IPEの果樹園2012
今週のReview
6/18-23
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韓国 ・・・シリアとロシア ・・・ユーロ圏の衝撃 ・・・インド ・・・ウォーターゲート事件 ・・・ドローン戦争 ・・・ミャンマー ・・・ギリシャ,スペイン ・・・国際資本移動の国際レジーム ・・・ワーク・シェアリング ・・・キンドルバーガーへの新しい序文
[長いReview]
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主要な出典 Bloomberg, China Daily, FP:
Foreign Policy, FT: Financial Times, Global Times (China), The Guardian,
LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, Project
Syndicate, SPIEGEL, VOX,
WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia, Yale Global そして、The Economist (London)
l 日本
Global
Times | 2012-6-11
Unclear
stance leaves Japan divided over Diaoyu
BLOOMBERG
Jun 7, 2012
Strong
Yen Won’t Survive Japan’s Fiscal Cliff
FT June
13, 2012
Bank
of Japan has no easy answers for Diet
By Ben McLannahan in Tokyo
領土問題,円高,デフレ,日本経済を苦しめる様々な要因を挙げて,政治家たちは日銀の介入を求めてきた.日銀の白川総裁は国会まで,タクシーに乗れば10分で行ける.事実上の「国債の貨幣化」を始めたといわれるが,それでも足りないと言うなら,もっとリスクのある資産を購入するしかない.それは中央銀行の仕事ではない,という強い反対意見がある.
l 韓国
FP
June 7, 2012
Korea
as Number One
Posted By Clyde Prestowitz
『ジャパン・アズ・ナンバーワン』ではなく,『コリア・アズ・ナンバーワン』と書き直すべきだ.
韓国企業が日本企業を倒すのは電器だけではない.自動車もそうなるだろう.そして,韓国企業の成功は,日本の成功をもたらした方式に従ったからだ.すなわち,猛烈に働き,猛烈に貯蓄し,猛烈に投資する.アメリカの考えを拒んで,最も優れた分野に特化し,他は輸入する,ことは考えない.世界で最高の生産力を実現する.鉄鋼でも,電気でも,半導体でも,初期の産業は保護し,補助金を与えて育てる.そして国内市場は小さすぎるから,輸出を拡大する.そのためには通貨を安くし,国内価格よりも安い価格で輸出を増やす.
これは古典的な日本方式だった.
FP JUNE
11, 2012
The
End of the Asian Miracle
BY ANTOINE VAN AGTMAEL
アジアの新興市場は成長力が失われるだろう.それをもたらす変化は,5つある.1.シェール・ガスの開発成功,2.低コストの優位が消滅,3.高齢化の負担が増す,4.スマートフォン革命,5.よりスマートな競争相手の登場.
すなわち,アメリカの生産コストは下がり,中国の低賃金労働力は失われ,むしろ高齢化の負担が重くなってくる.スマートフォン革命は情報環境の条件を不可欠にする.それは中国にとって不利な要因だ.もっと新しい製品の開発力がアメリカ企業から現れるだろう.
Project
Syndicate 13 June 2012
Asia’s
Next Axis
Young-kwan Yoon
中日韓のFTA交渉が始まった.世界貿易額の第2位,3位,12位がFTAに合意すれば,世界貿易全体に重大な影響を及ぼすだろう.
アメリカは日本政府にTPP参加を強く求めている.アジアと太平洋が分断されることを嫌い,また,主要な同盟国である日本を貿易圏に取り込むためだろう.しかし,日本と韓国は,ともに,中国中心のアジアとアメリカ中心の太平洋とをつなぐ橋になることを主張している.
日本の政治指導者は様々な抵抗と圧力を受けている.しかし,中日韓の三極FTAが中国の体制を開放型の,ルールに依拠した透明性の高いものに変えるだろう.そして,3国間の関係を友好的なものにする効果を持つことを考えても,政治は圧力を跳ね返すべきだ.
l シリアとロシア
BLOOMBERG
Jun 7, 2012
Syria
Could Unite Russia and China Against the U.S.
FT
June 8, 2012
Removing
Assad
Project
Syndicate 08 June 2012
The
Intervention Dilemma
Joseph S. Nye
他国における殺戮を止めるために介入するのは許されるか? 古来,問われてきたことだが,シリアで今も問われている.
1904年,セオドア・ルーズベルト大統領,1821年,ジョン・クインシー・アダムズ大統領,1994年,ルワンダにおける80万人の殺戮,1995年のスレブレニッツァ.2005年に,国連の世界サミットは「住民の保護に対する責任」“responsibility to protect” (R2P) を認めた.しかし,ロシアのように異なった解釈をする国もある.
リビアの介入でもそうであったように,R2Pは厳格な国際法ではなく,政治的正当性とソフト・パワーをめぐる闘争に関わるものだ.R2Pは「正義の戦争」に基づく介入支持論であるが,同時に,現実的な成功の見込みがなければならない.しかし,世界の文化は非常に多様であるし,われわれは政府の完全な再構築に関して何も理解できていないのだ.そうであれば,医術がそうであるように,第一の原則は,治療として患者を苦しめないこと,だ.
ロシアやトルコへの説得は続けられるし,今後とも,介入の事例は増えるだろう.イラクやアフガニスタンの経験がすべての介入を否定することにはならない.サイバー戦争やドローンが戦争を拡大する時代に,R2Pや人道的介入がなくなることはない.
LAT
June 10, 2012
The
market for Russia's weapons
guardian.co.uk,
Wednesday 13 June 2012
The
road to Damascus may well run through Moscow
Timothy Garton Ash
大統領を辞めたアサドが,人道に反した罪で国際法廷において裁かれるのを私は強く願っている.さまざまな暴力が噴出したシリアでも,アサドが最初に犯した過ちの責任を免除することはない.
その起源は,もっとも整然とした形のアラブの春が,非暴力のデモによる反対運動として波及したことだった.アサドはこれに応じて,彼が弄んだだけであるが,真剣な改革に取り組む選択肢もあった.民主化に向けた交渉を持ち,移行を進めることに合意し,自分は家族とともに平和的な離脱を要求できただろう.しかし,彼は野蛮な弾圧を行って権力を保持した.市民を無差別に軍が砲撃したのだ.
それでもシリアの反政府運動はしばらく非暴力の原則を守った.極端な弾圧が彼らにそれを放棄させたのだ.軍から身を守るために外部から武器が流入し,武装蜂起が起きた.その後,内戦状態になった.市民の大量殺戮が起き,反政府軍も未成年の兵士を雇っているという.アサドが弾圧を始めなければ,内戦は避けられた.
流血を止めるための訴えが起きている.R2Pはそのための国際方針であるが,人道的介入の条件は市民の殺戮だけではない.介入によって事態を悪化させず,好転できることを求めている.この条件は,コソボ,シエラレオネ,リビアと違って,シリアへの介入を難しくする.シリアは,外部から介入を続ける諸勢力が,この地域全体へさらに紛争を拡大する危険が高いのだ.シーア派イラン,プーチン派と呼べるロシア,アサドの国内支持勢力アラウィー派にはサウジアラビアやカタールからスンニ派の支援がある.飛行禁止空域や避難地域を設ける提案も,それが全面的な戦争拡大につながることをトルコは懸念する.
強い制裁を拒否権によって何度も阻止したロシアの姿勢は許しがたいものだ.その理由として,中東地域へのロシアの国益をあからさまに主張する.ロシアはシリア軍を訓練し,シリアに弾圧のための武装ヘリコプターを供給している.
シリアの体制を変えるには,ロシアの姿勢を変えることだ.プーチンが譲歩するに足る利益とコストを,西側は明確に示すことで,ダマスカスの平和に至る.
Global
Times | 2012-6-14
Who
brought Syria to brink of civil war?
2012-06-14
(China Daily)
Syria
another Western power move
By Li Qingsi
なぜアメリカ政府や西側はシリア政府軍を,それほど確信をもって非難するのか?
西側諸国はシリア政府に圧力をかけてアサドの辞任を要求しており,そのために反政府派の抗議活動を支援してきた.彼らは各地で問題を起こし,軍事介入する.それはアメリカが世界の石油を支配し,ドル体制を維持する戦略である.
クリントン国務長官はロシアと中国を孤立させようとしているが,われわれは国連憲章と中東の平和を守っているにすぎない.冷戦後も,西側の人道的介入は人道上の危機を悪化させた.ロシアと中国は,アサド体制を守っているのではなく,西側ではなく,シリア国民の多数の意見に従うことを主張している.
l ユーロ圏の衝撃
FT
June 8, 2012
Berlin
is ignoring the lessons of the 1930s
By Niall Ferguson and Nouriel Roubini
ヨーロッパは深夜に至る1分前だ.
ドイツ政府の行動はあまりにも遅く,あまりにも少ない.ヨーロッパ統合が始まる理由となった20世紀前半の危機を再現するかもしれない.ドイツとすべてのヨーロッパ諸国は歴史の教訓を知るべきだ.
ドイツは1923年のハイパーインフレーションを,1933年の民主主義体制崩壊よりも重視している.ししかし,1933年以前にヨーロッパ各地の銀行が破たんしたことで,ドイツだけでなくヨーロッパ中の民主主義が崩壊したことを思い出すべきだ.
ヨーロッパではすでに2年間も,静かな銀行取り付けが進行している.資金市場で排除された金融機関にはECBが融資を行ってきた.それは保険で守られていない個人資産家の「スマート・マネー」がギリシャから引き揚げられることであった.スペイン政府がバンキアを救済してから不安が高まり,地中海諸国,そして普通の個人にまで広がっている.
危機脱出に必要な手段は明白だ.第一に,銀行の資本増強だ.ユーロ圏のすべての銀行が,EFSFや,その後続のESMによって資本を直接に強化されるべきだ.現在のような形式,各国政府による資本増強と,それに必要な資金を銀行が政府債券購入で供給し,銀行にはECBが融資する,というのは,アイルランドやギリシャが示すように,政府債務の累増で失敗に至る.
第二に,EU全体での預金保険制度だ.その資金は金融取引(より好ましいのは,銀行債務)への課税で得る.そして税金を使う前に銀行の整理だ.EU全体で金融機関を規制・監督するのが良い.ただし,ユーロ圏を離脱すると預金保険は意味がない.その不安を解消しなければならない.
生産性を改善する構造改革は加速しなければならないが,何年もかかる.成長を直ちに実現するため,ECBが金融緩和し,ユーロ安を導き,コア諸国は刺激策を取り,周辺ではボトルネック解消と供給側の改善をもたらすインフラ投資を行う.コア諸国は生産性を超える賃金上昇を認め,所得増と消費を促す.
最後に,高債務国は借り入れコストに耐えられないから,債務の共有しかない.さまざまな提案の中で,ドイツの経済諮問会議が示したヨーロッパ償還基金ERFが好ましい.それはドイツ国民のリスクを抑えるからだ.ERFが求める条件は周辺諸国が主権を失う内容も含むが,それは「連邦制」に向かうのであって,ドイツの「新植民地主義」であってはならない.
ドイツは銀行の資本増強が必要なことを認め,たとえ預金保険や債務の共有が最適なものではないとしても,ヨーロッパの通貨統一を守るべきだ.ドイツはユーロによって為替レートの安定した中で優位を維持できている.それが失われた場合,輸出の42%はユーロ圏内で行われていることを考えるべきだ.
1930年代を繰り返さないために成立したヨーロッパ統合の重要性を,忘れてはならない.
Project
Syndicate 08 June 2012
Austere
Growth?
NYT June
8, 2012
The
Euro’s 11th Hour
NYT
June 9, 2012
Europe
Needs a German Marshall Plan
By CHARLES S. MAIER
ジョージ・C・マーシャルは1947年にドイツから戻って警告した.「患者が溺れているときに,医者たちは集まって協議している.」 今や,かつての患者であったドイツが,最重要な医者になった.
政策の決定には,マーシャル・プランと同じ,第二次世界大戦後のアメリカが持った緊急事態の認識と長期的ビジョンが求められる.すなわち,ヨーロッパ再建のための長期的な計画だ.ヨーロッパは豊かになったが,重要な点は,過激な政党の躍進や民主政治を損なうような苦痛に満ちた緊縮策を押し付けることなく,どうやって経済停滞から抜け出すか,ということだ.
彼らがユーロ圏を出れば問題はなくなる,と思うのは間違っている.近隣諸国は,ギリシャやスペインがユーロ圏内に残ろうが,圏外に出ようが,いずれにせよ支援することになる.仕事の無いギリシャ人やスペイン人は北欧に来て仕事を探すしかないからだ.また,彼らが底の抜けたバケツのように財政赤字を増やした,と非難する気持ちはわかるが,それを助けたのはドイツの銀行だった.ドイツ経済はユーロ圏から多くの利益を受けている.
指導的な地位にある国は苦境にある国を助け,融資しなければならない.それがシステムから要請されるのであり,それを拒むなら指導国ではなくなる.1990年代に,ドイツは再統一した東側の市民に同じ生活水準を保障するため,1兆ユーロを支出した.20年後,より広くヨーロッパに対して,ドイツは同じ義務感を持つべきだ.
マーシャル・プランは,それが援助の条件として厳しい財政再建や「余剰」労働者の解雇を押し付けたからではなく,受入国が改革を進めるようになるまで,そのような条件を半永久的に停止したからこそ成功したのだ.ドイツは,緊縮策を求めるのではなく,債務削減や返済を経済成長と結び付けるべきだ.ECBを条約で縛り,ドイツ政府がユーロ債を拒むのも間違いだ.条約は厳格にすることも,柔軟にすることもできる.財政赤字削減で市場の信頼を回復する,という期待は間違いだった.政治指導者が市場にいつも依拠することはできない.危機においては問題を爆発させるだろう.
EUを経済的福祉だけで判断してはいけない.EUは,独裁体制から市民を救い出し,外国人排斥のポピュリスト政党を抑えることができた.だから東欧の共産主義体制は円滑に統合されたし,ドイツの再統一や富裕化がかつてのような不安や反発を呼ぶことはなかった.メルケル首相が答えたように,危機は「もっとヨーロッパに向けて」解決するべきだ.それはヨーロッパ議会が財政のより大きな部分を支配することだ.ドイツではなく,ヨーロッパ議会が福祉や失業者への支援を決める.ヨーロッパ社会の目指す目標は,ヨーロッパ規模の政党やヨーロッパ議会の代表を介して,各国民が議論に参加する.それはドイツが強制するわけではないし,過激な政党が外国人排斥を叫ぶこともない.
コール首相は1989-90年に,ドイツの再統一とEUの強化を結びつけた.再び,同様に,決定的な政策が必要だ.
The
Observer, Sunday 10 June 2012
Europe
will thrive. But we could be doomed to a life on the fringes
Will Hutton
タクシー運転手も高名なコメンテーターも同じ意見だ.ユーロはとんでもない災厄だった.それは始めるべきではなかった.ヨーロッパのエリートたちが,民主主義も説明責任も無視して,人々をこの牢獄に押し込めた.払い戻すべきだ.楽しいことではないが,早ければ早い方が良い.ユーロ圏を解体し,もっと緩やかな自由貿易圏に戻って,諸国が自由な変動レートで結びつく方が良い.
イギリスではこうした政治的合意が広まっており,反対する声は全く表に出ない.イギリスのメディアと政治家が口をそろえて言うことは,・・・ギリシャは追加の救済融資を合意する前にユーロを離脱するだろう.危機はスペインにも波及する.EUやIMFの介入は数日しか持たない.ユーロを離脱した南欧全体に歯止めないインフレと不況が起きる.
誰も本当にどうなるかはわからない.スペインはドイツと合意して,より緩和された条件の融資を得るだろう.ユーロ圏は銀行同盟を形成し,その監督を統一するし,十分な資本を与える共通の手段を合意する.銀行危機は政府債券と切り離され,他方,ギリシャも緊縮策無しにユーロ圏に残る合意ができるはずだ.ドイツは嫌がるが,超金融緩和と大規模なインフラ投資により,EUが崩壊するような破滅的コストは避けられる.
しかし,ドイツが動くのは遅いし,あまりにも小さい.危険なほど情勢は変わりやすい.取り付けが起きて,ユーロ圏は,フランスとドイツを含む北部ヨーロッパに縮小するだろう.南欧の諸国は入れない.その結果,より強力で緊密に統合した諸国間で,銀行同盟,財政の共通管理,政治構造を強化する.超連邦国家ではないが,国民国家の新しい融合と国際機構が現れる.そして新しいアイデンティティも.・・・
危機の副産物とは,大陸規模の相互依存を誰もが確認したことだ.我々は共存するしかない.それは,イギリスにとって生死の問題となる.
イギリスの政治・経済党派はすべて,切り下げを万能だと信じている.しかし,ケインズがはっきり否定したように,それはシステム全体に当てはまらない.変動レートの世界では,各国の切り下げが破滅をもたらす.単一市場にはそれに見合った通貨秩序が必要だ.
危機後のヨーロッパは,イギリスを消滅に向かわせる.金利,財政政策,金融規制,気候変動,何でもブラッセルやパリ,ベルリンが相談して決める.イギリスは国民投票で,そのような超国家から離れ,あるいは,離脱することもできる.EU懐疑派はそれをスイスの例で示す.しかし,実際は(英仏海峡にある)ガーンジー島である.ポンドの変動を自慢するけれど,多くの対外資産に頼る,国際金融取引を優遇する国として,ポンドはいつも過大評価を維持し,貿易財部門を破壊してきた.EU市場向けの輸出に頼る外資系の自動車産業はイギリスから逃げ出すだろう.
懐疑派たちはこうしたことに触れない.絶え間ない緊縮財政で,国内の社会的合意を無視して赤字削減を進め,国際的な相互依存を認めず,特にヨーロッパとの国際ルール作りにも関心を示さない.我々はいつもベルトを締め上げて,何のルールもない変動レートの世界で,失業は外国に輸出する.不毛で,浅ましい,愛国主義的な好戦論だ.ポピュリストの右派新聞が載せる論説なら,それもあるだろうが,国民の利益を守り,前進させる国家の方針としてはばかげている.
イギリスはユーロ危機を免れている.その後の変化からも取り残される.そして経済的に消滅し,文化的に委縮する.
BLOOMBERG
Jun 10, 2012
Germany,
Not Greece, Should Exit the Euro
BLOOMBERG
Jun 10, 2012
Democracy
and Capitalism Are Heading for a Bitter Breakup
FT June
11, 2012
We
isolate and overload Germany at our peril
By Gideon Rachman
「フランスが年金の支給年齢を60歳に引き下げ,われわれは67歳に引き上げた.こんな時に銀行同盟を支持できない.」と,オランダの政治家は述べた.ドイツやオランダから見れば,自分たちよりも気前の良い社会給付を行っている国に対して,その国の銀行預金を保障するために自分たちの金を使うのは,不公平である.このジレンマは,預金保険が正しい考え方でも,それを実現する政治的な困難を示している.
メルケルは危機の処理に失敗したと非難されているが,一つ,大きな功績がある.ドイツでは政治的な過激派が支持を得ていないことだ.その危険性はドイツの隣国,フランス,オランダ,オーストリア,で顕著になっている.
ベルリンを孤立させ,ベルリンを攻撃することで,ユーロ圏の再建に金を引き出すことは,政治的に危険な企てである.ギリシャやオランダで政治的な極右が台頭するのは嘆かわしい.しかし,もしドイツで極右が台頭すれば,その破滅的影響は途方もなく深刻だ.
FT June
11, 2012
A
Eurobond medicine Ms Merkel could swallow
SPIEGEL
ONLINE 06/11/2012
Planning
for the Future
A
Sneak Peek at Tomorrow's Europe
WP June
11, 2012
Can
Germany come to the euro zone’s rescue?
By Robert J. Samuelson
ドイツは負担を引き受けないだろう.要求されている政策(財政刺激,ユーロ債,ECB)の効果は疑わしく,その負担はドイツ国民にとって大きすぎる.
富は失われやすい.ドイツ経済はいつも強かったわけではない.出生率が低く,労働人口は減少していた.わずか10年前でも,ドイツはヨーロッパの病人だった.旧ソ連圏の諸国に比べて,競争力を持たなくなった.バヴァリアからチェコスロバキアまで,自動車で1時間しかかからない.ドイツの工業が東に吸い取られる音がした.
しかし,ドイツは調整に成功したのだ.1996年から2007年まで,ドイツ人労働者の給与は平均0.9%しか伸びなかった.ユーロ圏の平均は2.4%だ.ドイツの競争力は大きく改善した.ドイツ人にすれば,今度は他のヨーロッパ諸国が,たとえ好ましくないとしても,新しい現実に調整する番だ.年金や医療を支えるには,経済成長が低すぎる.
調整には時間がかかる.その間,ドイツは豊かだが,スペインやイタリアを助ける基金を十分に用意するだろうか? フランスの調整が遅れるときはどうか? 十分な外貨準備を持つ中国や,アメリカも調整基金に参加するのか? 現在の政治にとっては,不可能に見える.
FT June
12, 2012
A
new form of European union
By Martin Wolf
ユーロ圏を,政治的に受け入れ可能で,経済的に機能し,しかも繁栄する仕組みに変えることはできるのか? 現状はそれに失敗している.
その最初のデザインは域内の不均衡を拡大した.それは金融が止まると債務の累積を残し,財政・金融の危機を頻発した.しかも競争力の差が大きく開いた.
財政緊縮と構造改革は失敗した.それは政治的に維持できず,経済的にも機能しなかった.それに代わるのは,財政移転同盟であるが,政治的に支持されない.もう一つの可能性として,「保険同盟」と「調整同盟」とを組み合わせることがあるだろう.一時的なショックに対応する保険と,環境の変化や融資条件の変化に応じて調整を助ける同盟だ.
世界がユーロ圏の大幅な黒字を受け入れなければ,ユーロ圏内の大きな調整が必要だ.
SPIEGEL
ONLINE 06/12/2012
The
Perils of Ignoring History
This
Time, Europe Really Is on the Brink
NYT June
12, 2012
Why
Berlin Is Balking on a Bailout
FP
JUNE 12, 2012
12
Signs of the Europocalypse
BY DOUGLAS REDIKER, DAVID GORDON
ユーロ危機からヨーロッパが崩壊するとき,この数週間で何が起きるか?
1.ギリシャは機能しない.2.スペインの銀行破たんが引き金になる.3.過激な政党が勢力を拡大する.4.国内政治事情からメルケルは合意を拒む.5.連銀は動くが,アメリカ政府は沈黙する.6.格付け会社は厳しい評価を示す.7.トロイカ(IMF,欧州委員会,ECB)は崩壊する.8.イギリスとヨーロッパの対立.9.イタリアの弱さ.10.中欧は有利になる.11.キプロス救済にロシアが乗り出す効果.12.中国がヨーロッパ企業を買いあさる.
FT June
13, 2012
Europe:
On to a smaller canvas
FT June
13, 2012
A proposal
to end Europe’s debt crisis
Project
Syndicate 13 June 2012
The
End of the World as We Know It
Dani Rodrik
以下のようなシナリオを考えてみる.ギリシャで左派政党Syrizaが勝利する.ギリシャ政府はIMFやEUと融資条件の見直しを交渉したいと考えるが,メルケルは拒否した.金融破たんを恐れて,ギリシャの銀行取り付けが起きる.ECBは介入を拒み,銀行の破たんが迫って,政府は資本規制と新通貨ドラクマを発行し始める.
ギリシャの離脱で,関心はスペインに向かう.いかなる手段でも取り付けを阻止する,とドイツなどが断言し,スペイン政府も財政赤字の削減と構造改革を発表する.しかし,数か月して,スペイン経済はさらに悪化し,失業率が30%に近づくと,政府への批判は強まり,政府も国民投票に訴える.結局,国民は政府を支持せず,政府が辞任すると政治的混乱が深まる.メルケルの支援も,ドイツ人ならもっと働く,という余計な批判で銀行取り付けを招き,スペインもユーロを離脱する.
ドイツ,フィンランド,オーストリア,オランダは緊急サミットを開催し,共通の通貨を放棄しないと宣言するが,それはフランスやイタリア,他の諸国に圧力を高めてしまう.ユーロ圏が分裂したことを受けて,金融メルトダウンはアメリカとアジアにも波及する.
中国の指導部はそれ自身の危機に苦しんでいたが,ヨーロッパからの受注が減って工場が大量解雇を始める.大都市の抗議デモは党幹部の汚職追放を求める.中国政府は事態を放置できず,成長刺激策,解雇の禁止,輸出企業への金融支援,そして市場介入による人民元の減価を促す.
アメリカでは厳しい戦いを制したロムニー新大統領が,選挙運動中からオバマの対中外交を弱腰と批判し続けた.ヨーロッパからの金融危機が波及し,金融逼迫を生じたことと,中国から安価な輸入品の洪水が起きたことで,政権の姿勢は固まった.経済顧問の反対意見を聞くことなく,中国製品に幅広い関税を課す.さらに,彼の当選に寄与したティー・パーティ運動は,アメリカがWTOから脱退するように求める.
それに続く数年間を,後世の歴史家は「第二次世界恐慌」と呼ぶ.失業率は高水準に達し,財政が破たんした各国政府は唯一の選択肢である貿易保護と競争的な減価に向かった.各国は経済の自給化を進め,世界経済サミットが何度も開かれたが,中身のない協調を約束しただけだ.
経済の破壊を免れた国は少ないが,その共通した特徴は,公的債務が少なく,貿易や資本移動に依存せず,国内制度が強固であったことだ.ブラジルやインドが,減速したものの,世界恐慌を免れていた.
世界不況は政治情勢にも長期の深刻な影響を与えた.フランスとドイツは公然と対立して,ヨーロッパの小国を影響圏として奪い合った.主要政党はヨーロッパ統合を推進したことで支持を失い,極右と極左の政党が支持を集めた.自国民優先の愛国派政権が移民を追い出した.
ヨーロッパはもはや民主主義の希望ではなくなり,中東には権威主義的イスラム国家が増えた.アジアも米中の草刈り場になり,南シナ海の軍事対立は本格的な戦争に向かう.
政界を引退したメルケルは,あのときに決断しておけばユーロ圏を救えた,と回想する.・・・これは現実のシナリオではない.しかし,それほど遠い話でもない.
FT June
14, 2012
Hollande
walks in the shadow of De Gaulle
Project
Syndicate 14 June 2012
Which
Eurobonds?
Jeffrey Frankel
ドイツ経済諮問会議の提案したヨーロッパ償還基金ERFは逆立ちしている.財政破たんを回避する約束は,これまで守られなかった.その失敗はERFでも変わらない.
l オバマ
FP
JUNE 8, 2012
This
Week at War: An Arms Race America Can’t Win
NYT
June 9, 2012
From
Peace Prize to Paralysis
WP June
9, 2012
Obama’s
fate could be in Europe’s hands
FT June
13, 2012
How
Obama can regain control of the economic debate
SPIEGEL
ONLINE 06/14/2012
The
President of Disappointments
How
Obama Has Failed to Deliver
(後半へ続く)