IPEの果樹園2005

今週のReview

10/31-11/5

IPEの種

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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IPE方法論 :ナショナリズム,狂信的集団

安全保障 :ライス,イラク

貿易・投資 :GM自由貿易

通貨・金融 :FRB議長バーナンキ

世界統治 :中国,EU,援助,ロンドン日本

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, JTJapan Times, CSMChristian Science Monitor


FT October 17 2005

No risk of ‘labour shortage’ in southern China

By Arthur Kroeber, managing editor of the China Economic Quarterly

NYT October 18, 2005

China Builds Its Dreams, and Some Fear a Bubble

By DAVID BARBOZA

NYT October 21, 2005

Chinese Finding Their Voice

By THOMAS L. FRIEDMAN

NYT October 21, 2005

Chinese on a Grand Tour

By WAYNE ARNOLD

NYT October 21, 2005

Consumer Demand at Home Keeps China's Factories Humming, and Hiring

By KEITH BRADSHER

NYT October 26, 2005

Living Hand to Mouth

By THOMAS L. FRIEDMAN

(コメント) 中国経済に関わるさまざまな論説です.たとえば,急速な成長の結果,広東デルタでは労働力が不足し始めた,と言われています.低賃金に依拠した輸出依存型の成長は限界に達したのか? この点について,Arthur Kroeberは明快に否定しています.労働供給と労働者の質の変化,すなわち,女性や教育,旧来型の国有企業を早期に引退する傾向と,10代後半に教育を受けたまとまった人口が待機していること,を指摘します.広東デルタの工業化は,県外からの移民に依存してきたという特殊な事情によって,現在,賃金上昇や労働力不足を一時的に示しています.しかし,少なくともまだ20年は,中国経済が同じ理由で成長できなくなるとは考えません.

他方,土地の売買や都市の住宅建設などで,バブルが懸念されています.DAVID BARBOZAの記事に拠れば,上海では,たった1年で,ニューヨークのオフィスと住宅の床面積を超える建物が建ちました.すでにニューヨークの二倍,4000棟の超高層ビルが建っています.530万ドル(6億円近い)の超高級マンションが売られている,と言います.北京では,古い道教のお寺が巨大なショッピング・モールとその駐車場に取り囲まれてしまいました.

このような中国の建設ブームは,また,資材の世界的な価格高騰,エネルギー不足,都市の汚染・環境破壊をもたらします.都市の社会・経済的な条件を大幅に変化させ,外国からの資本流入や,政府の住宅政策,土地利用計画・農地の強制収容などにも影響を与えます.今後5年間で,7500万人の農民が都市に流入すると予想されます.主要都市には莫大な富を得た不動産開発業者が増えています.誰もが開発業者になりたがり,あらゆる企業や共産党が不動産開発を手がけています.そして,誰もこのブームが終わることなど考えていません.

THOMAS L. FRIEDMANが上海で見たものは,ボトム・アップ型の「新しい文化大革命」です.小さな毛沢東語録を掲げて政府のスローガンを叫ぶ紅衛兵たちではなく,真っ白なiPodやさまざまなプレーヤーを提げた若者たちなのです.音楽放送やTV,ビデオ,もちろんアメリカのMTVも流れます.インターネット上には多くのニュースサイト,さまざまな個人のブログ.

日本をまねた連休制度や団体旅行の制度が,中国国内そしてアジア各地にまで,観光客の奔流となって富を広げます.消費者の力は,欧米で市場を閉ざされた中国の工場に,新しい市場を与えるだろう,とKEITH BRADSHERは予想します.それは,中国で維持されている金融緩和政策と,漸く見え始めた都市労働者の賃金上昇や住宅ローンなどの制度改革が続くからです.彼らは所得の上昇を革新しており,まだ債務の規模を恐れていません.たとえ,地球上の森林を枯渇させてしまうから,中国人が箸を使わないように国際システムを動かそうと,一部で,提案されているとしても・・・


The American Prospect 10.17.05

A Crony For Chairman?

By Robert B. Reich

FT October 18 2005

Challenges for Greenspan’s replacement

By Martin Wolf

Oct. 24 (Bloomberg)

Greenspan Visits Scene of Fed's China Crime

William Pesek Jr.

(コメント) グリーンスパンの後継者を誰にするべきか? その指名が重要である理由は,その人がアメリカの成長する速さを決め,どれだけの労働者が職を得られるかを決めるからです.グリーンスパンは,人々が考えたよりもアメリカ経済は早く成長できることを示し,他方でブッシュ政権の財政赤字を容認しました.いまや政府も家計も債務の額を心配し,石油価格の上昇に不安を強めています.もし大統領が最高裁判事の指名で示したようなクローニズムを続けるなら,今度は上院ではなく,市場が拒否反応を示すだろう,とRobert B. Reichは考えます.

Martin Wolfは,グリーンスパンを他の議長と一緒に評価しています.そして,もしインフレ率や市場の危機管理を彼の成果と見れば,それは明瞭です.株価暴落や9・11にもかかわらず,インフレは抑制され,その後も軽い不況にとどめました.それは,その条件として,1979年のポール・ボルカーによるマネタリスト革命,そしてグローバリゼーションと労働組合の衰退などが起きたからです.世界中で,中央銀行の政治からの独立とインフレ目標が重視されるようになりました.

では,グリーンスパンの政策思想とは何だったのか? Wolfによれば,

1.      成長の重視する.そして可能な成長速度は市場に見出させる.

2.      マネタリストの前提となる単純な関係を採用しない.なぜなら1980年代と90年代初めに通貨供給と支出の関係は失われたから.

3.      明示的なインフレ目標は,金融政策の制約になるから,採用しない.たとえば,デフレが起きる恐れに対して,インフレ目標は政策運営の妨げとなっただろう.

4.      しかし,事前の「危機管理」という考え方は採らない.資産価格の上昇に対して金融政策が何かできる,するべきだとは考えなかった.

これらに対して,Wolfは批判を述べています.イングランド銀行など,いくつかの中央銀行は資産価格にも金融政策が監視する責任を認めたし,インフレ目標などによって,投資家の期待に影響を与えることができる.グリーンスパンの姿勢は,結局,金融政策を彼の個人的な見識や権威だけに委ねてしまった.何よりも,これほど大きなバブルを生じておきながら,「危機管理」を無視してよいのか?

まさに,この点はグリーンスパンの評価を左右するわけです.彼はバブルを放置し,それが破綻した際には,果敢にデフレを回避し,市場を救済しました.そのことが投資家にリスクを恐れさせず,革新や生産性上昇を強めて,成長率を押し上げたかもしれません.あるいは,バブルを増幅して,裕福な者に都合の良い救済措置を完備した投資ゲームを奨励したわけです.高い成長と所得格差はその副産物に過ぎません.

William Pesek Jr.は,北京の会合に参加したスノー財務長官とグリーンスパン議長は,彼らの政策が「ドル圏」の中国経済にどのような影響を及ぼしてきたか,その効果を目の当たりにしただろう,と指摘します.すなわち,急速な成長と,それがもたらした世界最大のバブル・ショーです.すでに,アジア通貨危機の直前に達した水準を超えて,資本が世界から中国へ流入している,とモルガン・スタンレーのAndy Xieは指摘します.また,中国政府によるドル買いが,アメリカの金利を低く維持し,投機的な資本をアジアに向かわせている,とBrad Setserも考えます.

「グリーンスパンとFedを上海の不動産市場における“irrational exuberance”で責めるのも当然ではないか? グローバリゼーションはFedの金融政策を世界化してしまった.アメリカには12の地区連銀があるが,ラテン・アメリカを13番目,東南アジアを14番目,ロシアは15番目,そして中国も16番目,というように,世界化するべきではないか?」 まさに,連銀はアメリカと中国という,二頭立ての馬車として,世界経済を御しているわけですから.


FT October 18 2005

Slav labour eases the pressure

By Jonathan Guthrie

LAT October 22, 2005

Broken border, broken record

(コメント) Jonathan Guthrieは,ポーランド移民の若い友人を描きます.彼は3ヶ月前にイギリスに来て,FTに雇われました.仕事にふさわしい能力があれば,それは正しいことではないですか? しかしその若者は,機会の国,イギリスに感激します.

イギリスの労働組合は反対します.彼らは地元の労働者を優先的に雇用し,訓練して,政府は企業を支援するべきだ,と主張します.移民たちに賃金を支払っても,彼らは地域の長期的な利益にはならないから,と.しかし,TescoStagecoachRyanairなどは東欧からの移民労働者を積極的に雇用します.イギリスの新聞は,たとえばEUに加盟した新しい諸国から,数百万人の髭を生やしたスラブ人労働者たちがイギリスの雇用を狙っている,と書き立てます.しかし,もし移民たちを公平に扱えるなら,総ての者が利益を得るはずです.

アメリカでは? リオ・グランデ河を越える移民たちにブッシュ政権は,新しい一時雇用ビザと国境警備の強化,という姿勢を示しています.


The Guardian, Tuesday October 18, 2005

The price of cheap beef: disease, deforestation, slavery and murder

George Monbiot

NYT October 20, 2005

Rain Forest Jekyll and Hyde?

By BOB HERBERT

The Guardian, Wednesday October 26, 2005

Why calls for a boycott of Brazilian beef are misplaced

Jose Mauricio Bustani

(コメント) 私たち日本人は脂ののった牛肉が大好きです.牛肉が安いことは,常に,良いことでしょうか?

イギリスで,Tescoなどが販売する安い牛肉はブラジルから来ている,とGeorge Monbiotは指摘します.石油の価格が安く,世界の農産物市場が開放されれば,イギリス人は世界のどこからでも,最も安くて美味しい牛肉をたっぷり輸入して食べることができます.

George Monbiotの考えでは,イギリス人は牛肉など食べるべきではないのです.イギリスの耕地は肉牛を養うほどありません.ブラジルのアマゾンに残る貴重な熱帯雨林を牧場に買え,森林を守る人々の殺害を黙認し,奴隷の利用を広める結果となった,輸入牛肉に依存して,いつか牧場に口蹄疫が蔓延するまで,そのことに誰も気付かないでしょう.

また,アマゾンの森はChevronTexaco社によって汚染されてきました.エクアドルの石油採掘において,有毒な物質を廃棄し続けたからです.他方で,環境保護の賞を受けました.企業の広報活動は,まるで,ジギルとハイドです.

駐英ブラジル大使Jose Mauricio Bustaniは,Monbiotに反論します.口蹄疫は予防対策を採っているし,牧場は環境と両立するように運営され,国際的に高く評価されている.多くの牧場はアマゾンにはないし,奴隷を大規模に使用する牧場などない.環境破壊はもっぱらイギリスなど裕福な国が行ってきたことだ.しかし,環境を守る国際行動には賛成だ,と.


Robert J. Samuelson The Fate of 'Made in the USA' WP Wednesday, October 19, 2005

Dan Roberts and Bernard Simon The lonely pragmatist FT October 21 2005

EDUARDO PORTER Reinventing the Mill NYT October 22, 2005

Sebastian Mallaby Motown's Ominous Message WP Monday, October 24, 2005

(コメント) GMやアメリカのビッグ・スリーは倒産し,アメリカの自動車産業は消え去るのでしょうか?  Robert J. Samuelsonは,たとえアメリカから生産拠点が海外に移るとしても,高度な技術を要する部分は国内に残る,と考えます.製造業が衰退するかどうかは,アメリカの政策や企業,労働者の選択次第です.鉄鋼産業は復活し,今では,1980年代よりも多く生産しています.また,ヘリコプター生産は,海外の生産拠点を結んで,開発や重要部品の生産はアメリカ国内に維持しています.

ただし,問題は中国です.もし中国がこのまま低賃金とハイテク技術を結びつけた輸出産業まで拡大し続ければ,本当にアメリカの製造業は消滅するかもしれない,と.そのような事態は,もし為替レートが正しく機能すれば,防げるはずなのです.Bethlehem Steel復活までの模索をEDUARDO PORTERが伝えています.産業の滅亡を回避するためには,労働組合や労使交渉も変わる必要があるでしょう.

Sebastian Mallabyは,労使の合意が,将来に負担を残す仕組みになっていたことを批判します.その将来が来たとき,誰が負担するのか? 政治システムは教訓を学ぼうとしません.

BG October 22, 2005

Desperation deal at GM

Robert Kuttner

(コメント) UAWは,GM再建のために,年間10億ドルの医療費負担を軽減する,すなわち自分たちで支払うことに同意しました.ほかに選択肢などないように見えますが,Robert Kuttnerはこうした再建案を労働者が呑むことに反対します.なぜか?

つまり,それは誰の負担で,何のために,誰を救済するものか? と問うわけです.アメリカの労働者や労働組合が特別な優遇を受けており,そのせいで自動車会社は破綻するのでしょうか? そうではありません.日本やドイツの自動車会社も,同様か,それ以上のコストを負っています.

アメリカの自動車会社が破綻するのは,@消費者が求めるような,燃費の優れた,環境にやさしい自動車を作れなかった.A医療保険の負担が大きい,からです.しかも,この救済策が自動車会社を再生するとは思えません.

UAWは最初から,国民的な医療保険制度を主張してきました.しかし,自動車会社が,他のアメリカ企業と同じく,そのような考えを余りにも社会主義的だとして,反対したのです.労働者の医療保険は企業が個別に交渉して決めますが,それは彼らが不当に優遇されたのではなく,アメリカ国民が余りにも悪い条件を呑まされているのです.しかも,さまざまな民間の保健会社や医療行為の審査制度による莫大なロスを含めて,支払っています.

労働者の負担で企業の債務を救済する(そして重役たちを免罪する)案よりも,国民の負担で,環境に対する技術革新に投資した企業だけを救済する制度が提案されています.9・11の後に,航空会社は税金で救済されました.何の見返りもありません.他方,もし環境対策に投資するなら,救済された自動車会社は再生するかもしれない,とKuttnerは考えます


FT October 21 2005

Sacred places and profane quarrels

By Richard McGregor

BG October 23, 2005

Bad memory in Japan

JT Sunday, October 23, 2005

Look for change next year

By GREGORY CLARK

(コメント) 小泉首相の靖国参拝は,イスラエルのシャロン首相が2000年にエルサレムの聖地を訪問したようなものだ,とRichard McGregorは書きます.世界各地に,諸国間で歴史的な評価をめぐる激しい論争を呼ぶ土地があるわけです.オーストラリアのバックパッカー旅行者は,もしトルコ人がGallipoliで同じことをしたら,リンチに遭っただろう,と言います.

BGは,小泉首相の参拝様式が変化したことに注目します.それは,一方で,国民が戦没者に抱く感情を示すものであり,他方,政治家が右翼的な言動を支持してほしくない,という世論を受けたものでもあっただろう,と.しかし,中国や韓国の政府はその違いを見ようとしません.A級戦犯を戦没者として称える行為は,侵略戦争を反省していない証拠だ,と繰り返し主張してきました.だから,BGは小泉首相に再考を,そして多分,行動を求めます.近隣諸国とともに解決するべき重要な問題が多くあることを直視せよ,と.

GREGORY CLARKは,小泉氏が「決断の人」という政治スタイルを守りたかったのだ,と考えます.確かに靖国神社は侵略の歴史を反省していない(むしろ誇っている)かもしれませんが,多くの日本人は靖国神社を軍国主義のシンボルとは感じていません.戦争を始めた理由も,欧米列強によってアジア各地が植民地化され,外交的に孤立させられて,戦争するしかなかった,という説明を容易に受け入れるでしょう.盧溝橋事件は軍部の陰謀でしたし,政府は対応を余儀なくされたのです.

しかし,とCLARK氏は考えます.日本は政府によって計画された残虐行為を組織的に行った,と.この事実を,政府は国民に十分伝えてこなかった.そして欧米諸国も多くの残虐行為に関わったが,自国の問題であれば,それら(自国民の恥)を十分に断罪していません.結局,小泉氏がそのスタイルを守って,1年で首相を交代することが,中国側の理解を得られる具体策をもたらす(そのような人物が首相になる),と期待するわけです.

FT October 24 2005

Normal nationhood

IHT TUESDAY, OCTOBER 25, 2005

Koizumi's dangerous promise

By Brad Glosserman

(コメント) FTは,小泉政権の支離滅裂を批判します.日本が常任理事国になる形で,国連安保理の改革は進まなかったから,国連への支払いを減らしたい,と言うのか? 安保理改革を阻んだのは,一つには中国の強い反発でした.中国政府は小泉首相の靖国参拝を強く非難しています.そして,再び小泉氏は参拝しました.それで? これが日本の外交政策なのか?

Brad Glossermanが注意するのも,小泉政権がアジアからの反発を無視する態度と,対外的な孤立です.日本はアジアで孤立し,アジアにおける交渉の舞台から無視される存在になろうとしています.日本の関与を望むはずのシンガポールやアメリカでさえ,靖国参拝を見直すように求めています.一時的にアメリカとの同盟関係を強化することが望ましいとしても,近隣諸国から孤立し,地域の不安定化を省みない日本を,アメリカが常に支持すると思うのは愚かなことです.


FT October 23 2005

Everyone must do more for Doha to succeed

By Paul Wolfowitz

FT October 24 2005

Big business pitches itself on fair trade territory

By Meg Carter

(コメント)貿易自由化は,貧しい国が世界市場により多くの財を売って,彼らに雇用と所得の上昇をもたらすものだろうか? とPaul Wolfowitzは問います.もしそうであれば,貿易自由化は成功する,と.

自由化と開発,WTOと世銀を結びつける主張が,Paul Wolfowitzの要点です.貧しい人々に世界市場への参加を拡大して,豊かになる機会を与えようではないか? と豊かな国の政治家たちに呼びかけます.そして,それは豊かな国にも利益をもたらすものでなければ,実際,合意されません.だから,交渉によって互いに譲歩するべきだ,と.

「貿易こそが,過去20年間に中国で4億人を貧困から抜け出す道となった.同じことは世界のどこでも起こりうる.たとえばブラジルでは,人口の20%が一日2ドル以下で生活している.もし開発諸国のぬ産物市場が開放されるなら,彼らの多くが貧困から抜け出せる.」 「ますます多くの人々が,貧しい国の災害から逃れ,職を求めて,豊かな国を目指している.それは人間として当然だ.」 だから,彼らが母国で暮らせるように,豊かな国が市場を開放することは望ましい.

食品の多国籍企業であるネスレは,Nescafe Partners’ Blendを通じて,フェア・トレードに参入します.この18ヶ月で,大手のスーパーマーケット・チェーンが,フェア・トレードの製品を店頭に並べました.これにより,フェア・トレードのブランド間で競争が激化し,小さな組織は消滅するでしょう.消費者の側では,巨大スーパーマーケットの戦略でしかない,という批判もあるでしょう.しかし,フェア・トレード商戦で勝ち残ることがますます重要になるかもしれません.


Wolfgang Munchau Why social models are irrelevant FT October 23 2005

Will Hutton Europe is hanging by a thread The Observer, Sunday October 23, 2005

Confront your fears FT October 24 2005

Anders Fogh Rasmussen Europe needs to embrace reform IHT TUESDAY, OCTOBER 25, 2005

Polly Toynbee The most successful society the world has ever known The Guardian, Tuesday October 25, 2005

(コメント) ヨーロッパの政治家たちが社会システムの選択を議論することに,Wolfgang Munchauは批判的です.なぜなら,ヨーロッパの成長率が低いのは,その市場が規制されたままで非弾力的なことと,その経済政策が硬直的だからです.グローバリゼーションは,各国が経済をますます弾力化するように求めます.しかし,そのためには保健や社会保障など,セーフティー・ネットを完備することです.ところが,ドイツなど,多くの失敗した改革は,社会福祉を削って,その不安から,ますます市場を保護しています.ヨーロッパ規模の競争,新興企業による業界再編,機能する住宅市場,はまだ存在しません.

Will Huttonは,EU内で「アングロ・サクソン」モデル批判と衝突することを回避したブレアの戦略を支持します.しかし,EU予算も,農産物補助金も,トルコ加盟も,・・・トムとジェリーの漫画のように,崖に向かって突っ走る状態から逃げられません.EUは根本的な問題で深く分裂しており,それらに答えなければならないのです.

FTは考えます.EUが必要としているのは,あらゆる経済的ショックに耐えられる,弾力的な雇用・保障・課税のシステムだ,と.解雇を妨げることは,企業に雇用を抑えさせます.この点で,かつてレーガンは正しいことを言いました.「最善の保障システムとは,職場である.」 雇用を生み出せないなら,どのような保障システムも破綻します.


FT October 24 2005

Bush economic adviser in line to replace Greenspan

By Andrew Balls and Edward Alden in Washington

FT October 24 2005

Advent of apostle of ‘inflation targeting'

By Andrew Balls in Washington

FT October 24 2005

Maverick freethinker must adapt to life as new Fed chairman

By Christopher Swann in Washington

(コメント) アラン・グリーンスパンの後継者,次のFRB議長候補として,ブッシュ大統領はベン・バーナンキを指名しました.

インフレ目標を主張する学者として有名ですが,FRB議長になれば,グリーンスパンとの連続性を何より重視する,と語りました.とはいえ,その金融政策をめぐるオーラや権威,ニューヨークの株価に対する“Greenspan put”を引き継ぐことはできない相談です.そして,グリーンスパンがボルカーを引き継いだ後にも,ブラック・マンデーが起きたのです.

バーナンキは,まさに,世界中でインフレ目標を導入させる理論化の中心となってきました.アメリカがこの方向を目指すのはグリーンスパンによって否定されていましたが,議長の交代によって一気に実現するかもしれません.問題は,FRBが完全雇用も目標であると明記されていることです.失業が出れば,議会はインフレ目標を批判するでしょう.日本と逆ですが,金融政策決定への政治介入,という要点は同じです.

既にバーナンキは,好ましいインフレ率の幅を明言しており,過去のタブーを破っています.「一匹狼Maverick」という言葉は,英米の新聞が小泉氏を首相として紹介したときと同じです.さらには,グリーンスパンにも逆らうa one-man ideas factoryであった,とChristopher Swannは評しています.たとえば,最近では「貯蓄過剰」a “savings glut”説です.バーナンキは学究肌の人物であり,FRBの官僚やワシントンの政治家とは激しく対立するかもしれません.

バーナンキには,もはや,多くの新奇なアイデアを繰り出すことより,議長としての指導力が求められるのです.

Mark Gilbert Memo to Bernanke; There's No Ego in Fed Oct. 24 (Bloomberg)

EDMUND L. ANDREWS and VIKAS BAJAJ Bush Nominates Bernanke to Succeed Greenspan as Fed Chief NYT October 24, 2005

Andrew Balls Bernanke is erudite, diplomatic and open FT October 25 2005

Martin Wolf Martin Wolf: A word on how to succeed Greenspan FT October 25 2005

Caroline Baum Transparency Wins, Fed Leaks Lose, With Bernanke Oct. 25 (Bloomberg)

A fiscal resemblance LAT October 25, 2005

White House Shocker NYT October 25, 2005

DAVID LEONHARDT First on To-Do List: Tame Inflation NYT October 25, 2005

After Alan Greenspan WP Tuesday, October 25, 2005

LOUIS UCHITELLE and EDUARDO PORTER White House Gamble Pays for a Princeton Professor NYT October 25, 2005

(コメント) 中央銀行の総裁というのは,スポーツのレフェリーのようなものだ,とMark Gilbertは書きます.連邦公開市場委員会(FOMC)で,決定に対して反対意見が出ることは珍しく,その市場における反応が議長の権威を傷つける可能性もあります.大恐慌の専門家でもあったバーナンキは,デフレの可能性を強く示唆して金融市場を恐れさせました.グリーンスパンが金融緩和したことにも反対しました.

グリーンスパンを超える議長になれるか? それはバーナンキではなく,Zhou Xiaochuan人民銀行総裁にたずねるべきかもしれません.

FRB議長の交代ともなれば,Googleの検索で瞬時に数百万件がヒットします.中でも,FTのAndrew Ballsによる論説は,非常に詳しい紹介です(幼少時の成績まで言及).また,「親愛なるベン」で始まる手紙として,Martin Wolfはバーナンキに忠告します.そこで引用されたロバート・ルービン元財務長官が述べたというFRB議長の必要条件は面白いです.

「経済データを読む偉大な才能,マクロ経済への深い理解,健全な経済政策の堅持だけでなく,さらに市場や産業界の心理,ワシントンと,世界の金融コミュニティーにおける,政治感覚に対しても,鋭い理解が無ければならない.」

誰にも満たせない? それでもボルカーやグリーンスパンはその条件を満たした,と言われます.バーナンキは,おそらく,最善の候補者だろう,と多くの党派とメディアがこの指名を支持しました.

WP Tuesday, October 25, 2005

Master of Minimalism

By George F. Will

WP Tuesday, October 25, 2005

No Job for an Ideologue

By E. J. Dionne Jr.

(コメント) George F. Willは,民主主義と中央銀行総裁とのねじれた関係を考察します.民主主義のシステムでは,政治家たちが政府支出を増やし,増税を回避しようとします.そうしなければ再選されません.その結果,政府はインフレによって債務の実質負担を軽減しようと考えるわけです.連銀の制度は,そもそも議会が作ったのであり,彼らはわれわれの手段である,と.

ボルカーも,グリーンスパンも,こうした政治家の誘惑や恫喝に屈しませんでした.彼らはインフレを抑制し,貨幣価値を安定させることで経済は最も速く成長できる,ということを示しました.だから,結果的に,民主主義はここに及ばない,とGeorge F. Willは考えているようです.グリーンスパンの,あの意味不明な話し方も,政治批判を繰り返したヴォルテールの言葉である,と賞賛します.

この点について,面白い話は引退する人にだけ許されるようです.グリーンスパンの妻は,結婚するまでに3度もプロポーズされた,と言います.なぜなら,彼が何を言っているのか理解できなかったから!

E. J. Dionne Jr.は,バーナンキとブッシュ大統領の距離を問題にします.グリーンスパンは素晴らしい結果をもたらしたが,ブッシュ政権の間違った政策を正当化する役割まで引き受けた,と批判されました.バーナンキはどうか? と.なぜなら,ブッシュ氏はバーナンキを大統領経済諮問委員会の委員長に就けて,現政権の政策全般に対する明確な「踏み絵」を強いたからです.

中央銀行の総裁が,政府のイデオローグであってはならない,と主張します.

LAT October 26, 2005

The ambush waiting for Bernanke

By Stephen S. Roach (the chief economist for Morgan Stanley)

(コメント) バーンズ,ミラー,ボルカー,グリーンスパン.皆,就任直後に,盲点を衝かれました.インフレ,ドル危機,債券市場の怒号,そして,ブラック・マンデー.この試練において,彼らは専門の領域から引きずり出されて,市場の信認を得るまで叩かれるのだ,とStephen S. Roachは予想します

原油価格が上昇を続けて,人々がインフレを心配しているとき,バーナンキはインフレ・ファイターとして最適の人選だった,と多くがブッシュ氏による指名に賛同しています.しかしRoachは,不況とグローバリゼーションによってインフレは抑制されるから,過度に金融政策で反応すべきではない,と言います.むしろ,インフレ目標論者のバーナンキこそが最大の脅威になる,と.

グリーンスパンが退任することで,市場の信認問題が焦点となるのは避けられません.アメリカ経済を脅かすのはインフレよりも,むしろ外国投資家の信頼を維持できるか,という問題です.グリーンスパンは,財政赤字や経常収支赤字が増大する中で,株価や住宅バブルを繰り返しながら,外国投資家の信頼を失いませんでした.しかし,バーナンキは試されるでしょう.

新しい議長に何よりも必要なものは,「インフレ目標」ではないのです.

FT October 27 2005

Fiscal stability should be Fed’s new mantra

By Brad DeLong

(コメント) ボルカーが厳しい引き締めでインフレ期待を挫いたから,グリーンスパンはその基礎の上に成長を築けた,と言われます.しかし,彼は市場のバブルだけでなく,ブッシュ政権の財政赤字も放任しました.

Brad DeLongは,アメリカ政府が予算赤字を均衡させる制度的な仕組みを欠いている以上,Fedの仕事は困難だろう,と考えます.財政赤字を放置したまま,物価が安定することはないからです.バーナンキは,その困難な仕事を逃れたグリーンスパンから,政治家たちとの交渉を任されたのです.

WP Wednesday, October 26, 2005

Inflation: Why It's Not 'That '70s Show'

By Robert J. Samuelson

(コメント) インフレの兆候は一杯あるが,それでも70年代のようなインフレにはならないだろう,とRobert J. Samuelsonは考えます.その理由は,Fedがそれを望まないから.1970年代にインフレが続いたのは,石油価格が上昇する前に,すでにFedが金融緩和を行って景気を過度に刺激していたからです.バーナンキは,たとえ軽い不況を伴っても,彼の評価を傷つける,そのようなリスクを犯さないでしょう.

JAMES GRANT Future Shock at the Fed NYT October 26, 2005

THE NEW YORK TIMES At the Fed, an Unknown Became a Safe Choice NYT October 26, 2005

David Ignatius Bernanke's Learning Curve WP Wednesday, October 26, 2005

Bernanke's bargain with inflation CSM October 27, 2005 edition

Thomas Oliphant Sticking with Fed tradition BG October 27, 2005

Toni Straka History reserves a sad place for next Fed boss Asia Times Online, Oct 28, 2005

(コメント) JAMES GRANTは,バーナンキのインフレ目標論を,物価を予測し,コントロールできるという,愚かな価格統制論である,と断定します.エネルギーの価格予想を担当させるなら仕方ないが,物価や金利を任せても良いのか? たとえば,デフレが嫌なら,日本はもっと貨幣を印刷しろ? ミルトン・フリードマンの有名な(悪名高い?)喩えのおかげで,ウォール街ではバーナンキを"Helicopter Ben"と呼ぶそうです.


BG October 24, 2005

The cure for tyranny

By Tommy G. Thompson

BG October 24, 2005

Why wait on Darfur?

By Robert I. Rotberg

(コメント) イラクの憲法承認に成功したブッシュ大統領は,アメリカはイラク戦争と戦後復興によって民主主義を拡大することに尽くしている,と自賛しました.しかし,Tommy G. Thompsonは,世界の隅々まで民主主義を拡大したい,と言うのであれば,他の手段も使うべきだ,と強調します.たとえば,医療,教育,援助です.市民を殺さないだけでなく,それらは戦争に比べてはるかに安価です.

ボスニア,カンボジア,ルワンダ,・・・ 虐殺のたびに「二度と繰り返さない」という誓いがなされます.しかしRobert I. Rotbergは,この2年間で10万人の死者,200万人の難民を出しながら,アメリカも,国連も,アフリカ連合も,他の主要国も,ダルフールの住民を救うために何もしなかった,と批判します.

スーダン政府は国連軍の展開を承認しません.それなら,ダルフールの住民たちに種子と土地,武器を与えて,耕作と自衛を支援してはどうか? ・・・


NYT October 24, 2005

Poor Nations Are Littered With Old PC's, Report Says

By LAURIE J. FLYNN

(コメント) 情報革命は,他方で,膨大なゴミをもたらします.特に,更新され続けるコンピューターの能力は,発展途上国にPCのゴミ山を築いています.ナイジェリアに関して,シアトルのthe Basel Action Network が報告書"The Digital Dump: Exporting Reuse and Abuse to Africa"で告発しました.リサイクルの名目で集めたPCの多くは,結局,どこかで廃棄されます.

カシミールの被災者の写真にも,山をなす廃棄PCの写真にも,絶句します.


IHT TUESDAY, OCTOBER 25, 2005

Don't let oil harm global prosperity

By Rodrigo de Rato

(コメント) 石油価格が上がっても,IMFは石油を採掘しませんし,効率的な技術開発を支援するわけでもなく,金利を上げることもできません.Rodrigo de Rato専務理事は,石油生産者,消費者,政策担当者に,1970年代の教訓を学ぶよう求めます.すなわち,インフレではなく金融引き締めによって,需要を抑制することが望ましい.貧しい諸国には経済調整のための支援・融資が必要だ.将来のリスクについては,市場によって円滑な価格調整を機能させるべきだ.逆に,さまざまな補助金や価格統制によるショックの緩和策は好ましくない,と.

IMFは,グローバリゼーションにおけるショックを,市場型金融管理で乗り切れるでしょうか?


WP Tuesday, October 25, 2005

What Rice Can't See

By Eugene Robinson

(コメント) なぜあれほど黒人に不人気な政策を取るブッシュ政権に彼女は重用されているのか?  黒人で女性のライス国務長官がいるのだから,能力主義のアメリカには,もはや人種問題など存在しないのか? 黒人には専門的な能力が足りないだけ? 彼女に人種問題のことを尋ねてみたい,とEugene Robinsonはいつも思っていました.そして,結局,彼女は自分が育った町を懐かしむ余り,人種問題に苦しむ多くの町について,何も現実を知らないのだ,と感じます.

彼女が部屋でピアノに向かって,バッハのフーガを練習していたときも,彼女の父親はライフルを持って通りに立ち,KKKからの夜襲に備えていたはずだ.彼女はそれを理解していただろうか?


FT October 26 2005

London’s allure

George Parker

世界都市,ロンドンは人々を魅了する.

EUの指導者たちがチューダー朝の王宮に集まって,グローバリゼーションに立ち向かう最善の策について話し合うが,意見は分かれている.もし彼らがテムズ川から数マイル移動して,ロンドンのthe Southwark Bridge にあるNovotel社に向かえば,良いアイデアが得られるだろう.

The Financial Timesの本社から四方を見渡すなら,すでにグローバル化したヨーロッパの現実を見ることができる.そこでは意欲的な企業や人々が挑戦し続けている.ロンドンのシティーに面して,フランスが所有するNovotel社は,職場に最もふさわしい人物を,スタッフとして60名雇っている.つまり,45人はイギリス人ではない.その国籍は22カ国に及ぶ.

オペレーション・マネージャーのAnne Flatres(フランス人)は,ロンドンが2012年のオリンピック開催地に決まったとき,ロンドン子として跳び上がって喜んだ.Enka Matulova(チェコ人)は半年の予定で入国したが,このまま住み着くつもりだ.2日で職を得られる町は他にないから.Novotel社は移民の流れに乗って,イギリスの首都,ロンドンを作り変える.それは国籍を離脱したヨーロッパ人たちが住む,EUのコスモポリタン都市だ.

ヘンリー8世のハンプトン・コートでは,指導者たちがグローバリゼーションに共通の基盤を模索する.イギリスの首相,トニー・ブレアは,「世界に開かれた,フリー・トレード・ヨーロッパ」という理想に向けてヨーロッパを導こうとする.保護主義はもはや機能しない,と彼は主張する.「世界経済を押しとどめたダムは,何年も前に決壊した.」

しかし,フランス大統領,ジャック・シラクに率いられた,より保護主義的なヨーロッパを求める政治家たちは,中国からの輸入を阻止し,農民たちを関税で取り囲み,企業に対する外国からの買収を阻んで,職場を守ろうとする.シラクは,「ネオ・リベラリズムは新しいコミュニズムだ」と主張し,イギリス・モデルなど「羨ましくも,まねたくもない」と考える.

保護主義の衝動は,イタリア,スペイン,ドイツにも及び,大陸の意欲的な若者をますます離反させつつある.Novotel社が示したように,ブレアがEUサミットの議長として,グローバリゼーションに挑戦するために,より大きな移動性と弾力性を持つヨーロッパ大陸を主張することを,多くの者が期待してきた.

イギリスは「旧い」EUの中で,たった一つ,スウェーデン,アイルランドとともに,東欧の労働者に自由な市場アクセスを認めた国だ.昨年5月に旧共産圏から8カ国がEUに加盟した.その結果,約175000人の東欧出身労働者がイギリスに来て働いている.アイルランドには85000人,スウェーデンは22000人だ.他方,フランスはポーランドに対して1600人の労働ビザしか発行していない.「ポーランド人の配管工」the “Polish plumber”とは,EU憲章に反対するフランス人たちが政治キャンペーンで醜悪なイメージを固定させた言葉だ.「開かれたヨーロッパ」がフランス人の職を脅かす,と.

労働市場の開放で最も利益を受けたのはロンドンだった.イギリスの首都は21世紀のユーロポリスとなり,1950年代にヨーロッパ統一を夢想した人々の理想がここに実現しつつある.自由貿易に依拠して,EU市民なら誰でも,外国人と感じることなく,この町に住み,働くことができる.才能こそが国籍よりも重要なのだ.

19歳のRoxane Boi(フランス人)も,フランスよりロンドンが良い,と言う.髪を染めても,頬にピアスをさしても,ロンドンなら気にしないし,仕事を見つけることもできる.階下に住む31歳のKrzysztof Flaszynski(ポーランド人)は,ここでポーランド人が働きやすいと認める.隣室のイギリス人,Mark Tylerは左官だが,ロンドンの建設現場で働く労働者のおよそ半分が東中欧からの移民だろう,と言う.彼らその仲間は心配しているが,特に恨んだりしない.「それは脅威さ.彼らはよく働き,しかも安い賃金だ.長時間働き,自分たちより社会保障の経費も少ない.しかし,個人的な敵意は持たない.」「彼らは40年も閉じ込められた.仕事に飢えるのは当然だ.」

もし生活できなくなったらどうするのか? と聞かれて,彼は答えた.「旅に出るさ.既にオーストラリアやニュー・ジーランドに行った奴もいる.俺たちも,かつてバーレーンやサウジ・アラビアに行った.」

欧州労働組合連合の委員長,John Monks(イギリス人)は,東からの低賃金労働力の流入がここでの賃金を下げたという証拠はない,と言う.歓迎する雰囲気だ,と.Krakow から来たMarian Sobczak(ポーランド人)はポーランドのマクドナルドで働いていた.今では妻と一緒に10人を雇うMiracle Property Services社を経営する.「会社を始めるなんて夢物語だった.」「銀行口座を持ったり,国民保健の番号をもらったりするのも大変だった.ここでは,自分たちが何をするのもポーランドよりはるかに簡単だ.」 イギリスの新聞が,社会給付を欲しいから移民が来る,と騒ぐのに対して,彼は反論する.「ポーランドから来る者たちは働くためだけに来る.給付のことなど何も知らない.まず生活費を稼ぎたいのだ.」

イギリス・モデルに対する主要な反対は,レッセ・フェール型の資本主義は社会的結束や優れた社会サービスと両立しない,というものだ.イギリスの首都として,その公立学校や交通手段の慢性的な劣悪さは,シラク氏に「もし医療や貧困を考えるなら,フランスのほうがイギリスよりもずっと良い」と主張するのを許した.

世論調査機関Eurobarometerは,公共サービスや公共交通手段,住宅供給,一般的な清潔さに関して,ロンドンがヨーロッパ31都市中の最下位から三つ目である,と示した.イギリスも他のヨーロッパと同じく,経済的リベラリズムと社会的条件との最善の組合せをまだ模索している.ブレア氏はハンプトン・コートで願った.指導者たちが意見を収斂させて,グローバル・ヨーロッパの理想を共有し,市民たちに職業訓練と成功のための支援を尽くしたい,と.しかし,ブレアの側近も認めるように,彼らが合意できる見込みはほとんどない.

互いに耳を傾けるより,指導者たちは多分その企業や市民たちに話しかけるだろう.そして,市民や企業の多くが「足による投票」を行い,グローバル化の時代に気付かせるはずだ.ロンドンは人々を魅了する.


Stephen Wall Britain should play Thomas More at the summit FT October 26 2005

Mario Monti What Germany and France must rediscover FT October 26 2005

Matthew Lynn Blair's Globalization Summit Offers Only Words Oct. 26 (Bloomberg)

Simon Tisdall Liberal v social EU: the false dichotomy The Guardian, Wednesday October 26, 2005

MARK LANDLER German Labor's New Reality NYT October 26, 2005

(コメント) EUサミットであれ,東アジアサミットであれ,グローバリゼーションに対する独自の社会モデルを模索していることは明らかです.正しい答えは誰にも分かりません.

Stephen Wallが,ブレアとゴードン・ブラウンに期待するのは,ヘンリー8世の側近として実験を握り,後にその離婚問題で失脚したトマス・ウルジーではなく,現実のシステムが抱える根本的な問題点を指摘して改革を説いたトマス・モアになることです.しかし,モアは処刑されましたが.

EUサミットをめぐる考察は他にも多くありました.二つのモデルが対立するというより,いずれの国も,グローバリゼーションと社会的な目標とを両立させて,経済の弾力的な適応と雇用創出を目指しているのです.


FT October 27 2005

If we assume a ‘closed economy’...

By Samuel Brittan

(コメント) 貿易理論で明確に説かれるが,驚くことは,低賃金国と高賃金国が貿易しても,両者が利益を得られる,という命題です.そして,両国間の貿易や資本移動は,労働者の移動に代替するものだ,と主張します.

それでは,単一の「閉鎖経済」を考えます.Samuel Brittanは,アメリカの教授とトラック運転手の賃金格差,アメリカと中国との賃金格差,を同様に説明します.スミスが『国富論』で理解したように,優位は均等化に向かう傾向があります.しかし,現実にはそれを阻む要因が多く存在します.教育機会や閉鎖的な商慣行など,その要因が取り除かれたら,両者の賃金は均衡化に向かいます.アメリカと中国の労働市場でも,「一物一価の法則」が働きます.

世界経済が本当に統合されたら,という予測を香港上海銀行(HSBC)が試みました.西側の企業が中国やインドに生産を移転して,労働者は市場の支配力を失います.競争によって耐久消費財やサービスの価格はさらに下落しますが,他方,世界経済の拡大により石油や資源の価格が上昇するでしょう.

自由貿易論者は,それでも西側の国は全体として利益を受ける,と主張します.問題はその分配である,と.しかし,これにも最近,反論がありました(David Colander).もし企業とその資本の所有も移転されてしまうなら,旧来の工業諸国は全体としても利益を失うだろう,と.世界経済のエンジンそのものが中国やインドに移転されてしまえば,貿易の利益を得る者は外国に再配置される.各国内で再分配しても,貿易は利益をもたらさない.

だから,西側の政治家たちは,絶えず技術革新を進めて,新しい産業を興すように訴えるのでしょう.そうでなければ,豊かな国が貧しい国を助けるべきだ,というサミットの政治的な宣言は無意味なものになります.われわれの賃金が下がるのではなく,中国やインドの賃金が上昇して均等化するのでなければなりません.しかし,膨大な低賃金労働者の存在が,それを阻みます.

反グローバリゼーションの主張は,貧しい国が利益を損なわれるからではなく,彼らが教育や投資によって,十分,急速に豊かになっていないという理由で,行われるべきなのです.

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The Economist, October 8th 2005

A survey of Japan: The sun also rises

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The Economist, October 15th 2005

Kashmir’s double tragedy

The Federal Reserve: After Alan

Estonia and Slovenia: When small is beautifully successful

Corporate America’s legacy costs: Now for the reckoning

Economics focus: War games

(コメント) 悲劇はいつも貧しい者を襲う,とThe Economistは訴えます.発展途上諸国では下痢によって,毎年,数百万人が死亡します.豊かな国では,そのような死者はほとんどいません.清潔な水と基本的な薬があれば良いからです.アジア,アフリカ,南アメリカでは洪水も,毎年,数万人の死者を出します.カトリーナは例外として,北アメリカやヨーロッパでは数百人も犠牲者が出ることはありません.地震もそうです.パキスタンが管理するカシミール地方で,マグニチュード7.6の地震が起き,数万人が死亡したと伝えられています.他方,ロサンゼルス,台湾,そして人口の集中した神戸の地震でも,犠牲者は数千人です.問題はその建物や規制,避難場所でさえ耐震性を補強できていないことです.

The Economistは,グリーンスパンの後継者にバーナンキではなく,ドン・コーンを推薦しました.そのFRBにおける経験と政策知識,政治的な独立性を評価したからです.新しい議長が何をもたらすか,当然,何かするだろう,と関心を払います.エストニアにおける市場改革の成功を,スロヴェニアの旧共産党に属する政治家も羨望しています.アメリカの大企業が“legacy costs”に苦しむのは自業自得のように思いますし,破産法で年金などの約束を反故にするのは,いかにも破綻した社会契約を感じます.ノーベル経済学賞を得た二人のゲーム理論家たちなら,何と答えたでしょうか?


Religion and the law: A brewing storm

Germany’s far right: An untamed beast

(コメント) たまたま二つの「狂信的な」集団が紹介されていました.一つは,アメリカのアリゾナとユタの州境にある小さな街,Colorado City Hildaleを支配した,一夫多妻制の信仰集団(The Fundamentalist Church of Jesus Christ of Latter Day Saints: FLDS)です.預言者Jeffsに従い,モルモン教会から分離した信者たちが,アメリカで違法となっている一夫多妻制を公然と維持しています.彼ら以外には歩く人も無く,街にはホテルもバーもカフェもありません.郵便局と小店舗,牛乳屋が一つあるだけです.信者でない者は監視され,学校でも教える内容を規制します.

もう一つは,ドイツのネオ・ナチ集団(The neo-Nazi National Democrats: NPD)です.彼らは既に,単にヒトラーや第三帝国の復興を主張するのではなく,グローバリゼーションやEU拡大,移民労働者の流入に反対し、特に地方の若者の間では,そのファッションや音楽が「クール」なものとして流行しているのです.全国的には議員を出す5%に及びませんが,地方では高くなり,25%の得票で地方議員を出しています.特に若者には20%以上の支持を得ています.

信仰や習俗によって隔離された彼らを,正常な社会に戻すために,人々は模索しています.