(前半から続く)
l アイルランド国民投票
guardian.co.uk,
Friday 1 June 2012
Ireland's
fiscal stability referendum: a yes for recovery
Eamon Gilmore
アイルランド国民投票によるEU財政協定の承認は,アイルランドが財政破たんの危機を処理し,成長に向けた戦略を明確にしたことへの支持である.アイルランドの財政破たんは,銀行危機に対する包括的な債務保証を与えたことが原因であった.こうした失敗を各国は学ぶべきである.
回復に向けて,成長と雇用を増やすことがヨーロッパには求められている.
FT June
3, 2012
Irish
Yes needs a eurozone response
EUが銀行整理に共通の資本を準備すれば,アイルランドの負担は大きく軽減する.ユーロ圏のサクセス・ストーリーになるだろう.
FT
June 1, 2012
Africa:
The taking of Timbuktu
By Xan Rice
l 絶滅危惧種
NYT June
1, 2012
Protecting
Many Species to Help Our Own
By RICHARD PEARSON
新たに2万種の動植物が絶命の危険があると指摘された.我々は化石の研究によって,そのように大規模な種の絶滅は過去5億4000万年で5階だけ起きたことを知っている.最近の例は6500万年前の恐竜の絶滅だ.
われわれはしばしば,人類の社会がどれほど大きく他の種の生存によって支えられているか,を忘れている.食糧,水,原材料,燃料;気候,空気,洪水や嵐のときの緩衝地帯;土壌の肥沃さ,穀物の受粉,・・・
エコシステムのもたらす価値はあまりにも過小評価されている.エコシステムのもたらすサービスは,誰にでも自由に(タダで)利用できる,「公共財」として理解されている.これは経済学の重大な間違いである.自然は傷つきやすく,有限である.自然に正しい価値を与え,エコシステムを効果的に守る法律を作るべきだ.
l 無人機戦争の時代へ
The
Guardian, Saturday 2 June 2012
We
are sleepwalking into the Drone Age, unaware of the consequences
Clive Stafford Smith
FP
JUNE 4, 2012
The
Obama Paradox
INTERVIEW BY DAVID ROTHKOPF
l 女王陛下の祝祭
The
Guardian, Saturday 2 June 2012
The
Queen's strength: she is a British citizen who is above market forces
David Hare
The
Observer, Sunday 3 June 2012
New
Elizabethans? No, our triumphs owe nothing to her
Catherine Bennett
The
Observer, Sunday 3 June 2012
Social
mobility? Not while we have our hereditary monarchy
WP
June 4, 2012
Queen
Elizabeth II’s reign of duty
By Anne Applebaum
エリザベスの在位60周年を祝うDiamond Jubileeとは何か? アメリカだったら,年1回の国連総会のときのように,外交官たちが一列に並んで,大統領と握手して写真を撮ったら解散だ.女王は少し違う.我々は数人ずつのグループで立ち話をしながら彼女を待つ.外務省の世話役が一人加わっており,彼女が来ると紹介する.そして,必ず何か話題を用意しておいて,女王は私たちに言葉をかける.
1952年にウィンストン・チャーチル首相のとき王位を継承し,左派から右派まで,多くの首相が交代した.その間,女王の人気は高いときも低いときもあった.特にダイアナ妃の事故死の後は,彼女も王室も不人気だった.今や女王はイギリス人の集団的な歴史を象徴している.貴族ではない出身の美しい皇太子妃も加わって,国民自身の幼少期や青年期の記憶と深く結びついたのだ.
本当の彼女がどういう人物であるかはわからない.彼女は60年にわたって,その個人的な感情を抑えて女王であり続けた.どれほど辛辣な風刺漫画にも苦情を述べなかった.他方,イギリスを代表して慈善の集まりに姿を見せた.
FT June
4, 2012
A
pageant that offers respite from reality
By Gideon Rachman
女王はイギリスの安定性のシンボルであり,1000年におよぶ王室の伝統は,大陸の側の政治的混乱に比べて,優れた連続性を象徴している.
それでも王室は,国民に近づきすぎたときも,疎遠であるときも,非難された.そのバランスは難しい.イギリスの階級制度は深刻な問題であるが,国民の多くは貴族性を廃止するより,学校教育の改革で対応する方を好んでいる.
イギリス人のほとんどにとって王室は害のない制度だ.それは夏のオリンピックを前に,興奮を盛り上げる祝祭であり,厳しい冬の経済状態を忘れさせるひとときだ.
l シリア介入
WP Jun
2, 2012
Syrian
intervention risks upsetting global order
By Henry A. Kissinger
「世界秩序の近代的概念は,1648年,30年戦争の終結をもたらしたウェストファリア条約で生まれた.30年戦争では,政治的境界線を超えて,競争する多くの王朝が軍隊を送り,対立する宗教的な規範を押し付けようとした.この17世紀型レジーム・チェンジ(体制転換)は,おそらく,中央ヨーロッパの人口の3分の1を殺戮した.」
この大参事を繰り返さないために,ウェストファリア条約は国際政治と国内政治とを分離した.国民と文化に依拠した国家が,国境の内側については主権を認められる.国際政治に関しては,国境を定め,国益と勢力均衡の概念により,軍事力の役割を拡大するのではなく,制限することが目指された.強制的な解州ではなく,均衡の維持が目的だった.
しかし,ウェストファリア体制は中東に当てはまらなかった.ムスリム世界の3か国(トルコ,エジプト,イラン)を除いて,国家には歴史的な基盤が無かった.オスマン帝国が弱体化して,第一次世界大戦後,さまざまなエスニックやセクトが領土を分割支配した.アラブの春は,ウェストファリア原則を人道主義の一般原則に替えたものだ.
しかし,その結果は,伝統的な外交に何をもたらすのか? それが本当なら,戦略的な脅威ではなく,全地球規模のガバナンスの原理を実現することになる.アメリカ政府は,民主的でない政府に対する民衆蜂起を支持するため,次々に軍事介入するのか?
しかも,伝統的な戦略の必要性も消えることはない.人道主義的な体制転換後の国家が,そのまま放置された場合,権力の空白を生んで,国際秩序を不安定化し,テロや兵器を各地に供給するかもしれない.軍事力の行使には,多くの問題が生じる.
国際介入は,1.現状を変えた後のガバナンスに関する合意が重要だ.2.政治目的は明確で,一定期間国内の支持が得られる,達成可能なものでなければならない.シリアはこれらの条件を満たせない.
FT June
3, 2012
Only
diplomacy can resolve Syria’s crisis
By Mark Malloch Brown
LAT June
5, 2012
Toppling
Syria's Assad
By Max Boot
大量殺戮を経て,人道主義の原理が訴えられるが,その実現はまだ例外である.シリアのアサド追放はリビア介入よりも重要である.幸い,軍事介入に代わる他の選択肢がある.
1.情報収集や伝達手段を改善し,非軍事的な支援を通じて反政府派の結束を高める.2.アサド後の政府に関する,民主的で,諸派の包括する草案を作る.3.ヨルダンやトルコとの国境地帯に避難地域を設ける.4.必要なら,これを空爆によって保護する.
ロシアの反対によって,国際的承認を得るのは難しいかもしれない.しかし,クリントンもそうだった.それでもNATOによりコソボ空爆を行った.
l 円高とデフレ
BLOOMBERG
Jun 3, 2012
Strong
Yen Belies a Worrisome Japanese Economy
By A. Gary Shilling
ユーロ危機,アメリカの景気回復に不安,中国のハード・ランディング,それゆえ,私は日本への影響を心配する.世界第三の日本経済は20年間もデフレと停滞を続けている.それにもかかわらずドルや主要通貨に対して円高が続くのはなぜか?
1985年には1ドルが250円だった.プラザ合意後の金融緩和は,株式市場や不動産市場に資金をあふれさせた.円高が続いた理由はいくつかあった.貿易黒字を求める重商主義政策,金融不安の地域から資金が円に非難した,円高を抑える介入が失敗してきた経験が影響した.4.円キャリー・トレード.
BLOOMBERG
Jun 4, 2012
Japan’s
Debt Sustains a Deflationary Depression
By A. Gary Shilling
日銀は欧米に比べて,まだ,慎重な金融政策を守っていた.しかし,資産購入やデフレ脱出目標という新しい金融政策の方針を日銀が公表したため,今後,円安が進むかもしれない.
日本経済はデフレと停滞によって規模としては中国経済に抜かれたが,国民は地震・津波,原発事故にもかかわらず,非常に豊かであり,集団的な意志決定と「不屈の精神力」を持っている.
BLOOMBERG
Jun 5, 2012
Japan’s
Unsustainable Deficit-Financing Model
By A. Gary Shilling
貯蓄率は低下するだろう.国内消費は振るわず,輸出も伸びないだろう.そして企業は資本を輸出し,ついには経常収支が赤字になるだろう.
BLOOMBERG
Jun 6, 2012
As
Japan Stops Saving, a Crisis Looms
By A. Gary Shilling
家計でも企業でも,国内貯蓄は減少し,財政赤字と経常収支黒字とを続けるほど十分ではなくなるだろう.経常赤字は日本にとって悪夢である.低金利の国で,外国投資家の投資機会も少ない.しかも格付け会社は日本国債の格下げを表明している.国内投資家は,低金利でもデフレであれば満足するだろうが,それではデフレ・スパイラルを続ける.
日銀は金利の急騰を避けるために貨幣供給を増やすだろうが,震災時のようなケースでなければ,それは日本の国際的な信頼を損なう円安につながる.
FP
June 3, 2012
U.S.
expands its 'trilateral diplomacy' in Singapore
Posted By Josh Rogin
Global
Times | June 04, 2012
China
and US stuck trying to ride the tigers of game change
By Li Xing
FT June
6, 2012
Sayonara
decline! Japan is globetrotting again
By David Pilling
日本企業の内向性,老人病を治すために,外国人経営者の参加,外国資本による企業買収を促すことが必要だ.あるいは,当然,優秀な日本企業は新興市場に逃げ出しつつある.
l 中国
FP
JUNE 4, 2012
Party
Like It's 1989
BY PERRY LINK
2012-06-04
(China Daily)
Shared
regional peace
WP
June 5, 2012
Still
seeking justice for the Tiananmen massacre
By Rowena Xiaoqing He
BLOOMBERG
Jun 5, 2012
Tall
Tales About China’s Banks Hide Economy’s Problems
By Yukon Huang
2012-06-06
(China Daily)
Escaping
the dollar trap
By Zhang Monan
Global
Times | June 06, 2012
Time
for China to bet on Myanmar's factories
By Ding Gang
日本企業による東南アジアへの投資は,その国の工業力を高め,日本との友好関係を深める上で役立っただろう.中国もこれに学ぶべきだ.ミャンマーへの投資はその最初のケースにふさわしい.
これは,日本やインドとともに,企業投資を競争的に進めることで,アジアの統合を促す点で有益である.
Global
Times | June 07, 2012
SCO’s
purpose is not to challenge NATO
FT June
7, 2012
China
faces stimulus dilemma
By Jamil Anderlini in Beijing
NYT June
7, 2012
China
Cuts Lending Rate as Its Economic Growth Slows
By KEITH BRADSHER
WSJ
June 7, 2012
Beijing
Rearranges the Financial Deck Chairs
By CARL WALTER AND FRASER HOWIE
BLOOMBERG
Jun 4, 2012
Schumpeter’s
Creative Destruction Meets Indian Alter Ego
By William Pesek
Project
Syndicate 04 June 2012
Is
Global Financial Reform Possible?
Paul Volcker
NYT June
4, 2012
Turning
Our Backs on Unions
By JOE NOCERA
WP
June 6, 2012
Unions
wield new power as shareholders
By Harold Meyerson
l ネパールの混沌
NYT June
5, 2012
Nepal,
on the Brink of Collapse
By SEYOM BROWN and VANDA FELBAB-BROWN
資源は豊かだが,非常に貧しい,中国とインドに挟まれたネパールは,20年にわたって,動乱と機能麻痺の間をさまよっている.1990年,権威主義的なヒンドゥー王国から立憲君主制に移行したが,2001年に王族内の大量殺人事件が起き,毛沢東派の解放軍と政府との内戦が2006年に和平合意で終わるが,政治社会の分裂は変わらず,2008年には王制が廃止された.
ネパールの政治情勢は混沌と化し,1万6000人以上が死亡した内戦の再発に至る可能性もある.憲法制定会議で諸党派は妥協を拒み,4度も合意期限を延長した.それでも合意できないために新しい選挙が準備されているが,その結果が好ましいバランスをもたらすとは期待できない.むしろネパールは破綻国家の状態に向かっている.
ネパールの政治は,90以上の言語が話される国で,エスニック,宗教,地理的条件,カースト,階級などにより分裂・対立している.さまざまな政治党派は,連邦制の下,自分たちの支配する州で,そのコミュニティーの特権を認めるようバリケードで道路を封鎖する戦術を多用し,一人当たりGDPが490ドル,失業率45%の貧しい国において,経済活動の破壊を競っている.街頭デモや道路封鎖は,内戦を指導した人民解放軍・毛派が有利に展開してきたが,権力の喪失を恐れた旧支配層もこれに対抗して実行するようになった.
仕事のない貧しい若者や犯罪集団が,一握りのルピー紙幣や,肉入りの食事,権力奪取の幻想で,動員されている.多くの制度は政治的保護や贈賄・買収に冒され,コネが生活を決定している.国際社会,特に援助供与諸国は,ネパール経済の3.4%に相当する援助を停止する,という形で,エスニック集団の連邦制に沿った新憲法の制定を求めている.
l スウェーデン
BLOOMBERG
Jun 6, 2012
Booming
Sweden’s Free-Market Solution
By Anders Aslund
スウェーデンが,90%の限界税率と並ぶ者のいない福祉国家により,毅然としたケインズ主義の世界的指導国であるとみなされたのは,それほど以前のことではない.しかし,今のスウェーデンは,アメリカとドイツが財政刺激策化緊縮化を論争するとき,その答えを決めている.ドイツが正しい.北欧諸国は南欧の浪費国家に何の同情も感じない.
この20年間で,スウェーデンは根本的な改革を進めた.政府支出はGDPの5分の1以下に削減し,税率を下げて市場を開放した.1970年から1989年まで,大幅な増税と民間意欲の抹殺,他方,社会的給付の肥大化が進んだ.その結果,スウェーデンは20年間の低成長を経験した.1991-93年に,不動産と銀行でバブルが破裂し,GDPは6%も減少した.政府支出がGDPの71.7%に達し,GDPの11%に及ぶ予算赤字であった.
1991-94年のCarl Bildt非社会主義政権が転換点であった.1994年に政権を取り戻した社会民主党も,その方針を継承した.2006年から,再び非社会主義政権が,ポニーテールとイヤリングで有名なAnders Borg蔵相の進めた改革で,2008年に始まった世界金融危機を免れた.現政権は,毎年,税率を引き下げ,資産,相続,贈与に対する課税を廃止した.90%もあった限界所得税率は56.5%になっている.
法人税は26%であるが,アメリカと比べるより,ヨーロッパ内の激しい引き下げ競争,特に東欧諸国の15-19%と比べてまだ高いと考える.全国的な労働組合が組織した賃金交渉は,1970年代にインフレとストライキを頻発し,廃れた.今はもっと分権化した形で行われている.ストライキはほとんどなく,雇用者側が勝っても,生産性上昇によって実質賃金が改善しているからだ.労働組合は,メンバーも,資金も,パワーも失った.
スウェーデンは1995年にEUに加盟したが,ユーロには参加せず通貨クローナを変動させている.1970年代,80年代のケインズ主義的な刺激策とインフレ,切り下げ,低成長を経験してから,スウェーデンは財政規律を最も重視するようになった.それに反対する左派の論客は消滅した.労働組合のエコノミストは,銀行のエコノミストたちに代わった.
ストックホルムの研究所には自由市場派が勢力を強めている.その考え方は,労働組合や社会民主党の指導者にまで浸透している.競争,開放,効率,という価値が重視され,社会的価値や環境保護も追及するが,それは福祉国家によってではない.競争と民間部門の方がもっと効率的に供給できる,と考える.
社会民党は,むしろ右から,ビジネス環境の改善を求めて,現政権を攻撃している.スウェーデンの減税と政府支出削減が,北欧からヨーロッパに経済モデルとして広まっている.彼らは南欧やアメリカ政府の無責任さを許さない.
Project
Syndicate 07 June 2012
Europe’s
Three Eastern Questions
Javier Solana
ヨーロッパが改善されるためには,政府債務問題が解決されるだけでなく,東方の3大国,トルコ,ロシア,ウクライナとの関係が安定しなければならない.独裁と民主化,トルコのキプロス,ロシアのWTO加盟,ウクライナの内政不安定,などは,EUが行動し,ソフト・パワーを行使する中で,解決できるはずだ.
******************************
The Economist May 26th 2012
How strong is China’s economy?
Pedalling prosperity: Special report
The future of the European Union: Europe’s
choice
The euro crisis: An ever-deeper
democratic deficit
Fish stocks: Plenty more fish in the sea
(コメント) 中国経済に関する特集記事は,減速やバブル,ハード・ランディングを懸念されることを,事実によって否定します.なぜなら,悲観派の前提は中国の「輸出依存」や「過剰投資」,そして「不動産バブル」や銀行の「不良債権」であるからです.開発諸国の住宅やインフラ水準,医療・社会福祉の水準と比べて,中国は投資がまだまだ不足している,と考えます.
問題が何も無い,というのではなく,問題の多くは,少なくとも現段階では,債務/GDP比率がまだ非常に低い(25%)中央政府によって処理可能な大きさである,と主張します.そして,急速な生産性向上は無駄な投資を相殺しており,長期的に見て投資の配分が間違って,無駄も多すぎる欠陥は,金融システムを自由化して効率性を高めることで解決できる,と指摘します.
他方,ユーロ危機は深刻です.なぜなら,ユーロ危機では,ヨーロッパ統合を進めてきたEUの制度や意思決定そのものに,各国国民が離反しているからです.EUによる統合は,市民たちの関与しない,ブラッセルの官僚によって進められたことでした.それは市民生活にとって重要でない,また厳しい抑制や不快な選択を押し付けるものとは考えられていなかったのです.
ユーロ危機はそうではないことを示しました.だから,「民主主義の不足」が一気に政治問題として爆発し,さまざまな場面で,民主的な投票は有権者の不満を表現し,EUの独断を阻止する方向に機能しています.崩壊の危機を解決するために,さまざまな提案があるけれど,決定的なものはないのです.ヨーロッパ市民間の「政治的統一」をもたらすメカニズムを欠いたまま誕生したユーロは,政治統合に向けて飛躍するか,政治的同盟の範囲に分裂するか,政治家たちにとっては時間切れの状態です.
他の記事から,一つだけ,魚の資源管理に関する合意を挙げました.
******************************
IPEの想像力 6/11/12
先週,ゼミ生たちとイギリス映画『ブラス』を観ていて,同じことを感じました.サッチャー政権が閉鎖した多くの炭鉱には,そこで働く労働者たちの生活,地域社会の繁栄がかかっていたのです.たとえ石炭がイギリス国内で採掘されなくなっても,鉱夫の家族や炭鉱町のブラスバンドを守る方法はあったはずだ,と.
土曜日,大阪市の近鉄上本町駅から歩いて,「市民と政府の意見交換会〜TPPを考えよう」を聞いてきました.主催は,アジア太平洋資料センター,TPPに反対する人々の運動,AMネット,など8団体,協賛は121団体以上もあります.
団体名には,農業,食糧,食肉,熱帯雨林,オーガニック,里山,水,協同組合,労働組合,キリスト教婦人会,学生,YMCA,アジア女性,援助,債務,フェアトレード,フィリピン,ニカラグア,憲法,平和,市民社会,グローバリゼーション,鎖国,・・・いろいろな言葉が含まれます.TPPが喚起する不安や疑念,反発の広がりを示すものでしょう.
私は,こうした意見交換会が開かれたことを,自分たちの関心から社会的に運動を組織する<市民>という言葉に積極的な形を与える,すばらしい発言・行動だと思います.それまで全く知らない市民同士が,共通の関心を抱いて集まり,その結社や運動が政府を動かす力になる,というのは,そうか,日本でもこうして可能なのだ,と実感したのです.
さて,集会は主催者の招いた3人の報告者が,経済,食と農,医療,に関してTPPに参加することで生じるかもしれない危険性を指摘しました.これに対して,政府側の担当者は予め主要な質問項目に対する説明資料を準備していました.こうした周到さもあって,報告と政府側の説明は適切に噛み合っていたと思います.
あるいは,「噛み合っていた」ことが,反対の意図で集まった諸団体からは「不満」が残る集会になったかもしれません.政府側の説明は合理的で,十分に根拠ある主張を展開した(ように見えた)からです.TPP推進に「利用された」!? という反対派の憤慨が聞こえます.
一方で,内閣官房の用意した背景説明とFTAAPを目指す「国家戦略」に,私は(IPEの観点から)共鳴し,賛同します.・・・地域社会の繁栄も自由な国際貿易によって支えられている.日本の人口が減少し,製造業の事業所や雇用が減少し,貿易黒字が減少し,海外資産からの所得も頭打ちで減少し始めた.国債の発行残高は累増し,経済規模や労働人口が減少していく.・・・
その通りだ,と思います.「世界の潮流から見て遜色のない高いレベルでの経済連携」を推進し,成長するアジア太平洋と市場を共有することが日本の国家戦略である,と政府は国民に説明するわけです.
たとえば,TPPに断固反対する諸団体は,大阪市だけでも自由化を拒み,独自の制度や規制・税率による自給体制,産業や環境の独自な保護を強めるのが良い,と考えるのでしょうか? 小さな里山でエネルギーや食糧の自給を理想とする政治運動は,確かに,必ずあるでしょう.オランダやベルギー,アイスランドやスウェーデンを観ても,市場統合に対する政治の答えは一つではない,と思います.
しかし,私が感じた不満は,むしろ別の点です.
政府側の参加者は,こうした意識の高い諸団体と意見交換する機会に,どこまで市民の声を政治に反映し,自由化やTPP参加が大企業のためだけでなく,国民生活のためになることを説得できたでしょうか? 自由化で生じる問題を一緒に監視し,これからも改革に取り組む姿勢を強調して,彼らの運動を歓迎するメッセージを伝えるべきではなかったか?
大飯原発の再開,ユーロ危機,などの記事を読みながら,グローバリゼーションにおける「戦略国家」のあり方と,民主主義の神髄である市民参加とを,政府はどのように組み合わせるつもりなのか? その「戦略」のあり方,方針を知りたい,と思いました.
・・・市場の拡大(グローバリゼーション)は,何をもたらすのか? 地域社会や国家を超える巨大企業を有利にし,民主的な意志決定を困難にし,超資産家階級と短期の契約労働者との所得や資産の格差を拡大し,言語,教育,映画,スポーツ,食事,などを一元化(アメリカ化)し,それゆえ,市民の自由な選択やリベラリズムを否定するに至るのか?
<市民>であるということは,こうした疑問を仲間に提示し,集会や運動を組織し,自分たちの不安や不満を政治に反映させて,法律や制度を変える,ということだと思います.そして石井参事官の話は,「市民」として「戦略国家」を想う姿勢において,ある種の感銘を受けました.
・・・「閉鎖された炭鉱の労働者が,他の町で仕事を探して苦労する姿」,「中国に進出する中小企業が裁判所で争う際の不安」,「中国で土地と資金を用意したから,と招待される日本の農業経営者」,「天ぷらうどんが食糧自給率を一番下げる」,・・・
******************************