パート2から続く)

l  ユーロ圏を解体すべきか?

The Observer, Sunday 1 April 2012

Spain can survive its crisis – if its euro partners play their part

Luis Garicano

FT April 1, 2012

The G20 should say no to the eurozone

By WolfgangMünchau

BLOOMBERG Apr 1, 2012

Euro Was Flawed at Birth and Should Break Apart Now

By Charles Dumas

19991月にユーロが登場してから,ドイツとオランダは成長が減速し,市民たちは富を失った.もしユーロに参加していなければ,それは起きなかっただろう.

このことが正しいと言えるのは,ユーロに参加しなかったスウェーデンとスイスには同じことが起きなかったからだ.両国は1999年以後も自国通貨を維持して為替レートを変動させており,以前と同じように成長してきた.

ドイツ人やオランダ人が憤慨するのは当然だ.しかし,彼らは自分たちをユーロに参加させた自国政府ではなく,南欧の罪もない諸国民を攻撃している.彼らも共通通貨で同様に苦しんでいるのに.

正しい結論は,最初からユーロは間違いであったと認めることだ.そして,一致して,速やかにユーロを放棄することだ.全く異なる諸経済が共通通貨を採用した.労働移動が各国の経済状態をならすという仮定は間違っていた.

ドイツやオランダは賃金を抑制して輸出を伸ばし,その貯蓄は南欧で債務を増やすか,その消費が弱ければアメリカのサブプライム・ローン,ドイツ政府債などに投資された.銀行の破たんを防ぐために,ECBは間違ったやり方で資金を供給してきたが,南欧諸国への資金移転はもっと大きくなるだろう.北欧諸国の財政や信用格付けにも悪影響をもたらす.

ユーロに留まるより,解体する方が負担を減らせる.このまま放置すれば,スペインの失業率23%,若者は49%が,さらに財政と経済を悪化させ,社会・政治状態の混乱を深める.

BLOOMBERG Apr 1, 2012

Euro-Doom Is Fantasy, Why the Currency Won’t Collapse

By Charles Wyplosz

ユーロができたとき,エコノミストたちの意見は三つに分かれた.熱狂的支持派,反対派,現実主義者だ.当然,その利益とコストは大きく異なって評価された.

なぜ意見が分かれるのが当然か.通貨は何世紀にもわたって存在するからだ.そのパフォーマンスを5年や15年では評価できない.

たとえばユーロに参加した小国(フィンランド,オランダ)と参加しない小国(スウェーデン,スイス)とを比べるとしよう.選択する年や,データの処理によって,支持派と反対派のどちらに有利な情報も示すことができる.

こうした複雑な評価は決定的な証拠を決められないが,ここで歴史が重要になる.アメリカも1840年まで州債のデフォルトを繰り返した.その後も州はデフォルトしたが,次第に,ドル圏にとどまるには財政規律を守る必要が認められるようになった.1840年というのは,アメリカが連邦政府になってから50年後だ.それでも南北戦争では分裂する危機があった.

アメリカのドルが,短期間で,スムーズに成功した,というのは間違いだ.

反対派と熱狂的支持派は,逆の理由で,デフォルトがユーロ圏離脱につながる,と考える.前者は解体を主張し,後者は死守を主張するからだ.しかし,この二つには何も法的なリンクはない.また,経済的な論理でもない.

デフォルト後の政府が,為替レートを大幅に減価して成長を取り戻し,財政規律を確立する,というのも簡単ではない.共通化圏内のデフォルトは切り下げができない.ユーロ圏を離脱すれば,短期的にはできるが,その後のインフレ回避は容易にできない.ユーロ建の契約をすべて書き直すのは,恐るべき富の再分配をともなう作業だ.

結婚と同じように,通貨同盟はその病気や健康の時期を含めて長期において判断するべきだ.離婚はありうるが,自動的に行うわけではない.ユーロの同盟は政治的な決断だ.エコノミストの損益分析は,信頼できる数値では到底ない.

FT April 2, 2012

The time bomb no one can defuse

Gideon Rachman

ユーロ懐疑論者はユーロ解体を予言してきた自慢話に満足だろう.しかし,シティやイギリス大蔵省は難題を抱える.ユーロ圏からギリシャが離脱したら,次はどうなるのか?

FT April 2, 2012

A divorce settlement for the eurozone

By ArnabDasand NourielRoubini

ECBはユーロ危機を鎮静化した,という安心感で金融市場は買われている.しかし,何も基本的な条件は変化していない.ギリシャは次の債務削減を求めるだろうし,ポルトガルやアイルランドもそうだ.スペインやイタリアに及ぶかもしれない.銀行の危機は不良債権を処理し,自己資本を増やさなければ終わらない.ユーロ圏は今も基本的な通貨同盟の特徴を欠いている.ショックに耐えられるような改革は何も進まない.

ユーロ圏諸国は,法的に実行可能な離婚手続きを整備するべきだ.

債務による成長から所得による成長へ.ユーロ圏の残余ではなく,自国の需要による成長へ.EU内の自由取引を守ることが重要だ.そして,離脱後の諸国にブリッジ・ファイナンスを用意する.合意された離脱戦略で新しい通貨の価値は再編される.切り下げによって競争力を回復する方が,デフレを続ける(あるいは,黒字国がインフレを加速する)よりも好ましい.すべての者の利益を満たす.

ユーロ圏に残る国の経済成長と,ユーロの信認が損なわれてはならない.移行期の仕組みはユーロ圏への移行と同じことだ.為替レートの広い変動幅を設けて安定化介入に合意する.ECBがインフレ目標を掲げ,競争的な切り下げを防ぐ.EUは通貨制度の変更に伴う混乱がグローバリゼーションの逆転へ向かわないように注意する.

契約の通貨変更は難しいが,離脱前から民間主体にそれを準備させることで混乱を抑える.短期的には銀行の取り付けから国有化が起きるかもしれないが,必要なら一時的な資本規制も行う.

離婚は苦痛を伴うが,望まない結婚を維持する慢性的な抑鬱よりも,すべての関係者が負担を軽くできる.ユーロ圏は秩序ある離脱計画を示すときだ.

FT April 2, 2012

No break-up: the euro needs parental love

By MartinSandbu

FT April 2, 2012

Spectre of 1930s haunts Europe’s periphery

By John Thornhill in Cernobbio

ヨーロッパ経済の回復を楽観する意見に,野村証券のリチャード・クーは反対する.財政協定は,ヨーロッパ経済の病気を治すのではなく,患者を殺してしまう.

日本経済のバブル処理について,正しく行った,という不人気な立場をクーは守ってきた.成長は衰えたけれど,1930年代の不況のような,もっとひどい事態を回避したのだ.ユーロ圏の周辺部は,今,それを経験している.

イタリアにおける金融フォーラムで,クーは自説のtheory of “balance sheet recessions”を紹介した.金融バブルの後,すべて民間主体は債務を圧縮するために支出を減らす.もし需要を維持するとしたら,政府が大幅に支出を増やすしかないのだ.このとき,政府が財政赤字を削ることは,絶対にしてはならない.

ヨーロッパのスタッフたちは,クーの非難を受け入れなかった.緊縮と成長は二者択一ではない.緊縮は成長を回復する条件なのだ,と.しかも過大な債務を抱える諸国が債務を増やすことは非生産的で,金融市場も受け入れない.

クーは日本とユーロ圏の違いを認めるが,それでも一律に財政赤字を減らす協定は間違いだ,という.日本の失敗を繰り返すだろう.

VOX 2 April 2012

Sudden stops in the Eurozone

Silvia Merler & Jean Pisani-Ferry

Project Syndicate Apr. 3, 2012

Golden Rules for the Eurozone

Harold James

ユーロ圏を1913年以前の金本位制と比較して議論するペシミストたちは,現実のシステムがはるかに複雑であり,教科書が教える以上に,重要な多くの政策の可能性を示していることを知るべきだ.

第一に,金本位制は自動的にデフレ的ではない.貨幣の供給量による.1849年,カリフォルニアのゴールド・ラッシュや,1890年代の採掘技術の革新による南アフリカ,アラスカ,オーストラリアの均衡開発は,その後にややインフレの時期をもたらした.

第二に,金本位制でも資本市場は完全に統合されなかった.投資家や銀行は法律や慣習の同じ国内で取引するのを好んだ.1992年の欧州委員会による単一市場の達成により,ヨーロッパ域内の金利を同一にしたが,リスクを同一とみなす必然性はない.

むしろ,金本位制では,金が流出する国は金利を引き上げて資本移動を促した.2008年の危機以後,ヨーロッパの金融市場は再国内化しつつある.ドイツのPhilipp Rösler経済大臣は,ユーロ圏内で各国が異なる金利を取る可能性を示唆した.

金融市場の差異化は,ある意味では19世紀への逆転だが,同時に,より市場に依拠した,歪みの少ない金融政策を目指すものである.それは安定したユーロ圏をもたらすかもしれない.

WSJ April 4, 2012

Making Greece Work

By ANTONIS SAMARAS

BLOOMBERG Apr 4, 2012

Spain Not Greece Is the Real Test for the European Union

Project Syndicate 04 April 2012

A Centerless Euro Cannot Hold

Kenneth Rogoff

スペインやギリシャで若者の失業者が50%に達するのは,あまりにも多様な経済を一つの通貨で包括したことの犠牲となったのか? ヨーロッパは,政治統合なしに,経済統合を拡大するという目標をあきらめるべきか?

国境を超えて通貨圏が拡大する大国は,通貨が高度に不安定化するだろう.ヨーロッパの指導者たちが思う以上に,税制その他の政策を集権化しなければ,通貨同盟は維持できない.

1961年に,Robert Mundellは,通貨圏が国境と一致する必要が無いことを指摘する有名な論文を書いた.マンデルは,労働者が仕事のある地域に移動すれば,為替レートの調整による均衡化メカニズムは必要ない,と述べた.

マンデルは金融危機を協調しなかったが,ユーロ危機は労働者の移動を重要な過程にした.ただし,最適通貨圏の考えるような通貨圏内の赤字国から黒字国への移動ではなく,ポルトガルの労働者は旧植民地のブラジルやマカウへ,アイルランドの労働者はカナダやオーストラリア,アメリカへ,スペインの労働者は,最近までスペインが多くの農業労働者を輸入してきたルーマニアへ,移動している.

労働者の移動は,マンデルの考えたようには事態を改善していない.もし最適通貨圏なら,スペインの失業率が25%で,ドイツが7%であるのはおかしい.通貨圏が成功するには,もっと基準が必要だ.Peter Kenenは,財政移転を指摘した.

通常,国家は集権的な税制を実現している.その結果,地域間の差は自動的に大規模な財政移転を生じるのだ.金融市場がそれに代わる,という主張もあるが,それは間違いだ.金融市場は壊れやすく,労働所得に関わるリスクを分散できない.

Kenenは景気循環的な不均衡を考えたが,財政移転ははるかに長期に及ぶ.北部イタリアは南部に1世紀以上も財政移転しているし,東西再統一してから20年以上経つが,ドイツ国内の財政移転は終わりそうにない.

Maurice Obstfeldは,もう一つの基準として,通貨圏は「最後の貸し手」を持たねばならない,と主張した.さもないと,銀行の取り付けや債務危機が頻発する.Obstfeldは銀行の救済融資を考えたのだが,今や,国家や地方自治体の破産処理メカニズムが必要だ.

こうした基準を満たす通貨圏を築くには,地域全体に及ぶ選挙を含む,政治的な正統性が求められる.それが無ければ,無限に財政移転するユーロ圏など,生き残れないだろう.

guardian.co.uk, Thursday 5 April 2012

Dimitris Christoulas and the legacy of his suicide for Greece

Maria Margaronis

guardian.co.uk, Thursday 5 April 2012

The prize of eurozone breakup may soon slip from Eurosceptic clutches

John Palmer


FT April 1, 2012

Libyan aftershocks

WP March 31, 2012

A new doctrine of intervention?

By Henry A. Kissinger


l  経済学をどう教えるか?

NYT APRIL 2, 2012

Rethinking How We Teach Economics

ハーヴァード大学の経済学入門講座で起きた抗議活動は,金融危機後,経済学をどう教えるべきか,という問題を提起した.

Mona Chalabiがフォーラムを組織した.「金融危機は,大学の経済学者たちに,経済の大崩壊を予測しそこなった,科学的であったはずのモデルの有効性を疑う素晴らしい機会を提供した.」

Alan S. Blinder.金融政策に関する教育は完全に破たんした.

Nassim Nicholas Taleb, Robert Skidelsky, Jeffrey A. Miron, John Cotter

Menzie Chinn.典型的なテキストでは,賃金と物価が調整されることで,すべての労働力と財は正しい価格で販売される.マクロ経済のこの自己調整的側面は,高度なテキストでも変わらない.

しかし,現実世界では,硬直性が存在するために,価格シグナルですべてが解決できない.


FP APRIL 2, 2012

Don’t Fear a Nuclear Arms Race in the Middle East

BY STEVEN A. COOK

NYT April 3, 2012

A Middle East Twofer

By THOMAS L. FRIEDMAN


NYT APRIL 3, 2012

How Bolivia Lost Its Hat

By FRANK JACOBS


FP APRIL 3, 2012

(B)rogue Nation

BY TIM JUDAH


FT April 4, 2012

The folly at the heart of the US healthcare debate

Bruce Bartlett

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The Economist, March 24th 2012

Losing its magic

Britain’s budget: This way, sir

The Castros, Cuba and America: On the road towards capitalism

Military spending in South-East Asia: Shopping spree

Japanese politics: Hair shirts

American diplomacy: What Hillary did next

Charlemagne: Unfree trade

Arctic politics: Cosy amid the thaw

A theory of fiscal policy: Self-sustaining stimulus

Building euro-zone competitiveness: Ports in the storm

(コメント) どうも集中力を欠く通読で要点をつかみ損ねたかもしれません.・・・インドは中央政治の迷走で新興経済の魅力を失った.・・・他の裕福な諸国が富裕層への厳しい政策を提唱する中,イギリスが示した,「ようこそ,ご主人様」政策,・・・カストロの訃報を前に,キューバは緩やかに資本主義化する,・・・東南アジアは豊かになって武器購入に忙しい,・・・日本の政治も,インド化する? ・・・ヒラリー・クリントンが大統領選を考えるよりも,外交の新しい姿に奮闘するエネルギーに脱帽,・・・フランス大統領の反自由貿易を容認する欧州委員会,・・・温暖化がもたらす北極家の雪解けと北極委員会,・・・財政緊縮策がそれ自体で成長を刺激する条件から,財政刺激策がそれ自体で赤字を解消する幸せな条件へ,・・・ユーロ圏の改革としてポーランドは港湾民営化と「大航海時代」Ⅱを.

標語風に示せば,このような記事に私は関心を持ちました.

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IPEの想像力 4/9/12

スイスのUBS(銀行)が広告に点字を使っていました.これは一体なんだろう,という関心を引く点で,広告主は成功しています.しかし,同時に,私は少し不安を感じました.金融技術の発達は,あなたたちを<聾唖者>とおなじ困難な状況に追いやっているのだ,ということを教えているのではないでしょうか? 金融ビジネスの詳細やその裏側を知る者が持つ支配的な力,特権的な地位,傲慢さ,を示しているかもしれません.

それでも,今は明るい方向に関心を持ちましょう.すなわち,点字や手話を世界共通にすれば,使用者にとって世界を広げる媒体になる,という可能性です.

最初,点字や手話は,元来が万国共通ではないか,と期待しました.しかし,残念ながらそうではない,とわかりました.書かれた言語(つまり,聾唖者ではない人々の文法と表現)が点字や手話に翻訳されているのです.

手話は言語なのか? これには,論争があったそうです.インターネットで少し探したくらいではわかりませんが,私が知りたいのは,書かれた言語とは異なる,人類(今は聾唖者ですが)共通の表現があるのか,という点です.きっと,あるはずだ.人が毎日することを,手や指の形状と動き(そして身振り)で表現する場合には,およそ類似した部分が多いように思うからです.

もしそうであれば,これを共通化できるのではないでしょうか? つまり, “Eat” と「食べる」とを翻訳するより,点字や手話を共通化する方がはるかに容易であり,何千種類でも比較的簡単に共通化できる,と思います.

こうして,世界共通語ができたら,聾唖者が世界数千言語の共通翻訳者になって活躍できるでしょう.彼らには,子供のときに特定の言語を習得してしまう人々が翻訳者になる場合と比べて,まったく異なる,大きな可能性がありませんか? 国際会議場,企業の国際会議,主要都市の公共交通機関,さまざまなグローバル化の最前線で,聾唖者の共通言語が重視されるような世界を私は想像します.

しかし,単語はともかく,文法はどうなるのか? 高度な専門知識が表現できるのか? 疑問も次々に生じます.

世界の言語は急速に死滅しつつある,と言われます.辺境において,ますます相互の情報伝達や文化の貯水池であることを許されないまま,最後の(実際には最後から2人目の)話者が死に絶えているのです.まるで希少生物の遺伝子情報のように,言語のデータベースも各地で保存されているようですが,はたしてどこまで有意義なのか,わかりません.

その死滅を促す圧力とは,テレビなどのマス・メディアやインターネットにおける英語(そして中国語)による支配でしょう.ビジネスや文化・技術の有用性を基準に考えれば,少数言語を守ることは無意味に思えます.若者たちは仕事や陥落を求めて都市に集まり,テレビや映画,インターネットの有名人,新しい成功物語を信奉します.

世界中共通に,皆が点字と手話をできれば,生まれたときに父母から得た言語という世界を失うことなく,私たちは(英語や中国語を習得するより)容易に世界中で活躍できます.どれほど小さな国家,どれほど小さな言語集団も,それがデメリットになる差別的な環境を解除されるでしょう.

高度な手話も発達するでしょうか? たとえば,手話で高度な技術開発や法律・行政作業を説明できるのか? 私にはわかりません.しかし,01だけからコンピューター言語が作れるのであれば,高度な技術や文学・芸術も,点字と手話で表現し,また,それが技術のあり方を変化させるように思います.実際,々な分野で,使いやすい世界共通言語の適用を競い合うでしょう.

英語が最も論理的な表現方法だ,フランス語や日本語の音声が芸術的だ,など,それぞれに母国語を愛する自慢話はあっても,唯一絶対の言語というものはないのです.単純,素朴な,世界共通手話通訳で,様々な土地を旅し,いままで機会を持てなかった多くの人々も世界言語・知識・ビジネス・政治に参加することは,国際秩序にも影響するはずです.

120年後,ロンドンで再びオリンピックが開催されるとき(そこが果たして何語を話しているか,わかりませんが),あなたを迎えてくれる人々は,誰もが手話で交流できます.

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