IPEの果樹園2018

今週のReview

12/24-29

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イギリス議会政治の危機 ・・・反中国のコンセンサス ・・・トランプによる連邦政府閉鎖 ・・・グローバルな人口移動の管理体制 ・・・ホームレス ・・・気候変動を否定するコスト ・・・ナショナリズムの悪しき結果 ・・・BJPの敗北 ・・・グローバリゼーション4.0 ・・・米軍のシリア撤退 ・・・新興市場と住宅市場

長いReview

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[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.] 


 イギリス議会政治の危機

The Guardian, Sun 16 Dec 2018

Failed by both its major parties, betrayed Britain lurches towards the abyss

Andrew Rawnsley

シーソーは破壊された。振り子は動かない。潮流は凍結した。かつてイギリス政治を説明するのに役立った、確かなイメージが、Brexitによって混乱してしまった。

最も顕著な敗残者は超Brexit派である。彼らは「コントロール・支配力を取り戻す」と騒ぐばかりで、瀕死のメイ首相を退陣させることもできない。Brexitの妄想は、常に、少数派の中でも特別な少数派であり、今では誰もそれに入らない。

首相にとっては、彼女の糾弾者たちが敗退したことも、それが勝利を意味するわけではない。現在の地位にとどまるために、彼女は次の選挙前に辞任する、と約束した。

危機は終わらない。Brexitの妄想に憑かれた者たちはメイの合意案を支持しないだろう。政治の放火犯たちは、妥協するより自分たちの政党を燃やし、この国の経済を燃やすだろう。メイは今も、過去の失敗と不器用さがもたらした、議会内の数合わせの囚人である。

ウェストミンスターとヨーロッパ各地の首都で、メイがより良い合意を見いだせる希望はない。大陸の指導者たちは、メイを助けるために妥協する気持ちなど少しもない。

もし彼女が1月後半まで採決を延期したら、イギリスが断崖から飛び降りるリスクは急速に上昇するだろう。彼女の閣僚たちも、このような「やるか・死ぬか」の戦略を無謀と考えている。

もし政治の伝統的なシーソーが働いていたら、こうした与党の惨状は、少なくとも、明確な勝者をもたらす。野党の労働党である。1990年代のマーストリヒト条約がそうだった。労働党は次の選挙で大勝するはずだ。

しかし、歴史は繰り返さない。保守党の失敗にもかかわらず、労働党への支持は高まらない。労働党のコービン党首は、党として支持されないだけでなく、指導者の支持率もメイ首相より少ない。彼らも妄想をもてあそんでいる。自分たちが交渉すれば、EUの外にありながら、すべての利益を享受できる、というのだ。有権者はそれを信じない。

2大政党が敗北するとき、最大の損失を強いられるのはBrexitのイギリスだ。この国は破滅に向かって進んでいる。それがわかっているのに、だれにも止められない。

FT December 19, 2018

Brexit Britain has imported a political virus from the Middle East

Roula Khalaf

保守党議員によってメイ首相の不信任決議案が投票される日に、世界で最も機能しない国家の地位を争うレバノンが、テムズ川を見渡すロンドンの会場で、ロードショーを行っていた。1人の官僚はスピーチの予定があったのに現れず、もう1人も出たり入ったりしていた。皮肉な情景は誰にも明らかだ。

レバノンのSaad Haririハリリ首相は、政治的争いにより新内閣の成立に数か月を要したが、不確かな運命によろめく、もう1つの政府、すなわち、イギリスに支援を求めていたのだ。

私は長い間、レバノンとイギリスの政治を比較する衝動を抑えてきた。レバノンは私が去った国であり、イギリスは日々を送る国である。レバノンのユニークなところは、シリアとイスラエルに挟まれた位置にあり、イランとサウジアラビアの間でフットボールのように扱われ、今も、15年に及んだ内戦の遺産を、終結から25年経っても、ぬぐいきれないことだ。中東の混乱の中で、レバノンは謎である。さまざまな宗派が重なり合って、紛争の重層構造を作りながら、ヒズボラという政党が、自ら武装して、だれが首相や大統領であるかに関わらず、この国を支配している。

他方、20年前に私を受け入れてくれたイギリスは、安定性と文明生活の理想であった。政治的な対立がどれほど高まっても、秩序ある、しばしば頑強な、議会の論争を経て、イギリス式の合理的なやり方で解決した。政治家たちが互いに情念を尽くして憎み合いながら、銃撃や迫撃砲を発射することで、敵対者を葬ることはない。そのことに慣れるまで、私は時間を要した。

しかし、この2年間、Brexitがイギリスの政治家たちを戦争する諸部族に変え、社会をリメイナーズ(残留派)とリーバーズ(離脱派)とに分断した。この国も中東のウィルスに感染したのではないか、と私は疑っている。

さらに、Brexitの核心にある、主権の問題は、レバノンが1940年代にフランスの支配から独立して以来、多大の苦労を味わいつつ格闘してきたことだ。主権を相対的なものとみなし、近隣諸国の利害を考慮するしかない小さな国、レバノンと違って、EUの内であれ、外であれ、UKは自信をもって主権を前提している、と私は予想していた。

しかし、イギリスのBrexit派は、レバノンのような低開発国から、不幸な態度を輸入してしまった。すなわち、真っ赤な嘘やいい加減な話を信じて、暗闇に飛び込むことを求められた有権者たちを、あからさまに侮辱するような態度である。元外相のボリス・ジョンソンが示した無頓着さは、特に、機会主義を政治の本性とするレバノンにふさわしい。

他方で、両国の類似はここで終わる。私は最近のメイ首相のスタミナ、同じメッセージを執拗に繰り返し、議員たちの心を変える試みには、強い印象を受けた。あれほどの自制心を持った政治家を、私は何十年間もレバノン政界で観たことがない。

また、メイ首相は闘争でたとえ敗れても、自宅に帰って散歩を楽しむことができる。残念ながら、レバノンではそうではない。1年前、ハリリ首相の主要な支援者であるサウジアラビアが彼を疑い、リヤドに呼び寄せ、拘束した。その後、彼はオウムのようにテレビでサウジの主張を繰り返した。

完全な独立が不可能な国家ではこうしたことが起きる。幸い、イギリスでは、EUの中でも外でも、こうしたことが起きないのだろう。


 ECB

FT December 16, 2018

The eurozone risks sleepwalking into a downturn

Wolfgang Münchau

先週、ヨーロッパ裁判所が、量的緩和について重要な判決意を出した。裁判所はECBによる政府債券購入プログラム(QE)を正当と認めたのだ。

ドイツのユーロ懐疑論者は、ECBは財政移転の道具だ、と告発してきた。彼らはユーロ圏のガバンスを政治的・法的に非難する運動を続けるだろう。今のところは成功していないが。

ドラギMario Draghi総裁が言うように、QEECBの重要な政策手段に入った。他方で、2.1兆ユーロのユーロ圏政府債を、ECBが資産として保有していることも重大な事実だ。しかも、QEにもかかわらず、ECB2%のインフレ目標を達成できていない。QEは、新規の資産購入を終える、と発表した。

本当に悪いニュースは、経済が早期に悪化するかもしれない、ということだ。世界成長は減速し、株式市場は弱気、トランプ大統領はヨーロッパの自動車に関税を課す。ハードなBrexitが起きるかもしれない。もしこれらが重なれば、世界金融危機にも匹敵する衝撃になるだろう。

強力な金融緩和の余地はなく、EUの指導者たちが不況に対抗する財政政策の協調をすることもない。2012年、2015年にユーロ圏を救ったドラギはもうその地位を去る。ユーロ圏は、官僚や政治家は否定するが、日本型デフレのシナリオに入ったのかもしれない。

ECBQEを進め、さらに購入プログラムを拡大するのか? 企業の株式を買い、投資を助ける。売れ残ったディーゼル車を買う。しかし、ECBがイタリアのファッション産業の株式を購入するとしたら、ドイツの反応は? マイナス金利をドイツの貯蓄にもたらすときの反応は?

金融改革をする政治的意志はなく、金融手段を使い果たして、今、不況がやってくる。


 反中国のコンセンサス

FT December 20, 2018

The new era of US-China decoupling

Edward Luce

今年、最も驚くべき会合は、アメリカで反中国のコンセンサスが形成されたことだ。それはドナルド・トランプのホワイトハウス、共和党、民主党の議会、ビジネス、労働組合、グローバリスト、ポピュリストに広まった。アメリカはおよそあらゆることで戦争しているが、中国に関する不安で統一した。

新しいワシントン・コンセンサスに支持されたトランプは、習近平に「中国製造2025」を解体するよう求めている。

40年間、収れんを進めてきた米中関係が、分解し始めた。両国は1979年の国交正常化以後、中国の国際舞台への登場をアメリカが保証してきた。1989年の天安門事件、1996年の台湾海峡における緊張、といった一時的停滞はあったが、アメリカは中国が次第に開放的な、そして、権威主義的な姿勢を抑えた、パートナーになると信じた。

バラク・オバマが、重要な諸問題を協力して解決する非公式な「G2」を試みたが、中国は今、オバマが大統領になったときよりも、開放度や自由において後退している。

ファーウェイ幹部の開放の条件として、トランプ大統領が中国に貿易問題での譲歩を求めた。グローバリゼーションの正常なルールは捨てられたのだ。こうした不確実性ほど、ビジネスが嫌うものはない。その結果は2つだ。

1.経済的な関与の後退。中国によるアメリカへの投資は、急激な増大を数年続けたが、2018年は4分の1に減った。中国の技術戦略は、買収より、輸入代替に転換し、マイクロチップ、航空機、ロボットを国産化するだろう。

2.その他の諸国は、アメリカと中国の間で、喜べない選択を迫られる。日本やシンガポールは、両国に接近してリスクをヘッジするだろうが、ロシアのように中国を選択する国もある。

かつてリチャード・ニクソンは中国をソ連の軌道から切り離した。この劇的な転換が、冷戦におけるアメリカの勝利に役立った。トランプは、ニクソンの逆を、開始しつつある。


 トランプによる連邦政府閉鎖

NYT Dec. 17, 2018

Chaos? A Trump Specialty

By Michelle Cottle

議会とトランプ大統領とが国境の壁の建設費50億ドルに関して妥協しなければ、週末には連邦政府が閉鎖される。しかし民主党議員たちは、トランプの愚策に1ペニーでも支払うくらいなら、足の爪でもかじる方がましだ、と考えている。

もし連邦政府が閉鎖されたら、その責任は110%、大統領にある。議会は珍しく超党派で、トランプが彼らに何も他の選択肢を示さない、と批判している。通常は、双方のチームが政府の閉鎖を避けるための妥協を図る。トランプは共和党が妥協することを不可能にした。先週の火曜日、民主党の議会指導者たちも加わったテレビ会議で、トランプは、政府の機能を停止させることを「私は喜んで引き受ける」と述べた。「私はそのことで君を責めない。」と、トランプは上院の民主党指導者Chuck Schumerに告げた。

民主党の指導者たちは喜んだが、共和党議員たちは危機を回避するために何もできないことを嘆いた。「誰も、これが何を意味するか、どうしたらよいか、わからないのだ。」と数週間後に引退する議員はThe Timesに語った。

トランプは政府閉鎖を歓迎することで、議会両派の議員たちが降参し、混乱が自分たちの制御できるものではない、と主張する自由を与えた。議事堂周辺の雰囲気は、非常事態や行動への切迫したものではなく、宿命論に近い。

トランプはドラマのすべてを支配している。チキン・ゲームだ。彼にとって交渉とは、そして人生はすべて、終わりのない神経戦である。政府閉鎖はトランプにとって肥沃な大地である。なぜならトランプは、ここで政治のエスタブリシュメントと対決できるからだ。彼は、議会が協力しない、彼の思い通りに事態を動かせない、と繰り返し発言してきた。政府をカオスに投げ込むという脅し、すなわち、休暇にしてしまい、あるいは、何万もの労働者たちに給与を支払わないことで、彼はカタルシスを味わい、議員たちの生活を彼がどれほど苦しいものにできるか示すのだ。

混乱をもたらす戦闘の雄たけびと暴論は、今なお、トランプの重要なブランドである。彼は幼児をあやすようなわけにはいかない。残り2年間は、政治にとって永久に近い。

今や彼はタフ・ガイの演技を楽しむことができる。彼が何を破壊しても、オルタナティブ・ファクトを提供し、勝利を叫ぶに違いない。このクリスマス休暇は、いつものように、彼のためにある。


 グローバルな人口移動の管理体制

YaleGlobal, Tuesday, December 18, 2018

Migration: A Case for Stay and Build

Chandran Nair

戦争を逃れた数百人の難民を積んで、貨物船は港にゆっくりと近づいた。管理当局は難民たちを発見し、その上陸を拒んだ。国際的な人道危機は、絶望した難民たちが自分たちの船を沈めたことでようやく解決した。これは現在のイタリアやギリシャの話ではない。パナマ船籍のthe Skyluck号は、1979年初め、ベトナムから2000人の難民を運んできた。ベトナム難民は多くの国に向かったが、現代のヨーロッパやアメリカが難民に直面したように、難しい問題となった。インドネシアやフィリピンのような貧しい国には難民キャンプが生まれ、香港、シンガポール、マレーシアのような豊かな国は国際的な非難にさらされた。

数十年の後に、南シナ海には難民危機が存在しない。むしろ人々はベトナムやカンボジアのダイナミックな経済にもどってくる。難民の受入れは道徳的な行為だが、人々が流出する根本的な理由を解消しない。殺到するボート・ピープルの「解決」とは、安定した、意味のある政府がベトナムに誕生し、それ自身が成長や発展の基礎を提供することである。

国家の建設は困難な作業である。特に、戦争や植民地化で、破壊や略奪が起きた後では、難しい。豊かな諸国にある機会を、短期的には、より安全な機会とみなすのは理解できる。しかし多くの移民は、移住が外国における後悔の人生に至ること、孤立と差別から同課は不可能、もしくは、好ましくないものになることを知る。

Brain drain(頭脳流出)” and “brawn drain(労働者の流出)、すなわち、高い能力のある身体や訓練を受けた技能がある人々を失うことは、発展途上地域にとって明らかに損失だ。しかも、エンジニアや医者、その他の専門職に適した人々は、オーストラリア、ドイツ、UK、アメリカで、店舗の管理や家内の介護、タクシー運転手として働いている。彼らが味わう苦痛は、自国の破滅的な状況をさらに悪化させる。

世界はグローバルな人口移動の管理体制を改善しなければならない。発展途上諸国の機会を改善し、外国の軍による悲劇的な介入を避け、紛争を解消することだ。国境を閉鎖することは、それが管理の強化であれ、物理的な壁の建設であれ、答えにならない。熟練を有する、能力の高い人々は、自国にとどまって再建を助けるべきだ。


 ホームレス

FT December 18, 2018

Working but homeless: a tale from England’s housing crisis

Sarah O’Connor in Tunbridge Wells

Ryan Russellは、きれいな白い壁、小さな、暖かい部屋で、窓のそばのシングルベッドに頭を突っ込んだ。外は、ロンドンの南に45マイル離れたTunbridge Wellsの家並だ。冬の淡い陽光が降り注ぐ。22歳の彼は、ベッドに座って、突然、ベッドが自分にとって小さすぎると思う。そして顔全体で大きくにやりと笑う。彼の足はベッドから出てしまうだろう。

廊下を挟んだ部屋には、もう少し年老いて見える、23歳のJosh Chantlerが、窓際に立って、外を眺めている。

2人の男性は、和解ホームレスのためにあるYMCAのホステルに泊まっている。個々が彼らの新しい家だ。こうした若者たちがこの家にたどり着く過程を知ることは、イングランドで、雇用が増えている今でも、ホームレスが増大している問題について多くを教えてくれる。


 ナショナリズムの悪しき結果

FT December 19, 2018

The Faustian bargain of nationalism

Martin Wolf

サバンナのサルが惑星の支配者になった人類興隆の歴史は、1つのファウスト的な取引である。農業革命によって人類は大幅に増えたが、多くの者にとっては生活水準は低下した。生産システムとイデオロギーが、人類を動かした。中でもナショナリズムこそ、発展と破壊のエンジンであった。それは有益であるとともに、悪魔の性格を持っている。

1918年の休戦を祝う式典でわれわれが思い出したように、何千万もの人々が国家の軍隊として戦い、しばしば自ら進んで死んだ。彼らは、Benedict Andersonが「想像の共同体」と呼んだもののために死んだ。それは、国民のアイデンティティを共有すると「想像する」見知らぬ者たちであり、忠誠と支持の紐帯としての「共同体」である。こうした紐帯は、効用を最大化する合理的な諸個人、というエコノミストたちの枠組みに容易に組み込まれた。ナショナリズムは世俗の宗教である。

人類は圧倒的に社会的な存在である。初めは、小さな、家族的な共同体に生きたが、その後の政治体は、帰属する者たちに国家との親密なアイデンティティを求めず、もっぱら服従を求めた。動員する国民国家と強固なアイデンティティは、概ね、この200年間の産物である。西洋においては、都市国家の諸価値と共鳴し、近代的な大衆はフランス革命後に誕生した。

すでに亡くなった思想家Ernest Gellnerゲルナーは、ナショナリズムの本質を、もっぱら教育の国民的システムが普及した共通語による読み書きの能力と、導入された文化に結びつけた。旧来の農業経済から、農奴や封建領主が消えて、より柔軟な生活が広まる中で、新しいイデオロギーが積極的に広められた。ナショナリズムは、工業的な近代の誕生を促した。

近代国民国家は、良質な、それほど良質でない、そして、悪質な結果をもたらした。言語を共有する人々は協力し、さまざまな経済活動の間を容易に移動した。共通の文化やアイデンティティを強調することは、民主主義の要求につながった。そして民主化されたナショナリズムは、福祉国家をもたらした。

それほど良質でない結果は、レント・シーキングである。人々はセクト的な利益を守ることに執着する。不公平な外国人が、有徳の市民たちの利益を損なっている、と主張する。それは強欲の問題だけではない。パスポートは、高所得国の市民たちが保有する最も価値ある資産である。当然、無料で他者と共有することを嫌う。彼らはそれを「アイデンティティ」と呼ぶ。移民の規制は、民主的な福祉国家が生む不可避の主張となる。

ナショナリズムがもたらす悪質な結果は、特に、外国人排斥が権力獲得の手段となることだ。国民国家の内で経済結果が分散するにつれて、政治を冷笑的にとらえる者は、ますます容易に、不安になった市民たちを説得できるだろう。あなたたちの利益は、裏切り者の「グローバリストたち」、その外国の仲間や従者によって奪われている、と。それは国民という感覚の自然な結果である。

ナショナリズムはわれわれの時代の最強の政治力である。それは良質な形で、かつて作家George Orwellが「愛国心」と呼んだように、成功する政治体の礎石である。しかし、悪質な形では、われわれが頼りとする将来の平和と協力を破壊する敵である。

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The Economist December 8th 2018

Macron’s nightmare

British Politics: The best way out of the Brexit mess

Ethiopia: Liberty and disintegration

The anniversary of reform: Seeking salvation

Democracy in Africa: A colorful revolution

Bagehot: Prize idiots

Genocide prevention: Never again, again and again

(コメント) 英仏の政治危機は、その性格が大きく異なりますが、当然、この時代を共有しています。政治的な合意形成や指導力が、新しい情報環境や政治的レトリック、国際秩序の再編圧力に対応するセンスを、それにかかわる人々に求めています。マクロンも、メイも、混乱する試合場に飛び込んで、出口を探しています。

エチオピアの記事が、これほどダイナミックなアフリカの変貌を示しているとは、驚きました。

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IPEの想像力 12/24/18

大阪の南を、4人で歩きました。天王寺から難波、心斎橋まで。

ベトナムから来たCさんが、まだ大阪の町を知らない、というので、それでは僕が案内しよう、という話になりました。子供や学生のころから知っている場所ですが、わざわざ歩いたことはありません。地下鉄に乗って移動すると、まるで遠くに存在している、孤立した場所のように錯覚していましたが、それらはとても異質な、とても近い、圧縮された文化と歴史の混じり合う空間なのです。ちょっと、何かの生き物の、内臓のなかを歩くような印象でした。

最初は、ハルカス前の巨大な歩道橋に集まりました。ここが出発点です。この地上から300メートルに達する、日本最高層の近代的ビルから、わずか500メートルほど離れただけで、歴史的な赤線地帯、飛田の建築群や、その向こうに、日雇い労働者たちが集まる釜ヶ崎の寄せ場があります。

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天王寺駅から飛田に向かう道路沿いには、巨大な集合住宅ビルが林立していました。これは都市のクリアランスやジェントリフィケーションではないか、と思います。都市が拡大するとき、周辺にあった寄場や歓楽地が住宅地やビジネス地区に呑みこまれ、場所によってはスラム化します。次第に都市のまん中に、繁栄した部分や裕福な住宅地、歴史的な特徴を生かした文化的復興が注目される場所と、その近くにありながら、人々が足を踏み入れることのない、貧しい、治安の悪い地区が残り続けるのです。

この高層住宅群に、いったい、だれが住んでいるのか? 午前中に、歩道を行き交う大人も子供も観ることはできませんでした。なぜ住宅群の中にある、小さな公園を、有刺鉄線で囲ってあるのか? 幹線道路が横切るとしても、この団地には自動車を置くスペースなど、1つもありません。

高低差のある土地を分ける障壁、その長い塀の一部が、関所のようになって、飛田地区への口を広げています。下りる階段とスロープを経て、私たちは、古びた木造建築や、規格の統一された屋号の電灯が並ぶ、不思議な街並みに入りました。ここは、かつての赤線地帯、日本最大規模の遊郭でした。料亭として、これほどの店が今も営業しているのか、あるいは、実態は今も売買春ビジネスなのか、わかりません。

もう少し西に行けば、堺筋、阪堺線を超えたところに、通称「三角公園」があり、それを監視するように西成警察署もあります。午前中とはいえ、4人で「物見遊山」するような場所ではありません。私は、なぜここに遊郭や貧しい労働者が集まったのか、というCさんの質問に答えることができないまま、しばらく考え続けていました。

街角に中古の電機製品を売る店がありました。堺筋の幹線道路に出て、角を曲がって北上します。1000円、という表示がありました。111000円でしょうか。テレビ付き、とか、建物によって部屋の説明があります。入り口の向こうはホールになっており、多くの男たちが座っていました。ここは「ドヤ街」です。日雇い労働者たちは、仕事があれば賃金をもらって、こうした部屋に泊まるし、仕事が無ければ、お金も無くなって、通りで寝ることになる、と思います。

今では、こうした労働者たちが高齢化し、むしろ、福祉の貧しい実情を示す貧困地区になっているようです。外国人旅行者向けの安宿としてネットで発信し、一部は成功していると聞きます。道端で売り物を並べる男がいました。それはわいせつ画像のCDのようでした。安宿の隣は、おかずを調理して、少量ずつ売る店でした。

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新今宮の駅を過ぎて、巨大なパチンコ屋の向こうを曲がると、そこはジャンジャン横丁です。通天閣を正面に観る、新世界へと向かいました。

私の記憶にあるジャンジャン横丁より明るい、普通の商店街がありました。朽ちたアーケードがなくなり、多くの店も入れ替わって、貧しい労働者の胃袋と欲求を満たす町ではなく、ある種の物語を売る、観光地の1つになったのです。串かつ、どて焼、お寿司、居酒屋が並びます。ロマンポルノの映画館やストリップ劇場もあったようですが、インターネットとスマホが提供する強烈な刺激とプライベートな時空間に圧倒されて、それらは消滅しました。

店外の陳列棚に食品サンプルを並べるところを発見し、Cさんに紹介しました。こうして子供連れの家族が、サンプルを見て入る店を決めたのだ、と。しかし、全体として違和感をぬぐえないまま、通天閣の下を抜けて、私たちは堺筋を北上し始めました。

なんば(難波)はそれほど離れていません。かつて、堺筋通りには小さな工具や部品を売る店が多くありました。中学生や高校生の趣味として、ラジオを組み立てたり、大人になってもバイクを自分で作ったりする人がいたのです。1軒だけ、錆と油が染みついた棚に、箱に入った細かい部品が、ぎっしり並んでいました。

今は、家電量販店のビルがいくつかあり、DVDやゲームソフトの店、喫茶、食堂、パソコンの店、家具や調理器具を並べた店、などがありました。TAX FREEの大きな文字が示されて、外国人の団体客を待っています。表通りから少し入ると、小さな飲食店や、新しい傾向であるアニメ、フィギュアの店があるようです。

なぜ、でんでんタウンができたのか? なぜ、消えたのか? かつては日本に多くの家電工場がありました。松下、三洋、シャープなど。関西にも多くの工場があったはずです。工場労働者たちも含めて、日本人は新しい家電製品を買うことで、生活水準の改善、豊かさを実感したのです。しかし、家電でも、パソコンでも、スマホでも、韓国や中国との競争が激しくなって、国内産業は高級化、ブランド化、ハイテク化する一方、工場を中国・東南アジアへ移転しました。でんでんタウンは活気を失い、飛田や新世界に続いて、輸入品を売るか、外人観光客の財布に頼る姿へと、変貌したのです。

でんでんタウンを私が先に進んでいるとき、突然、自転車の男が、誰にともなく激しい罵声を浴びせました。酔っているのか、あるいは、彼の内にこみ上げる憎悪と怒りに駆られて、町をさまよっているだけなのか。

これで良かったのだろうか? 私は懐古だけではない、家電産業が示した「フォーディズム」や、物づくりのエートスを想いました。もしこれを「発展」と呼ぶとしたら、もっと違う形で、私たちは満足を手放し、いくらか貧しい生活ではあっても、親しみや活気を感じていた世界を破壊してしまったように感じました。

北欧の小さな町のようになりたい。あるいは、ダイナミックに成長するベトナムのようになりたい。

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14年前、2004年の暮れにも、私は子供たちを連れて大阪の町を歩きました。このエッセーが面白いと思った人は、どうぞ読んでみてください。

https://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/ipe_notes/2005note/010305note.htm

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FTには、クリスマス・シーズンに募金の呼びかけが載っています。ホーム(Home: the global search for a decent place to live)という動画を観ました。「あなたも、いつ、住宅をなくした人々に加わるかもしれないのだ」と、世界各地のホームレスや被災者の姿が映ります。「まともなシェルターもない人々が、16億人もいる。」

https://www.ft.com/content/0e94f8c6-eb4f-11e8-89c8-d36339d835c0

動画の中で、小さな子供を抱いた女性が、途中、涙をこらえて訴えます。「息子に尊厳ある人間になってほしい。簡単な家でよいのだ。この子を良い学校に行かせたい。他には何も望まないから。」

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