IPEの果樹園2013
今週のReview
1/21-26
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中国の社会変化 ・・・イギリスのEU離脱論 ・・・日本の経済政策:アベノミクス ・・・インド中産階級の怒り ・・・オバマⅡの外交政策 ・・・マリへの軍事介入 ・・・雇用への圧力 ・・・アメリカの銃規制問題
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP:
Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian,
NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington
Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして,The Economist (London)
l 中国の社会変化
BLOOMBERG Jan 10, 2013
Sexual
Denial Doesn’t Mix Well With Inequality
By William Pesek
中国の「一人っ子政策」が深刻な「女子不足」をもたらし,社会不安や近隣諸国からの女子輸入を生じている.習近平の指導部はこの政策を改革するだろうか? それが遅れるなら、アラブの春や,ブラジルのような犯罪社会の拡大につながる.
かつてヨーロッパが帝国主義的な膨張に向かった背景も,こうした人口の緊張状態であったかもしれない.
FP January 11, 2013
China's
Press Freedom Goes South
BY ANNIE ZHANG
VOX 11 January 2013
Growth
slowdowns redux: Avoiding the middle-income trap
Barry Eichengreen, Donghyun Park, Kwanho Shin
中所得水準に達した新興経済の成長が減速する問題について,関心が高まっている.特に中国の成長減速だ.以前の研究では,それが,初期の急成長,人口変化,投資率,為替レート,と関係あることを示した.高成長から低成長への転換を免れた韓国の経験が示すのは,成長を維持するカギが高等教育システムによる熟練労働者・技術者の育成と,技術革新の吸収である,ということだ.
NYT January 11, 2013
A
Cancer Cycle, From Here to China
By DAN FAGIN
BLOOMBERG Jan 14, 2013
Cayman
Islands Too Far Away? Just Build Your Own
By William Pesek
NYT January 14, 2013
Dim
Hopes for a Free Press in China
By XIAO SHU
中国最大の新聞の一つ,Southern Weekend,が検閲に反対してストライキを行い,当局が事前検閲を止め,編集部の独立性を拡大する,という妥協を示して再び発行された.新聞の価値は共産党への忠誠ではなく,報道のプロフェッショナリズムである,という姿勢を認めたのだ.
この数年間,社会不安と争議が増える中で,党は安定性の維持をますます重視するようになった.その一つは,メディアに対する統制の強化である.私は編集者として,共産党と対立することを目的とせず,バランスの取れた独立・中立性を目指してきた.それにもかかわらず,警告も説明も無しに,2011年3月に辞任を強いられた.それは北アフリカ・中東地域におけるアラブの春が中国に波及することを当局が強く懸念した時期だった.
調査報道と意見論説は,中国ジャーナリズムの証明であったが,党によって破壊された.しかし,Southern Weekendが高めた憲法順守の意識は,この先もジャーナリズムや国民に影響し続けるだろう.
BLOOMBERG Jan 15, 2013
In
China, Slowdown Is a Bigger Danger Than Growth
By Peter Orszag
Project Syndicate 16 January 2013
China’s
Antifragile Ambitions
Andrew Sheng, Xiao Geng
中国の改革には,政府が多くの難しい課題を達成しなければならない.すなわち,汚職,出稼ぎ労働者,技術革新,均衡成長,環境・労働の基準,社会福祉システム,が含まれる.しかし,システムが持続可能であるには,Nassim N. Talebの示した「ブラック・スワン」にも対処しなければならない.
すなわち,浮動性に耐え,ストレスや混沌にも強くなければならない.すなわち,システムが「反浮動性」“antifragile”を持つことだ.それはさまざまな形で余力を維持するように求める.中国のような巨大システムには特に欠かせない.行政は高度に集権化しているが,同時に,それは家族,市民社会,市場,政府のさまざまなレベルに関わる.
WP January 17, 2013
Chinese
media open up about Beijing smog
中国の新しい指導部は市民の間に高まる不満に応えなければならない.政府の公的メディアは,ソーシャル・メディアの示す不満,国民の要求に,事実上,屈して,大気汚染のデータを公表し始めた.これまでの沈黙を破る社説は,大気汚染が人々を窒息させる,汚れた,有毒のものであると認めた.
それは明白な事実だ.しかし,これまでアメリカ大使館だけが独自に観測データを公表していた.危険粒子の水準は755であり,アメリカの環境保護庁が認める危険水準は300以上である.WHOは500を,安全と見なす水準の20倍と認めている.アメリカ大使館はデータを公表しないように何度も要求されていた.
中国政府も,大気汚染を無視していたのではない.2008年北京オリンピックの前にもクリーン・エアを唱え,2015年までに,政府は大金をかけて首都の火力発電所を石炭から天然ガスに変えようとしている.また旧式の自動車やトラックを都心から締め出した.
それにもかかわらず大気汚染への強い不満は,急速な成長への疑問を生んでいる.成長は,汚染,不平等,汚職をもたらし,増大する都市中間層の不満を高めているのだ.先週,中国のマイクロブログには,憲法の遵守を訴えた週刊新聞への政府の検閲に対する不満が充満した.今や,彼らは大気汚染の緊急性と汚染をもたらした政策を論じている.
胡錦濤は,こうした声を弾圧した.それは続けられない.大気汚染を抑えなければ,習近平は北京の危機に直面する.
l イギリスのEU離脱論
guardian.co.uk, Friday 11 January 2013
Britain
can't pick and choose on Europe – we're either in, or we're out
Jonathan Freedland
FT January 11, 2013
UK
should welcome timely words from US
By Gideon Rachman
イギリスが,ヨーロッパの動脈硬化した経済構造と異質な政治文化に統合するのは無理だ,と彼らは言い続けてきた.むしろ,同じ英語を話すアメリカとの「特別な関係」を強調した.没落するヨーロッパではなく,隆盛を誇るアメリカとともに進むべきだ,と.
彼らの英雄はマーガレット・サッチャーである.サッチャーはレーガンと盟友関係を築き,ヨーロッパ統合に反対を繰り返した.
だからこそ,アメリカ政府や,ジャーナリストなど,多方面から,イギリスのEU離脱を憂慮し,冷静に振る舞うことを求める声が出たことは,彼らにとって大打撃である.アメリカ大使館の地下会議室で,ヨーロッパ担当のPhilip Gordon次官補は指摘した.EUを離れたイギリスには価値が無い.EUに留まるイギリスとの同盟関係が,アメリカにとって重要なのである.
アメリカの説明は明確かつプラグマティックである.イラン,中国,通貨,など,グローバル・イシューにとって,EUはアメリカのパートナーであり,イギリスが抜ければEUは弱くなる.また,イギリスはブラッセルにおいて,EUをより開放的に,また,大西洋同盟を重視した外交政策に向けて動く,真剣に語り合える国である.しかも,ユーロ危機の解決が内向きになることをアメリカは心配している.
キャメロンにとっても,アメリカの警告は国内の独立派を牽制する有利なカードである.彼の顧問は,暗黙に,オバマ再選を願っていた.
The Observer, Saturday 12 January 2013
Leaving
the European Union would be bad for Britain
Roger Carr
さまざまな感情論とは別に,われわれは事実を知っておくべきだ.イギリスはEU加盟国として5億人の人口を持つ単一市場にアクセスしている.イギリスの最大の輸出先だ.離脱は多くの二国間条約を必要とし,中期的に自由貿易を妨げ,輸出を減らすだろう.
EU加盟を前提に,イギリスは直接投資を引き寄せている.銀行でも産業でも,開かれた市場文化,技量,法の支配,弾力的な労働市場,使用言語,時間帯,などが重要である.イギリスはこうした点でヨーロッパ進出の足掛かりとなっている.EU離脱は,職場を損ない,国際関係を損ない,国民の富を損なう.
われわれは現在のEUが完璧であると信じてはいない.その官僚制やコストは,国際競争力を高める水準でなければならない.制度を整理し,規制緩和するべきだ.制度変化は続いている.われわれを抜きに,ユーロ圏諸国は変化しようとしている.
イギリスは,変化の触媒や先駆者になるべきだ.そのためにヨーロッパの同盟者を見出すことができる.イギリス文化,本能,経験は,変化を吸収するのに適しているはずだ.影響力を持つことで,EUの改善に参加すべきだ.離脱のために道を探すより,前進への道を探せ.
イギリスにとって,ヨーロッパの考え方を変えることは,優れた成長政策である.革新されたヨーロッパは世界貿易を増やし,持続的な成長を実現する.イギリスは島国であり,世界との貿易が富の基本である.
FT January 13, 2013
Business
must help Cameron in Europe
By Richard Lambert
FT January 13, 2013
It
does not really matter if Britain leaves
Wolfgang Münchau
イギリスがEUに留まる理由は,マクロ経済的なものではない.マクロ経済におけるEUの役割は非常に小さいからだ.しかし,EUがユーロの主要な市場を,ユーロ圏ではないロンドンに委ねることは,将来,許さなくなるだろう.
NYT January 14, 2013
Iceland
Puts E.U. Talks on Hold Ahead of Elections
By JAMES KANTER
アイスランドの社会民主党と緑の党による連立政府が,2008年の金融危機で中断されていたEU加盟交渉を再開した.しかし,ユーロ危機の長期化で,反対派の主張が勢力を得ている.
FT January 15, 2013
Britain
needs a European strategy
By Ian Davidson
何がヨーロッパに関する戦略的問題か? 第一に,ドイツ.第二に,距離と状況によるが,ロシア.第三に,政治的な正しさを意識すれば,アメリカ.
ドイツ問題とは,より巨大で,より強い,他のヨーロッパ諸国より豊かでパワーのあるドイツを扱う方法について,また,ドイツ自身のあり方について,戦略が必要になる.合意によるEUの意思決定は,誤解されているが,強者をより強くするものだ.たとえば,NATOを動かすのはアメリカである.
第二次世界大戦後,フランスはこの問題に間違った答えを出した.ドイツと,交渉によって,より緊密な関係を,条約で合意するほかに道はない,と考えたのだ.イギリスはこれに憤慨したが,周辺諸国も含めて,ロベルト・シューマンの石炭鉄鋼共同体に合意した.
シューマンのプランは,経済的なものではなく,終始,政治的なものであった.イギリス人の多くは,今も,EUが貿易自由化や経済的繁栄のためにあると考えているが,そうではない.独仏の政治同盟に,イギリスも参加するか,という問題だ.
FT January 16, 2013
Europe:
In search of a new deal for Britain
By George Parker
FT January 16, 2013
Passionate
European’s case for leaving
By Simon May
熱狂的なヨーロッパ人は,イギリスがEUを離脱することを歓迎する.すなわち,EUこそが戦後の政治プロジェクトとして最高の成果である,と考える人々だ.EUは,いろいろな欠陥もあるが,スイスのような連邦制になり,大統領を直接もしくは間接に選挙し,権限を持つヨーロッパ議会が支配するだろう.イギリス人は,そんなことが実現しないと思っていたから,支持したのだ.
なぜ連邦制を支持するのか? 独裁制に苦しみ,その記憶を失わない諸国では,EUが超国家的な法の支配や,独立した裁判所を意味する.ユーロ危機はその魅力を減じた.単一通貨はあっても,銀行同盟や財政移転はない.
イギリスの首相で,連邦制を支持した者はいない.EUが連邦制に向かうなら,なじみのない結婚を解消するのは当然だ.他方,イギリスのEU離脱に反対する主な理由は,ヨーロッパ単一市場と,国際政治における影響力,である.
イギリスが離脱しても,スイスと同様に,ヨーロッパ市場を利用できる.スイスは輸出の半分をEUに対して行う.イギリスの問題は,市場アクセスではなく,競争力である.ドイツと同じように,中国やアメリカの市場にアクセスできるが,イギリスの輸出は少ない.
離脱で影響力を失うか? 確かに世界貿易の交渉ではイギリスの影響力は小さいが,アメリカとのFTAのように,他の貿易圏は交渉を歓迎するだろう.他の問題では,イギリスがEUとともに制裁や介入に関与するだろう.
イギリスが対外的に重要な介入を行うときは,アメリカとともに行動した.アメリカがイギリスにEU離脱を思いとどまるように警告したとしても,だからと言って,ヨーロッパ最強の軍事同盟国であるイギリスに,イラクでも,シリアでも,イギリスからの支援は要らない,などと言うはずが無い.
ベルリンの壁が崩壊してから,ドイツが強くなり,フランスは弱くなって,すべてが変化した.ユーロ圏が縮小するか,しないかわからないが,EUは連邦制に向かう.ソ連の脅威がなくなったことは,その脅威によってまとまったはずのEUに,統合へのより強い圧力を生じた.
離脱後も,イギリスはアメリカとEUの同盟国である.中東和平に転換をもたらした1993年のオスロ合意をノルウェーが導けたのは,まさに独立国であったからだ.イギリスにもできる.
WSJ January 16, 2013
Cameron
in Europe
WSJ January 16, 2013
Britain
Is Sleepwalking Toward EU Exit
By HOLGER SCHMIEDING
Project Syndicate 16 January 2013
Britain’s
European Home
Martin Schulz
guardian.co.uk, Thursday 17 January 2013
Britain
needs reform in Europe, not an exit
Ed Balls
EUを離脱するのではなく,改革せよ.
FT January 17, 2013
Cameron’s
incurable European headache
By Philip Stephens
金融危機から5年経ったが,経済は回復せず,金融システムの再建もまだ進まない.近隣のユーロ圏が健全とはとても言えず,将来が見通せない.キャメロン首相の対策とは何か? イギリスのEU参加に関する国民投票を約束することだ.・・・何?
こんな振る舞いに,アメリカは警告し,中国も苦言を呈した.
キャメロンの誇張された,遅すぎる演説は,何の解決も示していない.それは戦略ではなく,苦痛に対する悲鳴でしかない.イギリスはEUと「新しい取極め」を結ぶ.ブラッセルから権限を取り戻しながら,単一市場は利用できる,という内容だ.保守党内のヨーロッパ嫌いに抵抗できないからだ.これは「19世紀の穀物法」,「20世紀の帝国特恵関税」だ,という論争が盛んである.トーリーは,国民のアイデンティティーと主権を譲らない.
EUにイギリスを追い出す気配はないが,メルケルは限度を示している.すでに多くの例外を認められているイギリスが,EUの基本的な法律に例外を求めるなら,出て行くしかない.
UK独立党は,EU離脱を主張する.しかし,EUを非難することと,離脱を主張することは,全く異なる.後者は繁栄と雇用を損なう.ところがキャメロンは,経済的苦境の言い訳に,ポピュリスト的な絶叫を利用したことで,離脱に勢いを与えてしまった.
ユーロ懐疑論者のチャンピオンであるマーガレット・サッチャーは,EUの将来を超国家機関であると考える者に容赦ない攻撃を加えた.しかし,そのレトリックの裏では,イギリスの国益を冷静に計算していた.彼女は統合の政治的本質を理解していたのだ.1975年に加盟のための国民投票で支持を求め,EU加盟がイギリスのパワーを強める,と説得した.EUは「世界に向けた窓」であり,帝国の無いイギリスは,それなしには閉ざされてしまう,と.
ドロールと激しく対立したときも,サッチャーは,イギリスがヨーロッパの中規模国家であるという現実を理解していた.イギリスの運命はヨーロッパの中にあり,共同体の一部である.サッチャーの自称後継者たちは,それを理解できない.
l 日本の経済政策:アベノミクス
FT January 11, 2013
Japanomics
strikes a revolutionary note
By Peter Tasker
東京が突然,注目を集めている.15年間,日本は問題を解決できなかった.今,その方針を転換する.
新しい首相,安倍晋三がインフレ政策に成功すれば,それは世界の金融危機後の政策にも影響するだろう.日本は,史上最大規模のバブルを生じた.ピークにおいて,東京市場が世界全体の株式市場評価額の半分を超えるまでに膨張した.その破裂後,弱い成長とデフレを続け,現在の名目GDPは1992年を下回る.
それにもかかわらずマクロ経済政策は引き締め気味である.財政状態が悪化して,野田前首相が増税を決めている.ヨーロッパで起きているように,社会支出が財政赤字を増やした.金融政策も成長を刺激しない.日銀のバランスシートは2005年に比べてそれほど拡大していない.その正統的な金融政策も慎重で,短期国債を買って流動性を供給することに概ね限られる.
日銀が投資家たちに説明していたのを聞いたが,インフレに関しての説明は「人口減少」だった.デフレは日銀のせいではなく,日本の女性が子供を産まないことが悪い,というわけだ.
15年前に,Milton Friedmanは,10年に及ぶ日銀の無能さを経済停滞の原因に挙げた.また,デフレ状態では,名目低金利は金融緩和ではない,と断言した.日本の政治家たち,そして安倍首相は,そのメッセージを聞いたのだ.財政刺激策を復活させ,特に,攻撃的な金融政策を主張した.すなわち,日銀の独立性を否定し,インフレ目標を政府が指定し,円安を要求した.
それは従来の二つのタブーを破るものだ.一つは,競争力を維持する為替レートを介入によって実現すること.もう一つは,中央銀行の独立性を奪うこと.前者は,スイスも,韓国もやっているが,G8では日本だけだ.後者は,バーナンキもドラギも微妙な形で政治的要求に配慮している.
金融政策は,債権者と債務者の間で,また老人と若者の間で,分配に影響を与える.それは政治的であることを免れない.また,あらゆる官僚制度がそうであるように,日銀も自分たちの権威と影響力を強めることにこだわる.
アベノミクスが不安よりも賞賛を呼ぶとしたら,輸出企業の世界市場シェアが回復し,税収が増え,株価が上昇し,多年に及ぶ強気相場が実現して,国債価格の暴落を予言する者がマヤ文明の預言者と同じだった,とわかったときだろう.
FT January 11, 2013
Japan’s
latest stimulus
FT January 13, 2013
Tokyo’s
stimulus
NYT January 13, 2013
Japan
Steps Out
By PAUL KRUGMAN
先進世界の経済政策は,この3年間,高い失業率にもかかわらず,憂鬱な正統派の考えに拠って機能マヒしている.財政刺激策は,債券市場によって罰せられる,紙幣を印刷すれば,インフレ率が急騰する,という「あまりにも真面目な人々(VSP)」“Very Serious People”が何もするなと主張するからだ.その結果,そのうち成果があるのを期待して,愚かな緊縮策にしがみついている.
しかし,今,そのもっとも期待されていない国から新しい政策が登場した.・・・日本だ.
自国を破滅に導いた「恐竜」と言われた自民党が復活して,首相となった安倍晋三が,莫大な債務と人口高齢化にもかかわらず,経済停滞を終わらせるために財政刺激策と金融緩和を打ち出した.正統派が「してはならない」という政策だが,その結果を見れば,端緒においては好調だ.
2008年の金融危機を経験した欧米諸国にとって,日本の停滞は貴重な予行演習(dress rehearsal)であった.今や,日本は停滞脱出の政策をも示す可能性がある.ギリシャになるぞ,という警告は,アメリカのように自国通貨を発行できる国にとって無意味である.むしろ,日本こそが意味のあるモデルだ.日本が,その債務にもかかわらず,金利を上げることなく財政刺激策を採れるのであれば,アメリカ政府も学ぶべきだ.
安倍のインフレ・円安政策は,すでにインフレ期待を生じてデフレを逆転し始めている.インフレは財政状態を改善し,円安も輸出企業にとってプラスである.
安倍の外交政策は非常に悪いし,自民党の政治が予算の奪い合いでしかない,というのは正しいかもしれない.しかしそれは,伝統的な見解を打破してマクロ経済政策を是正することと関係ない.彼の動機が何であれ,間違った正統派を破壊する.
NYT January 13, 2013
Japan’s
Latest Economic Transfusion
FP JANUARY 14, 2013
Rising
Sun
BY ROBERT DUJARRIC
ずっと前からガス欠になった日本経済に活気を呼び戻すため,安倍政権は1170億ドルの財政刺激策を決めた.バブル破裂後,日本は経済的な破局を避けて,欧米に比べれば,安定した社会状態を維持している.しかし,60年代・70年代・80年代の成長期から見て,経済の衰退は明らかだ.
日本の財政刺激策は,これまでの失敗した政策がそうであったように,社会システムの構造的な問題に手を付けない.女性,移民,保護された寡占企業・農業の非効率さ,である.Paul Krugmanは,それでも,日本の復活を歓迎する.
国によってパワーの源泉は異なる.北朝鮮の核兵器,イランの宗教的情熱,サウジアラビアの原油,など.アメリカには,軍事,経済,技術,教育,イデオロギー,というパワーの源泉がある.中国は,経済成長,攻撃的な軍事・政治姿勢,膨大な人口だ.
日本には,経済しかない.軍事も,ソフトパワーも,お粗末だ.経済に関してのみ,たとえば,貿易より直接投資で,今も中国に対抗できる.日本,そして安倍内閣にとって,経済の復活が何より重要なのだ.
日本の支配層は,アジアのイギリスになりたいわけでも,アメリカと一緒にイラク戦争を始めたいわけでもない.まして,日本帝国に戻りたいわけでもない.日本経済が復活すれば,中国も,アジアで指導的立場を独占できないことを知るだろう.
FT January 15, 2013
Japan
should rethink its stimulus
By Adam Posen
財政赤字の能力が尽きるとき,何が起きるのか?
「壁に衝突する」“hitting the wall”イメージでは,ある点を超えれば財政に対する信頼が崩壊し,金利の上昇,通貨価値の急落,パニックに至る.このシナリオは,外貨建ての公的債務が大きい,政治的危機を生じた国の場合だ.
日本の公的債務は過剰だが,円建である.20年間で,GDP比,60%から220%まで膨張した(政府の真の純債務は130%であろう).その間,日本は不況と回復,また不況を繰り返したが,金利は2%を下回ったままであり,円の対ドル・レートも130円から78円に増価した.そして,この数か月で89円に戻った.
これほどの債務があっても,日本が危機を免れてきた理由は4つある.1.日本の民間銀行が国債の購入を促された.2.それを支えるため,日本の預金者が低金利を耐えた.3.国債の外国人保有率が低く,日銀が購入を強いられたため,市場圧力が生じなかった.4.GDPに占める政府支出と税収の規模が低かった.
これらの要因は,危機を回避したが,日本経済にコストをもたらしている.すなわち,国債購入に頼る銀行は融資を望まない.特に,回復期も中小企業は借入れに苦しんだ.高齢者の貯蓄に対する低金利は消費を抑え,デフレとの悪循環を生じた.外国からの市場圧力が働かないまま,円高と株価低迷に苦しみ,経済をゆがめた.医療の整備や災害からの復興に必要であった公共投資が,国債の維持コストによって締め出された.
1990年代,私を含むエコノミストたちが,日本に強い刺激策を求めた.その前提とは,1.厳しい不況が金融システムの安定性を脅かしていた,2.当時の財政政策が引締めであった,そして,3.公的債務の水準は低く,短期の刺激策が他の公共投資や民間投資をクラウド・アウトしなかったことだ.実際,2003年半ばには刺激策を終え,景気回復が起きていた.
しかし,安倍の新しい財政刺激策には問題がある.それは財政が破たんすることでも,非効率なことでもなく,日本の真の問題を是正せずに,むしろ悪化させるからだ.日本はデフレと円高に戻るだろう.
安倍首相と,顧問の浜田宏一が,日銀による広範な資産購入を通じた金融緩和を求めるのは正しい.それは効果があるだろう.しかし,景気循環に対応しない財政政策を続けることは,ヨーロッパのように緊縮し続けるのも,日本のように規律を無視して刺激し続けるのも,深刻な結果に至る.
自国通貨を持つ大規模な国の場合,「壁に衝突する」ことはない.しかし,財政赤字の限界を超えると,活力が失われ,景気回復しない状態になる.
SPIEGEL ONLINE 01/17/2013
Atavistic
Abe
Japan's
PM Courts Old Dangers
By Wieland Wagner
Project Syndicate 17 January 2013
The
Wrong Growth Strategy for Japan
Martin Feldstein
安倍晋三が率いる日本の新政権は自滅するだろう.財政刺激策は,日本政府や企業の優位を支えた低金利を破壊するからだ.
日本の金利は,10年物国債で観た場合,1%に満たず,その効率の債務依存(GDP比230%),財政赤字(同10%)にもかかわらず,世界最低である.経済が停滞しているから,債務依存度は毎年10%増える.
それは安倍によって終わる.安倍政権はインフレと円安を目指し,日銀に金融緩和を求め,総裁人事を行うだろう.金融市場は反応している.政府は,インフレによって実質債務を減らすことも望むだろう.市場はそれを恐れて,実質金利を上昇させている.
長期金利が急騰して実質経済を破壊する,と白川総裁は冷静に警告した.長期金利上昇(国際価格の暴落)は家計の資産を破壊し,消費を挫く.社債や銀行融資の金利も上昇し,投資が減る.
インフレや円安が無くても,近年,日本の国内貯蓄は急速に減っており,経常収支黒字も急激に減っている.経常収支が赤字になり,円建の国債で財政赤字を賄えばくなり,ドル建など,外貨建の国債を発行するだろう.
安倍は,GDPの2%に当たる1200億ドルの財政刺激策を決めたが,なぜ安倍とその顧問たちがこの政策でGDPを持続的に2%増やせると信じたのか,わからない.
選挙の公約通りに10年間で200兆円の公共投資を行うなら,刺激策はもっと大きくなる.債務と金利に及ぼす影響は,計り知れない.
l ガイトナーの遺産
guardian.co.uk, Friday 11 January 2013
Wall
Street thanks you for your service, Tim Geithner
Dean Baker
ガイトナーは財務長官を退任するが,その仕事はメッテルニヒKlemens von Metternichに匹敵するだろう.メッテルニヒは,ナポレオン戦争後のヨーロッパにおいて,旧秩序(王朝・帝国)を再建し,民主化運動を弾圧した.
大恐慌Ⅱが回避できたのは幸運によるものではない.大恐慌Ⅰも,金融危機における決定が間違っただけでなく,その後の政策を間違い続けた結果である.1941年に第二次世界大戦が始まるまで,10年間,大規模な財政刺激策は何も行われなかった.われわれは金融崩壊からの回復方法を学んでいるが,それを実行する政治的意志が問題である.
アルゼンチンのケースはそれを示している.2001年12月に金融崩壊した後,3か月間はフリー・フォールを続けたが,2002年第2四半期に安定化した.その年の後半には回復し,2003年半ばに危機前の水準に達した.2008年の世界金融危機により止まったが,2009年後半まで力強い成長を続けた.われわれの経済がアルゼンチンよりも弱いと思わないなら,大恐慌Ⅱと比べて改善と評価するのは間違いだ.
NYT January 12, 2013
Fight
for the Housing Trust Fund
guardian.co.uk, Sunday 13 January 2013
Jack
Lew, Tim Geithner: the treasury's new boss, same as the old boss
Charles Ferguson
VOX14 January 2013
A
better way to design global financial regulation
Viral Acharya, T Sabri Öncü
NYT JANUARY 17, 2013
The
Legacy of Timothy Geithner
By SIMON JOHNSON
ガイトナーが,NY連銀のトップにいたとき,「大き過ぎて潰せない」金融機関を作った.
VOX 17 January 2013
Have
we solved 'too big to fail'?
Andrew G Haldane
VOX 17 January 2013
Capital
controls: Gates versus walls
Michael W Klein
IMFは資本規制に関する考え方を変えた.しかし,資本規制には二つのタイプがある.長期持続的な壁('Walls', long-standing capital controls)と,緊急避難的な検問所('Gates', episodic controls)である.「検問所」は中期的に成長や通貨価値に影響しないが,「壁」には効果がある.「壁」が有効であるためは,制度に投資しなければならない.
(後半へ続く)