IPEの果樹園2012

今週のReview

10/15-20

 

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ロムニー復活?  ・・・金融緩和の効き目 ・・・防衛産業の統一 ・・・BRICSの終焉? ・・・キューバ危機とアメリカ外交 ・・・メルケルのアテネ訪問 ・・・ドル体制の行方 ・・・ベネズエラ大統領選挙 ・・・世界金融危機の勝者 ・・・EUにおける主権とは何か? ・・・パキスタンの少女

 [長いReview]

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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)


l  ロムニー復活?

NYT October 4, 2012

Romney’s Sick Joke

By PAUL KRUGMAN

NYT October 4, 2012

Moderate Mitt Returns!

By DAVID BROOKS

ロムニーは,ついに霧から抜け出した.共和党のステレオタイプから脱し,ティー・パーティと手を切って,自分の本当の姿を示した.

ロムニーは金持ちの仲間ではない.個人主義者や社会ダーウィニズムの信奉者ではない.ポピュリストではない.無思慮な規制緩和論者ではない.

他方,オバマの結びの言葉は,かつて聞いたことがないほど,ひどいものだった.

FT October 5, 2012

What Mitt Romney could learn from Henrique Capriles

Moisés Naím

Henrique Caprilesは,ベネズエラの大統領選挙で,できたばかりの野党勢力が支持する候補として,現職のChavezに挑んだ.

アメリカの共和党とロムニーには支持基盤と資金があり,現職の大統領が選挙に利用できる国家権力は厳しく制限されている.カプリレスCaprilesが闘うチャベスChavezは,世界でも最長の在位期間を持つ指導者であり,石油の富と法律を自由に操るこの男に,官僚層も支持を隠さない.

それでも,カプリレスは手堅い選挙戦を展開し,選挙は拮抗している.他方,ロムニー陣営は豊富な資金と,金で買える最高の選挙スタッフを持ちながら,無作法,失策,誤算の連続である.

ロムニーがカプリレスに学ぶとしたら,それは次のようなことだ.

1.選挙参謀など無視して,彼を決して支持しないという有権者にも支持を訴えるために出向いたこと.カプリレスは忍耐強く,包容力があった.

2.イデオロギーでは,家賃も支払えないし,病気の子供も治せない.もっと具体的な提案を示せ.

3.つまらない口論を繰り返すな.チャベスは対立候補を罵倒する才能がある.しかし,カプリレスは常に大統領に敬意を示し,注意深く言及した.カプリレスは,政治的な分極化を知っているが,人々が和解を強く望み,政治家たちが口論を止めて,この国の問題を解決してほしいと願っていることを知っていた.

ネガティブ・キャンペーンは確かに効果があるけれど,人々が求める政治家同士の礼節や協力を示すほうが,もっと支持されるだろう.

4.感情移入できる能力empathyこそ,ロムニーには求められている.政治家に共感を強制されるなら,人々は政治に無関心になる.カプリレスは貧しい人々,助けを求める人々から共感を得る人物であった.ロムニーには難しいからこそ,いっそうの努力が必要だ.

それでも,カプリレスは敗北し,ロムニーは11月に当選するかもしれない.しかし,もし日曜日の選挙でのカプリレスが勝利すれば,それは,優れた候補による選挙戦が官僚層の支配さえ打ち破る,ということを示すだろう.

WP October 5, 2012

The $5 trillion tax-cut myth

By Robert J. Samuelson

Project Syndicate 05 October 2012

American Presidential Beauty

Ian Buruma

これは大統領選挙のための討論“debate”ではない.

フランス大統領選挙で,サルコジ前大統領は,社会党の対立候補であったホランドと,実質的な諸問題について2時間に及ぶ討論を行った.これに対して,アメリカ大統領選挙で行われたのは,ステージ・パフォーマンスである.可能性のあるあらゆる問題の答えが事前にチームによって検討され,それをコーチや顧問とともに無限に練習しているのだ.

候補者たちのパフォーマンスは詳細に分析される.議論の中身ではなく,むしろプレゼンテーションの優劣,ボディ・ランゲージ,顔のけいれん,ため息,笑顔,冷笑,何気ない目の動き(動揺),を検討する.これは俗物か? 友人として信頼できるやつか? 本当に笑っているのか,作り笑いか?

1960年,ケネディーはクールでハンサムだった.他方,ニクソンは影のある男だった.1980年,ジミー・カーターは気取った,ユーモアの無い男だった.他方,レーガンは,気のいい,年上のおじさんだった.2000年,アル・ゴアはジョージ・W・ブッシュとの討論において,その内容で勝っていた.しかし,その性格をころころ変えた.主張では勝ったが,「ディベート」に負けた.

評論家たちによれば,テレビ討論がロムニーの最後のチャンスである.もしオバマがエリート的なプロフェッサーであると見えたら,負けるだろう.そしてロムニーが激怒し,ひどいジョークを飛ばしたら,そのチャンスも粉砕する.これは,政策やアイデアの問題ではない.プレゼンテーションの勝負なのだ.

どちらに投票するかまだ決めていないのは,有権者の17%にすぎない.アメリカの主要政党による両極化を考えるとき,これは驚きだ.共和党はますます右傾化して,オバマの穏健なリベラリズムから遠ざかっている.さらに,決して語られないが,ここには人種差別がある.有権者の一部は,議論の内容や,ディベートのできに関わらず,黒人に投票しない.

もし政策でも,偏見でも,立場を決めていない17%を説得するとしたら,もっとほかの点を探すしかない.つまり,パーソナリティーのコンテストである,というわけだ.重要な政策や利害の対立を判断するのは難しい.そんなとき,有権者が自分にも共感できる候補者に投票するのは理解できる.だからコンテストには意味がある.

しかし,今回の政策対立は明白だ.むしろ,別の理由がコンテストを正当化している.それは,アメリカの大統領が,一種の君主制に近いものだからだ.大統領とファースト・レディーは,アメリカ国民の王様と女王である.外の世界にアメリカを代表する顔なのだ.

だから,政策ではなく,彼らの風貌が好ましいかどうか,コンテストを開く.それは気まぐれな選択であるが,出生によって自国の王様を決めるよりましであろう.

現代の君主制は憲法によってその政治権力を奪われている.他方,アメリカの有権者が選ぶ彼らの王は,世界中の人々の生活に影響を及ぼす.アメリカ有権者のわずか17%の決定に,この選挙に参加していない世界は依存している(もし参加できたら,オバマが圧勝するだろう).

言うまでもなくアメリカは共和制で,王制ではない.よくも悪くも,この準・王様は4年おきに追い出され,アメリカ国民はイデオロギー・コンテストと美人コンテストの混合レースを再開する.

FT October 7, 2012

The ghoul of half truths is not America’s real problem

By Edward Luce

NYT October 7, 2012

Romney’s Missing Foreign Policy

By DANIELLE PLETKA

WP October 9, 2012

Desperately seeking the real Obama

By Richard Cohen

NYT OCTOBER 9, 2012

Liberalism’s Glass Jaw

By ROSS DOUTHAT

オバマの4年は,当選したときに言われたようなリベラリズムの復興ではなく,失望の4年であった.ロムニーは,リベラリズムのガラスの顎を打ち砕く.

リベラルの改革案は,その内部に対立があり,矛盾しており,限界にぶつかる.財政赤字が増大する中で,政府は財源を見つけなければならない.富裕層からの財源獲得に限界があるのだから,中産階級にも負担を求めるべきだ.オバマはそれをしなかった.

オバマの財政刺激策は失敗だった.ケインズ経済学は,現実の世界で,二つの問題にぶつかる.経済の専門家にも経済状態の把握や正しい予想はできなかった.そして,民主的な政治が政府支出をばらまくのを止めることもできない.

オバマは医療保険制度を国民に売り込むことにも失敗した.リベラルの再分配的な改革案が成果を挙げるのは,経済成長が十分に実現できているときだけである.

現実のオバマ政権は,医薬品,銀行,など,強力な利益団体からの要求に次々と妥協した.それは"too big to fail"大統領であり,コーポラティズムへの道である.大企業の利益を守る大きな政府だ.


l  金融緩和の効き目

BLOOMBERG Oct 4, 2012

Bernanke’s QE3 Will Turn Out Better Than Japan’s

By William Pesek

アメリカ連銀の議長と日銀の総裁は,おそらくボルカー以来の,激しい敵意を政治家たちから向けられている.バーナンキは貨幣を供給し過ぎるから,白川は貨幣を十分に供給しないから,という理由で.

なお,日銀の役割はECBよりもはるかに重大である.なぜならECBの権限は余りにも限定されており,また,ドイツ連銀のイデオロギーに縛られているから.そして,いかなる先進諸国も及ばない公的債務を維持する日銀の役割は,もし日本の国債が危機に陥ったら,ユーロ危機の比ではないから.

11年前に量的緩和を開発したのは日銀だった.頻繁に財務大臣が変わる日本では,日銀も政策に困った.ところが,その後も経済は回復していない.日銀はこの手法を使いこなせなかったのだ.速水総裁はインフレと成長をもたらす十分な円を供給しなかった.そして,伝統的な短期金利の公開市場操作にとどまり,銀行の資産を購入することはなかったから,融資も増えなかった.

次の福井総裁は,資金不足をさらに悪化させた.広義の貨幣供給は減退し,円高を招いた.しかも,2006年には金利の引き上げを決定して追い打ちをかけた.

バーナンキのQEはもっと成功している.なぜなら資産価格の上昇,特に住宅価格を介して,消費を刺激したからだ.住宅価格が安定すると,人々の悲観も終わった.問題は,購入する新しい資産を見つけないと,QEの効果が失われることだ.

白川はバーナンキから何を学ぶべきか? 日銀が1280億ドルを資産購入に増額しても,通貨トレーダーたちはあくびしていた.日銀はインポだ,とジョークを飛ばし合って.

昨年の大震災を経て,日本政府は,企業の投資意欲や消費者の購買意欲を回復させる必要がある.しかし,貨幣を印刷するだけでは時間の無駄だ.日銀はもっと国債を購入して政府に資金を与えてはどうか? その資金で銀行融資に税制の優遇を与えてはどうか? 長期の国債を購入してはどうか? もっと外債を購入して円安を促してはどうか? 新しいことを試みなければ,2022年になっても日本はデフレである.

NYT October 6, 2012

Housing Fever Can Work Both Ways

By ROBERT J. SHILLER

住宅市場のブーム・アンド・バストは二重の社会的伝染病である.最初は,人々が価格の上昇に強気になって,その気分が伝染する.経済も刺激される.その後,価格が下落すると,弱気が社会に伝染する.そして景気も悪化する.

社会的伝染を正確に予測できないが,ある程度は観測できる.私たちは5000人から回答を得て,その調査を行ってきた.回答者は住宅価格の動きに関心のある冷静な人々であるが,長期(10年)の予測においては,事実・データによって説明できない楽観を示した.

今,人々は住宅の購入をせずに,待っている.価格が長期的に上昇するという期待を持たなければ,たとえ最近の数カ月は住宅価格が上昇しても,購入する気にならないだろう.そして,彼らの弱気を支配する要因は多くあるのだ.・・・住宅の差し押さえ,失業,ユーロ危機,アジアの減速.

FT October 11, 2012

A housing boom will lift the US economy

By RogerAltman

アメリカではいよいよ住宅市場と住宅建設が回復し,歴史的趨勢を超える強力な景気回復につながるだろう.

なぜなら2008年のバブル崩壊以前は,毎年140万軒の住宅に入居していた人々が,その後は,年50万軒にとどまっている.他方で,住宅の供給が急速に減少した.人口変動やモーゲージ市場の回復も住宅価格の上昇につながる.


l  アルゼンチン

FP OCTOBER 4, 2012

Argentina's Deadbeat Mom

BY JAMES K. GLASSMAN

FT October 7, 2012

Parallels between apartheidand Argentina

By Tony Leon


l  防衛産業の統一

FT October 5, 2012

BAE-EADS: Defence of the realm

By James Blitz, Hugh Carnegy and Gerrit Wiesmann

guardian.co.uk, Monday 8 October 2012

Why Europe needs the BAE-EADS merger to succeed

David Gow

BAE EADSとの合併によって航空・防衛産業のヨーロッパ統一を目指す提案は失敗するかもしれない.その失敗は,ヨーロッパ産業の基礎とその将来を担う,革新や先端技術における競争力に重大な損害を与える.

フランス,ドイツ,イギリスの政府が強く反対しても,この合併には十分な根拠がある.確かに大規模な合併は安全保障と戦略的利益に関する懸念を喚起するが,それを超える全体の利益があるのだ.

主要な反対意見は各国の所有比率だ.各国は9%ずつ所有する提案であるが,フランスのメディア・グループLagardèreとドイツのダイムラーが株式を売却すれば,13.5%ずつになる.それは,他国の付けをイギリス国民が支払わされることだ,と議会は反対する.フランス政府には金が無く,ドイツ政府はフランスの国家企業を好む姿勢に付き合っただけだったから.

イギリスは交渉役を果たしている.イギリスの防衛産業を守るという強い願望がある.フランスとドイツにも,本社の所在地など,さまざまな要求がある.3国の一致を見出さねばならない.

各国には雇用,技術,投資に関する関心も強い.また,イギリスには,アメリカのペンタゴンと有利に取引できる地位を失うという不安がある.

ヨーロッパンの防衛産業は分裂しており,これを統合する必要性は明らかに存在する.ヨーロッパの市場や民間航空機は,次の競争相手として,中国やインド,ブラジルの企業に対抗しなければならない.BAE EADSも,その地位は危ういものでしかなく,合併することで,ようやく世界の「チャンピオン・リーグ」に残れるだろう.

FT October 8, 2012

Lex in depth: EADS-BAE

By Vincent Boland and Stuart Kirk

FT October 10, 2012

Historic chance grounded by petty politics

By Karl-Theodor zu Guttenberg

FT October 10, 2012

A marriage not made in heaven


l  アメリカの労働統計

FT October 5, 2012

Keep up the pressure – the US jobs crisis is not yet over

Mohamed El-Erian

アメリカの民間部門は債務削減をまだ進めなければならない.雇用回復はフルタイムではなくパートタイムが主である.議会は厳しく分裂して手段がなく,連銀は不確実な手法に頼るしかない.

11月の大統領選挙後も,議会が協調できるかどうかわからない.労働市場には構造的問題があり,6か月以上の長期失業者も非常に高く,なかなか減少しない.

NYT October 7, 2012

Truth About Jobs

By PAUL KRUGMAN

政治党派の色分けに悩むものは,先日の労働統計が発表されたとき,予想外の交点を示したことについて彼らが採った反応を観れば簡単に答が出ただろう.右派は,陰謀だ,と叫んだから.

それはアメリカの失敗の根っこを示す.彼らの関心は,あまりにもオバマを倒すことだけに向かっており,労働統計で失業者の減少を示す良いニュースも,オバマが有利になるから「陰謀だ」と叫ぶ.事実に拠らず,何でも陰謀説で説明する知的バブルが,政治の中に今もあるのだ.


l  フィリピン

YaleGlobal, 5 October 2012

What’s the Bigger Challenge – Baby Boom or Bust?

Philip Bowring


l  BRICSの終焉?

Project Syndicate 05 October 2012

Clicks over Bricks in India

Sanjeev Sanyal

インドの小売業に外国投資を認める政策転換は激しい反対運動を生んでいる.カルフールやウォルマートのようなハイパーマーケット・チェーンがインドの小売業で支配的な零細商店を破滅させる,というのだ.野党の呼びかけ,20以上の都市がストライキに参加した.

この決定を支持する者は,インドのサプライ・チェーンに無駄が多すぎるから,巨大な外資を入れて金融やノウハウを近代化するしかない,という.反対する者は,西側で大規模チェーンがどれほど多くの伝統的な焦点をつぶしたか,と主張する.

しかし,この論争は問題を見誤っている.ハイパーマーケット・モデルは.世界中で,オンライン・ショッピングに脅かされているのだ.消費者はインターネットによって無限の選択肢を持つようになった.大型店も対抗できない.

要するに,インドはハイパーマーケットの段階を飛ばして,オンライン・ショッピングに向かうだろう.小規模店舗にとって,それは挑戦であり,機会でもある.競争の圧力は増すだろうが,地域に密着して宅配や付け払いを認め,個人的な親しい関係を築いて優位を得ることもできる.

投資家も,小型店舗も,この新しい機会に参加することだ.

FT October 7, 2012

Foxconn suffers unrest at iPhone factory

By Kathrin Hille in Zhengzhou

FoxconnZhengzhou鄭州(中国の内陸)工場で,iPhone 5の生産をめぐる品質管理のスタッフと生産ラインの労働者が対立し,争議が起きた.

中国の若い労働者たちは,次第に,わずかな貯蓄のために個人生活を犠牲にすることを好まず,権利を重視するようになっている.Foxconnは,工場の移転を進めている.

FT October 8, 2012

The Brics have taken an unhappy turn

By Gideon Rachman

この3年は,世界経済を二つのグループ(the Brics and the sicks)に分けてみるようになっている.ダイナミックに成長するBRICSと,失業,低成長,債務に苦しむ欧米である.

BRICSが示す困難な状況は国によって異なるが,二つの問題は明らかだ.1.デカップリングは間違いだった.欧米の減速はBRICSの成長で補うことができず,むしろ連動し始めた.2.慢性的な政治腐敗や不確実性が経済コストを高めている.

BRICSのエンジンであった中国も,ある意味では望ましいことだが,これまで崇めてきた8%の成長率を下回る.その不安感は次期指導者の失踪,日本への巡視艇派遣,などとも重なっている.そして,中国の減速がブラジルにも響いた.インドやロシアの政治が抱える困難は,また別である.

YaleGlobal, 8 October 2012

No Ancient Wisdom for China

James McGregor

中国の権威主義的資本主義authoritarian capitalismシステムは持続的な成長を実現できない.その崩壊は世界経済を道連れにする危険がある.

多国籍企業は技術の流出を恐れ,投資を控えるようになるだろう.中国は,成長とともに,共産党の政治的支配も強めようとしたが,両者は矛盾する.民間部門や企業の決定を強化してこの問題を解決しようとした指導部の改革派は,強く反対されて現状維持となった.国有企業SOEsの幹部を党が指名するシステムは,中国型のオリガークを生み出し,Bo Xilaiの失脚事件が示すように,彼らの富と腐敗は桁外れとなった.

FP NOVEMBER 2012

Think Again: The BRICS

BY ANTOINE VAN AGTMAEL

BRICSは一つのクラスか? ・・・BRICSは巨大である.世界人口の40%,陸地の25%,世界GDP20%を占める.世界の外貨準備の43%を支配し,さらに増大しつつある.

その概念はどのようにできたか.2001年,Goldman Sachs Jim O'NeillBRICsを命名したが,その20年前から潜在力は注目されていた.当時の証券投資においては,「発展途上国」や「第三世界」に含めて投資家たちが無視していた諸国に,「新興市場 “emerging markets”」という名を与えて,私たちが注目した.

BRICSの台頭は避けられないものか? ・・・それは正しいが,減速する.

金融危機はBRICSにとって好ましいものだったか? BRICSの競争力は不敗か? BRICSは投資に最適な場所か?  BRICSは西側を越えるか?  BRICSの政治問題は解決できていない?

FT October 11, 2012

The Beijing-Baghdad oil axis

By Javier Blas in London

FT October 11, 2012

Is China’s slowdown just western wishful thinking?

Kishore Mahbubani

中国の台頭こそ,われわれの時代の最大の事件である.5年以内に,購買力平価で見た経済規模が世界第1位になる.

しかし,この数年,中国に関する二つの説明が広まっている.一つは西側の説明で,中国の経済停滞,さらには崩壊を予測する.世界経済の悪化で輸出が減少するとか,毎年4万件の争議があるとか,政治システムがぜい弱だ,と主張する.しかし,Bo Xilaiの失脚は中国の政治システムにトップまで腐敗した証拠とみる西側の説明と違って,東側は,中国のルールに従う共産党の支配が正しい反応を示した,と説明する.

中国共産党が独裁体制である,という西側の説明は,中国の支配者が決まった期間で権力を移譲することを正しく見ていない.そして,そのシステムは最も優れた人々を指導的地位に迎えることにも成功している.

中国が得たさまざまな有利な条件を活かして,次の指導者たちは一層の発展を実現する,という東側の説明こそ,正しいとわかるはずだ.


l  キューバ危機とアメリカ外交

FP OCTOBER 5, 2012

Better Late than Never

BY JAMES TRAUB

FP NOVEMBER 2012

The Myth That Screwed Up 50 Years of U.S. Foreign Policy

BY LESLIE H. GELB

J.F.ケネディーとフルシチョフとのキューバ・ミサイル危機は,ケネディーが一切譲歩をせずに,強い姿勢を示したことで,フルシチョフが一方的に譲歩してミサイルを撤去した,という話になった.それは事実ではなく,神話である.ケネディーは,交換条件として,カストロの島に進攻しないことを約束し,トルコからジュピター・ミサイルを撤去して,秘密裏に譲歩したのだ.

しかし秘密は何十年も守られ,神話はその後のアメリカ外交を制約した.ケネディーのように,その後のアメリカ大統領は妥協や譲歩を拒否し,もっぱら強硬策を採るようになった.それは国民に支持されたが,大きな犠牲や致命的な失敗を招くこともあった.

今や数十年を経ても,核兵器に関してイランとの妥協を拒み,アフガニスタンにおいてはタリバンとの妥協を拒んでいる.しかし,ケネディー政権の顧問たちは,その後,皆,ベトナム戦争に反対するようになった.軍事力の価値や大国による威嚇を信用しなくなり,逆に,外交的な妥協を熱心に提唱した.

McGeorge Bundyはその著書で述べた.「ジュピターに関する譲歩を秘密にしたことで,われわれは仲間を誤りに導き,われわれの国や後継者を誤導した.」

政治家や政策担当者たちは,現実的な妥協案をオープンに,恐れることなく検討し,他の選択肢と比べて議論しなければならない.妥協は現実には失敗するし,大統領は威嚇を強め,ついには軍事力を行使することもあるだろう.しかし,あの冷徹なケネディーでさえ,キューバ.ミサイル危機では妥協を解決策とし,しかも,それは成功したのだ.

Project Syndicate 08 October 2012

The Cuban Missile Crisis at 50

Joseph S. Nye


l  アラブ世界

BLOOMBERG Oct 7, 2012

Turning Iran’s Currency Crisis Into a Revolution

The Guardian, Monday 8 October 2012

Only stability will keep al-Qaida groups out of Somalia and Libya

Abdel Bari Atwan

テロ組織を制圧する作戦は,成功したように見えても,社会状態が悪化すれば,容易に再生する.イスラム過激派はマホメットが教えたようにhijura移住するのだ.そして戻ってくる.

アラブの春は,彼らにとって再生する好条件を与えた.他方,安定した民主的体制が安定性,正義,安全を築き,政治的なプロセスに人々が参加することで,テロリストの循環から逃れることができる.

FT October 8, 2012

Striking questions on drone attacks

Project Syndicate 08 October 2012

Hands Off Syria?

Harold Brown

アラブ世界において,シリアの社会は他の移行過程にある諸国よりも複雑である.また,その対外関係も複雑である.だから,軍事介入は単に困難であるだけでなく,極端にリスクが高い.

たとえば,シリアはスンニー派と戦うシーア派の代理になっている.それゆえ,サウジアラビア(スンニー派)とイラン(シーア派)が支援している.また,他の宗派もマイノリティーとして近隣諸国と関係し,地域の重要なプレーヤーであるトルコやロシアも戦略的な利益を意識してこの紛争に関与している.

この18か月に及ぶ紛争の犠牲者は推定1万人であり,これは1982年の都市ハマにおいて,わずか数日で,アサド大統領の父Hafez al-Assadが殺害した数に等しい.その殺害と都市破壊は彼の権力基盤を強化したため,国際社会は単に言葉だけで非難したにとどまる.

FP OCTOBER 9, 2012

Don't Just 'Do Something'

BY MICAH ZENKO

WP October 11, 2012

A conservative split over the Middle East

By Fareed Zakaria

WP October 12, 2012

The real Libya scandal: The failure to respond

By Marc A. Thiessen


l  メルケルのアテネ訪問

The Guardian, Monday 8 October 2012

The Greek message for Angela Merkel

Alexis Tsipras

火曜日,アンゲラ・メルケルはアテネに来て,5年連続で不況に苦しむギリシャを観る.2008-09年は世界金融危機の影響で,その後はトロイカ(IMFEUECB)とギリシャ政府による緊縮策で,不況を強いられた.

この政策はギリシャ人,特に,労働者,年金生活者,小規模ビジネス,そして女性と若者を苦しめた.経済規模は22%も縮小し,労働者と年金生活者は所得の32%を失った.失業率はかつてない24%の水準に達し,若者の55%が失業している.

政府は緊縮策によってだけギリシャは公的債務を維持できる,というが,それは間違いだ.緊縮策は不況を強めて,ギリシャの債務を増大させ,債権者にも災厄となる.このことは,メルケルを含むヨーロッパの指導者たちも知っているはずだ.

では,なぜ彼らはこの破壊的な政治・経済過程を,これほどドグマ的に主張するのか?

「彼らの目的は債務危機を解決することではなく,ヨーロッパ全体に新しい規制体制を築くことである,とわれわれは確信する.それは低賃金と労働市場の規制緩和,政府支出の削減,資本に対する優遇税制を意味する.それを達成するため,戦略として,政治的・財政的な脅迫が行われている.ヨーロッパ市民に,抵抗することなく,緊縮パッケージを信じ,受け入れるように強制するのが目的だ.ギリシャにおける恐怖と脅迫の政治は,この戦略の最善の証明である.」

WSJ October 8, 2012

Euro Leaders: Retreat Is Not an Option

By MARK HAEFELE AND DAVID MCMAHON

VOX, 8 October 2012

Protests, riots, rightists rage in Europe – but to no ill effect

Jacob Funk Kirkegaard

各地の反対運動や政治の右傾化は緊縮策に影響していない.これはドイツの国内政治劇だ.そしてEUの政治は,アメリカと違って,ECBの権限拡大を認めないだろう.

FT October 9, 2012

Crisis shows why EU must renew its vows

Guy Verhofstadt and Daniel Cohn-Bendit

FT October 9, 2012

Merkel risks high stakes in Athens

SPIEGEL ONLINE 10/09/2012

German Chancellor to Athens

'We Are Partners and We Are Friends'

2007年以来初めてのギリシャ訪問で,アンゲラ・メルケルは,「毎日,前進している」と,ギリシャ国民を励ます言葉を掛けた.ドイツ首相はまた,医療保険と地方財政を助ける,ドイツの資金で行う二つの開発プロジェクトを発表した.経済改革を強硬に要求する彼女の姿勢に,アテネでは5万人の抗議デモが迎えた.」

SPIEGEL ONLINE 10/09/2012

Taming the Markets

Eleven EU Countries Agree on Transaction Tax

SPIEGEL ONLINE 10/09/2012

The Egoists' Hour

Debt Crisis Gives European Separatists a Boost

By Fiona Ehlers, Hans Hoyng, Christoph Schult and Helene Zuber

Project Syndicate 10 October 2012

Back to the Brink for the Eurozone?

Kemal Derviş

ECBのドラギ総裁が公的債務を購入したことで,一時的に危機は緩和した.しかし,ユーロ圏の統合化が進み,特にマクロ政策が調整されなければ,危機は再発するだろう.

ヨーロッパで支配的な考え方は,今も要するに「内的切り下げ」の強制である.南の諸国は極端な緊縮策と賃金引き下げ,物価下落を求められている.確かに,ある程度の内的切り下げは行われたが,その経済的・社会的破壊によるコストは甚大である.

ヨーロッパの南部ではこうした苦境が深刻化しているのに,北部では経常収支黒字を出している.ドイツの黒字額は2160億ドルであり,今や中国を抜いて世界一である.非ユーロ圏の北欧諸国(スイス,スウェーデン,デンマーク,ノルウェー)も過去12か月に5110億ドルの黒字を出した.これは,ヨーロッパの他の地域や世界経済から需要を奪っており,恐るべき事態である.

北の諸国は,賃金上昇や国内需要の刺激は競争力を失わせ,貿易黒字が減る,と主張する.それは全体を見ていない.黒字国は赤字国と同様に,グローバルな,そして地域的な,均衡回復に貢献しなければならない.世界は地球外に輸出できないのだから.

北部ヨーロッパの保守的な政治家とエコノミストたちがマクロ政策を調整しないなら,それはユーロ圏を終わらせ,われわれが数十年間にわたって築いてきた平和と統合のプロジェクトを終わらせるかもしれない.

Project Syndicate 10 October 2012

The Eurozone’s Narrowing Window

Ashoka Mody

NYT October 10, 2012

Ms. Merkel Goes to Athens

VOX, 11 October 2012

An overlooked currency war in Europe

Daniel Gros

巨額の経常黒字を維持するスイスが為替レートを固定化することは,中国に匹敵する為替レートの操作を続けているのであり,ユーロ圏に対する隠れた通貨戦争である.


後半へ続く)