前半から続く)

l  ドルの歴史

BLOOMBERG Mar 25, 2012

Bitter Money Fights Shaped U.S History

By Simon Johnson and James Kwak

「皮肉なことに,戦争に賛成し,課税に反対した(それゆえ海軍を弱めてイギリスを有利にした)共和党が,1812年の戦争で政治的には勝利した.」

「最新の戦争でも,連邦政府は歴史的なざいせい赤字を示したが,それは2009年と2010年に1兆ドルを超え,史上1番目と2番目に大きな赤字であった.」

BLOOMBERG Mar 26, 2012

Abandoning Gold Helped Dollar Gain Preeminence (Part 2)

By Simon Johnson and James Kwak

1789年に,Alexander Hamiltonが財務長官になったとき,アメリカの信用を回復し,債務を整理し,課税しなければならなかった.ハミルトンは,貨幣の信用を高めるために,金と銀による貨幣制度を提案した.金が望ましいけれど,市中に出回った大量の銀を引き上げるのは困難であった.1840年代のカリフォルニアにおけるゴールド・ラッシュで金の銀に対する価格は下落し,金だけが貨幣として流通するので,事実上,金本位制になった.

「アメリカは南北戦争の混乱期に金本位制を離脱したが,1879年に復帰した.・・・世界経済が均衡の発見よりも早く拡大するようになって,金は他の財に比べて高価になり,金に固定されたドルも価値が高まるから,物価は下落した.」 William Jennings Bryanは銀を貨幣に復帰させることでインフレを促すよう主張したが,大統領選挙で敗北した.

1920年代の金融バブルが破裂し,「アメリカ経済が縮小すると,外国から金が流入した.外国は金利を引き上げて金流出を阻止しようとしたから,事実上,不況を輸入した.ドイツとアメリカが始まったデフレは,諸国を競争的なデフレに陥らせ,悪循環となった.」

BLOOMBERG Mar 27, 2012

How the U.S. Became Banker to the Post-War World (Part 3)

By Simon Johnson and James Kwak

1960年,外国が保有するドルはアメリカの金準備額を超えた.」・・・「大統領は多くの目標の間で選択しなければならない.ケネディもそうだった.金準備は重要だが,冷戦はもっと重要だった.彼は軍事支出を増やすことを選んだ.」「成長を維持することも政府の最高の優先目標であった.」

「事実上,世界の銀行であったアメリカは,取り付けに直面した.1971811日,ニクソン大統領はコナリー財務長官の助言を採用して,金の窓を閉じた.ブレトン・ウッズ体制は破棄されたのだ.」

その後も,金で保証されていない通貨を各国は外貨準備として選択的に保有した.金兌換を心配する必要はなくなったのだ.

しかし,新しい世界にはリスクが満ちていた.新興諸国には民間資本が流入し,バブルを生んで,それが破裂した.


The Observer, Sunday 25 March 2012

Toulouse killings: in France or elsewhere, let's not play politics with murder

Nick Cohen


WSJ March 25, 2012

Pyongyang's Latest Ploy

By SUNG-YOON LEE


l  被災地の復興と日本経済

FT March 26, 2012

Japanese economy: A glimmer of growth

By Mure Dickie

仙台市のタクシー運転手に「景気はどうか?」と尋ねると,「結構いいですよ」という答えに驚くかもしれない.

製造業はサプライ・チェーンの回復をほぼ完成したようだ.甚大な被害をこうむった地域では,その瓦礫の処理と再建のために財政支出が始まっている.回復を妨げる電力不足問題は,原発再開の見通しによるが,日銀の新しい姿勢で,デフレが解消されるかもしれない.

日本は14年間も消費財の価格が上昇しない国だった.どれほど優れた消費財も低い価格でしか売れない.ところが震災後の電力不足で,コストが上昇し,価格が引き上げられるようになった.消費者心理が変化するには日銀の姿勢が重要だが,ここでも初めてインフレを1%にするという目標と金融緩和が示された.原油価格の上昇と輸入増大は日本の貿易収支を赤字にして,円高を終わらせた.

こうした日本の持続的回復が疑わしいことは,同時に,財政悪化の懸念を呼んでいる.膨大な海外資産を崩して,ついには外国からの資本流入に頼るようになり,ギリシャやイタリアのように投資家の圧力で苦しい選択を強いられるかもしれない.それを避けようと決意した野田首相の政策が承認されるかどうかはあいまいだ.

その意味でも,日銀がデフレを解消できなかったことの責任は重大だ.そして,仙台市のタクシー会社でも,景気の将来についてはまるで分らない,という.


WSJ March 26, 2012

In the Middle Kingdom's Shadow

By YUKON HUANG

中国の成長だけでなく,その成長がもたらすアジアの変化に注意するべきだ.中国よりも先進的な工業部門を持つ北東アジアは,中国への部品供給を増やして利益を得た.他方,東南アジア諸国は,資源需要などで利益を得たが,次第に中国からの輸入が増えている.中国との賃金比較で優位を得るしかないが,中国は急速に生産性を上昇させており,それに対応するような投資を続けなければ外国投資も集まらない.

最終的には,中国とアジア地域全体が新しい比較優位を見出すだろうが,所得水準の階段は急速に変化していくだろう.


l  Suu Kyiの挑戦

Project Syndicate Mar. 26, 2012

The Lynchpin of Asia

Jaswant Singh

guardian.co.uk, Wednesday 28 March 2012

The Burmese spring is still far from high summer

Timothy Garton Ash

民衆に支持されたAung San Suu KyiはアジアのNelson Mandela Václav Havelになるのだろうか? 囚人から大統領への神話を実現してほしいが,現実には多くの障害が残っており,ビルマ内外の知恵と強固な支持によって取り除かねばならない.

Thein Sein大統領が政治的に果たした役割も重要であった.2007年,サフラン革命の後,軍事政権は水面下で反政府運動と接触し,関係を改善した.中国の強い影響を排除し,ダム建設を中止して,少数民族との武力闘争を和解した.民主国民連盟NLDの候補者が議会下院の選挙された48議席中,47議席で勝利することを許した.

もし4年前に今の事態を予想すれば,それは正気と思われなかっただろう.

しかし,どちらの指導者にも大きなリスクがある.特権を握る軍隊が譲歩するのを拒んだらどうするのか?  Thein Sein大統領の健康問題が伝えられている.またSuu Kyiは,選挙が不正であるとか,操作されたとしたら,どうするのか? 全体で110議席ある中の47議席を占めたにすぎない.次の選挙は2015年である.

この国の経済・社会問題は深刻であるから,その解決の成果は容易に示せない.Suu Kyiは,支持派のいない内陸の首都Naypyidawで軍隊と対決できるのか? そして中国の動向や,インドの影響はどうなるのか? 民主化の組織は,仏教徒の道義的な集団圧力を除けば,まだ非常に弱い.

革命は,まだ始まったばかりです.

FP MARCH 27, 2012

Why Burma Shouldn’t Listen to the IMF

BY RICK ROWDEN

SPIEGEL ONLINE 03/29/2012

Burma's Rebound

The Triumphal Rise of Aung San Suu Kyi

By Thilo Thielke


FT March 27, 2012

Cities must be cool, creative and in control

By Michael Bloomberg


l  石油危機と天然ガス

FT March 27, 2012

Prepare for a new era of oil shocks

By Martin Wolf

WP Friday, March 30, 2012

Natural gas, fueling an economic revolution

By Fareed Zakaria

石油価格がこれほど上昇するとはだれも予想していなかった.しかしアメリカは,技術革新とMitchell Energyのような民間企業の努力で,天然ガスの豊富な国になった.現在の消費水準で75年分の天然ガスを,しかも世界的に見て低コストで供給できる.それはアメリカの製造業にとっても好条件だ.アメリカの景気回復が石油価格上昇で妨げられるリスクも小さいだろう.

天然ガスの時代は地政学的にも重要だ.天然ガスの輸送は難しく,パイプラインを引いた国が供給国の価格を受け入れるしかなかった.ロシアはヨーロッパ諸国に1000立方フィート当たり17ドルを要求している.しかし,アメリカは天然ガスを1000立方フィート当たり2.8ドルで生産できる.そして世界最高の液化技術も持っている.

液化天然ガスの世界市場が形成され,ロシアとヨーロッパの長期契約が終了するとき,モスクワは大幅な収入減を味わうだろう.世界は,少数の国が天然ガスの価格を決める時代から,より分散した市場の時代に移行する.シェール・ガスの埋蔵量は伝統的な資源国と異なる.中国が最大で,アルゼンチン,メキシコ,ポーランド,カナダ,オーストラリアにある.

その政治的帰結はさまざまであろうが,少なくとも,ポーランドはロシア政府の気まぐれに支配されなくなる.


BLOOMBERG Mar 27, 2012

Iraq Can Move Arab States to New Economic Focus

By Meghan L. O’Sullivan


l  BRICS

Global Times | March 27, 2012 19:53

Backing India's BRICS hopes helps whole group's credibility

By Liu Zongyi

WSJ March 28, 2012

China's Boom Unsettles the BRICS

By HARSH V. PANT

guardian.co.uk, Thursday 29 March 2012

Can the Brics create a new world order?

Simon Tisdall

西側は,無能な組織として,あまり関心を示さないが,BRICSBrazil, Russia, India, China and South Africa)が会合した.彼らは世界人口の約半分,世界生産の約5分の1を占め,そして,アメリカが支配する国連やIMF・世銀のような組織が作る既存の世界秩序に反対している.真実はその中間である.

ブラジルのDilma Rousseff大統領は,欧米諸国からの安価な貨幣の「津波」を強く非難した.インドの商務長官であるAnand Sharma は,彼らの目標が”a new global architecture"の構築であると述べた.

しあkし,経済領域の一致点を除けば,BRICSの戦略は互いに矛盾する.中国はアメリカとの2局支配体制を目指す.だから中国は,インドが安保理常任理事国になるのに反対する.

彼らが一致したのは西側の経済政策を批判することだ.西側の過剰な貨幣供給を止め,成長と雇用をもたらす改革を支援する.世銀やアジア開発銀行に対抗するため,南南協力の開発基金を設立する計画を示した.

しかし,彼らが何を重要な戦略的価値とみなすか,地政学的な影響力にも疑問が残る.中国とロシア,中国とインドは深刻な対立を生じている.多くの貧しい小国は,一極世界や二極化した世界より,多極的な世界を望むだろう.

FT March 29, 2012

Brics nations threaten IMF funding

By James Fontanella-Khan in New Delhi

FT March 29, 2012

Loose Brics

(China Daily) 2012-03-29

A bigger role for BRICS


FP MARCH 28, 2012

What It Takes to Be a Great Secretary of State

BY AARON DAVID MILLER


l  アイスランドとアイルランド

FT March 29, 2012

Iceland: Recovery and reconciliation

By Michael Stothard in Reykjavik

アイスランドは,かつて一人当たり所得で世界一裕福な国であった.そのバブルの富がもたらした海に面したHarpaコンサート・ホールが,建築中のまま国に引き継がれ,ようやく完成した.アシュケナージ,ビヨルグ,小野ヨーコが登場し,世界から裕福な観客が集まっている.

最初の建設計画は,2000年代の初め,安価な融資と資産バブルで蓄財したBjorgolfur Gudmundssonが立てた.アイスランドの過剰なレバレッジによる銀行がすべて倒産した.

アイスランドは4年前の金融崩壊から回復した.当時の首相,Geir Haardeは告発されて法廷に立ち,かつて万能の神々であった銀行家たちを裁く最初のケースとなっている.

人口32万人ほどであるが,アイスランドは,世界金融危機で最初に政権が崩壊した国として注目された.主要銀行(Kaupthing, Landsbanki and Glitnir)は,850億ドルの債務とともに,破綻した.GDP10%減少し,失業者が7倍になった.しかし,今は,危機後の回復が早かったモデル・ケースとしても注目されている.

アイスランドは,アイルランドやギリシャと違い,銀行を破たんさせた.そして,国内預金は政府が返済を保証したが,外国の債権者に対する返済は保証しなかった.アイスランドは,100億ドルのIMF融資を受けて,同時に,資本流出規制を行った.アイスランドは,経済破綻に及んだ首相を裁判にかけ,銀行家たちの責任も追及している.

Johanna Sigurdardottir首相は,無思慮な金融家たちの犯罪行為を捜査することが,経済崩壊に対する国民的な和解と治癒をもたらす,と述べた.

Kaupthing 銀行の元重役Hreidar Mar Sigurdssonと社長のSigurdur Einarssonが,詐欺と市場操作で告発されている.破綻当時,アイスランド第二の銀行Landsbankiの部分的な所有者であったThor Bjorgolfssonも,アイスランドで最大の資産家であり,今もロンドンの豪邸に家族と住むが,告発されている.会長であった父のBjorgolfur Guomundssonは,2008年の資産が11億ドルであったが,現在,ゼロとForbes誌は伝える.「ヴァイキングの乗っ取り屋」として有名であったJon Asgeir Johannessonの資産も,10億ドルから200万ドルに減った.Kaupthingの第二の株主Olafur Olafssonと元重役Hreidar Mar Sigurdssonも告発された.

中道左派の連立政権は,破たん処理と景気回復を目指すだけでなく,こうした方針を支持してきた.金融破たんは,水産資源という,アイスランドが持つ自然の豊かさを奪わなかった.2007-08年,アイスランド・クローナがユーロに対して50%減価し,輸出を伸ばした.アイスランド航空の重役Bjorgolfur Johannssonは,旅行者の数が記録的に増大した,という.

残された問題として,国民の購買力が30%も減少し,家計や銀行が過剰な債務を抱えている.国内投資の回復は遅いだろう.資本規制も,危機後の処理に必要であったが,その解除は慎重に検討されている.投資家や国民の政府に対する信頼は大きく損なわれたまま,容易に回復しない.

しかし,漁業と観光から,アイスランドが回復する見通しは確かなものだ.

FT March 29, 2012

Ireland must vote for an end to its humiliation in Europe

By Michael O’Sullivan

531日の国民投票は,われわれが望むヨーロッパと,われわれがヨーロッパと結ぶ関係とを示す機会にしなければならない.

アイルランドは長く苦しい緊縮政策を受け入れてきた.それはヨーロッパの統合が我々の将来の繁栄をもたらすと考えたからだ.しかし,特にユーロ圏の構造的な欠陥は,われわれを助けるより,むしろ苦しめている.我々が望むのは,共通の金融政策がもたらすコストを相殺する,賢明かつ弾力的な財政政策の利用である.

緊縮策が経済を刷新する作業になるのは,それを自国通貨と金利で管理できるときである.しかも近隣諸国の経済が健全で,信用の不足を厳格な政策で補うときだ.1980年代後半のアイルランドがそうだった.他方,主権と金融政策を失い,破綻した銀行システム,家計部門の負担,脆弱な近隣諸国に囲まれた場合,緊縮策は失敗する.最近のアイルランド,スペイン,ギリシャポルトガル,そしてフランスもそうなるだろう.

かつてJ.M.ケインズが『平和の経済的帰結』で述べたように,一つの危機を閉じる行為が,さらに大きな経済的,社会的,政治的な混乱をもたらす種をまく.

ユーロ圏のガバナンスを改善する方法はいくつもある.アメリカ財務省に匹敵する権威を持つ,ユーロ圏の超国家的財務省を置く.ECBにもっと成長を重視する使命を与える.手におえないような国が問題なくユーロ圏を離脱するような信頼できる手続きを定める.ユーロ圏の債務管理とユーロ債の発行を別々の機関に委ねる.

何よりも,緊縮によって成長をもたらすという幻想を捨てることだ.

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The Economist, March th 2012

Chinese politics: The sacking of Bo Xilai

The power of microblogs: Zombie followers and fare re-tweets

Food and Arab spring: Let them eat baklava

Charlemagne: Elected, but how democratic?

Greece’s default: The wait is over

(コメント) 中国政治の頂点と底辺が描かれて興味深い.温家宝は,共産党の権力闘争が民衆を動員する形に及べば「文革の悲劇」がよみがえると警告した.かつて,新朝(AD9-23)の二人の皇帝Wang Mang Guangwuとを比較して,現代の中国政府とインターネットとの関係を考察しています.王朝を表す龍が高山にぶつかって死んだ,という噂を,前者は厳しく取り締まり,後者は地方役人の不満や民衆感情の表現として詳しく研究した,というのです.現代の中国政府も,マイクロ・ブログの流す噂に手を焼いています.厳しく取り締まるだけでなく,官制のマイクロ・ブログを多数立ち上げて,噂を鎮静化するつもりのようです.

アラブ世界は食糧の多くを輸入しています.アラブの春をもたらしたのは食糧価格の高騰,食糧暴動であった,ということが正しい分だけ,革命後の価格も心配です.

EUの民主主義はストラスブールの欧州議会によって解決できない,と記事は批判します.むしろ各国の議会にEU統治への参加を深めさせるべきだ,と.そして,ユーロ圏の安定化が,ようやく,ギリシャ政府債券の大幅な削減を前提した新債券への交換で実現します.むしろ心配は,CDSの支払いが迅速に実行されるか,です.

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IPEの想像力 4/2/12

東北の被災地から帰って,私はすぐに調査旅行の報告を書くことにしました.何を見て,何を考えたか,少なくとも自分のノートと,手に入った資料があるのだから,話を聞くことができた人たちに対して,自分が何かの形で還元することを示そう,と思ったのです.

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なんとか2週間で研究ノートを提出した後,早く講義の準備をしなければならない時期でした.今春は,大学院で教えるIPEの材料に,論文のために準備している4人の開拓者たちの研究を取り上げ,学生たちと話し合おうと思いました.チャールズ・キンドルバーガー,ロバート・ギルピン,リチャード・クーパー,ベンジャミン・コーエン,です.

その序論として,英語圏や日本でIPEがどのように理解・教授されているのか,調べてみたいとも思いました.英書ならいくつかあるわけですが,私の視点から共感できた日本のテキストは,田所昌幸『国際政治経済学』でした.

「はじめに」を読んで,そこに挙げてある三つの例に感銘を受けました.一つは,1967年のポンド切り下げです.為替レートと言えば経済問題です.しかし固定レート制度において切り下げを選択するのは,固定制を守るという約束に対する政治的な信用を失墜する行為であり,蔵相は直ちに辞任しました.しかも,切り下げが効果的に維持されるよう,財政緊縮(国内の失業増)が求められました.さらに,国際通貨ポンドの問題は英連邦諸国の離反をもたらし,イギリスのスエズ以東からの撤退につながった,と.それは,現在のオバマ政権がイラクから撤退し,アジアにおける中国との軍事的均衡を強く意識する状況と重なります.

二つ目の例は,エネルギー問題です.石油価格の変動が,為替レートや金利と並んで,世界景気や主要国の経済を動かす重要な条件の一つになっています.エネルギーの需給にとどまらず,それは国際政治上の地位や勢力バランスにも影響するわけです.

最後に取り上げたのは,「人口問題」,「移民問題」です.日本でも,かつては「過剰人口」が問題になっていた時代があり,移民を輸出していたのです.今では「少子化」や「高齢化」が問題になって,移民の受け入れや自由化が解決策に挙げられます.

この三つの例は,IPEの関心,研究姿勢を示している,と思いました.田所氏のコメントが興味深いです.これらは「ジャーナリズムの世界ではおなじみの題材」です.しかし,IPEは「しばしば自覚することなく前提としている世界観や問題意識[つまり,イデオロギー]を整理し,・・・改めて問い直そうという知的態度です.」 あるいは,こうも書いています.IPEは「『役に立つ』解答を出すことよりも,より長くより広い視野で,・・・より深く現実をとらえようという知的試み」である,と.

たまたま,ブックオフのメールに惹かれて半額セールに立ち寄り,ボブ・ウッドワード『大統領執務室』を買って,これが気に入りました.その内容は,以前何度か称賛したTVドラマ,「ホワイトハウス」を思わせる,大統領に関する人とアイデアの闘争が描かれています.そして,その展開は,しばしば目が覚めるほど秀逸です.

ウッドワードも,この本を「新聞ジャーナリズムと歴史[研究]の中間に位置する」と書いています.私が面白いと感じたのは,歴史が作られていく過程で,それに関わる人たちと思想が示す葛藤でした.それは,必ずしも大統領執務室だから起きていることではないでしょう.

こうして目にした二つの書物がジャーナリズムの視点に注目したように,「今週のReview」に集めたコラムが,私にとってのIPEでした.アイスランドとアイルランドの危機とその対照に感銘を受け,ミャンマーの選挙に立ったスー・チー女史の姿が,ポーランドの民主化を開始した連帯の最初の選挙と重なって見えるのは,決して私だけではないでしょう.ここにある問題意識や,現実を理解したいという願いを真剣に受け止め,IPEは変化・危機を研究する学問なのだと思います.

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入学式に出て,新入生たちに学生証を配った後,彼や彼女たちに何か気の利いたことの一つでも話してみたい,という気持ちがありました.それを中途半端に終わらせた私に対して,厳しい視線を向けたとしたら,あなたこそ正しいのです.どうぞ,被災地について,アイスランドについて,IPEについて,質問に来てください.待ってます.

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