(前半から続く)
l アメリカの財政・金融政策
WSJ
September 16, 2012
The
Magnitude of the Mess We're In
By George P. Shultz, Michael J. Boskin,
John F. Cogan, Allan H. Meltzer and John B. Taylor
現在の連邦政府支出の水準は,2007年より,約1兆ドル増えている.歳入はほとんど増えていないから,2009年の赤字は1.4兆ドル,2010年1.3兆ドル,2011年1.3兆ドル,2012年1.2兆ドルになるだろう.この4年間で,アメリカ人の家計当たり政府借入額は5万5000ドル増えた.利子も支払う必要がある.
連銀は昨年度の政府赤字の約4分の3を融資している.連銀の保有する政府債務額のGDPに対する率は第二次世界大戦末期よりも大きい.連銀は,民間の分散型金融市場を,事実上,中央管理の金融システムに置き換えてしまった.連銀は,量的緩和,として政府債券やモーゲージ証券を購入し,銀行に信用を供与している.オペレーション・ツイストとして,伝統的な手法に反して,長期債券を購入し,短期債券を売却している.
その結果は二つのリスクを生じる.このような操作を続ければ,インフレが爆発する.この操作を逆転させるのが早すぎれば,銀行は融資を引き揚げる.どれほど賢明に,また,効果的に,こうした操作を行えるのか? 政府機関は無駄な雇用プログラムを46も持ちながら,47番目を増やした.彼らの給与水準は不当に高い.規制を増やすことで,効率性を破壊し,中小企業を苦しめ,不確実性が高まっている.すでに累進的な税制があるのに,さらに負担を重くするだろう.
アメリカ・ドルは永久に金融危機の避難所ではない.世界の準備通貨として得ている利益は失われる.初代財務長官,A.ハミルトンが述べたように,独立戦争によって生じた債務を支払うのは,アメリカの自由の代価である.しかし,今の政府が赤字を増やしたのは,政権を支持する利益団体のためである.
解決策は,理論,実証研究,歴史的経験は示すように; 幅広く,できるだけ低率の課税を行う; 景気ん循環の波を通じて均衡するように,政府の必要な機能に融資する; 健全な通貨; 貿易の自由化; 政府支出の管理,社会給付の改革; 規制,訴訟,教育の制度改革,である.
FT
September 17, 2012
How
to cut the US deficit by fixing tax
By Laura Tyson
企業への課税率を下げて,配当やキャピタル・ゲインに課税せよ.
l バーナンキのQE3
NYT
September 16, 2012
Hating
on Ben Bernanke
By PAUL KRUGMAN
ニュースだ.連銀は,景気が良くなるまで金融緩和を続ける,と約束した.
WP
September 17,2012
Bernanke
on the brink
By Robert J. Samuelson
我々は景気刺激策の限界に達しつつある.連銀は毎月400億ドルの債券購入計画を発表したが,失業率が下がるかどうか,疑う声が強い.
バーナンキ議長は,この政策で連銀の望むことを説明した.モーゲージを買えば,金利が下がる.住宅購入と建設が増える.住宅価格が上がる.債務超過の家庭が減る.銀行は既存モーゲージにも融資しやすい.豊かになった気持ちがすれば,支出が増え,企業も雇用を増やす.株価も上がり,楽観論が強まる.
そうかもしれない.では,なぜ疑う声が強いのか?
歴史的に観て,刺激策は効果が少ない.大規模な刺激策をしても,回復は限られている.それは,刺激策が小さすぎるからかもしれないし,金融危機後の家計や企業は慎重な態度を取るからかもしれない.
バーナンキは絶望的な挑戦に乗り出したのかもしれない.
FP
SEPTEMBER 17, 2012
The
Fed Jumps on the Bandwagon
BY DANIEL ALTMAN
連銀の債券購入で金利が下がり,投資と雇用が増える.あるいはまた,ドルが安くなって,長期的には外国投資家への依存が減り,輸入が減るかもしれない.
なぜ連銀は,ようやく決定したのか? 政府は数カ月も前からアメリカ経済の成長は遅すぎると警告していた.金融緩和策の効果を疑っていたから.不確実性があって,企業は投資機会を見いだせない.では何が変わったのか? ECBのドラジ総裁が債券購入を明言した.共和党大統領候補のロムニーが失言を繰り返して,当選する見込みがなくなった.
そこで,連銀は何かしようと,あるいは,何かしているふりをしようとしている.
FT
September 18, 2012
Bernanke
makes an historic choice
By Martin Wolf
バーナンキ連銀議長の決断を称えたい.それはリスクをともなうが,十分に意味がある.何もしなければ,その結果はさらに悪い.
Jackson Hole, Wyomingで行われたシンポジウムにおいて,バーナンキは述べた.「特に労働市場の停滞には重大な関心を持っている.なぜなら,これは単に多数の人が苦しみ,人材が浪費されるというだけでなく,持続的な高水準の失業が我々の経済に多年に及ぶダメージを与えるからである.」
この道義的なセンスを示すバーナンキに,私は称賛を送りたい.彼は連銀に何かができると言うだけでなく,するべきだ,と考えている.
連銀の見方によれば,持続的な高失業と低雇用の原因は総需要の不足である.共和党員やミット・ロムニーはこの決定に即座に憤慨した.彼らが清算主義者であるのか,オバマの再選を阻む政治算術であるのか知らないが,連銀の方が理性的な人々である.
しかし,金融緩和の効果には確かに問題がある.金利はすでに低いから,劇的な効果はないだろう.逆にダメージを及ぼす,という主張もあるが,今は非正統的な政策を慎重に用いることでプラスの効果を上げている.ハイパーインフレを警告するのは間違いだ.
FT September
20, 2012
Beware
the costs and psychology of QE3
By Gillian Tett
FT September
20, 2012
Introducing
the “reverse Volcker moment”
Mohamed El-Erian
アメリカは「ボルカー革命の逆転」を迎えたのか? P・ボルカーは高率のインフレを抑えるために厳しい引き締め策を採って,低位の安定した物価水準を実現した.バーナンキはそうではない? むしろ,中央銀行は高インフレを目標にするのだろうか?
今やデフレが問題であり,生産力の余剰が明らかに存在している.しかも,(対外,公的)債務の負担が問題になっているから,インフレが好まれる.では,この転換は内外で何をもたらすのか?
金融市場はインフレ上昇へのプレミアムを求め,諸外国ではアメリカからの資本流入と為替レートの増価に対抗した金融緩和が進んでいる.
l 日本というスリラー映画
WP
September 17, 2012
Japan’s
zero-nuclear dream
FT
September 19, 2012
Made
in Osaka: why the BoJ intervened
By Ben McLannahan in Tokyo
日銀の白川総裁は新幹線で大阪へ行った.彼は日本の家電業界が急速に衰微している現状を耳にする.円高が彼らのビジネスを窒息させている,という.利潤が減り,雇用が減り,授与が減る,という絶え間ない衰退のサイクルから逃れる救済が,日本の製造業には必要だ,と.
彼らの願いが届いたのだろう,日銀は10兆円の資産購入計画を発表した.
BLOOMBERG
Sep 20, 2012
ITune
World Is No Place for Scratchy 45’s
By William Pesek
日本の現状は,Ridley
Scott監督のスリラー映画(「ブレードランナー」「エイリアン」)よりも恐ろしい.
確かに,コミュニティーの再生を求める地方政治家や,原発の廃止を唱える活動家はいる.しかし,あれほどの大惨事を経た日本で,最も驚くべきことは,この国がいかに少ししか変わっていないか,ということだ.
なぜこれほど変わらないのか? 5つの理由を考える.
1.復興投資による成長の回復が起きなかった.再建過程は遅く,デフレは深まっている.債務は増え続け,金利はゼロのままだ.円高が輸出を抑え,女性は昇進できない.なぜか? 新しいアイデアと政治的意志を欠き,特に,東京の官僚に危機感が無い.
2.震災は政治を変えなかった.3.原子力エネルギーは破棄されなかった.4.外国市場に頼る成長も変わらなかった.5.民間部門の指導力は発揮できなかった.
東京の官僚たちは大転換を阻んでいる.
FT
September 17, 2012
Hong
Kong: Class action
By Rahul Jacob
Project
Syndicate 18 September 2012
The
Re-Education of Hong Kong
Sin-ming Shaw
l アメリカにとっての脅威
FP
SEPTEMBER 17, 2012
'A
Whole New Era'
アメリカのLeon
Panetta国防長官は,Foreign Policyの編集長と防衛問題担当者が示す質問に応えて,アメリカが何に備えなければならないか,を語った.
l ECBだけでは解決できない
VOX 17
September 2012
On
banking union, speak the truth
Charles Wyplosz
欧州委員会はユーロ圏EZの金融監督を一本化する提案をした.ユーロ圏は最後の貸し手を必要としており,それはECBにしか行えない.それに加えて,真実を知るべきだが,ユーロ圏参加諸国は銀行救済のコストを分担し,それを最小化する制度を必要とする.
この原理はBagehotが『ロンバート街』で示して以来,正しいことが分かっている.銀行の破綻が広がるのを防ぐためには,最後の貸し手が必要だ.しかも現代の銀行は一層深く結びついている.
その救済コストを抑えるために “constructive
ambiguity” を残すべきだ,という主張は間違いだ.中央銀行はこの役割を避けられないからだ.むしろ,このコストを負うのがECBではなく加盟諸国の政府であることを明確にし,救済コストが最小で,むしろマイナスになる(救済によって利益が出る)ことを確実にする制度が求められる.
それは,ユーロ圏全体の預金保険だけでなく,単一の銀行整理・再建機関を創設し,金融監督を一元化して,どの銀行を救済するべきか,早期かつ確実に知っておくことである.これに対して,自国の銀行を保護しようとする政府の反対が強く,制度改革を破壊する力を持っている.
Project
Syndicate 17 September 2012
Is
Europe’s Financial Crisis Over?
Gene Frieda
WSJ
September 19, 2012
Has
the Euro Crisis Turned a Corner?
By CHARLES GOODHART AND SONY KAPOOR
ECBの公的債券無制限購入に楽観論が広がっている.しかし,ユーロ危機は終わらないだろう.危機は,利用できる政治空間が縮小する中で,処理しきれない経済問題がある限り,醸成され続けるのだ.
危機解消には三つの条件がそろわねばならない.1.ECBが短期の危機を回避する強い介入を行う,2.危機にある国に対する強力な成長回復策が示される,3.マクロ経済の均衡回復とユーロ圏の制度改革が進む長期計画に合意する.
ECBは闘うけれど,片手は縛ったままだ.すなわち,介入の条件は示されず,その決定は遅れる恐れがある.この数カ月の政治的混乱で,投資家も,貯蓄も,消費者も,銀行も,企業も,規制当局も,ユーロ圏の解体を考慮せずには行動できなくなった.資本逃避や貯蓄の逃避が進んでいる.投資は延期され,債権債務は国境内に組み替えられている.こうしたことが集合的にユーロ圏を破局に向かわせる.
本当にギリシャが離脱すれば,ECBにも事態を収拾する力はない.ECBの無制限な購入は,単に,資本逃避を助けるだけである.
ユーロ圏の問題はESMやECBの支援策に財政的な制約条件が付いていることだ.低利の借り入れによるメリットは限られている.「成長協定」の合意には意味が無い.ECBやESMが厳しい条件を課すほど,早期に成長は起きず,記録的な水準の失業率はさらに上がる.債務のGDP比率は高まり,社会混乱を生じる.
スペイン経済の悪化は銀行を危機に追いやるが,その救済コストはスペインだけが負う.「バッド・バンク」の分離も,ユーロ圏全体による預金保険も,今や完全に拒まれた.希望ではなく,恐怖が支配している.
l 小規模農家の復活
guardian.co.uk,
Tuesday 18 September 2012
Why
the world needs a renaissance of small farming
Colin Tudge
Project
Syndicate 21 September 2012
Small
Farms’ Large Benefits
Kanayo F. Nwanze
l メキシコ
FT
September 19, 2012
Analysis:
China’s unlikely challenger
次の「世界の工場」は,中国ではなくメキシコだ,という話です.
l モルドヴァ
SPIEGEL
ONLINE 09/19/2012
Republic
of Abandoned Children
Desperate
Moldovans Head West without Families
By Nicola Abé
モルドヴァは,ソ連の一部として,比較的裕福な共和国であった.しかし,今では国民の4分の1が外国へ仕事を探すために流出し,国内には子供だけが残されている.
Nadia Popaはイタリアの保養地で働くが,素晴らしい気候にも心は晴れない.彼女の16歳と12歳の子供たちは,1000キロ以上離れたモルドヴァ北部の村で暮らすからだ.モルドヴァは人身売買や臓器売買で悪名高い国である.二人の少女が暮らす家は貧しく,何もない人形の家のように見える.彼女たちは学校へ行く前に鶏に餌をやり,午後はトウモロコシとポテトの畑を耕す.たった二人で洗濯し,掃除し,森で薪を集める.
FP
SEPTEMBER 20, 2012
Hijacked
BY ROBERT YOUNG PELTON
guardian.co.uk,
Thursday 20 September 2012
Palestinians
need a one-state solution
Ghada Karmi
WP
September 21,2012
Don’t
give up on India
By Richard Fontaine and Daniel Twining
l 債務破局のサイクル
VOX 21
September 2012
The
doomsday cycle turns: Who’s next?
Simon Johnson, Peter Boone
ヨーロッパ,日本,アメリカに共通する問題がある.それは,政治家たちが注目する狭い利害と,ますます曖昧になっている金融部門の拡大とが,共生関係にあることだ.金融機関は救済を期待して,さらに危険な,無思慮な行動に走り,それはショックや崩壊,多くの救済をもたらす.
これが,われわれのいうthe
‘doomsday cycle’である.
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The Economist August 8th 2012
Asia’s next revolution
Asian welfare states: New cradles to
graves
Trade: Goodbye Doha, hello Bali
Banyan: Too small an ocean
(コメント) アジアが成長優先の経済モデルを築いたことが,急速な高齢化や民主化による社会保障の約束で,福祉国家の競争的導入を始めています.これを機会に,欧米の失敗をまねるのではなく,アジア型の新しい福祉国家を開発するべきだ,と主張しています.
貿易自由化については,交渉を世界不況回避のために短期でまとめ,すべての国に拡大せず,ただ,最恵国条項だけは支持するように指導するべきだ,と主張しています.
太平洋が十分に広いのか(クリントン国務長官),あるいは,狭いのか(中国外務省),軍事衝突でも地域分割でもなく,米中が妥協しながら秩序を調整する道を模索します.
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IPEの想像力 9/24/12
週末しかテレビのニュースを観ないので,自民党総裁選挙で安倍晋三氏が選出されたことを知りませんでした.・・・安倍晋三!? 私にとっては驚きでした.どのような力学が働いたのか?
毎日新聞の「平沢勝栄氏「永田町日記」 自民党総裁選を振り返る」に興味を持ちました.
「党員への電話作戦のさなか、「尖閣諸島問題への態度が中途半端だ」「生ぬるい」との声が寄せられる。石原さんは「対話」「クールダウン」という言葉を使うが、それが物足りないようだ。批判理由は明快だ。総裁選の投票権を持つ自民党党員はかつて500万人もいたが、今は80万を切った。残った党員はかなり保守的な層とみられるから、一般国民の意識とは若干違う。だから、どちらに向けて発信するかがポイントとなるが、石原さんは一般国民向けでメッセージを発する方針だ。」
最初は,石破茂と石原伸輝の対決だと見られていました.実際は,石破と安倍の尖閣強硬派に,石原や町村,林のバランス外交派や経済改革重視・宥和派が締め出されたように思います.野党となった自民党には配るポストもカネもなく,「勝ち馬に乗る」という意識が強かった,という指摘も,次の選挙の争点は「尖閣だ」というのが自民党の総裁選を支配した意識であった,というわけです.
ヤギ(と石原慎太郎)しか住まない尖閣諸島,そして,中国の抗議デモこそ,安倍晋三の復活を実現した最大の功労者なのです.朝鮮日報の記事も,北東アジアの軍備拡大競争を懸念します.いずれの国も強硬策と誤算から衝突のリスクを高めて行きます.
谷垣総裁の継続を(何かの力学で)石原氏が拒んだことが,その次の功労者です.安倍総裁と聞いて私が驚いたのは,自民党という政治集団が終わったのだな,という印象を持ったからです.長期安定政権と高度成長のイメージで,官僚や族議員が産業界を保護する時代は,バブルによって(銀行業界と一緒に)終わったのです.その流れは,小泉純一郎が自民党を壊し損ねたまま,安倍晋三に首相を譲ったときからあったはずです.麻生・安倍と福田・谷垣という二つの政治について,当時も書きました.(「IPEの種」4/10/2006,また「IPEの種」10/2/2006も参照)
自民党も民主党も,内部に異質な政治集団を含む国内政治同盟です.安倍総裁や野田内閣の動きが,この先,特定のイデオロギーだけで決まるわけではありません.次々に起きる内外のショックに対して,日本の構造変化や制度改革の課題にも応えながら,国民にとって何が最も望ましいのか,将来に向けた方針を示して争うのです.しかし,だからこそ指導者たちの政治的信念,国民を動かすイデオロギーこそが重要である,と私は思います.
むしろ,イデオロギーを超えて,競争する新しい争点を国民に説得する方が,政治の混迷を回避する上で誰にとっても好ましいと思います.たとえば,
1.日本が今こそ高齢化社会を革新する先進国として,新しい福祉国家のモデルを示します.新しい産業や雇用の姿を示し,新しい居住や都市の姿を示し,新しい年金や医療の在り方を示して,ダイナミックな成長の可能性を議論してください.
2.財政再建を示す根本的な制度改革を提案してほしいです.消費税の引き上げに多大の政治力を消尽してきたことを思えば,財政の不均衡を是正する圧力が作用する(債券市場だけでなく),明確な制度を構築することです.内外の専門家を招いて定期的に長期評価レポートを提出してもらう,政治から独立した財政監視委員会を設けて国会で報告し,論争の前提を示す,あるいは,財務大臣や各党党首が監視委員会で質問に応える,というルールを確立してはどうでしょうか?
3.そして,領土問題にかかわるナショナリズムを克服できる仕組みを構想しなければなりません.各国の軍備拡張だけで安全保障は得られません.ナショナリストが愛国心や軍備拡大を要求することに誰も反対できないとしたら,すでに戦争はその時点から始まったと考えるべきです.中国が国際秩序に復帰し,また,新興国として国際秩序に改善を求める理由はあります.また,日本が国内の治安維持や外国からの攻撃に対して軍備を維持する理由もあります.
指導者であろうとするなら,どうぞ論争を始めてください.
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