IPEの果樹園2012

今週のReview

11/5-10

 

*****************************

アメリカの大統領選挙・最終戦 ・・・中国とメディア ・・・「鉄のカーテン」 ・・・中国とアジアの改革は進むか? ・・・シリア・中東・世界の秩序 ・・・ヨーロッパの財政統合論 ・・・ヨーロッパの分離・独立論 ・・・保護主義の欺瞞

 [長いReview]

******************************

主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  アメリカの大統領選挙・最終戦

The Guardian, Thursday 25 October 2012

How Christian fundamentalism feeds the toxic partisanship of US politics

Katherine Stewart

NYT October 25, 2012

The Timbuktu Question

By ROGER COHEN

FP OCTOBER 25, 2012

Jerks vs. Waterboarders

BY ROSA BROOKS

FT October 26, 2012

US election: Obama’s endgame

By Richard McGregor

NYT OCTOBER 26, 2012

Some Are More Unequal Than Others

By JOSEPH E. STIGLITZ

大統領選挙はアメリカの将来に重大な影響を及ぼす.特に,将来の不平等がどうなるか,まだ十分に論争されていない.

ミット・ロムニーは,不平等については静かに,内輪で話すべきことだ,という立場である.しかし,アメリカの不平等が拡大していることは,保守派でも明確に認めている.極端な不平等は経済にも悪影響を与え,もはや単に道義的な問題ではなく,社会的な正義も脅かす.

ロムニーは,思いやりのある保守主義を唱える作戦だ.しかし,ライアンの財政再建計画には,世界中の先進諸国が認め,オバマが医療保険改革で目指しているような,すべての国民が医療を受ける権利を否定している.ロムニー=ライアンの経済計画は,破滅的なマクロ経済をもたらし,成長は低く,失業は多く,社会保障の必要性を高めながら,セーフティーネットは弱められる.

アメリカの不平等が歴史的に観て高水準にあるのは議論の余地が無い.アメリカは機会の平等性が最も低い国になった.アメリカの不平等は他のすべての先進諸国を超えている.同じ市場の圧力にさらされても,アメリカは異なる政策を採ったからだ.政府の政策,もしくは政策の欠如が,不平等の拡大を容認した.すなわち,競争促進政策を欠き,金融規制を怠り,企業統治を求める法を欠き,ブッシュ政権下の莫大な優遇策で「企業の福祉」を高めた.

ロムニーは,低成長と不平等をもたらしたブッシュの政策と何が違うのか示さない.ロムニーは,彼自身がそうであるように,ヘッジファンドやエクイティファンドのビジネスに関わる人々が利用する税金逃れの仕組み(普通の労働者たちよりも低い15%の課税率)を説明しようとしない.ケイマン諸島のような,タックス・ヘイブンを閉じるつもりもない.

これは,トップの給与を得ている者が公平な負担をしていない,という問題であるし,また,社会の底辺や中間にある人々が公平なスタートを保障されていない,という問題でもある.教育や,栄養・健康状態に関して,貧困地区の住民は悪化した条件に制約されている.

これは,ロムニー陣営がしばしば示唆するような,ねたみや不満の政治,ではない.冷徹で,厳格な,現実の経済学である.富裕層がもっと公平に負担していたら,財政赤字はもっと小さく,インフラや技術,教育,にもっと多く投資できただろう.それは将来の雇用をもたらし,高い成長をもたらすだろう.タックス・ヘイブンはアメリカの投資を奪う.投機的な活動に低い税率しか課さないから,投機が増え,不安定化し,才能ある若者たちが生産的な活動から離脱してしまう.その結果は,ゆがんだ,非効率な経済であり,低成長である.

それでも,ロムニー陣営は不平等を称賛する.それは経済の「神話」を並べて行われる.特に,1.「アメリカは機会の国だ.」 2.「トリクル・ダウン経済学が機能する.」 ともにアメリカの現実に反する.

3.「富裕層は雇用をもたらす.富裕層のもたらす資金は,良い仕事,良い報酬につながる.」 実際,Bain Capitalのようなエクイティファンドの投資は,雇用をもたらすのではなく,リストラ,ダウンサイズ,海外移転のために使われる.企業の債務を増やして,自分たち投資家の報酬を増やす.さらに,一般に言って,富裕層の投資は革新をもたらすものではない.最近の重要な発明は,インターネットのように,政府が支援する研究開発によって生まれた.

4.「不平等を減らすにはコストがかかり,金の卵を産むガチョウ(高成長)を殺してしまう.」 実際は,経済成長のエンジンになるのは中産階級だ.不平等は総需要を減らす.底辺層の方が所得の多くを支出するからだ.近年の富の集中はバブルと不安定性をもたらし,連銀の金融緩和にもかかわらず,その需要不足は解消されない.IMFデモ認めるように,不平等は低成長を意味する.その逆を唱えるのは,ロムニーが,超富裕層の間違った発想を広めているのである.

5.「市場は自己規律が働き,効率的で,政府の市場介入は常に失敗する.」 2008年の金融危機はこの間違いをだれにも明白に示した.歴史的に観ても,資本主義は成立以来,ブームと破綻を繰り返している.唯一の例外は,大恐慌以後,強力な金融規制が機能した時期であった.しかも,第二次世界大戦後から1980年までは,その後の金融規制を緩和した時期に比べて,はるかに高い成長と安定性を示した.

強く懸念するのは,こうした不平等が民主主義や社会の仕組みを破壊する,ということだ.トップの富裕層は,現実の投資や技術革新にではなく,政治に資金を注ぐ.大統領選挙や議会選挙に投入される資金は,決して慈善ではなく,彼らの利益を実現する.近年,多くの政治献金を行ったのは金融機関であり,その報酬として,彼らは金融緩和を実現し,莫大な救済資金を受け取った.

こうした政治的投資は民主主義を損ない,破壊するだろう.しかも,アメリカの正義,法の支配も損なってしまう.銀行は組織的に虚偽を宣伝したにもかかわらず,誰一人有罪にならないし,それどころか,告発されてもいない.政治プロセスは,ますます一人1票ではなく,1ドル1票になっているのだ.

問題を認め,その源泉を理解しなければ,解決することはできない.オバマは重要な要素を捉えている.その教育,課税,投資.雇用の政策を見れば,正しい方針だとわかるだろう.他方,ロムニーとライアンは,トップの所得を増やし,中産階級をますます損ない,底辺層を苦しめる.アメリカは分断された社会になる.

NYT October 27, 2012

Barack Obama for Re-Election

主要な政策で両者を比較した結果,NYTはオバマ再選を支持する.

FT October 28, 2012

The president struggles to convince

By Edward Luce

オバマ陣営の訴えはようやく定まった.“Forward!” 「前進せよ!」 ・・・しかし,遅すぎたようだ.

オバマは,2008年に世代を転換したような魔法を再び発見できなかった.当時,オバマは若い,黒人の,ワシントンの旧政治に汚されていない,刺激的な候補者だった.オバマは,道義的に損なわれたアメリカのイメージを,世界に向けて刷新できる雄弁な政治家だった.しかし,今では,黒人の大統領も既成事実でしかない.

この9週間で分かったことは,オバマの選挙戦が失敗した,ということだ.第1に,オバマは経済の再生にも,アメリカの将来にも,強いメッセージを打ち出せなかった.共和党が妥協を拒むとき,それを説得できなかった.

2に,オバマ陣営の選挙運動家たちは,民主党の地方組織や政治家の活動を妨げた.地方幹部が不満を述べるように,非常に利己的で,彼らは選挙戦を支配し,地方に何も与えなかった.

3に,オバマの選挙戦はアメリカの分極化,政治的分解過程を加速した.レインボー(虹)同盟が唱えられ,民主党(赤)や共和党(青)の支配する州の分割を超えて,政治を動かすはずだった.現実には,この選挙ほど人種に支配された選挙は無かった.

多くの白人は,オバマはアメリカ的ではない,と狂信的に断定している.彼らが共和党の支持基盤をなし,オバマと妥協して合意する政治家をも処罰する.いかなる増税も認めない.驚くほど多くの有権者が,オバマがアメリカで生まれた,ということを否定している.

FT October 28, 2012

Building blocks for America’s recovery

By Lawrence Summers

将来の経済政策について,3つの問題が議論された.両候補はこれをどのように考えるのか?

すなわち,1.失業者を減らすのが可能となる成長率の引き上げ.2.国家の富に対する政府債務の比率を確実に下げるような財政の安定化.3.中産階級の次の世代に対して着実に所得が上昇し,彼らが働きたいと願うなら十分に雇用されるような,経済の基礎的条件を再建する.

オバマは,成長に関わる障壁をなくし,政府部門でも民間部門でも需要を高めてきた.IMFがその政策を支持したように,低金利の下で,財政刺激策の乗数も低いが,オバマは連銀の独立性を尊重している.輸出を伸ばすためにさまざまな支援を行い,低金利を利用した政府による投資により雇用を増やした.

ロムニーは,これと反対に,景気回復が遅い中でも,今すぐ,政府支出の削減を主張している論争において,政府は新しい軍部に支出し,減税によって奢侈財に支出が増えるから,雇用が増える,という.しかし,学校やハイウェーの状態は改善しない.また金融政策に関しては,今の連銀よりも金融引き締めを望む.中国に対しては,ただちに通貨操作を非難して制裁措置を取る.貿易戦争のリスクも辞さない.

オバマは財政再建のためにSimpson-Bowles委員会が示した報告を原則として尊重する.そして社会保障の見直しや歳入の増加を目指すとしている.他方,ロムニーは,詳しい計画を何も明らかにしない.しかし,Robert Gatesの提言よりも,さらに一兆ドルの防衛費を増やす.広い範囲で20%の減税を行う.項目を示すことなく「税の抜け穴」を塞ぐと言うが,たとえ20万ドル以上の高所得者に優遇措置を撤廃するとしても,財政収支は大きく不足する.

FT October 29, 2012

Either way, the vote will end the New Deal

By MichaelBarone

2012年の大統領選挙は,アメリカの未来を決めるが,同時に,過去も決める.ロムニーが勝利すれば,それは,ニュー・ディールに関する,70年間も語られてきた歴史解釈を変える.

すなわち,たとえ経済状況が悪化しても,(ニュー・ディール史観と異なり)アメリカ人は政府の範囲や規模の拡大を支持しない,ということだ.

オバマの景気刺激策や政府の規模拡大は,フランクリン・D・ルーズベルトがニュー・ディール政策として成功した,と歴史家の主張することに従うものだった.歴史家,Arthur Schlesinger Jr.などは,アメリカの有権者が再分配政策を支持したからルーズベルトは再選された,と説明する.

私はそれに反対だ.ニュー・ディール史観の根拠は1936年の再選である.ルーズベルトは1932年にほとんどすべての選挙区で勝利し,54%の支持を得た.1936年には61%という高い支持率で再選された.しかし,その中身は不均等である.農村部や南部の小都市では支持を減らし,大都市で支持を増やしていた.1934年の議会選挙でも,民主党は同じような結果を得た.

つまり,ニュー・ディールで支持されたのは賃金の引き上げや価格統制のような初期の政策であって,その後の再分配政策や労働組合の強化ではなかった.民主党は,デフレスパイラルを止め,賃金と物価を引き上げたことで支持されたのである.

さらに,再分配政策への不満は1936年以降に強まって,ニューディーラーたちがa “capital strike”「投資家のストライキ」と呼ぶ,投資の減少と1937年の景気後退を招く.1938年の議会選挙で共和党が80議席増えた.ルーズベルトが1940年,44年と支持されたのは,戦時の指導者であったからだ.国内政策では支持を低下させていた.

「投資家のストライキ」は現在のアメリカ経済にも見られる.不況はアメリカ人を大きな政府や再分配政策の支持者にする,というのは間違いだ.オバマ陣営でも,医療保険制度の改革を宣伝するより,ロムニーに攻撃に焦点を当てている.他方,防衛問題や自由企業論ではロムニーが強く支持されている.

ジミー・カーターは再選されず,中道派に寄ったビル・クリントンだけが,戦後,民主党の大統領として再選された.オバマは共和党と妥協せず,その賭けは彼とニュー・ディール史観との敗北に終わるだろう.

FT October 29, 2012

The thrill of 2008 has gone – and it hurts

By Jurek Martin in Washington

Project Syndicate 29 October 2012

Kill and Let Die

Naomi Wolf

オバマとロムニーが最終テレビ討論で外交政策を争ったのは,ロンドンでジェームズ・ボンドの最新作,Skyfall,が公開されたのと同じ日であった.これは単なる偶然である.

しかし,最新作は英米の合作であるし,ボンドが活躍する特殊部隊の行動は,アメリカの外交や「法の支配」に関する姿勢を体現している.大統領選挙のテレビ討論は,その現実のアメリカ政治を,すなわち,大統領の命令が戦争犯罪であるとわかっても,それを平然と称賛する映画のような世界を同時に示した.

それはオバマにとってだけでなく,ロムニーにとっても現実だ.ロムニーは,彼の外交政策を簡潔に示せば,「悪い奴らを追跡し,彼らを妨害し,殺害し,世界から消し去るために最善を尽くこと,と述べた.われわれは彼らを発見したなら,その場で「殺害」する.戦場であれ,パキスタンのような,主権を持つ他国であれ,告発も,裁判も要らない.

この点で,ビン・ラディンを非合法に殺害したオバマはロムニーを上回ったし,ドローンを用いて,告発も,裁判も無しに,悪者を消し去る戦略は,ロムニーも称賛するしかなかったわけだ.

どちらの候補も言わないが,いくつかの推定によれば,ドローンは「テロの容疑者」より,はるかに多くの民間人を殺害しているのだ.権威ある研究は,その犠牲者の数を,20046月から20129月の間に,474~881人,そのうち,176人は子供であるとしている.

しかし,911以後の世界で育った知的な若い世代と話し合ったとき,彼や彼女たちはそれを信じなかった.大統領とその対立候補が,ジェームズ・ボンドのような者たちに,世界中で,暗殺指令を実行させる国で,「もちろん,それは非合法だ」と,彼らは平然と答える.

ボンドは法を超越した暗殺者だ.その諜報機関がお粗末で,間違いである可能性もあるのに,ボスは「悪い奴だ」と抹殺すべき人物を示す.無辜の犠牲者は映らない.優れた軍事技術が素晴らしい舞台を演出し,それが正当化にもなる.これはヒーローの物語なのだ,と.

内外の法を破って,無関係な市民を特殊部隊やドローンで殺害し続けるアメリカは,すべて,映画ではなく現実である.

SPIEGEL ONLINE 10/30/2012

Campaign of Fear

US Election Boils Down to 'Lesser of Two Evils'

By Marc Hujer and Gregor Peter Schmitz

アメリカ大統領選挙の行方は,政策公約の説明より,相手候補を罵る力によって決まる.選挙戦は醜悪なものになった.

長い間,ロムニーへの恐怖がオバマ陣営を有利にした.多数の有権者にとってロムニーはなじみがなく,その不安感をオバマ陣営は大量のテレビ広告で煽ってきた.不誠実な資本家,中産階級の敵,投資銀行の重役として,利潤を上げるために雇用を抹殺した男だ,と.

テレビ討論で有権者に知られるようになってから,ようやくロムニーが巻き返した.それは,一種の恐怖の均衡になった.

どちらの候補も具体的な政策で熱狂的な支持を得るのは難しいとわかっている.オバマは,任期中の政策に良い結果も悪い結果もあるからだ.ロムニーは,共和党内のすべてのグループを満足させるために,立場をころころと変えた.

彼らの違いは微妙なニュアンスでしかなくなっているが,互いに可能な限り対立候補を非難し,何一つ共通する政策はない,という風に訴える.一方は,オバマが社会主義者で,アメリカを財政破たんに陥れるつもりだ,と言えば,他方は,ロムニーがアメリカで最も貧しい労働者からフード・スタンプを奪ってしまう男だ,という具合に.

多くの有権者は早期に投票する候補を決めている.それゆえ,ますます少数の浮動票を得ることや,支持者の中の投票率を高めることが重要になる.どちらの陣営も,有権者を細かくグループ分けして管理する.そして重要なグループに絞って,戦略を立てる.彼らの恐怖心を強めて,投票を支配するのである.

ロムニーは,オハイオ,ヴァージニアの,白人,ブルーカラー労働者,バイブル・ベルトの福音主義(エヴァンゲリカル)キリスト教信者たち,に的を絞っている.オバマ陣営は,ヴァージニアの女性,アイオワの大学生,ネヴァダのラティーノ,ニューヨークやフロリダのユダヤ人だ.

ユダヤ人はアメリカ人口の2%しか占めないが,政治に関わる比率が高く,多数が規則的に投票する.彼らが民主党と共和党の拮抗する州に住んでいることも重要だ.オバマがイスラム教の国,インドネシアに4年間住んだことも,イスラム世界との和解を唱えたこともあるが,それでも2008年には彼らの5分の4がオバマを支持した.今は,そうではない.彼らは振り子のように動く.ユダヤ人の関心はイランの核保有に集中しており,この問題でオバマが示すあいまいな態度を嫌っている.

「イスラエルは大変小さな国である.」・・・「どれほど小さな失策でも,簡単に消滅してしまう.」 フロリダで彼らがオバマに投票しなければ,ロムニーに勝利をもたらすことになる.ロムニーは,テレビ討論でその不安を刺激した.

オバマは,この選挙が議論で勝利できないことを理解した.オハイオ州の衰退する工業地帯,Parmaの町で,クリントン元大統領がオバマのために演説し,Bruce Springsteen が歌った.苦しいときに弱者に対する思いやりを示すのが国家である,と.Chuck Montagueはこの町で,4年前は,小さな地方新聞社に勤めていた.しかし,業績が悪化し,解雇された後,厳しい「調整」を経験し,自分はもはや必要とされていない,と感じた.66歳となって,かつてのような仕事に就く見通しはますます失われた.Montagueのような白人労働者が,この選挙でオバマを苦しめる最大の脅威だ.

ロムニーは,共和党内のキリスト教徒を投票所に向けて動かすことに苦労している.原理主義的なキリスト教徒はロムニーのモルモン教を間違った信仰と考えているからだ.ロムニーは聖書を唯一の真理の源とする考えに従わない,と.だからロムニー陣営は,福音主義者の恐怖心を強めるような宣伝をする.オバマに対する十分に大きな憎しみを育てることで,連合軍が可能になるからだ.ロムニーは,二つの悪のうちでは,ましな方である.

FT October 30, 2012

Romney would be a backward step

By Martin Wolf

景気回復の弱さと失業者の多さを考えれば,オバマにまだ再選の見込みが失われていないことは驚くべきことだ.しかし,オバマは改善のために行動した.それが不十分であっただけである.

さらに,過去ではなく未来を考えれば,4つの課題(需要側,供給側,不平等,財政支払い能力)に対して,ロムニーの政策は事態を悪化させるだろう.

外国も,民間部門も,黒字で債務を減らし,貯蓄を増やすなら,景気回復を続けるために,アメリカ経済の政府部門が債務を増やすしかない.それしか需要の水準を維持できない.生産の側では,アメリカの生産性上昇が維持できるか,問われている.急速な技術革新には政府支援が重要だ.

オバマの政策は不十分だが,ロムニーの政策はGW・ブッシュの再現である.

NYT October 30, 2012

At the Polls, Choose Your Capitalism

By EDUARDO PORTER

来週,投票所に向かう有権者の多くは強い不安を感じている.アメリカはすべての国民に繁栄をもたらすシステムではなくなった.

金融危機と不況を経験する前から,私たちは問題が自分たちの管理を超えた力によって起きている,と理解するようになった.技術変化が良い仕事を自動化してしまい,グローバリゼーションは我々を貧しい諸国の労働者と競争させる.この無慈悲なダイナミズムは,少数の者しか豊かにしない.

その理解の仕方は多くの点で正しいが,この強力なダイナミズムを管理する選択肢を我々が持っている,ということを忘れてはならない.われわれは他の工業諸国に比べて,より強く互いを死活的な競争に追い込む資本主義を選択しているのである.政府を信用せず,不平等や深刻な貧困を含む,市場のもたらす結果を受け入れる.他国に比べて,われわれはそれを成功と見なす.

アメリカは世界で最も企業家的な経済であり,技術革新を刺激することで大きな富をもたらしている.しかし,その富を広く社会に行き渡らせることには失敗している.それはグローバリゼーションの産物だと思われているが,多くの場合,ハイテク化し,グローバル化した機会に応じる我々の問題なのだ.過酷な競争を強いる資本主義には,大きな社会的コストがともなった.

我々は豊かになったが不平等を拡大し,子供たちの死亡率,貧困,肥満,10代の少女の妊娠率,学校への財政支出,退学率,大学卒業者数,高額の医療費,国民的な医療保険制度の欠如,失業手当,人口に対する囚人の比率,などで,他の豊かな諸国に劣っている.

Daron Acemoglu, James Robinson and Thierry Verdierは,世界を二つに分類する.スカンジナビア諸国のような揺籃国家cuddly countriesと,アメリカのような残忍資本主義システムcutthroat capitalistsである.前者は大規模な社会福祉を備えるが,後者は大きな不平等に耐えて,勤勉と企業家精神を鼓舞する.

アメリカの有権者たちは,成功したビジネスマンのロムニーと,政府を恵まれない人,貧しい人の代理人と考えるオバマとを選択するとき,異なる社会原理を選択する.重要なことは,たとえ圧倒的なグローバル化の圧力を受けるとしても,われわれには選択肢がある,ということだ.

WP, October 31, 2012

A vote for the future or for the past?

By Harold Meyerson

この選挙は,われわれの過去と未来の戦いである.オバマはアメリカの未来,ロムニーはアメリカの過去を代表する.冷戦期以来,これほど大きく二つが離れた選挙はない.

オバマは30歳以下の若者たちに強く支持されている.ロムニーが最も支持されるのは65歳以上だ.選挙における両極化は年齢ageだけではない.ゲイ・レズビアンの権利,資本主義システムのメリット,に関しても,若者は高齢者より,同性愛に肯定的で,資本主義に批判的だ.

人種raceも重要だ.あまり化は人種の多様性を増大させている.国民に占める白人の比率は,2000年の69.1%から,2010年には63.7%に減った.人口学者は,2050年に50%まで低下すると予想している.

しかし,ロムニーと共和党は,アメリカで増加するマイノリティーと一緒にフットボール・チームを作ろうとしない.非合法移民の滞在を合法化する法案に反対した.ロムニーは白人の票を一層多く獲得したいのだ.若者に有利な社会保障システムにも反対する.その戦略はカヌート王と同じだ.海辺に立って,潮流に止まれ号令する.保守派のラジオ番組やFox Newsが示すように,彼らはアメリカが,エイリアンの軍隊に占領された,と感じている.

ロムニーは保守派を説得し,共和党を変化に対して穏健化しなければならない.しかし,多様性や近代化は共和党のDNAに反するのだ.

二つのアメリカが,来週の投票で激突する.

FT November 1, 2012

Ohio is a test case for US economy

By Steven Rattner

FT November 1, 2012

US election is a referendum on tax

Robert Reich

両候補が避けていた問題は,富裕層がより多く課税されるべきか,であった.その問題は,また,真に雇用を創出するのは誰か? ということになる.

WP, November 1, 2012

Why Obama/Romney won

By Robert J. Samuelson

どちらが勝利するかわからないが,その結果は説明できる.多くの有権者はもっと以前から投票する候補を決めている.それが拮抗した結果,勝利は少数の浮動票の動きで説明できる.

オバマが勝利する.なぜなら,すべては経済が決めるから.経済統計はわずかながら好転した.その結果,オバマのメッセージが届くのだ.オバマはブッシュ大統領の負の遺産を継承したが,大恐慌への転落を防いだ.景気は緩やかに回復しつつある.消費や雇用も回復するだろう.(ただし,投資家の態度は固まらない.)

ロムニーが勝利する.なぜなら,ロムニーを中傷するオバマ陣営の選挙戦術が失敗したからだ.それは逆に,オバマが大統領にふさわしくない,と感じさせた.強欲で,資産を隠す,富裕層の味方である,という宣伝が,TV討論の印象によって逆転した.(ただし,人物評価では,今も,オバマの方が好印象を得ている.)

Project Syndicate 01 November 2012

America’s Global Election

Joseph E. Stiglitz

アメリカ国民以外も,大統領選挙の結果に大いに関わり,投票できないとしても強い関心を持っている.そして,彼らの多くがバラク・オバマを支持していることには,理由がある.


l  中国とメディア

The Guardian, Friday 26 October 2012

The New York Times' China coup

Michael Wolff

中国の温家宝首相が行っている不正蓄財についてのNYTによるスクープ記事は,ニクソン政権のベトナム戦争に関する疑惑を示す1971年のPentagon Papers以来,最も重要な,メディアによる権力者の告発である.

ニクソン政権はNYTを最高裁に訴え,企業を犯罪者にすると脅迫した.中国政府もNYTのデジタル版へのアクセスを遮断した.NYTは世界で最も重要な潜在的市場を失ったのだ.

それこそ,ジャーナリズムの最大の勝利を示すものである.

中国政府とNYTは,今後,不断の闘争過程に入るだろう.しかし,それはNYTにとっても歓迎すべきことだ.なぜなら,配達や広告でも生存の危機にある新聞社は,独自の存在意義を示す強力なアピールをしなければ生き残れないから.NYTは中国の未来を変えることに挑戦した.たとえ中国政府がNYTを読めなくしても(それは不可能であるが),世界中の人々は中国を異なる視点で見るだろう.政治エリートが巨額の不正蓄財を行う国である,と.

NYTの収益は悪化し,株価が20%下落している.しかし,その本当の価値は,市場の予測を超えて飛躍したのだ.

The Guardian, Friday 26 October 2012

China: a new leaf?

SPIEGEL ONLINE 10/26/2012

The Ferrari-Red Communists

China at a Crossroads in Shift from World's Factory to Industrial Power

By Erich Follath and Wieland Wagner

FP OCTOBER 26, 2012

Me and My Censor

BY EVELINE CHAO

北京の仕事を始めた最初の日に,ボスが私に尋ねた.「3つのT」を知っているか?

私は知らなかった.それは中国のメディアが最も恐れる3つのタブーだった.すなわち,Taiwan, Tibet, and Tiananmen である.

政府からの検閲を事前に調整する担当者は“Snow”スノウだった.彼女は40代の,長い縮れた髪と子供のような高い声を持つ,神経質で,気まぐれな女性であった.彼女は記事の細部まで読んで,政治的な意味を考え,驚くほど小さな点まで何度も訂正を要求した.そして,それがなぜ必要であるかを詳しく説明した.

私はジャーナリストとして言論の自由を信じていたから,彼女とは距離を置いていた.しかし,スノウは私と友人になりたがった.取材についても手伝ってくれた.彼女の示す注意は,何が政治的な問題に触れるか,についての信頼できる指針だった.

2008年の秋,彼女は,改革開放の30周年を記念する取材を計画しているか,と陽気に尋ねた.「30年前,私のように,当時を経験した多くの人にインタビューできるだろう.私が若かったころ,肉を食べることはなかった.多くの家族と一緒に大きな家に住んでいた.そして,電話は一台しかなかった.だから電話が鳴ると,誰かが出て,私の名を呼ぶのだ.いつも私への電話だった.またあなたへの電話だよ,って.」

彼女は,ランチのとき,私が新聞社を辞めて独立し,中国に進出する外国企業の優れたコンサルタントになれるだろう,と話し出した.そして成功したら,自分を雇ってほしい,と頼んだのである.私は驚いた.目的もなく中国をさまよう,若造でしかないアメリカ人の私を,この年上の彼女は生きる可能性として見ていたのだ.そして初めて理解した.彼女はいつも仕事を上司に監視され,その努力は報われず,失策を咎められた.

スノウと一緒に,巨大なオリンピック・スタジアム,「鳥の巣」,を眺めて感動したあと,私は地下鉄の駅で車を降りた.その前に,彼女がランチのとき愚痴をこぼしていた,夫の兄弟というのは何人いるのか,と尋ねた.「12人よ.でもその半分は死んだ.だから全部で6人ね.」と彼女は答えた.

私は,こんなことを尋ねて悪かった,と謝った.「いいのよ.当時は皆がそうだったから.だって,知ってるでしょう,多分,毛沢東は狂ってしまった.誰もが5人の子供を育てる「英雄的な母親」になれ,と奨励した.そして,彼らはそれが飢饉の原因だ,とも言う.毛沢東は,・・・」 彼女は笑い出した.

「わかるでしょう.」 あなたと私だけで話すのであれば,こんなことも言える.でも印刷してはいけない.スノウは英語に切り替えて,強く断言した."That's China!"


FT October 26, 2012

Central bankers take up the bat and ball

By Robin Harding


l  「鉄のカーテン」

WP, October 27, 2012

Book review: ‘Iron Curtain: The Crushing of Eastern Europe,’ by Anne Applebaum

By John Connelly

東ヨーロッパは,そのほとんどが農業国で,歴史的に見て保守的な,信仰心の篤い,反ロシア的な土地であった.その東ヨーロッパが,どのようにして1949年までに,スターリンの支配する重工業的な,無神論のソビエト連邦と同じような諸国家に変わったのか? 当然,それには赤軍の影響が決定的であった.

ソビエト的権力を築く初期の条件は,ほとんどの読者の想像をはるかに超えて酷いものだった.1944年から45年まで,ナチス・ドイツからの解放過程で,赤軍の兵士たちは何千人ものドイツ人と,同様に,多くのポーランド人,ハンガリー人,ルーマニア人,セルビア人を略奪し,強姦し,殺害した.ポーランドの状況はあまりにも残酷であったため,ロシアに帰還する赤軍が通る,と知っただけで,村全体が姿を消したほどであった.ロシアの秘密警察は,ナチスと戦った多くの地下活動家たちをソビエトの強制収容所に送った.


後半へ続く)