IPEの果樹園2017
今週のReview
12/25-30
*****************************
民主主義の危機 ・・・トランプのクリスマス ・・・21世紀の不平等 ・・・減税と政治 ・・・国家安全保障戦略 ・・・次の債務危機 ・・・グローバリゼーション論争 ・・・国家の形成過程
[長いReview]
******************************
[これは英文コラムの紹介です.私の関心に従って,いくつか要点を紹介しています.関心を持った方は正しい内容を必ず自分で確かめてください.著者と掲載機関の著作権に従います.]
● 民主主義の危機
The
Guardian, Sunday 17 December 2017
The
Guardian view on the 1%: democracy or oligarchy?
Editorial
経済権力が少数の者に独占されると社会はどうなるのか?
少数のグローバル・エリートが大きな繁栄を享受している一方、彼らの下にある大衆は、さまざまな割合で、後方に取り残されている。先週、70か国以上から100人以上の研究者が協力して画期的な報告書World
Inequality Reportを出した。1980-2016年、世界の1%の最富裕層が世界所得の27%を得た。中国の経済的興隆は、確かに数億人を貧困から脱出させたが、上位1%が占める富の分配は15%から30%へと2倍になった。インドやロシアに見られる富の極端な集中は、かつての王朝やツァーの時代を再現したように見える。報告書は警告する。2030年までこの傾向が続けば、たった250人が世界の富の1.5%を得るだろう、と。
西側において、この40年間の支配的イデオロギーは、民営化、規制緩和、そして最近は、財政緊縮であった。それは有権者の集団的な権力を制限するルールとなった。その結果、より大きな利潤や配当、より低い所得税となり、国民所得のますます大きな割合が最富裕層に分配された。富を永久に作り出し、贅沢に支出する、という文化が根付いた。しかし、それはほぼすべてのものを犠牲にしてきた。グローバリゼーションは、北米とヨーロッパの中下層に属する人々にとって、賃金を高めなかったのだ。こうした政策が毒素を政治に流した。反エスタブリシュメントの諸政党は、今や、1930年代以来最高の支持を得ている。主要政党は過激化し、あるいは、衰滅した。
市民たちの嘆きは正当であり、解決される必要がある。しかし彼らが得たのは、しばしば、最悪のものだった。イギリスでは、システムへの反感がご都合主義者に利用され、Brexitをもたらしたが、それは労働者の権利を薄めれば好景気が来るというごまかしであった。アメリカでは、白人労働者たちの怒りを刺激したドナルド・トランプが、0.1%の最富裕層のために、自国をタックス・ヘイブンにする税制改革を支持している。反動的なナショナリストたちが語る革命とは、プルートクラットの現状維持でしかない。同じ不幸な結末を革新派のグローバリズムにも見る。エマニュエル・マクロンはフランスのビジネスにではなく賃金に増税したがっているが、それは移動が困難な労働者より移動が容易な富の生産者を優遇するためだ。
アメリカの最高裁判事であったブランダイスはかつて述べた。「われわれは、民主主義を実現するか、少数の富裕層に富を集中させるだろう。その両方はできない。」
政治家たちはもっと公平な解決を推進するべきだ。累進的な税制や、タックス・ヘイブンに富を隠すことができないようなグローバルな金融登録制度。市民にふさわしい医療、教育、福祉の実現に向けた財政支出の増額。現代生活はガバナンスへのコンセンサスに依拠するが、それは壊れやすい。富裕層はふさわしい税金を支払うべきだ。
● トランプのクリスマス
NYT DEC.
15, 2017
Have a
Very Merry War on Christmas
By
AMY SULLIVAN
アメリカのエヴァンゲルカリズム(福音主義)に属する牧師たちが、ドナルド・トランプを称えている。「神が選挙において介在し、ドナルド・トランプを大統領に就かせた。」
トランプやアラバマ州のムーアのような、ナショナリスティックで、人種を憎悪する、不安を高める政治が、熱狂的なエヴァンゲルカリズムの焦点をなっている。ジャーナリストたちは、宗教が政治に及ぼす影響にばかり注目してきた。しかし、宗教そのもの変化、その緊張状態を正しく知るべきだ。エヴァンゲリカルたちは、その信仰にもかかわらず、悪しきトランプを支持するのではない。信仰するがゆえに、トランプを支持するのだ。
たとえば、クリスマス戦争だ。Fox Newsはクリスマスを十字軍に変えた。それは教会から世俗の世界に、クリスマス・ナショナリズムを広め、宗教戦争を復活させる。
Bloomberg 2017年12月15日
Thank
Goodness for Donald Trump
By
Pankaj Mishra
ドナルド・トランプの就任1年目は、そのでたらめな発言が異彩を放った。アメリカのTweeter隊長として、いくつもの大陸が彼の早朝の挨拶に心を奪われた。彼には抑制も礼節もなかった。その点で、トランプはオバマと対照的である。
オバマは多くの不快な現実を、その礼節によって隠し続けた。しかし遅かれ早かれ、われわれはそれと直面しなければならなかっただろう。トランプはこの現実を直撃した。そして、希望的に見れば、進歩主義の新時代を告げたのだ。
1つ言えることは、アメリカ最初の黒人大統領は、「人種差別のない」時代をもたらしたわけではないことだった。トランプがホワイトハウスに現れたことで、白人至上主義者たちはもはやその姿勢を隠さなくなった。
フェミニストたちの運動が成果を上げたかどうかも、オバマが去った今、明らかではない。気候変動に関して、ブッシュ政権が京都議定書を拒んだダメージのいくらかをオバマは回復したが、トランプがパリ協定から離脱し、気候変動は科学ではない、と主張する人物をEPAのトップに任命した。
トランプが当選したことは、グローバリゼーションの満ち潮がすべてのボートを浮上させなかったことを示した。富は少数者に集中したのだ。規制されない市場がうまく機能しないことを、2008年の金融危機が確信させた。1982年にドナルド・レーガンが述べたような「市場の魔法」を、政治家やビジネスマンに劣らず、信奉した多くのジャーナリストたちがいた。しかし再び、不平等を非難することに左派寄りのエコノミストたちは熱中している。
最も重要なことは、感情が爆発する1人の男が核の発射ボタンのそばで、「世界が未だ見たこともないような炎と怒り」を届けてやる、と約束したことだ。
トランプのTwitterは時間を凍結するように見える。しかし実際は、時間が流出し、トランプのソーシャルメディアを越えて、その成果をもたらすだろう。彼は跳躍する破壊者であり、衰退の最前線で社会・政治・経済システムの虚像をはぎ取るのだ。
トランプがいることで、そのあまりにも不適格な人物を見た市民たちは団結し、システムの改革に向かうだろう。保護主義のような、あまりにも危険な経済対策を見て、今週初め、サマーズが述べたように、新しい経済基盤を人々は切望する。
自己満足は、近代世界の成果が壊れやすいものであることを忘れさせた。民主主義、女性やマイノリティーの権利、醜悪な偏見の追放、それらは闘い取られたものだった。
トランプの歴史的役割とは、われわれの思想と行動を刺激することだ。この覚醒をもたらすことに対して、われわれは第45代大統領に感謝する。
● 21世紀の不平等
FT
December 19, 2017
Inequality
is a threat to our democracies
MARTIN WOLF
アメリカ、カナダ、ヨーロッパで、1980-2016年の実質所得の増加分を、上位1%が28%得て、下半分の50%が得たのはわずか9%だった。しかし、諸国間の違いは重要だ。西欧では、上位1%が得たものと下位51%が得たものは同じだった。北米では、上位1%が得たものと下位88%が得たものが同じだった。
最近発行されたWorld
Inequality Report 2018は、諸国家間の格差が収斂し、国内の格差が拡大するという概観を与えてくれる。しかし、それはどこでも同じように起きていない。「1980年以降、所得の不平等は北米とアジアで急速に拡大し、ヨーロッパでは緩やかに拡大し、中東、サブサハラ・アフリカ、ブラジルでは極度に高い水準で安定していた。」 第2次世界大戦後、上位1%の得る部分は、西側全般で、戦前の水準と比べて相対的に低かった。しかし、その後、英語圏の諸国で、特にアメリカで、この比率は急上昇し、フランス、ドイツ、イタリアでは少ししか上昇しなかった。
古代社会の研究者であるWalter
Scheidelは
The Great Levelerという本を書いているが、その中で、農耕(と農業国家)の発明以降、経済が生み出す余剰のすべてを奪い取ることにエリートたちは驚くほど成功した、と述べている。略奪を制限するのは、生産者が生き延びる、ということだった。注目すべきことに、ローマ帝国でも、ビザンチン帝国でも、絶望的なほど貧しい農業社会がこの限界に達した。権力は富をもたらし、富は権力をもたらす。何がこのプロセスを止めるのか? この本によれば、それは破滅の4騎士である。戦争、革命、疫病、飢饉。
確かに国家は軍事的な動員に依存していたから、人々が富を得ることもあった。しかし、全体として、前近代の社会における不平等の大きさには、しばしば、言葉を失う。
20世紀にも、ロシアや中国におけるような革命、2度の世界大戦は、不平等を劇的に減らした。しかし、革命後の体制は弱体化し(あるいは崩壊し)、戦争の切迫感は薄れて、旧い農業社会の略奪パターンが再現された。莫大な富を有する新しいエリートが、政治権力を得て、それを自分たちの目的に使用した。
つまり、何らかの破局が起きない限り、われわれは不平等を拡大させ続けるだろう、という意味だ。世界規模の熱核戦争が起きるなら、世界は平等化するだろう。しかし、それは政策ではない。
楽観的であるのを許す3つの理由がある。1.われわれの貧困は相対的な意味であり、絶対的な生存ギリギリではない。2.すべての国が高度な、増大する不平等に向かっているのではない。3.各国は、もし望むなら、不平等を緩和する多くの政策手段を持っている。しかし、アメリカとドイツでは、それを利用する程度が大きく異なる。
重要な問題は、不平等に向かう圧力が増しているか、そして、それを抑える意欲が一般に衰退しているか、である。前者に関しては楽観的になれないが、後者に関して、社会の調和と物質的な豊かさが、富裕層にその豊かさを分かち合う用意がある、と期待する理由はあった。にもかかわらず、20世紀前半の戦争、工業化と大衆争議にともなう平等主義が衰滅すると、個人主義がさらに強まり、エリートたちは自分のために何でも奪うと強く決意した。
それは社会平和のためだけでなく、19世紀、20世紀の高所得国に現れた普通選挙による安定した民主主義にとって、悪夢である。1つの可能な展開は、現代アメリカが示すような、「プルートクラットのポピュリズム」である。そして、アメリカこそ、前世紀の混乱にも、リベラルな民主主義が生き延びた国であったことを思い出すべきだ。
未来は、安定したプルートクラシーの世界ではない。それは大衆を分断し、従属させ続ける。それに代わるのは独裁者の出現であろう。独裁者は、エリートに対する偽物の反抗によって権力を握る。
● 減税と政治
Bloomberg 2017年12月15日
This Tax
Bill Is a Trillion-Dollar Blunder
By
Michael R. Bloomberg
先月、Wall Street Journalの編集者が部屋に集まったCEOたちに質問した。減税案が通れば投資を増やすか? 手を挙げた者はわずかだった。出席していたトランプ大統領の経済顧問Gary Cohnは、「どうして他の連中は手を上げないんだ?」と尋ねたそうだ。
わたしならこう答える。「われわれは金を必要としていない。」
企業は記録的な余剰資金を持っているからだ。2.3兆ドルに近い。その額は2009年に不況が終わってから増え続けて、2001年に比べて倍増している。
CEOたちは「経済をジャンプ・スタートさせる」減税を待っていない。減税が大幅に高い賃金や成長をもたらす、というのは共和党議員たちの妄想だ。彼らは企業幹部やエコノミストたちの意見を聞かなかった。いつものように、政治を最優先するのだ。
財務省は、100名以上の専門スタッフが減税の効果を分析するために「24時間働いている」、と主張した。しかし、財務省が公表したのは政治目的に偏った1枚の文書だった。経済的には愚行である。アメリカが直面する重要な諸課題に何も応えず、むしろ悪化させる。
すなわち、公立学校で必要なスキルを学べない。老朽化したインフラがアメリカの競争力を損なっている。賃金は停滞し、不平等が増大している。ベビーブーマー世代が退職するのに、財政赤字が増大している。
減税法案がもたらす主要な成果とは、学校や学生から資金を奪い取る。インフラ投資の能力を失わせる。実質賃金が上昇することもないまま、医療保険の支払いを増やす。防衛その他の歳出を減らさずに、高齢者医療や社会保障の歳出を抑制できなくする。つまり、財政赤字の爆発だ。
何のために? 企業が必要としない大幅減税を与え、最上位の法人率を下げ、富裕層が資産を貯めこむために。
はっきり言っておくが、税制改革で歳入を減らさない形なら、私は35%の法人税を下げることに賛成だ。現在の法人税は他国より高く、しかも企業によって大きな違いがある。それは不公平で、非効率だ。抜け穴をふさぎ、利潤の海外送金を止めるべきだ。
大統領が共和党の減税案を推進するチアリーダーとなってはいけない。経済的に観て弁解の余地もないほどの大失策である。それを知りながら共和党議員は法案を支持すべきでない。
NYT DEC.
20, 2017
The Tax
Bill Shows the G.O.P.’s Contempt for Democracy
By
WILL WILKINSON
税制改革に関する公聴会や論争を何1つ開かずに,大急ぎで法案を承認した.上院の共和党議員たちはつまらない計算ミスを犯し,間違いを削ったり,手書きで1つの節を書き直したりして,だれもその全文を読む間もないまま投票を強いた.
このいい加減な怠慢さと再分配に反対する姿勢とが結びついていることは,見逃されやすい.リバタリアンの発想には,右派のイデオロギー的なDNAとして,「富をもたらす者」から「富を奪う者」への再分配を嫌う,という姿勢がある.民主主義を,搾取を合法化し,不正義をもたらすエンジンである,と考える.
民主主義と所有権の尊重とが本来的に対立するという考え方は,民主主義と同じように古くからある.なぜなら貧困層は富を所有する富裕層よりも数が多いからだ.そんな風に主張する.もし彼らが投票できたら,貧困層は投票箱を使って富を奪い去るだろう,と.
再分配的な民主主義に対する敵意は,アメリカの右派のイデオロギーにおいて中核をなし,ヨーロッパの保守政党が喜んで受け入れている福祉国家政策を,共和党員の道徳に反する受け入れられないものにした.しかし,民主主義は所有権と矛盾しない.リベラルな民主的国家は歴史における比較的最近の発明である.専制支配から民主主義への転換をもっとも的確に説明するのが,民主的な政治参加によって所有権を守る,という点である.
包括的な民主主義こそが,再分配を容易にして所有権を損なうどころか,すべての者に法的な権利を保障することで,エリートが支配する国家による「組織された略奪」を制限する.民主主義は,基本的権利の平等さを確立することにより,中産階級や下層を再分配から保護するものだ.そうすることで,だれもが資本家になれる.民主主義は,自由企業を絞め殺すことはないし,才能ある人々を解放し,人民を圧政や搾取から守る.
究極において,エリートによる略奪から庶民を守るものこそ,民主的諸制度や法の支配なのだ.しかし共和党の多数派は,あたかも自由が課税からの自由でしかなく,民主主義はそれを邪魔するかのように,基本的な民主的規範を破壊し続けている.
● 国家安全保障戦略
NYT DEC.
20, 2017
Susan
Rice: When America No Longer Is a Global Force for Good
By
SUSAN E. RICE
トランプ大統領のNSSは,敵対する諸国家と膨れ上がる脅威によって特徴づけられた,暗黒の,補トンでディストピア的な,「極度に危険な」世界を描き出している.アメリカの政治,軍事,技術,経済における優位はほとんど言及されず,指導力を発揮して繁栄,自由,安全保障を高める,という原則は見られない.
アメリカの勝利とは他国を犠牲にすることである.共通の善も,国際的コミュニティーも,普遍的価値もない.アメリカは「善を支えるグローバルな勢力」(オバマ)ではなく,「丘の上に輝く家」(レーガン)でもない.新戦略はゼロサム世界を信奉する.それはトランプの,ナショナリスティックで,白か黒しかない,「アメリカ・ファースト」戦略だ.
アメリカの強さは,その軍事力や経済力だけでなく,理想の力であった.困難な時代にアメリカが道義を捨てることは,ライヴァルたちを強化し,自分たちを弱めるだけだ.
● 次の債務危機
PS Dec 18,
2017
Is Another
Debt Crisis On the Way?
KEMAL
DERVIŞ
世界の債務/GDP比率は250%近くまで上昇している.世界金融危機の前でも210%であった.再び債務危機が迫っているのか?
しかし,債務は同時に債券であり資産である.問題は債務と債券の構成である.だれが,だれに対して,何を負うのか? もし債務が外国の貸手に対するものであれば,金利の上昇や為替レートの変動がリスクに加わる.集計された数値を問題にすることには意味がなく,例えばギリシャ債務危機では,政府機関と民間債務とを正確に区別する必要がある.中国の債務累積でもそうだ.
先進経済に関しても,日本を債務危機に近いと見なす理由はない.アメリカやヨーロッパもそうだ.短期的には,世界が危機を心配する必要はない.しかし,中長期で見た場合,米中対立や北朝鮮,中東地域の紛争など,地政学リスクがある.
長期的には,拡大する不平等や,デジタル革命によるスキルと職とのミスマッチが深刻になるだろう.地政学リスクが抑制されている間に,次の構造改革を推進するべきだ.
● グローバリゼーション論争
FT
December 18, 2017
Straight
Talk on Trade, by Dani Rodrik
Review
by Shawn Donnan
時間を無駄にすることなく,ロドリクDani
Rodrikの新著は最初から問題提起している.「アメリカ大統領選挙でドナルド・トランプが驚異的な勝利を遂げたことに,エコノミストたちは責任があるのか?」
1980年代から,ロドリクはエコノミストたちを,専門家としての根本原理を放棄し,グローバリゼーションの疑いを持たないチアリーダーになった,と批判してきた.グローバリゼーションには多くの利益とともに,いくつかの場所では経済的な破滅と政治的反動を生んだのだ.
正統派のエコノミストたちは彼の主張を無視し,保護主義者であると疑ってきた.しかし,彼は保護主義者ではなく,通商プラグマティストである.
ロドリクの主張は,まるでトランプ的な経済ナショナリズムのアカデミック版に見える.WTOは間違いだ.EUによる経済統合は国民国家や主権を脅かす.彼は重商主義を支持し,リベラルな民主主義の限界を指摘する.
ロドリクが最後に求めるのは,劇的な変化である.ドイツ,1930年代の経済的困窮から,ドイツやその他の土地で権威主義体制が生まれた.それは戦争をもたらしただけでなく,ブレトンウッズと膨大な構造変化をもたらしたのだ.
VOX 19
December 2017
Globalisation
may soon accelerate again – time to get domestic policies right
Richard Baldwin, Vesa Vihriälä
発展した諸国においても,グローバリゼーションへの逆風が強まっている.その反発は理解できるが,逆転することは間違っている.
第1に,技術変化はグローバリゼーションを飛躍させることはあっても,停止することはない.AIやロボットに対して既存の経済構造は変化するしかない.第2に,新しい機会をうまくつかむか,そのコストの多くを強いられるか,それは政策が決める.
経済にとって開放性の重要さとそれが伴う挑戦を示す良い例が,フィンランドである.19世紀の半ば,フィンランドはヨーロッパの周辺にあり,非常に貧しかった.しかし,法の支配や所有権が確立していたため,1860年代から新技術や貿易機会を利用することで,フィンランドはグローバリゼーションの第1波に乗って成長し始めた.1990年までに,フィンランドの1人当たりGDPは西欧の典型的な水準に達した.比較優位を利用した(すなわち,木材輸出)グローバリゼーションの成功例として,教科書にも挙げられた.
1990年代からの第2波は,中国の開放政策,ヨーロッパにおける共産主義の崩壊をともない,経済活動を新しい形,グローバル・ヴァリュー・チェーンへと変えた.フィンランドはここでも新しい機会をとらえ,知識を基礎にした経済の成功例になった.
しかし,フィンランドは開放性から利益を受けたのではなく,むしろ大きなショックを,工業化以来,何度も経験した.それゆえ教育の拡充と改善に投資することがフィンランドの政策の基本になった.第2次世界大戦後,最初,工業化への投資が重視されたが,1960年代から,人々がリスクを取れるように,また社会的結束と開放的な経済を支持するように,社会保障制度が整備された.
1990年代の転換で,フィンランドは深刻な経済危機から脱しただけでなく,新しいグローバリゼーションの受益者になった.技術革新を促し,税制のゆがみを抑え,一層の開放性を実現した.それに反して,最近の10年は一連のショックに襲われた.Nokiaの携帯電話が衰退し,製紙業の需要が減り,資本財需要も少なく,主要貿易相手であるロシアの購買力が低下した.2016年まで景気が回復しなかったことは,経済の特化が進んだ小国が常にさらされるショックへの脆弱性を示す.
フィンランドの例は,高等教育を受けた者も含めて,将来の技術変化によるショックを予告している.調整を市場に委ねるだけでは意味がない.熟慮された政策が必要だ.そのカギは,人々を保護しつつ,同時に,さまざまなアクターが変化への能力を高めるよう,誘因を活かすことである.
● 国家の形成過程
VOX 19
December 2017
On the
origins of the state: Stationary bandits and taxation in Eastern Congo
Raul Sanchez de la Sierra
コンゴ民主共和国DRCの650か所におけるデータから国家形成過程の理論を検証する.すなわち,軍事的なアクターが国家を形成するのはなぜか?
暴力を独占し,産出物の価値に課税することが,その収益を増やす地域では,産出物に課税したが,産出に課税しにくい土地では,その住民に課税するための複雑な行政機関を組織した.
DRCの650の地域で,かさばり,容易に課税できるミネラル,コルタンの産出地域と,発見することが困難で,容易に隠してしまう金を産出する地域を比較する.その国際価格が大きく変動したとき,軍事的なアクターはどのように行動したか?
その土地に依拠する軍事的アクターが課税する場合,外部の支配者による課税より,住民たちの利益にもつながった.
********************************
The Economist December 9th 2017
The battle in AI: Giant
advantage
Public hygiene: Labour of
lavs
Foreign policy: Relative
moralism
Turmoil in Ukraine:
Revolution devolution
(コメント) 南アフリカ,共和党の減税案,エルサレムへのアメリカ大使館移転,に関する記事があります.あまり深く読み込めなかったせいか,それほど興味を持てない内容でした.
AIの開発競争で,いよいよどのような分野でもハイテク大手の支配が強める,という予想に,条件次第では,そうならない,と記事は考えています.それは膨大なデータを集める手法や利用に関して,社会や法律が何を求めるかによるのです.
ウクライナの危機も含めて,アメリカ外交は世界に大きな影響を与えます.トランプ外交が,それまでの道義的な目標を軽視するのではないか,と言われます.カンボジア,ハンガリー,エジプトとの関係が注目されています.
******************************
IPEの想像力 12/25/17
クリスマスに難波の映画館で、『ブレードランナー2049』を観てきました。1982年に制作された記念碑的なSF映画『ブレードランナー』の続編です。
2049年のロサンゼルスに,人間はどれくらいいるのか? レプリカントと全く区別がつかない以上,その数はわかりません.もしかすると,核戦争や新型の疫病,気候変動によって自然が破壊され,人間が住めないような世界なのか,と思いました.
健康な人間はすべて、レプリカントたちが開拓した地球外の植民地に移住したようです。前作とよく似た都市の景観,高層ビル群や飛行型自動車,食用昆虫の養殖池、巨大な裸の女性が誘いに来る3D広告,人体の部品を生産ラインまで調査し,情報や新しいパーツを販売する闇屋,生身を売る?街娼たち・・・ しかし、ストーリーの結末はよくわからないものでした。前作の持つレプリカントたちの悲哀と悲愴さを、続編は受け止めることはできなかったようです。
もしかしたら、ブレードランナーの“K”が雪に埋もれたまま、消された恋人(実体を持たないAIのホログラム)を想いながら死ぬのだろうか、と感じました。人類とレプリカントの差が消えることを信じて?
****
先週のReviewから、The Economistが紹介する中国のSF小説『折りたたみ式の北京』に関する自分のエッセーをゼミで取り上げました。そのとき、社会を分断して管理するシステムに、学生たちが何も違和感を示さなかったことに驚きました.・・・こんなシステムになれば、何をしても変わらない。仕方ないじゃないか?
しかし、政治経済秩序というのは虚構です。地震や洪水を理解するより、神話や魔法によって説明された、人類の歴史的な冒険です。その社会の構造や転換のメカニズムは、何万年も変わらない土地や大気の成分が決めたわけではないでしょう。
話し合いの第2ラウンドでは、テーブルごとに「階級」を決めました。エリート、中産階級、最下層です。しかし、不平等を根本的に糾弾する運動を予想する話で盛り上がったようには見えませんでした。なぜか?
確かに、社会は容易に変わらない。しかし、大きな嵐が来たとき、彼らは集団で脱出を試みる。社会的な危機は、変わらないことを変える意識を生むだろう、と。社会を描くのは人間の集団的な想像力です。
****
もっとSF小説を読むべきだ。
ジョージ・オーウェル 『1984年』 1949年
カート・ヴォネガット 『プレイヤー・ピアノ』 1952年
フィリップ・K・ディック 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』 1968年
もっと異なる社会を想像してほしい。学生たちは50年後の社会も観るはずだから。
リドリー・スコット 『ブレードランナー』 1982年
ジェームズ・キャメロン 『ターミネーター』 1984年
宮崎駿 『風の谷のナウシカ』 1984年
大友克洋 『アキラ』 1988年
押井守、攻殻機動隊 『ゴースト・イン・ザ・シェル』 1995年,『イノセンス』 2004年
****
グローバリゼーションやインターネット、プーチン=トランプの時代に、現実はSF小説のディストピアを凌駕してしまったのか?
民間軍事請負会社、傭兵たちによる戦争・・・ 少年兵、難民と人身売買、自爆テロ・・・ インターネットによるISへの勧誘、フェイクニュース
チェルノブイリや福島原発の事故と終わりの見えない処理過程
広島・長崎の核爆発・・・ 生物・化学兵器の使用・・・ オウム教団・・・ シリア内戦
「すべての爆弾の母」・・・ AI、ドローン、ロボットによる戦争、電磁波・サイバー攻撃
千葉市の誘拐・監禁事件・・・ 自殺サイトを利用した座間市の連続殺人・死体解体遺棄事件。
クローン、iPS細胞(人工多能性幹細胞)、ヒトゲノム解析計画
人種差別、白人至上主義、同性の結婚、性転換・・・ イスラモフォービア、原理主義、エヴァンゲリカル
****
もしシステムを変える要因を、少なくともその潜在的な発想を、学生たちが指摘したとすれば、それは新しい土地への移住・開拓、底辺層の発言・代議制による社会投資の組織化、巨大都市の改造に向かう可能性です。都市の辺境で火事が起きるだけでなく、それが強風で燃え広がるとしたら、あるいは、疫病が支配層にも多くの死者をもたらすとしたら、政治秩序も変わるはずです。
イギリスの産業革命と都市の貧困、普通選挙運動、侵略戦争と帝国建設、アメリカへの植民。
不平等を解消するには、もし政治が動かないとすれば、戦争、革命、疫病、飢饉による解決を待つしかなかった、とFTは古代社会の歴史研究を紹介しています。グローバリゼーションのもたらす成長の偏在と移民・難民の増加は、政治の管理能力を超えて進む結果として、同様の結末を準備しているはずです。
日本の歴史もそうではないか? 私は絵に追加しました。北京の環状道路、惑星ガザ、壁のある町、グローバル・シティ、世界都市ランキング・・・
IPEの想像力 3/28/16
http://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/Review2016/032816review_b.html
IPEの想像力 12/18/17
http://www1.doshisha.ac.jp/~yonozuka/Review2017/121817review_s.html
ベストセラーからアメリカを読む 渡辺由佳里「トランプ政権下でベストセラーになるディストピア小説」Newsweek 2017年02月28日
http://www.newsweekjapan.jp/watanabe/2017/02/post-27.php
******************************