海洋法に関する国際連合条約 (No.2)


海賊(101条〜)追跡権(111条)深海底開発(133条〜)

第百一条 海賊行為の定義
  海賊行為とは、次の行為をいう。
 (a)私有の船舶又は航空機の乗組員又は旅客が私的目的のために行うすべての不法な暴力行為、抑留又は略奪行為であって次のものに対して行われるもの
 (i)公海における他の船舶若しくは航空機又はこれらの内にある人若しくは財産
 (ii)いずれの国の管轄権にも服さない場所にある船舶、航空機、人又は財産
 (b)いずれかの船舶又は航空機を海賊船舶又は海賊航空機とする事実を知って当該船舶又は航空機の運航に自発的に参加するすべての行為
 (c)(a)又は(b)に規定する行為を扇動し又は故意に助長するすべての行為
第百二条 乗組員が反乱を起こした軍艦又は政府の船舶若しくは航空機による海賊行為
  前条に規定する海賊行為であって、乗組員が反乱を起こして支配している軍艦又は政府の船舶若しくは航空機が行うものは、私有の船舶又は航空機が行う行為とみなされる。
第百三条 海賊船舶又は海賊航空機の定義
  船舶又は航空機であって、これを実効的に支配している者が第百一条に規定するいずれかの行為を行うために使用することを意図しているものについては、海賊船舶又は海賊航空機とする。当該いずれかの行為を行うために使用された船舶又は航空機であって、当該行為につき有罪とされる者により引き続き支配されているものについても、同様とする。
第百四条 海賊船舶又は海賊航空機の国籍の保持又は喪失
  船舶又は航空機は、海賊船舶又は海賊航空機となった場合にも、その国籍を保持することができる。国籍の保持又は喪失は、当該国籍を与えた国の法律によって決定される。
第百五条 海賊船舶又は海賊航空機の拿捕
  いずれの国も、公海その他いずれの国の管轄権にも服さない場所において、海賊船舶、海賊航空機又は海賊行為によって奪取され、かつ、海賊の支配下にある船舶又は航空機を拿捕し及び当該船舶又は航空機内の人を逮捕し又は財産を押収することができる、拿捕を行った国の裁判所は、科すべき刑罰を決定することができるものとし、また、善意の第三者の権利を尊重することを条件として、当該船舶、航空機又は財産についてとるべき措置を決定することができる。
第百六条 十分な根拠なしに拿捕が行われた場合の責任
  海賊行為の疑いに基づく船舶又は航空機の拿捕が十分な根拠なしに行われた場合には、拿捕を行った国は、その船舶又は航空機がその国籍を有する国に対し、その拿捕によって生じたいかなる損失又は損害についても責任を負う。
第百七条 海賊行為を理由とする拿捕を行うことが認められる船舶及び航空機
  海賊行為を理由とする拿捕は、軍艦、軍用航空機その他政府の公務に使用されていることが明らかに表示されておりかつ識別されることのできる船舶又は航空機でそのための権限を与えられているものによってのみ行うことができる。
第百八条 麻薬又は向精神薬の不正取引
1 すべての国は、公海上の船舶が国際条約に違反して麻薬及び向精神薬の不正取引を行うことを防止するために協力する。
2 いずれの国も、自国を旗国とする船舶が麻薬又は向精神薬の不正取引を行っていると信ずるに足りる合理的な理由がある場合には、その取引を防止するため他の国の協力を要請することができる。
第百九条 公海からの許可を得ていない放送
1 すべての国は、公海からの許可を得ていない放送の防止に協力する。
2 この条約の適用上、「許可を得ていない放送」とは、国際的な規則に違反して公海上の舶舶又は施設から行われる音響放送又はテレビジョン放送のための送信であって、一般公衆による受信を意図するものをいう。ただし、遭難呼出しの送信を除く。
3 許可を得ていない放送を行う者については、次の国の裁判所に訴追することができる。
 (a)船舶の旗国
 (b)施設の登録国
 (c)当該者が国民である国
 (d)放送を受信することができる国
 (e)許可を得ている無線通信が妨害される国
4 3の規定により管轄権を有する国は、公海において、次条の規定に従い、許可を得ていない放送を行う者を逮捕し又はそのような船舶を拿捕することができるものとし、また、放送機器を押収することができる。
第百十条 臨検の権利
1 条約上の権限に基づいて行われる干渉行為によるものを除くほか、公海において第九十五条及び第九十六条の規定に基づいて完全な免除を与えられている船舶以外の外国船舶に遭遇した軍艦が当該外国船舶を臨検することは、次のいずれかのことを疑うに足りる十分な根拠がない限り、正当と認められない。
 (a)当該外国船舶が海賊行為を行っていること。
 (b)当該外国船舶が奴隷取引に従事していること。
 (c)当該外国船舶が許可を得ていない放送を行っており、かつ、当該軍艦の旗国が前条の規定に基づく管轄権を有すること。
 (d)当該外国船舶が国籍を有していないこと。
 (e)当該外国船舶が、他の国の旗を掲げているか又は当該外国船舶の旗を示すことを拒否したが、実際には当該軍艦と同一の国籍を有すること。
2 軍艦は、1に規定する場合において、当該外国船舶がその旗を掲げる権利を確認することができる。このため、当該軍艦は、疑いがある当該外国船舶に対し士官の指揮の下にボートを派遣することができる。文書を検閲した後もなお疑いがあるときは、軍艦は、その船舶内において更に検査を行うことができるが、その検査は、できる限り慎重に行わなければならない。
3 疑いに根拠がないことが証明され、かつ、臨検を受けた外国船舶が疑いを正当とするいかなる行為も行っていなかった場合には、当該外国船舶は、被った損失又は損害に対する補償を受ける。
4 1から3までの規定は、軍用航空機について準用する。
5 1から3までの規定は、政府の公務に使用されていることが明らかに表示されておりかつ識別されることのできるその他の船舶又は航空機で正当な権限を有するものについても準用する。
第百十一条 追跡権
1 沿岸国の権限のある当局は、外国船舶が自国の法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由があるときは、当該外国船舶の追跡を行うことができる。この追跡は、外国船舶又はそのボートが追跡国の内水、群島水域、領海又は接続水域にある時に開始しなければならず、また、中断されない限り、領海又は接続水域の外において引き続き行うことができる。領海又は接続水域にある外国船舶が停船命令を受ける時に、その命令を発する船舶も同様に領海又は接続水域にあることは必要でない。外国船舶が第三十三条に定める接続水域にあるときは、追跡は、当該接続水域の設定によって保護しようとする権利の侵害があった場合に限り、行うことができる。
2 追跡権については、排他的経済水域又は大陸棚(大陸棚上の施設の周囲の安全水域を含む。)において、この条約に従いその排他的経済水域又は大陸棚(当該安全水域を含む。)に適用される沿岸国の法令の違反がある場合に準用する。
3 追跡権は、被追跡船舶がその旗国又は第三国の領海に入ると同時に消滅する。
4 追跡は、被追跡船舶又はそのボート若しくは被追跡船舶を母船としてこれと一団となって作業する舟艇が領海又は、場合により、接続水域、排他的経済水域若しくは大陸棚の上部にあることを追跡船舶がその場における実行可能な手段により確認しない限り、開始されたものとされない。追跡は、視覚的又は聴覚的停船信号を外国船舶が視認し又は聞くことができる距離から発した後にのみ、開始することができる。
5 追跡権は、軍艦、軍用航空機その他政府の公務に使用されていることが明らかに表示されておりかつ識別されることのできる船舶又は航空機でそのための権限を与えられているものによってのみ行使することができる。
6 追跡が航空機によって行われる場合には、
 (a)1から4までの規定を準用する。
 (b)停船命令を発した航空機は、船舶を自ら拿捕することができる場合
 を除くほか、自己が呼び寄せた沿岸国の船舶又は他の航空機が到着して追跡を引き継ぐまで、当該船舶を自ら積極的に追跡しなければならない。当該船舶が停船命令を受け、かつ、当該航空機又は追跡を中断することなく引き続き行う他の航空機若しくは船舶によって追跡されたのでない限り、当該航空機が当該船舶を違反を犯したもの又は違反の疑いがあるものとして発見しただけでは、領海の外における拿捕を正当とするために十分ではない。
7 いずれかの国の管轄権の及ぶ範囲内で拿捕され、かつ、権限のある当局の審理を受けるためその国の港に護送される船舶は、事情により護送の途 中において排他的経済水域又は公海の一部を航行することが必要である場合に、その航行のみを理由として釈放を要求することができない。
8 追跡権の行使が正当とされない状況の下に領海の外において船舶が停止され又は拿捕されたときは、その船舶は、これにより被った損失又は損害に対する補償を受ける。
第百十二条 海底電線及び海底パイプラインを敷設する権利
1 すベての国は、大陸棚を越える公海の海底に海底電線及び海底パイプラインを敷設する権利を有する。
2 第七十九条5の規定は、1の海底電線及び海底パイプラインについて適用する。
第百十三条 海底電線又は海底パイプラインの損壊
  いずれの国も、自国を旗国とする船舶又は自国の管轄権に服する者が、故意又は過失により、電気通信を中断し又は妨害することとなるような方法で公海にある海底電線を損壊し、及び海底パイプライン又は海底高圧電線を同様に損壊することが処罰すべき犯罪であることを定めるために必要な法令を制定する。この法令の規定は、その損壊をもたらすことを意図し又はその損壊をもたらすおそれのある行為についても適用する。ただし、そのような損壊を避けるために必要なすべての予防措置をとった後に自己の生命又は船舶を守るという正当な目的のみで行動した者による損壊については、適用しない。
第百十四条 海底電線又は海底パイプラインの所有者による他の海底電線又は海底パイプラインの損壊
  いずれの国も、自国の管轄権に服する者であって公海にある海底電線又は海底パイプラインの所有者であるものが、その海底電線又は海底パイプラインを敷設し又は修理するに際して他の海底電線又は海底パイプラインを損壊したときにその修理の費用を負担すべきであることを定めるために必要な法令を制定する。
第百十五条 海底電線又は海底パイプラインの損壊を避けるための損失に対する補償
  いずれの国も、海底電線又は海底パイプラインの損壊を避けるためにいかり、網その他の漁具を失ったことを証明することができる船舶の所有者に対し、当該船舶の所有者が事前にあらゆる適当な予防措置をとったことを条件として当該海底電線又は海底パイプラインの所有者により補償が行われることを確保するために必要な法令を制定する。

   第二節 公海における生物資源の保存及び管理
第百十六条 公海における漁獲の権利
  すべての国は、自国民が公海において次のものに従って漁獲を行う権利を有する。
 (a)自国の条約上の義務
 (b)特に第六十三条2及び第六十四条から第六十七条までに規定する沿岸国の権利、義務及び利益
 (c)この節の規定
第百十七条 公海における生物資源の保存のための措置を自国民についてとる国の義務
  すベての国は、公海における生物資源の保存のために必要とされる措置を自国民についてとる義務及びその措置をとるに当たって他の国と協力する義務を有する。
第百十八条 生物資源の保存及び管理における国の間の協力
  いずれの国も、公海における生物資源の保存及び管理について相互に協力する。二以上の国の国民が同種の生物資源を開発し又は同一の水域において異なる種類の生物資源を開発する場合には、これらの国は、これらの生物資源の保存のために必要とされる措置をとるために交渉を行う。このため、これらの国は、適当な場合には、小地域的又は地域的な漁業機関の設立のために協力する。
第百十九条 公海における生物資源の保存
1 いずれの国も、公海における生物資源の漁獲可能量を決定し及び他の保存措置をとるに当たり、次のことを行う。
 (a)関係国が入手することのできる最良の科学的証拠に基づく措置であって、環境上及び経済上の関連要因(開発途上国の特別の要請を含む。)を勘案し、かつ、漁獲の態様、資源間の相互依存関係及び一般的に勧告された国際的な最低限度の基準(小地域的なもの、地域的なもの又は世界的なもののいずれであるかを問わない。)を考慮して、最大持続生産量を実現することのできる水準に漁獲される種の資源量を維持し又は回復することのできるようなものをとること。
 (b)漁獲される種に関連し又は依存する種の資源量をその再生産が著しく脅威にさらされることとなるような水準よりも高く維持し又は回復するために、当該関連し又は依存する種に及ぼす影響を考慮すること。
2 入手することのできる科学的情報、漁獲量及び漁獲努力量に関する統計その他魚類の保存に関連するデータは、適当な場合には権限のある国際機関(小地域的なもの、地域的なもの又は世界的なもののいずれであるかを問わない。)を通じ及びすべての関係国の参加を得て、定期的に提供し、及び交換する。
3 関係国は、保存措置及びその実施がいずれの国の漁業者に対しても法律上又は事実上の差別を設けるものではないことを確保する。
第百二十条 海産哺乳動物
  第六十五条の規定は、公海における海産哺乳動物の保存及び管理についても適用する。

 第八部 島の制度
第百二十一条 島の制度
1 島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。
2 3に定める場合を除くほか、島の領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚は、他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される。
3 人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。

 第九部 閉鎖海又は半閉鎖海
第百二十二条 定義
  この条約の適用上、「閉鎖海又は半閉鎖海」とは、湾、海盆又は海であって、二以上の国によって囲まれ、狭い出口によって他の海若しくは外洋につながっているか又はその全部若しくは大部分が二以上の沿岸国の領海若しくは排他的経済水域から成るものをいう。
第百二十三条 閉鎖海又は半閉鎖海に面した国の間の協力
  同一の閉鎖海又は半閉鎖海こ面した国は、この条約に基づく自国の権利を行使し及び義務を履行するに当たって相互に協力すべきである。このため、これらの国は、直接に又は適当な地域的機関を通じて、次のことに努める。
 (a)海洋生物資源の管理、保存、探査及び開発を調整すること。
 (b)海洋環境の保護及び保全に関する自国の権利の行使及び義務の履行を調整すること。
 (c)自国の科学的調査の政策を調整し及び、適当な場合には、当該水域における科学的調査の共同計画を実施すること。
 (d)適当な場合には、この条の規定の適用の促進について協力することを関係を有する他の国又は国際機関に要請すること。

 第十部 内陸国の海への出入りの権利及び通過の自由
第百二十四条 用語
1 この条約の適用上、
 (a)「内陸国」とは、海岸を有しない国をいう。
 (b)「通過国」とは、内陸国と海との間に位置しており、その領域において通過運送が行われる国(海岸の有無を問わない。)をいう。
 (c)「通過運送」とは、人、荷物、物品及び輸送手段の一又は二以上の通過国の領域における通過をいう。ただし、その通過が、積換、倉入れ、荷分け又は輸送方法の変更を伴うかどうかを問わず、内陸国の領域内に始まり又は終わる全行程の一部にすぎないときに限る。
 (d)「輸送手段」とは、次のものをいう。
 (i)鉄道車両並びに海洋用、湖用及び河川用船舶並びに道路走行車両
 (ii)現地の状況が必要とする場合には、運搬人及び積載用動物
2 内陸国及び通過国は、相互間の合意により、パイプライン(ガス用輸送管を含む。)及び1(d)に規定するもの以外の輸送の手段を輸送手段に含めることができる。
第百二十五条 海への出入りの権利及び通過の自由
1 内陸国は、公海の自由及び人類の共同の財産に関する権利を含むこの条約に定める権利の行使のために海への出入りの権利を有する。このため、内陸国は、通過国の領域においてすべての輸送手段による通過の自由を享有する。
2 通過の自由を行使する条件及び態様については、関係する内陸国と通過国との間の二国間の、小地域的な又は地域的な協定によって合意する。
3 通過国は、自国の領域における完全な主権の行使として、この部に定める内陸国の権利及び内陸国のための便益が自国の正当な利益にいかなる害も及ぼさないようすべての必要な措置をとる権利を有する。
第百二十六条 最恵国条項の適用除外
  内陸国の特別な地理的位置を理由とする権利及び便益を定めるこの条約及び海への出入りの権利の行使に関する特別の協定は、最恵国条項の適用から除外する。
第百二十七条 関税、租税その他の課徴金
1 通過運送に対しては、いかなる関税、租税その他の課徴金も課してはならない。ただし、当該通過運送に関連して提供された特定の役務の対価として課される課徴金を除く。
2 内陸国に提供され又は内陸国により利用される通過のための輸送手段及び他の便益に対しては、通過国の輸送手段の利用に対して課される租税又は課徴金よりも高い租税又は課徴金を課してはならない。
第百二十八条 自由地帯及び他の通関上の便益
  通過運送の便宜のため、通過国と内陸国との間の合意により、通過国の出入港において自由地帯及び他の通関上の便益を設けることができる。
第百二十九条 輸送手段の建設及び改善における協力
  通過国において通過の自由を実施するための輸送予段がない場合又は現存の手段(港の施設及び設備を含む。)が何らかの点で不十分な場合には、関係する通過国及び内陸国は、そのような輸送手段又は現存の手段の建設及び改善について協力することができる。
第百三十条 通過運送における遅延又はその他の困難で技術的性質のものを回避し又は無くすための措置
1 通過国は、通過運送における遅延又はその他の困難で技術的性質のものを回避するためすべての適当な措置をとる。
2 1の遅延又は困難が生じたときは、関係する通過国及び内陸国の権限のある当局は、その遅延又は困難を迅速に無くすため協力する。
第百三十一条 海港における同等の待遇
  内陸国を旗国とする船舶は、海港において他の外国船舶に与えられる待遇と同等の待遇を与えられる。
第百三十二条 通過のための一層大きい便益の供与
  この条約は、この条約に定める通過のための便益よりも大きい便益であって、締約国間で合意され又は締約国が供与するものの撤回をもたらすものではない。この条約は、また、将来において一層大きい便益が供与されることを排除するものではない。

 第十一部 深海底
   第一節 総則
第百三十三条 用語
  この部の規定の適用上、
 (a)「資源」とは、自然の状態で深海底の海底又はその下にあるすべての固体状、液体状又は気体状の鉱物資源(多金属性の団塊を含む。)をいう。
 (b)深海底から採取された資源は、「鉱物」という。
第百三十四条 この部の規定の適用範囲
1 この部の規定は、深海底について適用する。
2 深海底における活動は、この部の規定により規律される。
3 第一条1(1)に規定する境界を示す海図又は地理学的経緯度の表の寄託及び公表に関する要件については、第六部に定める。
4 この条の規定は、第六部に定めるところによる大陸棚の外側の限界の設定に影響を及ぼすものではなく、また、向かい合っているか又は隣接している海岸を有する国の間の境界画定に関する合意の有効性に影響を及ぼすものではない。
第百三十五条 上部水域及び上空の法的地位
  この部の規定及びこの部の規定により認められ又は行使される権利は、深海底の上部水域又はその上空の法的地位に影響を及ぼすものではない。

   第二節 深海底を規律する原則
第百三十六条 人類の共同の財産
  深海底及びその資源は、人類の共同の財産である。
第百三十七条 深海底及びその資源の法的地位
1 いずれの国も深海底又はその資源のいかなる部分についても主権又は主権的権利を主張し又は行使してはならず、また、いずれの国又は自然人若しくは法人も深海底又はその資源のいかなる部分も専有してはならない。このような主権若しくは主権的権利の主張若しくは行使又は専有は、認められない。
2 深海底の資源に関するすベての権利は、人類全体に付与されるものとし、機構は、人類全体のために行動する。当該資源は、譲渡の対象とはならない。ただし、深海底から採取された鉱物は、この部の規定並びに機構の規則及び手続に従うことによってのみ譲渡することができる。
3 いずれの国又は自然人若しくは法人も、この部の規定に従う場合を除くほか、深海底から採取された鉱物について権利を主張し、取得し又は行使することはできず、このような権利のいかなる主張、取得又は行使も認められない。
第百三十八条 深海底に関する国の一般的な行為
  深海底に関する国の一般的な行為は、平和及び安全の維持並びに国際協力及び相互理解の促進のため、この部の規定、国際連合憲章に規定する原則及び国際法の他の規則に従う。
第百三十九条 遵守を確保する義務及び損害に対する責任
1 締約国は、深海底における活動(締約国、国営企業又は締約国の国籍を有し若しくは締約国若しくはその国民によって実効的に支配されている自然人若しくは法人のいずれにより行われるかを問わない。)がこの部の規定に適合して行われることを確保する義務を負う。国際機関は、当該国際機関の行う深海底における活動に関し、同様の義務を負う。
2 締約国又は国際機関によるこの部の規定に基づく義務の不履行によって生ずる損害については、国際法の規則及び附属書III第二十二条の規定の適用を妨げることなく、責任が生ずる。共同で行動する締約国又は国際機関は、連帯して責任を負う。ただし、締約国は、第百五十三条4及び同附属書第四条4の規定による実効的な遵守を確保するためのすべての必要かつ適当な措置をとった場合には、第百五十三条2(b)に定めるところによって当該締約国が保証した者がこの部の規定を遵守しないことにより生ずる損害について責任を負わない。
3 国際機関の構成国である締約国は、当該国際機関につきこの条の規定の実施を確保するための適当な措置をとる。
第百四十条 人類の利益
1 深海底における活動については、沿岸国であるか内陸国であるかの地理的位置にかかわらず、また、開発途上国の利益及びニーズ並びに国際連合総会決議第千五百十四号(第十五回会期)及び他の関連する総会決議に基づいて国際連合によって認められた完全な独立又はその他の自治的地位を獲得していない人民の利益及びニーズに特別の考慮を払って、この部に明示的に定めるところに従い、人類全体の利益のために行う。
2 機構は、第百六十条2(f)(i)の規定により、深海底における活動から得られる金銭的利益その他の経済的利益の衡平な配分を適当な制度を通じて、かつ、無差別の原則に基づいて行うことについて定める。
第百四十一条 専ら平和的目的のための深海底の利用
  深海底は、無差別に、かつ、この部の他の規定の適用を妨げることなく、すべての国(沿岸国であるか内陸国であるかを問わない。)による専ら平和的目的のための利用に開放する。
第百四十二条 沿岸国の権利及び正当な利益
1 沿岸国の管轄権の及ぶ区域の境界にまたがって存在する深海底の資源の鉱床に関する深海底における活動については、当該沿岸国の権利及び正当な利益に妥当な考慮を払って行う。
2 1の権利及び利益の侵害を回避するため、関係国との間において協議(事前通報の制度を含む。)を維持するものとする。深海底における活動により沿岸国の管轄権の及ぶ区域内に存在する資源を開発する可能性がある場合には、当該沿岸国の事前の同意を得るものとする。
3 この部の規定及びこの部の規定により認められ又は行使されるいかなる権利も、自国の沿岸又は関係利益に対する重大なかつ急迫した危険であって深海底における活動に起因し又はこれから生ずる汚染、汚染のおそれ又はその他の危険な事態から生ずるものを防止し、軽減し又は除去するために必要な措置(第十二部の関連する規定に適合するもの)をとる沿岸国の権利に影響を及ぼすものではない。
第百四十三条 海洋の科学的調査
1 深海底における海洋の科学的調査は、第十三部の規定に従い、専ら平和的目的のため、かつ、人類全体の利益のために実施する。
2 機構は、深海底及びその資源に関する海洋の科学的調査を実施することができるものとし、この目的のため、契約を締結することができる。機構は、深海底における海洋の科学的調査の実施を促進し及び奨励するものとし、また、調査及び分析の結果が利用可能な場合には、当該結果を調整し及び普及させる。
3 締約国は、深海底における海洋の科学的調査を実施することができる。締約国は、次に掲げることにより深海底における海洋の科学的調査における国際協力を促進する。
 (a)国際的な計画に参加すること並びに各国及び機構の要員による海洋の科学的調査における協力を奨励すること。
 (b)機構又は適当な場合には他の国際機関を通じ、開発途上国及び技術面における開発の程度が低い国の利益のため、次に掲げることを目的とする計画が作成されることを確保すること。
 (i)これらの国の調査能力を強化すること。
 (ii)調査の技術及び実施に関し、これらの国及び機構の要員を訓練すること。
 (iii)深海底における調査において、これらの国の資格を有する要員の雇用を促進すること。
 (c)調査及び分析の結果が利用可能な場合には、機構を通じ又は適当なときは他の国際的な経路を通じて当該結果を効果的に普及させること。
第百四十四条 技術の移転
1 機構は、次に掲げることを目的として、この条約に従って措置をとる。
 (a)深海底における活動に関する技術及び科学的知識を取得すること。
 (b)すべての締約国が(a)の技術及び科学的知識から利益を得るようにするため、当該技術及び科学的知識の開発途上国への移転を促進し及び奨励すること。
2 機構及び締約国は、このため、事業体及びすべての締約国が利益を得ることができるように、深海底における活動に関する技術及び科学的知識の移転の促進に協力する。機構及び締約国は、特に、次の計画及び措置を提案し及び促進する。
 (a)事業体及び開発途上国に対し深海底における活動に関する技術を移転するための計画(当該計画には、特に、事業体及び開発途上国が公正かつ妥当な条件の下で関連する技術を取得することを容易にするための方策を含める。)
 (b)事業体の技術及び開発途上国の技術の進歩を目的とする措置(特に、事業体及び開発途上国の要員に対し、海洋科学及び海洋技術に関する訓練の機会並びに深海底における活動に対する十分な参加の機会を与えるもの)
第百四十五条 海洋環境の保護
  深海底における活動に関しては、当該活動により生ずる有害な影響からの海洋環境の効果的な保護を確保するため、この条約に基づき必要な措置をとる。機構は、このため、特に、次の事項に関する適当な規則及び手続を採択する。
 (a)海洋環境(沿岸を含む。)の汚染その他の危険の防止、軽減及び規制並びに海洋環境の生態学的均衡に対する影響の防止、軽減及び規制。特に、ボーリング、しゅんせつ、掘削、廃棄物の処分、これらの活動に係る施設、パイプラインその他の装置の施設、運用及び維持等の活動による有害な影響からの保護の必要性に対して特別の注意が払われなければならない。
 (b)深海底の天然資源の保護及び保在並びに海洋環境における植物相及び動物相に対する損害の防止
第百四十六条 人命の保護
  深海底における活動に関し、人命の効果的な保護を確保するために必要な措置をとるものとする。機構は、このため、関連する条約に規定されている現行の国際法を補足するために適当な規則及び手続を採択する。
第百四十七条 深海底における活動と海洋環境における活動との調整
1 深海底における活動については、海洋環境における他の活動に対して合理的な考慮を払いつつ行う。
2 深海底における活動を行うために使用される施設は、次の条件に従うものとする。
 (a)当該施設については、専らこの部の規定に基づき、かつ、機構の規則及び手続に従い、組み立て、設置し及び撤去する。当該施設の組立て、設置及び撤去については、適当な通報を行わなければならず、また、当該施設の存在について注意を喚起するための恒常的な措置を維持しなければならない。
 (b)当該施設については、国際航行に不可欠な認められた航路帯の使用の妨げとなるような場所又は漁業活動が集中的に行われている水域に設置してはならない。
 (c)航行及び当該施設の安全を確保するため、その施設の周囲に適当な標識を設置することによって安全水域を設定するものとする。当該安全水域の形状及び位置は、船舶の特定の海域への合法的な出入り又は国際的な航路帯上の航行を妨げる帯状となるようなものとしてはならない。
 (d)当該施設については、専ら平和的目的のために使用する。
 (e)当該施設は、島の地位を有しない。当該施設は、それ自体の領海を有せず、また、その存在は、領海、排他的経済水域又は大陸棚の境界画定に影響を及ぼすものではない。
3 海洋環境における他の活動については、深海底における活動に対して合理的な考慮を払いつつ行う。
第百四十八条 深海底における活動への開発途上国の参加
  深海底における活動への開発途上国の効果的な参加については、開発途上国の特別の利益及びニーズ、特に開発途上国のうちの内陸国及び地理的不利国が不利な位置にあること(深海底から離れていること、深海底への及び深海底からのアクセスが困難であること等)から生ずる障害を克服することの必要性に妥当な考慮を払い、この部に明示的に定めるところによって促進する。
第百四十九条 考古学上の物及び歴史的な物
  深海底において発見された考古学上の又は歴史的な特質を有するすべての物については、当該物の原産地である国、文化上の起源を有する国又は歴史上及び考古学上の起源を有する国の優先的な権利に特別の考慮を払い、人類全体の利益のために保存し又は用いる。

   第三節 深海底の資源の開発
第百五十条 深海底における活動に関する方針
  深海底における活動こついては、この部に明示的に定めるところにより、世界経済の健全な発展及び国際貿易の均衡のとれた成長を助長し、かつ、すベての国、特に開発途上国の全般的な発展のための国際協力を促進するように、次に掲げることを確保することを目的として行う。
 (a)深海底の資源を開発すること。
 (b)深海底の資源の秩序ある、安全な、かつ、合理的な管理(深海底における活動の効率的な実施を含む。)を行うこと及び保存に関する適切な原則に従って不必要な浪費を回避すること。
 (c)深海底における活動に参加する機会を、特に第百四十四条及び第百四十八条の規定に即して拡大すること。
 (d)この条約に定めるところにより、機構が収入の一部を得ること並びに事業体及び開発途上国に技術が移転されること。
 (e)消費者への供給を確保するため、深海底以外の供給源から採取される鉱物との関係で必要に応じ、深海底から採取される鉱物の入手可能性を増大させること。
 (f)深海底及び他の供給源から採取された鉱物について、生産者にとって採算がとれ、かつ、消費者にとって公平である公正なかつ安定した価格の形成を促進すること並びに供給と需要との間の長期的な均衡を促進すること。
 (g)すべての締約国(社会的及び経済的制度又は地理的位置を問わない。)に対し深海底の資源の開発に参加する機会を増大させること及び深海底
 における活動の独占を防止すること。
 (h)次条に定めるところに従い、深海底における活動によって影響を受けた鉱物の価格の下落又は当該鉱物の輸出量の減少による経済又は輸出所得に対する悪影響から、当該下落又は減少が深海底における活動によって生じた限度において、開発途上国を保護すること。
 (i)人類全体の利益のために共同の財産を開発すること。
 (j)深海底の資源から生産される鉱物の輸入品及び当該鉱物から生産される産品の輸入品の市場へのアクセスの条件は、他の供給源からの輸入品に適用される最も有利な条件よりも有利なものであってはならないこと。
第百五十一条 生産政策
1 (a)機構は、前条に定める目的を妨げることなく、また、同条(h)の規定を実施するため、生産者及び消費者の双方を含む関係のあるすべての当事者が参加する既存の場又は適当な新たな取決め若しくは合意を通じて行動することにより、深海底から採取された鉱物から生産される産品の市場の成長、効率及び安定を生産者にとって採算のとれる、かつ、消費者にとって公正な価格で促進するために必要な措置をとる。すべての締約国は、このために協力する。
 (b)機構は、深海底から採取された鉱物から生産される産品に関する会議であって生産者及び消費者の双方を含む関係のあるすべての当事者が参加するものに参加する権利を有する。機構は、当該会議の結果作成されるすべての取決め又は合意の当事者となる権利を有する。当該取決め又は合意に基づいて設立される機関への機構の参加は、深海底における生産に関して行われるものに限られるものとし、当該機関に関連する規則に従う。
 (c)機構は、深海底における鉱物のすべての生産に関し、この1の取決め又は合意に基づく義務を履行するに当たり、一律のかつ無差別な実施を確保するように行う。機構は、その義務の履行に当たり、既存の契約及び承認された事業体の業務計画の条件に即して行動する。
2 (a)3に定める暫定期間中、操業者が機構に生産許可を申請し、その発給を受けるまでは、承認された業務計画に従った商業的生産を行ってはならない。当該生産認可については、業務計画に基づいて商業的生産の開始が予定されている時から五年さかのぼる日前に、申請し又はその発給を受けることができない。ただし、機構が、事業の進展の性質及び日程を考慮してその規則及び手続において他の期間を定める場合は、これによる。
 (b)操業者は、承認された業務計画に基づいて一年間に採取されることが予想されるニッケルの量を生産認可の申請書に明記する。当該申請書には、操業者が認可の取得後に行う支出(予定されている日程に従って商業的生産を開始することを可能にするよう合理的に計算されたもの)の計画表を含める。
 (c)(a)及び(b)の規定の適用上、機構は、附属書III第十七条の規定に従って適当な実施に関する要件を定める。
 (d)機構は、暫定期間中の生産が計画されている各年について、申請された生産量及び既に認可が与えられている生産量の合計が、生産認可の発給される年について4の規定に従って計算したニッケルの生産量の上限を超えない限り、当該申請された生産量について生産認可を発給する。
 (e)生産認可及び承認された申請は、生産認可の発給の後、承認された業務計画の一部となる。
 (f)操業者は、生産認可の申請が(d)の規定に基づいて却下された場合には、機構に対しいつでも新たに申請することができる。
3 暫定期間は、承認された業務計画に基づき最初の商業的生産の開始が予定されている年の一月一日の五年前に始まる。最初の商業的生産の開始が当初予定された年より遅れる場合には、その遅れに従い暫定期間の開始時期及び当初計算された生産量の上限を調整する。暫定期間は、二十五年の期間が経過する時、第百五十五条に規定する再検討のための会議が終了する時又は1に規定する新たな取決め若しくは合意が効力を生ずる時のうちいずれか早い時まで継続する。機構は、当該取決め又は合意が終了し又は理由のいかんを問わず効力を失う場合には、暫定期間の残余の期間についてこの条に定める権限を回復する。
4 (a)暫定期間の各年の生産量の上限は、次の(i)及び(ii)の規定によって得られた値の合計とする。
 (i)(b)の規定に従って計算されるニッケルの消費量の傾向線上の値であって最初の商業的生産が開始される年の前年のものと当該傾向線上の値であって暫定期間が開始される年の前年のものとの差(ii)(b)の規定に従って計算されるニッケルの消費量の傾向線上の値であって生産認可が申請される年のものと当該傾向線上の値であって最初の商業的生産が開始される年の前年のものとの差の六十パーセント
 (b)(a)の規定の適用上、
 (i)ニッケルの生産量の上限を計算するために用いられる傾向線上の値は、生産認可が発給される年において計算される当該傾向線上のニッケルの年間消費量の値とする。当該傾向線は、時間を独立変数とし、データを入手し得る最近の十五年間の実際のニッケルの消費量の対数の線形回帰から得るものとする。この傾向線を原傾向線という。
 (ii)原傾向線の年間増加率が三パーセント未満の場合には、(a)に定める生産量を決定するために用いられる傾向線は、原傾向線上における
 (i)に規定する十五年間の最初の年の値を始点として毎年三パーセントの率で増加する傾向線とする。ただし、暫定期間の各年における生産量の上限は、いかなる場合にも、当該原傾向線上の当該年の値と当該原傾向線上の暫定期間が開始される年の前年の値との差を超えてはならない。
5 機構は、4の規定に従って計算される生産量の上限のうち、事業体の当初の生産分として三万八千メートル・トンの量のニッケルを留保する。
6 (a)操業者は、全体の生産量が生産認可に定める量を超えないことを条件として、いずれの年においても生産認可に定める多金属性の団塊からの鉱物のその年の年間の生産量未満の量又は当該年間の生産量にその八パーセントの量を加えた量までの生産を行うことができる。各年における当該年間の生産量の八パーセント超二十パーセント以下の超過について又は二年連続して当該年間の生産量を超過した後の最初の及びその後の年における当該年間の生産量の超過については、機構と交渉するものとし、機構は、操業者に対し追加的な生産についての補足的な生産認可を受けるよう要求することができる。
 (b)(a)の補足的な生産認可の申請については、生産認可を受けていない操業者によるまだ処理のされていないすべての申請について決定が行われ、かつ、他の予想される申請者について妥当な考慮が払われた後においてのみ、機構が検討する。機構は、暫定期間のいずれの年においても認められた生産量の合計が当該年の生産量の上限を超えてはならないという原則に従う。機構は、いかなる業務計画の下においても、年間四万六千五百メートル・トンを超える量にニッケルの生産を認可してはならない。
7 生産認可に従って採取された多金属性の団塊から抽出される銅、コバルト、マンガン等のニッケル以外の鉱物の生産量は、操業者がこの条の規定に従って当該団塊からニッケルを最大限に生産した場合の当該ニッケル以外の鉱物の生産量を超えるべきではない。機構は、この7の規定を実施するため、附属書III第十七条の規定によって規則及び手続を定める。
8 関連する多数国間の貿易協定の下での不公正な経済的慣行に関する権利及び義務は、深海底の鉱物の探査及び開発について適用される。当該貿易協定の当事国である締約国は、この8の規定に関して生ずる紛争の解決に当たって、当該貿易協定の紛条解決手続を利用する。
9 機構は、第百六十一条8の規定に従って規則を採択することにより、適当な条件の下で、かつ、適当な方法を用いて、多金属性の団塊から抽出される鉱物以外の深海底の鉱物の生産量を制限する権限を有する。
10 総会は、深海底における活動によって影響を受けた鉱物の価格の下落又は当該鉱物の輸出量の減少によりその輸出所得又は経済が深刻な悪影響を受ける開発途上国を、当該下落又は減少が深海底における活動によって生じた限度において援助するため、経済計画委員会の助言に基づく理事会の勧告に従って、補償制度を設け又は経済調整を援助する他の措置(専門機関及び他の国際機関との協力を含む。)をとる。機構は、要請に基づき、最も深刻な影響を受けることが予想される国の困難を最小のものとし、かつ、当該国の経済調整を援助するため、当該国が有する問題について研究を開始する。
第百五十二条 機構による権限の行使及び任務の遂行
1 機構は、その権限の行使及び任務の遂行(深海底における活動の機会を提供することを含む。)に当たって、差別をしてはならない。
2 1の規定にかかわらず、開発途上国に対しこの部に明示的に定める特別の考慮を払うこと(開発途上国のうちの内陸国及び地理的不利国に対し特に考慮を払うことを含む。)が、認められる。
第百五十三条 探査及び開発の制度
1 深海底における活動は、機構が、この条の規定、この部の他の規定、関連する附属書並びに機構の規則及び手続に従い、人類全体のために組織し、行い及び管理する。
2 深海底における活動は、3に定めるところに従って次の者が行う。
 (a)事業体
 (b)機構と提携することを条件として、締約国、国営企業又は締約国の国籍を有し若しくは締約国若しくはその国民によって実効的に支配されている自然人若しくは法人であって当該締約国によって保証されているもの並びにこの(b)に規定する者の集団であってこの部及び附属書IIIに定める要件を満たすもの
3 深海底における活動については、附属書IIIの規定に従って作成され、法律・技術委員会による検討の後理事会によって承認された書面による正式の業務計画に従って行う。機構によって認められたところによって2(b)に定める主体が行う深海底における活動の場合には、業務計画は、同附属書第三条の規定に基づいて契約の形式をとる。当該契約は、同附属書第十一条に定める共同取決めについて規定することができる。
4 機構は、この部の規定、この部に関連する附属書、機構の規則及び手続並びに3に規定する承認された業務計画の遵守を確保するために必要な深海底における活動に対する管理を行う。締約国は、第百三十九条の規定に従い当該遵守を確保するために必要なすべての措置をとることによって機構を援助する。
5 機構は、この部の規定の遵守を確保するため並びにこの部又はいずれかの契訳によって機構に与えられる管理及び規制の任務の遂行を確保するため、いつでもこの部に定める措置をとる権利を有する。機構は、深海底における活動に関連して使用される施設であって深海底にあるすベてのものを査察する権利を有する。
6 3に定める契約は、当該契約の定める期間中の有効性が保証されることについて規定する。当該契約は、附属書IIIの第十八条及び第十九条の規定に基づく場合を除くほか、改定されず、停止されず又は終了しない。
第百五十四条 定期的な再検討
  総会は、この条約の効力発生の後五年ごとに、この条約によって設けられる深海底の国際的な制度の実際の連用について全般的かつ系統的な再検討を行う。総会は、当該再検討に照らし、この部及びこの部に関連する附属書の規定及び手続に従って当該制度の運用の改善をもたらすような措置をとることができ、又は他の機関がそのような措置をとるよう勧告することができる。
第百五十五条 再検討のための会議
1 総会は、承認された業務計画に従って最初の商業的生産が開始される年の一月一日から十五年が経過した年に、深海底の資源の探査及び開発の制度を規律するこの部及び関連する附属書の規定を再検討するために会議を招集する。再検討のための会議は、当該十五年の間に得られた経験に照らして、次に掲げる事項を詳細に検討する。
 (a)当該制度を規律するこの部の規定が、人類全体に利益を与えたか否かを含め、すべての点でその目的を達成したか否か。
 (b)当該十五年の間に、留保されていない鉱区と比較して留保鉱区が効果的にかつ均衡のとれた形で開発されたか否か。
 (c)深海底及びその資源の開発及び利用が世界経済の健全な発展及び国際貿易の均衡のとれた成長を助長するように行われたか否か。
 (d)深海底における活動の独占が防止されたか否か。
 (e)第百五十条及び第百五十一条に定める方針及び政策が実施されたか否か。
 (f)当該制度が深海底における活動から生ずる利益の衡平な配分をもたらしたか否か(特に開発途上国の利益及びニーズに考慮を払う。)。
2 再検討のための会議は、人類の共同の財産という原則、すべての国、特に開発途上国の利益のために深海底の資源の衡平な開発を確保することを目的とした国際制度並びに深海底における活動を組織し、行い及び管理するための機構が維持されることを確保する。再検討のための会議は、また、深海底のあらゆる部分に対する主権の主張又は行使の排除、国の深海底に関する権利及び一般的な行為、この条約に適合する深海底における活動への国の参加、深海底における活動の独占の防止、専ら平和的目的のための深海底の利用、深海底における活動の経済的側面、海洋の科学的調査、技術の移転、海洋環境の保護、人命の保護、沿岸国の権利、深海底の上部水域及びその上空の法的地位並びに深海底における活動と海洋環境における他の活動との間の調整に関するこの部に定める原則が維持されることを確保する。
3 再検討のための会議における意思決定手続は、第三次国際連合海洋法会議における手続と同一のものとする。再検討のための会議は、いかなる改正についてもコンセンサス方式によって合意に達するためのあらゆる努力を払う。コンセンサスに達するためのあらゆる努力が払われるまで、改正に関する投票は行われるべきではない。
4 再検討のための会議は、その開始の後五年の間に深海底の資源の探査及び開発の制度に関して合意に達しない場合には、当該五年の経過後の十二箇月の間に、当該制度を変更し又は修正する改正であって必要かつ適当と認めるものを採択し及び批准又は加入のため締約国に提出することにつき、締約国の四分の三以上の多数による議決で決定することができる。当該改正は、締約国の四分の三による批准書又は加入書の寄託の日の後十二箇月ですべての締約国について効力を生ずる。
5 この条の規定に従い再検討のための会議によって採択された改正は、既存の契約に基づいて取得された権利に影響を及ぼすものではない。

   第四節 機構
A 総則
第百五十六条 機構の設立
1 この部の規定に基づいて任務を遂行する国際海底機構を設立する。
2 すべての締約国は、締約国であることによって機構の構成国となる。
3 第三次国際連合海洋法会議のオブザーバーであって、最終議定書に署名し、かつ、第三百五条1の(c)、(d)、(e)又は(f)に規定するものに該当しないものは、機構の規則及び手続に従ってオブザーバーとして機構に参加する権利を有する。
4 機構の所在地は、ジャマイカとする。
5 機構は、その任務の遂行のために必要と認める地域のセンター又は事務所を設置することができる。
第百五十七条 機構の性質及び基本原則
1 機構は、締約国が、特に深海底の資源を管理することを目的として、この部の規定に従って深海底における活動を組織し及び管理するための機関である。
2 機構の権限及び任務は、この条約によって明示的に規定される。機構は、深海底における活動についての権限の行使及び任務の遂行に含まれ、かつ、必要である付随的な権限であって、この条約に適合するものを有する。
3 機構は、そのすべての構成国の主権平等の原則に基礎を置くものである。
4 機構のすべての構成国は、すべての構成国が構成国としての地位から生ずる権利及び利益を享受することができるよう、この部の規定に基づいて負う義務を誠実に履行する。
第百五十八条 機構の機関
1 機構の主要な機関として総会、理事会及び事務局を設置する。
2 事業体を設置する。機構は、この機関を通じて第百七十条1の任務を遂行する。
3 必要と認められる補助機関については、この部の規定に基づいて設置することができる。
4 機構の主要な機関及び事業体は、与えられた権限の行使及び任務の遂行についてそれぞれ責任を負う。各機関は、当該権限の行使及び任務の遂行に当たり、他の機関に与えられた特定の権限の行使及び任務の遂行を害し又は妨げるような行動を回避する。
B 総会
第百五十九条 構成、手続及び投票
1 総会は、機構のすべての構成国で構成される。各構成的は、総会において一人の代表を有するものとし、代表は、代表代理及び顧問を伴うことができる。
2 総会は、毎年通常会期として会合し、また、総会によって決定される特別会期として又は理事会の要請若しくは機構の構成国の過半数の要請に基づいて機構の事務局長によって招集される特別会期として会合する。
3 総会の会合は、総会により別段の決定が行われる場合を除くほか、機構の所在地において開催する。
4 総会は、その手続規則を採択する。総会は、各通常会期の初めに議長及び必要とされるその他の役員を選出する。これらの者は、次の通常会期において新たな議長及びその他の役員が選出されるまで在任する。
5 総会の会合の定足数は、構成国の過半数とする。
6 総会の各構成国は、一の票を有する。
7 特別会期として総会の会合を招集する決定を含む手続問題についての決定は、出席しかつ投票する構成国の過半数による議決で行う。
8 実質問題についての決定は、出席しかつ投票する構成国の三分の二以上の多数による議決で行う。ただし、当該多数が当該会期に参加する構成国の過半数であることを条件とする。実質問題であるか否かに関して問題が生じた場合には、当該問題は、実質問題についての決定に要する多数による議決で総会によって別段の決定が行われる場合を除くほか、実質問題として取り扱われる。
9 実質問題が初めて投票に付される場合には、議長は、当該実質問題に関する投票を五日を超えない期間延期することができる。もっとも、総会の構成国の五分の一以上の国が延期を要請する場合には、議長は、延期しなければならない。この規則は、いかなる実質問題についても一回のみ適用することができるものとし、会期末を超えて実質問題の投票を延期するために適用してはならない。
10 いずれかの問題について総会に提出された提案とこの条約との適合性に関する勧告的意見が議長に対して書面によって要請され、機構の構成国の四分の一以上の国がその要請を支持する場合には、総会は、当該勧告的意見を与えるよう国際海洋法裁判所の海底紛争裁判部に要請する。総会は、同裁判部によって勧告的意見が与えられるまで当該提案に関する投票を延期する。勧告的意見の要請が行われた会期の最後の週までに当該勧告的意見が与えられない場合には、総会は、当該提案に関して投票を行うために会合する時期を決定する。
第百六十条 権限及び任務
1 総会は、機構のすべての構成国で構成される機構の唯一の機関として、他の主要な機関がこの条約に明示的に定めるところによって責任を負う機構の最高機関とみなされる。総会は、この条約の関連する規定に従い機構の権能の範囲内のあらゆる問題又は事項に関して一般的な政策を定める権限を有する。
2 1に定める権限のほか、総会の権限及び任務は、次のとおりとする。
 (a)次条の規定に従って理事国を選出すること。
 (b)理事会が提案する候補者のうちから機構の事務局長を選出すること
 (c)理事会の勧告に基づき、事業体の総務会の総務及び事業体の事務局長を選出すること。
 (d)この部の規定に基づく総会の任務の遂行に必要と認める補助機関を設置すること。当該補助機関の構成については、衡平な地理的配分の原則、特別の利益並びに当該補助機関が取り扱う関連する技術的事項について資格及び能力を有する者で構成することの必要性に妥当な考慮を払う。
 (e)機構がその運営経費に充てるための十分な収入を他の財源から得るようになるまでの間、国際連合の通常予算に用いられる分担率に基づいて合意される分担率に従って機構の運営予算に対する構成国の分担金の額を決定すること。
 (f)(i)開発途上国及び完全な独立又はその他の自治的地位を獲得していない人民の利益及びニーズに特別の考慮を払って、深海底における活動から得られる金銭的利益その他の経済的利益の衡平な配分並びに第八十二条の規定に基づいて行われる支払及び拠出に関する規則及び手続を、理事会の勧告に基づいて審議し、承認すること。総会は、理事会の勧告を承認しない場合には、総会によって表明された意見に照らした再検討のため当該勧告を理事会に差し戻す。
 (ii)機構の規則及び手続並びにこれらの改正であって、第百六十二条2(o)(ii)の規定に基づいて理事会によって暫定的に採択されたものを審議し、承認すること。暫定的に採択された規則及び手続は、深海底における概要調査、深海底における探査及び開発、機構の財政管理及び内部運営並びに事業体の総務会の勧告を受けて行われる事業体から機構への資金の移転に関係するものとする。
 (g)深海底における活動から得られる金銭的利益その他の経済的利益をこの条約並びに機構の規則及び手続に即して衡平に配分することについて決定すること。
 (h)理事会が提出した機構の年次予算案を審議し、承認すること。
 (i)理事会及び事業体の定期的な報告並びに理事会及び機構のその他の機関に要請した特別の報告を検討すること。
 (j)深海底における活動に関する国際協力を促進するため並びに深海底における活動に関連する国際法の漸進的発展及び法典化を奨励するため、研究を開始し及び勧告を行うこと。
 (k)深海底における活動に関連する一般的な性質の問題(特に開発途上国に生ずるもの)及び深海底における活動に関連する問題で地理的位置に起因するもの(特に内陸国及び地理的不利国に生ずるもの)を審議すること。
 (l)経済計画委員会の助言に基づく理事会の勧告に従い、第百五十一条10の規定に基づき、補償制度を設け又は経済調整を援助するその他の措置をとること。
 (m)第百八十五条の規定に基づき構成国としての権利及び特権の行使を停止すること。
 (n)機構の権能の範囲内のあらゆる問題又は事項について討議すること並びに機構の特定の機関に明示的に付託されていない問題又は事項を機構のいずれの機関が取り扱うかを機構の諸機関の間の権限及び任務の配分に適合するように決定すること。
C 理事会
第百六十一条 構成、手続及び投票
1 理事会は、総会が選出する機構の三十六の構成国で構成される。その選出については、次の順序によって行う。
 (a)統計が入手可能な最近の五年間に、深海底から採取される種類の鉱物から生産された産品について、世界全体の消費量の二パーセントを超える量を消費した締約国又は世界全体の輸入量の二パーセントを超える量を輸入した締約国のうちから四の理事国。ただし、いかなる場合にも、一の理事国は東欧地域の社会主義国から選出するものとし、また、一の理事国は最大の消費国をもって充てる。
 (b)直接に又はその国民を通じて、深海底における活動の準備及び実施に最大の投資を行っている八の締約国のうちから四の理事国。ただし、少なくとも一の理事国は、東欧地域の社会主義国から選出する。
 (c)その管轄の下にある地域における生産を基礎として、深海底から採取される種類の鉱物の主要の純輸出国である締約国のうちから四の理事国。ただし、少なくとも二の理事国は、自国による当該鉱物の輸出がその経済に重要な関係を有している開発途上国から選出する。
 (d)開発途上国である締約国のうちから特別の利益を代表する六の理事国。代表される当該特別の利益には、人口の多い国、内陸国又は地理的不利国、深海底から採取される種類の鉱物の主要な輸入国、当該鉱物の潜在的な生産国及び後発開発途上国の利益を含む。
 (e)理事会全体の議席の衡平な地理的配分を確保するという原則に従って選出される十八の理事国。ただし、各地理的地域からこの(e)の規定により少なくとも一の理事国を選出するものとする。この規定の適用上、地理的地域とは、アフリカ、アジア、東欧(ただし、社会主義国に限る。)、ラテン・アメリカ並びに西欧及びその他をいう。
2 総会は、1の規定に従って理事国を選出するに当たり、次のことを確保する。
 (a)内陸国及び地理的不利国が、総会において代表される程度と合理的に均衡のとれる程度に代表されること。
 (b)1の(a)から(d)までに定める要件を満たしていない沿岸国(特に開発途上国)が、総会において代表される程度と合理的に均衡のとれる程度に代表されること。
 (c)理事会において代表される締約国の集団が指名する機構の構成国がある場合には、当該機構の構成国によって当該集団が代表されること。
3 選出は、総会の通常会期に行われる。各理事国は、四年の任期で選出される。ただし、第一回の選出においては、1に定める各集団の理事国の半数は、二年の任期で選出される。
4 理事国は、再選されることができる。もっとも、輪番制による議席の交代が望ましいことに妥当な考慮が払われるべきである。
5 理事会は、機構の所在地で任務を遂行し、機構の業務の必要に応じて会合する。ただし、年三回以上会合するものとする。
6 理事会の会合の定足数は、理事国の過半数とする。
7 各理事国は、一の票を有する。
8 (a)手続問題についての決定は、出席しかつ投票する理事国の過半数による議決で行う。
 (b)次に掲げる規定の適用に関して生ずる実質問題についての決定は、出席しかつ投票する理事国の三分の二以上の多数による議決で行う。ただし、当該多数が理事国の過半数であることを条件とする。
  次条2の(f)から(i)まで、(n)、(p)及び(v)並びに第百九十一条
 (c)次に掲げる規定の適用に関して生ずる実質問題についての決定は、出席しかつ投票する理事国の四分の三以上の多数による議決で行う。ただし、当該多数が理事国の過半数であることを条件とする。
  次条1、同条2の(a)から(e)まで、(l)、(q)から(t)まで、(u)(契約者又は保証国による不履行の場合)、(w)(ただし、(w)に規定する命令は、8(d)に定めるコンセンサス方式による決定によって確認される場合を除くほか、三十日を超えて拘束力を有することができない。)及び(x)から(z)まで、第百六十三条2、第百七十四条3並びに附属書IV第十一条
 (d)次に掲げる規定の適用に関して生ずる実質問題についての決定は、コンセンサス方式によって行う。
  次条2の(m)及び(o)並びにこの部の規定の改正の採択
 (e)(d)、(f)及び(g)の規定の適用上、「コンセンサス」とは、正式の異議がないことを意味する。議長は、理事会に対する提案の提出から十四日以内に、当該提案を採択することに対する正式の異議があるか否かを判断する。理事会の議長は、提案を採択することに対する正式の異議があると判断した場合には、意見の相違を調停し、コンセンサス方式による採択が可能となるような提案を作成することを目的として、その判断の後三日以内に、九を超えない理事国から成り、理事会の議長を委員長とする調停委員会を設置し、招集する。調停委員会は、迅速に作業を行い、その設置の後十四日以内に理事会に対して報告する。調停委員会は、コンセンサス方式による採択が可能となるような提案を勧告することができない場合には、その報告において、そのような提案に対して異議が申し立てられている理由を明らかにする。
 (f)(a)から(d)までに規定していない問題であって、機構の規則及び手続その他により理事会が決定を行うことが認められているものについては、当該規則及び手続に明記されている(a)から(d)までのいずれかに定める手続に従って決定する。いずれの手続によるかについて当該規則及び手続に明記されていない場合には、理事会が、可能なときは事前に、コンセンサス方式によって決定する(a)から(d)までのいずれかに定める手続に従って決定する。
 (g)問題が(a)から(d)までのうちのいずれに規定する問題に該当するかについて疑義が生ずる場合には、場合に応じ、より多くの多数による議決を必要とする問題又は、コンセンサス方式を必要とする問題に該当する可能性があるときは、同方式を必要とする問題に該当するものとして取り扱う。ただし、その問題について適用されることとなる議決の方式によって理事会において別段の決定が行われる場合は、この限りでない。
9 理事会は、理事国でない機構の構成国の要請がある場合又は理事国でない機構の構成国に特に影響を及ぼす事項が審議される場合に当該構成国が理事会の会合に代表を出席させることができるようにするための手続を定める。当該代表は、審議に参加することができるが、投票することはできない。
第百六十二条 権限及び任務
1 理事会は、機構の執行機関であり、機構の権能の範囲内のあらゆる問題又は事項について、機構の従うべき個別の政策を、総会が定める一般的な政策及びこの条約に即して定める権限を有する。
2 理事会は、1に定める権限を行使するほか、次のことを行う。
 (a)不履行の事案について総会の注意を喚起すること並びに、機構の権能の範囲内のあらゆる問題又は事項について、この部の規定の実施を監督し及び調整すること。
 (b)機構の事務局長の選出のための候補者の名簿を総会に提案すること。
 (c)事業体の総務会の総務及び事業体の事務局長の選出のために候補者を総会に推薦すること。
 (d)適当な場合には、経済性及び効率に妥当な考慮を払い、この部の規定に基づく理事会の任務の遂行に必要と認める補助機関を設置すること。当該補助機関の構成については、衡平な地理的配分の原則及び特別の利益に妥当な考慮が払われることを条件として、当該補助機関が取り扱う関連する技術的事項について資格及び能力を有する者で構成することの必要性に重点を置くものとする。
 (e)議長の選出方法に関する規則を含む理事会の手続規則を採択すること。
 (f)総会の承認を条件として、機構のためにかつ機構の権能の範囲内で国際連合又は他の国際機関と協定を締結すること。
 (g)事業体の報告を審議し、勧告を付して総会に送付すること。
 (h)年次報告及び総会が要請する特別の報告を総会に提出すること。
 (i)第百七十条の規定に基づいて事業体に指示を字えること。
 (j)附属書III第六条の規定に従って業務計画を承認すること。理事会は、法律・技術委員会によって業務計画が提出された日から六十日以内に、理事会の会期中に次の手続に従って当該業務計画について決定を行う。
 (i)委員会が業務計画の承認を勧告した場合において、いずれの理事国も十四日以内に議長に対し附属書III第六条の要件を満たしていない旨の具体的な異議を書面によって申し立てないときは、当該業務計画については、理事会によって承認されたものとみなす。異議が申し立てられたときは、前条8(e)に定める調停手続を適用する。調停手続の終了時においても当該異議が維持されている場合には、理事会(当該業務計画を申請した国又は当該業務計画の申請者を保証している国が理事国である場合には、これらの国を除く。)がコンセンサス方式により不承認とすることを決定しない限り、当該業務計画については、承認されたものとみなす。
 (ii)委員会が業務計画の不承認を勧告する場合又はいかなる勧告も行わない場合には、理事会は、出席しかつ投票する理事国の四分の三以上の多数による議決で当該業務計画の承認を決定することができる。ただし、当該多数が当該会期に出席する理事国の過半数であることを条件とする。
 (k)(j)に規定する手続を準用して、附属書IV第十二条の規定に基づいて事業体が提出する業務計画を承認すること。
 (l)第百五十三条4の規定並びに機構の規則及び手続に従って深海底における活動の管理を行うこと。
 (m)第百五十条(h)に規定する経済的な悪影響からの保護を行うため、経済計画委員会の勧告に基づき同条(h)の規定に従って必要かつ適当な措置をとること。
 (n)経済計画委員会の助言に基づき、第百五十一条10に規定する補償制度又は経済調整を援助するその他の措置について総会に勧告すること。
 (o)(i)開発途上国及び完全な独立又はその他の自治的地位を獲得していない人民の利益及びニーズに特別の考慮を払って、深海底における活動から得られる金銭的利益その他の経済的利益の衡平な配分並びに第八十二条の規定に基づいて行われる支払及び拠出に関する規則及び手続を総会に勧告すること。
 (ii)総会によって承認されるまでの間、法律・技術委員会又はその他の関係する補助機関の勧告を考慮して、機構の規則及び手続(これらの改正を含む。)を暫定的に採択し、暫定的に適用すること。これらの規則及び手続は、深海底における概要調査、深海底における探査及び開発並びに機構の財政管理及び内部運営に関係するものとする。多金属性の団塊の探査及び開発に関する規則及び手続の採択を優先する。多金属性の団塊以外の資源の探査及び開発のための規則及び手続については、当該資源に関し機構の構成国が当該規則及び手続を採択することを機構に要請した日から三年以内に採択する。すべての規則及び手続は、総会によって承認される時又は総会の表明する見解に照らして理事会によって改正される時まで、暫定的に効力を有する。
 (p)この部の規定に基づく活動に関連して機構が行い又は機構に対して行われるすべての支払の状況を検討すること。
 (q)附属書III第七条の規定により必要とされる場合には、生産認可を申請した者のうちから同条の規定に従って選定を行うこと。
 (r)総会の承認を得るため機構の年次予算案を総会に提出すること。
 (s)機構の権能の範囲内にあらゆる問題又は事項に関する政策について総会に勧告すること。
 (t)第百八十五条の規定に基づき構成国としての権利及び特権の行使を停止することに関して総会に勧告すること。
 (u)不履行がある場合に、海底紛争裁判部において機構のために手続を開始すること。
 (v)(u)の規定に基づいて開始された手続における海底紛争裁判部の決定に関して総会に通報し、とるべき措置につき適当と認める勧告を行うこと。
 (w)深海底における活動から生ずる海洋環境に対する重大な害を防止するため、緊急の命令(操業を停止し又は調整するための命令を含む。)を発すること。
 (x)海洋環境に対し重大な害を及ぼす危険性のあることを実質的な証拠が示している場合に、契約者又は事業体による開発のための鉱区を承認しないこと。
 (y)次の事項に関する財政上の規則及び手続の案を作成するための補助機関を設置すること。
 (i)第百七十一条から第百七十五条までの規定に基づく財政管理
 (ii)附属書IIIの第十三条及び第十七条1(c)の規定に基づく財政上の措置
 (z)この部の規定、機構の規則及び手続並びに機構との契約の条件が遵守されているか否かを決定するために深海底における活動を査察する査察員に対し指示を与え及び査察員を監督するための適当な制度を設けること。
第百六十三条 理事会の機関
1 理事会の機関として次のものを設置する。
 (a)経済計画委員会
 (b)法律・技術委員会
2 各委員会は、締約国が指名した候補者のうちから理事会が選出する十五人の委員で構成される。ただし、理事会は、必要な場合には、経済性及び効率に妥当な考慮を払い各委員会の委員の人数を増加させることについて決定することができる。
3 委員は、その属する委員会が権限を有する分野についての適当な資格を有していなければならない。締約国は、委員会の任務の効果的な遂行を確保するため、関連する分野についての資格と共に最高水準の能力及び誠実性を有する候補者を指名する。
4 委員の選出に当たっては、衡平な地理的配分及び特別の利益が代表されることの必要性に妥当な考慮を払う。
5 いずれの締約国も、同一の委員会につき二人以上の候補者を指名することができない。いかなる者も、二以上の委員会で職務を遂行するために選出されることはできない。
6 委員は、五年の任期を有する。委員は、一の任期について再選されることができる。
7 委員の任期満了前に、委員の死亡、心身の故障又は辞任があった場合には、理事会は、当該委員と同一の地理的地域又は利益の分野から、その残任期間について委員を任命する。
8 委員は、深海底における探査及び開発に関するいかなる活動についても、金銭上の利害関係を有してはならない。委員は、その属する委員会の任務を遂行する場合を除くほか、産業上の秘密、附属書III第十四条の規定に基づいて機構に移転された財産的価値を有するデータその他機構における職務上知り得た秘密の情報をその職を退いた後も開示してはならない。
9 委員会は、理事会が採択する指針及び指示に従ってその任務を遂行する。
10 委員会は、その任務の効率的な遂行のために必要な規則を作成し、承認を得るために理事会に提出する。
11 委員会の意思決定手続は、機構の規則及び手続において定める。理事会に対する勧告には、必要な場合には、委員会における意見の相違についての要約を添付する。
12 委員会は、通常、機構の所在地で任務を遂行し、その任務の効率的な遂行の必要に応じて会合する。
13 委員会は、その任務の遂行に当たり、適当な場合には、他の委員会、国際連合若しくはその専門機関の権限のある機関又は対象となる事項について権限を有する国際機関と協議を行うことができる。
第百六十四条 経済計画委員会
1 経済計画委員会の委員は、鉱業、鉱物資源に関する活動の管理、国際貿易、国際経済等についての適当な資格を有していなければならない。理事会は、すべての適当な資格が委員会の構成において反映されることを確保するよう努力する。委員会には、深海底から採取される種類の鉱物の自国による輸出がその経済に重要な関係を有している開発途上国から少なくとも二人の委員を選出する。
2 経済計画委員会は、次のことを行う。
 (a)理事会の要請に基づき、深海底における活動に関しこの条約の定めるところに従って行われた決定を実施するための措置を提案すること。
 (b)輸入国及び輸出国の双方の利益、特にこれらの国のうちの開発途上国の利益を考慮に入れて、深海底から採取される鉱物の供給、需要及び価格の動向並びに供給、需要及び価格に影響を与える要因を検討すること。
 (c)関係締約国による注意の喚起を受けて、第百五十条(h)に規定する悪影響をもたらすおそれのある事態について、調査すること及び理事会に適当な勧告を行らこと。
 (d)深海底における活動によって悪影響を受けた開発途上国のための補償制度又は経済調整を援助するその他の措置を、総会に提出するために、第百五十一条10の規定に基づいて理事会に提案すること。委員会は、総会によって採択された当該補償制度又は経済調整を援助するその他の措置を個別の事案に適用するために必要な勧告を理事会に行う。
第百六十五条 法律・技術委員会
1 法律・技術委員会の委員は、鉱物資源の探査、開発及び製錬、海洋学、海洋環境の保護、海洋における鉱業及び関連する専門分野に関する経済的又は法律的事項等についての適当な資格を有していなければならない。理事会は、すべての適当な資格が委員会の構成において反映されることを確保するよう努力する。
2 法律・技術委員会は、次のことを行う。
 (a)理裏会の要請に基づき、機構の任務の遂行に関して勧告すること。
 (b)深海底における活動に関する書面による正式の業務計画を第百五十三条3の規定に基づいて検討し、理事会に適当な勧告を提出すること。委員会は、附属書IIIに定める基準のみに基づいて勧告し、その勧告に関して理事会に十分な報告を行う。
 (c)理事会の要請に基づき、適当な場合には深海底における活動を行う主体又は関係国と協議し及び協力して、当該活動を監督し、理事会に報告すること。
 (d)深海底における活動が環境に及ぼす影響についての評価を作成すること。
 (e)海洋環境の保護につき、その分野において認められた専門家の見解を考慮して、理事会に勧告すること。
 (f)深海底における活動が環境に及ぼす影響についての評価を含むすべての関連する要素を考慮して、第百六十二条2(o)に規定する規則及び手続を作成し、理事会に提出すること。
 (g)(f)の規則及び手続を常に検討し、必要又は望ましいと認める改正を随時理事会に勧告すること。
 (h)認められた科学的方法により、深海底における活動に起因する海洋環境の汚染の危険又は影響についての観察、計測、評価及び分析を定期的に行うための監視計画を作成することに関して理事会に勧告すること、現行の規則が適切でありかつ遵守されることを確保すること並びに理事会が承認した監視計画の実施を調整すること。
 (i)この部及びこの部に関連する附属書に基づき、特に第百八十七条の規定を考慮して、海底紛争裁判部において機構のために 手続を開始するよう理事会に勧告すること。
 (j)(i)の規定によって開始された手続における海底紛争裁判部の決定を踏まえて、とるべき措置について理事会に勧告すること。
 (k)深海底における活動から生ずる海洋環境に対する重大な害を防止するため、緊急の命令(操業を停止し又は調整するための命令を含む。)を発するよう理事会に勧告すること。理事会は、勧告を優先的に取り上げる。
 (l)海洋環境に対し重大な害を及ぼす危険性のあることを実質的な証拠が示している場合に、契約者又は事業体による開発のための鉱区を承認しないよう理事会に勧告すること。
 (m)この部の規定、機構の規則及び手続並びに機構との契約の条件が遵守されているか否かを決定するために深海底における活動を査察する査察員に対し指示を与え及び査察員を監督することに関し、理事会に勧告すること。
 (n)生産量の上限を計算すること及び、生産認可を申請した者のうちから理事会が附属書III第七条の規定に従って必要な選定を行った後、第百五十一条の2から7までの規定に従って機構のために生産認可を発給すること。
3 法律・技術委員会の委員は、監督及び査察の職務を遂行するに当たり、締約国又は他の関係当事者の要請があった場合には、当該締約国又は他の関係当事者の代表者を同伴する。
D 事務局
第百六十六条 事務局
1 機構の事務局は、事務局長及び機構が必要とする職員で構成される。
2 事務局長は、理事会が推薦する候補者のうちから総会によって四年の任期で選出されるものとし、再選されることができる。
3 事務局長は、機構の首席行政官である。事務局長は、総会、理事会及び補助機関のすべての会合において首席行政官の資格で行動するものとし、また、これらの機関が委任する他の運営上の任務を遂行する。
4 事務局長は、機構の活動に関し、総会に対して年次報告を行う。
第百六十七条 機構の職員
1 機構の職屓は、機構の運営上の任務を遂行するために必要な資格を有する科学要員、技術要員その他の要員で構成される。
2 職員の採用及び雇用並びに勤務条件の決定に当たっては、最高水準の能率、能力及び誠実性を確保することの必要性に最大の考慮を払う。その考慮を払った上で、できる限り広範な地理的基礎に基づいて職員を採用することが重要であることについて妥当な考慮を払う。
3 職員は、事務局長が任命する。職員の任命、報酬及び解雇の条件は、機構の規則及び手続による。
第百六十八条 事務局の国際的な性質
1 事務局長及び職員は、その職務の遂行に当たって、いかなる政府からも又は機構外のいかなるところからも指示を求め又は受けてはならない。事務局長及び職員は、機構に対してのみ責任を負う国際公務員としての立場に影響を及ぼすおそれのあるいかなる行動も慎まなければならない。締約国は、事務局長及び職員の責任の専ら国際的な性質を尊重すること並びにこれらの者がその責任を果たすに当たってこれらの者を左右しようとしないことを約束する。職員による義務の違反は、機構の規則及び手続に規定する適当な行政審判所に付託される。
2 事務局長及び職員は、深海底における探査及び開発に関するいかなる活動についても、金銭上の利害関係を有してはならない。事務局長及び職員は、機構の任務を遂行する場合を除くほか、産業上の秘密、附属書III第十四条の規定に基づいて機構に移転された財産的価値を有するデータその他機構における職務上知り得た秘密の情報をその職を退いた後も開示してはならない。
3 2に規定する機構の職員の義務の違反については、当該違反によって影響を受けた締約国の要請に基づき又は第百五十三条2(b)の規定によって締約国が保証する自然人若しくは法人であって当該違反によって影響を受けたものの要請に基づき、機関が当該職員を相手として機構の規則及び手続によって指定される審判所に付託する。当該影響を受けた締約国は、当該審判所における手続に参加する権利を有する。事務局長は、審判所が当該職員の解雇を勧告する場合には、当該職員を解雇する。
4 この条の規定を実施するために必要な規定については、機構の規則及び手続に含める。
第百六十九条 国際機関及び非政府機関との協議及び協力
1 事務局長は、機構の権能の範囲内の事項につき、国際連合経済社会理事会が認める国際機関及び非政府機関と協議し及び協力するため、理事会の承認を得てこれらの機関との間で適当な取決めを行う。
2 事務局長が1の規定により取決めを行った機関は、機構の機関の手続規則に従い当該機構の機関の会合にオブザーバーとして出席する代表者を指名することができる。適当な場合には、事務局長が1の規定によって取決めを行った機関の見解を得るための手続を定める。
3 事務局長は、1に規定する非政府機関が特別の能力を有する事項であって機構の活動に関係するものについて、当該非政府機関の提出する報告書を締約国に配布することができる。
E 事業体
第百七十条 事業体
1 事業体は、機構の機関であり、第百五十三条2(a)の規定に基づいて深海底における活動を直接に行い、並びに深海底から採取された鉱物の輸送、製錬及び販売を行う。
2 事業体は、機構の国際法上の法人格の枠内で、附属書IVの規程に定める法律上の能力を有する。事業体は、この条約、機構の規則及び手続並びに総会の定める一般的な政策に従って行動し、かつ、理事会の指示及び管理に服する。
3 事業体は、その業務のための主たる事務所を機構の所在地に置く。
4 事業体は、第百七十三条2及び附属書IV第十一条に定めるところによりその任務の遂行に必要な資金を供与され、また、第百四十四条及びこの条約の他の規定に定めるところによって技術を供与される。
F 機構の財政制度
第百七十一条 機構の資金
  機構の資金には、次のものが含まれる。
 (a)第百六十条2(e)の規定に従って決定された機構の構成国の分担金
 (b)附属書III第十三条の規定に基づき機構が深海底における活動に関連して受領する資金
 (c)附属書IV第十条の規定に従って事業体から移転される資金
 (d)第百七十四条の規定に基づいて借り入れる資金
 (e)構成国又はその他の者が支払う任意の拠出金
 (f)第百五十一条10の規定に基づく補償のための基金(その財源については、経済計画委員会が勧告する。)への支払
第百七十二条 機構の経費
  機構の事務局長は、機構の年次予算案を作成し、理事会に提出する。理事会は、予算案を審議し、これに関する勧告と共に総会に提出する。総会は、第百六十条2(h)の規定に基づいて予算案を審議し、承認する。
第百七十三条 機構の経費
1 第百七十一条(a)に規定する分担金は、機構がその運営経費に充てるための十分な資金を他の財源から得るようになるまでの間、その運営経費に充てるために特別勘定に払い込まれるものとする。
2 機構の資金は、機構の運営経費に優先的に充てられる。第百七十一条(a)に規定する分担金を除くほか、運営経費の支払後に残った資金は、特に次のとおり配分し又は使用することができる。
 (a)第百四十条及び第百六十条2(g)の規定に従って配分する。
 (b)第百七十条4の規定に基づいて事業体に資金を供与するために使用する。
 (c)第百五十一条10及び第百六十条2(1)の規定に基づいて開発途上国に補償するために使用する。
第百七十四条 機構の借入れの権限
1 機構は、資金を借り入れる権限を有する。
2 総会は、第百六十条2(f)の規定に従って採択する財政規則において、機構の借入れの権限についての制限を定める。
3 理事会は、機構の借入れの権限を行使する。
4 締約国は、機構の債務について責任を負わない。
第百七十五条 年次会計検査
  年次会計報告を含む機構の記録、帳簿及び決算報告については、総会によって任命される独立の会計検査専門家が毎年検査する。
G 法的地位、特権及び免除
第百七十六条 法的地位
  機構は、国際法上の法人格並びに任務の遂行及び目的の達成に必要な法律上の能力を有する。
第百七十七条 特権及び免除
  機構は、その任務の遂行を可能にするため、締約国の領域においてこのGに規定する特権及び免除を享受する。事業体に関する特権及び免除は、附属書IV第十三条に定める。
第百七十八条 訴訟手続の免除
  機構並びにその財産及び資産は、機構が個別の事案について明示的に放棄する場合を除くほか、訴訟手続の免除を享受する。
第百七十九条 捜索及びあらゆる形式の押収の免除
  機構の財産及び資産は、所在地及び占有者のいかんを問わず、行政上又は立法上の措置による捜索及び徴発、没収、収用その他あらゆる形式の押収を免除される。
第百八十条 制限、規制、管理及びモラトリアムの免除
  機構の財産及び資産は、いかなる性質の制限、規制、管理及びモラトリアムも免除される。
第百八十一条 機構の文書及び公用の通信
1 機構の文書は、所在地のいかんを問わず、不可侵とする。
2 財産的価値を有するデータ、産業上の秘密又はこれらと同様の情報及び人事の記録は、公衆の閲覧の用に供される記録保管所に置いてはならない。
3 機構は、その公用の通信に関し、各締約国が他の国際機関に与える待遇よりも不利でない待遇を与えられる。
第百八十二条 機構に関係する特定の者の特権及び免除
  総会若しくは理事会の会合又は総会若しくは理事会の機関の会合に出席する締約国の代表並びに機構の事務局長及び職員は、各締約国の領域において次の特権及び免除を享受する。
 (a)これらの者が代表する締約国又は場合により機構が個別の事案について免除を明示的に放棄する場合を除くほか、これらの者がその職務の遂行に当たって行った行為に関する訴訟手続の免除
 (b)これらの者が特権及び免除を与える締約国の国民でない場合には、当該締約国が他の締約国の同等の地位の代表者、公務員及び被用者に与える出入国制限、外国人登録義務及び国民的服役義務の免除、為替制限に関する便宜並びに旅行の便宜に関する待退と同一の免除、便宜及び待遇
第百八十三条 租税及び関税の免除
1 機構、その資産、財産及び収入並びにこの条約によって認められる機構の活動及び取引は、機構の公的な活動の範囲内のものについては、すべての直接税を免除されるものとし、機構の公用のために輸入され又は輸出される産品は、すべての関税を免除される。ただし、機構は、提供された役務の使用料にすぎない税の免除を要求してはならない。
2 締約国は、機構の公的な活動のために必要な相当の価額の産品又はサービスが機構により又は機構のために購入される場合において、当該産品又はサービスの価格の一部として租税又は関税が含まれるときは、実行可能な限り当該租税又は関税を免除するため又はその還付をするため、適当な措置をとる。この条に規定する免除を受けて輸入され又は購入された産品については、当該免除を認めた締約国の同意した条件に従う場合を除くほか、当該締約国の領城内で売却その他の方法で処分してはならない。
3 締約国は、機構の事務局長及び職員並びに機構のために職務を遂行する専門家が自国民でない場合には、これらの者に機構が支払う給料、報酬その他すべての支払に関しいかなる課税も行ってはならない。
H 構成国としての権利及び特権の行使の停止
第百八十四条 投票権の行使の停止
  機構に対する分担金の支払が延滞している締約国は、その延滞金の額がその時までの満二年間に当該締約国が支払うべきであった分担金の額に等しいか又はこれを超える場合には、投票権を失う。もっとも、総会は、支払の不履行が構成国にとってやむを得ない事情によると認めるときは、当該構成国に投票を認めることができる。
第百八十五条 構成国としての権利及び特権の行使の停止
1 総会は、この部の規定に対する重大かつ執ような違反を行った締約国について、理事会の勧告に基づき、構成国としての権利及び特権の行使を停止することができる。
2 締約国がこの部の規定に対する重大かつ執ような違反を行ったと海底紛争裁判部が認定するまでは、Iの規定に基づく措置をとってはならない。

   第五節 紛争の解決及び勧告的意見
第百八十六条 国際海洋法裁判所の海底紛争裁判部
  海底紛争裁判部の設置及びその管轄権の行使については、この節、第十五部及び附属書VIの規定によって規律する。
第百八十七条 海底紛争裁判部の管轄権
  海底紛争裁判部は、深海底における活動に関する次の種類の紛争につき、この部及びこの部に関連する附属書の規定により管轄権を有する。
 (a)この部及びこの部に関連する附属書の規定の解釈又は適用に関する締約国間の紛争
 (b)締約国と機構との間の紛争であって、次の事項に関するもの
 (i)この部若しくはこの部に関連する附属書の規定又はこれらの規定に従って採択された機構の規則及び手続に違反すると申し立てられた機構又は締約国の作為又は不作為
 (ii)機構の管轄に属する事項からの逸脱又は権限の濫用と申し立てられた機構の作為
 (c)契約の当事者(締約国、機構若しくは事業体、国営企業又は第百五十三条2(b)に規定する自然人若しくは法人)の間の紛争であって、次の事項に関するもの
 (i)関連する契約又は業務計画の解釈又は適用
 (ii)深海底における活動に関する契約の当事者の作為又は不作為であって、他方の当事者に向けられたもの又は他方の当事者の正当な利益に直接影響を及ぼすもの
 (d)第百五十三条2(b)に定めるところにより締約国によって保証されておりかつ附属書IIIの第四条6及び第十三条2に定める条件を適正に満たした者で契約することが見込まれているものと機構との間の紛争であつて、契約交渉において生ずる法律問題又は契約の拒否に関するもの
(e)締約国、国営企業又は第百五十三条2(b)に定めるところにより締約国によって保証されている自然人若しくは法人と機構との間の紛争であって、機構が附属書III第二十二条に規定する責任を負うと申し立てられる場合のもの
 (f)その他この条約において海底紛争裁判部の管轄権が明示的に定められている紛争
第百八十八条 国際海洋法裁判所の特別裁判部、海底紛裁判部臨時裁判部又は拘束力のある商事仲裁への紛争の付託
1 前条(a)に掲げる締約国間の紛争は、
 (a)両紛争当事者の要請がある場合には、附属書VIの第十五条及び第十七条の規定に基づいて設置される国際海洋法裁判所の特別裁判部に付託することができる。
 (b)いずれかの紛争当事者の要請がある場合には、附属書VI第三十六条の規定に基づいて設置される海底紛争裁判部臨時裁判部に付託することができる。
2 (a)いずれかの紛争当事者の要請がある場合には、前条(c)(i)に掲げる契約の解択又は適用に関する紛争は、紛争当事者が別段の合意をしない限り、拘束力のある商事仲裁に付されるものとする。当該紛争が付託される商事仲裁裁判所は、この条約の解釈の問題を決定する管轄権を有しない。当該紛争が深海底における活動に関しこの部及びこの部に関連する附属書の規定の解釈の問題を含む場合には、当該問題は、裁定のため海底紛争裁判部に付託されるものとする。
 (b)(a)の商事仲裁の開始の時又はその過程において、仲裁裁判所が、いずれかの紛争当事者の要請がある場合に又は自己の発意によりその仲裁判断が海底紛争裁判部の裁定に依存すると決定するときは、当該仲裁裁判所は、問題を裁定のため海底紛争裁判部に付託する。当該仲裁裁判所は、その後、海底紛争裁判部の裁定に従って仲裁判断を行う。
 (c)契約中に紛争に適用する仲裁手続に関する規定がない場合には、両紛争当事者が別段の合意をしない限り、仲裁は、国際連合国際商取引法委員会の仲裁規則又は機構の規則及び手続に定める他の仲裁規則に従って行われる。
第百八十九条 機構の決定についての管轄権の制限
  海底紛争裁判部は、この部の規定に基づく機構の裁量権の行使について管轄権を有せず、いかなる場合には機構に代わって裁量権を行使してはならない。海底紛争裁判部は、第百八十七条の規定に基づいて管轄権を行使するに当たり、機構の規則及び手続がこの条約に適合しているか否かの問題について意見を述べてはならず、また、当該規則及び手続の無効を宣言してはならない。もっとも、第百九十一条の規定の適用は妨げられない。この点に関する海底紛争裁判部の管轄権は、個々の事案についての機構の規則及び手続の適用が紛争当事者の契約上若しくはこの条約上の義務に抵触するとの主張若しくは管轄に属する事項からの逸脱若しくは権限の濫用に関する主張についての決定又は紛争当事者による契約上若しくは条約上の義務の不履行に起因する損害に対する他方の当事者による賠償請求若しくはその他の救済の請求に限られる。
第百九十条 保証締約国の手続への参加及び出席
1 第百八十七条に規定する紛争において、自然人又は法人が当事者である場合には、当該自然人又は法人の保証国は、当該紛争について通報を受けるものとし、また、書面又は口頭による陳述を行うことにより当該手続に参加する権利を有する。
2 第百八十七条(c)に規定する紛争において、締約国を相手方として他の締結国によって保証されている自然人又は法人により紛争が提起される場合には、紛争を提起された締約国は、当該自然人又は法人を保証している締約国に対しこれらの者に代わって手続に出席することを要請することができる。その保証している締約国が出席しない場合には、当該紛争を提起された締約国は、自国の国籍を有する法人によって自国を代表させることができる。
第百九十一条 勧告的意見
  海底紛争裁判部は、総会又は理事会の活動の範囲内で生ずる法律問題に関し、総会又は理事会の要請に応じて勧告的意見を与える。当該勧告的意見の付与は、緊急に処理を要する事項として取り扱われるものとする。

 第十二部 海洋環境の保護及び保全
   第一節 総則
第百九十二条 一般的義務
  いずれの国も、海洋環境を保護し及び保全する義務を有する。
第百九十三条 天然資源を開発する国の主権的権利
  いずれの国も、自国の環境政策に基づき、かつ、海洋環境を保護し及び保全する義務に従い、自国の天然資源を開発する主権的権利を有する。
第百九十四条 海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するための措置
1 いずれの国も、あらゆる発生源からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、利用することができる実行可能な最善の手段を用い、かつ、自国の能力に応じ、単独で又は適当なときは共同して、この条約に適合するすべての必要な措置をとるものとし、また、この点に関して政策を調和させるよう努力する。
2 いずれの国も、自国の管轄又は管理の下における活動が他の国及びその環境に対し汚染による損害を生じさせないように行われること並びに自国の管轄又は管理の下における事件又は活動から生ずる汚染がこの条約に従って自国が主権的権利を行使する区域を越えて拡大しないことを確保するためにすべての必要な措置をとる。
3 この部の規定によりとる措置は、海洋環境の汚染のすべての発生源を取り扱う。この措置には、特に、次のことをできる限り最小にするための措置を含める。
 (a)毒性の又は有害な物質(特に持続性のもの)の陸にある発生源からの放出、大気からの若しくは大気を通ずる放出又は投棄による放出
 (b)船舶からの汚染(特に、事故を防止し及び緊急事態を処理し、海上における運航の安全を確保し、意図的な及び意図的でない排出を防止し並びに船舶の設計、構造、設備、運航及び乗組員の配乗を規制するための措置を含む。)
 (c)海底及びその下の天然資源の探査又は開発に使用される施設及び機器からの汚染(特に、事故を防止し及び緊急事態を処理し、海上における運用の安全を確保し並びにこのような施設又は機器の設計、構造、設備、運用及び人員の配置を規制するための措置を含む。)
 (d)海洋環境において運用される他の施設及び機器からの汚染(特に、事故を防止し及び緊急事態を処理し、海上における運用の安全を確保し並びにこのような施設又は機器の設計、構造、設備、運用及び人員の配置を規制するための措置を含む。)
4 いずれの国も、海洋環境の汚染を防止し、軽減し又は規制するための措置をとるに当たり、他の国のこの条約に基づく権利の行使に当たっての活動及び義務の履行に当たっての活動に対する不当な干渉を差し控える。
5 この部の規定によりとる措置には、希少又はぜい弱な生態系及び減少しており、脅威にさらされており又は絶滅のおそれのある種その他の海洋生物の生息地を保護し及び保全するために必要な措置を含める。
第百九十五条 損害若しくは危険を移転させ又は一の類型の汚染を他の類型の汚染に変えない義務
  いずれの国も、海洋環境の汚染を防止し、軽減し又は規制するための措置をとるに当たり、損害若しくは危険を一の区域から他の区域へ直接若しくは間接に移転させないように又は一の類型の汚染を他の類型の汚染に変えないように行動する。
第百九十六条 技術の利用又は外来種若しくは新種の導入
1 いずれの国も、自国の管轄又は管理の下における技術の利用に起因する海洋環境の汚染及び海洋環境の特定の部分に重大かつ有害な変化をもたらすおそれのある外来種又は新種の当該部分への導入(意図的であるか否かを問わない。)を防止し、軽減し及び規制するために必要なすべての措置をとる。
2 この条の規定は、海洋環境の汚染の防止、軽減及び規制に関するこの条約の適用に影響を及ぼすものではない。

   第二節 世界的及び地域的な協力
第百九十七条 世界的又は地域的基礎における協力
  いずれの国も、世界的基礎において及び、適当なときは地域的基礎において、直接に又は権限のある国際機関を通じ、地域的特性を考慮した上で、海洋環境を保護し及び保全するため、この条約に適合する国際的な規則及び基準並びに勧告される方式及び手続を作成するため協力する。
第百九十八条 損害の危険が差し迫った場合又は損害が実際に生じた場合の通報
  海洋環境が汚染により損害を受ける差し迫った危険がある場合又は損害を受けた場合において、このことを知った国は、その損害により影響を受けるおそれのある他の国及び権限のある国際機関に直ちに通報する。
第百九十九条 汚染に対する緊急時の計画
  前条に規定する場合において、影響を受ける地域にある国及び権限のある国際機関は、当該国についてはその能力に応じ、汚染の影響を除去し及び損害を防止し又は最小にするため、できる限り協力する。このため、いずれの国も、海洋環境の汚染をもたらす事件に対応するための緊急時の計画を共同して作成し及び促進する。
第二百条 研究、調査の計画並びに情報及びデータの交換
  いずれの国も、直接に又は権限のある国際機関を通じ、研究を促進し、科学的調査の計画を実施し並びに海洋環境の汚染について取得した情報及びデータの交換を奨励するため協力する。いずれの国も、汚染の性質及び範囲、汚染にさらされたものの状態並びに汚染の経路、危険及び対処の方法を評価するための知識を取得するため、地域的及び世界的な計画に積極的に参加するよう努力する。
第二百一条 規則のための科学的基準
  前条の規定により取得した情報及びデータに照らし、いずれの国も、直接に又は権限のある国際機関を通じ、海洋環境の汚染の防止、軽減及び規制のための規則及び基準並びに勧告される方式及び手続を作成するための適当な科学的基準を定めるに当たって協力する。

   第三節 技術援助
第二百二条 開発途上国に対する科学及び技術の分野における援助
  いずれの国も、直接に又は権限のある国際機関を通じ、次のことを行う。
 (a)海洋環境を保護し及び保全するため並びに海洋汚染を防止し、軽減し及び規制するため、開発途上国に対する科学、教育、技術その他の分野における援助の計画を推進すること。この援助には、特に次のことを含める。
 (i)科学及び技術の分野における開発途上国の要員を訓練すること。
 (ii)関連する国際的な計画への開発途上国の参加を容易にすること。
 (iii)必要な機材及び便宜を開発途上国に供与すること。
 (iv)(iii)の機材を製造するための開発途上国の能力を向上させること。
 (v)調査、監視、教育その他の計画について助言し及び施設を整備すること。
 (b)重大な海洋環境の汚染をもたらすおそれのある大規模な事件による影響を最小にするため、特に開発途上国に対し適当な援助を与えること。
 (c)環境評価の作成に関し、特に開発途上国に対し適当な援助を与えること。
第二百三条 開発途上国に対する優先的待遇
  開発途上国は、海洋環境の汚染の防止、軽減及び規制のため又は汚染の影響を最小にするため、国際機関から次の事項に関し優先的待遇を与えられる。
 (a)適当な資金及び技術援助の配分
 (b)国際機関の専門的役務の利用

   第四節 監視及び環境評価
第二百四条 汚染の危険又は影響の監視
1 いずれの国も、他の国の権利と両立する形で、直接に又は権限のある国際機関を通じ、認められた科学的方法によって海洋環境の汚染の危険又は影響を観察し、測定し、評価し及び分析するよう、実行可能な限り努力する。
2 いずれの国も、特に、自国が許可し又は従事する活動が海洋環境を汚染するおそれがあるか否かを決定するため、当該活動の影響を監視する。
第二百五条 報告の公表
  いずれの国も、前条の規定により得られた結果についての報告を公表し、又は適当な間隔で権限のある国際機関に提供する。当該国際機関は、提供された報告をすべての国の利用に供すべきである。
第二百六条 活動による潜在的な影響の評価
  いずれの国も、自国の管轄又は管理の下における計画中の活動が実質的な海洋環境の汚染又は海洋環境に対する重大かつ有害な変化をもたらすおそれがあると信ずるに足りる合理的な理由がある場合には、当該活動が海洋環境に及ぼす潜在的な影響を実行可能な限り評価するものとし、前条に規定する方法によりその評価の結果についての報告を公表し又は国際機関に提供する。
 


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