(前半から続く)
l 南シナ海
FP
AUGUST 3, 2012
Salami
Slicing in the South China Sea
BY ROBERT HADDICK
ペンタゴンはCSIS(the Center for Strategic and International
Studies)の提言を取り上げて検討した.軍を南シナ海に再配置し,特に,グアムに攻撃型潜水艦を,西オーストラリアには空母を集結させる,というものだ.
最近,カンボジアにおけるASEAN会談は共同コミュニケを初めて発表しなかった.それはフィリピン,ベトナムなどが求めた行動基準の強化を,中国からの圧力を受けた議長国,カンボジアが阻止したからだ.共通の行動基準によって正統性が付与されなければ,中国は軍事力による威嚇で支配領域を認めさせることを続けるだろう.
アメリカ政府・軍は,中国が少しずつ軍事力を増してアメリカの影響圏を削り取る戦略(a salami-slicing strategy)を採用している,と考えるべきだ.しかし,アメリカが軍事展開を大きく変えることは,わずかなサラミ戦略の積み重ねに対して,むしろ軍事的脅威を与え,戦争の理由になるだろう.
アメリカから遠く離れているにもかかわらず,この紛争に関係するアメリカの利害は非常に大きい.1.世界貿易に占める重要性,2.海洋法,3.同盟国との安全保障,である.アメリカにとって小さなことでも,関係する諸国には死活的な問題として軍事衝突を起こす可能性がある.アメリカはASEAN諸国が共同の行動基準を強化する方針を支持するが,それは中国に対抗することになる.
ただし,管理不可能な問題で介入を求められるような保証は与えられない.アメリカはサラミの厚さに注意しなければならない.
BLOOMBERG
Aug 9, 2012
Hippie-Era
Tune Sums Up Conflict in Tropical Seas
By William Pesek
事態がいかに急速に悪化するかを知るべきだ.6か月前なら,軍事衝突を懸念することは大げさすぎただろう.しかし,紛争の水準は着実に引き上げられ,不健全なナショナリズムが広まっている.「ブラック・スワン」リスクが無視できなくなった.
今週,中国の国営メディアは,アメリカに向けて,「黙れ」,「紛争を煽るな」と命令した.中国政府の対応を「極度に間違ったシグナル」と見る,クリントン国務長官の発言に反発したのだ.
軍事的緊張を抱えるアジア地域を,どうすれば問題が繁栄する「アジアの世紀」に及ぶのを阻止できるか? 唯一の答えは,地域協定である.二国間交渉で,中国が公平な立場を取るわけがない.資源を共同開発し,強制力を持った行動基準に合意しなければならない.中国は外交による問題解決を信用し,強制力のないASEANに代わる,新しい地域フォーラムが必要だろう.
WSJ
August 10, 2012
The
Bully of the South China Sea
l アメリカ製造業と政治
NYT August
4, 2012
In
Pursuit of Nissan, a Jobs Lesson for the Tech Industry?
By BILL VLASIC, HIROKO TABUCHI and CHARLES
DUHIGG
30年前,そこには何もなかった.テネシー州に日産の自動車工場ができて,今では9万5000人を雇用している.アメリカ議会からの圧力による日本の自主規制などが作用して,日産はアメリカに工場を建設することを決断した.しかし,日本の工場と同じ品質の自動車を生産できるか,重役たちは非常に心配だった.
アメリカ政府には,ここで売るなら,ここで作れ,という伝統があった.しかし,i-Phoneでは,Appleも政府もこの点を気にしない.グローバル化した社会では,保護主義の意味が変わってくる.政府も消費者も,保護主義を求めない.アメリカで三番目に貧しい州であったテネシー州には選択肢が無かった.2011年4月,ブラジルのルセフ大統領は,Appleと台湾企業Foxconnを招いて,ブラジル製のiPhonesを実現した.
現代のエコノミストや政治家は,保護主義を否定する.世界市場から隔離された工業の発展はありえない.しかも,1980年代に,日本製自動車の輸入を攻撃したころに比べて,アメリカの企業や政治家,消費者も変わった.
人々は携帯電話やコンピューターの輸入を求めている.雇用の一部は失われたが,アメリカには新しい雇用が生まれている.高度な技術を駆使した製品を輸入するのは,Apple, Hewlett-Packard, Dell and Microsoftのような,アメリカの企業である.消費者は,自分のスマートフォンがどこで生産されたかを気にしない.「どこで作られるか,政治にとってどのような意味があるか,経済に及ぼす影響は何か,そのようなことは消費者の関心ではない.」
YaleGlobal,
7 August 2012
7
Reasons to Expect US Manufacturing Resurgence
Farok J. Contractor
アメリカは再び世界最大の工業国になるだろう.その理由は7つある.
1.アメリカの労働者の実質賃金は上昇しておらず,2.機械化などによって,労働者の弾力性が高まっている.長時間労働も,スピードアップも,雇用不安から受け入れている.3.ドルは主要通貨に対して安くなった.他方,4.中国の賃金上昇は続いている.5.燃料価格も2倍になり,輸送費が上昇した.6.配送における弾力性が重要になった.7.自然災害などのリスクを分散しなければならない.
FT August
8, 2012
Lex
in depth: Samsung
By Jennifer Hughes and Stuart Kirk
WP
August 4, 2012
Obama
and Romney’s political gymnastics
By By Chuck Todd
WP
August 4, 2012
Remember
the war in Afghanistan? Obama and Romney don’t seem to.
By Rajiv Chandrasekaran
NYT August
8, 2012
Obama
AWOL in Syria
By NICHOLAS D. KRISTOF
WP
August 10, 2012
The
case against reelection
By Charles Krauthammer
l 中国の改革
FT August 5, 2012
Reform
by stealth is reason for optimism about China
By Eswar Prasad
2012-08-06
(chinadaily.com.cn)
The
China story at the London Olympics
By Chen Yanqi
Global
Times | 2012-8-6
China
ready to tackle shift from economic to social reform
By Zheng Yongnian
「西側が交流する間も,現在,中国が抱えている以上に深刻な諸問題に苦しんだ.もし西側の興隆が完璧に円滑なものであったら,マルクスも,ヴィクトル・ユーゴーも,チャールズ・ディケンズもいなかっただろう.深刻な社会問題があったから,西側の多くの偉大な思想家や批判家が現れたのだ.」
西側の経済発展に比べて,中国が経験している社会問題は決して珍しいものではない.中国が経済改革をさらに進めることは社会構造の改善にとっても重要である.
30年に及ぶ経済改革の優先は,相対的に,社会改革を欠いていた.日本や,アジア4小竜(香港,シンガポール,台湾,韓国)は,すべて経済改革を優先し,その後,社会.政治改革を進めた.経済成長から,平等な分配や民主化が求められたのだ.
中国は,社会的なラディカリズムを避け,漸進的な改革を目指している.広大な国であるから,異なるモデルが現れることは当然であり,互いに,改革の圧力が生まれることも歓迎するべきだ.数十年前に比べて,政治のあり方も大きく変わっている.それぞれの国が固有の問題を抱えているから,中国が西側の発展経路をたどる理由はない.
内外の情勢が混乱を深める中で,中国の改革も時間との競争だ.
YaleGlobal,
9 August 2012
How
Weibo Is Changing China
Mary Kay Magistad
普通の市民が開くミニブログWeiboは,写真,ビデオ,コメント,メッセージを載せることができる.誕生から3年で,3億5000万人が利用しており,Weiboは中国市民の意識を変革しつつある.
たとえば,上海の大学院生Wu
Hengは,レストランの豚肉に有害化学物質がつかわれていると聞いて,食品の安全性に関するブログを1月に開設した.4月には訪問者が1万人を超え,5月には500万人を数えた.
「中国の歴史上,かつてないことである.」と検索エンジンBaidu.comのKaiser Kuoは言う.「これほど大規模に,瞬時に影響を伝える公共空間が存在したことなどない.多くの意味で,国民全体の対話を動かし始めた.」
政府の態度はアンビバレントなものだ.中国の指導者は,こうした公衆の意見を利用することに慣れていない.もしWeiboが権力側と市民社会との間の支配権をめぐる闘争場になれば,政府はこれを占拠しようとするだろう.Weiboを閉鎖することが,逆にどのような反動を生じるか,権力側は恐れているのかもしれない.
政府は,Weiboを社会運動や政治に利用することを検閲で抑えている.しかし,政府や政策への批判より,集団行動への呼びかけを特に厳しく削除している.
Weiboから民主主義の爆発が起きるわけではない.しかし,まだ幼年期にある中国の民主主義に,それはチャンスを与えた.環境破壊や食品汚染の問題は,政府にとっても解決すべき難しい課題である.政府だけでは解決できない問題に,市民社会が支援を与える.
NYT August
5, 2012
Who
Is Jamaica?
By CAROLYN COOPER
l 富裕層と銀行
FT August
6, 2012
The
backlash against the rich has gone global
By Gideon Rachman
富裕層への反感は世界的な潮流になっている.金融危機は,かつて富裕層をねたむより称賛したアメリカ国民にも,自分たちの苦境を作った責任者として非難する声を高めている.サッチャー,レーガン,鄧小平など,税率の引き下げと富裕化の肯定を特徴とした時代が終わったのだ.
FT August
7, 2012
StanChart
will not be the last bank to be stung by the US
By Ian Bremmer
Project
Syndicate 07 August 2012
What
Money Can Buy
Raghuram Rajan
FT August
8, 2012
Who
are the true villains of the StanChart tragedy?
By Frank Partnoy
FT August
6, 2012
India
must harness the profit motive in the spirit of Nehru
By Jayant Sinha and
Ashutosh Varshney
l 日本の変化
BLOOMBERG
Aug 6, 2012
Japan’s
Economy Can Get Bigger by Thinking Smaller
By William Pesek
豊かな日本で起きた空前の災害にMuhammad
Yunusは涙を流した.そして緊縮財政の時代に,東北への投資をどのように集めるか,を考えた.・・・マイクロファイナンスで東北被災地の復興を助けてはどうか.
豊かな国でも,バングラデシュに何十億ドルも援助している日本でも,マイクロファイナンスを必要とする人は世界中にいる.たとえば陸前高田には,住宅も何もない.東京の政治は混乱し,被災地への支援をマヒさせる.ここに少額の投資をすれば十分な配当をもたらすだろう.
バングラデシュでマイクロファイナンスを詳しく学んだJeff Kingstonは,Temple大学の東京校アジア研究所に属しているが,マイクロファイナンスがすべてを失い,担保もない人や,特に女性に対して融資を行う点に注目する.その融資を管理するシステムや返済方法は有効である,と.
日本の辺境や貧困地帯にも,巨大なグラミン・バンクをつくろう.
FT August
7, 2012
Cash
out of gold and send kids to college
By Peter Tasker
Global
Times | 2012-8-8
Ocean-lapped
Japan wary of China's continental power
By Lian Degui
日本の政策は,その海洋国家としての特徴,すなわち,周囲を海に囲まれていることによって規定されている.そして,地政学は大陸国家と海洋国家の衝突を説明する.
海洋国家は,大陸国家からの攻撃に対抗して,大陸の周辺地域を支配し,大陸周辺諸国と同盟を結ぶ.日本の大東亜共栄圏や,第二次世界大戦後の東アジア協力も同じ考え方である.その南西方向には,the Diaoyu Islands(尖閣諸島・釣魚島)がある.
日本は,その規模にもかかわらず海洋国家であるアメリカとの関係を強化している.アメリカはアジア太平洋共同体を形成し,オーストラリア,インド,ASEANもこれに含まれている.
日本は,短期的にはアメリカという衰退する海洋国家に従うだろうが,長期的には大陸国家・中国との関係を重視せざるを得ない.
l 資源の呪い
Project
Syndicate 06 August 2012
From
Resource Curse to Blessing
Joseph E. Stiglitz
アフリカ諸国における新しい資源開発は,呪いであるのか,祝福になるのか?
「資源の呪い」については多くの研究があり,その原因と対策が示されている.すなわち,通貨価値が高くなりすぎる,雇用をもたらさない,資源価格が変動しやすく,しかも,国際投資・融資がそれを増幅する.
資源が豊富な国は,それに応じた戦略・政策を必要とする.ところが,しばしば政治機能は弱く,資源開発の富をめぐって機能マヒに陥る.
重要なことは,国民一人一人が豊かになること,そのために,既存の資源採取契約は再交渉するか,それに応じない外国企業に課税する.また,経済開発に必要なすべての分野に経済活動を拡大し,既存の比較優位が資源採取にある,という理由で外国企業の開発に頼る戦略を採らない.
動態的な,長期の視点で比較優位を決定しなければならない.
Project
Syndicate 08 August 2012
No
More Growth Miracles
Dani Rodrik
l 緊縮策と低金利
Project
Syndicate 07 August 2012
How
Long for Low Rates?
Kenneth Rogoff
超低金利はいつまで続くのか? 短期的名はまだ続くが,長期的に安定した状態ではない.
その理由は,超低金利をもたらした三つの要因が後退するからだ.すなわち,1.「グローバルな貯蓄過剰」,日本やドイツが高齢化する過程で生じた貯蓄,中国が銀行危機や為替レート安定化のために生じた貯蓄,などが増大しなくなる.2.主要諸国が世界金融危機に対して行った劇的な金融緩和が,将来,投資家のインフレ懸念と長期金利の上昇につながる.3.投資家層に広がったグローバルな金融破壊への不安が緩和し始める.たとえば,ユーロ危機が解消に向かう.アメリカの財政不安,中東の政治不安,中国の減速不安,など.
超低金利は,日本が示すように,かなりの期間にわたって安定的に持続することもあるが,現在が安定したままであるとは言えない.急速に変化するだろう.
VOX 7
Aug 2012
The
Procyclicalists: Fiscal austerity vs. stimulus
Jeffrey Frankel
(Jeffrey Frankel,
“The First World’s Fiscal Follies,” Project Syndicate 19 July 2012 を参照せよ.)
FP
AUGUST 7, 2012
Give
Me Your Tired, Your Poor French Millionaires
BY HALEY BARBOUR
FT August
8, 2012
Americans
need to face the harsh truth and pay more tax
By Jared Bernstein
l アメリカの干ばつ
NYT August
7, 2012
The
Silver Lining in the Drought
By WILLIAM G. MOSELEY
guardian.co.uk,
Wednesday 8 August 2012
America's
drought of political will on climate change
Naomi Wolf
FT August
9, 2012
Environment:
The end of the line
By Pilita Clark
l オバマ・ドクトリン
FP
AUGUST 7, 2012
Making
Friends with Friends
BY SEAN KAY
Project
Syndicate 08 August 2012
The
Obama Doctrine’s First Term
Joseph S. Nye
オバマは4年前に,世界金融危機の中で大統領に就任し,二つの戦争を継承し,イランと北朝鮮から核拡散の脅威を受け,アルカイダのテロを抑えねばならなかった.
最初の年,オバマはカイロ演説やノーベル平和賞受賞講演で,ジョージ・W・ブッシュ大統領からの転換を示した.自分の役割を,国際秩序を転換する行動主義的な指導者として強調した.しかし,ロシア,中国,中東における外交の成果は示すことができず,その後,「プラグマティックな理想主義」の姿勢に後退した,と批判されている.
オバマは,温暖化や核拡散など,問題によっては秩序転換という目標を捨てておらず,同時に,漸進的な調整を受け入れるプラグマティズムも受け入れた.外交における経験のない大統領として,その姿勢は評価できるし,彼を支える顧問の配置や情報機関の利用に優れていたと思う.
オバマ・ドクトリンとしてDavid
Sangerが呼んだのは,「軍事力の行使を重視しない,しかし,アメリカの安全保障が直接に脅かされる時にはユニラテラルな行動も取る.グローバルな問題を処理する協調を重視する.中東からアジアへのバランスの再配置を行う.」
たとえば,オサマ・ビン・ラディンの殺害と,リビアへの軍事介入との違いは,オバマ・ドクトリンを証明している.前者はアメリカの安全保障を直接に脅かす問題であり,オバマが関与して他国の領域内でも特殊部隊を動かした.後者は,軍事介入に対する国際社会の正統性を得るまで待って,NATOの同盟諸国と一緒に行動した.
オバマの外交政策は,その批判に応える内容を持っている.
WSJ
August 8, 2012
America
Needs a Business Pivot Toward Asia
By CURTIS S. CHIN
FT August
9, 2012
There
is no need for Mitt to bait the old Russian bear
By Philip Stephens
l 枯葉剤の補償
NYT August
9, 2012
After
40 Years, U.S. to Clean Up Agent Orange in Vietnam
By THOMAS FULLER
ベトナム戦争における枯葉剤の使用とその健康被害・後遺症に苦しむ人々への補償4300万ドルを,40年を経て,アメリカ政府は漸く合意した.二国間関係の改善を重視するようになったからだ.しかし,被害者たちにとって,あまりにも遅い補償である.
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The Economist July 21st 2012
The Olympics: Rewards of the rings
Business and the Olympics: Victors and
spoils
Jamaica at 50: On your marks, get set…oh
(コメント) シリア,アメリカの旱魃と農業被害,イギリス都市の人口増,Visaによる市民管理,多方向に採掘する新技術,Googleの女性重役,HSBCのスキャンダル,企業犯罪への罰則強化,なども,世界的な規模で秩序のあり方に影響を与えると思います.
しかし,興味を持ったのは,オリンピックとジャマイカです.オリンピックの開催は,その国に大きな利益をもたらす,と誘致に熱心な政治家は主張します.しかし,そうではない,と書いています.また,スポンサー企業にとっての価値も,金メダルが示す国力も,パナソニックやジャマイカの苦境を考えてみることです.
The Economist July 28th 2012
The flight from Spain
Charlemagne: Euro Euphemism
The presidential campaign: Another fine
mess
Politics in Japan: Eyes right
China’s economy: Not with a bang
Flooding in Beijing: Under water and
under fire
Commodity prices: Downhill cycling
Free exchange: The Chicago question
(コメント) スペインの苦しみはユーロ危機の悪質さ,慢性化を示しています.政府が支出を削って,銀行処理のためにEUの融資も受けたのに,債券価格は数日しか上がらず,高金利と不況,それゆえ財政赤字が膨らむ(融資条件が守れない)のです.スペイン政府や国民にとって,じゃあ,どうすれば良いのか? と叫びたい気持ちでしょう.
Charlemagneの示すメルケルとオランドの意見なら,ユーロ圏の財政統合や政策介入,政治統合を求めるメルケルが正しいのです.しかしそれが,ドイツの求める条件で,ということなら反発を生じます.ドイツの抱えるハイパーインフレ恐怖症の治療に合わせて,ヨーロッパ全体が苦い薬を飲み続けるのか? と叫びたい気持ちでしょう.
日本の政治を「右へ」と見る記事に,違和感を覚えます.中国の経済が住宅バブル崩壊によって地方政府と銀行の破たん,政治不安,国際商品価格の下落,などに至るのか,を冷静に議論しています.北京の洪水による死者は,今や,香港のインフラ(政府)と比較されます.
ミルトン・フリードマンの生誕100周年.「もし連邦政府がサハラ砂漠に課税できるとしたら,5年で砂がなくなるだろう.」という憤慨は秀逸です.素晴らしい論争家の系譜を現代に遺しました.
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IPEの想像力 8/13/12
野田政権が消費税引き上げ法案を,漸く,衆議院で可決した日に,韓国のイミュンバク(李明博)大統領は竹島(韓国名・独島)を訪問し,その韓国による施設と安定的な実効支配を世界にアピールしました.日本の玄葉外務大臣は,国際司法裁判所に訴えることで日本の主張が国際社会に認められる,と対応しています.
同じ日であることは,単なる偶然なのでしょうか? ・・・少なくとも,ロシア,韓国(北朝鮮),中国(台湾),南沙諸島,など,領土紛争が同時に顕在化するのは,偶然ではないはずです.
消費税について,「政治生命」や「決断」を強調した政府が,次の選挙で争点を分散させるため,領土問題や米軍基地問題について積極的に反応するだろう、と議論されています.政治家が党派間の競争や選挙対策を常に心掛けるのは当然であり,その競争を介して,国民は正しい政策を実現しなければなりません.
日本の地理的な条件が江戸時代の終わりを性格付けたことについて,司馬遼太郎は簡潔に書いています.
「日本は,この列島の地理的環境という,ただひとつの原因のために,ヨーロッパにはない,極めて特異な政治的緊張がおこる.外交問題がそのまま内政問題に変化し,それがために国内に火の出るような争乱がおこり,廟堂(政府)と在野とが対立する.廟堂とは体制のことであり,外交を現実主義的に処理しようとする.野はつねに外交について現実的ではない.現実的であることを蔑視し,きわめて抽象的な思念で危機世界をつくりあげ,狂気の運動をくりひろげる.幕末は維新のぎりぎりまで型に終始した.」
吉田松陰も,そうであった,と司馬遼太郎は考えます.
ペリー来航の衝撃に,日本の独立を守るため,松陰はナポレオンによるフランス革命の輸出に呼応します.幕府や大名,公家にも絶望し,階級を超えて,救国の革命的市民軍を組織する,と呼びかけるよう提案しました.司馬はそれを「日本史上最初の革命宣言」と称えます.
しかし,断片的な情報と革命の幻覚に翻弄されて,捕囚として拘束されたまま,松陰の思想は秘密政治を転換させる「暗殺」へと飛躍します.
「松陰のいうところでは,井伊直弼のつかいである間部は幕府代表として京に入り,公家工作をしている.公家をして「日米通商条約締結」派たらしめようとしている.間部を阻止するにはこれを殺さねばならない.殺すのは長州藩士一手でころす.外圧からの緊張がつくる日本型の狂気の最初の発揚というべきであろう.」
現代の日本政治でも,「アラブの春」に比較される「反原発」の市民デモではなく,むしろ安全保障上の危機感と,ナショナリズム,「右傾化」によって,支配的論調が激変することを憂慮すべきでしょう.
それゆえ政治家たちは真剣かつ冷静に論争しなければなりません.ロシア,韓国,中国から,同時に,これまで解決できなかった領土紛争が,新しく連動する形で強硬に主張されるようになったことを重視しなければなりません.領土問題を解決し,日本が,東アジアの秩序に明確な発言力を示すときです.そのため,中国との領土紛争には譲歩し,韓国との領土紛争には積極的な同盟化のための外交交渉を呼びかけ,ロシアとの領土紛争には,中国と韓国から支持された4島返還と地域安全保障を,主張してはどうでしょうか?
たとえ日本政府が消費税引き上げに成功しても,山積する課題に猶予はありません.国際秩序の転換期において,次は,ユーロ危機が安全保障も絡む東アジア危機に波及するからです.
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