人工知能工学センターでは, 電子秘書システム教育支援システムの開発に取り 組んでいます.

電子秘書システム

現状の人工知能のベースになっている技術の一つは,ディープラーニングを代表とする機械学習である.様々な分野で応用され,実用化されているが,統計処理を行うため,大規模なデータが必要であるという問題が大きい.例えば,日本で一日に取得できる日常活動データは,人口比率的に大国の10分の1程度であり,大国において1年でできることが日本では10年かかる計算になる.また,大規模にデータが取得しにくいマイナーな事象に対しては対応することは難しい.マイナーな民族である日本が大国に負けないためには,小規模なデータでも高性能に学習できる技術開発が急務であると考える.

本研究センターでは,現在の「ある機能」に特化した技術としてではなく,総合的に様々なメディアを横断的に駆使できるいわゆる知能ロボットの頭脳のような人工知能を想定し,人間と共存できる,人間のパートナーとして活躍できるという視点から新時代の常識を持った人工知能の実現を目指す.

研究体制としては,大きく3つの研究テーマごとのグループを形成し,特に,スケジュールの管理や行動・言動のサジェスチョンを行うことができる電子秘書エージェントの開発を想定し,それに必要な機能について研究を進める.

【基礎】マルチメディア解析
【応用】マルチメディア解析結果に基づく人の状態・状況推定
【発展】人の状態・状況に応じた情報・環境提供

具体的には,音声,言語,表情からそれらが表現している内容の把握,ニュアンス(雰囲気,感情など)の解釈,優先順位・重要性(立場,人間関係など)の判定を実現する.日常活動データとして音声,言語,表情を取得し,

  • 音声からは,発話内容の認識だけでなく,発音や抑揚の特徴から発話者が誰であるか識別し,さらに発話のニュアンスや感情を推定する.
  • 言語からは,発話内容に加えて,発話の際に使用される語彙や言い回しなどの口語表現に着目し,意図や人間関係を理解する.
  • 表情からは,声や言葉では表現されない心情的側面を瞬間的で微妙な顔表情の変化や長期的な顔色の変化などから推定する.

これら3つの日常活動データから得られる結果を連携・拡張する処理の開発を進める.

  • 知識処理を行う常識判断を統計処理と併用することで,統計処理では扱いにくい推論を実現し,実環境で耐えうる性能を有する機能を実現する.
  • 連想技術を用いることで各種データを連携・拡張し,統計処理に耐え得る規模のデータに拡張することで小規模データでも高精度に学習できる手法を確立する.
  • 上記の機能を実現し,最終的なスケジュール管理や行動・言動のサジェスチョンに繋げる手法を開発する.


教育支援システム

インターネットや携帯電話の普及によってサイバー空間(オンライン)上でのショッピングやコミュニケーションができるようになり,非常に便利な情報化社会が実現できていますが,その 一方で,フィジカル空間(現実世界)と比較するとまだまだ不便な点が残っています.このような不便な点を解消するために,近年では,Society 5.0 が提唱され,サイバー空間とフィジカル空間を融合した高度なシステムの検討が進められています.本研究センターでは,特に,サイバー空間とフィジカル空間を融合した新たな教育支援システムの研究開発に取り組んでいます.

コロナ禍の発生によってオンライン授業が盛んに行われるようになり,現状においてもオンライン授業は一定の教育効 果をあげていますが,対面での授業での教育効果をすべて得られているとは言い難い状況です.対面授業では同級生同士で気軽にコミュニケーションをとれますが,オンライン授業では同級生との交流が難しいため,孤独を感じてしまうといった問題や組織への所属意識が低下すると いった問題が生じています.今後,新たな感染症の流行や過疎化による人口減少,さらには必要なスキルの変化に対応するために再教育を行うリカレント教育の高まりなどによって,オンライン授業の需要はますます高まると予想されるため,Society5.0時代に向けて新たな教育の形を模索することは非常に重要な課題です.

本研究センターでは,2020年度の文部科学省私立学校施設整備費補助金により設置した人工知能環境実証実験装置を用いて新たな教育支援システムを開発しています.人工知能環境実証実験装置は開放型VR (Virtual Reality) 機能を備えており,三方の壁面と天井を覆うよう配置された39枚の液晶ディスプレイと40台のコンピュータで構成されています.さらに,サラウンドオーディオシステムによって臨場感のある音場を作ることができ,空調も同時に制御できるようになっているため,一般住宅やオフィス,屋外,自然の中など多様な環境を疑似的に再現することができます.この装置を用いて教室を再現し,遠隔で参加している同級生をディスプレイに表示することで,より臨場感を感じられる「新しい場」を提供することができます.また,ディスプレイにアバターを表示したり,開放型VR空間の中にロボットを配置して授業に参加することもできるため,バーチャルな空間とリアルな空間,それぞれにいる人々のコラボレーションという形で教育を支援することができます.



対面授業に近づけるだけでなく,開放型VR空間を用いた授業は対面授業以上の学習効果を得られる可能性を秘めています.対面授業では疑問点があっても目立ちたくないという気持ちが働き,質問がほとんどありません.しかし,誰か一人が質問すると,次々に手が挙がり始めます.例えば,その「誰か一人」をロボットに担わせるということが考えられます.勉強している学生の顔色や挙動,発言内容,声の揺らぎなどを解析して適宜質問を発することで,それに続く自発的な発言を促す教育支援システムの開発を進めています.勉強意欲を掻き立てながら,「一人ではない」という連携感を生み出すことで,これまで以上の学びの場を提供することを目指しています.



   

お問い合わせ

〒610-0321 京都府京田辺市多々羅都谷1-3 同志社大学 人工知能工学研究センター
      センター長 土屋誠司

E-mail: stsuchiy[at]mail.doshisha.ac.jp

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