展開が始まった5G,および beyond 5G と呼ばれる将来の無線ネットワークでは, スマートフォンに限らず Internet-of-Things (IoT) 機器, 車両など膨大かつ多様な情報通信機器が, 「ユーザ」として接続します. これらの膨大な数のユーザに対して快適な通信を提供するための基盤技術の研究開発を, 確率幾何/待ち行列理論などの確率モデリング, 制御理論, 統計的機械学習などをベースとして行っています.
ユーザの時空間的変動に追従可能な新しいネットワーク制御技術
野外コンサートやスポーツイベントではユーザの密度が空間的に偏る「ホットスポット (hot spot)」現象が見られます. また, こうしたホットスポットの位置はユーザの移動によって時間的に変動します. こうしたユーザの時空間変動に対し, Unmanned Aerial Vehicle (UAV) 空中基地局, 基地局間協調 (Coordinated Multi-Point: CoMP), ミリ波ビームフォーミング, ヘテロジニアスネットワークなどの新しいネットワークシステムや制御技術を適用することで, ユーザへ快適な通信を提供できることが期待されます. 一方で, これらの多用な技術をリアルタイムにどう制御すべきか, は非常に大きな課題です.
例えば, UAV (あるいはドローン) の空中基地局としての利用は, ホットスポットへの対応だけでなく災害や大規模ネットワーク故障時にも適用可能として近年注目を浴びています. しかし, 3次元空間を自由に動き回るUAVを, 全ユーザの通信品質やUAV間の無線干渉を考えながら最適に配置することは困難な課題です. これに対し我々は, 分散制御理論に基づく, ユーザの時空間上の変動に追従可能な, UAV空中基地局の3次元空間上における分散最適配置法の提案を行いました [1].
下図は, 提案アルゴリズムのシミュレーション実行結果を表しています. 各 UAV は隣接する UAV とのみ通信を行いながら自律分散的にユーザの通信品質を最大化する最適な3次元配置を実現しています.
図: UAV分散配置アルゴリズムの動作例. 各時刻 t におけるUAV配置およびUAVセルを図示.
△は UAV の位置に対応しており, 色の濃度はUAVの高度に対応. 背景の濃度はユーザの密度 [1]
関連する主な発表:
[1] T. Kimura and M. Ogura, “Distributed collaborative 3D-deployment of UAV base stations for on-demand coverage,” to appear in IEEE INFOCOM2020.
確率モデルに基づく次世代ネットワークの性能評価
我々が普段何気なく利用している無線通信の通信品質は, 非常に多くの要因によって決まっています. 例えば基地局間の干渉電力, 送受信者の移動, 無線区間のフェージングやシャドウイングの影響によるランダムな損失など, 挙げるとキリがありません. こうした複雑な無線環境に対し, シミュレーションにより全容を把握することは現実的ではありません. そこで近年, 確率幾何 (stochastic geometry) と呼ばれる確率モデルを用いた無線ネットワークの性能評価法が注目されています. 確率幾何では, 無線基地局やユーザ端末の位置や動きを空間的な確率過程(点過程) により表現することで, ユーザのスループットやSignal to Interference plus Noise Ratio(SINR)の分布といった様々な性能評価指標を理論的に評価できます.
我々は特に次世代の無線通信として車々間通信に注目し, 確率幾何アプローチを用いた性能評価や, 解析結果に基づく制御法の提案を行いました. 例えば, [2]ではLTEのようなセルラ網が協調する車々間通信ネットワークにおける通信性能の理論的な評価を行いました (右図: セルラ協調型車々間通信ネットワークモデルのイメージ).
また, [3], [4] では交差点における車々間通信に注目し, 混雑に伴う干渉電力の増加による性能劣化を防ぐための, ブロードキャストレート制御法, 送信電力制御法をそれぞれ提案しました.
さらに, より一般的なネットワークを想定した内容として, [5] では, シャドウイングの空間相関が通信品質(送受信干渉電力)に与える影響を解析的に評価しています.
関連する主な発表:
[2] T. Kimura, “Stochastic geometric analysis of cellular-relay V2V communications,” In Proc. IEEE GLOBECOM2019, Dec. 9-13, 2019 (7 pages).
[3] T. Kimura and H. Saito, “Theoretical performance analysis of vehicular broadcast communications at intersection and their optimization,” In Proc. of ITC31, Aug. 27–29, 2019, pp. 37-45.
[4] T. Kimura and H. Saito, “Theoretical interference analysis of inter-vehicular communication at intersection with power control,” Computer Communications, vol. 117, pp. 84-103, 2018.
[5] T. Kimura and H. Saito, “Spatio-temporal correlation of interference in MANET under spatially correlated shadowing environment,” accepted for IEEE Transactions on Mobile Computing.
機械学習による次世代ネットワーク制御技術
日々膨大な数のユーザが利用している通信ネットワークですが, そこからは多種多様なデータが生成されます. ユーザに関連するものであれば, web アクセスのログや動画などのサービスの視聴ログがありますし, ネットワーク機器そのものからsyslog などの機器ログやトラヒックデータを取得可能です. こうしたネットワークデータを機械学習などの統計的手法を用いて分析することで, より「インテリジェントな」通信ネットワークの運用・制御が可能となると考えられます.
例えば, [6]-[9]では, ネットワーク機器の生成するログデータを用いた, 自動ネットワーク監視技術に向けた取り組みを検討しています. 具体的には, [6] では, マルチモーダル深層学習を用いて, ネットワーク機器の故障が発生したときの, ユーザに与える影響, すなわちサービス・インパクトを予測する手法を提案しています. [7], [8] ではそれぞれ, syslog データを用いた故障予測技術, および故障分析に有用なネットワークイベント情報の抽出法の提案を行っています.
また, [9], [10] では, ユーザから取得できる動画コンテンツ視聴ログをもとに, 適応的に動画品質制御を行う技術を提案しています.