急増,相互扶助・連帯感の喪失,富裕層の脱税や貧困層の隔離・排除,などから生じる。
l ガバナンスの革新とは,制度改革,政権交代、平和的な革命・体制転換,あるいは,もっと小さな改善策・修正によって活気ある社会集団が現れ,権力を握って社会を再統合化することを意味する。
<グローバリゼーション>がそうであるように,<ガバナンス>も特定の答えや方程式ではありません.それは私たちに共通の視野を与えてくれる症候群や問題群,それに取り組む集団的な精神や<新しい制度>,その思想なのです.
・・・人間は蟻ではない。キング牧師が述べたような、人々が誰でも等しく、その夢を実現できる社会条件を実現するのは、ガバナンスを革新する政治社会集団なのです。
・・・そうか? これは,「ルイス・モデル」なのだな,と私は思いました.イギリスの植民地であったセント・ルシア島で,アフリカから来た奴隷の子孫として生まれ,イギリスの奨学金制度によって大学(LSE)へと進学し,マンチェスター大学でイギリス初の黒人講師となった,あのアーサー・ルイスです.彼が1979年のノーベル経済学賞を受賞した有名な思想が「無制限労働供給下の経済発展」でした.(そして1983年にはアメリカ経済学会会長)
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