第五節 海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するための国際的規則及び国内法
第二百七条 陸にある発生源からの汚染
1 いずれの国も、国際的に合意される規則及び基準並びに勧告される方式及び手続を考慮して、陸にある発生源(河川、三角江、パイプライン及び排水口を含む。)からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため法令を制定する。
2 いずれの国も、1に規定する汚染を防止し、軽減し及び規制するために必要な他の措置をとる。
3 いずれの国も、1に規定する汚染に関し、適当な地域的規模において政策を調和させるよう努力する。
4 いずれの国も、地域的特性並びに開発途上国の経済力及び経済開発のニーズを考慮して、特に、権限のある国際機関又は外交会議を通じ、陸にある発生源からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、世界的及び地域的な規則及び基準並びに勧告される方式及び手続を定めるよう努力する。これらの規則、基準並びに勧告される方式及び手続は、必要に応じ随時再検討する。
5 1、2及び4に規定する法令、措置、規則、基準並びに勧告される方式及び手続には、毒性の又は有害な物質(特に持続性のもの)の海洋環境への放出をできる限り最小にするためのものを含める。
第二百八条 国の管轄の下で行う海底における活動からの汚染
1 沿岸国は、自国の管轄の下で行う海底における活動から又はこれに関連して生ずる海洋環境の汚染並びに第六十条及び第八十条の規定により自国の管轄の下にある人工島、施設及び構築物から生ずる海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため法令を制定する。
2 いずれの国も、1に規定する汚染を防止し、軽減し及び規制するために必要な他の措置をとる。
3 1及び2に規定する法令及び措置は、少なくとも国際的な規則及び基準並びに勧告される方式及び手続と同様に効果的なものとする。
4 いずれの国も、1に規定する汚染に関し、適当な地域的規模において政策を調和させるよう努力する。
5 いずれの国も、特に、権限のある国際機関又は外交会議を通じ、1に規定する海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、世界的及び地域的な規則及び基準並びに勧告される方式及び手続を定める。これらの規則、基準並びに勧告される方式及び手続は、必要に応じ随時再検討する。
第二百九条 深海底における活動からの汚染
1 深海底における活動からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、国際的な規則及び手続が、第十一部の規定に従って定められる。これらの規則及び手続は、必要に応じ随時再検討される。
2 いずれの国も、この節の関連する規定に従うことを条件として、自国を旗国とし、自国において登録され又は自国の権限の下で運用される船舶、施設、構築物及び他の機器により行われる深海底における活動からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため法令を制定する。この法令の要件は、少なくとも1に規定する国際的な規則及び手続と同様に効果的なものとする。
第二百十条 投棄による汚染
1 いずれの国も、投棄による海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため法令を制定する。
2 いずれの国も、1に規定する汚染を防止し、軽減し及び規制するために必要な他の措置をとる。
3 1及び2に規定する法令及び措置は、国の権限のある当局の許可を得ることなく投棄が行われないことを確保するものとする。
4 いずれの国も、特に、権限のある国際機関又は外交会議を通じ、投棄による海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、世界的及び地域的な規則及び基準並びに勧告される方式及び手続を定めるよう努力する。これらの規則、基準並びに勧告される方式及び手続は、必要に応じ随時再検討する。
5 領海及び排他的経済水域における投棄又は大陸棚への投棄は、沿岸国の事前の明示の承認なしに行わないものとし、沿岸国は、地理的事情のため投棄により悪影響を受けるおそれのある他の国との問題に妥当な考慮を払った後、投棄を許可し、規制し及び管理する権利を有する。
6 国内法令及び措置は、投棄による海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制する上で少なくとも世界的な規則及び基準と同様に効果的なものとする。
第二百十一条 船舶からの汚染
1 いずれの国も、権限のある国際機関又は一般的な外交会議を通じ、船舶からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、国際的な規則及び基準を定めるものとし、同様の方法で、適当なときはいつでも、海洋環境(沿岸を含む。)の汚染及び沿岸国の関係利益に対する汚染損害をもたらすおそれのある事故の脅威を最小にするための航路指定の制度の採択を促進する。これらの規則及び基準は、同様の方法で必要に応じ随時再検討する。
2 いずれの国も、自国を旗国とし又は自国において登録された船舶からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するための法令を制定する。この法令は、権限のある国際機関又は一般的な外交会議を通じて定められる一般的に受け入れられている国際的な規則及び基準と少なくとも同等の効果を有するものとする。
3 いずれの国も、外国船舶が自国の港若しくは内水に入り又は自国の沖合の係留施設に立ち寄るための条件として海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するための特別の要件を定める場合には、当該要件を適当に公表するものとし、また、権限のある国際機関に通報する。二以上の沿岸国が政策を調和させるために同一の要件を定める取決めを行う場合には、通報には、当該取決めに参加している国を明示する。いずれの国も、自国を旗国とし又は自国において登録された船舶の船長に対し、このような取決めに参加している国の領海を航行している場合において、当該国の要請を受けたときは、当該取決めに参加している同一の地域の他の国に向かって航行しているか否かについての情報を提供すること及び、当該他の国に向かって航行しているときは、当該船舶がその国の入港要件を満たしているか否かを示すことを要求する。この条の規定は、船舶による無害通航権の継続的な行使又は第ニ十五条2の規定の適用を妨げるものではない。
4 沿岸国は、自国の領海における主権の行使として、外国船舶(無害通航権を行使している船舶を含む。)からの海洋汚染を防止し、軽減し及び規制するための法令を制定することができる。この法令は、第ニ部第三節の定めるところにより、外国船舶の無害通航を妨害するものであってはならない。
5 沿岸国は、第六節に規定する執行の目的のため、自国の排他的経済水域について、船舶からの汚染を防止し、軽減し及び規制するための法令であって、権限のある国際機関又は一般的な外交会議を通じて定められる一般的に受け入れられている国際的な規則及び基準に適合し、かつ、これらを実施するための法令を制定することができる。
6 (a)沿岸国は、1に規定する国際的な規則及び基準が特別の事情に応ずるために不適当であり、かつ、自国の排他的経済水域の明確に限定された特定の水域において、海洋学上及び生態学上の条件並びに当該水域の利用又は資源の保護及び交通の特殊性に関する認められた技術上の理由により、船舶からの汚染を防止するための拘束力を有する特別の措置をとることが必要であると信ずるに足りる合理的な理由がある場合には、権限のある国際機関を通じて他のすべての関係国と適当な協議を行った後、当該水域に関し、当該国際機関に通告することができるものとし、その通告に際し、裏付けとなる科学的及び技術的証拠並びに必要な受入施設に関する情報を提供する。当該国際機関は、通告を受領した後十二箇月以内に当該水域における条件が第一段に規定する要件に合致するか否かを決定する。当該国際機関が合致すると決定した場合には、当該沿岸国は、当該水域について、船舶からの汚染の防止、軽減及び規制のための法令であって、当該国際機関が特別の水域に適用し得るとしている国際的な規則及び基準又は航行上の方式を実施するための法令を制定することができる。この法令は、当該国
際機関への通告の後十五箇月間は、外国船舶に適用されない。
(b)沿岸国は、(a)に規定する明確に限定された特定の水域の範囲を公表する。
(c)沿岸国は、(a)に規定する水域について船舶からの汚染の防止、軽減及び規制のための追加の法令を制定する意図を有する場合には、その旨を(a)の通報と同時に国際機関に通報する。この追加の法令は、排出又は航行上の方式について定めることができるものとし、外国船舶に対し、設計、構造、乗組員の配乗又は設備につき、一般的に受け入れられている国際的な規則及び基準以外の基準の遵守を要求するものであってはならない。この追加の法令は、当該国際機関への通報の後十二箇月以内に当該国際機関が合意することを条件として、通報の後十五箇月で外国船舶に適用される。
7 この条に規定する国際的な規則及び基準には、特に、排出又はその可能性を伴う事件(海難を含む。)により自国の沿岸又は関係利益が影響を受けるおそれのある沿岸国への迅速な通報に関するものを含めるべきである。
第二百十二条 大気からの又は大気を通ずる汚染
1 いずれの国も、国際的に合意される規則及び基準並びに勧告される方式及び手続並びに航空の安全を考慮し、大気からの又は大気を通ずる海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、自国の主権の下にある空間及び自国を旗国とする船舶又は自国において登録された船舶若しくは航空機について適用のある法令を制定する。
2 いずれの国も、1に規定する汚染を防止し、軽減し及び規制するために必要な他の措置をとる。
3 いずれの国も、特に、権限のある国際機関又は外交会議を通じ、1に規定する汚染を防止し、軽減し及び規制するため、世界的及び地域的な規則及び基準並びに勧告される方式及び手続を定めるよう努力する。
第六節 執行
第二百十三条 陸にある発生源からの汚染に関する執行
いずれの国も、第二百七条の規定に従って制定する自国の法令を執行するものとし、陸にある発生源からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、権限のある国際機関又ほ外交会議を通じて定められる適用のある国際的な規則及び基準を実施するために必要な法令を制定し及び他の措置をとる。
第二百十四条 海底における活動からの汚染に関する執行
いずれの国も、第二百八条の規定に従って制定する自国の法令を執行するものとし、自国の管轄の下で行う海底における活動から又はこれに関連して生ずる海洋環境の汚染並びに第六十条及び第八十条の規定により自国の管轄の下にある人工島、施設及び構築物から生ずる海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、権限のある国際機関又は外交会議を通じて定められる適用のある国際的な規則及び基準を実施するために必要な法令を制定し及び他の措置をとる。
第二百十五条 深海底における活動からの汚染に関する執行
深海底における活動からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため第十一部の規定に従って定められる国際的な規則及び手続の執行は、同部の規定により規律される。
第二百十六条 投棄による汚染に関する執行
1 この条約に従って制定する法令並びに権限のある国際機関又は外交会議を通じて定められる適用のある国際的な規則及び基準であって、投棄による海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するためのものについては、次の国が執行する。
(a)沿岸国の領海若しくは排他的経済水域における投棄又は大陸棚への投棄については当該沿岸国
(b)自国を旗国とする船舶については当該旗国又は自国において登録された船舶若しくは航空機についてはその登録国
(c)国の領士又は沖合の係留施設において廃棄物その他の物を積み込む行為については当該国
2 いずれの国も、他の国がこの条の規定に従って既に手続を開始している場合には、この条の規定により手続を開始する義務を負うものではない。
第二百十七条 旗国による執行
1 いずれの国も、自国を旗国とし又は自国において登録された船舶が、船舶からの海洋環境の汚染の防止、軽減及び規制のため、権限のある国際機関又は一般的な外交会議を通じて定められる適用のある国際的な規則及び基準に従うこと並びにこの条約に従って制定する自国の法令を遵守することを確保するものとし、これらの規則、基準及び法令を実施するために必要な法令を制定し及び他の措置をとる。旗国は、違反が生ずる場所のいかんを問わず、これらの規則、基準及び法令が効果的に執行されるよう必要な手段を講ずる。
2 いずれの国も、特に、自国を旗国とし又は自国において登録された船舶が1に規定する国際的な規則及び基準の要件(船舶の設計、構造、設備及び乗組員の配乗に関する要件を含む。)に従って 航行することができるようになるまで、その航行を禁止されることを確保するために適当な措置をとる。
3 いずれの国も、自国を旗国とし又は自国において登録された船舶が1に規定する国際的な規則及び基準により要求され、かつ、これらに従って発給される証書を船内に備えることを確保する。いずれの国も、当該証書が船舶の実際の状態と合致しているか否かを確認するため自国を旗国とする船舶が定期的に検査されることを確保する。当該証書は、他の国により船舶の状態を示す証拠として認容されるものとし、かつ、当該他の国が発給する証書と同一の効力を有するものとみなされる。ただし、船舶の状態が実質的に証書の記載事項どおりでないと信ずるに足りる明白な理由がある場合は、この限りでない。
4 船舶が権限のある国際機関又は一般的な外交会議を通じて定められる規則及び基準に違反する場合には、旗国は、違反が生じた場所又は当該違反により引き起こされる汚染が発生し若しくは発見された場所のいかんを問わず、当該違反について、調査を直ちに行うために必要な措置をとるものとし、適当なときは手続を開始する。ただし、次条、第二百白二十条及び第二百二十八条の規定の適用を妨げるものではない。
5 旗国は、違反の調査を実施するに当たり、事件の状況を明らかにするために他の国の協力が有用である場合には、当該他の国の援助を要請することができる。いずれの国も、旗国の適当な要請に応ずるよう努力する。
6 いずれの国も、他の国の書面による要請により、自国を旗国とする船舶によるすべての違反を調査する。旗国は、違反につき手続をとることを可能にするような十分な証拠が存在すると認める場合には、遅滞なく自国の法律に従って手続を開始する。
7 旗国は、とった措置及びその結果を要請国及び権限のある国際機関に速やかに通報する。このような情報は、すベての国が利用し得るものとする。
8 国の法令が自国を旗国とする船舶に関して定める罰は、場所のいかんを問わず違反を防止するため十分に厳格なものとする。
第二百十八条 寄港国による執行
1 いずれの国も、船舶が自国の港又は沖合の係留施設に任意にとどまる場合には、権限のある国際機関又は一般的な外交会議を通じて定められる適用のある国際的な規則及び基準に違反する当該船舶からの排出であって、当該国の内水、領海又は排他的経済水域の外で生じたものについて、調査を実施することができるものとし、証拠により正当化される場合には、手続を開始することができる。
2 1に規定するいかなる手続も、他の国の内水、領海又は排他的経済水域における排出の違反については、開始してはならない。ただし、当該他の国、旗国若しくは排出の違反により損害若しくは脅威を受けた国が要請する場合又は排出の違反が手続を開始する国の内水、領海若しくは排他的経済水域において汚染をもたらし若しくはもたらすおそれがある場合は、この限りでない。
3 いずれの国も、船舶が自国の港又は沖合の係留施設に任意にとどまる場合には、1に規定する排出の違反であって、他の国の内水、領海若しくは排他的経済水域において生じたもの又はこれらの水域に損害をもたらし若しくはもたらすおそれがあると認めるものについて、当該他の国からの調査の要請に実行可能な限り応ずる。いずれの国も、船舶が自国の港又は沖合の係留施設に任意にとどまる場合には、1に規定する排出の違反について、違反が生じた場所のいかんを問わず、旗国からの調査の要請に同様に実行可能な限り応ずる。
4 この条の規定に従い寄港国により実施された調査の記録は、要請により、旗国又は沿岸国に送付する。違反が、沿岸国の内水、領海又は排他的経済水域において生じた場合には、当該調査に基づいて寄港国により開始された手続は、第七節の規定に従うことを条件として、当該沿岸国の要請により停止することができる。停止する場合には、事件の証拠及び記録並びに寄港国の当局に支払われた保証金又は提供された他の金銭上の保証は、沿岸国に送付する。寄港国における手続は、その送付が行われた場合には、継続することができない。
第二百十九条 汚染を回避するための船舶の堪航性に関する措置
いずれの国も、第七節の規定に従うことを条件として、要請により又は自己の発意により、自国の港の一又は沖合の係留施設の一にある船舶が船舶の堪航性に関する適用のある国際的な規則及び基準に違反し、かつ、その違反が海洋環境に損害をもたらすおそれがあることを確認した場合には、実行可能な限り当該船舶を航行させないようにするための行政上の措置をとる。当該国は、船舶に対し最寄りの修繕のための適当な場所までに限り航行を許可することができるものとし、当該違反の原因が除去された場合には、直ちに当該船舶の航行の継続を許可する。
第二百二十条 沿岸国による執行
1 いずれの国も、船舶が自国の港又は沖合の係留施設に任意にとどまる場合において、この条約に従って制定する自国の法令又は適用のある国際的な規則及び基準であって、船舶からの汚染の防止、軽減及び規制のためのものに対する違反が自国の領海又は排他的経済水域において生じたときは、第七節の規定に従うことを条件として、当該違反について手続を開始することができる。
2 いずれの国も、自国の領海を航行する船舶が当該領海の通航中にこの条約に従って制定する自国の法令又は適用のある国際的な規則及び基準であって、船舶からの汚染の防止、軽減及び規制のためのものに違反したと信ずるに足りる明白な理由がある場合には、第二部第三節の関連する規定の適用を妨げることなく、その違反について当該船舶の物理的な検査を実施することができ、また、証拠により正当化されるときは、第七節の規定に従うことを条件として、自国の法律に従って手続(船舶の抑留を含む。)を開始することができる。
3 いずれの国も、自国の排他的経済水域又は領海を航行する船舶が当該排他的経済水域において船舶からの汚染の防止、軽減及び規制のための適用のある国際的な規則及び基準又はこれらに適合し、かつ、これらを実施するための自国の法令に違反したと信ずるに足りる明白な理由がある場合には、当該船舶に対しその識別及び船籍港に関する情報、直前及び次の寄港地に関する情報並びに違反が生じたか否かを確定するために必要とされる他の関連する情報を提供するよう要請することができる。
4 いずれの国も、自国を旗国とする船舶が3に規定する情報に関する要請に従うように法令を制定し及び他の措置をとる。
5 いずれの国も、自国の排他的経済水域又は領海を航行する船舶が当該排他的経済水域において3に規定する規則及び基準又は法令に違反し、その違反により著しい海洋環境の汚染をもたらし又はもたらすおそれのある実質的な排出が生じたと信ずるに足りる明白な理由がある場合において、船舶が情報の提供を拒否したとき又は船舶が提供した情報が明白な実際の状況と明らかに相違しており、かつ、事件の状況により検査を行うことが正当と認められるときは、当該違反に関連する事項について当該船舶の物理的な検査を実施することができる。
6 いずれの国も、自国の排他的経済水域又は領海を航行する船舶が当該排他的経済水域において3に規定する規則及び基準又は法令に違反し、その違反により自国の沿岸若しくは関係利益又は自国の領海若しくは排他的経済水域の資源に対し著しい損害をもたらし又はもたらすおそれのある排出が生じたとの明白かつ客観的な証拠がある場合には、第七節の規定に従うこと及び証拠により正当化されることを条件として、自国の法律に従って手続(船舶の抑留を含む。)を開始することができる。
7 6の規定にかかわらず、6に規定する国は、保証金又は他の適当な金銭上の保証に係る要求に従うことを確保する適当な手続が、権限のある国際機関を通じ又は他の方法により合意されているところに従って定められる場合において、当該国が当該手続に拘束されるときは、船舶の航行を認めるものとする。
8 3から7までの規定は、第二百十一条6の規定に従って制定される国内法令にも適用する。
第二百二十一条 海難から生ずる汚染を回避するための措置
1 この部のいずれの規定も、著しく有害な結果をもたらすことが合理的に予測される海難又はこれに関連する行為の結果としての汚染又はそのおそれから自国の沿岸又は関係利益(漁業を含む。)を保護するため実際に被った又は被るおそれのある損害に比例する措置を領海を越えて慣習上及び条約上の国際法に従ってとり及び執行する国の権利を害するものではない。
2 この条の規定の適用上、「海難」とは、船舶の衝突、座礁その他の航行上の事故又は船舶内若しくは船舶外のその他の出来事であって、船舶又は積荷に対し実質的な損害を与え又は与える急迫したおそれがあるものをいう。
第二百二十二条 大気からの又は大気を通ずる汚染に関する執行
いずれの国も、自国の主権の下にある空間において又は自国を旗国とする船舶若しくは自国において登録された船舶若しくは航空機について、第二百十二条1の規定及びこの条約の他の規定に従って制定する自国の法令を執行するものとし、航空の安全に関するすべての関連する国際的な規則及び基準に従って、大気からの又は大気を通ずる海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、権限のある国際機関又は外交会議を通じて定められる適用のある国際的な規則及び基準を実施するために必要な法令を制定し及び他の措置をとる。
第七節 保障措置
第二百二十三条 手続を容易にするための措置
いずれの国も、この部の規定に従って開始する手続において、証人尋問及び他の国の当局又は権限のある国際機関から提出される証拠の認容を容易にするための措置をとるものとし、権限のある国際機関、旗国又は違反から生ずる汚染により影響を受けた国の公式の代表の手続への出席を容易にする。手続に出席する公式の代表は、国内法令又は国際法に定める権利及び義務を有する。
第二百二十四条 執行の権限の行使
この部の規定に基づく外国船舶に対する執行の権限は、公務員又は軍濫、軍用航空機その他政府の公務に使用されていることが明らかに表示されており、かつ、識別されることのできる船舶若しくは航空機で当該権限を与えられているものによってのみ行使することができる。
第二百二十五条 執行の権限の行使に当たり悪影響を回避する義務
いずれの国も、外国船舶に対する執行の権限をこの条約に基づいて行使するに当たっては、航行の安全を損ない、その他船舶に危険をもたらし、船舶を安全でない港若しくはびょう地に航行させ又は海洋環境を不当な危険にさらしてはならない。
第二百二十六条 外国船舶の調査
1 (a)いずれの国も、第二百十六条、第二百十八条及び第二百二十条に規定する調査の目的のために必要とする以上に外国船舶を遅延させてはならない。外国船舶の物理的な検査は、一般的に受け入れられている国際的な規則及び基準により船舶が備えることを要求されている証書、記録その他の文書又は船舶が備えている類似の文書の審査に制限される。外国船舶に対するこれ以上の物理的な検査は、その審査の後に限り、かつ、次の場合に限り行うことができる。
(i)船舶又はその設備の状態が実質的にこれらの文書の記載事項どおりでないと信ずるに足りる明白な理由がある場合
(ii)これらの文書の内容が疑わしい違反について確認するために不十分である場合
(iii)船舶が有効な証書及び記録を備えていない場合
(b)調査により、海洋環境の保護及び保全のための適用のある法令又は国際的な規則及び基準に対する違反が明らかとなった場合には、合理的な手続(例えば、保証金又は他の適当な金銭上の保証)に従うことを条件として速やかに釈放する。
(c)海洋環境に対し不当に損害を与えるおそれがある場合には、船舶の堪航性に関する適用のある国際的な規則及び基準の適用を妨げることなく、船舶の釈放を拒否することができ又は最寄りの修繕のための適当な場所への航行を釈放の条件とすることができる。釈放が拒否され又は条件を付された場合には、当該船舶の旗国は、速やかに通報を受けるものとし、第十五部の規定に従い当該船舶の釈放を求めることができる。
2 いずれの国も、海洋における船舶の不必要な物理的な検査を回避するための手続を作成することに協力する。
第二百二十七条 外国船舶に対する無差別
いずれの国も、この部の規定に基づく権利の行使及び義務の履行に当たって、他の国の船舶に対して法律上又は事実上の差別を行ってはならない。
第二百二十八条 手続の停止及び手続の開始の制限
1 手続を開始する国の領海を越える水域における外国船舶による船舶からの汚染の防止、軽減及び規制に関する適用のある当該国の法令又は国際的な規則及び基準に対する違反について罰を科するための手続は、最初の手続の開始の日から六箇月以内に旗国が同一の犯罪事実について罰を科するための手続をとる場合には、停止する。ただし、その手続が沿岸国に対する著しい損害に係る事件に関するものである場合又は当該旗国が自国の船舶による違反について適用のある国際的な規則及び基準を有効に執行する義務を履行しないことが繰り返されている場合は、この限りでない。この条の規定に基づいて当該旗国が手続の停止を要請した場合には、当該旗国は、適当な時期に、当該事件の一件書類及び手続の記録を先に手続を開始した国の利用に供する。当該旗国が開始した手続が完了した場合には、停止されていた手続は、終了する。当該手続に関して負担した費用の支払を受けた後、沿岸国は、当該手続に関して支払われた保証金又は提供された他の金銭上の保証を返還する。
2 違反が生じた日から三年が経過した後は、外国船舶に罰を科するための手続を開始してはならない。いずれの国も、他の国が、1の規定に従うことを条件として、手続を開始している場合には、外国船舶に罰を科するための手続をとってはならない。
3 この条の規定は、他の国による手続のいかんを問わず、旗国が自国の法律に従って措置(罰を科するための手続を含む、)をとる権利を害するものではない。
第二百二十九条 民事上の手続の開始
この条約のいずれの規定も、海洋環境の汚染から生ずる損失又は損害に対する請求に関する民事上の手続の開始に影響を及ぼすものではない。
第二百三十条 金銭罰及び被告人の認められている権利の尊重
1 海洋環境の汚染の防止、軽減及び規制のための国内法令又は適用のある国際的な規則及び基準に対する違反であって、領海を越える水域における外国船舶によるものについては、金銭罰のみを科することができる。
2 海洋環境の汚染の防止、軽減及び規制のための国内法令又は適用のある国際的な規則及び基準に対する違反であって、領海における外国船舶によるものについては、当該領海における故意によるかつ重大な汚染行為の場合を除くほか、金銭罰のみを科することができる。
3 外国船舶による1及び2に規定する違反であって、罰が科される可能性のあるものについての手続の実施に当たっては、被告人の認められている権利を尊重する。
第二百三十一条 旗国その他の関係国に対する通報
いずれの国も、第六節の規定により外国船舶に対してとった措置を旗国その他の関係国に速やかに通報するものとし、旗国に対しては当該措置に関するすべての公の報告書を提供する。ただし、領海における違反については、前段の沿岸国の義務は、手続においてとられた措置にのみ適用する。第六節の規定により外国船舶に対してとられた措置は、旗国の外交官又は領事官及び、可能な場合には、当該旗国の海事当局に直ちに通報する。
第二百三十二条 執行措置から生ずる国の責任
いずれの国も、第六節の規定によりとった措置が違法であった場合又は入手可能な情報に照らして合理的に必要とされる限度を超えた場合には、当該措置に起因する損害又は損失であって自国の責めに帰すべきものについて責任を負う。いずれの国も、このような損害又は損失に関し、自国の裁判所において訴えを提起する手段につき定める。
第二百三十三条 国際航行に使用されている海峡に関する保障措置
第五節からこの節までのいずれの規定も、国際航行に使用されている海峡の法制度に影響を及ぼすものではない。ただし、第十節に規定する船舶以外の外国船舶が第四十二条1の(a)及び(b)に規定する法令に違反し、かつ、海峡の海洋環境に対し著しい損害をもたらし又はもたらすおそれがある場合には、海峡沿岸国は、適当な執行措置をとることができるものとし、この場合には、この節の規定を適用する。
第八節 氷に覆われた水域
第二百三十四条 氷に覆われた水域
沿岸国は、自国の排他的経済水域の範囲内における氷に覆われた水域であって、特に厳しい気象条件及び年間の大部分の期間当該水域を覆う氷の存在が航行に障害又は特別の危険をもたらし、かつ、海洋環境の汚染が生態学的均衡に著しい害又は回復不可能な障害をもたらすおそれのある水域において、船舶からの海洋汚染の防止、軽減及び規制のための無差別の法令を制定し及び執行する権利を有する。この法令は、航行並びに入手可能な最良の科学的証拠に基づく海洋環境の保護及び保全に妥当な考慮を払ったものとする。
第九節 責任
第二百三十五条 責任
1 いずれの国も、海洋環境の保護及び保全に関する自国の国際的義務を履行するものとし、国際法に基づいて責任を負う。
2 いずれの国も、自国の管轄の下にある自然人又は法人による海洋環境の汚染によって生ずる損害に関し、自国の法制度に従って迅速かつ適正な補償その他の救済のための手段が利用し得ることを確保する。
3 いずれの国も、海洋環境の汚染によって生ずるすべての損害に関し迅速かつ適正な賠償及び補償を確保するため、損害の評価、賠償及び補償並びに関連する紛争の解決について、責任に関する現行の国際法を実施し及び国際法を一層発展させるために協力するものとし、適当なときは、適正な賠償及び補償の支払に関する基準及び手続(例えば、強制保険又は補償基金)を作成するために協力する。
第十節 主権免除
第二百三十六条 主権免除
海洋環境の保護及び保全に関するこの条約の規定は、軍艦、軍の支援船又は国が所有し若しくは運航する他の船舶若しくは航空機で政府の非商業的役務にのみ使用しているものについては、適用しない。ただし、いずれの国も、自国が所有し又は運航するこれらの船舶又は航空機の運航又は運航能力を阻害しないような適当な措置をとることにより、これらの船舶又は航空機が合理的かつ実行可能である限りこの条約に即して行動することを確保する。
第十一節 海洋環境の保護及び保全に関する他の条約に基づ義務
第二百三十七条 海洋環境の保護及び保全に関する他の条約に基づく義務
1 この部の規定は、海洋環境の保護及び保全に関して既に締結された特別の条約及び協定に基づき国が負う特定の義務に影響を与えるものではなく、また、この条約に定める一般原則を促進するために締結される協定の適用を妨げるものではない。
2 海洋環境の保護及び保全に関し特別の条約に基づき国が負う特定の義務は、この条約の一般原則及び一般的な目的に適合するように履行すべきである。
第十三部 海洋の科学的調査
第一節 総則
第二百三十八条 海洋の科学的調査を実施する権利
すベての国(地理的位置のいかんを問わない。)及び権限のある国際機関は、この条約に規定する他の国の権利及び義務を害さないことを条件として、海洋の科学的調査を実施する権利を有する。
第二百三十九条 海洋の科学的調査の促進
いずれの国及び権限のある国際機関も、この条約に従って海洋の科学的調査の発展及び実施を促進し及び容易にする。
第二百四十条 海洋の科学的調査の実施のための一般原則
海洋の科学的調査の実施に当たっては、次の原則を適用する。
(a)海洋の科学的調査は、専ら平和的目的のために実施する。
(b)海洋の科学的調査は、この条約に抵触しない適当な科学的方法及び手段を用いて実施する。
(c)海洋の科学的調査は、この条約に抵触しない他の適法な海洋の利用を不当に妨げないものとし、そのような利用の際に十分に尊重される。
(d)海洋の科学的調査は、この条約に基づいて制定されるすべての関連する規則(海洋環境の保護及び保全のための規則を含む。)に従って実施する。
第二百四十一条 権利の主張の法的根拠としての海洋の科学的調査の活動の否認
海洋の科学的調査の活動は、海洋環境又はその資源のいずれの部分に対するいかなる権利の主張の法的根拠も構成するものではない。
第二節 国際協力
第二百四十二条 国際協力の促進
1 いずれの国及び権限のある国際機関も、主権及び管轄権の尊重の原則に従い、かつ、相互の利益を基礎として、平和的目的のための海洋の科学的調査に関する国際協力を促進する。
2 このため、いずれの国も、この部の規定の適用上、この条約に基づく国の権利及び義務を害することなく、適当な場合には、人の健康及び安全並びに海洋環境に対する損害を防止し及び抑制するために必要な情報を、自国から又は自国が協力することにより他の国が得るための合理的な機会を提供する。
第二百四十三条 好ましい条件の創出
いずれの国及び権限のある国際機関も、海洋環境における海洋の科学的調査の実施のための好ましい条件を創出し、かつ、海洋環境において生ずる現象及び過程の本質並びにそれらの相互関係を研究する科学者の努力を統合するため、二国間又は多数国間の協定の締結を通じて協力する。
第二百四十四条 情報及び知識の公表及び頒布
1 いずれの国及び権限のある国際機関も、この条約に従って、主要な計画案及びその目的に関する情報並びに海洋の科学的調査から得られた知識を適当な経路を通じて公表し及び頒布する。
2 このため、いずれの国も、単独で並びに他の国及び権限のある国際機関と協力して、科学的データ及び情報の流れを円滑にし並びに特に開発途上国に対し海洋の科学的調査から得られた知識を移転すること並びに開発途上国が自ら海洋の科学的調査を実施する能力を、特に技術及び科学の分野における開発途上国の要員の適切な教育及び訓練を提供するための計画を通じて強化することを積極的に促進する。
第三節 海洋の科学的調査の実施及び促進
第二百四十五条 領海における海洋の科学的調査
沿岸国は、自国の主権の行使として、自国の領海における海洋の科学的調査を規制し、許可し及び実施する排他的権利を有する。領海における海洋の科学的調査は、沿岸国の明示の同意が得られ、かつ、沿岸国の定める条件に基づく場合に限り、実施する。
第二百四十六条 排他的経済水域及び大陸棚における海洋の科学的調査
1 沿岸国は、自国の管轄権の行使として、この条約の関連する規定に従って排他的経済水域及び大陸棚における海洋の科学的調査を規制し、許可し及び実施する権利を有する。
2 排他的経済水域及び大陸棚における海洋の科学的調査は、沿岸国の同意を得て実施する。
3 沿岸国は、自国の排他的経済水域又は大陸棚において他の国又は権限のある国際機関が、この条約に従って、専ら平和的目的で、かつ、すべての人類の利益のために海洋環境に関する科学的知識を増進させる目的で実施する海洋の科学的調査の計画については、通常の状況においては、同意を与える。このため、沿岸国は、同意が不当に遅滞し又は拒否されないことを確保するための規則及び手続を定める。
4 3の規定の適用上、沿岸国と調査を実施する国との間に外交関係がない場合にも、通常の状況が存在するものとすることができる。
5 沿岸国は、他の国又は権限のある国際機関による自国の排他的経済水域又は大陸棚における海洋の科学的調査の計画の実施について、次の場合には、自国の裁量により同意を与えないことができる。
(a)計画が天然資源(生物であるか非生物であるかを問わない。)の探査及び開発に直接影響を及ぼす場合
(b)計画が大陸棚の掘削、爆発物の使用又は海洋環境への有害物質の導入を伴う場合
(c)計画が第六十条及び第八十条に規定する人工島、施設及び構築物の建設、運用又は利用を伴う場合
(d)第二百四十八条の規定により計画の性質及び目的に関し提供される情報が不正確である場合又は調査を実施する国若しくは権限のある国際機関が前に実施した調査の計画について沿岸国に対する義務を履行していない場合
6 5の規定にかかわらず、沿岸国は、領海の幅を測定するための基線から二百海里を超える大陸棚(開発又は詳細な探査の活動が行われており又は合理的な期間内に行われようとしている区域として自国がいつでも公の指定をすることのできる特定の区域を除く。)においてこの部の規定に従って実施される海洋の科学的調査の計画については、5(a)の規定に基づく同意を与えないとする裁量を行使してはならない。沿岸国は、当該区域の指定及びその変更について合理的な通報を行う。ただし、当該区域における活動の詳細を通報する義務を負わない。
7 6の規定は、第七十七条に定める大陸棚に対する沿岸国の権利を害するものではない。
8 この条の海洋の科学的調査の活動は、沿岸国がこの条約に定める主権的権利及び管轄権を行使して実施する活動を不当に妨げてはならない。
第二百四十七条 国際機関により又は国際機関の主導により実施される海洋の科学的調査の計画
国際機関の構成国である沿岸国又は国際機関との間で協定を締結している沿岸国の排他的経済水域又は大陸棚において当該国際機関が海洋の科学的調査の計画を直接に又は自己の主導により実施することを希望する場合において、当該沿岸国が当該国際機関による計画の実施の決定に当たり詳細な計画を承認したとき又は計画に参加する意思を有し、かつ、当該国際機関による計画の通報から四箇月以内に反対を表明しなかったときは、合意された細目により実施される調査について当該沿岸国の許可が与えられたものとする。
第二百四十八条 沿岸国に対し情報を提供する義務
沿岸国の排他的経済水域又は大陸棚において海洋の科学的調査を実施する意図を有する国及び権限のある国際機関は、海洋の科学的調査の計画の開始予定日の少なくとも六箇月前に当該沿岸国に対し次の事項についての十分な説明を提供する。
(a)計画の性質及び目的
(b)使用する方法及び手段(船舶の名称、トン数、種類及び船級並びに科学的機材の説明を含む。)
(c)計画が実施される正確な地理的区域
(d)調査船の最初の到着予定日及び最終的な出発予定日又は、適当な場合には、機材の設置及び撤去の予定日
(e)責任を有する機関の名称及びその代表者の氏名並びに計画の担当者の氏名
(f)沿岸国が計画に参加し又は代表を派遣することができると考えられる程度
第二百四十九条 一定の条件を遵守する義務
1 いずれの国及び権限のある国際機関も、沿岸国の排他的経済水域又は大陸棚において海洋の科学的調査を実施するに当たり、次の条件を遵守する。
(a)沿岸国が希望する場合には、沿岸国の科学者に対し報酬を支払うことなく、かつ、沿岸国に対し計画の費用の分担の義務を負わせることなしに、海洋の科学的調査の計画に参加し又は代表を派遣する沿岸国の権利を確保し、特に、実行可能なときは、調査船その他の舟艇又は科学的調査のための施設への同乗の権利を確保すること。
(b)沿岸国に対し、その要請により、できる限り速やかに暫定的な報告並びに調査の完了の後は最終的な結果及び結論を提供すること。
(c)沿岸国に対し、その要請により、海洋の科学的調査の計画から得られたすべてのデータ及び試料を利用する機会を提供することを約束し並びに写しを作成することのできるデータについてはその写し及び科学的価値を害することなく分割することのできる試料についてはその部分を提供することを約束すること。
(d)要請があった場合には、沿岸国に対し、(c)のデータ、試料及び調査の結果の評価を提供し又は沿岸国が当該データ、試料及び調査の結果を評価し若しくは解釈するに当たり援助を提供すること。
(e)2の規定に従うことを条件として、調査の結果ができる限り速やかに適当な国内の経路又は国際的な経路を通じ国際的な利用に供されることを確保すること。
(f)調査の計画の主要な変更を直ちに沿岸国に通報すること。
(g)別段の合意がない限り、調査が完了したときは、科学的調査のための施設又は機材を撤去すること。
2 この条の規定は、第二百四十六条5の規定に基づき同意を与えるか否かの裁量を行使するため沿岸国の法令によって定められる条件(天然資源の探査及び開発に直接影響を及ぼす計画の調査の結果を国際的な利用に供することについて事前の合意を要求することを含む。)を害するものではない。
第二百五十条 海洋の科学的調査の計画に関する通報
別段の合意がない限り、海洋の科学的調査の計画に関する通報は、適当な公の経路を通じて行う。
第二百五十一条 一般的な基準及び指針
いずれの国も、各国が海洋の科学的調査の性質及び意味を確認することに資する一般的な基準及び指針を定めることを権限のある国際機関を通じて促進するよう努力する。
第二百五十二条 黙示の同意
いずれの国又は権限のある国際機関も、第二百四十八条の規定によって要求される情報を沿岸国に対し提供した日から六箇月が経過したときは、海洋の科学的調査の計画を進めることができる。ただし、沿岸国が、この情報を含む通報の受領の後四箇月以内に、調査を実施しようとする国又は権限のある国際機関に対し次のいずれかのことを通報した場合は、この限りでない。
(a)第二百四十六条の規定に基づいて同意を与えなかったこと。
(b)計画の性質又は目的について当該国又は国際機関が提供した情報が明白な事実と合致しないこと。
(c)第二百四十八条及び第二百四十九条に定める条件及び情報に関連する補足的な情報を要求すること。
(d)当該国又は国際機関が前に実施した海洋の科学的調査の計画に関し、第二百四十九条に定める条件についての義務が履行されていないこと。
第二百五十三条 海洋の科学的調査の活動の停止又は終了
1 沿岸国は、次のいずれかの場合には、自国の排他的経済水域又は大陸棚において実施されている海洋の科学的調査の活動の停止を要求する権利を有する。
(a)活動が、第二百四十八条の規定に基づいて提供された情報であって沿岸国の同意の基礎となったものに従って実施されていない場合
(b)活動を実施している国又は権限のある国際機関が、海洋の科学的調査の計画についての沿岸国の権利に関する第二百四十九条の規定を遵守していない場合
2 沿岸国は、第二百四十八条の規定の不履行であって海洋の科学 的調査の計画又は活動の主要な変更に相当するものがあった場合 には、当該海洋の科学的調査の活動の終了を要求する権利を有する。
3 沿岸国は、また、1に規定するいずれかの状態が合理的な期間内に是正されない場合には、海洋の科学的調査の活動の終了を要求することができる。
4 海洋の科学的調査の活動の実施を許可された国又は権限のある国際機関は、沿岸国による停止又は終了を命ずる決定の通報に従い、当該通報の対象となっている調査の活動を取りやめる。
5 調査を実施する国又は権限のある国際機関が第二百四十八条及び第二百四十九条の規定により要求される条件を満たした場合には、沿岸国は、1の規定による停止の命令を撤回し、海洋の科学的調査の活動の継続を認めるものとする。
第二百五十四条 沿岸国に隣接する内陸国及び地理的不利国の権利
1 第二百四十六条3に規定する海洋の科学的調査を実施する計画を沿岸国に提出した国及び権限のある国際機関は、提案された調査の計画を沿岸国に隣接する内陸国及び地理的不利国に通報するものとし、また、その旨を沿岸国に通報する。
2 第二百四十六条及びこの条約の他の関連する規定に従って沿岸国が提案された海洋の科学的調査の計画に同意を与えた後は、当該計画を実施する国及び権限のある国際機関は、沿岸国に隣接する内陸国及び地理的不利国に対し、これらの国の要請があり、かつ、適当である場合には、第二百四十八条及び第二百四十九条1(f)の関連する情報を提供する。
3 2の内陸国及び地理的不利国は、自国の要請により、提案された海洋の科学的調査の計画について、沿岸国と海洋の科学的調査を実施する国又は権限のある国際機関との間でこの条約の規定に従って合意された条件に基づき、自国が任命し、かつ、沿岸国の反対がない資格のある専門家の参加を通じ、実行可能な限り、当該計画に参加する機会を与えられる。
4 1に規定する国及び権限のある国際機関は、3の内陸国及び地理的不利国に対し、これらの国の要請により、第二百四十九条2の規定に従うことを条件として、同条1(d)の情報及び援助を提供する。
第二百五十五条 海洋の科学的調査を容易にし及び調査船を援助するための措置
いずれの国も、自国の領海を越える水域においてこの条約に従って実施される海洋の科学的調査を促進し及び容易にするため合理的な規則及び手続を定めるよう努力するものとし、また、適当な場合には、自国の法令に従い、この部の関連する規定を遵守する海洋の科学的調査のための調査船の自国の港への出入りを容易にし及び当該調査船に対する援助を促進する。
第二百五十六条 深海底における海洋の科学的調査
すべての国(地理的位置のいかんを問わない。)及び権限のある国際機関は、第十一部の規定に従つて、深海底における海洋の科学的調査を実施する権利を有する。
第二百五十七条 排他的経済水域を越える水域(海底及びその下を除く。)における海洋の科学的調査
すべての国(地理的位置のいかんを問わない。)及び権限のある国際機関は、この条約に基づいて、排他的経済水域を越える水域(海底及びその下を除く。)における海洋の科学的調査を実施する権利を有する。
第四節 海洋環境における科学的調査のための施設又は機材
第二百五十八条 設置及び利用
海洋環境のいかなる区域においても、科学的調査のためのいかなる種類の施設又は機材の設置及び利用も、当該区域における海洋の科学的調査の実施についてこの条約の定める条件と伺一の条件に従う。
第二百五十九条 法的地位
この節に規定する施設又は機材は、島の地位を有しない。これらのものは、それ自体の領海を有せず、また、その存在は、領海、排他的経済水域又は大陸棚の境界画定に影響を及ぼすものではない。
第二百六十条 安全水域
この条約の関連する規定に従って、科学的調査のための施設の周囲に五百メートルを超えない合理的な幅を有する安全水域を設定することができる。すべての国は、自国の船舶が当該安全水域を尊重することを確保する。
第二百六十一条 航路を妨げてはならない義務
科学的調査のためのいかなる種類の施設又は機材の設置及び利用も、確立した国際航路の妨げとなってはならない。
第二百六十二条 識別標識及び注意を喚起するるための信号
この節に規定する施設又は機材は、権限のある国際機関が定める規則及び基準を考慮して、登録国又は所属する国際機関を示す識別標識を掲げるものとし、海上における安全及び航空の安全を確保するため、国際的に合意される注意を喚起するための適当な信号を発することができるものとす
る。
第五節 責任
第二百六十三条 責任
1 いずれの国及び権限のある国際機関も、海洋の科学的調査(自ら実施するものであるか自らに代わって実施されるものであるかを問わない。)がこの条約に従って実施されることを確保する責任を負う。
2 いずれの国及び権限のある国際機関も、他の国、その自然人若しくは法人又は権限のある国際機関が実施する海洋の科学的調査に関し、この条約に違反してとる措置について責任を負い、当該措置から生ずる損害を賠償する。
3 いずれの国及び権限のある国際機関も、自ら実施し又は自らに代わって実施される海洋の科学的調査から生ずる海洋環境の汚染によりもたらされた損害に対し第二百三十五条の規定に基づいて責任を負う。
第六節 紛争の解決及び暫定措置
第二百六十四条 紛争の解決
海洋の科学的調査に関するこの条約の解釈又は適用に関する紛争は、第十五部の第二節及び第三節の規定によって解決する。
第二百六十五条 暫定措置
海洋の科学的調査の計画を実施することを許可された国又は権限のある国際機関は、第十五部の第二節及び第三節の規定により紛争が解決されるまでの間、関係沿岸国の明示の同意なしに調査の活動を開始し又は継続してはならない。
第十四部 海洋技術の発展及び移転
第一節 総則
第二百六十六条 海洋技術の発展及び移転の促進
1 いずれの国も、直接に又は権限のある国際機関を通じ、公正かつ合理的な条件で海洋科学及び海洋技術を発展させ及び移転することを積極的に促進するため、自国の能力に応じて協力する。
2 いずれの国も、開発途上国の社会的及び経済的開発を促進することを目的として、海洋資源の探査、開発、保存及び管理、海洋環境の保護及び保全、海洋の科学的調査並びにこの条約と両立する海洋環境における他の活動について、海洋科学及び海洋技術の分野において、技術援助を必要とし及び要請することのある国(特に開発途上国(内陸国及び地理的不利国を含む。))の能力の向上を促進する。
3 いずれの国も、海洋技術を衡平な条件ですべての関係者の利益のため移転させることについて、好ましい経済的及び法的な条件を促進するよう努力する。
第二百六十七条 正当な利益の保護
いずれの国も、前条の規定により協力を促進するに当たり、すべての正当な利益(特に、海洋技術の所有者、提供者及び受領者の権利及び義務を含む。)に妥当な考慮を払う。
第二百六十八条 基本的な目的
いずれの国も、直接に又は権限のある国際機関を通じ、次の事項を促進する。
(a)海洋技術に関する知識の取得、評価及び普及並びにこれらに関連する情報及びデータの利用
(b)適当に海洋技術の開発
(c)海洋技術の移転を容易にするための必要な技術的基盤の整備
(d)開発途上国の国民(特に後発開発途上国の国民)の訓練及び教育による人的資源の開発
(e)すべての規模、特に、地域的な、小地域的な及び二国間の規模における国際協力
第二百六十九条 基本的な目的を達成するための措置
前条の目的を達成するため、いずれの国も、直接に又は権限のある国際機関を通じ、特に次のことを行うよう努力する。
(a)すべての種類の海洋技術を、この分野における技術援助を必要とし及び要請することのある国(特に、内陸国である開発途上国及び地理的不利国である開発途上国並びに他の開発途上国であって海洋科学並びに海洋資源の探査及び開発における自国の技術上の能力を確立し若しくは向上させることができなかったか又はこのような海洋技術の基盤を整備することができなかったもの)に対し効果的に移転するための技術協力計画を作成すること。
(b)衡平かつ合理的な条件で、協定、契約その他これらに類する取決めの締結のための好ましい条件を促進すること。
(c)科学的及び技術的な事項、特に、海洋技術の移転のための政策及び方法に関する会議、セミナー及びシンポジウムを開催すること。
(d)科学者、技術専門家その他の専門家の交流を促進すること。
(e)計画を実施し並びに合弁事業及び他の形態による二国間及び多数国間の協力を促進すること。
第二節 国際協力
第二百七十条 国際協力の方法及び手段
海洋技術の発展及び移転のための国際協力は、海洋の科学的調査、海洋技術の移転(特に新しい分野におけるもの)並びに海洋の調査及び開発に対する適当な国際的な資金供与を容易にするため、実行可能かつ適当な場合には、既存の二国間の、地域的な又は多数国間の計画を通じ並びに拡大された計画及び新規の計画を通じて行う。
第二百七十一条 指針及び基準
いずれの国も、特に開発途上国の利益及びニーズを考慮して、直接に又は権限のある国際機関を通じ、二国間で又は国際機関その他の場において海洋技術の移転のための一般的に受け入れられている指針及び基準を定めることを促進する。
第二百七十二条 国際的な計画の調整
いずれの国も、海洋技術の移転の分野において、開発途上国(特に、内陸国及び地理的不利国)の利益及びニーズを考慮して、権限のある国際機関がその活動(地域的又は世界的な計画を含む。)を調整することを確保するよう努力する。
第二百七十三条 国際機関及び機構との協力
いずれの国も、深海底における活動に関する技能及び海洋技術を開発途上国、その国民及び事業体に対し移転することを奨励し及び容易にするため、権限のある国際機関及び機構と積極的に協力する。
第二百七十四条 機構の目的
機構は、すべての正当な利益(特に、技術の所有者、提供者及び受領者の権利及び義務を含む。)に従うことを条件として、深海底における活動に関し、次のことを確保する。
(a)衡平な地理的配分の原則に基づき、開発途上国(沿岸国、内陸国又は地理的不利国のいかんを問わない。)の国民の訓練するため、当該国民を機構の活動のための管理及び調査に係る職員並びに技術職員として受け入れること。
(b)関連する機材、機器、装置及び製法に関する技術上の書類をすべての国(特に、これらの分野における技術援助を必要とし及び要請することのある開発途上国)の利用に供すること。
(c)海洋技術の分野において技術援助を必要とし及び要請することのある国(特に開発途上国)が当該技術援助を取得すること並びに当該国の国民が必要な技術及びノウハウを取得すること(職業訓練を受けることを含む。)を容易にするため、機構が適当な措置をとること。
(d)海洋技術の分野において技術援助を必要とし及び要請することのある国(特に開発途上国)がこの条約に財政上の措置を通じ、必要な機材、製法、工場及び他の技術上のノウハウの取得に当たって援助を受けること。
第三節 海洋科学及び海洋技術に関する国及び地域のセンター
第二百七十五条 国のセンターの設置
1 いずれの国も、直接に又は権限のある国際機関及び機構を通じ、沿岸国である開発途上国による海洋の科学的調査の実施を奨励し及び発展させるため並びにこれらの国が自国の経済的利益のために自国の海洋の資源を利用し及び保全する能力を向上させるため、海洋科学及び海洋技術に関する調査のための国のセンターを、特に沿岸国である開発途上国に設置し並びに既存の国のセンターを強化することを促進する。
2 いずれの国も、権限のある国際機関及び機構を通じ、高度の訓練のための施設、必要な機材、技能、ノウハウ及び技術専門家をこれらの援助を必要とし及び要請することのある国に提供するため、国のセンターを設置し及び強化することを容易にすることにつき適切な支援を与える。
第二百七十六条 地域のセンターの設置
1 いずれの国も、開発途上国による海洋の科学的調査の実施を奨励し及び発展させるため並びに海洋技術の移転を促進するため、権限のある国際機関、機構並びに海洋科学及び海洋技術に関する自国の調査機関との調整の下に、特に開発途上国において、海洋科学及び海洋技術に関する調査のための地域のセンターを設置することを促進する。
2 地域のすべての国は、地域のセンターの目的を一層効果的に達成することを確保するため、当該センターと協力する。
第二百七十七条 地域のセンターの任務
地域のセンターの任務には、特に次の事項を含める。
(a)海洋科学及び海洋技術に関する調査の諸分野(特に、海洋生物学(生物資源の保存及び管理に係るものを含む。)、海洋学、水路学、工学、海底の地質学上の探査、採鉱及び淡水化技術)に関するあらゆる水準の訓練及び教育の計画
(b)管理に係る研究
(c)海洋環境の保護及び保全並びに汚染の防止、軽減及び規則に関する研究計画
(d)地域的な会議、セミナー及びシンポジウムの開催
(e)海洋科学及び海洋技術に関するデータ及び情報の取得及び処理
(f)容易に利用可能な出版物による海洋科学及び海洋技術に関する調査の結果の迅速な頒布
(g)海洋技術の移転に関する国の政策の公表及び当該政策の組織的な比較研究
(h)技術の取引に関する情報及び特許に関する契約その他の取決めに関する情報の取りまとめ及び体系化
(i)地域の他の国との技術協力
第四節 国際機関の間の協力
第二百七十八条 国際機関の間の協力
この部及び第十三部に規定する権限のある国際機関は、直接に又は国際機関の間の緊密な協力の下に、この部の規定に基づく任務及び責任を効果的に遂行することを確保するため、すべての適当な措置をとる。
第十五部 紛争の解決
第一節 総則
第二百七十九条 平和的手段によって紛争を解決する義務
締約国は、国際連合憲章第二条3の規定に従いこの条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争を平和的手段によって解決するものとし、このため、同憲章第三十三条1に規定する手段によって解決を求める。
第二百八十条 紛争当事者が選択する平和的手段による紛争の解決
この部のいかなる規定も、この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争を当該締約国が選択する平和的手段によって解決することにつき当該締約国がいつでも合意する権利を害するものではない。
第二百八十一条 紛争当事者によって解決が得られない場合の手続
1 この条約の解釈又は適用に関する紛争の当事者である締約国が、当該締約国が選択する平和的手段によって紛争の解決を求めることについて合意した場合には、この部に定める手続は、当該平和的手段によって解決が得られず、かつ、当該紛争の当事者間の合意が他の手続の可能性を排除していないときに限り適用される。
2 紛争当事者が期限についても合意した場合には、1の規定は、その期限の満了のときに限り適用される。
第二百八十二条 一般的な、地域的な又は二国間の協定に基づく義務
この条約の解釈又は適用に関する紛争の当事者である締約国が、一般的な、地域的な又は二国間の協定その他の方法によって、いずれかの紛争当事者の要請により拘束力を有する決定を伴う手続に紛争を付することについて合意した場合には、当該手続は、紛争当事者が別段の合意をしない限り、この部に定める手続の代わりに適用される。
第二百八十三条 意見を交換する義務
1 この条約の解釈又は適用に関して締約国間に紛争が生ずる場合には、紛争当事者は、交渉その他の平和的手段による紛争の解決について速やかに意見の交換を行う。
2 紛争当事者は、紛争の解決のための手続が解決をもたらさずに終了したとき又は解決が得られた場合においてその実施の方法につき更に協議が必要であるときは、速やかに意見の交換を行う。
第二百八十四条 調停
1 この条約の解釈又は適用に関する紛争の当事者である締約国は、他の紛争当事者に対し、附属書V第一節に定める手続その他の調停手続に従って紛争を調停に付するよう要請することができる。
2 1の要請が受け入れられ、かつ、適用される調停手続について紛争当事者が合意する場合には、いずれの紛争当事者も、紛争を当該調停手続に付することができる。
3 1の要請が受け入れられない場合又は紛争当事者が手続について合意しない場合には、調停手続は、終了したものとみなされる。
4 紛争が調停に付された場合には、紛争当事者が別段の合意をしない限り、その手続は、合意された調停手続に従ってのみ終了することができる。
第二百八十五条 第十一部の規定によって付託される紛争についてのこの節の規定の適用
この節の規定は、第十一部第五節の規定によりこの部に定める手続に従って解決することとされる紛争についても適用する。締約国以外の主体がこのような紛争の当事者である場合には、この節の規定を準用する。
第二節 拘束力を有する決定を伴う義務的手続
第二百八十六条 この節の規定に基づく手続の適用
第三節の規定に従うことを条件として、この条約の解釈又は適用に関する紛争であって第一節に定める方法によって解決が得られなかったものは、いずれかの紛争当事者の要請により、この節の規定に基づいて管轄権を有する裁判所に付託される。
第二百八十七条 手続の選択
1 いずれの国も、この条約に署名し、これを批准し若しくはこれに加入する時に又はその後いつでも、書面による宣言を行うことにより、この条約の解釈又は適用に関する紛争の解決のための次の手段のうち一又は二以上の手段を自由に選択することができる。
(a)附属書VIによって設立される国際海洋法裁判所
(b)国際司法裁判所
(c)附属書VIIによって組織される仲裁裁判所
(d)附属書VIIIに規定する一又は二以上の種類の紛争のために同附属書によって組織される特別仲裁裁判所
2 1の規定に基づいて行われる宣言は、第十一部第五節に定める範囲及び方法で国際海洋法裁判所の海底紛争裁判部が管轄権を有することを受け入れる締約国の義務に影響を及ぼすものではなく、また、その義務から影響を受けるものでもない。
3 締約国は、その時において効力を有する宣言の対象とならない 紛争の当事者である場合には、附属書VIIに定める仲裁手続を受け入れているものとみなされる。
4 紛争当事者が紛争の解決のために同一の手続を受け入れている場合には、当該紛争については、紛争当事者が別段の合意をしない限り、当該手続にのみ付することができる。
5 紛争当事者が紛争の解決のために同一の手続を受け入れていない場合には、当該紛争については、紛争当事者が別段の合意をしない限り、附属書VIIに従って仲裁にのみ付することができる。
6 1の規定に基づいて行われる宣言は、その撤回の通告が国際連合事務総長に寄託された後三箇月が経過するまでの間、効力を有する。
7 新たな宣言、宣言の撤回の通告又は宣言の期間の満了は、紛争当事者が別段の合意をしない限り、この条の規定に基づいて管轄権を有する裁判所において進行中の手続に何ら影響を及ぼすものではない。
8 この条に規定する宣言及び通告については、国際連合事務総長に寄託するものとし、同事務総長は、その写しを締約国に送付する。
第二百八十八条 管轄権
1 前条に規定する裁判所は、この条約の解釈又は適用に関する紛争であってこの部の規定に従って付託されるものについて管轄権を有する。
2 前条に規定する裁判所は、また、この条約の目的に関係のある国際協定の解釈又は適用に関する紛争であって当該協定に従って付託されるものについて管轄権を有する。
3 附属書VIによって設置される国際海洋法裁判所の海底紛争裁判部並びに第十一部第五節に規定するその他の裁判部及び仲裁裁判所は、同節の規定に従って付託される事項について管轄権を有する。
4 裁判所が管轄権を有するか否かについて争いがある場合には、当該裁判所の裁判で決定する。
第二百八十九条 専門家
科学的又は技術的な事項に係る紛争において、この節の規定に基づいて管轄権を行使する裁判所は、いずれかの紛争当事者の要請により又は自己の発意により、投票権なしで当該裁判所に出席する二人以上の科学又は技術の分野における専門家を紛争当事者と協議の上選定することができる。これらの専門家は、附属書VIII第二条の規定に従って作成された名簿のうち関連するものから選出することが望ましい。
第二百九十条 暫定措置
1 紛争が裁判所に適正に付託され、当該裁判所がこの部又は第十一部第五節の規定に基づいて管轄権を有すると推定する場合には、当該裁判所は、終局裁判を行うまでの間、紛争当事者のそれぞれの権利を保全し又は海洋環境に対して生ずる重大な害を防止するため、状況に応じて適当と認める暫定措置を定めることができる。
2 暫定措置を正当化する状況が変化し又は消滅した場合には、当該暫定措置を修正し又は取り消すことができる。
3 いずれかの紛争当事者が要請し、かつ、すべての紛争当事者が陳述する機会を与えられた後にのみ、この条の規定に基づき暫定措置を定め、修正し又は取り消すことができる。
4 裁判所は、暫定措置を定め、修正し又は取り消すことにつき、紛争当事者その他裁判所が適当と認める締約国に直ちに通告する。
5 この節の規定に従って紛争の付託される仲裁裁判所が構成されるまでの間、紛争当事者が合意する裁判所又は暫定措置に対する要請が行われた日から二週間以内に紛争当事者が合意しない場合には国際海洋法裁判所若しくは深海底における活動に関しては海底紛争裁判部は、構成される仲裁裁判所が紛争について管轄権を有すると推定し、かつ、事態の緊急性により必要と認める場合には、この条の規定に基づき暫定措置を定め、修正し又は取り消すことができる。紛争が付託された仲裁裁判所が構成された後は、当該仲裁裁判所は、1から4までの規定に従い暫定措置を修正し、取り消し又は維持することができる。6 紛争当事者は、この条の規定に基づいて定められた暫定措置に速やかに従う。
第二百九十一条 手続の開放
1 この部に定めるすべての紛争解決手続は、締約国に開放する。
2 この部に定める紛争解決手続は、この条約に明示的に定めるところによってのみ、締約国以外の主体に開放する。
第二百九十二条 船舶及び乗組員の速やかな釈放
1 締約国の当局が他の締約国を旗国とする船舶を抑留した場合において、合理的な保証金の支払又は合理的な他の金銭上の保証の提供の後に船舶及びその乗組員を速やかに釈放するというこの条約の規定を抑留した国が遵守しなかったと主張されているときは、釈放の問題については、紛争当事者が合意する裁判所に付託することができる。抑留の時から十日以内に紛争当事者が合意しない場合には、釈放の問題については、紛争当事者が別段の合意をしない限り、抑留した国が第二百八十七条の規定によって受け入れている裁判所又は国際海洋法裁判所に付託することができる。
2 釈放に係る申立てについては、船舶の旗国又はこれに代わるものに限って行うことができる。
3 裁判所は、遅滞なく釈放に係る申立てを取り扱うものとし、釈放の問題のみを取り扱う。ただし、適当な国内の裁判所に係属する船舶又はその所有者若しくは乗組員に対する事件の本案には、影響を及ぼさない。抑留した国の当局は、船舶又はその乗組員をいつでも釈放することができる。
4 裁判所によって決定された保証金が支払われ又は裁判所によって決定された他の金銭上の保証が提供された場合には、抑留した国の当局は、船舶又はその乗組員の釈放についての当該裁判所の決定に速やかに従う。
第二百九十三条 適用のある法
1 この節の規定に基づいて管轄権を有する裁判所は、この条約及びこの条約に反しない国際法の他の規則を適用する。
2 1の規定は、紛争当事者が合意する場合には、この節の規定に基づいて管轄権を有する裁判所が衡平及び善に基づいて裁判する権限を害するものではない。
第二百九十四条 先決的手続
1 第二百八十七条に規定する裁判所に対して第二百九十七条に規定する紛争についての申立てが行われた場合には、当該裁判所は、当該申立てによる権利の主張が法的手続の濫用であるか否か又は当該権利の主張に十分な根拠があると推定されるか否かについて、いずれかの紛争当事者が要請するときに決定するものとし、又は自己の発意により決定することができる。当該裁判所は、当該権利の主張が法的手続の濫用であると決定し又は根拠がないと推定されると決定した場合には、事件について新たな措置をとらない。
2 1の裁判所は、申立てを受領した時に、当該申立てに係る他の紛争当事者に対して直ちに通告するものとし、当該他の紛争当事者が1の規定により裁判所に決定を行うよう要請することができる合理的な期間を定める。
3 この条のいかなる規定も、紛争当事者が、適用のある手続規則に従って先決的抗弁を行う権利に影響を及ぼすものではない。
第二百九十五条 国内的な救済措置を尽くすこと
この条約の解釈又は適用に関する締約国間の紛争は、国内的な救済措置を尽くすことが国際法によって要求されている場合には、当該救済措置が尽くされた後でなければこの節に定める手続に付することができない。
第二百九十六条 裁判が最終的なものであること及び裁判の拘束力
1 この節の規定に基づいて管轄権を有する裁判所が行う裁判は、最終的なものとし、すべての紛争当事者は、これに従う。
2 1の裁判は、紛争当事者間において、かつ、当該紛争に関してのみ拘束力を有する。
第三節 第二節の規定の適用に係る制限及び除外
第二百九十七条 第二節の規定の適用の制限
1 この条約の解釈又は適用に関する紛争であって、この条約に定める主権的権利又は管轄権の沿岸国による行使に係るものは、次のいずれかの場合には、第二節に定める手続の適用を受ける。
(a)沿岸国が、航行、上空飛行若しくは海底電線及び海底パイプラインの敷設の自由若しくは権利又は第五十八条に規定するその他の国際的に適法な海洋の利用について、この条約の規定に違反して行動したと主張されている場合
(b)国が、(a)に規定する自由若しくは権利を行使し又は(a)に規定する利用を行うに当たり、この条約の規定に違反して又はこの条約及びこの条約に反しない国際法の他の規則に従って沿岸国の制定する法令に違反して行動したと主張されている場合
(c)沿岸国が、当該沿岸国に適用のある海洋環境の保護及び保全のための特定の国際的な規則及び基準であって、この条約によって定められ又はこの条約に従って権限のある国際機関若しくは外交会議を通じて定められたものに違反して行動したと主張されている場合
2 (a)この条約の解釈又は適用に関する紛争であって、海洋の科学的調査に係るものについては、第二節の規定に従って解決する。ただし、沿岸国は、次の事項から生ずるいかなる紛争についても、同節の規定による解決のための手続に付することを受け入れる義務を負うものではない。
(i)第二百四十六条の規定に基づく沿岸国の権利又は裁量の行使
(ii)第二百五十三条の規定に基づく海洋の科学的調査の活動の停止又は終了を命ずる沿岸国の決定
(b)海洋の科学的調査に係る特定の計画に関し沿岸国がこの条約に合致する方法で第二百四十六条又は第二百五十三条の規定に基づく権利を行使していないと調査を実施する国が主張することによって生ずる紛争は、いずれかの紛争当事者の要請により、附属書V第二節に定める調停に付される。ただし、調停委員会は、第二百四十六条6に規定する特定の区域を指定する沿岸国の裁量の行使又は同条5の規定に基づいて同意を与えない沿岸国の裁量の行使については取り扱わない。
3 (a)この条約の解釈又は適用に関する紛争であって、漁獲に係るものについては、第二節の規定に従って解決する。ただし、沿岸国は、排他的経済水域における生物資源に関する自国の主権的権利(漁獲可能量、漁獲能力及び他の国に対する余剰分の割当てを決定するための裁量権並びに保存及び管理に関する自国の法令に定める条件を決定するための裁量権を含む。)又はその行使に係るいかなる紛争についても、同節の規定による解決のための手続に付することを受け入れる義務を負うものではない。
(b)第一節の規定によって解決が得られなかった場合において、次のことが主張されているときは、紛争は、いずれかの紛争当事者の要請により、附属書V第二節に定める調停に付される。
(i)沿岸国が、自国の排他的経済水域における生物資源の維持が著しく脅かされないことを適当な保存措置及び管理措置を通じて確保する義務を明らかに遵守しなかったこと。
(ii)沿岸国が、他の国が漁獲を行うことに関心を有する資源について、当該他の国の要請にもかかわらず、漁獲可能量及び生物資源についての自国の漁獲能力を決定することを恣意的に拒否したこと。
(iii)沿岸国が、自国が存在すると宣言した余剰分の全部又は一部を、第六十二条、第六十九条及び第七十条の規定により、かつ、この条約に適合する条件であって自国が定めるものに従って、他の国に割り当てることを恣意的に拒否したこと。
(c)調停委員会は、いかなる場合にも、調停委員会の裁量を沿岸国の裁量に代わるものとしない。
(d)調停委員会の報告については、適当な国際機関に送付する。
(e)第六十九条及び第七十条の規定により協定を交渉するに当たって、締約国は、別段の合意をしない限り、当該協定の解釈又は適用に係る意見の相違の可能性を最小にするために当該締約国がとる措置に関する条項及び当該措置にもかかわらず意見の相違が生じた場合に当該締約国がとるべき手続に関する条項を当該協定に含める。
第二百九十八条 第二節の規定の適用からの選択的除外
1 第一節の規定に従って生ずる義務に影響を及ぼすことなく、いずれの国も、この条約に署名し、これを批准し若しくはこれに加入する時に又はその後いつでも、次の種類の紛争のうち一又は二以上の紛争について、第二節に定める手続のうち一又は二以上の手続を受け入れないことを書面によって宣言することができる。
(a)(i)海洋の境界画定に関する第十五条、第七十四条及び第八十三条の規定の解釈若しくは適用に関する紛争又は歴史的湾若しくは歴史的権原に関する紛争。ただし、宣言を行った国は、このような紛争がこの条約の効力発生の後に生じ、かつ、紛争当事者間の交渉によって合理的な期間内に合意が得られない場合には、いずれかの紛争当事者の要請により、この問題を附属書V第二節に定める調停に付することを受け入れる。もっとも、大陸又は島の領土に対する主権その他の権利に関する未解決の紛争についての検討が必要となる紛争については、当該調停に付さない。
(ii)調停委員会が報告(その基礎となる理由を付したもの)を提出した後、紛争当事者は、当該報告に基づき合意の達成のために交渉する。交渉によって合意に達しない場合には、紛争当事者は、別段の合意をしない限り、この問題を第二節に定める手続のうちいずれかの手続に相互の同意によって付する。
(iii)この(a)の規定は、海洋の境界に係る紛争であって、紛争当事者間の取決めによって最終的に解決されているもの又は紛争当事者を拘束する二国間若しくは多数国間の協定によって解決することとされているものについては、適用しない。
(b)軍事的活動(非商業的役務に従事する政府の船舶及び航空機による軍事的活動を含む。)に関する紛争並びに法の執行活動であって前条の2及び3の規定により裁判所の管轄権の範囲から除外される主権的権利又は管轄権の行使に係るものに関する紛争
(c)国際連合安全保障理事会が国際連合憲章によって与えられた任務を紛争について遂行している場合の当該紛争。ただし、同理事会が、当該紛争をその審議事項としないことを決定する場合又は紛争当事者に対し当該紛争をこの条約に定める手段によって解決するよう要請する場合は、この限りでない。
2 1の規定に基づく宣言を行った締約国は、いつでも、当該宣言を撤回することができ、又は当該宣言によって除外された紛争をこの条約に定める手続に付することに同意することができる。
3 1の規定に基づく宣言を行った締約国は、除外された種類の紛争に該当する紛争であって他の締約国を当事者とするものを、当該他の締約国の同意なしには、この条約に定めるいずれの手続にも付することができない。
4 締約国が1(a)の規定に基づく宣言を行った場合には、他の締約国は、除外された種類の紛争に該当する紛争であって当該宣言を行った締約国を当事者とするものを、当該宣言において特定される手続に付することができる。
5 新たな宣言又は宣言の撤回は、紛争当事者が別段の合意をしない限り、この条の規定により裁判所において進行中の手続に何ら影響を及ぼすものではない。
6 この条の規定に基づく宣言及び宣言の撤回の通告については、国際連合事務総長に寄託するものとし、同事務総長は、その写しを締約国に送付する。
第二百九十九条 紛争当事者が手続について合意する権利
1 第二百九十七条の規定により第二節に定める紛争解決手続から除外された紛争又は前条の規定に基づいて行われた宣言により当該手続から除外された紛争については、当該紛争の当事者間の合意によってのみ、当該手続に付することができる。
2 この節のいかなる規定も、紛争当事者が紛争の解決のための他の手続について合意する権利又は紛争当事者が紛争の友好的な解決を図る権利を害するものではない。
第十六部 一般規定
第三百条 信義誠実及び権利の濫用
締約国は、この条約により負う義務を誠実に履行するものとし、また、この条約により認められる権利、管轄権及び自由を権利の濫用とならないように行使する。
第三百一条 海洋の平和的利用
締約国は、この条約に基づく権利を行使し及び義務を履行するに当たり、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合憲章に規定する国際法の諸原則と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。
第三百二条 情報の開示
この条約のいかなる規定も、締約国がこの条約に基づく義務を履行するに当たり、その開示が当該締約国の安全保障上の重大な利益に反する情報の提供を当該締約国に要求するものと解してはならない。ただし、この規定は、この条約に定める紛争解決手続に付する締約国の権利を害するものではない。
第三百三条 海洋において発見された考古学上の物及び歴史的な物
1 いずれの国も、海洋において発見された考古学上の又は歴史的な特質を有する物を保護する義務を有し、このために協力する。
2 沿岸国は、1に規定する物の取引を規制するため、第三十三条の規定の適用に当たり、自国の承認なしに同条に規定する水域の海底からこれらの物を持ち去ることが同条に規定する法令の自国の領土又は領海内における違反となると推定することができる。
3 この条のいかなる規定も、認定することのできる所有者の権利、引揚作業に関する法律又はその他の海事に関する規則並びに文化交流に関する法律及び慣行に影響を及ぼすものではない。
4 この条の規定は、考古学上の又は歴史的な特質を有する物の保護に関するその他の国際協定及び国際法の規則に影響を及ぼすものではない。
第三百四条 損害についての責任
この条約の損害についての責任に関する規定は、国際法に基づく責任に関する現行の規則の適用及び新たな規則の発展を妨げるものではない。
第十七部 最終規定
第三百五条 署名
1 この条約は、次のものによる署名のために開放しておく。
(a)すべての国
(b)国際連合ナミビア理事会によって代表されるナミビア
(c)他の国と提携している自治国であって、国際連合総会決議第千五百十四号(第十五回会期)に基づいて国際連合により監督され及び承認された自決の行為においてその地位を選び、かつ、この条約により規律される事項に関する権限(これらの事項に関して条約を締結する権限を含む。)を有するすべてのもの
(d)他の国と提携している自治国であって、その提携のための文書に基づき、この条約により規律される事項に関する権限(これらの事項に関して条約を締結する権限を含む。)を有するすべてのもの
(e)完全な内政上の自治権を有し、国際連合によりこれを認められているが、国際連合総会決議第千五百十四号(第十五回会期)に基づく安全な独立を達成していない地域であって、この条約により規律される事項に関する権限(これらの事項に関して条約を締結する権限を含む。)を有するすべてのもの
(f)国際機関。ただし、附属書IXの規定に従うものとする。
2 この条約は、千九百八十四年十二月九日まではジャマイカ外務省において、また、千九百八十三年七月一日から千九百八十四年十二月九日まではニュー・ヨークにある国際連合本部において、署名のために開放しておく。
第三百六条 批准及び正式確認
この条約は、国及び前条1の(b)から(e)までに規定するその他の主体によって批准されなければならず、また、同条1(f)に規定する主体により附属書IXに定めるところにより正式確認が行われなければならない。批准書及び正式確認書は、国際連合事務総長に寄託する。
第三百七条 加入
この条約は、国及び第三百五条に規定するその他の主体による加入のために開放しておく。同条1(f)に規定する主体による加入については、附属書IXに定めるところにより行う。加入書は、国際連合事務総長に寄託する。
第三百八条 効力発生
1 この条約は、六十番目の批准書又は加入書が寄託された日の後十二箇月で効力を生ずる。
2 六十番目の批准書又は加入書が寄託された後にこの条約を批准し又はこれに加入する国については、この条約は、1の規定に従うことを条件として、その批准書又は加入書の寄託の日の後三十日目の日に効力を生ずる。
3 機構の総会は、この条約の効力発生の日に会合し、機構の理事会の理事国を選出する。機構の第一回の理事会は、第百六十一条の規定を厳格に適用することができない場合には、同条に規定する目的に適合するように構成する。
4 準備委員会が起草する規則及び手続は、第十一部に定めるところにより機構が正式に採択するまでの間、暫定的に適用する。
5 機構及びその諸機関は、先行投資に関する第三次国際連合海洋法会議の決議IIに従い及びこの決議に基づいて行われる準備委員会の決定に従って行動する。
第三百九条 留保及び除外
この条約については、他の条の規定により明示的に認められている場合を除くほか、留保を付することも、また、除外を設けることもできない。
第三百十条 宣言及び声明
前条の規定は、この条約の署名若しくは批准又はこれへの加入の際に、国が、特に当該国の法令をこの条約に調和させることを目的として、用いられる文言及び名称のいかんを問わず、宣言又は声明を行うことを排除しない。ただし、このような宣言又は声明は、当該国に対するこの条約の適用において、この条約の法的効力を排除し又は変更することを意味しない。
第三百十一条 他の条約及び国際協定との関係
1 この条約は、締約国間において、千九百五十八年四月二十九日の海洋法に関するジュネーヴ諸条約に優先する。
2 この条約は、この条約と両立する他の協定の規定に基づく締約国の権利及び義務であって他の締約国がこの条約に基づく権利を享受し又は義務を履行することに影響を及ぼさないものを変更するものではない。
3 二以上の締約国は、当該締約国間の関係に適用される限りにおいて、この条約の運用を変更し又は停止する協定を締結することができる。ただし、そのような協定は、この条約の規定であってこれからの逸脱がこの条約の趣旨及び目的の効果的な実現と両立しないものに関するものであってはならず、また、この条約に定める基本原則の適用に影響を及ぼし又は他の締約国がこの条約に基づく権利を享受し若しくは義務を履行することに影響を及ぼすものであってはならない。
4 3に規定する協定を締結する意思を有する締約国は、他の締約国に対し、この条約の寄託者を通じて、当該協定を締結する意思及び当該協定によるこの条約の変更又は停止を通報する。
5 この条の規定は、他の条の規定により明示的に認められている国際協定に影響を及ぼすものではない。
6 締約国は、第百三十六条に規定する人類の共同の財産に関する基本原則についていかなる改正も行わないこと及びこの基本原則から逸脱するいかなる協定の締約国にもならないことを合意する。
第三百十二条 改正
1 締約国は、この条約の効力発生の日から十年の期間が満了した後は、国際連合事務総長にあてた書面による通報により、この条約の特定の改正案で深海底における活動に関する改正以外のものを提案し及びその改正案を審議する会議の招集を要請することができる。同事務総長は、当該通報をすべての締約国に送付する。同事務総長は、当該通報の送付の日から十二箇月以内に締約国の二分の一以上がその要請に好意的な回答を行った場合には、当該会議を招集する。
2 改正に関する会議において用いられる決定手続は、この会議が別段の決定を行わない限り、第三次国際連合海洋法会議において用いられた決定手続と同一のものとする。改正に関する会議は、いかなる改正案についても、コンセンサス方式により合意に達するようあらゆる努力を払うものとし、コンセンサスのためのあらゆる努力が尽くされるまでは、改正案について投票を行わない。
第三百十三条 簡易な手続による改正
1 締約国は、国際連合事務総長にあてた書面による通報により、この条約の改正案で深海底における活動に関する改正以外のものを会議を招集することなくこの条に定める簡易な手続による採択のために提案することができる。同事務総長は、当該通報をすべての締約国に送付する。
2 1に規定する通報の送付の日から十二箇月の期間内にいずれかの締約国が改正案又は簡易な手続による改正案の採択の提案に反対した場合には、改正は、拒否されたものとする。国際連合事務総長は、その旨を直ちにすべての締約国に通報する。
3 1に規定する通報の送付の日から十二箇月の期間内にいずれの締約国も改正案又は簡易な手続による改正案の採択の提案に反対しなかった場合には、改正案は、採択されたものとする。国際連合事務総長は、改正案が採択された旨をすべての締約国に通報する。
第三百十四条 深海底における活動のみに関する規定の改正
1 締約国は、機構の事務局長にあてた書面による通報により、深海底における活動のみに関する規定(附属書VI第四節の規定を含む。)の改正案を提案することができる。事務局長は、当該通報をすべての締約国に送付する。改正案は、理事会による承認の後、総会によって承認されなければならない。理事会及び総会における締約国の代表は、改正案を審議し及び承認する全権を有する。理事会及び総会が承認した場合には、改正案は、採択されたものとする。
2 理事会及び総会は、1の規定に基づく改正案を承認するのに先立ち、第百五十五条の規定に基づく再検討のための会議までの間、深海底の資源の探査及び開発の制度が当該改正案によって妨げられないことを確保する。
第三百十五条 改正の署名及び批准、改正への加入並びに改正の正文
1 この条約の改正は、採択された後は、改正自体に別段の定めがない限り、採択の日から十二箇月の間、ニュー・ヨークにある国際連合本部において、締約国による署名のために開放しておく。
2 第三百六条、第三百七条及び第三百二十条の規定は、この条約のすべての改正について適用する。
第三百十六条 改正の効力発生
1 この条約の改正で5に規定する改正以外のものは、締約国の三分の二又は六十の締約国のいずれか多い方の数の締約国による批准書又は加入書の寄託の後三十日目の日に、改正を批准し又はこれに加入する締約国について効力を生ずる。当該改正は、その他の締約国がこの条約に基づく権利を享受し又は義務を履行することに影響を及ぼすものではない。
2 改正については、その効力発生のためにこの条に定める数よりも多い数の批准又は加入を必要とすることを定めることができる。
3 必要とされる数の批准書又は加入書が寄託された後に1に規定する改正を批准し又はこれに加入する締約国については、改正は、その批准書又は加入書の寄託の日の後三十日目の日に効力を生ずる。
4 1の規定により改正が効力を生じた後にこの条約の締約国となる国は、別段の意思を表明しない限り、(a)改正された条約の締約国とされ、かつ、(b)改正によって拘束されない締約国との関係においては、改正されていない条約の締約国とされる。
5 深海底における活動のみに関する改正及び附属書VIの改正は、締約国の四分の三による批准書又は加入書の寄託の後一年で、すべての締約国について効力を生ずる。
6 5の規定により改正が効力を生じた後にこの条約の締約国となる国は、改正された条約の締約国とされる。
第三百十七条 廃棄
1 締約国は、国際連合事務総長にあてた書面による通告を行うことによりこの条約を廃棄することができるものとし、また、その理由を示すことができる。理由を示さないことは、廃棄の効力に影響を及ぼすものではない。廃棄は、一層遅い日が通告に明記されている場合を除くほか、その通告が受領された日の後一年で効力を生ずる。
2 いずれの国も、廃棄を理由として、この条約の締約国であった間に生じた財政上及び契約上の義務を免除されない。廃棄は、この条約が当該国について効力を失う前にこの条約の実施によって生じていた当該国の権利、義務及び法的状態に影響を及ぼすものではない。
3 廃棄は、この条約に定める義務であってこの条約との関係を離れ国際法に基づいて負うものを締約国が履行する責務に何ら影響を及ぼすものではない。
第三百十八条 附属書の地位
附属書は、この条約の不可分の一部を成すものとし、別段の明示の定めがない限り、「この条約」といい又は第一部から第十七部までのいずれかの部を指していうときは、関連する附属書を含めていうものとする。
第三百十九条 寄託者
1 この条約及びその改正の寄託者は、国際連合事務総長とする。
2 国際連合事務総長は、寄託者としての職務のほか、次のことを行う。
(a)この条約に関して生じた一般的な性質を有する問題について、すべての締約国、機構及び権限のある国際機関に報告すること。
(b)この条約及びその改正の批准及び正式確認、これらへの加入並びにこの条約の廃棄を機構に通報すること。
(c)第三百十一条4の規定により協定について締約国に通報すること。
(d)この条約により採択された改正について、その批准又はこれへの加入のため締約国に送付すること。
(e)この条約により必要な締約国の会合を招集すること。
3 (a)国際連合事務総長は、また、第百五十六条に規定するオブザーバーに対し、次のものを送付する。
(i)2(a)に規定する報告
(ii)2の(b)及び(c)に規定する通報
(iii)2(d)に規定する改正(参考のためのもの)
(b)国際連合事務総長は、(a)のオブザーバーに対し、2(e)の締約国の会合にオブザーバーとして参加するよう招請する。
第三百二十条 正文
アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの条約の原本は、第三百五条2に定めるところにより、国際連合事務総長に寄託する。
以上の証拠として、下名の全権委員は、正当に委任を受けてこの条約に署名した。
千九百八十二年十二月十日にモンテゴ・ベイで作成した。
附属書I 略
附属書II 略
附属書III 略
附属書IV 略
附属書V 略
附属書VI 略
附属書VII 略
附属書VIII 略
附属書IX 略