前半から続く)


l  国際政策協調とG20

Project Syndicate 15 June 2012

A Global Perfect Storm

Nouriel Roubini

世界経済はあらゆる方向から衝撃が襲ってくる.ユーロ圏の危機は波及し,財政赤字と金利差が拡大している.アメリカの景気回復は弱まり,政治的な対立で政策が決定できない.市場不安から株価が下落している.中国の成長モデルは持続可能でないが,消費を増やす改革は進んでいない,指導部内にも改革について対立がある.その他,イランの核問題とイスラエルの動きは市場を不安にし,2008-09年に比べて,金融政策も財政政策も余地が少ないため,為替レートを使って輸出を促す動きもある.

ユーロ圏の雲行きが最も怪しいが,リスクはそれだけではない.

2012-06-16 (China Daily)

Monetary system reform

By Xu Hongcai

国際金融システムの改革はG20に課せられた使命の一つである.アメリカ・ドルを中心としたシステムから,ドルの代わりにもっと使用されるSDRを含む,多通貨(ユーロ・人民元)間システムに移行しなければならない.

1.準備通貨の国際的な監視システムを設ける.2.国際準備通貨はオープン市場で競争する.3.国際金融危機の救済メカニズムを設ける.4.BISIMFとの分業を進める.そしてIMFの分担金の配分を変え,専務理事の決定方法を変える.

The Observer, Sunday 17 June 2012

Powerless ministers are waiting in terror to see if the asteroid will hit

Andrew Rawnsley

Project Syndicate 17 June 2012

The Gospel of Growth

Julia Gillard, Lee Myung-bak

WSJ June 18, 2012

A Leaderless World

WSJ June 18, 2012

The G-20 Needs Better Admissions Standards

By ALEX M. BRILL And JAMES K. GLASSMAN

2012-06-18 (China Daily)

Summit faces major tasks

By Liu Youfa

Global Times | 2012-6-18

Global financial reform efforts likely to be stifled at G20 summit

By Liu Zongyi

FT June 19, 2012

Expect a feeble future for the G20

Ian Bremmer

メキシコのLos Cabosで開かれている19か国とEUからなるG20が,重要な合意に至るとは考えられない,その理由は,次の5つだ.

1.5か国からなる安保理常任理事国の間でも合意形成が難しいことは長年示されてきた.すべての国に,同時に,同じような問題が,ほぼ同じ程度で起きなければ,減速を示す宣言以上に中身のある合意できない.

2.問題が複雑であるだけでなく,G20内部の政治的価値や関心が異なっている.それは新興諸国の指導力が誕生したのではなく,新しい相違が誕生したのだ.1950年代,60年代に,ドイツや日本が台頭したときも不安はあったが,彼らは自由市場と民主主義の価値を重視していた.現在の新興諸国はそうではない.そのうえ,諸国間で発展の水準が大きく異なる.そうした違いを克服するために議論の項目を決める指導国もない.これまでアメリカがそれを行ってきたが,アメリカの有権者は,指導者が外国の問題ではなく自国の問題に集中するよう求めている.

3.国民はアメリカが第二次世界大戦以降のいかなる時よりも強くアメリカの国際的役割を縮小するように求めている.アメリカは軍事的にも経済的にも超大国であるが,世論はアメリカ政府に雇用を守り,テロリストからの本土防衛に努め,輸入エネルギーへの依存を抑えるよう求めている.民主主義を国際的に広めることは支持を大きく失った.

4.アメリカが信頼する同盟諸国はアメリカの役割を代わりに引き受けることができないだろう.ヨーロッパはユーロ圏のガバナンス再建に時間がかかり,日本は政治指導者のめまぐるしい交代と複雑な改革を実現できないまま,昨年は地震,津波,原発事故の三重苦を追加された.

5.中国,インド,ブラジル,ロシア,トルコ,湾岸諸国などは,国内改革が困難で,余分な国際的責任を引き受けることができない.彼らにはまだ,国際政治や問題を処理する経験も組織も不十分だ.

アメリカ,日本,中国がユーロ危機の解決に向けた金融協力を行えないなら,非ヨーロッパ圏の指導者がそんなことを考えるはずがない.開発諸国と新興諸国とが炭素排出量を制限したり,シリア問題を解決するために彼らが何か合意したり,することなどありえない.

WP June 19, 2012

Avoiding a global catastrophe

By Lawrence Summers

WSJ June 18, 2012

The Euro's Global Security Fallout

WALTER RUSSELL MEAD

ユーロ危機は,単に経済危機であるだけでなく,地政学上の危機である.まず,ヨーロッパの無秩序はロシアのチャンスである.地政学的に,経済的に,政治的に,ロシアは東欧に浸透し,影響力を拡大する.また,トルコはヨーロッパに参加する意志を失い,独自のアクターになる.もはやヨーロッパはトルコの改革モデルではない.それらはバルカン諸国を非常に危険な状態に置くだろう.

NATOはユーロ危機でダメージを受ける.・・・

Global Times | 2012-6-19

Europe and China both striving to rebalance

By Gustaaf Geeraerts

YaleGlobal, 19 June 2012

Could Europe Ruin the World Economy?

David Dapice

FT June 20, 2012

Forget Grexit, it’s time to fret about ‘Chindown’

ギリシャのユーロ圏離脱が世界経済に及ぼす影響は大いに議論されている.他方,中国経済の減速が原材料への需要減少を介して世界経済に与える影響はあまり注目されていない.

Project Syndicate 20 June 2012

Couple’s Counseling for the US and China

Yao Yang

1972年のニクソン訪中によって,中国は国際社会に復帰した.その後の20年間は,中国の経済的なキャッチアップによるハネムーン期間であった.アメリカは中国に最恵国待遇を与え,中国の重商主義的な通商・金融政策も許容した.2001年にWTOへ加盟してから,中国の輸出は5倍に増えた.

その間,中国の知的所有権や国有企業,技術支援などで,米中間の摩擦も生じた.先端技術の育成では政府による無駄も生じただろう.しかし,グローバルな不均衡を人民元の為替レートのせいだと非難するのは間違いだ.生産性のギャップが大きな国は,個人や企業が急速に生産性を上昇させる.ドイツ,日本,韓国,シンガポール,台湾など,急速な成長期に大幅な経常黒字を生じた.要素移動,特に労働力の移動が企業に多く利潤をもたらすのだ.

中国だけでなく,アメリカにも構造的な問題がある.ところが,しばしばアメリカのエコノミストは中国だけを非難した.たとえば,世界金融危機の原因はもっぱらアメリカの金融規制が間違っていたことにあるが,アジアの経常収支黒字を非難した.

アメリカ経済には技術革新や労働市場の弾力性など優れた点があり,ヨーロッパや日本よりダイナミックであるが,レイオフを繰り返して労働者の生活を破壊する,という欠陥もある.世界中の様々な経済が,改革を通じてそのバランスを調整しなければならない.

FT June 21, 2012

Cut adrift between America and Europe

By Philip Stephens


l  クールな戦争

FP JUNE 15, 2012

Cool War

BY JOHN ARQUILLA

戦争が悲惨で多くのコストを伴うことこそ,戦争を避ける理由を強めるものだった.然し戦争のコストは劇的に減少した.その主要な理由は「サイバー戦争の兵器革命」である.他国への介入は,以前のように軍隊を動かすのではなく,コンピューターによるインターネット上のサーバー攻撃やハイテク兵器で行われる.たとえば,アメリカとイスラエルが行ったと言われる,イランの核開発計画を破壊し,情報を盗んだであろうStuxnetというウィルス攻撃である.

こうして伝統的な戦争は起きることもなくなる.クール・ウォーの時代には,現実世界の戦争を行う必要が無いからだ.また,国際犯罪やテロ活動を監視し,未然に防止できるだろう.核拡散のリスクにも対抗できる.

反対にマイナス面は,Frederik Pohl1979年に描いたディストピア小説,The Cool Warのように,ホッブズ的な世界が出現することだ.なぜなら,どのような国も,小集団も,サイバー戦争の力を持てるからだ.

文明そのものを消滅させるリスクを持つ冷戦の時代より,ハイテク・システムを破壊し合うクール・ウォーの時代に生きる方が,幸せだろう.

WP June 17, 2012

What is America’s cyberwar policy?


l  イギリス政治

The Observer, Sunday 17 June 2012

Where are the new airports and railways we so desperately need?

Will Hutton

インフラは美しい.空港,息を呑むような橋梁,超高速列車網,秩序づけられた港湾設備などは,単にその経済目的を超えた美しさがある.素晴らしいデザインと建築技術を駆使したインフラには,精神を高揚させる何かがある.優れたインフラは,その社会が集団的な行動の価値を知って,未来と自分自身に投資していることを示している.それは自分たちへの信念だ.

しかし,イギリスには偉大なインフラが無い.19世紀のヴィクトリア時代のインフラから後だ.そこにはしみったれた話しかなく,イギリスの野心が欠けている.自分の裏庭には止めろ,という自己本位な心理が働き,消耗する計画課程と相まって,インフラは実現しなかった.

guardian.co.uk, Tuesday 19 June 2012

Rio's reprise must set hard deadlines for development

Nick Clegg

guardian.co.uk, Tuesday 19 June 2012

Politics must change – don't let reform be a victim of the economic crisis

David Miliband

1930年代,70年代,20世紀の2度の経済危機は政治的中心の転換をもたらした.2008年の危機でも,ケインズ主義が復活し,IMFが復活し,産業政策が復活した.緊縮策への反発が強まるだけでなく,同時に,改革を支持する必要がある.危機は経済的であるだけでなく,政治的なものだ.政策だけでなく,政治の思想やあり方が転換する.政治改革を経済危機の犠牲にしてはならない.


l  オーストラリア

FT June 17, 2012

Australia: Mine, all mine

By Neil Hume


l  ドイツへの要請

FT June 17, 2012

What happens if Angela Merkel does get her way

Wolfgang Münchau

ドイツ連銀によれば,財政同盟なしに銀行同盟はない.メルケルによれば,政治同盟なしに財政同盟はない.オランドによれば,銀行同盟なしに,政治同盟はない.

フランスの大統領だけが現実の解決策を示した.ヨーロッパ安定性メカニズムにより銀行に無制限の資本注入を行う.それをECBが融資するのを許す.ECBは上位25の金融機関を監督する.これに対するメルケルの態度は,・・・Nein, ・・・Nein, ・・・Ja.

合意が無ければ,静かな銀行取り付けが広がる.イタリアこそがデフォルトに最も近い.赤字は少なく,累積債務が大きいからだ.Mario Monti首相はそれを阻止するが,イタリアの政治的潮流に変化が起きている.

FT June 19, 2012

I come to praise Ms Merkel not to bury her

By Joseph Joffe

1930-32年のドイツ首相であったHeinrich Brüningこそ,緊縮策の指導者であった.政府支出の3分の1をカットして,借り入れをほとんどゼロにした.しかし,2008年の危機に対しては,メルケルを含めて,西側諸国の政府が莫大な財政刺激策を採用した.アメリカ連銀もECBも金融救済・緩和策に猛進した.

それでも,ドイツは西側世界を救うために行動せよ,と要求されている.英米のように,ECBは量的緩和を増大するべきだ.財政刺激策も,生産性の上昇を超える賃金引き上げも,行うべきだ,と.言い換えれば,かつて機能したこともない,最悪の,賃金インフレーション論だ.ヨーロッパの競争力を破壊するだろう.

その理由は,Niall Ferguson and Nouriel Roubiniによれば,ドイツは強いからである.その強さはユーロ圏で守られている,という.しかし,ユーロはドルに対して強くなっているが,ドイツの輸出は伸びた.労働市場を改革し,増税し,福祉国家を見直したからだ.まさに地中海諸国の拒む改革だ.

1992年,コール首相は,財政・金融の抑制を通じて「ヨーロッパをドイツ化する」と主張した.しかし今,危機の諸国は「ドイツをヨーロッパ化せよ」と求めている.政府支出を増やせ,インフレにせよ,賃金を上げろ.

ドイツが安価な融資とリスクを負い続ければ,ユーロ圏は破たんする.

NYT June 19, 2012

The Trouble With Ms. Merkel

guardian.co.uk, Thursday 21 June 2012

Mrs Merkel's Germany is Europe's one musketeer

Josef Joffe

一人の女性にこれほど多くの重圧,あるいは,権力が集中するとは!? メルケルは,ユーロを救い,ヨーロッパを救い,世界経済を救い,アメリカ大統領を救う.・・・そんな馬鹿な.

ケインズが言うように,政府は財政赤字を膨らませて,経済を始動させるべきだ,という.あるいは,ユーロ圏の赤字をドイツがユーロ債として共有せよ,と.

確かに,大きな力には大きな責任がともなう.しかし,ドイツの赤字でできることは限られている.しかも,問題はマクロではなくミクロ経済,国家ではなく労働市場だ.


l  ネパール

WSJ June 17, 2012

Nepal's Unreconstructed Maoists

By ASHOK. K. MEHTA


l  日本

FT June 17, 2012

A Japanese duel

BLOOMBERG Jun 21, 2012

Debt, Nuclear Plants Signal Brewing Japanese Crisis

By William Pesek


l  リオ国連環境会議

FT June 18, 2012

Rich nations must take the lead in a clean-energy revolution

By Nicholas Stern and José Antonio Ocampo

20年前のリオ・デ・ジャネイロで,世界の温暖化ガス排出量を1990年水準に抑える国際合意が成立した.その大きな責任は工業諸国に与えられた.

しかし,富裕諸国の排出量は増加し続けてきた.2020年の行動目標が守られたとしても,世界の温暖化は3度以上も進む.それは過去300万年もなかった水準だ.アメリカとカナダが京都議定書を抜けたように,富裕諸国の無責任ははなはだしい.他方,中国,インド,メキシコ,ブラジルなどは,意欲的な行動を示している.

温暖化による最大の不正義は,それに何の責任もない貧しい諸国が最大の被害を受けることだ.彼らの発展を止めるよう求めるより,温暖化ガスを排出しない発展モデルを選択できるように国際支援することが求められる.世界人口は2050年に90億人の重さとなる.

Project Syndicate 18 June 2012

A Rio Report Card

Jeffrey D. Sachs

Project Syndicate 21 June 2012

Rio’s Unsustainable Nonsense

Jagdish Bhagwati

もしジョージ・オーウェルが生きていたら,「持続可能な開発」という文句によって誘惑し,蛮行と浪費に耽るロビー団体に,いら立ち,衝撃を受けただろう.

・・・“Decent Jobs” ・・・“sustainability indexing” for corporations ・・・


VOX 18 June 2012

Foreign-exchange intervention and the fundamental trilemma of international finance: Notes for currency wars

Michael Bordo   Owen F Humpage   Anna J Schwartz

guardian.co.uk, Monday 18 June 2012

What Ben Bernanke and the Federal Reserve can do to save the US economy

Dean Baker


l  ロシアのシリア支援

FT June 19, 2012

The west must work with Putin’s Russia, not just berate it

By AnatolLieven

アメリカの主張も,ロシアの懸念も正しい.国民を弾圧するシリアの支配体制やアサド王朝は廃止するべきだ.しかし,それは一層の悪化をもたらし,マイノリティーを危険な状態に置くだろう.シリアの安定的な合意にはイランの参加が欠かせない.他方,イランの核問題に執着するアメリカが,サウジアラビアのイスラム過激派支援に注意を向けないことは間違いだ.

ワシントンとパリがシリアを批判するのを聞くと,彼らは1990年代の同盟国であったアルジェリアに関する政策を反省するべきだと思う.当時,軍は民主的な選挙結果を否定し,イスラム勢力を弾圧する激しいキャンペーンに移った.その結果,15万人が殺害されるが,彼ら(米仏)はアルジェリアの孤立化や介入を求めなかったのだ.

シリアに関してロシアや中国を非難しても,西側が得るものはないだろう.ロシアの現実は,プーチンの再選が示したように,その腐敗や欠陥にもかかわらず,多数の国民が西側の主張よりもプーチンの安定した経済運営と体制を支持していることだ.そしてNATOは弱くなった分,協力を求める西側が,ロシアに対して譲歩する必要がある.

FP JUNE 21, 2012

Abandoning Sergei Magnitsky

BY JAMISON FIRESTONE


l  パキスタン

FP JULY/AUGUST 2012

What's Wrong with Pakistan?

BY ROBERT D. KAPLAN

パキスタンというのは,ヒンドゥー勢力が支配する国民議会派から支配を分割するMuhammad Ali Jinnahの作った人為的な国家である,と見られている.国家の弱さが,部族の支配する不安定な政治体制とテロ集団の繁栄を許している,というのだ.地理学はその間違いを示している.

「現在,パキスタンとして我々が知る国家は,決して人工的に作られた政治体ではない.それは亜大陸に広がる,諸国家におよぶ多くの空間的枠組みが展開された末にできた,最新の形式である.ハラッパ文明の地図は,BC4世紀後半からBC2世紀半ばに集権化した首長たちが形成する複雑なネットワークとして,それに先行するものの一つであった.ハラッパ世界はバルチスタン最北部からカシミール,南に下って,デリーとムンバイに達し,現在のイランやアフガニスタンの近辺,インドの北西部や西部に至る.それは灌漑を維持する地形に従って居住を広げた,複雑な地理学であり,その中心は現在のパキスタンにあった.」

FT June 20, 2012

Pakistan’s problems will only get worse

Ahmed Rashid


l  スーチー

guardian.co.uk, Wednesday 20 June 2012

The four lives of Aung San Suu Kyi

Timothy Garton Ash

FP JUNE 20, 2012

Her Work Isn’t Done

BY CHRISTIAN CARYL


l  ケインズと技術的失業

Project Syndicate 21 June 2012

Labor’s Paradise Lost

Robert Skidelsky

現在の世界大不況から脱するために,1930年のケインズのエッセー(“Economic Possibilities for our Grandchildren”)が有益である.

『一般理論』と違って,ケインズは「技術的失業」を問題にした.すなわちそれは,労働の使用を節約する手段の発見が,労働を新しい方面で利用するよりも,早く進む結果として発生した失業である.ケインズはこれを希望と見なす.少なくとも開発された世界で,欠乏から人々を苦役に強いる「経済問題」が解決されることを示すからだ.ケインズは,21世紀の初めには,週に15時間働くだけでよいだろう,と考えた.

しかし今,機械化は進んだが,われわれはまだ週に40時間も働いている.また,他方では,失業や低雇用という強いられた余暇を味わっている.現在の不況から回復する過程で,ますます失業は増えるだろう,と予想されている.

それが意味するのは,われわれが技術的な失業を自発的な余暇に転換することに失敗した,ということだ.その主要な原因は,過去30年間の生産性上昇の果実が富裕層によって奪われた,ということである.特に1980年代以来,英米には,マルクスの描いた血まみれの資本主義が復活している.

ほかにも問題がある.現代の資本主義が消費への欲望を掻き立てていることだ.満足を得るために,われわれは不合理なほど長時間の労働を求めている.広告や宣伝はいつも,あなたの心を満たすショッピングの楽しみ,を訴えている.

アリストテレスは,満たされない欲望を個人の悪徳と見なした.「常により多くを」求める文明を,彼は道徳的・政治的な狂気と見なした.それは,現在のように,一方には少数の生産者,専門家,監督者,金融投機家,他方に多数の自働機械と失業者,という分断された社会をもたらす.そして,消費を借り入れに頼る形で持続不可能な拡大が続き,周期的に,富をもたらす機械を停止させる不況に至る.

真実とは,われわれが消費,労働,余暇の新しい使い方を学び,所得を再分配しなければ,生産の機械化が成功することはない,ということだ.そのような社会的想像力を欠くなら,現在の不況から脱するとしても,次のより深刻な破局を準備しているに過ぎない.

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The Economist June 9th 2012

Start the engines, Angela

UN troops in Africa: Blue berets in the red

Banyan: The hollow men

Charlemagne: Latvian lessons

Free exchange: Burgernomics to go

(コメント) メルケル首相がギリシャなどの債務危機を解決し,ユーロ危機を終わらせ,世界景気の回復に勢いをつけるチャンスをつかまねばならない,と主張しています.・・・世界が日本型の経済停滞に沈み込むのを止めてほしい.・・・しかし,市場の圧力と緊縮策によって債務諸国の改革は進むのだ,とメルケルは答えます.

リベリア,シエラレオネ,スーダン,コンゴ,ルワンダ,・・・アフリカにおける国連軍は,確かに,能力の限界はあるけれど,重要な地域で秩序を維持するために不可欠です.その兵士を送っているアジア諸国(次第に賃金や装備の費用が増す)と財源を支えている富裕諸国の政府に,正しい評価を求めます.

日本は米英などに比べて製造業を維持しています.しかし,三重苦と円高,電力不足により,日本の企業は一気に中国などへ逃げ出し,製造業の空洞化が進んでしまうのか? 記事は,移転先の諸国にも問題があり,むしろ日本国内でハイテク・高品質の製品に移行する,と予想します.

マック・カレンシー指数について,購買力平価の面倒な処理よりも簡易かつ正確な指標になることを研究者が明らかにしたようです.

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IPEの想像力 6/25/12

ギリシャではなく,エジプトについて考える方が重要だ,と感じました.同じ,先週の日曜日に選挙が行われました.ユーロ危機が気になって,エジプトの選挙がどうなるのか,まともに追跡していませんでした.これは現代の「30年戦争」になるのでしょうか?

ユーロ圏が崩壊する場合より,エジプトにおける革命が穏健派のイスラム教徒から,もっと過激な宗教改革運動,あるいは内戦状態に向かう場合こそが重要だ,と断言するわけではありません.しかし,エジプトの選挙後に生じる政治思想やパワー・バランスの変化,ギリシャ,シリア,イラク,イラン,ロシア,パキスタンなどの政治的危機に及ぶ衝撃が何を意味するのか? 私たちは,変化の一歩先を読み,理想を共有できる人々を支援することに注意を集中します.

かつてアジアや東ヨーロッパでは,ほとんど平和的に,権威主義的な抑圧体制や軍事体制から民主的体制への移行が成功しました.暴力の行使を受け入れない国際システムと経済成長の果実を求めたことが,その重要な条件だったでしょう.社会変化のダイナミズムは国境を超えて波及し,その具体的な姿も国際システムの性格によって決まります.

19世紀半ば,産業革命がヨーロッパに拡大したとき,それを促したのは鉄道と周期的恐慌であった,という話をD・ランデスの本,『西ヨーロッパ工業史』で興味深く読みました.さまざまな運動や思想家たちの関係を描いた河野健二の『現代史の幕あけ:ヨーロッパ1848年』もあります.

ナポレオン戦争後の王政復古が終わったのが,1848年,フランス・パリ2月革命でした.それはドイツ・ベルリンとオーストリア・ウィーンの3月革命に波及します.周辺部では,ロシアのクリミア戦争1853-56年,アメリカの南北戦争1861-65年,日本の明治維新1867年,などが起きています.他方,イギリスではロンドンの万国博覧会が人々を驚かせ,産業革命を争っていたヨーロッパ大陸において,二大国の間の普仏戦争1871年が起き,その後の支配拡大と戦争再発を経て,現在のEUとユーロ圏構築に至っています.

それは確かに,かつて,ナショナリズムが高揚し,帝国主義が称揚あるいは非難された,グローバルな政治化の時代でした.そして,現在の様々な危機も,かつてと同様に,終わりではなく,始まりなのだ,と思います.

それは,・・・何の始まりでしょうか?

理想を言えば,たとえば,Robert Skidelskyがケインズの指摘から考察したように,機械化や技術革新を,極端な富裕や失業,金融ビジネスの膨張ではなく,人々の豊かさと余暇の増大として実現する<政治>の姿を求める時代の始まりです.

あるいは,John Arquillaが示唆したほど,サイバー戦争がリアル戦争を不要にする時代が来るとは思えませんが,それでも,安全保障の仕組みを,国家を超えて人々は共有し,暴力を独占する独裁者や犯罪集団が現れないような<社会>を目指す時代が始まります.

もし,労働や戦争から解放され,自分の時間を得たら,あなたは何をしますか?

たまたま,「大英博物館2時間完全ガイド」を少し観ました.サットン・フーの舟塚から出た7世紀のマスクが紹介されています.日本人も,立派な博物館がアジア各地で建つように,研究・資金援助をしてはどうでしょうか?

大英博物館の館員ではなく,歴史マニアの市民(協力会員?)が,来館者たちのためにクイズを作っていました.彼は,ローマ帝国がイギリスを支配した時代の遺物が好きだ,と言います.さまざまな優れた影響を今に伝えているそうです.そして,自分で金属探知機を持ってコインを探したりします.・・・なるほど,それはいいな.

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