IPEの果樹園2012
今週のReview
10/8-13
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「アラブの春」から何が変わったか?
・・・ユーロ危機は終わったか? ・・・アフガニスタン ・・・イギリス労働党の党大会 ・・・アメリカ大統領選挙の対立軸 ・・・QE3の限界 ・・・中国はどう変わるか? ・・・グルジア大統領選挙 ・・・日本は何によって変わるか? ・・・アメリカ大統領候補のテレビ討論
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg,
China Daily, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The
Guardian, NYT: New York Times, Project Syndicate, SPIEGEL, VOX: VoxEU.org, WP:
Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)
l 「アラブの春」から何が変わったか?
FP
SEPTEMBER 26, 2012
Eight
Ways to Deal With Iran
BY STEPHEN J. HADLEY
今では.アメリカはイラク戦争に踏み込むべきではなかった,と言われる.
戦争は最後の手段である.しかし,イラクに対しても,共和党であれ民主党であれ,いずれの大統領の下でもアメリカ政府は,国際社会とともに,さまざまな手段でイラクに政策の転換を求めていた.国連安保理決議,さまざまな経済制裁,国際機関による査察,飛行禁止空域の設定,1998年の限定的な軍事力行使,サダム・フセインの国外退去,それらは全面的な戦争を回避する選択肢として尽くされた.
戦争という選択をする前に,すべての利用可能な選択肢を検討しなければならないとしたら,イランに対して,我々は今,それを必要としている.8つの選択肢を挙げて,その潜在的利益とコストについて,検討する.
NYT September
27, 2012
The
Arab Spring Still Blooms
By MONCEF MARZOUKI (Tunisia’s president)
FT September
28, 2012
Middle
East: A second winter of war
By Michael Peel
NYT September
30, 2012
Waiting
for an Arab Spring of Ideas
By TARIQ RAMADAN
最近アメリカに行ったとき,知識人やジャーナリストが尋ねた.我々は間違ったのか? イスラム教徒も民主主義の理想を共有したのではなかったのか?
反イスラムのビデオに反発したデモに加わったのは,イスラム社会のごく少数の人たちだ.彼らの暴力は受け入れられない.2010年以来,独裁者を倒すために,規律正しく,非暴力的に,街頭で行動した数百万人の民衆を,彼らは代表していない.
アメリカ人の多くはアラブ諸国の流血や無秩序に驚嘆した.こんなことになるのを支援したはずではなかったから.しかし,アラブの,その多くであるイスラム教徒の記憶は,長く,広い.アメリカは何十年も,自分たちの経済的利益や安全保障を得るために独裁者たちを支援した.イラクとアフガニスタンに侵攻した.アブグレイブやグアンタナモで囚人たちを虐待した.しかも,アメリカは永久に,無条件で,イスラエルを支持しているようだ.アフガニスタンから撤退し,パレスチナに関する国連決議を守り,ドローンによるテロとの戦争をやめてはどうか.
しかし,過去の植民地主義や帝国主義として西側を責める時代は終わった.イスラム教徒が多数派の社会は,歴史的な犠牲者としての立場を捨てて,数百万の民衆が歴史を変えたように,自分たちが力を得た主体であることを受け入れるときだ.
イスラムと西側とを二分法で見るのは,多極化した世界にふさわしくない.経済の重心は東に移動している.主義者がアメリカの衰退を喜ぶのは早すぎる.それは,社会的権利や人権を後退させ,新しい国際的な従属をもたらすかもしれない.
アラブの民衆が自分たちの文化的,宗教的な伝統に合わない価値を受け入れないのは当然だ.自由も,正義も,平等,自立,多元社会,民主主義や国際社会の新しいモデルは,この伝統に合致しなければならない.そのためには,政治的な蜂起だけでなく,知識における蜂起が求められる.経済の変化,精神,文化,宗教,芸術の自由化,女性の地位改善,など.それは容易でない.
政治的・宗教的な権威をめぐって,さまざまな宗派が対立している.世俗派とイスラム派との対立が,それ以外の違いを見えなくする.西洋化した世俗派のエリートたちは,民主主義や人権を語るが,民衆の声を代表していない.その一部は旧独裁体制や軍のインナー・サークルに近かった.他方,イスラム主義者が,独裁者と闘ってきた歴史的な代価により,各国の選挙で勝利した.
しかし,イスラム主義者も矛盾に直面する.民主化,経済政策,イスラエルとの関係,などで外国から変更を求められている.エジプトのモルシ大統領は,表現の自由をめぐってオバマ大統領を批判した.
「我々に必要なのは,(表現を規制する)法律ではない.勇気ある学者や知識人だ.同胞であるイスラム教徒たちが聞きたくないような真実を語り,自分たちの失敗を語り,自分たちが犠牲者であることを言い訳にする傾向を止めて,その行動に責任を求めるような勇気を示す者だ.」こうした議論が宗教的なポピュリズムや情念で動く大衆の無謀さを止める.
イスラム主義者は難しい時代に入る.反対勢力として得てきた彼らの信用を失うだろう.自分たちの政治綱領の多くを変更し,修正しなければならない.勝利は,こうした敗北から始まる.サラフィやワハーブは政治に参加することを拒んできたが,緩やかに関与しつつある.
その一部が暴力的な過激集団である.他の一部はサウジアラビアや裕福な湾岸産油諸国によって資金援助され,政治の主流派になっている.しかし,宗教的な,反民主主義ポピュリズムである.西側(特にアメリカ)を悪魔として嫌い,民主的な改革に反対する.これにはアフガニスタンの前例がある.1980年代,タリバンはサウジアラビアやアメリカによって支援されていた.そしてロシアの支配に対する主要な勢力になった.
真の民主主義が育つためには,イスラム社会の中で,経済的な優先順位が変わり,腐敗を抑え,軍事優先を改め,他国との経済関係を改め,富や所得の不平等を減らすことだ.ダイナミックな市民社会が現れることが重要だ.それに向けて,教育や女性の地位も変わる.
蜂起はまだ革命ではない.
The
Guardian, Tuesday 2 October 2012
The
currency war on Iran
Peter Beaumont
BLOOMBERG
Oct 2, 2012
Muslim
Anger Could Spur Economic Growth
By Meghan L. O’Sullivan
暴動は長く影響するだろうか? むしろ,アラブ世界の指導者たちに,経済や安全保障で,既存の方針に転換を迫るものになれば,成長を開始するきっかけになるだろう.
たとえばリビアでは,大使館の殺害事件後,政府は民間の軍事集団に武装解除と公共施設からの退去を命じた.リビア政府は外国軍の派遣を拒否したが,治安回復に協力を要請する余地を認めた.
エジプトでも,反米デモに対するモルシ大統領の姿勢は,緩やかではあるが,次第にアメリカ大使館への攻撃を非難したし,サラフィ派との距離を示した.モルシはその姿勢を穏健なものに変えることに失敗したが,次の最大の課題は明らかにIMFとの融資交渉だ.サラフィ派には,金利の支払いをイスラムに反すると主張する者もいる.しかし,エジプトにとって融資は欠かせないものだ.保守強硬派との公然とした違いを示すしかない.
アラブ諸国の暴力に対して,アメリカ国民が不安と嫌悪を感じるとしても,関与を減らすことは間違いだ.彼らの抱える諸問題は,アメリカの一層の支援を必要としており,アメリカは関与を強めるべきだ.アメリカが彼らの失業問題や社会正義に関して解決策を示すことはできないが,穏健で,経済において開放的な,アラブ社会を築くために支援できる.
アメリカ企業にエジプトへの投資を促し,その製品がアメリカ市場に参入する障壁をなくし,政策を改革するための支援や専門家を派遣することは,エジプトの長期的な展望を改善する戦略の柱である.
FT October
4, 2012
Syria
inaction could ignite a fragile region
By Sinan Ulgen
l ユーロ危機は終わったか?
NYT September
27, 2012
Europe’s
Austerity Madness
By PAUL KRUGMAN
ユーロ圏の赤字諸国は融資の条件として緊縮政策を求められた.しかし,融資は返済できなかった.彼らは国民を観ていなかったのだ.
突然,スペインでもギリシャでも,ストライキと大規模なデモが現れた.彼らは,もう限界だ,と叫んでいるのだ.失業は既に大恐慌の水準に達し,中産階級の労働者たちが失業して,食べ物を得るためにごみ箱をあさっている.緊縮策は行き過ぎだ.
赤字国は放漫財政を続けたのではない.スペインは黒字だったし,債務も少なかった.不況が赤字増やしたのだ.彼らは,もし離脱ができないなら,長期間のデフレを耐えるしかない.
アメリカでもヨーロッパでも,あまりに多くの人が間違った信念を持っている.失業よりも,財政赤字を重視する.ドイツの政治家たちは,全くの道徳劇しか頭にない.現在の消費に耽った者は付けを払うときが来るのだ,と.事実はそれと関係ない.そして,ドイツの銀行が深く関わっていることも見ようとしない.罪と,その報い.それが彼らの話だ.
The
Guardian, Friday 28 September 2012
The
root of Europe's riots
Ha-Joon Chang
1980年代,90年代,発展途上諸国で危機が起き,その後の騒乱は「IMF暴動」the "IMF
riots"と呼ばれた.それはIMFとの融資交渉によって押し付けられた緊縮策,自由化や民営化によって起きたからだ.
IMFの政策プログラムがそのような激しい抵抗に遭ったのは,彼らが数字の背後にある人々を忘れていたからだ.その後,IMFも多くの改革を行い,規制緩和や緊縮策も,貧困解消プログラムとして構造調整と呼ばれるようになった.また,わずかであるが,発展途上諸国の発言権も強まった.
旧いIMFの緊縮策を,今はEUが求めている.ヨーロッパで起きていることは,第二次世界大戦後に成立した社会契約を,完全に書き換えることに他ならない.それは大恐慌を経た資本主義システムが,福祉国家によって,養育,教育,医療,失業,身体障害,高齢者,などの最低限の保障を与えることで,正当性を再確立したのだった.その改変の範囲とスピードは異常なほどであり,しかも,民主的な手続きがないまま,ますます裏口からやってくる.
ヨーロッパ経済だけでなく,ヨーロッパの民主主義が脅かされている.
FT September
28, 2012
Europe
needs to look at sharing more of Greece’s pain
Mohamed El-Erian
Project
Syndicate 28 September 2012
Europe’s
Trial by Crisis
Joschka Fischer
2500年前の古代ギリシャの哲人Heraclitusは,戦争が万物をもたらす父であると考えた.危機は万物の母と考えたかもしれない.
幸い,大国間の戦争は核攻撃を行う能力を持つことで現実的なオプションではなくなった.しかし,現在の世界金融危機のように,主要な国際的危機は,今も我々とともにある.つまり,それは悪いことばかりではない,という意味だ.
戦争と同じく,危機も現状を根底から撹乱し,それゆえ,そのような破壊力なしには通常なしえないような,機会を生み出す.危機を乗り越えるには,かつて実際に行えるどころか,考えることもできなかったようなことを実行しなければならない.
3年に及ぶ世界金融危機から影響されたEUの危機は,その基盤を動かした.かつてありえないと思われたことが,今では存在する.また,実現を阻んできた多くの痕跡は消え去った.ドイツ政府はその変化を積極的に支援している.・・・政府による銀行救済,ヨーロッパの経済ガバナンス,ECBによる公的債券購入,ECBのドイツ連銀型からアングルサクソン型への転換.ユーロ債への抵抗も消えるだろう.
ドイツは,ヨーロッパ最大の経済として重要な役割を負うのだが,その政治的指導力は持たなかった.そして,ドイツの反対を無視して,こうした改革は進んだ.その結果,ドイツにとって制度はその力を反映しないものになった.ドイツ連銀は,南欧諸国の陰謀によって犠牲となったのか? そうではなく,ドイツ連銀が自らユーロ圏の変化から身を退いたため,無視されたのだ.そうでなかったら,ユーロ圏はもはや存在していない.現実を無視したイデオロギーに戦略を委ねることは,危機における失敗の公式である.
こうしてユーロ圏は,銀行同盟から,財政同盟へ向かう.しかし,政治同盟は実現していない.その圧力は増すだろう.イギリスの反対を考えなくても,27の加盟諸国が同意することは不可能だ.危機における各国政府は,その過程で,ますます政府間合意を必要とし,連邦主義に向かうだろう.それは全く予想外の政治統合である.
結局,フランスの前大統領,サルコジが勝利したわけだ.ユーロ圏は今や参加諸国の政府が構成する事実上の経済政府によって指導されている.EU議会は誕生した非常事態に対処できないが,ユーロ圏を構成する議会に分かれるだろう.権力の空白を恐れるのではなく,この機会を活かすべきだ.こうして,各国議会と2院制のヨーロッパ議会との関係が整理される.
残る問題は,赤字諸国に対する成長戦略である.南欧の騒乱がそれを示している.この危機が作り出した機会を用いて,大胆に,断固として,行動せよ.
FT October
1, 2012
Blame
the great men for Europe’s crisis
By Gideon Rachman
SPIEGEL
ONLINE 10/01/2012
Troubled
Troika
Europe
Intent on Saving Greece Despite Lag in Reforms
By Julia Amalia Heyer in Athens
WSJ
October 2, 2012
Merkel,
Mario and the European Money Machine
By JOSEF JOFFE
さようなら,インフレ・ファイターのECB.こんにちは,現金引き出し機のユーロ連銀.
これは喜んでいるだけでよいのか? インフレはまだとしても,資産バブルはすでに起きている.政治はこれを利用する.モラル・ハザードも起きる.
FT October
3, 2012
Democracy
itself is at stake in southern Europe
By Mark Mazower
WSJ
October 4, 2012
Europe's
Reforms Are Working
By WOLFGANG SCHÄUBLE (ドイツ財務大臣)
IMF世銀の年次総会のため東京に集まる人々は,ユーロ圏の政府債務危機を話題にするだろう.しかし,私はこの会議に良いニュースを伝えられる.
市場は浮動的で,深刻な経済的苦痛を味わっている国もある.しかし,注目されていないけれど,その傾向は明らかに,処理がうまく行ったことを示している.その原因であった,特定の諸国における競争力の低下,財政状態の悪化が,今では改善されたからだ.
われわれの対策は正しかった.競争力を回復し,財政を再建するための国内改革.ユーロ圏の成立時にあった欠陥を解消する改革.改革を進める際に生じる短期的な困難を融資する基金.2年間の協力が実ったのだ.
個人の苦しみは確かに厳しいことだが,その犠牲を無駄にしないためにも,債務の相互化や安価な融資,財政刺激策に頼ってはならない.金融・財政危機は時間をかけて解決するしかないし,ヨーロッパ規模の監視が必要だ.
世界に当てはまる教訓は,財政への市場の信頼を重視することだ.それは,いったん失うと,容易に取り戻せない.アメリカも,アジアも,財政赤字の水準がかつて無いものになっている.
l アフガニスタン
The
Guardian, Friday 28 September 2012
The
lies about aid and Afghanistan
Conor Foley
援助は.軍の不足を補うものと考えられた.支援活動が軍事活動の一部であるために,タリバンは人道援助の要因を標的にするようになった.現地の住民の心をつかむ作戦は成功しなかった.援助の不足が問題なのではなかった.逆に,安全保障が欠けているから,援助は行えなかったのだ.ガバナンスの問題があり,それはテロ対策では補えなかった.
FP
OCTOBER 3, 2012
China's
Afghan Moment
BY ANDREW SMALL
l イギリス労働党の党大会
FT September
28, 2012
Welcome
to the party!
By Jamil Anderlini, Patti Waldmeir, Kathrin
Hille and Simon Rabinovitch
FT September
28, 2012
Goodbye
Beveridge: welfare’s end nears
By David Goodhart
FT October
1, 2012
Miliband
needs to give Labour a shock
By Janan Ganesh
The
Guardian, Tuesday 2 October 2012
Ed
Miliband must move further and faster from New Labour
Seumas Milne
マードックを批判し,銀行を批判し,LIBORに示された金融業界の談合を批判した.
保守党と,中間派だけでなく,それぞれの支持基盤を奪い合う.
資本家や銀行を批判し,市場に依拠してきたブレアのニューレイバーと離別する.労働党内のブレア派と対立を招く.
ネオリベラリズム批判は明白だが,それに代わるものはない.新しい経済モデルによっては,シティと対立する.
資本家を批判するだけでは,ユーロ危機がイギリスに及ぶかもしれない.
The
Guardian, Tuesday 2 October 2012
Ed
Miliband's breathtaking bravura and a One Nation stroke of genius
Polly Toynbee
エド・ミリバンドの激しい演説は,保守党から微笑を奪っただろう.彼の平等主義に従う信念は本物である.それは,One Nation Labourが示したものだ.
その一言で,ブレアとブラウンの遺物を一掃した.Not Old Labour, not New Labour, but One Nation Labour. 彼は正直に,その肌の色に向かい合い,移民の両親の物語から,彼がイギリス社会により与えられたものを,彼らを迎え入れてくれたことに,今度は自分が社会へ還元したい,と語る.
それはキャメロンと保守党の伝統に対する挑戦であり,One Nation Toriesへの報復だ.保守党員たちは,Sir Ian Gilmour や Jim Priorのように,マーガレット・サッチャーの言葉を繰り返す.「社会なんてものはない."no such thing as society"」 そして,キャメロンは億万長者に税制上のボーナスを与え,身体障碍者への給付は冷酷に削減した.分割して,支配せよ.それが保守党だ.
彼の演説は人々を怒らせ,その怒りが労働党への支持になる.しかし,期待を高めることで,少ない財源は彼に一層難しい選択をもたらすだろう.
この飢えた男に,少なくとも火曜日の勝利は与えられた.
FT October
2, 2012
Miliband
steals Disraeli’s clothes
その言葉はBenjamin
Disraeliが19世紀に唱えたものだが,ミリバンドの敵は21世紀のキャメロンだ.
キャメロンとの教育歴の対比は,まるで階級戦争だ.「殺し屋」銀行と製造業とを対比し,銀行の分割を脅す言葉は,景気回復や起業家の気持ちを損なうだろう.その演説は労働党に向けたもので,まだイギリスに対してではない.
l アメリカ大統領選挙の対立軸
FT September
28, 2012
Imaginary
foe in the presidential election
By Adam Haslett
NYT September
29, 2012
The
World We’re Actually Living In
By THOMAS L. FRIEDMAN
オバマ大統領は,われわれが複雑な世界に住んでいることを知っており,それを国連総会で語った.ロムニーは,豊富な国際ビジネスの経験からそれを知っているはずだが,国際パンケーキ・ハウスで学んだ外交は,以前と何も変わっていない.つまり,民主党は「弱腰」で,アメリカの価値を守るために戦う度胸が無い.共和党は「タフ」で,1989年の冷戦終結を再現できる.
ロムニーにとって重要なことは,大統領が強い「意志」を持つことだ.ロシアに対抗し,中国を非難し,イラクから撤退せず,アラブ世界を侮辱するのはイスラエルに委ねずアメリカ自身でやる.イスラエルへの空爆も承認する.そして防衛予算を倍増し,減税し,財政赤字は削減する.
こうしたすべての矛盾したことを同時に行う力はアメリカにない.ジョージ・W・ブッシュが二つの戦争と大幅減税で我々の力を半減したのだ.
われわれが住む本当の世界は,もっと大幅に相互依存しており,敵国と同様に同盟国(たとえばギリシャ)が我々を深く傷つける.われわれのライヴァル(中国)が崩壊することは,その台頭と同じくらい,われわれを苦しめる.自国の市民がつくった陳腐なビデオがYouTubeに載ったことが,超大国の数百万ドルを費やすキャンペーより深刻な問題を生じる.グローバル化した経済のせいで,アメリカの商工会議所は中国の通貨操作を非難するロムニーの公約に反対する.アメリカは外交の力を回復するために,ロシアや中国を見習って,国内の制度や学校,価値を回復しなければならない.軍事力の行使や威嚇は必要だが,それは時と場所を考えなければならない.
アメリカは,より大きな責任を負い,より少ない資源で,アクターたちのより複雑な組み合わせに対して,よりわずかな影響力しか行使できない.それは孤立主義を支持するものではないが,思慮深く,繊細な,力の行使を求められる.
FT September
30, 2012
Obama
will need more than luck
By Edward Luce
オバマがスウィング・ステート(重要な激戦州)でリードしている.
確かにこれまでオバマは幸運な候補者であったが,討論はうまくない.経済問題で,マッケインに勝てても,ロムニーに勝つことはできない.テレビ討論が選挙の趨勢を変えたことはない,というジャーナリストたちは間違っている.そして,タイムズ・スクエアが爆破されたり,ウォール街が暴落するような,衝撃が襲えば,政治の雰囲気は変わる.
NYT October
1, 2012
The
Opening Statement
By DAVID BROOKS
WSJ
October 1, 2012
Alan
Blinder: The Case Against a CEO in the Oval Office
By ALAN S. BLINDER
ビジネスで成功したことが,大統領にふさわしい実績になるのか? おそらく,ならない.歴史は,この二つが異なった性質であると示している.
最良の大統領たち(Abraham
Lincoln, George Washington, Thomas Jefferson and the two Roosevelts)にはビジネスの経験が無かった.共和党の自慢するRonald Reaganも,労働組合の指導者であっただけだ.二人だけ(Herbert Hoover and
George H.W. Bush)は,成功したビジネスマンだった.
ビジネスは良くできたゲームであり,ルールがあって競争する.その成果は貨幣で測られる.大統領は全く違う.競争相手はおらず(敵はいるが),ルールはなく,貨幣では測れない.大統領は民主主義を守り,強化するが,成功したビジネスマンは,民主主義によるより,むしろ善意の独裁者だ.企業は効率を目指すが,政府が重視するのは公平性だ.
FT October
3, 2012
Hope
for the disillusioned US heartland
By Matthew Slaughter
NYT
OCTOBER 3, 2012
A
Better Approach to Presidential Debates
Alan Schroeder ・・・候補者二人のテレビ討論は,完ぺきではないが有益だ.他の政治コミュニケーションに比べても,メリットがある.それは何より,候補者たちをあたかも就職面接試験のような状況に追い込む.
1.有権者は二人を同時に見て,比較できる.2.いつもは周到に準備された候補者たちの姿を抜け出し,自分だけの意志で行動させる.3.何百万人もテレビの前に集まった人々が,自分たちの国の将来について,集団的な経験を分かち合う.
わずか90分で個々の政策を論じることはできない.テレビ討論の主要な目的は,この重圧下で,候補者たちに即座の対応を迫ることだ.有権者は,まさに誰を雇用するか,面接試験を課している.そして,テレビに映る候補者たちは,彼らが必ずしも強調したくない点を強調してしまう.
Ruzwana Bashir ・・・テレビ討論は時代遅れだ.ケネディーとニクソンに比べて,オバマもロムニーも準備された芝居でしかない.もっと新しい形式を必要としている.言葉や知的な正直さが重要であり,人間的なつながり,聴衆との交換が必要だ.新しい技術が,オバマのGoogle Hangoutや両候補によるTwitter討論を継続している.それは最終的に,人民の,人民による,人民のための対話となる.
WP
October 3, 2012
Questions
for Obama and Romney to answer
By Ruth Marcus
WP
October 3, 2012
Tonight’s
debate: The advance transcript
By Matt Miller
WP
October 3, 2012
35
questions from the 99 percent
By Harold Meyerson
質問は中心部の金融エリートが持つ関心を反映するのか? あるいは,99%の国民の関心か? たとえば,中心部の平均的な人々は,財政を健全化するのにそのような苦痛を求められるか知りたいだろう.
私は候補者たちに尋ねたい.この数十年,重要な経済発展を遂げたのに,アメリカの家計は所得が停滞し,減少した.この変化の背後には何があったのか? 生産性や利潤は増大したが,それはどこへ行ったのか? グローバリゼーションや中国が悪いのか?
アメリカ人の職場の多くは中国の工場と競争していない.ウェイター,大工,トラック運転手,看護婦,など,彼らの賃金はなぜ上がらないのか? 彼らのために連銀が行動するのは正しいか? 労働条件の集団交渉が無くなったことは良かったのか? 民間部門の賃金を上げる政策案はあるか? 今の賃金では,医療費や教育費の上昇に応じられない.
ウォール街の膨張は良かったのか? グラス=スティーガル法を復活させるべきか? 経済のバランスを回復するために,アメリカも金融取引に課税するべきか? 富裕層がケイマン諸島に資産を隠すのは良いことか? それらに課税するべきか? あるいは,国内でも同じような特例を認めるべきか?
CEOのゴールデン・パラシュートは良いことか? 軍事支出は国内の景気を刺激するか? あるいは,もっと非軍事的な国内投資で経済を刺激するべきか?
WSJ
October 3, 2012
Henninger:
The Romney Reboot Arrives
By DANIEL HENNINGER
WSJ
October 3, 2012
The
Romney Cure for Obama-Induced Economic Ills
By JOHN B. TAYLOR
私の経済学のクラスの生徒が,ロムニーのプランで経済は回復するのか,と尋ねた.
まず,アメリカ経済の現状は厳しく,しかも悪化しつつある.オバマ政権の経済政策は,巨額の債務を累積してきたが,いずれも短期的である.
基礎的な経済学が我々に教えるように,このような一時的政策は成長を再起動するのに役立たない.もっと持続的な改革が必要であり,ロムニーのプランはそれを示している.エネルギー,教育,貿易,債務削減,雇用促進に重点を置く.
成長には持続的なエネルギー供給が必要だ.パイプライン建設など,インフラ建設をロムニーは提案する.教育についても,ロムニーは既存の連邦予算で改革を実行する.生徒たちが他の公立校やチャーター・スクールに出席できるようにするのだ.
通商政策を積極的に進めれば,他国の市場開放やアメリカの生産者のコストが削減できる.それは人々の実質政策水準を改善する.オバマ政権は通商協定を始めることも,既にあった交渉をまとめることもできなかった.ロムニーはグローバルなエンタープライズ・ゾーンを設けて貿易障壁の廃止を推進する.
連邦財政の債務が爆発しつつある.これは将来の増税と金融危機を予想させることで成長を抑えるだろう.ロムニーは債務を2016年までにGDP比20%に抑えるだろう.それは金融危機前の2007年の水準に戻すことだ.そのためには,家族でも政府でも同じだが,支出削減を行う.
投資と雇用を増やす税制改革を進める.企業がグローバルな市場で競争できるように法人税率を下げることが必要だ.ロムニーは富裕層に有利な税制を求めているのではない.むしろ限界税率を下げる交換に,控除制度を破棄もしくは制限するだろう.また,金融改革についても煩雑な規制を増やすのではなく,十分な自己資本を求め,オバマが自動車会社に示したような親しい利益集団に対する救済ではなく,法の下の平等を重視する.
Project
Syndicate 03 October 2012
Why
is Obama Winning?
Harold James
選挙結果を決めるのは,かつてクリントンの選挙戦略を担当したJames Carvilleが明言したように(“It’s
the economy, stupid.”)経済である.だからジョージ・H・W・ブッシュや,現在のヨーロッパ諸国は選挙に勝てないのだ.
しかし,絶望的な経済状態だけれど,オバマは勝つだろう.それは景気回復の効果が誰にも見いだせないこと,オバマが引き継いだ負の遺産があったからである.実際,周恩来がフランス革命の評価を控えたように(ほんとは1968年のパリ学生革命のことを訊かれたのだが),政策や制度改革の結果は正確に測定できない.さまざまなことが同時に起きる.
経済の長期的な成功とは,富と雇用を増やす能力であり,それは生産性上昇に依拠し,すなわち,技術と組織の革新に依拠しなければならない.政府が振る魔法の杖などない.
しかし,政府は生産性の上昇に影響できるから,この点を論争の出発点にするのが良い.たとえば,労働者たちを間違った雇用に導く(あるいは,維持する)不況対策は,生産的な職場で労働者の不足を招く.
1930年代の公共工事を「総需要」の増大として支持したケインズや,それを迅速に実施したヒトラーは,その失敗を示した.軍備拡大と,市場経済では使えないような商品の山を築いたのだ.戦間期だけでなく,2008年のスペインにおける建設ブームも同様であった.若者たちが,高給と低熟練の建設部門に吸収されたため,その後の高失業を増幅したのだ.
他方,単に危機を放置するのもとんでもない政策だ.それは一国の熟練の基礎,人的潜在能力を破壊し,人間の尊厳を損なう.つまり,政策はもっと長期で評価されるべきなのだ.
この点で,成果があるとしたら,オバマ政権によるのではなく,連銀による金融政策のおかげであろう.金融市場が刺激され,その強力な「資産効果」により,人々の心理や年金基金の成果が改善する.
経済パフォーマンスは,もはや経済実態ではなく,資産市場の認識に依存している.それゆえ,選挙結果は長期の成長ではなく,金融政策が資産市場に及ぼす影響に依存している.アメリカ連銀は,はるかに政治的な機関となっている.オバマ再選が実現したとき,共和党は連銀の金融刺激策を非難するだろう.
他方,ヨーロッパは中央銀行を政府が支配することが困難であるから,ユーロ圏の政治は各国通貨を取り戻すことに向かうだろう.
The
Guardian, Thursday 4 October 2012
Obama-Romney
debate: rocky evening in Denver
The
Guardian, Thursday 4 October 2012
A
third party could end the US presidential debate deceit
Glenn Greenwald
FT October
4, 2012
Republicans
are losing the US culture wars
By Philip Stephens
市民の価値観や直感から乖離した政党は,反対派を強める.1997年の選挙で,トニー・ブレアの労働党が保守党に勝ったのがそうだ.保守党は多くのことに反対した.ゲイに反対,移民に反対,個人の選択に反対,ヨーロッパに反対.これに対して,ブレアの容赦ない楽観主義が3度の選挙に勝利をもたらした.
共和党も,同じ問題に直面している.共和党のアメリカ人口の中で減少する白人労働者,特に南部に支持されている.他方,人口の益々多くがオバマを支持するヒスパニックだ.共和党は,文化戦争でも敗北している.ゲイや妊娠中絶を激しく非難することは,多様性を容認するアメリカ国民の多数から乖離してしまう.ロムニーはそれを知っているが,共和党の指名する候補者である限り,その制約に苦しむ.
FP
SEPTEMBER 28, 2012
Not
So Hot
BY BJORN LOMBORG
(後半へ続く)