前半から続く)


l  政府も競争する

NYT April 14, 2012

Competition Is Healthy for Governments, Too

By N. GREGORY MANKIW

市場にとって競争は欠かせないが,政府も競争する方がよいのか? 公共サービスや税金を考えて,われわれは住む場所を決める.税金の賢明な使い方を示す町に,人は集まるだろう.彼らの支払う税金に比べて公共サービスの価値が低い,と思えば,人々は足によって投票する.

資本は労働力よりも移動しやすいから,政府間で資本をめぐる競争が激しい.世界中で法人税が下げられ,日本にも遅れて,アメリカが世界最高になった.保守派はそれを歓迎するが,オバマ政権はそれを嫌う.なぜなら,保守派は政府を信用していないが,リベラル派政府に多くの役割を期待するからだ.保険もそうだ.さまざまな保険が選べる方がよい,とロムニーは考える.オバマは国民に同じ保険制度を求め,州の違いを認めない.

もし政府が所得分配を改善しようと思えば,裕福な人や資本が逃げてしまうのは困るだろう.この問題は,あなたが政府に何をしてほしいのか,政府の権力を恐れるのか,という哲学的な問題に至る.

次の選挙で有権者はその答を求められる.


guardian.co.uk, Sunday 15 April 2012

Britain must find its own way to overcome its racism

Bonnie Greer


l  中国への疑問

WSJ April 15, 2012

Three Questions for Beijing

By MINXIN PEI

Bo Xilaiの失脚は,その昇進とともに,中国の政治システムについて,深刻な三つの疑問を抱かせる.

1.なぜこれほど欠陥のある人物が,これほどの地位に就いて権力を行使したのか? 結局,共産党の指導者の選考は腐敗しており,能力ではなく,コネや推薦人などで決まっているのではないか? 2.指導部の交代期に権力を行使しているのはだれか? Boの失脚はイデオロギーの問題ではなく,権力闘争である.自分たちの地位を守り,高めようとしたグループが抗争している.3.こうした権力システムが,インターネットとマイクロブログの時代に通用するのか? 林彪の失脚事件と何も変わっていない.

NYT April 15, 2012

Africa’s Free Press Problem

By MOHAMED KEITA

急速にアフリカへの貿易と投資を増やしている中国は,アフリカにおける開発のモデルになっただけでなく,政府に批判的なメディアやジャーナリストの監視,弾圧のモデルにもなっている.しかし,西側諸国は,暴力と貧困を減らした新しい指導者たちを称賛してきた.中国のメディアは世界中で拡大を加速し,特にアフリカで,その影響力を強め,監視技術を提供し,活発にメディアを投資・買収している.その典型が,エチオピアとルワンダだ.

新聞報道の自由は経済発展に欠かせない.仕事の不足やインフレについての政府統計,社会・経済問題を,どのように見るか,新聞が示している.

FT April 16, 2012

Robots can solve China’s labour problem

By KlausZimmermann

単純作業を高速で行う労働現場は事故も多い.中国のFoxconn工場(台湾企業だが)は,Appleからの労働条件改善に関する要求でロボットの導入を決めた,というのは単純すぎる.中国の労働者が減少し,急速に高齢化するという人口学的な変動の影響を,中国政府は予防するために,Foxconn100万台ロボット導入計画を支持したのだ.

FP APRIL 16, 2012

Rotting From Within

BY JOHN GARNAUT

北京政府が最も心配するのは,人民解放軍PLA内部の腐敗である.PLAの軍備が改善し,急速に拡大しているために,軍を北京政府が完全に掌握できているのか,高度なハードウェアを管理するソフトウェアとスタッフが適切に育成されているのか,が深刻な問題になる.

PLAのトップが行った講演から,軍には腐敗がはびこり,専門家としての意識が欠如し,有力者のコネが温存されている,と推測できる.それは政治支配を確立する懸命な努力を無駄にしている.

FP APRIL 17, 2012

The Not-So-Great Firewall of China

BY REBECCA MACKINNON

Project Syndicate Apr. 17, 2012

The Paranoid Style in Chinese Politics

Minxin Pei


l  二つのフランス

Project Syndicate Apr. 15, 2012

France’s Election by Default

Dominique Moisi

FT April 16, 2012

France’s politicians are pandering to angry voters

Jean Pisani-Ferry

FT April 19, 2012

French Disconnection is not the only story

By Sylvie Kauffmann

大統領選挙ではフランスの否定ばかりが争われた.過激な修辞ばかりで,アイデアはない.フランスもギリシャの仲間に入って,ドイツ語を勉強したほうがよい.・・・そんな調子だ.

多くの候補者はグローバリゼーションのショックに翻弄されている.金融危機が若者の教育や中産階級に与えた影響を心配する.フランスは何でも政治にする.これは1968年の5月ではないが,21世紀の5月革命だ.ヨーロッパやグローバリゼーションを嫌っても,それから逃げることはできない.

しかし,もう一つのフランスがある.候補者の誰も言及せず,選挙には登場しないが.もう一つのフランスは,ヨーロッパやグローバリゼーションを拒むどころか,それを利用している.創造的で,ダイナミックで,革新を好む.それにはエネルギー,建設,産業サービスの大企業よりも広く,EU各地の大学で学ぶ若者も含まれる.裕福なハイテク産業の経営者や若い起業家たちも,援助機関の若者も.

彼らの多くは海外に出て,成功し,フランスに帰ってくる.IMFの専務理事になったラガルドもそうだ.フランスの女性弁護士として成功できないと感じた彼女は,シカゴで成功し,サルコジ内閣に入った.イギリスや北欧諸国には多くのフランス人の大学院生がいる.

誰が大統領になろうと,二つのフランスを和解させねばならない.

FT April 19, 2012

A transatlantic tale of paralysis

By Philip Stephens


FT April 16, 2012

Diplomacy shouldn’t halt ‘rush to Rangoon’

By James Clad


FT April 16, 2012

The first decision Kim should make at the World Bank

Mohamed El-Erian

FP Monday, April 16, 2012

The realpolitik of the World Bank presidency

Posted By Daniel W. Drezner


l  アメリカの衰退

FP APRIL 16, 2012

A Nation of Spoiled Brats

INTERVIEW BY DAVID ROTHKOPF

新著について,FTEdward Luceがインタビューに応えた.Luceはその本で,アメリカの経済問題を冷静に観察し,その根源を探っている.現在の危機は過去の危機と違い,われわれがこれからどうなるのか,を考察する.

その見解を自身で要約すると,まず,衰退を二つに分ける.第一の相対的衰退は,論争の余地がない.2000年のアメリカ経済は世界GDP3分の1であったが,2010年には4分の1になった.さらに10年で6分の1になるだろう.私はKeganの本(The Myth of American Decline)が間違った数値を示し,大統領がこれを重視したことを意識して,この事実を強調した.オバマはロムニーとの論争で「衰退論者」と見なされたくないのだ.

もちろん,世界が成長してアメリカが相対的に衰退するのは歓迎すべきことだ.18世紀後半に産業革命が起きて,主にヨーロッパに住む世界人口の15%が残りの85%を支配するようになった.今や,この85%が格差を解消し,急速にキャッチ・アップしつつある.

もう一つの衰退は,アメリカがグローバリゼーションと技術変化の影響に対応することにある.アメリカ政府の失敗は,この問題で,相対的な衰退を強めている.アジアだけでなく,ドイツ,ブラジル,カナダなど,政府は積極的に民間部門を助けている.しかしアメリカでは,エコノミストやインテリの圧倒的な多数がそのようなモデルを否定し,金融危機に至った.

不平等の拡大と,社会的移動性の低下.アメリカ経済はラテンアメリカ型に向かっている.アメリカはイギリスよりも相対的な衰退に対応することが遅い.政治においても,科学においても,カリフォルニアはアメリカの未来を示している.今や,ドイツの方がアメリカの2倍も高い社会的移動性を実現している.

政治に参加していないアメリカ人,若者に注目する必要がある.教育問題,文化問題を重視しなければならない.若者たちがカジノに耽るような政策は間違いだ.

FT April 17, 2012

America: A workforce on the wane

By Robin Harding

LAT April 17, 2012

U.S. can't abandon the Middle East

By Hassan Bin Talal

SPIEGEL ONLINE 04/19/2012

America's Religious Divide

Why Mitt Romney Is Hobbled by His Mormon Faith

By Gerhard Spörl


LAT April 16, 2012

E-book overkill

By Michael Shermer


l  ノルウェーの大量殺人犯

guardian.co.uk, Tuesday 17 April 2012

Anders Breivik's trial will only vindicate Norway's liberal legal system

Erik Dale

4人に一人のノルウェー人が,犠牲者の一人かそれ以上を知っている.すべての夕食席に,学校や食堂に,バスに,テレビに,犠牲者はいる.私は幸運だ.友人や知人のほとんどが無事であった.しかし,二人は二度と戻らない.

その強い感情と緊密に結びついたノルウェー社会において,Anders Behring Breivikを裁くことは司法制度にとって重大な試練となる.

第一に,これほどの犯罪に対して,それに見合う刑罰がない.もっと長期の収監や死刑を認めるように,刑法を改正する意見もある.裁判所におけるテロリストの笑いや過激な主張について,司法制度が利用されているという不満もある.

彼を動機付けた想念に我々は憤慨しなければならないが,彼自身にそのことを公開の法廷で説明する機会を否定してはならない.抑圧と不寛容に,われわれを支配させてはならない.怒り,恐怖,悲しみでいっぱいだが,ノルウェーの司法制度が誰をも同一に扱い,大衆の意見に左右されないことを,私は喜んでいる.感情ではなく,客観的なルールによって裁く.それが勝利なのだ.

第二に,ノルウェー社会の価値が問われる.もし厳しい検閲や監視,規制法があれば,Breivikの犯罪を止めることができたかもしれない.しかし,それはノルウェー社会をも変えてしまう.我々は政治的な意見を自由に述べる権利を持ち,そのためにはプライヴァシーや匿名性を守る必要がある.

第三に,われわれが互いを見つめ,受け入れること.人によって悲しみを乗り越える過程は異なるから.

NYT April 17, 2012

On Witness Stand, Norwegian Says He Would Kill Again

By MARK LEWIS and ALAN COWELL

guardian.co.uk, Wednesday 18 April 2012

Why Anders Breivik's trial seems strange to the eyes of an English lawyer

Paul Mendelle

guardian.co.uk, Wednesday 18 April 2012

Breivik's ideology is all too familiar: that's our big problem

Suzanne Moore

私はBreivikの十字軍妄想に火をつけたものを知っている.差異への恐怖だ.「多文化主義」は何でもレイシズムを非難するが,われわれの不安は珍しいことではない.


l  アルゼンチンのポピュリズム

guardian.co.uk, Wednesday 18 April 2012

Argentina's critics are wrong again about renationalising oil

Mark Weisbrot

FT April 18, 2012

Argentina’s oil raid can only end badly

By John Gapper

FT April 18, 2012

The siren call of populism seduces again

By Moisés Naim

アルゼンチン大統領Cristina Fernándezは,「生産でも,採取でもなく,略奪だ」と断定して,最大の石油グループYPFを国有化した.

これは遠大な開発戦略ではない.資源ナショナリズムの宣言でもない.その他,いかなる慎重なデザインがなされたわけでもない.これはクロニズムだ.対抗する企業グループを助ける.政治的ご都合主義.ポピュリズム.そして,1990年代の民営化に対する国民の不満を利用すること.

これまでの国有化の歴史は,政府にはYPFを経営する能力が無いと示している.アルゼンチンの政治における最も顕著な特徴は,システムとして学習する能力が無いことだ.国民も,指導者も,過去の経験から学ばない.Fernándezのポピュリズムはこの国で何度も観た.よく知られた失敗の遺産がある.それでもポピュリズムが有権者をひきつける.ブームと破綻の循環を繰り返して,長期の衰退を経験してきた.

アルゼンチン経済は悪化している.インフレの高進,成長の減速,補助金の蔓延,価格統制,資本逃避,インフラの老朽化,さらに,外国投資家への悪条件が加わる.2001年のデフォルト以来,国際金融の利用は限られている.大統領は支持者から見放され,労働争議が頻発しつつある.


l  売春はなくならない

guardian.co.uk, Wednesday 18 April 2012

The sex industry is repulsive, but it cannot be wished away

Tanya Gold

ベルルスコーニ元首相には売春婦の修道女たちがエロチックなダンスを披露し,オバマ大統領のシークレット・サービスはコロンビアで売春旅行を楽しんだ.

売春はなくならず,それが稼ぎの良い職業であると考える貧しい女性もいるのだから,そのことで犯罪の非難を浴びせることは間違いだ,という意見にどう答えるか?

NYT April 18, 2012

Not Quite a Teen, Yet Sold for Sex

By NICHOLAS D. KRISTOF


guardian.co.uk, Wednesday 18 April 2012

The international community must wake up to looming Sudan disaster

Simon Tisdall

FT April 19, 2012

Sudan war drums


l  日本の論争

FT April 18, 2012

A shrill debate in ‘the land of consensus’

By David Pilling

「合意の国」である日本に,反対派との激しい論争を好む人々が現れた.

若い小泉は(父の実現した)郵政民営化が骨抜きになるのに反対した.大阪の橋下徹は,そのポピュリズムや独裁者の嗜好を嫌われながらも,官僚や労働組合を攻撃して,日本で一番人気のある政治家になった.小さな政府を目指す日本版ティー・パーティだ.そして,日本は原発事故以降,電力不足が懸念されている.東京電力は料金の引き上げを提案し,日本企業が海外に逃げる速度を速めるだろう.貿易黒字が消滅することで,日本は経済危機を準備しつつある.

こうした不安を前提に,野田首相は消費税引き上げの議会通過を目指している.それは1997年以来,初めての増税であるが,当時と同じ景気回復を破壊する自殺行為だと非難する者がいる.

政治,経済,エネルギー,増税,日本はイデオロギー論争の真っただ中に進むだろう.

WP April 19, 2012

Can Japan make the tough decisions?

By Fred Hiatt

日本の野田首相は消費税を倍増しようとしている.他にも,54の原発を再開し,米軍の沖縄基地を辺野古へ移転させ,太平洋の自由貿易協定に参加しようとしている.すべて,有権者が容易に支持しない問題を,4つ一度に解決するつもりだ.

これは政治文化の問題だ,と野田は言う.日本の政治家たちが,国益のために行動できるかどうか,問うものだ,と.

アメリカ政府は民主党政権に複雑な感情を持っている.前任者と違って,米中間でバランスを取るのではなく,日米同盟を中心であると野田が明言したことには,感謝している.しかし,日本では首相がメリーゴーランドのように交代すること,また,約束を実現できないことに,アメリカ政府はいらだっている.アメリカは日本が,オーストラリアやシンガポールのように,増大する中国の軍事的脅威に対して,責任(そしてコスト)を分担するように願っている.しかし,日本と交渉した関係者は,貿易摩擦,地域交渉で,同じ感情を持っている.

野田は,伝統的な日本の指導者と同じく,カリスマ性が無く,個性に乏しい.それでも野田がこれらの問題を解決できれば,中国の台頭に応じて,日本はアメリカを助けて協力できる.他の民主主義諸国に対する模範となるだろう.

FP Thursday, April 19, 2012

Japan's greatest threat comes from the Persian Gulf, not North Korea

Posted By Clyde Prestowitz


l  インドのミサイル発射

NYT April 19, 2012

India, Eye on China, Tests Missile With Longer Range

By HEATHER TIMMONS and HARI KUMAR

インドは,木曜日に,3100マイルの射程を持つ,核搭載能力のある長距離ミサイルの実験に成功した,と発表した.それは北京と上海を攻撃できる能力であり,アジアの軍拡競争を刺激する.

スイス,ジュネーブの,安全保障政策に関する専門家Graeme P. Herdは,「中国の目で見れば,こうしたことすべてが中国への勢力均衡政策から封じ込め政策への転換,と映るだろう.」と述べた.

WSJ April 19, 2012

Hanoi's China Fears

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The Economist, March th 2012

China’s military rise

China’s military rise: The dragon’s new teeth

The politics of corruption: Dirty tricks

Emerging markets: Message to Ankara

The French election and business: The terror

Banyan: A rather flimsy firewall

American Indians: Gambling on nation-building

Charlemagne: Currency disunion

Free exchange: Historysis

(コメント) 中国の軍事力増強は,経済成長にともなう健全なものなのか? あるいは,アジアの軍拡競争を刺激し,アメリカとの覇権戦争を導くものなのか? 南シナ海,東シナ海で,領海や島の領有をめぐる衝突が起きる中で,“Peaceful rise” or “military rise” が問われています.他方,国内では指導部交代が既定のことになっていると報道されていたけれど,大物の失脚や,国内の様々な権力システムにおける昇進とライバルの蹴落としに,「腐敗・汚職追放」が叫ばれます.

新興市場への賛美が懸念へと変わるのも何度も起きたことです.トルコが(そしてアルゼンチンが)懸念を集めます.他方,フランス大統領選挙では,その過激な左派の公約が,選挙後の経済危機を予感させます.資本逃避やIMF融資をめぐるアジアの怨嗟が生んだ「アジア通貨基金」から「チェンマイ・イニシアティブ」にいたる国際金融改革への挑戦は,結局,その中身が物足りず,むしろBRICSIMF批判に期待したほうがよい,と記事は述べます.

飛び切り面白いのは,ユーロ圏の解体を議論し始めたイギリスの「解体コンテスト」です.そして,アラブ世界に民主化が欠けているのは,イスラム教や文化,砂漠のせいではなく,マホメッドが没してから後継者のカリフたちが行った支配領域の軍事的拡大が,各地に築いた征服国家の歴史的遺産である,という紹介も気に入りました.

アメリカ・インディアンが部族の「主権」を,一部,アメリカで合法的に認められ,主にギャンブルによる利益を得た話には,「石油の呪い」に似たガバナンスの逆説を感じます.

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IPEの想像力 4/23/12

経済危機や戦争は国家や社会の安定性を破壊します.それはまた,人間としての尊厳や感情をも破壊する,ということを,ユーロ危機下のヨーロッパ各国における自殺者や,イラクとアフガニスタンの戦争を経験したアメリカ退役軍人の自殺が示しています.

そうであれば,EUは調整政策の基本に立ち返り,政策協調に合意して,成長のための投資と雇用を増やすさまざまな制度を積極的に動かすべきでしょう.ヨーロッパ統合の新しい理想を掲げて選挙に勝利できる,政治的意志の堅固な,しかも,実際的な知恵を備えた若い指導者が,各地の危機を生きる中で育っているはずです.

他方,「ユーロ圏の解体コンテスト」も真摯で,しかも痛快です.The Economistが紹介する,保守党のユーロ懐疑派に近いシンクタンクPolicy Exchangeが公募したWolfson Economics Prize の話です.「ユーロ圏離脱をマネージする最善の方策」に関して,最終選考に残った5人が発表され,それぞれ1000ポンドの賞金を得たそうです.

http://www.policyexchange.org.uk/component/zoo/item/wolfson-economics-prize

Jonathan Tepperは,通貨同盟が解体するのは歴史的に何度も繰り返されたことである,と指摘します.69の通貨解体を調べて,長期的なダメージはなかった,と考えます.オーストリア=ハンガリー帝国の解体からギリシャのユーロ離脱を類推すれば,・・・週末に離脱発表があり,預金はドラクマに転換される.銀行は閉鎖され,資本逃避を抑えるために資本規制が行われる.しばらく,現金としては,インクやスタンプでユーロを消したユーロ紙幣を使用する.スタンプの無いユーロ紙幣が国外に持ち出されるのを国境で警戒し,金融機関はソフトウェアの変更に時間を与えられる.

より重要な問題は,対外不均衡と対外債務である.ギリシャは債務を新債券に交換し,債権者がデフォルトや債務の再編を受け入れるしかない.

Roger Bootleは,まずドイツなどがユーロ圏を離脱し,強い通貨圏を形成する,と考えます.・・・ユーロから,たとえ一国でも離脱することは非常に大規模なコストを伴うから,直ちにユーロが廃止され,ユーロ建契約はすべて無効になるだろう.つまり,どうしてもドイツとの契約を維持し,強い通貨圏を守りたい諸国は集まり,他方,どうしても切り下げが必要な諸国は自国通貨に戻る.

混乱を恐れて離脱の決断を秘密にしておくより,Jens Nordvig and Nick Firoozveは,ユーロ離脱を事前に予告して民間契約者に準備させることを考えます.・・・ユーロ建の契約は復活した諸通貨のバスケットECUに変更される.あるいは,Catherine Dobbsは,ユーロを二つの通貨圏,卵の「黄身 “yolk”」と「白身 “white”」とに分けます.・・・ユーロ建契約はすべて両通貨圏の固定レートによる組み合わせに転換するが,時間を経て,弱い「黄身」は強い「白身」に対して減価する.

ユーロ解体のような歴史的な転換に際しては,こうしたアイデアのバトルこそが重要です.

北朝鮮のロケット発射が失敗したとき,私も,これを契機に,北朝鮮は国際社会の要求を受け入れる方向へ転換する,と(少し)思いました.(それはないだろうな,と悲観しつつ.)・・・しかし,IPEが役に立たない,と思う人は,Stephan Haggardの論説を読んでみてください.

韓国と比べて非常に貧しく,東アジア諸国の成長から取り残された北朝鮮は,開放政策に転じることで,中国の南に接する利益を享受できるはずです.イデオロギー,安全保障,貿易・投資について,慎重かつ現実的な転換をHaggardは求めます.北朝鮮は平和的再統一という理想を,ドイツとは違う形で,実現できるでしょう.

それは野田政権や日本の課題でもあります.台湾海峡や朝鮮半島で軍事的緊張が高まるとき,どのような方針・目標を掲げて政府は行動するのでしょうか? 石原慎太郎東京都知事の投げた紛争の火種がにわかに拡大するかもしれません.今すぐ,政府はもっと国民に具体的なシナリオやさまざまなアイデアを示し,論争を通じて問題への理解を深めるべきです.

世界各地で,健全な論争を指導できる,明敏な論者が,次々に現れる時代が始まっています.消費税,社会保障制度,沖縄の普天間基地移転,アメリカと中国に対する外交政策,原発廃止,製造業の海外移転,貿易・通貨同盟,など,日本もイデオロギー論争を深めるときです.

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