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IPEのタネ 1/3/2005

12月30日,私は子供たちと師走の大阪を見物して歩きました.

鶴橋から大阪駅へ環状線で移動し,高層ビルを見ながら中ノ島まで歩きました.淀屋橋から地下鉄で心斎橋駅まで行き,アーケードの商店街や道頓堀のオブジェ群?を楽しみ,早くも衰退の兆しを見せるなんばパーク,賑わうでんでんタウンや黒門市場を通りました.日本橋から鶴橋駅へ再び移動し,駅周辺の迷路となった商店街に入って,コリアン・タウンへ向かうはずでしたが,歩き疲れたので帰りました.通天閣,じゃんじゃん横丁,釜が崎,四天王寺は諦めました.

都市には,犬,ネコ,ヒト以外,大きな生き物がいません.カラスと鳩を除けば,せいぜい,市場で見つけたナマコやアワビ,跳ね回るエビやフグしか見つからず,マグロの頭やクジラの赤身,アンコウなど,その不気味さに末っ子が感心するのは当然です.また同じヒトでありながら,大阪駅の歩道橋に上がるスロープには,繭のように,ホームレスの人々が棲み付いています.

年の暮れになって日本中が深い雪に包まれ,奈良も一面,雪景色となりました.戦争や災害のニュースを聞いた2004年の大晦日です.水墨画のような景色は,この複雑な世界を単純化し,私たちの心に現象ではなく本質を問いかけます.9・11後のクリスマスにも,ワシントンで大雪が降りました.その沈黙と孤立が与えてくれた静かな時間を,私たちは何に使うのでしょうか.

さまざまなレベルで私たちは現実の変化を理解し,これを制御したいと願います.現状では,世界政府などまったく不可能だ,と言われます.しかしどれほど困難でも,テロや戦争だけでなく,民主主義や選挙について,人々は国際支援のための基準作りを始めています.あるいは,その最初の一歩は,そもそも国境を無視した危険や災害に関して,国際協力のための財源や協調行動を各国政府やNGOが約束することかもしれません.

インドネシア・スマトラ島沖大地震で世界が動揺しているとき,皇族の婚約発表がなされました.ほとんどすべてのTVチャンネルがこの記者会見を生中継し続けたことは異常でした.自由に議論したり,批判したりできない対象が一つでもあれば,民主主義は脅かされます.皇族たちの信仰の自由や,男女平等,職業選択の自由はあるのでしょうか? 雅子さまの一般参賀.朝青龍.日本人らしさ.・・・私たちの自由は,小さな欠陥から崩れ出し,声高な非難に向かいます.

災害に関するさまざまなアイデアが示されています.国際警報システム,世界災害基金,国際救援活動など,各国政府の協力が実現すれば,災害によって苦しむ人々は減るはずです.自然災害を解剖すれば,それは政治災害とも言えます.ブッシュ氏が地球温暖化に関する国際システムを執拗に攻撃するのも,アメリカの支配が各国の掲げる理想と衝突するからだろうか,と不安になります.

国連も,The Economist も,21世紀は貧困解消の世紀だ,と言います.災害も政治も,人類の知識や世界的な産業基盤が実現できる雇用や富の水準を損なうでしょう.飢餓や極端な貧困は,赤痢やコレラと同様,すでに20世紀において撲滅できたはずの社会的病理です.貧困を抜け出そうと模索する人々に必要な支援や機会を与え,彼らを個人的に支援したいと願う人々の意志を形にできる社会システムは,きっと現れるでしょう.天災のように,大規模な貧困の中に生まれた者も,社会や政治が異なれば,その犠牲を大きく減らせるのです.

年越し直前,NHK・BSで観た「地球 街角アングル」が,大変,面白かったです.一つは,キツネ狩りを禁止する法案に対するイギリスの論争,もう一つは,洪水を回避するシステムに関するオランダの論争です.キツネ狩りを禁止すべきかどうか,正しい答はありません.それゆえ,イギリス社会は激しく論争します.キツネ狩りはイギリスの文化や伝統だ,宗教に近い,と言う者もいれば,貴族や地主たちによる残酷なスポーツだ,と言う者もいます.労働党政府はイラク戦争の失敗から目を逸らすために論争を煽っている,と保守派の政治家は批判します.

また国土の3分の1が海面下にあるオランダでは,堤防を高くして洪水を回避するだけでは問題を解決できない,という反省が生まれました.彼らはさまざまな方法で洪水を防ごうとします.貯水池を設けたり,ライン河の流れを変えたり,予め放流する地域を決めたり.それは農場が水没したり,家や施設を移転したりするため,住民の反対が起きます.しかし,政府も住民も決して臆することなく,情報をできるだけ多く提供して説得に努め,さまざまなアイデアによって対案を示します.600ものアイデアが提案され,シミュレーションによって比較される,と言います.

正しい答えがないのに,住民たちが議論することに意味があるのか? もちろんです.単なる支配ではない政治とは,社会的なバランスを定め,妥協案と多数の合意を模索する論争過程だからです.社会的理想をオープンな言説によって戦わせる点に,イギリスやオランダの住民たちが体現する,成熟した民主主義を感じます.

日本各地の被災地にも雪が積もり,アジア各地におよんだ津波の被害者は新年の祝いを断念したでしょう.私たちに何ができるのか? 一瞬,未来の歴史書に,「アジアの東端に位置する島々では,成熟した社会制度や政治意識を欠いていたため,バブルやホームレスに見られる失敗を,国際支援でも皇室報道でも繰り返していた」という記述を,私は読みました.

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