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これも現代の神話かもしれません.行きの飛行機で観たSimpsonの漫画映画です.Simpson氏の町に,なぜか熊が出現します(あまり怖くない顔の熊です).通りを徘徊し,人々は恐慌に陥って,市庁舎に抗議のデモを行います(子供たちはどうなるの! と,ヒステリックに叫ぶ女性がいます).もちろん,市長は市民たちの前で演説し,熊を町に絶対入れない,と約束します.ベア・コントロール(Bear Control)体制の始まりです.町中でパトカーが警戒し,空ではヘリコプターが監視を続けます.

Simpson氏は自分たちの要求が実現したことに満悦至極です.ところが,税金の通達が届きます.通常の課税に加えて,月に5ドルのベア・コントロール・タックスが追加されていたのです.そんなバカな! アメリカ国民は怒り狂ってホワイトハウスを取り巻きます.大統領は常に,問題解決のための指導力,を求められるのです.

大統領は訴えました.これ以上の増税には我慢ならない.われわれがこれほど重い税金を支払っているのは,それを免れている外国人たち(非合法移民)が悪い.外国人を追放しよう! (子供たちはどうなるの! と,再び叫ぶ女性) こうして,外国人を追い出せ,という国民投票が提案されます.Simpson氏がその先頭に立ったのはもちろんです.近所の商店に,外国人追放に賛成,というポスターを貼りに行きます.しかし,店の主人Apo氏はインドからの移民で,アメリカの市民権を得ていませんでした.カルカッタ工科大学を卒業し,アメリカで学びますが,学費を返すために商店を営み始めたわけです.

あ,そうなの,と聞いて,Simpson氏はポスターを貼って帰ります.Apo氏は,子供が身分を偽って店に酒を買いに来たのを見て,自分もマフィアから偽のIDを購入することを思いつきます.インドの神は奥にしまい,アメリカ風に店を飾り直して,さあこれで自分もアメリカ人だ,と主張します.ところが,両親との約束や思い出が蘇えり,偽造IDを諦めます.

Simpson氏の娘は最初からApoに同情していました.Apoの嘆き悲しむ様子に,Simpson氏も変心します.自分たちのルーツもドイツであったと思い出し,祖父のアメリカに向けた情熱と希望を今の移民たちに見るのです.Apoが試験によって市民権を取得できる,と調べ上げた末に,家族でApoの勉強を助けます.その後,Simpson氏の熱烈な反対演説にもかかわらず,95%の支持で外国人追放の法案は成立し,非合法移民が追放されます.他方,Apo氏は試験に合格し,社会福祉事務所はどこ? という冗談を言いながら,インド系アメリカ人となったことを喜ぶのです.

私は日本政府が,どのような意図で日系人の入国を認めたのか,その移民政策を理解できません.彼らは日本にさまざまな希望を持って来るでしょう.そして,お金を稼ぐかもしれませんが,同時に,深く失望するのではないでしょうか? 言葉,子供の教育,雇用,将来への不安,・・・ 政治家たちは,こうした問題を無視した意味不明の移民政策に対して,今後,重大な責任を問われるはずです.

「何が正しい移民政策なのか?」

ブリュッセルで訪れたETUCには,事前にインタビューをアレンジできませんでした.しかし,どうしても話が聞きたかったので,受付でETUCの報告書を出して,何とかこの報告書に関して話を聞かせてほしい,と頼みました.北駅から歩いて,ようやく探し当てたITUCビルの受付の男性も,6thフロア(つまり7階)のETUCの受付女性も親切であったために,Ms. C. Passchierの承諾を得ることがでたわけです.「でも,短い時間ですよ」と言われながら.

私の予想では,労働組合は移民に反対する主要な制度的要因でした.しかし,ETUCの報告は移民を積極的に支持しています.彼女に聞きたかったのは,本当にこれで組合は合意できたのか,ということでした.「そうです,コンセンサスを得ました」と,彼女は答えました.組合は,当然,組合員の利益を第一に守らねばならない.しかし,どうすれば守れるだろうか? と.

彼女は明快に説明しました.もしETUCが移民を拒めば,移民たちは労働組合に組織されず,それでも流入するに違いない.移民を止めろ,と要求することはもはや不可能なこと(impossible policy)である.従って,彼女は,潜在的な組合員でもある移民労働者たちに,自分たちと同じ条件が守られるように,厳しく政府や雇用主たちに要求しなければならない,と主張しました.他方,移民を襲撃したり,移民の海外追放を要求するのは「愚かな政策(stupid policy)」である.どちらの政策も現実に対して無効であろう(組合員の利益は守れない),と.

私は,もう一つの移民政策について,ETUCもしくは彼女の意見を求めました.それは最近,相次いで採用されている,移民の選別・契約(一時)雇用政策です.良く知られているように,各国はIT技術者を求めて国際的に競走を始めています.また,言葉や教育・技能,資産などにより,移住希望者を選別し,自国の利益を図ることが「移民政策」として強調されます.これについて,彼女は「労働者の商品化(merchandizing)」であり,「非人間的な政策(inhumane policy)」である,と断罪しました.ETUCは,より賢明で人間的な政策,を求めているのです.

移民政策は人種差別を超えられるでしょうか? EESCで,最後に私はMr. P. Bromboに問いました.移民たちの声はどうやって反映されるのか? 移民たちはこの社会を変えるために参加できるのか・・・? すると,「それは重要な点だ」と認めて,自分たちも移民を参加させるために彼らと話し合いを続けている,と彼は述べました.しかし,移民自身がさまざまな出自やグループに分かれており,十分に組織化されていないのだ,と.それでも,彼らを制度に参加させる努力を続けるだろう,・・・と,そんな風に説明したと思います.

ETUCのMs. C. Passchierが示した答えは非常に簡潔です.「一緒に働くことです.」 同じ職場で仲間として働けば,人種差別は無意味であると分かるでしょう.さらに彼女は,労働組合も古いイメージを抜け出す必要がある,と強調しました.(温かいミルクティーを,マグカップでたっぷり頂きました.もっとお話を聞きたかったのですが,彼女の日程に割り込んだことを忘れず,私は30分余りで辞去しました.)

私は,多くの点で,IOMの谷村氏の説明に同意できました.豊かな諸国は,移民の必要性を認めています.しかし同時に,政治家たちはYesと言えず,移民を認めようとはしないのです.世界中で行われている「移民政策」はテクニカルなものであり,すべて過去の政策の焼き直しです.さまざまな政策が,それによる問題も示しています.移民に対してこれほど関心が集まるのも,移民が増えたことや,その重要性が認識され始めたことに加えて,「何が正しい移民政策なのか,誰にも分からないからだ.」 移民が今後も増え続けるのか,それとも,厳しい局面を迎えるのか.その可能性は半々ではないか・・・

いつか,国際移民体制は成立するでしょうか? 残念ながら,誰一人,積極的に肯定した人はいませんでした.まだ今は.

(次で,おしまいです. → X )

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