前半から続く)


l  G8より,中国とインド

NYT May 17, 2012

Germany, the Crisis and the G-8

FT May 19, 2012

G8 splits over stimulus versus austerity

By Richard McGregor in Washington and Kiran Stacey in Chicago

FT May 21, 2012

India and China should go their own ways

By Eswar?Prasad

金融危機からの回復を指導したのは新興市場,特に中国とインドであった.世界の成長のエンジンが持続するためには,中国とインドが財政政策を賢明に行使する必要がある.

中国は金融における拡大策によって景気の減速を阻止した.しかし,その結果,消費による成長モデルへの移行は遅れ,投資が浪費され,銀行に不良資産が増えた.他方,財政的な刺激を行う余地はある.IMFの推定では,GDPに対する公的債務の比率は約25%である.医療・教育やセーフティー・ネットの整備など,適切に的を絞った財政支出を増やすことで,中国経済は貯蓄を減らして消費を増やせるだろう.

他方,インドは公的債務がすでにGDP70%に達し,財政赤字が金融政策を制約している.それゆえ経済は石油価格の上昇や資本流出にも脆弱で,ルピーはドルに対する為替レートが大幅に下落した.インフレ率が高まっても,金融政策が成長を維持するために緩和されているのだ.それゆえ,インドは財政政策を改善し,中期的に財政赤字を減らすことで金融政策への信頼を回復できる.

両国の財政政策に,世界経済の回復がかかっている.

WSJ May 21, 2012

India in Free Fall

By ESWAR PRASAD

YaleGlobal, 21 May 2012

A Global Economy in Danger

Manu Bhaskaran

FT May 22, 2012

Sensible Keynesians see no easy way out

By Raghuram Rajan

Krugmanの財政刺激策に反対しています.・・・長期的に見て,我々はまだ死なない.大不況からの回復には十分な時間を要する.即効性の刺激だけではない.将来の損失と比較しなければならない.

ギリシャのように,銀行や企業が倒産し,資本が破壊されるようなケースと,習慣や技能のせいで労働者が長期に失業し,高失業率が続く,アメリカやスペインのようなケースとは,区別しなければならない.日本は,1980年代後半の不動産バブルとその破裂に対して,インフラ投資で刺激し続けたが,危機から完全に脱出することはできなかった.そして長期的に,G7で最悪の高債務を抱えたまま,高齢化し,人口も減っている.

正気のケインジアンなら,目標を絞った財政支出,あるいは緊縮策を,国ごとに決めるだろう.長期的には人はすべて死ぬ,と言って,即効的な刺激策を繰り返すポピュリストの主張は,回復ではなく,革命に終わる.

Project Syndicate 22 May 2012

A Global New Deal

Jomo Kwame Sundaram


l  CIA対話

FT May 18, 2012

Forget the G8, the US needs a China-India summit

Kishore Mahbubani

クリントン国務長官が提案したCIA(中国,インド,アメリカの新対話)は優れたアイデアだ.中国政府は,アメリカがインドと組んで,中国に対する民主主義大国による圧力を加えるのではないか,と警戒するのがわかる.しかし,3国間で話し合うことで世界を改善できる問題がある.

クリントン長官は,気候変動と貿易自由化交渉を挙げた.気候変動では,中国とインドが,ともに,アメリカの姿勢を責めている.これまで温暖化ガスの排出によってストックを形成した諸国が,貧しい国に同じ排出規制を求めている,と.アメリカが最初にコストを支払うべきであり,排出を減らすべきである,と両国は考える.

ドーハ・ラウンドの再開についても,中国とインドはウルグアイ・ラウンドで,欧米諸国が農業補助金を減らす必要があると理解していたことに注意する.しかも現在の財政危機が深まる中で,補助金の削減は避けられないだろう.それゆえ,CIA対話が貿易自由化の前進をもたらすはずだ.

イスラム圏との関係でも,中国とインドは古代文明から長い歴史の中で経験を積んできた.アメリカが学ぶものがあるはずだ.パキスタン,台湾,チベットについて,CIA対話はこれまで考えられなかった政治的に微妙な問題を,静かに話し合えるだろう.

参加国の数が増えれば,その成果は乏しくなった.CIA対話を,ヨーロッパや日本,ロシアは嫌うだろう.しかし,彼らが対話する機会は,ほかにも多くある.Goldman Sachs の以前の予測では,2050年に世界経済において最大の国は中国であり,2位がインド,3位はアメリカだった.


guardian.co.uk, Friday 18 May 2012

Rain-soaked Francois Hollande is a comic, everyman leader for our times

Jonathan Jones

LAT May 18, 2012

In Europe, time for true austerity

By Veronique de Rugy

WSJ May 20, 2012

Europe Can Spend Its Way to Growth

By HANNES SWOBODA

WP May 24, 2012

A growth pact for Europe

By Guido Westerwelle


l  ヨーロッパ

FT May 18, 2012

Europe’s hubristic imperial overstretch

By Andrew Roberts

Project Syndicate 21 May 2012

Ten Reasons for Europe

Dominique Moisi

guardian.co.uk, Tuesday 22 May 2012

Why the eurozone crisis doesn't spell a return to the well of nazism

Matthew Goodwin

NYT May 22, 2012

The Crisis of European Democracy

By AMARTYA SEN

ヨーロッパの沈滞で最も不安を感じるのは,民主的な契約が金融の独裁に代わることだ.EUECBの指導者も,民間の債券格付け会社も,その判断はあまりにも不健全であった.

大衆の参加する討論によって発見される,すなわち,John Stuart MillWalter Bagehotのような民主的な理論家が展開したような,改革の道こそが,社会的な正義を失わないヨーロッパのシステムの基礎にある.ヨーロッパが回復するには,1.大衆に説明されない,合意を得られないような,専門家の判断に政治を委ねてはならない,2.指導者たちが効果のない,あまりにも不正義な政策を採用するとき,民主主義体制と政策の有効性が同時に掘り崩される.


l  成長と停滞の本質

Project Syndicate 18 May 2012

A Breakthrough Opportunity for Global Health

Joseph E. Stiglitz

VOX 22 May 2012

The age of equality

Richard Pomfret

ヨーロッパの北西部で19世紀前半に始まった「産業革命」は,資本集約度を高める,分業に基づく工場を導入した.それは科学的な,少なくとも経験的な観察に基づくものだった.リスクを取る企業家,移動可能な労働者が,価格の誘因に反応するシステムだった.貴族や地主,ギルドはこれに反対した.

しかし産業革命の帰結とは,単に,旧政治体制や帝国を解体し,効率化のための「自由」,そして,繁栄と不平等をもたらすだけではなかった.アメリカでもヨーロッパでも,不平等に対する政治的な反対が高まったのだ.20世紀の最大の実験とは,繁栄と平等との間でバランスを取る様々な経済システムが競争するものだった.

Project Syndicate 23 May 2012

Why Do Economies Stop Growing?

Michael Spence

成長が急速に失われるケースを考える.輸入代替工業化.小国開放型経済の特化,天然資源開発,公的・民間支出の膨張,過剰投資,などである.

減速を避けるには,「構造的な弾力性」を確保する制度改革,資源から得た歳入をインフラ投資,教育,外国資産,などに使う,不平等を抑えて社会的な公平さを確保する,環境の外部性に十分な注意を払う,・・・などが必要だ.

すなわち,構造変化への十分な投資である.


l  中国の不安

WP May 19, 2012

China’s wobbly transition

By David Ignatius

NYT May 20, 2012

In China, Fear at the Top

By RODERICK MacFARQUHAR

Project Syndicate 21 May 2012

Why China Won’t Rule

Robert Skidelsky

中国はアメリカに代わる超大国の地位に就くか? この質問は間違いだ.アメリカが唯一の超大国になったのは1991年にソ連が崩壊したからだ.イギリスも,そのような地位にあったことはない.それは例外であった.むしろ,歴史的には多くの大国が同時に存在し,平和と戦争の時代を経てきた.

中国がグローバルな秩序に責任を持ち,欧米の大国との関係を重視する国になるか? この点でも二つの不安がある.1.中国経済の不安定さ,2.中国の政治秩序・政治文化における価値観が欧米との協調を妨げる.

FT May 22, 2012

Beijing reforms: China’s lending laboratory

By Simon Rabinovitch

FP MAY 22, 2012

Bear in a China Shop

BY ARTHUR KROEBER

中国経済が住宅バブルで崩壊することはないだろう.中国の住宅事情は,アメリカと全く違って,まだあまりにも貧しい.また,中国の住宅購入は債務に頼らない.むしろ,その問題は他の資源配分と同様に,共産党の支配する国家が介入し,あまりにも不公平なことである.

FT May 23, 2012

The wobbly panda won’t fall yet

By David Pilling

FP MAY 23, 2012

5 Things the Pentagon Isn't Telling Us About the Chinese Military

BY TREFOR MOSS

WP May 24, 2012

China’s economic crisis

By Fareed Zakaria

中国の体制は政治スキャンダルに耐えることはできても,次の経済危機は政治危機に転化するだろう.

銀行には不良債権,公的債務に加わる国有企業の債務,農村からの労働力移動の枯渇,急速な少子高齢化,経済規模の拡大と資源需要,・・・6%成長でも中産階級にとっては問題ないが,高成長を維持してきた政治支配の正統性が損なわれる.


l  NATOとシカゴ

Project Syndicate 19 May 2012

Globalizing NATO

Anne-Marie Slaughter

NATOは冷戦下の硬直的な軍事同盟ではなく,グローバルなネットワークになった.「NATOはハンマーではなく,安全保障の選択肢を包括する道具箱である.」 その利用も非常に弾力的であり,他の組織や民間団体ともネットワークを拡大する.ネットワークにおいてパワーを決めるのはその中心性だ.アメリカはネットワーク化していくNATOの結節点になる.

guardian.co.uk, Sunday 20 May 2012

Nato talks security and peace, Chicago has neither

Gary Younge

シカゴの南西部にある居住区,Brighton Parkにおいて,金曜日の朝,小学校の周りを巡回するボランティアのラテン系住民たちがいた.この学校は三つのギャング団,the Kings, the 2/6s and the SDs (Satan's Disciples),が抗争する地帯にあったからだ.

同じ日の夜,2ブロック離れた場所で,14歳のAlejandro Jaimeは背中から撃たれて死亡した.目撃者によれば,11歳の友人と自転車に乗った彼らを一台の車がはねた.彼らは立ち上がって逃げたが,Alejandroは車を降りた男に撃たれた.町は住民の安全を守れない,と巡回のボランティアは言う.

翌日,世界中から指導者たちがシカゴに集まってNATOサミットが開催された.Brighton Parkからたった20分のところで,彼らは国際安全保障について話し合った.NATOの目的は平和と安全であるが,シカゴにはどちらも無い.

シカゴ市長,Rahm Emanuelは,「最も偉大な国の,最も偉大な都市」を示す良い機会だ,と語った.しかし,「99%ツアー」の主催者は,平和と繁栄を輸出すると主張する国が,国内でそれに失敗している,と語った.シカゴの殺人発生率は昨年より増加し,ニューヨークのほぼ2倍である.そして警察は,住民に発砲する点で,犯罪者と同じくらい恐れられている.

暴力は人種や経済的衰退と一致している.貧しい地区ほど暴力が頻発し,裕福な地区は安全だ.それは偶然ではない.NATOG8と同様,システムは富を広まるためにあるのではなく,それを維持し,守るためにある.カオスを解消するのではなく,それを封じ込め,罰するためにある.NATOはこの状態を作り出した政治的・経済的プロジェクトの軍事部門である.

ネオリベラルのグローバリゼーションと,それがもたらす不平等は,強制力なしに存在し得ない.「見えざる手(市場)は,見えざる拳(軍事力)とともにある.」 と,自由市場グローバリゼーションの提唱者Thomas Friedmanは断言する.「マクドナルドは,もう一つのマクドナルドとともにある.」すなわち,F15戦闘機を設計したMcDonnell Douglas社だ.アメリカの陸海軍は,シリコンバレーの繁栄も支えている.

シカゴがNATOサミットの会場になることは,グローバルなレベルで不平等を維持する残忍さを,ローカルなレベルでも確認することになった.シカゴの黒人の幼児死亡率はヨルダン川西岸と同じくらい高い.イリノイ州の黒人の平均寿命は,エジプトより少し下で,ウズベキスタンの少し上だ.シカゴ市民の4分の1以上が保険に加入しておらず,シカゴの黒人男性の5人に1人は失業し,3人に1人は貧困層だ.

3月に,NATOの攻撃したリビアからの難民72人を乗せた船が緊急信号を発した.NATOは,その海域を戦闘域であると宣言しただけで,信号を無視した.船は地中海を2週間漂流し,飢餓,水不足,嵐の中で,9人を除いて全員が死亡した.2人の赤ん坊も死んだ.

NATOは人権や国際的な責務を語るが,同時に人々の死は放置される.

(China Daily) 2012-05-21

NATO's eastward expansion

By Li Hong

FP May 22, 2012

NATO's not very lofty summit

Posted By Stephen M. Walt

FT May 24, 2012

Summits that cap the west’s decline

By Philip Stephens


guardian.co.uk, Sunday 20 May 2012

Eastern Europe's neoliberal disaster provides a warning for the Arab spring

Neil Clark

FP MAY 22, 2012

The Good Felool

BY DAVID KENNER


FT May 20, 2012

Blueprint for resolving regulation

By Andreas?Dombret and?Paul?Tucker


WSJ May 20, 2012

Three Views of the 'Fiscal Cliff'

By EDWARD P. LAZEAR

WSJ May 21, 2012

The Long and Short of Fiscal Policy

By ALAN S. BLINDER


l  オバマとロムニーの資本主義観

WP May 21, 2012

A choice of capitalisms

By E.J. Dionne Jr.

アメリカ人はこれまでも,不平等が拡大し,金融的混乱が起きたとき,資本主義の在り方を問題にして論争してきた.

Mitt Romneyは,JPMorgan Chaseの巨額損失にもかかわらず,莫大な富と雇用をもたらす資本主義の驚きを支持する.しかし,それは「創造的破壊」である.自己破壊的なときもあれば,多くの傷ついた人々が残される場合もある.ロムニーが裕福であるのは,彼の投資会社が人々のために投資したのではなく,パートナーと投資家に利益をもたらすために投資したからだ.

金融技術の革新が優れた性格を持つとしても,現代の金融システムが富を経済の他の部門から奪い,金融システムの頂点に集めることは明らかだ.バイデン副大統領が先週,Youngstown, Ohioで演説したように,労働者たちは異なる経済を生きてきた.それは,すべての生産物を金融化して,証券化し,CDSを売買し,サブプライム・モーゲージのようなもので儲ける経済ではない.

ドイツのキリスト教民主党が開発した,社会的な市場を我々も築くのか? それは間違いなのか?

WP May 21, 2012

Role of American capitalism on trial

By Robert J. Samuelson

LAT May 22, 2012

Which kind of capitalism? A debate for Obama and Romney

Jonah Goldberg

guardian.co.uk, Wednesday 23 May 2012

A new era of fiscal responsibility: the free lunch is finished

John Bolton

FT May 24, 2012

Mr Obama, stop the attack on private equity

By Sebastian Mallaby


l  日銀の冒険

BLOOMBERG May 21, 2012

Hedge Funds Circle as Japan’s Asset Bubble Grows

By William Pesek

日本人は挑戦している.債券市場の崩壊を招かずに,金利はどこまで下げられるか?

10年物国債の利回りは0.83%しかないが,公的債務の規模は5.5兆円の日本経済の2倍以上あり,しかも,さらに増えているのだ.日本経済の成長とはゼロ金利で借金が増えることであり,債務を減らすとき,成長は一気に失われ,デフレが起きる.政治家たちは日銀の行動を要求する.

日銀が経済を守るというのは,サブプライム・ローン,ヨーロッパの銀行,中国の成長,デカップリングと同じ迷信だ.しかし,日本の債券バブルが今すぐ崩壊する,というわけではない.混乱時にも安定化に成功してきたし,95%が国内で保有され,資本逃避のリスクはない.

とはいえ,それが終わるのも近い.バブルを放置すれば膨張し続ける.もう一つのギリシャになる前に,日銀は,実物資産(不動産,住宅モーゲージ,スポーツスタジアム,農場,停止中の原発,ゴルフ場,大学,過疎の村,など)を購入するか,金融機関の保有する資金にマイナスの金利をつけるべきだ.

FT May 22, 2012

Fitch downgrades Japan on public finances

By Ben McLannahan in Tokyo

WSJ May 23, 2012

Arigato for Nothing, Keynes-san


l  国際通貨の交代

VOX 23 May 2012

When did the dollar overtake sterling as the leading international currency? Evidence from the bond markets

Livia Chi?u   Barry Eichengreen   Arnaud Mehl

国際通貨の交代はこれまで考えられていた以上に短期間に起きる.すなわち,ネットワーク効果や慣性は重要ではない.国際通貨は複数利用されることが可能であり,その交代後に逆転も可能である.国際通貨の地位に重要なのは金融市場の深化であり,金融秩序が安定しなければならない.

******************************

The Economist, May 12th 2012

Europe’s Achilles heel

The thread of Greek exit: Unhappy in their own ways

Banyan: An absence of architecture

Charlemagne: Ode to growth

Free exchange: Hope springs a trap

(コメント) ユーロ危機と,ギリシャ,フランスの選挙が描かれています.選挙結果を受けて,ユーロ圏は緊縮策の修正を急ぐべきでしょう.すなわち短期的には,財政再建は遅らせて,投資を増やし,成長を促す金融的な拡大,そして,危機の伝染を防ぐ防火壁を増やす.すべてドイツ政府が嫌っていることです.中期では,ヨーロッパの市場を自由化し,福祉国家を縮小する.債務の一部を免除し,ヨーロッパ規模の銀行整理を可能にする.

記事は,ユーロ圏が取り組むべき課題は多く示されており,問題は,各国の政治家たちがそれらを避け続けていることだ,と考えます.ありえないことかもしれないが,フランス人が改革を進め,ドイツ人がもっと浪費し,イタリア人が政治的に成熟する必要があるのです.

「貧困の罠」に関する開発経済学の実証研究が興味深いです.貧困は,貧者自身が心理的な罠にはまって抜け出せないことがあります.それを変える仕組みや驚きを与えると,貧困解消の道を自ら開きます.貧困家庭が支援されて牛を飼ったり,農閑期に都市へ行くバス代を支給されたりして,貧しい農民たちが新しい希望を持つと,彼らはもっと長時間働き,貯蓄するようになった,というのです.

******************************

IPEの想像力 5/28/12

この1週間,日経新聞のいくつかの記事・論説を興味深く読みました.一方では,シャープと鴻海(ホンハイ)精密工業との資本提携,日本国内の液晶・半導体業界再編成について.また他方,ギリシャ危機,フランスのオランド大統領に関するダニエル・グロスの厳しい評価について.

液晶パネル,太陽光パネル,半導体の生産をめぐる企業間の技術・販売競争,日本,韓国,台湾,中国の国際立地をめぐる政府間競争,世界金融危機と各国通貨の為替レート変動による競争力や利益への影響について,記事は述べています.

・・・年間1億数千万台を売るアップルのiPhoneを,韓国のサムソン電子が部品供給し,台湾のホンハイが中国工場で生産する.アップルは(競合する製品も作る)サムソンへの依存を減らすため,先端技術を持つシャープと組んだホンハイに発注を増やす.

・・・「交渉の途中で話が中国の政策に及ぶと郭(ホンハイ)は「ちょっと待ってくれ」と町田(シャープ)を制し,その場で受話器を取って中国政府の高官と話し始めた.」・・・「ホンハイにも弱みはある.123月末,iPhoneを作るホンハイの中国工場を査察した米厚生労働協会は,長時間労働など「少なくとも50件以上の深刻な労働基準・法令違反を発見した」と発表した.」

日本国内の再編,外資への売却.・・・「半導体業界ではDRAM大手のエルビーダメモリの法的整理に追い込まれ,米マイクロ・テクノロジーによる買収交渉が進んでいる.ルネサンスもシステムLSIの最先端工場を外資に売却する」という.ルネサンスの鶴岡工場は台湾企業が買収交渉を進めています.ルネサンスは(富士通,パナソニックと)事業統合して新会社を作り,「スマートフォン用半導体の開発業者など1000人を移す」とあります.

ついこのあいだまで,小国フィンランドのノキアが世界市場で重要な役割を果たせることを楽しく読んだのですが,今は違います.シャープも,技術における優位を利益に変えることのできる台湾企業(中国の生産拠点)と組み,規模を得るためにアップルの製品と中国市場を取り込みます.

もし国境や為替レートが無く,成長する統一市場において,もっぱら技術革新が競争を支配するのであれば,日本企業はもっと違う形で繁栄できたのでしょう.

日本もアジア市場統合や為替レートの地域安定化・調整メカニズムを推進するべきではないでしょうか?

ただし,ダニエル・グロスの発言を読んでから.・・・「欧州首脳は既に成長をテーマに何度も会議を開き,戦略も決めた.・・・今回もEUは成長協定を作って,欧州投資銀行のお金をほんの少し使おうと合意するだろう.しかし実際には何も起きない.」

野党の政治家は金融市場が機能する仕組みを知らない.10%の失業率で労働市場を機能させるなら,賃金は抑えて,長時間働くのを受け入れねばならない.・・・「これはドイツ流の是非ではない.市場と政府の戦いだ.」・・・「ギリシャの新政府にEUがもう一度チャンスを与えるが,やはり条件を実行できない.ギリシャの銀行が混乱してECBが見限る.」

緊縮も成長も,どちらが間違っているという論争ではありません.グロスは,独仏が違う立場を取ることで,EU諸国を政治的合意へ導くのが望ましい,と書いています.あるいは,もし今,トルコがEUに加盟していたら,ギリシャ離脱は異なった視点で話し合われただろう,と私は思います.

技術革新が波及し,人々の生活を改善する過程で,企業や国家は激しく競争します.戦争や金融危機を誘発せずに,十分な社会保障制度や国際競争のルールに合意して,安定した秩序の下に行われる時代を予想します.そのとき,日本,韓国,台湾,中国,そして,ASEANやインド,アメリカなど,さまざまな国が緊密な関係を結び,試行錯誤の過程に対して政治的信頼を確保する制度ができるでしょう.

その限界を知って,私たちは統合化を遅らせます.競争が厳しい現実に変わるとき,柔軟さを自国で再生するしかない,と思うのです.

******************************