今週のReview
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アフガニスタン撤退の後 ・・・イラン制裁から非核地帯へ ・・・イタリアとギリシャの改革 ・・・キング牧師の戦い ・・・アメリカの指導力はどこに向かうか? ・・・中国のグローバリゼーション ・・・消費者と投資家の強欲 ・・・中印米の安定化同盟 ・・・資本主義の未来 ・・・欧米金融危機の誕生 ・・・危機に対抗する政策 ・・・ミャンマーと北朝鮮 ・・・エクアドルの革新 ・・・スコットランド独立 ・・・日本人の消滅
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)
l アフガニスタン撤退の後
FP Friday, January 13, 2012
Afghan solutions for Afghan women
By Lael A. Mohib
アフガニスタンから米軍が撤退することで,そこに残される女性たちの悲惨な状態をどうするべきか,という疑問が強まります.
2010年8月に,雑誌TIMEが紹介したBibi Aishaは,夫とその家族によって鼻を切り落とされた若い女性です.国際社会がアフガニスタンへの関与を放棄して,撤退すれば,こうした女性たちは見捨てられる,という批判があるわけです.
「だが不幸なことに,現実には,外国の軍隊が駐留し,この10年にわたって国際社会が関与したにもかかわらず,今も彼女のようなケースが多くあるのだ.最新の例としては,15歳の少女Sahar Gulが新聞のトップ記事になった.彼女は地下室に監禁され,義理の家族によって5か月も拷問された.その理由は,彼女が売春するよう強制されたことを拒んだからだと推定される.」
こうした犯罪はタリバンが行うものではない.家庭内の暴力だ.アフガニスタンでは,すべて家庭内の問題とされてしまう.国際的な軍が関与できるのはカブールなどの都市でしかなく,アフガニスタン人が住む地方には何が起きているかわからない.彼女たちを救うのは,トップ・ダウンではなく,伝統的な家族や文化にも受け入れ可能な方法,持続的に進歩を促す必要がある.
国際社会が援助を議論するときの基準から離れて,現実のアフガニスタン社会を観るべきだ.そこではすべてが,女性の機会を決めるのも,男たちだけで行われる.カブールでは学校へ通う女性もいるし,大学へ進学する女性もいるが,それは全体のごく一部である.
女性の役割を,まず家庭内で変えることだ.村でも,小さな商売を始め,コミュニティーや市場の求める役割を果たす女性が現れている.卵やはちみつを女性たちが売ることも,マイクロファイナンスが助けている.村における女性への職業訓練も可能だ.この場合,女性が他の女性を助けられる.こうして女性たちが貢献することを,男たちも受け入れつつある.それは少しでも秒度な機会をもたらし,女性たちの自信につながる.教育も,母親と次の世代を通じて,重要な役割を果たすだろう.
NATOは地域社会の救世主になれない.外国からの資金,外国からの基準で,戦争を持ち込むことは,社会や文化を西側に似たものに改造するためではない.アフガニスタンの女性や,男性を促して,彼ら自身が,自分たちにふさわしいスピードで,その条件を変えること,それを支援することが目標である.
l イラン制裁から非核地帯へ
WP January 14, 2012
How the West should answer Iran’s nuclear aggression
By Ray Takeyh
WP January 14, 2012
How Obama should talk to Iran
By TritaParsi
NYT January 15, 2012
Preventing a Nuclear Iran, Peacefully
By SHIBLEY TELHAMI and STEVEN KULL
イランの核開発計画をどのように阻止するか,議論が過熱している.イスラエルはイランの核保有を許すか,あるいは,核兵器を作る前に施設を爆撃するか,選択するしかない,と多くの人は思っている.しかし,第三の選択肢がある.中東に,非核地域を作ることだ.
たとえイランを爆撃しても,核兵器の生産を数年遅らせるだけだろう.他方で,報復は必ず行われるし,アラブ諸国との戦争になるかもしれない.トルコとの関係も悪化するだろう.
それでも戦争を主張するタカ派は,イランの脅威をイスラエルの生存に関わるものと考える.しかし,イスラエル国民の65%は,イスラエルとイランの両方が核兵器を持つより,どちらも核兵器を持たない方を好む,と答えている.64%は非核化ゾーンのアイデアを支持しているのだ.その方法として,イスラエルもイランも参加した地域の核査察体制を考えている.国民は核を放棄してもよいと考えている.
現在のイスラエルの政策は,アラブ各国の核開発を加速させている.イランが核保有しても,それはイスラエルにとって生存の危機ではない.しかし,冷戦型の「相互確証破壊」の中で生きるのか,あるいは,核兵器のない中東地域を築くのか? 後者があれば,イランもアラブ諸国も核兵器を持とうとないだろう.
BLOOMBERG Jan 16, 2012
Economic Regime-Change Can Stop Iran Bomb
By Reuel Marc Gerecht and Mark Dubowitz
イランがホルムズ海峡封鎖によって西側を脅している.イランが一旦,核保有したら,それを放棄することは考えられない.それゆえ,イランに対する制裁の目標とは,核拡散の防止ではなく,イランの体制転換でなければならない.
オバマはイランとの対話を主張して大統領になった.しかし,制裁に転換した.もし石油市場に大きな影響を及ぼせば,オバマの再選を難しくする.この決断は非常に難しいものであっただろう.ホメイニが死んでも,イランの政治は変化しなかった.
制裁によって,イランに民主主義を再生することができるだろう.たとえ核保有して,民主的なイランとの共存は可能かもしれない.
WP January 18, 2012
Iran is finding fewer buyers for its oil
By David Ignatius
制裁において,イランから石油を買う諸国ではその量を減らしている.イランが保護者と考えていた中国も,購入量を減らすだろう.ほぼ半減に等しい.その理由は,価格交渉の失敗であるという.
イランは,制裁だけでなく石油価格の下落に直面し,新しい脆弱性にさらされている.
l イタリアとギリシャの改革
BLOOMBERG Jan 15, 2012
Parity May Be Euro’s Last Chance
By Ricardo Caballero and Francesco Giavazzi
7か月前にイタリアの政府債務危機が起きてから,ユーロはドルに対して約13%下落した.ユーロの下落は,人々がその崩壊を予想したからでもある.しかし,もし政策によって支持されるなら,ユーロ安はユーロ危機を救済する残された唯一の手段であるだろう.
イタリア政府はかつてない大幅な財政再建のための予算を組んだ.プライマリー・バランスを3年でGDPの6%以上も黒字にする.増税による大幅な財政再建は,深刻な不況になる,と投資家を怯えさせるだろう.そうなれば再建策の成果は失われる.
ユーロ安はこれを救うのだ.なぜなら,ユーロ圏全体としては域内で相互に貿易しており,ユーロ安の影響はほとんどない.しかし,イタリアに関しては,輸出の55%がユーロ圏外向けである.スイス,アメリカ,ロシア,新興市場に輸出している.それゆえ15%のユーロ安はイタリアの輸出を刺激する.
1992年に,ヨーロッパの為替レートメカニズムを一時停止したときもイタリアは財政再建した.リラを20%安くして,財政再建による不況を緩和し,その後の3年間で平均1.4%の成長を実現した.
もちろん,イタリアは競争力を改善し,債務負担を減らす改革をしなければならない.しかし,労働市場改革,財市場の自由化,司法・行政の改革,などは,たとえ迅速に実施されても,効果が出るまでに時間がかかる.
同じように,ギリシャ危機についてもユーロ安が起きた.ギリシャも輸出の50%以上をユーロ圏外に向けていたので,20%のユーロ安は改革による不況を回避するために重要であった.しかし,市場はギリシャがユーロ圏から離脱するだろう,と考えた.ギリシャの規模であれば,離脱の影響は限られているからだ.ギリシャ経済は崩壊しても,ユーロ圏は残る.
同じことはイタリアについて言えない.この点を,市場は明確に理解するべきだ.ユーロ安はイタリアの財政再建を助け,ユーロの再生をもたらすのだ.ユーロ安は,債権者がユーロ建融資を繰り延べるのも容易にする.
市場の圧力は政策を促すが,パニックは政策の効果を奪う.ユーロの価値が秩序ある形で下落することこそユーロ危機の解決につながると市場に理解させるのは政府の役割だ.ヨーロッパの政治指導者たちは,ユーロ安を止めるのではなく,支持するのだ.2010年後半と2011年7月までに,ユーロはドルに対して25%も上昇した.それは主にECBが金利を2度引き上げたせいだ.
ECBはユーロの救済にとってユーロ安が必要であると認めるべきだ.金利をゼロにして,しかも一定期間それを続けることだ.それは国内の財政再建を延期するためではなく,その効果を実現するためである.そのように市場参加者が理解することが重要だ.
FT January 16, 2012
The price of austerity for indebted Greece
By IannisMourmouras
EU・ECB・IMFがギリシャに求めた緊縮政策は失敗した。ポルトガル、スペイン、など、ユーロ圏の周辺で行わせた調整政策の目標も手段も、間違っていたことが明白だ。ギリシャの財政緊縮はさらに大きく、さまざまな増税で不況が激しくなって、物価が下落し、財政赤字が増える結果になる。まったくの悪循環だ。債務負担も、債務のGDP比率も、むしろ増大した。
悪循環をとくために、緊縮策の目標値を「目標変数」にするべきだ。すなわち、財政赤字の総額ではなく、構造的な赤字額のGDP比を下げることを目標にすることだ。構造的赤字を減らすには支出を重視して、時代遅れの、赤字になった公共部門を廃止・民営化する。
また、循環的な赤字には、経済の自動安定化が作用するべきだ。成長期には財政赤字を減らすように、一国ではなくヨーロッパ規模で、公共工事、民間部門とのパートナーシップ、などを選択する。こうして、構造的な赤字の削減と、景気変動の抑制を目指すコストを節約した公共投資との組み合わせは、民間部門にプラスの期待を形成する。
FT January 16, 2012
The eurozone’s three deadly sins
Stephen King
ユーロ圏には三つの危険信号が点っている。楽観、無反応、怠慢。
あまりにも多くの国が景気は回復すると楽観している。実際は、景気が悪化しつつある。政治家たちは財政再建に乗り気ではない。そこで財政の緊縮を求める条約や憲法改正を考えているが、そこには当面の課題である景気対策がない。
今後、数ヶ月間で経済状態は悪化し、投資家の信頼は失われ、危機が波及するだろう。ドイツは今まで他国がドイツに似てくればよい、と危機の進行にもゆったり構えていた。しかし、ドイツがユーロ圏の周辺国に似てくる。その理由は債務危機が波及するからではない。ドイツが輸出先を失い、債権者である銀行などが問題を抱えるからだ。
ユーロ圏は前例のない救済を必要としている。ECBがユーロの供給を増やして政府債券を購入するしかない。それは解決をもたらさないが、危機を緩和する。
Project Syndicate 2012-01-16
How to Create a Depression
Martin Feldstein
ヨーロッパの政治家たちが合意した財政再建計画は深刻な不況をもたらす。それはユーロ圏が整理する前と後を比較すればよくわかる。
ユーロが成立する前は、フランスで輸出が減ったとき、金利を下げ、財政の自動安定化によって赤字が増え、為替レートが減価して、輸出減による失業の増大を緩和した。ユーロができた後、フランスは輸出が減っても、金利や為替レートがフランスに合わせて変化しない。そして、財政政策しか使えないのに、今や、ヨーロッパ諸国は財政再建を憲法改正によって強制することに合意した。
FT January 17, 2012
The wishes and worries of a parenthetic revolutionary
By Peter Spiegel and Guy Dinmore
SPIEGEL ONLINE 01/17/2012
Slow Progress
Greece Struggles to Make Necessary Reforms
By Julia AmaliaHeyer
ギリシャの改革は進むのか? トロイカ(EU・ECB・IMF)による融資の実行が迫り、改革の進展が評価されている。それを監督するのは、国際機関に働き、アメリカ公共行政学会から最も優れた政府職員として表彰されたギリシャ人のPanagiotis Karkatsoulisである。このことを皮肉と見る人も多い。
ギリシャの失業率は18%、経済は2012年も7%で縮小すると予測されている(Economist Intelligence Unit)。ギリシャより悪いと予想されている国は、スーダンだけだ。
ある新聞は、改革など不可能だ、と述べている。ギリシャのポピュリストたちを変えるには頭脳改造に何年もかかる。この印象を変えるために、(トロイカ融資の審査前に)ギリシャは何人も大物政治家や巨額脱税の企業家を逮捕した。しかし、実際は改革が進まないことを示している。クローズド・ショップの雇用制度も、タクシー運転手のライセンス規制も、非効率な官僚制度も変わっていない。
統計データもなく、専門スタッフもいない。国営企業が改善する様子もない。要するに、政治家たちは今の複雑・不透明なシステムから利益を得ているのだ。世界銀行は、ビジネス環境に対する適切な対応を各国について評価して、ギリシャをほぼ最低レベルにした。
「われわれはアフリカではない。問題は政治である。政治家たちは、自分がパワーを得ているシステムを何も変える気がない。」
パパデモスLucas Papademos首相に改革は実現できるのか? 首相には人気がある。彼はギリシャ国民にとって「政治家」でも「ポピュリスト」でもない。保守派の野党政治指導者のような権力欲がない。パソックの創設者の息子であったゲオルギオス・パパンドレウのように権力を継承したわけでもない。パパデモスはエコノミストであり、専門官僚として、危機の管理能力があると信用されたのだ。
しかし、行政を改革できるか? そのためには政府の中心になって、権威や能力を示すことが必要だ。彼には他の大臣にそれを命じる力がない。
2015年までに15万人の公務員を解雇しなければならない。2011年に3万人を解雇する予定だったが、6000人が職場を去っただけだ。しかも、大部分は引退したのだ。
WSJ JANUARY 18, 2012
Plan B for Greece
FT January 18, 2012
The wishes and worries of a parenthetic revolutionary
By Peter Spiegel and Guy Dinmore
l キング牧師の戦い
NYT January 15, 2012
How Fares the Dream?
By PAUL KRUGMAN
“I have a dream,” ・・・キング牧師Martin Luther Kingの言葉は今もその力を失わない。1963年の夏、キング牧師が演説したアメリカには、肌の色のせいで、何百万もの国民がその権利を否定されていた。
今では人種差別が法に含まれることはない。それは決してなくならないが、人々の心を苦しめることは少なくなった。
それは明らかに、私たちの大統領を見ればよい。そしてその閣僚たちを。彼らは人種に対して開放的であり、女性も受け入れる。1963年には想像もできないことである。
しかし、もし今、キング牧師がアメリカを見たら、彼は失望し、自分の使命はまだ果たされていない、と感じるだろう。彼が夢見た国とは、子供たちがその個性でなく、肌の色で判断されることがない国である。私たちの国は、肌の色ではないが、かつてと同じくらい、人々を小切手帳の大きさで判断する国になった。そしてアメリカでは、他の裕福な諸国以上に、人々の所得がその親の所得に比例しているのだ。
さようなら、ジム・クロウ。ようこそ、階級システムへ。
所得分配と人種差別とは切り離せない。実際、キング牧師が暗殺されたときに参加していたのは、賃金引上げの運動だった。人種面で見て、1960年代、70年代は、多くの黒人家庭が中産階級に上昇し、中には、アッパー・ミドル・クラスに上昇する者もいた。しかし、1980年ごろから、アメリカにおける黒人の相対的な地位は改善しなくなった。それは所得分配が悪化して、1920年代以来、もっとも不平等な社会になっていったからだ。
所得分配を階段にたとえれば、黒人たちは低い段にいて、上の段が急速に引き上げられたのだ。そして、階段の差が大きくなって登れなくなった。アメリカ人の多くは驚くが、すでにアメリカは裕福な諸国の中で社会的移動性が低いほうである。低所得の家族は、カナダやヨーロッパに比べて、経済的な地位を向上させることが少ない。大統領経済諮問委員会のAlan Kruegerは、the “Great Gatsby Curve”を示した。不平等な国ほど、移動性は低いことを示す図だ。個人の経済的な地位は、その両親の地位によって大きく左右される。
Mitt Romneyは、不平等の問題を、静かな部屋で語るべきだ、と述べた。幸いにも、かつて黒人には、それを拒むキング牧師がいた。
生まれによって支配される階級社会を、私たちは受け入れないだろう。それはアメリカの価値観にも、アメリカ人の夢にも反するものだから。
guardian.co.uk, Monday 16 January 2012
Martin Luther King Jr's universal message
Kevin Powell
私は、共和党の大統領候補たちが次々と、「階級のねたみ」という言葉で、金融的な苦しみにもだえる人々を軽蔑する言葉を聴くと、身が縮む。裕福な者は厳しい労働によって豊かになった、と言うのだ。ロナルド・レーガンやジョージ・W・ブッシュの姿が眼に浮かぶ。こうした現在の共和党の標準的な政治家たちは、その人種差別や階級意識をほとんど隠すこともなく、伝統的に黒人を非難し、金に困ったアメリカ人を自分たちの国に巣食った社会的な病気のせいにする。
私は、今はミドル・クラスであるが、貧しかった何世代かをさかのぼれば19世紀のアメリカ奴隷に至る。私の母は、8年間の教育を受けたが、社会福祉や政府のフード・スタンプに頼って私を育ててくれた。彼女は生きることができる賃金(livable wage)の仕事を探したが、得られなかった。母は数年前に引退するまで、本当に激しく働いてきた。しかし、彼女が貧困線を越える所得を得たことは一度もなかった。もしキング牧師や、Ella Baker, Fannie Lou Hamer, マルコムX、そして、名も知らぬ多くの市民運動家たちがいなかったら、また、彼らの要求で実現したさまざまな制度がなかったら、私はこうした生活を得られなかったし、教育や雇用の機会も得られなかった。今、生きているかどうかもわからない。
キング牧師は、その生涯の最後に、繰り返し、経済的な不正義、貧困について語った。もしキング牧師がいたら、間違いなく、ウォール街占拠運動(OWS)を支持しただろう。今も多くの路上生活者や貧困層がいる。他方には、ひどい経済犯罪がある。
人々はおびえ、絶望し、将来に何も見えない。オバマ大統領は、大統領としての限界であるかもしれないが、キング牧師と同じようには行動できない。しかし、今も彼らの希望である。
l NAFTA
LAT January 15, 2012
Roadblock to free trade
クリントン大統領がNAFTAに調印してほぼ20年が経った。今こそ、NAFTAに従い、メキシコのトラックにアメリカのハイウェーを開放するときである。安全や雇用に関する不安は、オバマ大統領が和らげることだ。
全米トラック労組the Teamstersと消費者団体Public Citizenが反対している。しかし、メキシコは重要な貿易相手であり、自由貿易を拒むことはできない。アメリカの違反に対してメキシコは、2010年、100品目近くに報復関税を課した。カリフォルニアのワインやイチゴ、オレンジも含まれる。
l アメリカの指導力はどこに向かうか?
FT January 16, 2012
America, Greece and a world on fire
By Gideon Rachman
「1947年のギリシャ経済危機は、アメリカに世界の指導権を行使するよう強いた。それから60年以上が経ち、再びギリシャは危機にあるが、世界はアメリカの指導権が失われたと感じている。」
イギリス政府は、経済崩壊と内戦の危機にあるギリシャへの支援を続けられない、とアメリカに告げた。イギリス外交官は、われわれから世界の指導権を取れ、とアメリカ政府に促した。トルーマン大統領は議会に4000万ドルのギリシャ支援を提案し、承認された。その数週間後、西ヨーロッパの安定化を目的としたマーシャル援助が発表されたのだ。
再びギリシャは深刻な危機にあるが、アメリカは指導権を執る気がない。かつてジョージ・C・マーシャル国務長官が、アメリカ自身の経済的な健全さをヨーロッパの混乱が脅かしている、世界に青樹名経済的健全さを回復させるためにアメリカは何でもするだろう、と述べた。
1990年代後半、アジアとロシアの金融危機に対してアメリカ政府高官たちが安定化の政策を指導したとき、「世界救済委員会」と揶揄された。そして、そこには真実があった。世界はアメリカ政府の指導力を必要としたのだ。
なにが変わったのか? 金がない? それが大きい。アメリカはかつてマーシャル・プランにGDPの5%を支出した。今、こんなことはできない。ガイトナー財務長官は何度もEU諸国にユーロ危機を解決するように求めたが、それは言葉だけであり、大きな資金を出せなかったから、誰も真剣に聞かなかった。
アメリカの指導力は資金だけに拠るものではなかった。たとえばソ連崩壊から10年経たないころ、アメリカ経済はブームに沸いていた。アメリカの政策担当者たちには世界を指導する自信と信認があった。しかし、金融危機はその財政力だけでなく、説得力を奪った。
中東ではなくアジアに、アメリカは外交の関心を移す、と宣言した。経済的にも、地政学的にも、アメリカは太平洋と中国に関心がある。その結果、ヨーロッパや中東への関心は低下した。リビアへの介入でも、ギリシャの債務危機でも、アメリカの対応は指導力を欠くものであり、2012年のギリシャ危機がヨーロッパの財政破綻・金融危機に向かうのを止める用意は何もない。アメリカとしてはドイツが行動するのを待つだけだ。
しかし、ギリシャは地中海東部の重要な戦略的位置にある。北アフリカ全体、トルコ、キプロス、イスラエルにつながる。危機によってEUとの関係は薄れ、中国はギリシャの港を長期リースで取得し、ロシアのオリガークはギリシャ企業の民営化に投資する。
ドイツがヨーロッパの問題を処理し、EUはアメリカの世界的指導力をもっと分担してくれる、とアメリカ政府は期待するが、それについては失望することが多い。1947年のギリシャ危機はアメリカからの支援で乗り切った。今、支援はベルリンやブラッセルから、わずかに、しかも、遅れて届くだけだ。
FP JANUARY 18, 2012
Losing the Continent
BY JAMES POULOS
1月5日、オバマ大統領はペンタゴンにおいて、アメリカの世界的指導力を維持する新しい国防政策を発表した。アジアを重視する。中東にも特別な関心を払う。では、ヨーロッパはどうか? NATOについては何を語ったか? 16ページのレヴューにおいて、ヨーロッパに触れたのは、わずか一節だけだ。
確かに、ヨーロッパはアメリカが関わる次の世界戦争の焦点にならないだろう。しかしヨーロッパの国がすべてスイスばかりだ、とは思えない。しかし、ますます抜け穴だらけとなった国境を越えて、南からさまざまな不安定要因が入ってくる。
さらに、ユーロ危機の悪化は、ヨーロッパの政治システムが、いかに財政基盤だけでなく、権威を欠いているかを示している。バルカンにまで及ぶEU拡大は、人権を無視するような地域、経済・通貨危機を頻発する地域をも含んでいる。かつて豊かな市場へのアクセスを約束すると思われたドイツが、今では緊縮政策を強制する国となって、ナチス占領支配の歴史的記憶を基に非難されている。
アメリカが期待するヨーロッパの安全保障は、急速に悪化するかもしれない。緊縮政策によって不況が長引くヨーロッパは、周辺の北アフリカ、中東、ユーラシアからも不安定な状態に対処できず、むしろテロが入り込む。
アメリカが手を組むべき相手はフランスである。フランスこそ、イギリスを説得して防衛体制を協力し、NATO軍を率いてリビアに介入し、イスラム過激派に厳しい政策を採っている国だ。ナチスの記憶に苦しむドイツと違って、フランスの民主主義と進歩は世界的に評価が高い。
オバマが見捨てたヨーロッパは次第にフランスの支配下に入るだろう。ヨーロッパの政治情勢は、多極化したナショナリズムの反目に戻るか、ロシアの政治支配に従うか、中国の経済的ヘゲモニーを受け入れるかもしれない。しかし、アメリカが少し支援すれば、フランスはヨーロッパの安定と団結を回復し、ロシアや中国に対抗できるだろう。
そしてフランスとロシアの同盟関係が復活し、ヨーロッパとユーラシアがまとまって、中国に対抗できる。アメリカはそのヨーロッパに協力することで、アジアにおける利益も守るだろう。
l 中国のグローバリゼーション
guardian.co.uk, Monday 16 January 2012
China's Foxconn workers: from suicide threats to a trade union?
Lijia Zhang
深圳Shenzhenの工場における自殺者が問題になったFoxconnで、出稼ぎ労働者たちは一日に16時間も働かされることがある。そこではAppleのiPhoneなど、人気商品を生産しているけれど、彼らは春節に故郷へ帰るのにも困るほど、インフレの中で乏しい賃金しかもらえない。
北京のApple販売店で、新製品を求める長い行列ができ、殺到する人々に危険を感じて店が販売を中止すると、怒った群衆から卵を投げられた、と報道された。しかしそれは誤報だった。彼らはFoxconnの出稼ぎ労働者たちだった。MicrosoftのXbox生産ラインでも、ホンダの工場でも、ストライキがあった。国有企業の中で、冷酷な資本主義の論理に従う。労働法は守られない。
土地の強制収用に抗議した広東省・烏坎(Wukan)の運動も世界的に有名になった。抗議運動の指導者と平和的に話し合って解決できたことは喜ばしい。しかし、ソフトなアプローチで十分だとは言えない。中国の指導者たちが出稼ぎ労働者や農民の声を良く聞き、紛争を解決する集団交渉のメカニズムを取り入れるように求める。
そして究極においては、彼ら労働者たちも、XboxやiPhoneを使用する人々と同じ権利を享受する必要がある。
FT January 16, 2012
Beijing appoints Wukan protest leader as official
By JamilAnderlini in Beijing
YaleGlobal Online16 January 2012
Global Implications of China’s Challenges – Part I
Thomas Fingar
中国はグローバリゼーションの優等生として、何百万もの貧困層を救済したと賞賛されている。しかし、グローバリゼーションはまた、増大する社会、経済、政治問題を解決する中国政府の能力をそぐだろう。
中国はますます国境を越える変動、政府が管理できない変動に対して弱くなっている。特に、人々の期待感はかつてないほど高まっている。それを満たすことは非常に困難だ。
1.手っ取り早く利益を得る姿勢、そしてインフレやバブル。2.かつてない厳しい競争。ソ連・東欧圏の崩壊前に、中国はアメリカの招待で世界市場に参加でき、しかも、ラテンアメリカやアフリカはまだ参加までに時間を要した。3.富裕化に先行して急速な高齢化社会へ移行。社会福祉のコストをこれから若者たちが支払う。4.共産党だけに集中した政治的決定システム。多様化し、複雑化する経済の近代部門が拡大する中で、彼らの知識や時間は限られており、政策決定における失敗を避けられない。
こうした問題は中国だけに限らず、多くのグローバル化した諸国に共通した面がある。問題の複雑さを理解し、協力することで、その衝撃や政策失敗がもたらす悪循環を防ぐことができる。
guardian.co.uk, Tuesday 17 January 2012
China's success challenges a failed economic consensus
Seumas Milne
FT January 18, 2012
Long march ahead to a truly capitalist China
By Qin Xiao
YaleGlobal Online 18 January 2012
The Wukan event reveals the mounting challenges to China’s authoritarian resilience
Borje Ljunggren
Wukanの争議は,2005年の年間8万4000件から2010年に18万件に増加した中国で起きる争議の一つでしかない.政府はこれらが連携しないように分断化を図るが,情報通信網の発達で,次第に難しくなっている.全国に知れ渡ったWukanの争議は,和解以外に解決の道がなかった.
温家宝首相は北京で,「もうこれ以上,農民たちの土地所有権は,都市化と工業化のために犠牲にされることはない」と宣言した.それは地方政府の根幹を揺るがす発言だ.最近の推定では,地方政府の収入の約40%が土地収奪によるものだから.しかし,同時に二桁の成長率が土地・住宅のバブルと銀行融資を膨張させて,今や,その崩壊が始まっている.
政府には,今後,厳しく責任が問われるだろう.そして,その意味で,中国の政治経済体制の将来がどうなるか,研究者の間にある三つの立場が論争を続けている.すなわち,①民主化,②体制崩壊,③権威主義体制の高い生存能力,である.
FT January 18, 2012
China’s new challenge: less frugality
Yukon Huang