前半から続く)


guardian.co.uk, Friday 29 June 2012

Unthinkable? Tony Blair for PM again

FT June 29, 2012

Tony Blair: an exclusive interview

By Lionel Barber


l  金融政策と3つの悪循環

VOX 29 Jun 2012

Breaking the vicious cycle: Restoring balanced and sustainable growth in the global economy

Stephen Cecchetti, Boris Hofmann

世界経済が回復するには不均衡を解消しなければならない.それは三つの課題を解決することだ.1.先進諸国の多くで金融部門が非常に弱くなっている.2.また,その政府債務が維持できないほど多い.3.家計と企業にも巨額の債務と構造的な不均衡がある.

そこで,銀行は損失を認め,自己資本を増強しなければならない.政府は持続可能な経路に戻る.家計と企業は債務を減らす.しかし,各部門が調整努力を強めればそれがマイナスの影響を及ぼして悪循環となってしまう.

金融部門の資本増強は財政の負担を増し,融資基準の厳格化は成長を弱め,家計と企業の債務削減をより困難にする.政府の再建に対する信頼も悪化し,銀行不安と連動する.財政再建は成長を損なう.家計と企業の債務削減も,短期的には景気を悪化させ,それが銀行のバランスシートや政府の財政状態を悪化させる.

こうした循環を打破するうえで,中枢の先進経済における中央銀行が最後の手段として行動をするときだ.彼らは協力して大規模な金融的刺激を発動している.銀行や政府の信用悪化を緩和し,負担を軽減している.この緩和策は新興市場を介して実現する.世界的な規模でかつてない金融緩和が行われている.世界の実質金利は近年の世界成長率を大幅に下回る.

しかし,中央銀行による流動性の供給では支払い不能問題を解決できない.金融緩和が長期化すれば,自律的な回復過程を遅らせ,特に高成長の新興市場で,金融市場や物価を不安定化するリスクを生じる.中央銀行への期待と成果とのギャップが広がれば,中央銀行の信用や独立性を損なうだろう.

銀行システムは損失を認めて自己資本を増やし,透明性を高める.それに加えて,持続的な成長のために,新しい生産的な投資に資源を動員しなければならない.すべての部門でバランスシートが改善したとき,世界経済の悪循環は終わり,持続可能な成長経路に復帰する.

WSJ July 4, 2012

Monetary Policy and the Next Crisis

By JOHN B. TAYLOR

BIS年次総会は,主要先進経済における極端な金融緩和がもたらす「副作用」に注意した.アメリカ連銀がかつて示した「世界過剰貯蓄」説とは対照的に,主要国の金融緩和による国際資本移動が,先の金融危機の主要な原因であり,次の金融危機をもたらす,と警告した.

FT July 5, 2012

The case for merging monetary and financial policy

DeAnne Julius

かつて,金融政策とは金利を決めることだった.今では,量的緩和と,信用緩和と,流動性供給と,プルーデンシャル規制と,債務管理とを複合したものだ.

金融政策への期待が高まっている.しかし中央銀行には,政策を決める理論が無い.また,政策協調を実現するのが難しい.不確実な状況で,複数の目的を実現するとき,中央銀行は慎重に行動するしかない.

NYT July 5, 2012

Moving to Spur Economy, 3 Central Banks Take Action

By KEITH BRADSHER and MELISSA EDDY


l  アフリカの台頭

NYT June 29, 2012

After Genocide, Stifled Dissent

By TIMOTHY P. LONGMAN

NYT June 30, 2012

Africa on the Rise

By NICHOLAS D. KRISTOF

アフリカを憐れむより,アフリカの新しい側面を考えよう.それは成長の動力源だ.アフリカン・タイガーを知っているか? 2001-2010年に,世界で最も高い成長率を実現した10か国のうち,6か国はアフリカにある.

アフリカはサファリと人道援助のためにあるのではない.そこでは金が動き,儲かる商売ができる.石油,天然ガス,鉱物があり,1990年代初めの中国にあった投資機会に匹敵する,とGoldman Sachsは報告している.

私たちが訪問したレソトの工場は,台湾企業が経営し,1万人を雇用する.労働者たちはアメリカのLevi’sのためにブルージーンズを生産し,その質はアジアの工場にも負けない,と経営者は述べた.レソトは,アフリカ最大のアメリカ向けアパレル輸出国になっている.

アフリカの至る所で,資源や農業の投資する中国のビジネスマンに会う.しかしアメリカのビジネスマンは,まだこの大陸の潜在的な経済機会に気付き始めただけだ.そして,援助よりも貿易の方が,その国に成長をもたらす点で重要である.

アフリカの貿易を妨げているのは,汚職,悪質なルール,無謀な最低賃金,などだ.ルワンダの政治的抑圧,エチオピアの治安部隊による殺戮や強姦,ジャーナリストの投獄も深刻だ.しかし,アフリカがますます民主化され,テクノクラートの支配に代わり,市場に合致した経済に変化しつつあるのは間違いない.

アフリカを飢餓と大量殺戮の土地だと考えてはならない.レソトはアフリカの台頭のシンボルだ.それは,民主的な政権交代,街路の治安を実現し,世界最初の100%再生可能エネルギーによる電子グリッドを持つ国になる.


l  Liborスキャンダル

guardian.co.uk, Saturday 30 June 2012

Banking scandal: 'the rot was widespread, the corruption endemic'

Vince Cable

guardian.co.uk, Saturday 30 June 2012

Banking scandal: our whole society has been warped by the City

guardian.co.uk, Saturday 30 June 2012

Let's end this rotten culture that only rewards rogues

Will Hutton


WP June 30, 2012

Bombing or the bomb?

By David Ignatius


l  エジプト

Project Syndicate 30 June 2012

Egypt Holds Its Breath

Omar Ashour

最善の結果は,1982年のスペインで,社会主義労働者党が選挙で勝利したケースである.右派の軍部はこの結果を受け入れ,クーデタの企てを抑えた.また政府も穏健な政策を採った.

NYT July 3, 2012

What Does Morsi Mean for Israel?

By THOMAS L. FRIEDMAN

SPIEGEL ONLINE 07/04/2012

Lessons of the Arab Spring

Where Are the Middle East's Revolutions Heading?

LAT July 4, 2012

Egypt's Islamist future

By David Schenker


l  フランス

NYT June 30, 2012

What’s a Socialist?

By STEVEN ERLANGER

現代のフランスにおいて,社会主義者であるとはどういう意味か?

FT July 5, 2012

France: Ready to jump ship

By Hugh Carnegy and Scheherazade Daneshkhu


l  保護主義の再生

WSJ July 1, 2012

The Return of the Protectionist Illusion

By DOUGLAS A. IRWIN

1930年代前半に大恐慌が襲ったとき,経済を回復させると信じて,各国は関税率を引き上げ,輸入割り当てや,外国為替規制,などを行った.しかし,実際は,こうした近隣窮乏化政策が世界貿易を崩壊させた.今また,保護主義の脅威が世界を覆いつつある.

アメリカ議会は新しい"Buy American"を準備しているが,それはカナダなど,他の貿易相手国に苛立ちを生じている.ある推定によれば,報復によって,外国の刺激策による売り上げの増加の1%を失うだけで,アメリカの輸出業者は20万人の雇用を失う.それは2009年の刺激策に盛られたこの条項がもたらす特恵の雇用者増大,43000人をはるかに超えている.


l  アメリカ大統領選挙

LAT July 1, 2012

2012 campaign's missing ingredient: vision

By Drew Westen

Project Syndicate 03 July 2012

Obama versus Romney on Jobs

Laura Tyson

FP JULY 3, 2012

Tea, Taxes, and the Revolution

BY GROVER G. NORQUIST

guardian.co.uk, Wednesday 4 July 2012

The Fourth of July and my American son

Gary Younge

LAT July 4, 2012

A Fourth of July debate: How much power to the people?

FT July 5, 2012

Woodrow Wilson knew how to beard behemoths

By Sebastian Mallaby

同じように技術進歩と社会的不平等の時代を治めねばならない現代の指導者たちは,ルーズベルトとウィルソンに学ぶべきだ.現代の銀行は,かつての鉄道や石油のコングロマリットよりも悪い.銀行を分割しなければならない.


l  21世紀の労働時間短縮

guardian.co.uk, Sunday 1 July 2012

It's the 21st century ? why are we working so much?

Owen Hatherley

すべての未来学者が事実上の合意を得たことの一つは,21世紀における労働は大幅に減少している,と言うことだった.しかし,確かに技術が大きく進歩した2012年を観たら,彼らは何と思うだろうか? 9時から5時どころか,朝の7時から夜の7時まで,多くの人々が働いている.

ユートピアン,ソーシャリスト,未来学者,・・・彼らが労働の廃止を信じた理由は一つである.機会がそれをするだろう.過去10年で,シェフィールドの鉄鋼労働者は,一人当たり,はるかに多くの鉄鋼を先産するようになった.あるいは,コンテナ港ではほとんどの荷揚げ労働者が消滅した.

その結果,マルクスがかつて想像したような,「朝に狩りをし,午後は魚釣り,夕食後は批評を行う」自由を,鉄鋼労働者や荷役夫たちは得たのか? そうではなかった.彼らは永久に,恥辱と貧困,次の仕事を見つける不安に苦しんでいる.それがあるとしても,一層,不確実で,賃金は安く,労働組合の無い,サービス部門である.

われわれは機械を得た.しかし,意志を失った.

guardian.co.uk, Monday 2 July 2012

Let's abolish retirement

Robert Skidelsky

仕事と余暇が生活の中に混じりあい,富と所得が人々により平等に分配されるなら,「退職」という考え方は消滅する.

FT July 2, 2012

Soaring youth unemployment stokes fears

By Chris Giles in London

guardian.co.uk, Tuesday 3 July 2012

Why Americans should work less ? the way Germans do

Dean Baker

Paul Krugman and Richard Layardによる緊縮策への批判に賛成するが,労働時間を減らすことでわれわれは失業問題を解決できる.

裕福な諸国で我々が直面する問題は,われわれが貧困であるからではなく,豊かであるから起きている.何百万人,何千万人もの労働者が,その労働を必要とされていない.

アメリカやヨーロッパでは,2007年に,住宅バブルによる需要で,ほぼ完全雇用を達成していた.それは破裂し,大幅に需要が減少して,Krugman and Layardは政府が財政赤字で需要の減少を埋めるように求めている.

もう一つの方法がある.それは雇用者を励まして,労働をより多くの労働者に分割することだ.現実に,労働時間は国によっていろいろだ.ドイツやオランダの平均的な労働者は,アメリカの平均的労働者の年間労働時間に比べて,20%も少ない時間しか働いていない.つまり,もしアメリカが明日からドイツの労働パターンを採用すれば,失業は消滅するのだ.

もちろん,そうした変化は一晩で実現しない.しかし,政府は労働時間の短縮や休暇の増大を勧めるべきだろう.金融危機後のドイツの景気回復策は,労働時間の短縮で失業者の増加を抑制したことだった.

失業対策として,労働時間の短縮を組み入れるべきだ.

FT July 4, 2012

Enough is enough of the age of consumption

By Robert and Edward Skidelsky

エコノミストたちは経済発展を3段階で考えていた.

第一段階は,資本蓄積の時代.世界は資本財を積み上げた.第二段階は,消費の時代.そして,第三段階は,過剰abundanceの時代.人々は貯蓄するより消費し,余暇を増やす.それは経済の時代を終わらせる.

世界の多くには,まだ,消費の時代が来ない.中国のように,莫大な規模で資本を蓄積している国もある.しかし,われわれの問題は,なぜ西側諸国は消費の時代をまだ終えられないのか,である.「もう十分だ」と言うことができない.

確かに,エコノミストたちが量だけで考えた点は間違いだった.質の改善がある.しかし,もっと深刻な点は,われわれ自身の満足しない性質を過小評価したことだ.われわれの欲望はなかなか満たされない.豊かになるほど,相対的な貧困を感じてしまう.しかも,エコノミストたちは平等を軽視した.豊かな社会の真ん中に,貧困の大きな穴ができている.

われわれの社会が「満たされない消費」という罠から逃れるには,貨幣が手段でしかないと確認すること,消費の強迫観念を取り除く集団的な手段が必要だ.

職場の安定性を高め,すべての人にベーシック・インカムを与え,政府は広告を抑制して消費圧力を減らすべきだ.そして,累進性の高い消費税を採用し,最高税率を75%にする.こうした政策には批判があるだろう.しかし,「これで十分だ」と,社会が集団的に判断しなければならない.

SPIEGEL ONLINE 07/04/2012

Anne-Marie Slaughter on the Career-Family Balance

'We Need to Change the Workplace and Society'


l  イギリスの国民投票

guardian.co.uk, Sunday 1 July 2012

Should there be a referendum on the European Union? It is too soon to say

Douglas Alexander

FT July 2, 2012

Blackmail cannot be UK’s Europe policy

By Gideon Rachman

ユーロやEUを嫌う保守党議員は,国民投票によってEU離脱を示唆し,ユーロ危機に苦しむEUとの関係を有利に展開できる,と考えている.その冷笑的で自己中心的な戦略が成功することは決してない.それどころか主要な貿易相手であるEU諸国を憤慨させて,イギリスの国益を損なうだろう.

guardian.co.uk, Wednesday 4 July 2012

Britain needs a vote on Europe ? but not now

Timothy Garton Ash

ユーロ圏やEUがどうなるかわからない今,国民投票することに意味はない.ユーロ圏が崩壊すればEU離脱に向かうだろう.ユーロ圏が生き残れば,EUの制度は大きく改革される.

BLOOMBERG Jul 4, 2012

Devaluing the Pound Isn’t a Solution, It’s Default

By Gordon Kerr


l  フットボールの愛国心

Project Syndicate 03 July 2012

Post-National Football?

Ian Buruma

ヨーロッパのチャンピオンシップ準決勝で,ドイツがイタリアに敗北したことにヒステリックになったある新聞は,選手の多くが国家を歌えない,と不満をぶつけた.イタリア選手の多くは,国家の歌詞をベルトに書いて歌っていた.目を閉じて歌うキャプテンのGigi Buffonは,まるで祈祷師のようであった.

優勝したスペイン・チームの選手たちは,国家が流れている間,誰一人,口を開けなかった.

世界で最も成功したフットボール・チームは,世界最高のスター・プレーヤーを含まなかった.優勝チームは集団として戦い,結束を乱すプリマドンナに苦しむことはなかったのだ.ドイツの新聞が非難したほど,愛国主義は勝利に貢献していない.

フットボールはしばしば戦争の代わりであると言われる.シンボリックに,多かれ少なかれ平和的に,国際的な対抗心を燃やす.各チームのサポーターが国民の象徴やコスチュームに工夫するのも仕方ない.勝利するたびに,イギリス人の「ファイティング・スピリッツ」や「フェア・プレイ」が称えられ,ドイツ人の「規律」,イタリア人の「ローマ兵のような」防御,オランダ人の自由な精神と「個人主義」,フランスが1988年位優勝したときは,「自由・平等・友愛」に基づくマルチ・エスニシティが称えられた.そして,敗北すればそれが欠点としても主張されるのだ.

今や,優れたヨーロッパのクラブ・チームは,すべて多国籍である.選手は金で動く.トップのクラブは最も裕福だ.

つまり,こういうことだ.共通の国旗,言語,歴史は,確かに人々の協力を助ける.しかし,啓発された利己心も,同様に,成果を上げる重要な要素だ.


WSJ July 4, 2012

Electrifying Japan

By JOSEPH STERNBERG


l  サイバー金融・経済危機

Project Syndicate 04 July 2012

Will Governmental Folly Now Allow for a Cyber Crisis?

Kenneth Rogoff

2008年の金融危機を予測しなかったのか,と多くの人は規制当局や専門家を非難したが,今また,サイバー攻撃による世界経済危機が同じである.高度なコンピューター・ウィルスを開発する無法国家や,無政府主義のハッカー,テロリストから攻撃がありえる.

技術変化は早く,複雑すぎて政府には管理できないから,コンピューター企業に委ねるしかない,という意見がある.しかし,金融ビジネスについてもそう言われた.業界は政治的な影響力が強く,成長が衰えている.政府の対応は遅い.攻撃を許す最大の弱点は,人間的な要因だ.


WSJ July 5, 2012

Mending Poland's Jewish Past

By KAMIL TCHOREK


l  制度の重要性

VOX 5 Jul 2012

Power sharing and institutional stability

Bernardo Guimaraes, Kevin D Sheedy

経済活動は制度の影響を受ける.経済的な非効率性をもたらすルールがあるのは,社会全体ではなく,制度がもっぱらエリートたちの利益を守るためである.エリートたちは全体としての富を抑える制度でも守ろうとするし,富を増やす政策を実行しない.

******************************

The Economist June 23rd 2012

Saudi Arabia: Time for the old men to give way

Saudi Arabia: The long day closes

The euro: Tumbling towards the summit

Japan’s fiscal mess: A pound of flesh

Financial sanctions: Dollar power

(コメント) サウジアラビアが,最後に,アラブの春を迎える国になるのか? 貧しい労働者層,仕事の無い若年層,権利を否定されている女性たち.王室の支配権はあまりにも老人たちの手に握られ,改革より,混乱を避けるために国民を懐柔する支出ばかりに頼ります.その姿勢は,同盟国アメリカにも,王室のイデオロギー的な正統性を得るために支援してきたイスラム主義者たちにも,不満を蓄積するでしょう.

ギリシャの選挙はユーロ離脱を避けました.ユーロ危機を回避するサミットが開かれますが,ドイツの姿勢はなかなか変わりません.他方,誰も期待していなかった日本の政府による増税が決まったことが,何を意味するのか,記事は分裂した日本国内の議論を紹介します.

アメリカのパワーとして,ドルの国際的な利用,が挙げられます.イランに対する制裁は,ドルを介して強化されましたが,問題は中国が参加するかどうかです.

******************************

IPEの想像力 7/9/12

今朝,テレビ国会中継を観ると,政府閣僚が質問に答えていました.質疑の中身について,双方から,政治を前進させる姿勢を感じました.首相官邸に向けた反原発の抗議デモが20万人に達した,と昼のワイドショーは伝えています.大飯原発を再稼働し,消費税を増税し,尖閣諸島を国有化する,と述べた日本政府が,色々な視点から批判されています.

香港の行政長官交代や就任式,民主活動家の死に関する疑惑,天安門事件を記念する集会,イギリスと中国の警備方法の違い,などについて,ふるまいよしこ氏の書いたコラム(ニューズウィーク誌)を興味深く読みました.

緊縮策やユーロ圏崩壊がもたらす破壊的な影響は明らかであるから,それを無視するほどヨーロッパの政治指導者たちが愚かだとは思わないが,歴史は決して安心できないことを示している.ポール・クルーグマンを含む,多くの論者がそう感じています.

歴史,というのは何でしょうか?

第一次世界大戦と第二次世界大戦が残した重大な疑問は,なぜこれほど多くの戦死者,犠牲者を出したのか? です.発達した文明社会,優れた工業力や組織管理の能力を,破壊や殺戮のために駆使しました.そして,それを想うときには繰り返し,ケインズ『平和の経済的帰結』が描いた戦争前のグローバリゼーションの利益と,ノーマン・エンジェル『大いなる幻想』が示した戦争の終わり,平和的な解決策への合意が指摘されます.

強硬な反ユダヤ主義者の一人,ハインリヒ・クラスが,ユダヤ人の経済的機会を制限するためにやるべきだ,と考えたことが,ニーアル・ファーガソン『憎悪の世紀:なぜ20世紀は世界的殺戮の場となったのか』に紹介されています.

1.国境で入国を妨げる.2.国外に追放する.3.法的に外国人とする.4.官公庁から排除する.5.陸海軍から排除する.6.選挙権を剥奪する.7.教育・法曹界からも,劇場・監督業からも排除する.8.「ユダヤ人向け新聞」を除いて,ジャーナリストとしての勤務を許さない.9.銀行経営を許さない.10.農地(または,その抵当権)の所有を許さない.11.倍額の税を収めさせる.

ファーガソンは,極端な暴力行為が集中した場所と時期から,三つの要素を強調します.すなわち,民族の対立(憎悪),経済の緊張,帝国の衰退,です.遺伝子プールを保存する,というさまざまな似非科学ではなく,同質集団の防衛(そして攻撃)本能,という説明を採用します.

A.L.サッチャー『戦争の世界史:それは大英帝国の凋落から始まった』は,この戦争が短期で終わると思われていたのに,「4年以上の歳月にわたって,将兵たちは日に6千ないし7千の割合で死んでいった.」と書いています.しかも,最も若々しく,一番活力に富む,前途多望な者たちが,1千万人も犠牲になった,と.

サッチャーは,成熟した政治的手腕が強固にコントロールしなければならなかった問題を三つ指摘します.すなわち,危険なまでに燃えやすいナショナリズム,抑えのきかない植民地獲得競争,力の均衡の不安定さ(強制的制裁を行える国際的権威の欠如),です.

もう一つ,興味深い説明をマイケル・マン『ソーシャル・パワー:社会的な<力>の世界歴史』(下)に見つけました.政治・外交と軍組織との関係についてです.この二つは,貴族や騎士階級が支配する社会では同じものであったでしょう.しかし,20世紀は違いました.

「軍隊は一つの巨大な工場となりつつあり,その内部は効率よくヒエラルキー的に統合され,外の目に触れず,外部で何が起こっているかはほとんど知らなかったのである.・・・軍事技術は攻撃的,先制的になり,テクノクラートの理解をますます狭めて,究極の軍事的勝利につながる外交と同盟の重要性を覆い隠してしまった.」

つまり,(ファーガソンが言うように)グローバリゼーションがもたらした社会・政治的なボラタリティーの増大を経験した地域は,特に,多数派がその支配を脅かす人口変動を意識するとき,同質集団の攻撃性を「民族」の偏見で高めたのではないか.それは特に,帝国の支配が急速な工業化や技術革新に対して不適当な足かせとなり,しかも民族国家への転換が伝統的秩序を崩壊させてしまう中で,それに代わる強制力を持った国際的権威が現れず(サッチャー),憎悪の政治が暴走し始めたのです.ヨーロッパにおける「勢力均衡」の平和を説く「リアリスト」の議論も,その社会的な前提を失っていました(マン).

私は,こうした優れた説明を読みながら,日本の政治情勢を,香港と中国の変化を,ヨーロッパの通貨危機を,想いました.そして,日本人の政治意識が高まってきたことを喜びたいです.次の選挙は,日本史上でもまれな,重大な論点に富む論争を聞くでしょう.多くのハインリヒ・クラスも.

******************************