前半から続く)


l  日中関係の悪化

FT September 24, 2012

The economics behind the China-Japan dispute

Yukon Huang

日中間の貿易やサプライチェーン,資源,地域貿易協定,などを介して,尖閣諸島・釣魚島の紛争が及ぼす影響は双方にとって重大である.

中国は日本の最大の貿易相手国になっているから,日本の方がボイコットなどには弱いだろう.しかし,日本の製品は中国の工場で中国人労働者が作っているから,二次的な影響は中国にも重大である.日中の貿易はそれぞれの優位を生かして補完的に増大してきたが,賃金上昇や人民元高など,最近の変化は中国に高付加価値の分野へ進出する動機を与え,補完関係ではなく,競争する関係に変わりつつある.

日本はTPPに参加することでアメリカの通商圏と関係を強化する姿勢を目指していたが,アメリカ政府の軍事的な「アジア旋回」と重なったために,中国側からTPPも「中国封じ込め」の一環と見られている.

領土紛争の論争が過熱するのを回避して,冷却期間を置くのが,日中双方の利益にかなうが,それぞれの国内政治問題は,ナショナリスティックな要求に強い姿勢で相手国に応えるしかなくなっている.

SPIEGEL ONLINE 09/24/2012

Senkaku Islands Dispute

Former Owner Criticizes Japanese Government

By Wieland Wagner in Tokyo

WSJ September 24, 2012

Playing Chicken in the East China Sea

By MICHAEL AUSLIN

WSJ September 24, 2012

China's Nationalist Furies

YaleGlobal, 24 September 2012

One Country, Many Voices

Jeffrey Wasserstrom

最近の中国で起きた反日デモは,2008年の北京オリンピックと比べることが有益である.

北京オリンピックは,映画監督のZhang Yimouが振付して,歴史への隠喩に満ちていながら,日本の侵略や毛沢東には直接に言及しなかった.今,中国の諸都市を行進したデモ隊は,毛沢東の肖像画を掲げ,日本兵の野蛮さを絶えず言及した.

一つの類似点は,中国の指導者たちが,現在の中国社会に調和を観て,対立を過去に見るよう,国民に求めたことだ.われわれと奴らとの対比は,反日によってBo Xilaiスキャンダルから関心をそらすことを狙ったものだろう.

それゆえ,ここには中国社会の意見の多様性が隠されている.

Project Syndicate 24 September 2012

The Roots of Chinese/Japanese Rivalry

Liah Greenfeld

FT September 25, 2012

Lessons for Tokyo from 1980s Britain

By PeterTasker

これはイギリスにもなじみのある問題だ.開戦の理由は無名の島々だった.政府は,長期にわたる経済衰退と,同盟国アメリカの姿勢を気にしていた.

その違いも明らかだ.イギリス経済はアルゼンチンよりもはるかに大きかったが,日本は中国経済に抜かれている.日本の軍隊は60年間発砲していないし,その予算もGDP1%に抑制してきた.他方,中国は核兵器を持ち,軍事予算も倍である.地球の反対側ではなく,日中は隣接しており,貿易額も巨額に上る.軍事衝突による影響は甚大だ.

誤算によって開戦に至ったケースは多い.緊張関係を緩和することが優先される.しかし,その後の日中関係には問題が山積する.「日本人を抹殺せよ」のプラカードは日本人の記憶に残り,沖縄の貴族さえ疑わしいという要人の発言は衝撃である.かつて鄧小平が中国の経済改革を助けるように求めた,パナソニックの工場さえ放火された.

生産拠点のリスクは,もっと生産コストの安い国に移転されることで解消されていく.他方,安全保障面では打つ手がない.アニメやJポップなど,ソフトパワーは無意味だったし,ハードパワーでも,中国の台頭は続き,エンゲイジメントや「汎アジア主義」,アメリカの関与も疑わしい.

日本が世界に占める位置は明らかでない.この事件の教訓は,もし日本がみじめな孤立状態を避けようと思えば,長期のデフレを解消し,経済成長の活力を速やかに取り戻す必要がある,ということだ.

フォークランド紛争後,1980年代のイギリスには,強気の資本市場があった.

FP September 25, 2012

World War II never ended in Asia

Posted By Clyde Prestowitz

この紛争は,アジア太平洋の指導者たちが感じ,行動する,世界の現状について,多くの真実を明らかにした.

1.  日本の安全保障に関与することは,アメリカ人にとって二次的な重要性しかない問題に関する,日中の国内政治にアメリカを巻き込むことになる.

2.  第二次世界大戦は,まだ,終わっていない.中国でも日本でも,ナショナリスト的指導者によって,国内政治を動かす感情として,また,他の難しい政治問題から関心をそらすために,戦争の余燼が利用される.

3.  中国の富の増大とグローバルな経済システムへの統合は,日本への不満に応え,国内政治問題を緩和する能力を高めた.それが意味するのは,中国がいまだに民主主義どころか,透明性を高めたリベラルな資本主義国家として運営されていない,ということだ.公私の区別はなく,内外の政治的必要に応じて,外資系の工場や外交官の自動車を暴徒に襲わせる.

アメリカはこの地域の外交を見直すべきだろう.軍事力をアジアに再配置しても,同盟諸国の利益を単に守るだけでは,尖閣諸島のように中国との対立を招くだけで,アメリカが得るものはない.尖閣諸島を守れば,日本市場が得られるとか,アジアが直接投資や技術移転を誘致する政策を抑えるとか,中国よりアメリカとより多く貿易する,というわけではない.むしろ,アメリカは孤立させられる.

アメリカは日本に対して,ハーグの国際司法裁判所に問題を委ねるように求めるべきだ.そして,尖閣諸島は,台湾の領土であった当時,1895年の日清戦争の勝利によって日本が得たものだ,という主張を認め,日本が戦争に対する最大の悔恨を示す意味で,これを自ら返還するのである.それは同時に,日本の国内政治から尖閣諸島を取り除くことにもなる.

この取引によってこそ,第二次世界大戦は終結し,アジア太平洋地域は真にグローバル化する.アメリカも紛争に巻き込まれることがなくなる.Win-win-winの解決策だ.

WSJ September 26, 2012

Staring Down the Paper Dragon

By JOSEPH STERNBERG

中国がその貿易関係を政治的に利用して報復する力を過大評価してはならない.

日本製自動車のボイコットが議論されている.確かに,中国は日本の最大の貿易相手であり,輸出の24%が中国向けだ.2011年の日本からの直接投資額は63億ドルに達した.さらに,日系企業が中国から日本や第三国に向けて輸出を伸ばしている.日本経済の低迷により,企業はますます海外における売上げや配当に頼っている.

しかし,だから中国からの経済制裁を恐れるべきか? と言えば,そうではない.現実はもっと共同依存体制になっているからだ.

日系企業の購入する原料の3分の2は中国国内からであり,販売の4分の3も中国国内である.その工場がどれほど「日本的」であるか,考えるべきだ.中国人労働者を雇い,中国の投入財を用い,中国の消費者が,より信頼できる品質と見なして製品を買っている.日系企業の工場は中国内のサプライチェーンで重要な役割を果たす卸売業である.他のすべての分野に部品を供給する.しかもそれらは資本財であり,中国の発展に欠かせないものだ.また,世界第3位の日本市場が中国企業にとって重要である.

日本ではなく,フィリピンに対しても,バナナの輸入を阻む中国の経済制裁は有効でなかった.フィリピン経済は,バナナ輸出ではなく,国内の経済改革によって成長を遂げている.また,フィリピンは中国が求める天然資源を持っている.

制裁というものはコストをともない,それゆえ,成熟した大国はこうした手段を利用しない.

FP SEPTEMBER 26, 2012

The Calm Before the Storm

BY ANDREW S. ERICKSON, GABRIEL B. COLLINS

BLOOMBERG Sep 27, 2012

Japan and China’s 118-Year-Old Cage Fight

By James Gibney

日中関係の歴史は安倍総裁の選出によってますます明らかになる.安倍晋三は「ナショナリスト」の政治家として,憲法改正を掲げ,従軍慰安婦や南京大虐殺を否定する.歴史家John Dowerが,満州国の実質的な皇帝であり,多くの中国人を奴隷状態に貶めた責任者であった,と描いた岸信介の孫である.彼が首相になるとは思えないが,もしそうなれば,その最初の仕事は,日中関係の改善を図る北京訪問となる.

012-09-27 (China Daily)

Friendly advice to Japan,US

By Zhou Fangyin

釣魚島の日本による「国有化」は,中国の主権と領土の一体性に対する侵害であるだけでなく,第二次世界大戦後の国際秩序に対する深刻な挑戦でもある.1945年のポツダム宣言は,台湾とそれに帰属する釣魚島を中国に返還した.それは国際秩序の一部である.

アメリカはこの地域の支配権を失いたくないから,長期的に経済力が衰えても,日本に負担を求めている.それに乗じて,日本は尖閣諸島への要求を強めている.これは中国の台頭に協力して封じ込めを図っていることを意味する.

しかし,同時にアメリカは日中間の紛争に巻き込まれるのを恐れている.日本の強硬姿勢は,高い代価を支払うことになる.


l  世界経済の均衡回復

FP SEPTEMBER 24, 2012

Fear Premium

INTERVIEW BY BENJAMIN PAUKER

Nouriel Roubini and Ian Bremmerによる世界経済のリスク評価.中東における反米でも,中国に広がる反日デモ,しかし,ヨーロッパの財政危機もまだ解決には遠い.

ロムニーは中国との通貨・貿易戦争を準備している.アメリカとイスラエルはイランを空爆するかもしれない.

George Sorosはメルケルにユーロ圏を離脱して成長するように求めた.しかし,メルケルは離脱しないし,成長することも拒んでいる.それは債務諸国の不況をますます厳しくしている.

Ian Bremmerは,その政治的側面に注目する.すなわち,ヨーロッパは時間をかけて何とかガバナンスを強化しつつある.それは,一方で,上から国民国家のガバナンスを解体することになっているが,同時に緊縮策を続ける中で,下からもガバナンスは浸食されている.自国の失われた権威を嫌って人々は過激な政党を支持しつつあるのだ.

日本は対中投資が人質になって,反日運動が繰り返す中でも,対抗策を限られるだろう.

VOX, 24 September 2012

Global Rebalancing 2.0

Linda Lim, Ronald U Mendoza

これまで注目されたGlobal Rebalancing 1.0とは,米中二国の貿易不均衡を調整するものだった.中国は人民元の増価を認め,実際に貿易黒字を減らしている.

しかし,中国のGDPに占める消費の割合は増えず,アメリカの経常収支赤字もまだGDP3.1%に達している.その相手国は発展途上諸国だ.グローバルな不均衡は複雑で,さらに根本的な均衡化を求めている.しかもそれは,米中の国内政治にとっても受け入れ可能なものでなければならない.

これから進むGlobal Rebalancing 2.0は,4つの特徴を持つだろう.

1.二国間だけでなく,多数の国が国際的な価値の連鎖に入っている.為替レートなどの調整は多角的に進む.

2.中国だけでなく,新興諸国全体の消費者(the rising global middle class)が重要な役割を果たす.

3.発展途上諸国,とくにBRICsは,FDIの受け手としてだけでなく,出し手としても重要になる.

4.高齢化する世界は,ますます活発に移動する若者に依存するようになる.アジア域内における移民とその送金が重視されるだろう.

持続可能な相互利益を実現するために,成熟諸国と発展途上諸国は協力する.

FP SEPTEMBER 25, 2012

Losing the Future

BY DANIEL ALTMAN

Project Syndicate 25 September 2012

Central Banks on the Offensive?

Jean Pisani-Ferry

それはあたかも,ヨーロッパ,アメリカ,日本の中央銀行間で,デフレ回避の攻撃的な国際協調が行われたように見えた.しかし,実際は,国際的な行動計画はおろか,共通のスタンスもなかった.それどころか,ECB内の政策対立も明らかだ.アメリカとヨーロッパの間にも,為替レートについて摩擦がある.主要諸国の政策に対する新興諸国からの反対もある.

アメリカが問題をインフレによって緩和したいのは明らかだが,それは世界経済の構造問題について国際協調によって解決する姿勢とは違う.

Project Syndicate 26 September 2012

China’s Rebalancing Act

Yu Yongding

FT September 27, 2012

China pours $58bn into money markets

By Simon Rabinovitch in Beijing

FT September 27, 2012

Fed joins ECB in a high-risk move

By Martin Feldstein

アメリカ連銀が採用した戦略はあまりにも危険である.インフレ高進,金融資産市場のバブル,そして,将来の法改正による連銀の権限縮小を招くだろう.

金融政策を,アメリカは失業率,ヨーロッパは赤字諸国の改革に固定したことで,その操作は非常に難しくなった.


l  モンゴルの資源

WSJ September 24, 2012

Mongolia's Next Challenge

By Larry Diamond, Francis Fukuyama and Stephen Krasner

ソ連崩壊後の混乱を経て,その後の民主的な政治体制を構築してきたモンゴルは,選挙による政権交代や自由なジャーナリズムなど,優れた成果を上げてきた.しかし,今回の選挙は指導者の交代とその汚職が問われている.

エンフバヤルNambaryn Enkhbayar大統領は,旧共産党から,民主化後,モンゴル人民革命党を指導し,首相,大統領となった.モンゴルには,高まる資源需要に対して,ロシアや中国から投資が殺到しており,大統領を反対派は「汚職のゴッドファーザー」と呼んでいる.

「資源の呪い」によって民主制が崩壊しないためにも,企業や投資の汚職を取り締まる法律や独立した司法の強化が必要だ.

Project Syndicate 26 September 2012

Finding the Keys to National Prosperity

Jeffrey D. Sachs


l  スウェーデンの財政再建

VOX, 25 September 2012

Fiscal consolidation in Sweden: A role model?

Martin Flodén


l  韓国の不安

FT September 26, 2012

South Korea wallows in existential angst

By David Pilling

サムスンや現代のような国際企業の躍進と,EU平均に近づく一人当たり国民所得の上昇は,韓国社会が示す不安感と一致しない.経済成長のモデルは一部のエリートだけに富をもたらしている,という不満がある.不平等,『受験地獄』,出生率の低下,この10年間で倍増した自殺率.女性の社会進出も進まない.

こうした不満を吸収して,反政治的な大学教授で起業家のAhn Chul-sooが大統領選の注目候補に登場した.民主主義の危機でもあるが,韓国民衆の政治熱は高い.


l  国連総会

FP SEPTEMBER 26, 2012

How Not to Lead the World

BY DAVID ROTHKOPF

FP SEPTEMBER 26, 2012

Who Broke the U.N.?

BY MADELEINE K. ALBRIGHT | SEPT/OCT 2012

アメリカの元国務長官,オルブライトMadeleine Albrightは,国連改革の難しさをよく知っている.いかなる組織もそうであるように,国連も改革が必要だ.安全保障理事会の構造と手続きに始まって,そのスタッフ,指導力,予算まで.改革は一度きりの出来事ではなく,プロセスである.人々は「国連」というものを責めるが,それは諸国の集まりであって,しばしば対立する利害を持っている.これが組織の効率性を阻んでいるとみなされている.

国連代表の3分の2が安保理の拡大を支持したが,その方法を見出すのはルーブリック・キューブを解くように難しい.私が国連代表であったとき,EU諸国はしばしばまとまって投票した.しかし,それなら国連安保理にもEU代表を一人置けばよい,というと,イギリスやフランスは代表の席を諦めることになり,非常に難しい.当時,アメリカはドイツと日本が常任理事国になることを支持していた.しかし,国連代表の支持が最も高かったのはインドである.今ではアメリカもインドを支持している.

アメリカ人は「多角主義(多国間主義)」という言葉を嫌う傾向がある.しかし,国連は最大の,最も重要な多国間組織である.それ自体は目的ではなく,有益な手段なのだ.国連の承認を得る以外にも,外交には多くの選択肢はある.しかし,この手段を失うことは間違いだ.

NYT September 26, 2012

In Obama’s Speech, Their Voices

By NICHOLAS D. KRISTOF

オバマの演説は,人身売買の声なき犠牲者たちに代わって,その廃止を求め,彼女・彼らに希望を与えた.


l  シリア介入

NYT September 26, 2012

5 Reasons to Intervene in Syria Now

By MICHAEL DORAN and MAX BOOT

オバマ・ドクトリンはリビアのケースについて成功した.地上軍を送らず,戦闘地域に入ったら速やかに出る.占領しない.しかし,シリアは違う.そうであっても,シリアに対して行動しないことは,別のリスクをもたらす.

オバマがシリアでの軍事行動を命令する5つの理由がある.1.イランの影響力拡大を抑える.2.紛争の地域的な拡大を抑える.3.イスラム過激派に対する防波堤を築く.4.トルコやカタールのような同盟国との関係を改善する.5.深刻な人権侵害や難民の流出を止める.

FP SEPTEMBER 27, 2012

Putting Syria Back Together Again

BY NATHANIEL L. ROSENBLATT


l  ガスプロムとプーチンの失脚

FT September 27, 2012

Gazprom crisis casts shadow over Putin

By Anders Åslund

アメリカで進行するシェール・ガス革命は,ロシアのガスプロム社を破たんさせ,ロシアの国家資本主義とプーチン大統領の権力を破壊するだろう.アメリカの国内天然ガス価格は,ガスプロムが東欧に供給する価格の4分の1である.


BLOOMBERG Sep 27, 2012

Japan’s Olympic Dreams and Economic Reality

By William Pesek

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The Economist September 15th 2012

Murder in Libya

Japan: The Hashimoto bandwagon rolls on

Vietnam: A tiger at bay

Free exchange: Hayek on the standing committee

(コメント) リビアにおけるアメリカ大使の殺害を含む,中東各地の反米デモや暴力にもかかわらず,アラブの春は成功だった,と記事は称えます.女性や教育問題で不適当な主張を掲げていたエジプトのイスラム同胞団も,大統領を出して政権を担えば,有権者の雇用や利益にならないと理解し,過激な主張を引っ込めて穏健化した,と指摘します.

こうしたイスラム国家が次第にトルコのように民主的な地域の安全保障を担える国家に変わるとしても,それまでアメリカは中東への関与と民主化への支援を続けなければならない.

日本の橋下徹に関する関心と,その評価は,おおむね妥当と思います.日本政治を変える力もあるが,粗悪な独裁者になるリスクもある.ベトナムの経済改革は,国営企業の政治的癒着と腐敗がスキャンダルとなって,金融システム不安にまで及んでいます.

そして中国では,金融政策や財政刺激策に関してケインズ(需要不足と失業)とハイエク(投資の非効率)の論争が復活し,政府の行動を鈍らせている,というわけです.

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IPEの想像力 10/1/12

国連総会における日本,中国,韓国の演説(とそれに対する抗弁権の行使)が注目を集めました.尖閣諸島や竹島に対する各国の主張が,国連総会でぶつかったのです.他国や国際社会に日本は強く支持されたのか?

日経新聞に載った二つの論説(田中均「多国間で重層的枠組みを」,添谷芳秀「尖閣諸島,国際社会を味方に」)を読みながら考えました.

中国の国内政治情勢や社会不安,デモや威嚇を含む外交姿勢は容易に変わらない,と覚悟し,それでも中国市場やアジア全体の生産・流通・消費のネットワークは緊密化を続け,日本企業や日本経済はそれと連動し,ますます一体化すると思われます.そうであるからこそ,田中氏は,日本の政府・指導者が,危機を回避しつつ,大局を理解して(国民にも説き),日中関係を建設的な軌道に戻すべきだ,と訴えます.そのためには,さまざまな国家を超えた合意や制度が重要です.また染谷氏は,むしろ日本から厳しく精査し,国際社会に訴えることのできる深い歴史認識を示せ,と求めます.

しばしば,世界が領土として分割統治されるようになったのは,ウェストファリア条約以後のことだ,と議論されます.もちろん,これはヨーロッパの歴史ですが,国家があり,国家を超える宗教があり,国際的な商業や定期市と都市文化があったヨーロッパで,大陸規模の宗教戦争とそれにともなう軍事・財政的な革命が起きた結果,主権国家が優位を独占したのです.国家や領土の考え方は,当時から今に至るまで世界に広められて,国際秩序の前提となっています.

私だけでなく,人の住まないような小さな島や水も緑も無い砂漠地帯,ジャングルの奥地にまで,こうした分割線を求めるのは理性的ではない,と多くの人は思うでしょう.確かに,魚が取れるとか,資源があるとか,海上輸送や海底ケーブル,航空路線を決めるときに,管轄区域を明確に定義する必要はあるでしょう.しかし,それは必ずしも国境ではありません.

国際海洋法によって経済水域が拡大されたことで,海上の帝国主義的対立が激化した,という説明を,なるほど,と思って読みました.内陸国には縁のない海の分割ですが,島国には有利であるとともに死活的な,そして,資源や輸送路を確保するために優位を得ようとする大国間対立の条件が与えられたのです.

田中氏も添谷氏も,日本の領有権には強い根拠がある,と言います.そこに日本人が住んでいた,中国政府やアメリカ政府がかつて認めた,といった根拠です.しかし,中国側の根拠が何であるのか,くわしく検討はしていません.アヘン戦争以来の歴史を屈辱ととらえ,目覚ましい成長によって,過去の合意や国際秩序を見直すべきだという感情が高まった,と染谷氏は指摘します.そのためには軍事力の行使も支持する,というのが,近隣諸国にとって深刻な意味を持ちます.

国際関係におけるリアリズムについて,キッシンジャーが革命政府や革命的外交を嫌った,という説明を読んだことがあります.確かに,革命政府が旧政権・体制を打倒したのであれば,その条約の引き継ぎを拒むかもしれません.中国のように.

国際秩序を否定することで得られる利益は少なく,むしろ,政治体制や指導者が変わっても,国際関係の現実には共通するものが多いのです.リアリズム,という言葉は,常に,現実の条件を重視して秩序を再編する姿勢を意味します.それは,軍事的なバランスだけでなく,貿易や産業のバランスであり,技術や文化,国境を超える情報や革新の波及に対応する能力,金融不安から高齢化まで,ガバナンスを高める協力関係に至る,現実認識にも及ぶでしょう.

戦争を回避しつつ,各地のガバナンスを反映する新しい国際秩序の模索が続くのです.そして,領土紛争は,次第に,もっと大きな調整メカニズムに吸収されるのではないでしょうか?

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