*****************************

V

外国に行くと,いつも,泊まるところ,食べるもの,移動手段,に苦労します.この苦労を減らすには,駅の近くに朝食付きで泊まること,です(ただし,鉄道で発達したヨーロッパの都市!).駅には安い(しばしばセルフ・サービスの)食堂があり,さまざまな交通手段が集まり(とはいえ,ホテルには歩いて行きます),安いホテル(と朝食)があります.しかし,「治安」?は少し悪いかもしれません.だから,新しい町に,夜,はじめて着いて,一人で歩くのは止めたほうが良いです.

暗いレストランに勇気を出して一人で入ったけれど,注文に苦心した挙句,手のつけようがない(まずい)料理を大部分残したまま,席を立ったことがありませんか? ・・・ジュネーブでは,ホテルの近くに,シーフードの小さな(トルコ系?)レストランがあり,白身魚と野菜の巨大なサンドイッチ,それにスープを買って,部屋に帰りました.一度だけ,以前食べたムール貝のワイン蒸しがどうしても食べたくて,グランプラス近くで(もちろん,庶民的な)お店を探しました.あの,バケツ一杯?に山盛りになったムール貝を最初に食べたときの感動は,今なお忘れがたいです.

他方,ローザンヌには,私好みの,明るくて庶民的な,セルフサービスの食堂(ワニのマークのManora)がありました.外国で食べ物に迷ったら,チキンを食べろ,という私の鉄則(!)から,鶏肉のこんがり焼けたものと,ポテトや野菜,本日のスープ,パンなどを取って,レジで買いました.食べる場所は二階にもあります.前の通りを歩く人々やいろいろな自動車,バス(とその乗客)を見ながら,遠くの教会も眺めつつ,早めの夕食を楽しみました.

世界企業が展開するファストフード・チェーンだけでなく,世界中の町でエスニックな大衆食堂が利用できます.特に駅周辺には,こうした安ホテルと移民労働者,大衆食堂が集まっているのです.さまざまな宗教が教会やモスクを建て,テレビや新聞,雑誌が視聴者・読者を奪い合います.もはやヨーロッパ内では,パスポートを見せることも,貨幣を両替することもないのです.産業社会には労働力の需要と供給に対する(それぞれの時代の)条件があります.企業や国は互いに競い合って拡大し,あるいは利潤のために破壊します.ところが,国境を越えて人口動態には差があり,しかも所得水準が大きく開いたまま,政府は自国に都合の良い形で国境を管理できる,とその権利を主張しているわけです.

しかし,今も政府は,特に個々の政治家たちは,産業界や労働組合,地元の雰囲気に応じて,移民労働者を利用し,または,排斥・攻撃します.彼らは人口の減少を嘆き,病人や老人のケアに人手がかかり,食堂やホテルで働く人が足りず,技術者を奪い合い,年金や社会保障費の負担で財政がパンクすることを心配しています.しかし同時に,外国人を嫌い,すべて悪いものは外国から入って来た,自分たちの本来の文化や価値が破壊されている,などと主張します.

簡単に言えば(・・・単純化し過ぎかもしれませんが),これが「移民問題」です.

EUやILOだけでなく,これは経済発展なのだ,とインタビューの過程で何度か聞きました.人類の歴史はいつも移民を含んできた.これは「問題」ではなく「現象」だ.・・・ ヨーロッパの責任ある地位にある人たちは,一貫して,ナショナリズムが憎悪の過熱に向かう傾向を阻止するよう,意図的に発言し,理想を示す形で行動してきたと思います.今,移民に対しても,それが双方に利益をもたらすことを強調し,また,そうならねばならない,と力説します.そのために必要な法律や制度の改正,市場の改善,教育や対話の機会を充実するように努めています.

しかし,同時に,巨大な建築物や諸機関を見るとき,国際協力が,まるで宇宙コロニーの建設計画のように,縁遠い響きに変わります.私はおそらく,ジュネーブの駅から,歩いてILO本部を訪ねた最初の人間ではないでしょうか? 建物の入り口がどこにあるのか分からないし,なぜか,地上から接近すると,どこかで見たSF映画のように,誰もいない空間に取り残されてしまいました.そこは何かの会議があれば国際政治の華やかな舞踏会場になるでしょうが,会議がないときは,私的な見解を抑えた情報・研究システムと国際官僚制が巣を張る,コンクリートの断崖絶壁? ・・・のように感じられました.

将来,もしかしたら,小さな国際移住センターが各地にできて(ちょうど旅行代理店のように),世界中の雇用機会や暮らしぶりを紹介し,移住希望者や帰還者のために,受け入れ先の友人や支援ネットワークと連絡を取ってくれる時代が来るかもしれない,と私は期待しています.移民によって,いずれの社会も,政治システムも,試されているのです.もちろんそれは,人々が数ヶ国語を話し,宗教的にも寛容で,世界のどこにおいても実質的な所得格差は小さい,平和で水平的な世界の話です.

(・・・まだあります. → W )

******************************