前半から続く)


l  インド

Project Syndicate 08 June 2012

What Happened to India?

Raghuram Rajan

新興市場の成長も減速している.その理由は,一方では先進工業諸国の市場に依存しているからだ.他方,新興市場自身が問題を抱えており,解決できていない.

インドは,その潜在力を発揮できないように,自ら問題を引き起こしている.かつて政治家と官僚が産業の管理を行って成長を抑圧していた.それがBJP政権の下で改革に取り組み,「輝くインド」のスローガンを掲げて,地方や貧困層に成長の利益を分配する政策を始めたのだ.一つは,教育や医療,金融サービスのアクセスを改善した.もう一つは,ポピュリスト政策と有権者へのばらまきだった.

成長によって土地の需要が高まると地価が上昇した.それは利用の制限を変更する過程において,政治家,官僚,産業家の間の汚職を蔓延させた.これに対して理想主義的な運動や政治家,NGOsは反対を強めた.こうして官僚は開発のために動かなくなったし,政治家は再分配よりも再選のためポピュリズムだけに関与し,成長を妨げたのだ.

また,インフレが高まる中で,家計はその対策に金を備蓄し,金の輸入量が増えて,国際収支に変調をきたしたルピーの価値が暴落した.インドの問題は,自分たちの手で解決できる.

FT June 11, 2012

India must look to the states for salvation

By DeveshKapurand ArvindSubramanian

インドの中央政府は事態を掌握できなくなっている.しかし,ヨーロッパの危機とは逆に,中国の権力分散は成長をもたらすかもしれない.

インドのマクロ経済の悪化は,財政ポピュリズム,過剰な補助金,頑固なインフレ,巨額の対外赤字,に現れている.中国と違って,インドは財政赤字が大きすぎて刺激策を取れない.マクロ経済政策の弱さは,州政府の弱体な管理能力と蔓延する汚職で示される.

しかし,中央政府の弱体化は,その背後に,州政府へのパワーの移転と,少数ではあるが成功したガバナンスに向けて,遅れた地域から資本や労働力が集まる,という結果をもたらしつつある.投資家が関心を持つ問題,すなわち,土地,インフラ,人的資本,法と秩序は,州の扱う問題である.そのような州政府の改革競争は,有権者を動かすようになっている.

最近まで,インドの政治システムは在職議員や現政権に不利であった.ガバナンスの改善や経済パフォーマンスより,アイデンティティ政治が政治を支配していた.その結果,政治家たちは成果を競うことなく,改革も続かなかった.しかし,有権者が改革や成長をもたらした既存政府の継続を支持し,それを怠る政府を追い出すなら,むしろ分権化が改革を刺激するだろう.都市ではその傾向が強い.

ヨーロッパとの対比は興味深い.ヨーロッパは政治的な中央集権化を必要としており,改革の遅れた周辺部は中枢からの厳しいルールに従うべきである.それはドイツのイメージに変わることだ.他方,インドはダイナミズムを解放する分権化と州政府の競争が必要であり,インドの繁栄をもたらすアイデアが競争する経済同盟としての再生を求めている.

Project Syndicate 11 June 2012

The Indian Miracle Lives Shashi Tharoor

FP JUNE 11, 2012

Will India Ever Really Be America's Partner?

BY CHRISTOPHER CLARY

日本や韓国という,アメリカの同盟諸国は高齢化し,経済も縮小している.インドはアジア太平洋におけるアメリカの「リバランス戦略」における防衛協力国になるだろうか? 問題は,インドがアメリカと戦略的な展望を共有していないことだ.

ワシントンがインドに求めることを10項目挙げれば,中国との対抗,インド洋での戦闘,アフガニスタンの移行支援,イランへの圧力,南シナ海,・・・

Global Times | 2012-6-12

India eschews linchpin role in US strategy to 'rebalance' Asia By Shastri Ramachandaran

LAT June 12, 2012

India's cold shoulder By Jonathan E. Hillman


l  ウォーターゲート事件

WP June 9, 2012

Woodward and Bernstein: 40 years after Watergate, Nixon was far worse than we thought

By Carl Bernstein and Bob Woodward

40年前のウォーターゲート事件とは何だったのか? それはニクソンの5つの戦争だった.

1.ベトナム反戦運動との戦争.2.メディアとの戦争.3.民主党員との戦争.4.アメリカ司法制度との戦争.5.歴史をねつ造する戦争.


l  ドローン戦争

guardian.co.uk, Monday 11 June 2012

Obama's drone wars and the normalisation of extrajudicial murder Michael Boyle

FT June 12, 2012

Drones give democracies no cause for war

By Michael Ignatieff

ドローン(無人攻撃機)やサイバーウォー(インターネットを利用した攻撃)を選択してはならない.

イマニュエル・カントは,1795年,民主主義を広めることが世界平和の最善の保証になる,と書いた.もし開戦に当たって市民たちの同意が必要なら,政府は戦争を最も慎重に扱うだろう.現代の思想家は,カントの洞察を応用して,民主主義国家の間で戦争は起こらない,と主張した.EU諸国やNATO加盟国間で,戦争は起きないだろう.

ドローンやサイバーウォーのような最新の軍事革命は,カントのこの洞察を再発見させる.ヴァーチャル技術により,民主主義国は犠牲者のリスクを含まない戦争を行えるかもしれない.それは慎重な判断の前提を失わせる.

指導者たちは,新しい軍備拡大競争を始めているが,その成果が非常に乏しいことを見るべきだ.コソボは今もエスニック集団による独裁政治であり,リビアの政治空白は終わらない.アフガニスタンに安定した政府ができると思う者はいない.サイバーウォーは,戦争という,最も容易な政治的移行の一部でしかない.

新しい兵器は,政治を回避し,民主主義を回避してしまう.カントにとって,平和のための民主主義とは,市民が戦争の痛みを常に双方向で感じることに依拠していた.この新しい戦争兵器が簡便であるほど,主権国家はこの技術を封印しなければならない.さもなければ最も危険な個人が,この最も危険な超戦争をもたらす時代になるだろう.

WP June 12, 2012

Obama’s ‘kill list’ is unchecked presidential power By Katrina vanden Heuvel


NYT June 9, 2012

America’s New Energy Reality By DANIEL YERGIN


NYT June 9, 2012

It’s Time for the Fed to Lead the Fight

By CHRISTINA D. ROMER

積極的な連銀の金融政策を求める.なぜなら大統領と議会は,選挙が終わるまで,景気回復のために行動できない,行動しようとしないからだ.中央銀行の独立性がさらに重要になる.

内外にインフレを生じる条件はない.バーナンキ議長は,学者として1990年代の日本を研究し,金利がたとえゼロでも中央銀行が経済を支援できた,と結論した.しかし量的緩和も,その規模が小さすぎた.失業が減るまで,金融緩和を強めることを約束してほしい.


l  製造業

FT June 10, 2012

Industry: Future factories

By Peter Marsh

製造業への関心が高まっている.「新しい製造業」は,新しい産業革命をもたらし,産業内のパランス・オブ・パワーを変える.中国やインドに奪われたと思っている分野でも,新しい製造業が先端技術の周辺に誕生するだろう.それは成長と雇用の源泉にとどまらない.

FT June 12, 2012

Industry: Nimble, niche and networked By Peter Marsh

Project Syndicate 14 June 2012

Development 3.0 Justin Yifu Lin


l  ミャンマー

FT June 10, 2012

Sectarian tension ‘threat to Myanmar transition’ By Gwen Robinson in Bangkok

FT June 13, 2012

Now comes Aung San Suu Kyi’s real test

マンデラが囚人から大統領になるまで,人種差別体制の転換を平和的に実現する期間,デクラーク大統領と協力した.テイン・セイン大統領の目指すものもまだわからない.

FT June 14, 2012

The Lady should look to Asia not Europe

Kishore Mahbubani

スー・チーは間違いを犯した.ミャンマーを助けるのはヨーロッパやEUではない.それはアジアであり,ASEANだ.1989年のヨーロッパは冷戦に勝利したが,2010年にはアジアにパワーが移動し,ユーロ危機を深めた.ASEANから世界を観るべきだ.ミャンマーを動かしたのも,その周辺で起きた繁栄の波及である.


l  ギリシャ,スペイン

FT June 10, 2012

How to save Spain’s banks – and the eurozone By Wolfgang Münchau

NYT June 10, 2012

Borrowing by Banks Plagues Europe Despite Aid for Spain By LANDON THOMAS Jr.

BLOOMBERG Jun 10, 2012

Greece’s Euro Exit Won’t Look Anything Like 2008 By William Pesek

NYT June 10, 2012

Another Bank Bailout

By PAUL KRUGMAN

スペインの銀行をEUが救済するのは正しい.しかし,彼らは失業を増やす政策を変えようとしない.政策エリートたちはアイルランドやラトビアの「内的切り下げ」を称賛する.破局はすぐ目の前まで来ているのに.

BLOOMBERG Jun 10, 2012

How Greece Looks From Asia By William Pesek

FT June 11, 2012

Do not declare victory over Spain’s banking bailout Howard Davies

FP JUNE 11, 2012

Greece's MAD Strategy

BY THOMAS WRIGHT

Syriza を指導する37歳のAlexis Tsipras は,救済融資の条件を拒み,同時に,ユーロ圏にとどまる,と主張している.それは矛盾しているが,彼には戦略があるのだ.

Tsiprasは,ギリシャの離脱はユーロ圏を破壊し,決して選択できない,と信じている.ギリシャとドイツは,米ソ冷戦の時期に核戦争を回避した「相互確証破壊(MAD)」の状態にある,というわけだ.彼が有権者を同じ確信に導けば,選挙は彼の勝利に至る.

あるいは,MADを知っているEU官僚やドイツは,「安定化メカニズム」により危機は波及しない,と発言し,ギリシャの有権者にそれを信じさせる.それはまやかしであるが,ギリシャの有権者が信じればTsiprasの政権を阻止できる.

そこには誤算がある.Tsiprasは,メルケル首相が無制限な融資を拒むことがわかっていない.双方が選挙をこうした問題で振り回せば,市場に強いられた無秩序なギリシャの離脱が待っている.不当な苦しみを味わっているという感覚が,こうした誤解を生み,弱者からの報復が強者の融和策を絶やす.交渉と妥協は成立しない.

WSJ June 11, 2012

The Next Step for Europe Is Financial Union By CHRISTIAN NOYER

FT June 12, 2012

I will keep Greece in the eurozone and restore growth

By Alexis Tsipras

「ギリシャの人々から政権獲得を支持されると確信している.われわれは直ちに行動し,腐敗して非効率な,ギリシャの政治・規制システムを終わらせる.このシステムが我々の経済を数十年にわたって破壊してきたのだ.」

Syrizaは,この国に経済,社会,政治の安定性をもたらすことのできる唯一の政治運動である.短期間でギリシャが安定すれば,単一通貨の成長過程で重大な分岐点にあるユーロ圏にも利益になる.」

Syrizaは既得権を持たないから,破滅をもたらした主要政党とは違って,改革を実現できる.われわれが透明な政府を通じて新しい成長の経路を示せば,ヨーロッパ統一の新しい基礎にもなる.それには,歳入の問題を解消することだ.旧勢力は個人所得や資本への実効税率を低くし,徴税システムの非効率を放置してきた.現実的で,社会的に公正な税制が必要だ.

旧政治体制を破壊することなしに,成長は回復しない.幻想は終わった.

FT June 12, 2012

Spain’s bank bailout is not a turning point Roger Altman

BLOOMBERG Jun 12, 2012

How Germans Botched the Spanish Bank Bailout By Clive Crook

WSJ June 12, 2012

How the Euro Will End By GERALD P. O'DRISCOLL JR.

guardian.co.uk, Wednesday 13 June 2012

Eurozone crisis: Greece faces an agonising election choice Nick Malkoutzis

FT June 14, 2012

Sombre Spanish lessons on fighting credit bubbles

By Sebastian Mallaby

スペインのバブル予防策は失敗した.その仕組みはリーマン・ショックには有効であったが,ユーロ危機には作用しなかった.規制を妨げる政治圧力は強く,それを拒んで規制を続ける明確な根拠は示せない.インフレ目標も,自己資本規制も,バブル処理には適当でない.バブル破裂後の処理コストを担う納税者に対して,成長を維持し,公的債務を減らしておくことで,その負担を軽減するしかない.


l  中国

YaleGlobal, 12 June 2012

Standoff in the South China Sea Carlyle A. Thayer

WSJ June 13, 2012

The Stimulus China Really Needs By YUKON HUANG

WSJ June 14, 2012

Asean Is a House Divided By IAN STOREY

Global Times | 2012-6-14

Australia keen to avoid no-win choice between China and US By Hugh White


l  国際資本移動の国際レジーム

VOX 11 June 2012

International rules for capital controls

Olivier Jeanne   Arvind Subramanian   John Williamson

国際資本移動のブーム・バスト・サイクルを抑制するために,資本規制が有益であるだけでなく,資本移動に課税することが成長率を高める,という最適課税を理論化できる.資本規制はマクロ・プルーデンシャルにおいて正当な政策手段である.

われわれは資本移動に関するレジームとして,資本規制を国際的に合意されたルールの一部にするべきだ,と考える.それはまた,資本規制を採用する中国が,大幅な外貨準備を保有することを許しており,実質為替レートに介入した保護貿易の変形である,という問題を解消するためにも必要だ.

FT June 12, 2012

Hong Kong urged to review dollar peg

By Robert Cookson and Enid Tsui in Hong Kong

香港通貨庁の元長官,Joseph Yamは,香港ドルをUSドルではなく,人民元にリンクするべきだ,と主張した.そして,中国は全体として変動レートに移行することを支持した.

USドルに固定する政策は,為替レートの浮動性を解消して,貿易と投資を促進できた.しかし,アメリカの金融政策を輸入することで,近年,香港はインフレの高騰と不動産バブルを生じてしまった.USドル固定制に固執することは,頑迷さと狂気に至る,とJoseph Yamは批判する.

人民元が交換性を持たない今は,香港がUSドルを離れる理由はないが,人民元も国際取引を自由化しつつあり,現状でも,人民元を含む通貨バスケットに,香港ドルを固定することは可能だ,という.通貨の選択は,結局,その機能に便利さを感じる使用者に委ねられる.


WP June 12, 2012

Saving the rainforest — and making money off of it

Project Syndicate 12 June 2012

Green from the Grassroots Elinor Ostrom


l  ワーク・シェアリング

Project Syndicate 12 June 2012

Share the Work

Barry Eichengreen

アメリカの長期失業者の率は1930年代以来の高水準に達している.長期の失業が労働者に与える影響は深刻である.それに比べて,1930年代の長期失業が抑制されたことは良く理解されていない.アメリカ企業は解雇するよりも労働時間の短縮によって雇用を維持したのだ.

その理由は,政府がそれを推進し,法制度がそれを要請したからである.第三に,失業保険がそれを妨げなかった.失業保険があれば,企業は解雇しやすい.失業保険を,ワーク・シェアリングと両立可能な形に変えるべきである.

アメリカ政府も,事実上,そのような改革を行ったが,ドイツはさらに進んでいる.


Project Syndicate 12 June 2012

When Democracies Collide Volker Perthes


l  キンドルバーガーへの新しい序文

VOX 12 June 2012

New preface to Charles Kindleberger, The World in Depression 1929-1939

J. Bradford DeLong   Barry Eichengreen

キンドルバーガーの古典的研究『大不況下の世界』は40年前に出版された.それ以前の研究と異なり,キンドルバーガーは,大不況がヨーロッパの金融危機として深刻化し,国際的に拡大したことを強調した.ヨーロッパには経済政策に関する大陸規模の権威が存在せず,各国の政府や中央銀行は経済・金融の破壊的効果を止める十分な行動を取らなかった.

その当時,キンドルバーガーは,市場がどのように機能し,どのような管理され,どのような失敗を犯すか,を講義した.2008-09年の金融危機をめぐって,エコノミストの理解が間違っていたことを指摘されたサマーズは,複雑な抽象モデルではなく,バジョットやミンスキー,特にキンドルバーガーの研究は有益である,と反論した.

その教訓は主に3つある.1.極端な行動に走るパニックのメカニズムを金融市場で重視する.2.危機の波及・伝染を重視する.それは様々な経路で広まった.3.他者に圧倒的な影響を及ぼすヘゲモニーの重要性を指摘した.金融市場を安定化する「最後の貸し手」として,他者に利益をもたらすヘゲモンがいなくなった.

ふたたびヨーロッパで金融危機が起きている.キンドルバーガーが予想したケースの一つ,欧米が積極的な対策を取らず,さまざまな党派が拒否権を行使して崩壊に向かう,が起きそうだ.キンドルバーガーが未来に求めた解決策は,今こそ重要である.すなわち,真の主権と権威を持つ国際機関の誕生だ.

******************************

The Economist June 2nd 2012

Morals and the machine

The euro crisis: How to save Spain

Myanmar’s future in Asia: Brave new world

Problems for migrants: “Don’t complain about things that you can’t change”

German politics: The Danish answer

(コメント) 私が感銘を受けたのは,ロボットと無人攻撃機による新しい戦争でも,ユーロ危機でもなく,中国の出稼ぎ労働者を撮った写真(p.36)でした.父親と,まだ小学生ほどの姉,弟.3人がそれぞれ大きな荷物を持って,駅を歩いています.父は必死にどこかへ向かう様子で,子供たちも懸命に従います.この親子のくたびれた服,ちぐはぐな荷物,姉の紅潮した頬,などは,これから彼らが挑む都市生活の厳しさを予感させます.記事は,都市戸籍を持たない出稼ぎ労働者たちの子供が増えているのに,公教育から彼らが排除されていることを警告します.

ドイツのSchleswig-Holstein州の選挙に関する記事にも関心を持ちました.この土地は1864年にプロシアとオーストリアがデンマークから奪い,その後,1920年の国民投票で国境を変更し,1945年以降は大幅な自治権が認められているそうです.ドイツ国籍となったデンマーク人が多く住んでおり,独自の学校や政党を持っています.ヨーロッパがドイツ化される不安を議論する中で,この州ではデンマーク人の小政党が州政府に参加し,ドイツのデンマーク化を目指します.

******************************

IPEの想像力 6/18/12

日曜日,「ガイヤの夜明け」では,中国における賃金上昇により,日系アパレル・メーカーが新しい生産拠点をミャンマーに求めるケースを紹介していました.働いてお金を稼ぐことに,若者たちは誇りと希望を強く感じるのでしょう.彼女たちの明るさとまじめさが印象的です.

しかし,ゼミ生たちと話していると,グローバリゼーションに関して,しばしば移民に反対する意見を聞きます.次に多いのは,貿易摩擦(安価な中国製品,危険なアメリカの農産物,身勝手な国際ルール)でしょうか.アメリカの帝国・軍事介入や文化的支配に対する反対意見もよく聞きます.

まず,移民,あるいは外国人労働者が国内の雇用を奪っている,という意見です.確かに,大規模な移民が特定の職業をエスニック・ビジネスとして「占領」するようなケースもあるかもしれません.しかし,比較的条件の悪い,しかも低賃金で多くの労働者を必要とする(そして,需要の変動が大きな)分野では,労働意欲の高い,短期間で稼げる所得を増やそうとする,出稼ぎ労働者の流入を歓迎するでしょう.

企業・農場の経営者は,同じ言葉を話し,同じ熟練と必要な知識を持つ,勤勉な労働者であれば,国籍に関係なく雇用したい,と思うはずです.つまり,教育や景気の問題があるとしても,移民の自由は成長にとって望ましい条件である,と思うのです.好況のときは移民が増えることに反対せず,不況になると自分たちに仕事が無いから移民を排斥する,というのは間違いです.

次のように考えると,その違いは明らかです.

1.  なぜ輸入品を消費しながら,そう思うのか?

2.  なぜ国内の労働者が出稼ぎや他の地域で雇用されることは問題にしないのか?

3.  なぜ日本企業が海外に生産拠点を設け,あるいは,海外から部品を調達すること(アウトソーシング)は批判しないのか?

私たちは,目の前に外国人労働者がいて,同時に,国内の失業問題を聞くと,外国人を入れなければ国内の失業問題は解決できる,と思う傾向があるのです.他方,自分が外国製の衣服を着ても,外国の音楽を聴いても,同じようには考えません.外国の製品を消費することは,国内の雇用を減らし,外国人をそれだけ雇用することです.また,労働者が外国にいるから,国内の雇用を減らしたと批判するのであれば,同じことは他の地域にも言えそうです.

その真実も,誤謬も,ユーロ危機に似ています.失業が増えたことを問題にするべきであって,外国人が原因ではない,と思います.

もっと問題にしてもよいと思うのは,日本企業がその利益を国内投資に向けず,海外の生産拠点に投資することです.国内工場が閉鎖されて,それが海外移転された,という直接的な関係が(報道として)無い限り,私たちは国内の失業を海外投資と結びつけません.

確かに,貧しい国と日本では,賃金に大きな差があるのでしょう.日本の労働者たち(そして学生)は,それを理由に(賃金は下げたくないから)黙っているのかもしれません.5分の1や,10分の1の賃金で働くことは望まないのです.その感覚は,外国人労働者を入れたくない,国外追放したい,という感覚と同じです.

そして,もっと難しい問題があります.それは,日本が大幅な資本輸出を続けてきたことです.過剰貯蓄,過少投資,があったとしたら,それは経常収支の黒字を累積して国内雇用を減らしたでしょう.こうした貯蓄や投資のパターンを決めた日本の政治経済構造とは何であったのか,考えてほしいです.

日本は,最初,円高の痛みを金融緩和で吸収し,次に,それが招いた不動産バブルの破裂によって,銀行の不良債権処理や企業の維持・回復(そして既得権)を,政府が財政支出(赤字)で助けました.しかし,次の雇用と成長のモデルに向けて大胆に投資することはなかったのです.金融危機後の社会的コストを吸収する過程は,人口が減る中で,円高とデフレ傾向,低雇用・不安定就労に偏る政治経済体制を広めました.

それも終わったようだ,と最近のいくつかの論説は注意しています.低所得労働者の増加と高齢化の末に国内貯蓄が減り,財政赤字を充足できなくなる.生産拠点の流出が続き,貿易黒字や海外資産からの所得も減る.円安,金利上昇,財政破たん.・・・増税か,ギリシャか? と国会では議論しています.

だから私は,リベラルな社会改革を支持するのです.労働者の高い所得水準と労働意欲を重視する,超資産家などいない,所得格差の小さな,雇用と解雇が自由で移動を助ける,皆が新しい技能の習得に積極的な,小さな新興企業や農場を歓迎する,リベラルな政治文化がある社会.そんな社会が各地に育ちます.

もっと労働者との協力や新技術の導入に投資する,活気のある中小企業が日本にも多く誕生してほしい.そして私は,ミャンマーで縫製技術を若い労働者たちに伝える指導員になりたい,と思いました.

******************************