主な研究テーマ
- ホーンアンテナ
- リフレクトアレー、トランスミットアレー
- カーペットクローキング
- 各種マイクロ波・ミリ波フィルタ(BPF、BSF、HPF、LPF)
- 複合回路(フィルタリングアンテナなど)
主な研究成果
導波管フィルタ
小型構造でありながら複数の減衰極を通過域の両側の阻止域に実現できる帯域通過導波管フィルタです.本フィルタは,空胴共振器に比べて非常に薄い共振素子を共振器として用いており,付加的な結合構造を用いずに共振素子形状の工夫で容易に減衰極を実現できるのが特徴です.左下図は遺伝的アルゴリズム(GA)を用いて開発した素子形状,右下図は新たに考案した素子形状です.これら共振素子の設計・解析には,スペクトル領域モーメント法を用いています.
平面フィルタ
帯域通過フィルタを構成するマイクロストリップ線路形状を,任意の時間領域の反射特性から求めるという新しい設計法を研究しています.1次元Transmission-Line Matrix(TLM)法を用いた逆散乱問題として扱うことが基本的なアイデアです.実際の設計では,不連続部での位相ずれによってフィルタ特性が低域側にシフトする傾向が見られますが,インピーダンス不連続部をLC等価回路に基づいて線路長補正を行うことで,より正確な設計が行えます.
多モードホーンアンテナ
従来の角すいホーンや円すいホーンの構造を巧みに変化させると,多モードを適切に励振制御でき,直交偏波共用だ円ビーム(左下図),円形カバレッジを効率よくカバーする成形ビーム(中央下図),2周波数帯で共用できる低交差偏波放射特性を実現することができます.これらホーンの設計には,モード整合法を基にした非線形計画法を用いています.製作も容易ですので,ミリ波アンテナ(右下図)にも適用できます.現在,さらに広帯域化,高性能化を目指して研究を進めています.
周波数選択膜
周波数選択膜(FSS)は,反射鏡アンテナを多周波数帯で共用するためによく用いられています.従来は,十分な帯域を得るために多層化した構造が必要でしたが,図のような新しい素子形状を考案して単層構造でも広帯域化が可能になりました.これらFSSは,周期境界条件を用いたスペクトル領域モーメント法を基にして設計しています.素子形状が比較的単純ですので,広帯域な設計が容易に行えます.
リフレクトアレー
リフレクトアレーアンテナは,形状の異なるマイクロストリップ素子を配列し,反射位相特性を制御して所望の反射波の波面を形成することにより高い利得を得ることができます.リフレクトアレー素子として複数共振現象を利用して構成することで,直交2偏波において広帯域にわたって良好な反射位相特性が得られます.周波数選択膜(FSS)とは異なり,片面に地導体板があるストリップ導体素子から構成されますが,FSSの解析に用いられるスペクトル領域モーメント法によって同様に計算でき,所定の反射位相特性が容易に設計できます.ここで開発した技術は,FSSを応用した平面レンズ(トランスミットアレー)の研究にも有効です.
カーペットクローク
電波による物体の不可視化(電磁クローキング技術)は非常に注目されています.反射波を制御するカーペットクロークとして、マイクロストリップリフレクトアレー素子からなる単位セルを配列し、散乱波の反射位相分布を制御して所定の波面を実現する方法を提案しています.下図は物体による散乱波の計算例を示したもので,物体によって生じる散乱が左図のように生じますが,カーペットクロークで物体をカバーすると右図のように物体があたかも存在しない平面板からの反射波のみにでき,電波では物体を検知できないことになります.別の応用としては,反射波の波面の制御を変えれば,散乱波を疑似的に発生させるイリュージョンクロークを設計することも可能です.
右手/左手系複合平面回路線路
右手/左手系複合伝送線路を構成する任意形状素子を設計するため,モーメント法(MoM)を基にした遺伝的アルゴリズム(GA)による形状最適化について検討しています.メタマテリアル線路素子に関しては,右図に示すような単位セル構造を考え,予めメッシュ分割した全体のMoMインピーダンス行列を用いてGAで生成する個体毎の導体メッシュ領域に対する未知電流を計算し,伝送特性を基に評価関数を求めています.所望の分散特性を得る方法として,MoM/TRL校正を基にした設計法を提案しており,最適化周波数範囲において良好な結果が得られています.
右手/左手系複合導波管
電磁メタマテリアルは新たな機能素子として注目されています.円形導波管のTM01モードと円形導波管を4分割したときの基本TEモードの遮断特性を利用すると,ある周波数範囲において電磁メタマテリアの導波特性が得られ,円形導波管のリッジ構造によって右手/左手系のバンドギャップ(阻止域)のない伝送特性が得られることを見出しています.導波管の管壁にスリットを設ければ,後方/前方への放射が可能な漏えい波アンテナを構成することも可能です.
漏洩波アンテナ
一様構造の伝送線路であるにもかかわらず,電磁波を伝送線路から外部に向けて放射しながら伝搬する,いわゆる漏洩波は周波数を変化させることによって放射方向を可変にすることができます.それゆえ,この種の導波路自体で周波数掃引によるビーム走査可能なアンテナとなります.構造としては導波管型のものとしてスタブ装荷漏洩導波管(左図)を開発し,また平面回路型のものとして右手/左手系複合線路を用いた結合マイクロストリップ線路を基本にした構造(右図)を開発しています.導波管型のものについては放射方向が90度の範囲に対して,平面回路型のものは180度の範囲でビーム走査することが可能です.