IPEの果樹園2012
今週のReview
12/3-8
*****************************
イギリスのEU離脱 ・・・政治家リンカーン ・・・コンゴとルワンダ ・・・株価と人口問題 ・・・ガザ紛争の意味 ・・・日本の選挙と経済・外交問題 ・・・ユーロ危機の終わり方 ・・・エジプトの権力 ・・・シリア内戦の重要性 ・・・債務国の破産処理 ・・・イングランド銀行総裁 ・・・グローバリゼーションと不平等 ・・・中国の改革
[長いReview]
******************************
主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP:
Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian,
NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington
Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)
l イギリスのEU離脱
NYT November
22, 2012
Britain’s
Place in Europe
イギリス政治には間歇的な反ヨーロッパの情念が以前から繰り返して生じていた.1973年の共通市場にも,20年後のEU統合の高度化にも,反対する者がいた.
しかし,債務危機と不況が起きてからは,その動きはEU離脱を目指す危険なものになった.このままでは2015年に国民投票が行われ,イギリスはEUを離脱する可能性が高い.
EU離脱は重大な失策になるだろう.それはイギリスが支配する帝国との取引が主流であった時代への憧憬に流されているにすぎない.27か国が加わるEUは,イギリスの貿易額の半分を占め,最大の取引相手である.
確かにEUには失望する点が多い.官僚制度も,農業補助金も,移民流入も,イギリスには不満だ.不十分な準備と制度によって導入されたユーロにも欠陥がある.この1年で,ドイツのメルケル首相は,他のユーロ圏諸国を不況に追いやるような硬直した法律を定めさせた.
しかし,だからこそイギリスはEUに留まって改革を求めるべきだろう.イギリスは,ドイツとフランスに次ぎ,EUの市場に影響力を持つ第三の大国である.自由貿易を求め,連邦化を阻むことができる.
イギリスも,EUも,互いを必要としている.
FT November
23, 2012
The
trillion-euro question must wait
The
Guardian, Sunday 25 November 2012
A
brief glimpse of a better Europe, then back to reality
Jackie Ashley
確かに,EUは独仏の鋼鉄の同盟から生まれた.イギリスの政治家たちは,右から左まで,イギリスがもっとドイツのように産業を重視しなければならないと主張している.もしEUにドイツも,ポーランドも,オランダも,北欧諸国も参加しているなら,イギリスが離脱することは問題外だったし,ユーロも採用したであろう.
たとえユーロ圏の外からでも,イギリスがドイツを支持すればドイツには大きな力になり,イギリスがEUの交渉に残ることをドイツも望むはずだ.Timothy Garton Ashが示唆したように,イギリスが外交・安全保障の中枢を担い,独仏が経済の中枢になる,という二極型のEUを目指す合意も,今はまるで実現する余地が無いように見える.
特に,キャメロン首相もヘイグ外相も,筋金入りのEU懐疑論者であるから.彼らは,イギリスの道を間違う恐れがある.彼らの背後には議会のEU離脱論者たちがいる.キャメロンもその信条で生きてきた.そして,国内政治においてUkip(イギリス独立党)の反EU強硬論に脅かされている.
FT November
25, 2012
Britain’s
bluster serves the eurozone well
By Wolfgang Münchau
EUの予算をめぐって多くの国が交渉に参加している.奇妙なことに,そのわずかな額にはふさわしくない多くの時間と関心を向けている.
1兆ユーロの予算案,という見出しに驚くのは間違いだ.それは7年にわたって支出される.その間のEUのGDPはおよそ100兆ユーロである.しかも,交渉されているのは,その3%である.EUのGDPに対する0.03%をめぐる,EUマクロ経済にとっては意味のない争奪戦だ.
逆に,ユーロ圏の危機は実際に貨幣を失い,実物経済に深刻な影響を与えている.EUの指導者たちは,この問題を解決することに集中するべきだ.
イギリスのキャメロン首相はEU予算の凍結を主張した.EUは,2020年のアジェンダも,成長策も,止めることだ.唯一,制約された単一市場の改善に取り組む.「単一市場」という大げさな主張は,サービス部門,金融,エネルギー,防衛産業,などを排除している.それは晩餐会の後のテーブルトークに役立っているだけだ.
EUからの離脱条件は自由に交渉できる.EUの中(イギリス)でも,外(ノルウェー)でも,何が違うのか? イギリスは離脱後も,EUに居住し,働き,その価値がある単一市場の部分に参加する権利を保持するだろう.
EUに残る機能はたった二つだ.一つは,ユーロ圏の法・制度を完成し,危機をどうにか乗り越えることだ.銀行同盟,労働やサービスの市場開放,財政同盟,などが行われ,マクロ経済の安定化にも役立つようになる.もう一つは,将来のユーロ圏加盟を準備する国に対する受け皿だ.
その意味では,EU離脱だけを騒ぐのではなく,EU内ユーロ圏,EU内ユーロ準備,EU外,の三つの位置を選択することができる.
ユーロ圏の意思決定が重要になれば,EU内ユーロ圏外の生存圏は維持できないだろう.それは外交や安全保障でも言えることだ.だからキャメロンの提案には理由がある.EU予算などに時間を費やすより,ユーロ圏を完成せよ.
FT November
25, 2012
Time
for shadow boxing in Europe is over
By David Davis
EUには顕著な問題がある.一つは,不合理な受益国だ.たとえばポーランドを見よ.世界で20番目の経済規模を持ち,危機後の不況をうまく回避した唯一の国であるのに,EU財政で最大の受益国である.
第二に,意思決定メカニズムだ.合理的なシステムでは,デフォルトは行き詰まりを意味し,それゆえ合意を急がせる.ところがEUでは,条件付きの多数決で,受益国が連携して合意を止めてしまう.
第三に,ユーロ圏の内部では競争力の不足を為替レートで修正できない.
イギリスは,国民投票によって本当に離脱する,という条件を梃に,EUを変える交渉を強化する.
l 政治家リンカーン
NYT November
22, 2012
Why
We Love Politics
By DAVID BROOKS
われわれは政治を嫌う風潮に生きている.特に若者たちは,政治を水準の低い,汚れて,腐敗した,通常,成果のない仕事である,と考えている.
そう思う人は皆,スティーブン・スピルバーグの映画『リンカーン』を観るべきだ.この映画は,政治の高貴な姿を,正しい方法で,描いている.
政治は正しいことを行うが,それは,目的のためにあなた自身の価値を損なう覚悟が要る.騙したり,妥協したり,つかみにくい,偽善者になることもある.政治は,崇高なビジョンと,低俗な狡猾さとの,結合物である.
政治が高貴であるのは,公共の善を得るために個人的な妥協をともなうからである.映画は,慎重な,自己に厳しい,その仕事をなすに十分な野心と屈強さを備えた人々を,自制的に描いている.
スピルバーグが描くのは,南北戦争の犠牲者を減らすための和平の妥協であり,憲法修正の過程で,権利の平等という核心を活かすために,他の諸問題では妥協し,絶えず人々に説得や勧誘や甘言を行ったリンカーンの姿である.
WP
November 27, 2012
Politics
with a purpose
By Michael Gerson
l コンゴとルワンダ
The
Guardian, Friday 23 November 2012
End
the impunity of Congo's war criminals
Navi Pillay
先月,コンゴ東部の都市,ゴマを支配する勢力が変わった.M23運動である.それは名前が変わっても,歴史を繰り返している.過去20年で,世界が経験したもっとも野蛮で悲劇的な状況だ.
豊富な資源と肥沃な土地があることで,コンゴ民主共和国内のこの土地は,長期の紛争循環を経験してきた.内外の武装勢力を率いる野蛮な指導者たちが,反乱軍や政府軍の中からも兵力を集め,子供兵士を利用し,利益の上がる土地を占拠する.その主要な手段は,テロ,レイプ,極端な性的暴力,何百万もの人権蹂躙,である.
その一つの典型が,1996年10月,the Alliance des Forces Démocratiques pour la Libération du
Congo-Zaire (AFDL)が関わった東部のキブ地方における難民キャンプの破壊であった.のかにも,the Rassemblement Congolais pour la Démocratie (RCD),the Congrès Nations pour la Défense du Peuple
(CNDP)が,多くの襲撃事件に関わっている.
FT November
28, 2012
Reining
in Kagame
SPIEGEL
ONLINE 11/28/2012
Driven
by Greed and Hatred
A
Rebel Group's Quest to 'Liberate' Congo
By Jan Puhl and Thilo Thielke
FP
NOVEMBER 29, 2012
Rwandan
Ghosts
BY JASON K. STEARNS
ベンガジの大使館襲撃事件について,次の国務長官候補として,スーザン・ライスの対応が論争になるのは残念なことである.彼女がメモを読んだ程度でしか関わっていないのであれば,この事件よりも重大な過去の経歴を検討するべきだろう.
彼女がアメリカの中央アフリカに対する政策に関わったことはその中でも重要な事例である.1993年から2001年,彼女はルワンダの虐殺,その後の事件,ブルンジの暴動,コンゴ民主共和国における2度の破滅的な戦争,に関するアメリカの対応に関わった.
ルワンダにおける虐殺について,国際的な介入が行われなかったことを責められた.それゆえ,その後,逆に介入の積極論者に変わった.そして,ルワンダの平和と復興に成功したカガメ大統領の残虐な報復やコンゴに対する侵略については,見逃す結果になった.
l 株価と人口問題
FT November
23, 2012
The
population conundrum
By Norma Cohen, Demography Correspondent
危機は過ぎても,1980年代,90年代の株価上昇は戻らない.人口動態が変化するから.1982-99年の株式ブームは,第二次世界大戦後のベビーブーム世代が担った.彼らが労働者であり,貯蓄を増やしていた.
これからは違う.彼らは急速に引退し始め,労働者も社会も高齢化し,貯蓄を取り崩す.
工業化された経済が急速に高齢化するとき,何が起きるかを知りたければ,日本を見ればよい.日本の出生率は急激に低下し,移民の純流入は実質的にゼロであり,寿命がどこの国よりも延びている.日本の株価は1980年代末にピークに達して,それは労働人口がピークに達したのとほぼ同時であったが,その後はずっと萎縮してきた.
アジアに救いを求める者は失望するだろう.中国の高齢化はすぐ後に続く.
成長の新しいモデルや社会政策が人口動態の変化に立ち向かうが,その答えは何か,模索が続いている.
l ガザ紛争の意味
NYT November
23, 2012
America’s
Failed Palestinian Policy
By YOUSEF MUNAYYER
パレスチナ人の160人以上,イスラエル人の5人の死者を出し,イスラエルの安全が得られたわけではなく,パレスチナ人の希望がかなう見込みもない.
アメリカの政策は,パレスチナ人とイスラエルに何を意味したのか? パレスチナ人にはヨルダン川と地中海の間に,領土の22%を占めるパレスチナ国家を約束し,イスラエルとの仲介者を名乗ったが,イスラエルは入植地の拡大を止めようとしなかった.
パレスチナ人の忍耐は失われていった.アメリカの和平とは,イスラエルの植民地拡大を許す口実に過ぎない,と.
WP
November 23, 2012
Why
was there war in Gaza?
By Charles Krauthammer
なぜイスラエルとガザは戦争するのか? ハマスと,多くの国際メディアは,「占領」への「抵抗」である,と伝える.
・・・占領? 7年前,イスラエルはガザから完全に撤退した.すべての入植者を,すべての兵士を引き揚げ,すべてのユダヤ人が撤収した.そこにはガザ経済に有益なものとして,入植者たちが営んだ,輸出用のフルーツや花のグリーンハウスだけが残された.占拠したパレスチナ人に壊されたが.
イスラエルは史上初のパレスチナ国家を樹立したに等しい.それはイスラム教徒の仲間もしてくれなかった.完全に独立したパレスチナ国家を与えるだけで,イスラエルは何も代償を求めなかった.平和のために土地を譲ったのだ.
しかし,平和は得られなかった.ガザのパレスチナ人はイスラエルの行為に報いるより,選挙でハマスに権力を与えた.彼らはイスラエルを消滅するための武力闘争を掲げ,いかなる停戦も次の攻撃を準備するものであると考えた.
ハマスは自爆テロを起こし,イスラエルが防御壁を築けば,ロケットを発射した.ハマスは最近の地域情勢の変化から戦略上の優位を得ている.
BLOOMBERG
Nov 23, 2012
Iran
and Egypt Won in Gaza
By Marc Champion
イスラエルとハマスは,ともに勝利を宣言したが,彼らは敗者である.むしろ,イランとエジプトのモルシ大統領が勝者である.
モルシ大統領は,さまざまな関係者への影響力を行使し,特に,イスラエルのさらなる侵攻を阻止して,停戦に合意させ,国内における権力も新憲法で大幅に強化する.
YaleGlobal,
23 November 2012
Gaza:
Old Struggle, New Realities
Rami G. Khouri
FP
NOVEMBER 23, 2012
Life
inside the Iron Dome
BY JAMES TRAUB
NYT November
25, 2012
Support
Palestinian Statehood
By YOSSI BEILIN
イスラエルを認めないハマスは,たとえ停戦合意で政治的な支持を高めても,和平の交渉相手にならない.
アッバスは,イスラエルを排除してではなく,イスラエルと並んで,パレスチナ国家の樹立を国連総会に求める.アメリカがこれに反対することは間違いだ.それはアッバスの権力を完全に失わせ,イスラム過激派に勝利をもたらすものだから.結局,65年前の同じ週,1947年11月29日に,イギリスの旧統治領パレスチナにおいて,ユダヤ人の国家を樹立することが,国連総会で決議されたのだ.
パレスチナ人の訴えがオスロ合意に反する,という主張は間違いだ.オスロ合意にはパレスチナ国家が含まれていない.アッバスは,もし国連総会がパレスチナ国家を認めるなら,前提条件なしに,イスラエルと交渉しても良いと考えている.それは,国際的に認められた,二つの独立国家間の交渉である.
WP
November 26, 2012
Lessons
from Gaza
By Jackson Diehl
BLOOMBERG
Nov 26, 2012
How
Palestinians Can Finally Achieve Independence
By Jeffrey Goldberg
WP
November 29, 2012
Falling
for Hamas’s media manipulation
By Michael Oren
WP
November 29, 2012
What
will Palestinians do after the U.N. vote?
l 日本の選挙と経済・外交問題
Project
Syndicate 23 November 2012
Kowtow
or Cooperation in Asia?
Yuriko Koike
中国を包囲してはならない.そのような懸念を抱いたとき,中国は戦争に訴えた.アジア諸国が,アメリカと中国との間で指導国を選択しなければならい,というのは間違いだ.
共通の目的を分かち合っているという感覚だけが,この地域の軍事化を避けられる.しかし,アメリカはTPPから中国を排除し,中国はアメリカと日本を含まないASEANとの貿易圏を構築しようとしている.
各国がいかなる政治体制を採るとしても,すべての国が安全保障と共通の利益を実現することを歓迎する.この外交的なリアリズムに従って,ゼロサム・ゲームではない地域統合が成果を上げることは,ヨーロッパが示している.
アジアは海洋資源に関する共通利益を認めることだ.
November
26, 2012 chinadaily
Japan
election adds risks
By Wang Ping
NYT November
26, 2012
Good
Neighbors, Bad Border
By STEPHEN R. KELLY
東シナ海の無人の岩礁をめぐって,中国における抗議の広がりとともに,自動車が叩き壊された.アメリカとカナダの間にあるMachias Seal Islandも,230年以上,両国が領有権を主張している.
この島には資源が無く,領有権が明確でないから漁も行われないためエビが増えただけである.そしって,エビの価格は安い.だから,国際裁判所が妥協を行う政治的なメンツの維持に役立った.
他方,日中間の領有権紛争には関係する重要な資源問題があり,国家の威信がある.
BLOOMBERG
Nov 26, 2012
Facebook
Needs a Dislike Button for Abe’s Ideas
By William Pesek
来月,日本の総理大臣になるだろう人物,安倍晋三は,ソニーとパナソニックをジャンク債にしただけでは飽き足らず,円も同じようにクズになる方が良いと思っている.
2006-07年,最初に首相となった安倍は愛国教育と軍事問題をテーマとした.次に首相となるときは日銀を改造する.政府が日銀の総裁を含む3つの主要ポストを指名できるようにすることで,国債を無制限に購入させる仕組みができる.これでデフレは解消する,というわけだ.
しかし,彼はデフレが経済停滞の原因であると見ており,その兆候にすぎないことを理解していない.日銀を中国人民銀行に変え,戦前のアジアやアメリカと戦争するための仕組みに戻すことが,日本経済を復活させるわけではない.
むしろ,日本政府が負う債務がGDPの2倍にも近いことを想うなら,わずかな金利上昇でも日本経済が破たんすることを知るべきだ.安倍の言動は既に日銀の信用を脅かしている.極端な円安が進めば,震災後,ますます原発より外国からのエネルギー輸入に依存するようになった日本がどうなるかも分かっていない.
日本の政治家には珍しく,安倍はFacebookに登場し,自分の金融政策についてlikeボタンを多くのエコノミストが押している,と言う.このまま彼が首相になる前に,Facebookはdislikeボタンを付けるべきだ.
FT November
27, 2012
Japan’s
nationalism is a sign of weakness
By Joseph Nye
12月16日の選挙で,もし世論調査が正しければ,日本の首相は野田から安倍に替わる.6年間で7人目の首相となる.
日本の世論は右に,よりナショナリスティックな方に傾いている.安倍晋三は最近も靖国神社に参拝し,尖閣諸島問題を刺激した石原慎太郎は日本が核武装すると発言した.「維新の会」を作った橋下徹も右に向かう.
こうしたことを中国政府は強く警戒している.私は最近中国の指導者たちと会い,尖閣諸島に関するアメリカの立場を説明した.その際,中国側が強調したのは,日本政府の尖閣諸島購入がカイロ宣言・ポツダム宣言による第二次世界大戦後の合意を破った,ということだった.
確かに,日本人の多くは軍国主義を望んでいないだろう.日本の政治家の中には,ナショナリズムが高まることを,軍国主義ではなく保守主義であるから,政治や経済を改革するうえで好ましい,と見ている者もいる.しかし,日本が国際的な地位を下げていることではなく,あまりにも弱く,内向きになっていることが問題である.
日本が国際的な役割を積極的に果たすより,反動的な,ポピュリストたちのナショナリズムに転換することは,日本にとっても世界にとっても不幸である.国連や海外援助への貢献,日本の消費市場は中国の2倍も大きい.他方,日本の若者のアメリカ留学は半減した.
国内の政治改革のために穏健なナショナリズムは有効かもしれない.しかし,中国でもナショナリズムは高まっている.漁船の集団によるゲリラ戦で尖閣を奪ってしまう,と考える軍人もいる.それが中国政府の考えではないが,日中のナショナリズムは相互に強め合っている.
FT November
28, 2012
Japan
must revitalise its central bank
By David Pilling
イギリスがイングランド銀行の総裁にカナダ人のMark Carneyを指名したように,日本銀行の総裁にはイングランド銀行の副総裁で,総裁候補であったPaul Tuckerが就くべきだろう.15年に及ぶデフレを解決できない日銀には,新しい発想が必要だ.
しかし,次期首相になるだろう安倍が新しい発想を示した.すなわち,政府がインフレ目標を決めて,おそらく3%,日銀総裁も指名し,その目標が達成できなければクビにする,というものだ.そのためには,日銀が「無制限な」金融拡大を行うだろう,と.
日銀の独立性を奪うのは大いに非難されているが,その考えには多くのメリットもある.なぜなら,日銀はこれまでデフレを悪と見なさなかったし,インフレ目標に強く反対してきたからだ.デフレ的な情勢では金融政策の効果が無く,インフレ目標は達成できない,という理由である.また日銀は,政府が増税や支出削減,産業のリストラといった,厳しい選択を避けるようになるから,という理由で政府への直接融資を拒んできた.
その主張には正しい面もあるが,日本はまだマイルドなデフレに苦しんでいる.日銀は責任を負うべきだろう.また野田首相は安倍の提案を「愚かなもの」と呼んだが,政府がインフレ目標を設定するのは現代の金融政策の正統的な考えである.
シンガポール中央銀行の主任エコノミストRichard Jerramは,日銀の反デフレ政策に憤慨した.インフレは万能薬ではないが,有益な強壮剤である.もし過去15年間,2%のインフレ率が実現していたら,日本のGDPは今より40%も大きかったはずだし,政府債務のGDP比は管理可能な水準であっただろう.税収は今より多く,円の水準はもっと安く,輸出を増やせたはずだ.
NYT
November 28, 2012
Japan’s
Nuclear Mistake
By FRANK N. VON HIPPEL and MASAFUMI TAKUBO
l ユーロ危機の終わり方
Project
Syndicate 23 November 2012
Should
Europe Emulate the US?
Jean Pisani-Ferry
FT November
26, 2012
Time
to end the eurozone’s ad hoc fixes
By William R Rhodes
ユーロ危機が終わらない.2009年12月にアテネがその引き金を引いてから3周年を迎える.ヨーロッパの指導者たちは,金融危機が伝染する恐ろしさを過去の政府債務危機から学ばなかった.
たとえば1980年代のラテンアメリカ債務危機を,私は知っている.危機の収束は,失われた10年を経て,ようやく1989年のブレディー・プランで実現した.成長を目指す,債券市場を活かした回復策が,メキシコなど,17か国を救った.そこには3つの教訓がある.
1. 政府と銀行を切り離し,銀行同盟を導入する.そして銀行は,雇用を増やす中小企業にもっと融資する.ヨーロッパ規模の金融監督を強化する.なぜなら小さな銀行の危機からシステム全体がパニックを生じるから.
2. ESMなどのセーフティーネットを整備する.そのためには,政府債券をECBやIMFが購入することで財源を迅速に提供し,信用を回復する.失業者を増やし続けて緊縮を行うのではなく,持続可能な成長を回復できなければならない.
3. 政府間で財政協定が合意できないのでは,金融市場の不安が沈静化することはない.
FT November
26, 2012
France
has good reason to be pessimistic
Howard Davies
VOX 26
November 2012
Fiscal
discipline in the monetary union
Charles Wyplosz
ユーロ圏では危機が拡大している.債務危機に陥った政府は不可能の循環を描いている.共通通貨,経済不況,財政緊縮策,である.
金融危機は政府に債務を残した.これを取り除かなければ,不可能の循環を抜け出せない.債務が少なければ,政府は緊縮策を採らずに不況の緩和に向けて経済を刺激しただろう.
そのためには,インフレが起きるか,債務を再編するしかない.デフォルトした国が急速に市場アクセスを回復したことは,後者の成功を意味する.政府債務を再編することはラディカルに思えるだろうが,2つの条件があれば受け入れられる.すなわち,1.前例のない事態があったことを認め,2.再発しない措置が取られる.
問題は,第2の条件として,EU諸国が財政規律を確立することだ.これはいかなる連邦制にも伴う問題だ.2つのケースとして,ドイツの集権的な財政規律と,アメリカの文献的な財政規律,がある.前者は州財政を中央が厳しく監視し,後者は州の財政破たんを中央が救済しない.州政府はそれを確信することで行動を変えた.
ユーロ圏は,ドイツ型より,アメリカ型に向いている.EU諸国は財政の独立を決して譲らないだろう.また,それぞれの州財政を観れば,ドイツの諸州はユーロ圏の安定成長協定Stability and Growth Pactから大きく逸脱している.
では,どうやってユーロ圏もアメリカ型の救済拒否ルールno bailout ruleを実現するのか? すでにEUには財政再建に関する合意がある.またすでに条約としてno bailout clauseが含まれている.それは,ギリシャ,アイルランド,ポルトガルの救済によって損なわれた.
二度としない,という約束を信用できるか? もし2010年にno bailout clauseが実施されていたら,ギリシャはIMFに救済されて,債務をGDPの120%に抑えただろう.危機は終息していたはずだ.・・・二度と救済するな.
WSJ
November 27, 2012
The
Other Greek Crisis
By CATHRYN DRAKE
VOX27
November 2012
Banking
union: Ireland vs Nevada, an illustration of the importance of an integrated
banking system
Daniel Gros
NYT November
28, 2012
A
Bailout by Any Other Name
By LANDON THOMAS Jr.
一つの救済融資はさらに多くの救済融資を呼ぶ.救済融資の条件にもかかわらず,安定成長協定は守られない.
「それは協定が十分に強くないからだと考えて,その罰則を強化することを求めている.しかし各地の議会が主権を保持する限り,成功しないだろう.」とCharles Wyploszは言う.そのためには各国が互いに救済融資を禁止する条約を必要とする.その例は,アメリカの州財政が示している.
最後には,債務を取り立てるために,赤字国に軍隊を送るしかなくなってしまう.それを避けるには融資をしないことだ.強制ではなく,財政当局を誘導する.
EU条約を変更するのは難しいが,各国の法律は改正できるだろう.
The
Guardian, Thursday 29 November 2012
Greece
and Germany: this is a crisis of cousins
Mark Terkessidis
Project
Syndicate 29 November 2012
Europe’s
Dysfunctional Growth Compact
Benedicta Marzinotto
(後半へ続く)