今週のReview
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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最も幸せな人びと、 地政学とエネルギーの重視、 日本衰退の教訓:Wolf, The Economist、 グローバル・インバランス、 中国は衰退するか? アイスランドの債務処理、 ユーロ圏からの離脱、 グーグルの中国離脱、 女性が働く優れた社会
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ただしBG: Boston Globe, CSM: Christian Science Monitor, FEER: Far Eastern Review, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, IHT: International Herald Tribune, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia
NYT January 7, 2010
By NICHOLAS D. KRISTOF
(コメント) 世界で最も幸せな人々が住む国は、どこでしょうか? さまざまな評価で1位になるのは、コスタリカです。
1949年、コスタリカは軍を廃止し、教育に投資することを決めました。中米の他の諸国と異なり、学校が増えて、内戦に苦しむ近隣諸国より経済も発展しました。ジェンダー格差がなくなり、女性たちが生産的に働いています。また環境を保護するために炭素税を早くから導入し、それもエコ・ツーリズムなどで、経済を停滞させるより刺激しました。
コスタリカはアメリカから移民が流入する数少ない国の一つです。退職したアメリカ人が、素晴らしい自然と生活費の安さを求めて、この国に移住します。友人や家族を大切にする文化は社会資本を豊富にし、アメリカの金融資産よりも重要な、「幸福」の要素を提供します。
コスタリカについて、果樹園で検索してください。4件見つかるはずです。他方、アイスランドが危機前には高い評価を得ていましたが。
The Observer, Sunday 10 January 2010
Of course class still matters – it influences everything that we do
Will Hutton
The Times January 11, 2010
Britain should be a workshop, not a casino
Stephen Bayley
(コメント) イートン校のようなプライヴェート・スクールがイギリス社会の富と地位を不当に多く支配しているとしたら、この社会はダイナミックな発展を損なわれるだろう、とWill Huttonは確認します。イギリスはますます病的な、閉ざされた、不公正な社会となって、経済的にも停滞します。
子供の時から、生まれによって受ける言葉による教育と私立学校のシステムは、階級と呼んでもよいような差別された「機会のプール」を子供たちに与えています。イギリスの社会的移動性に関するMilburnのレポートによれば、私立学校で学ぶのは7%の子供だけですが、判事の75%、財務管理者の70%、公務員の45%、そして下院議員の32%を占めています。
Stephen Bayleyは、製造業や職人、物づくりの価値を説きます。
FP JANUARY 7, 2010
A $123 Trillion China? Not Likely.
BY NICHOLAS CONSONERY
(コメント) 2040年に123兆ドルという中国の拡大を予測することは、極端な前提を認めることである、と批判します。
過去の中国の成功を将来も維持するには、政治、経済、環境に関する深刻な課題に応える必要があるけれど、それはほとんど不可能です。根本的な政治・経済改革を避けたまま、製造業が革新を実現し続けるとは思えません。
Asia Times Online, Jan 9, 2010
Obama's Yemeni odyssey targets China
By M K Bhadrakumar
(コメント) 「オバマは愚かにも12月1日のアフガニスタン戦略を忘れ、自分で立てた基準を破ってしまうのか? もちろん、そんなはずはない。オバマは賢い男である。イエメンへの介入は、アメリカの世界的なヘゲモニーを維持するため、オバマが行う最も賢明な作戦になるだろう。すなわち、それは中国の増派に対抗することである。」
イエメンはペルシャ湾の海域を望むアラビア半島の戦略上の重要拠点であり、インド洋の西の端です。中国軍はこの海岸線に軍艦の拠点を探しています。アメリカがイエメンに介入するのは、イラクやアフガニスタンと違います。
M K Bhadrakumarは、オバマがイエメンに介入する目的を三つ指摘します。1.シーア派の復活を牽制する。穏健なスンニー派のアラブ諸国がアラビア半島を支配していますが、北部イエメンではシーア派が強力です。2.イスラエルがイランを攻撃する際に、イエメンは出撃の基地を提供できる。3.最も重要な理由は、アメリカの世界的なヘゲモニーを維持する点で、マラッカ海峡と、スエズ運河に至る紅海の入り口、アデンを支配することが決定的に重要です。逆に、中国がそれを脅かすことは重大な関心事です。
インド洋における中国海軍の圧力は強まっており、インドは懸念を強めています。中国は、マラッカ海峡を封鎖されることを嫌い、中央アジアからパキスタンを経てアラビア湾に至るルートを開拓しようとしています。パキスタン軍・指導部は、アメリカと中国のどちらを取るか、戦略的な選択に直面しています。
こうして、イエメン介入は、アメリカにとってイスラエルやインドとの軍事同盟を強化する行動である、とM K Bhadrakumarは理解します。オバマは自動車を運転しているのではなく、機関車の運転手です。大国間のパワーゲームに関して、オバマが選択できるのは、せいぜいそのスピードであり、軌道ではない、と。
IHT January 9, 2010
Rivals and Partners
By STANLEY A. WEISS
WSJ JANUARY 11, 2010
Avoiding Another Great Game
By ASHOK K. MEHTA
(コメント) インドは中国との対抗関係を次第に強く意識しています。インドの新聞は、中国人の40%が、アメリカに次ぐ脅威としてインドを挙げたことに注目しました。他方、インドのビジネス雑誌は、中国人の60%はインドを脅威と見ていない、と伝えています。
Where does the heart of the relationship between the dragon and the elephant lie?
国境紛争を見るべきか、貿易額を見るべきか? パキスタンとの関係、インド洋における圧力、アジア開発銀行の融資妨害。国際会議における協力関係。・・・今は双方の性質が併存しています。インドの専門家たちは、それを冷静に分析しようと考えます。
ただ、三つの点に注意します。1.中国は世界の多極化を進めつつ、アジアは単独で支配しなければならないと考える。2.インドは中国に包囲されるつもりはない。3.アメリカは、中国ともインドとも友好関係を維持することを目指す。
たとえ安全保障において対立しているように見えても、食糧や環境で、両国が同じ一つの船に乗っていることは明らかです。
ASHOK K. MEHTAは、インド、パキスタン、アフガニスタンの協力による平和を訴えます。彼らには、タリバンという共通の敵があります。
Asia Times Online, Jan 12, 2010
China and a new world economic order
By Henry C K Liu
(コメント) 中国が指導する新しい世界経済秩序は、もう始まっています。アメリカが築いた第二次世界大戦後の秩序、ブレトン・ウッズ体制は、冷戦とドルの支配が失われたことで、その使命を終えました。
Henry C K Liuは、これまでの国際秩序は発展途上諸国を覇権国通貨によって支配し、その交易条件を悪化させて、金融的な依存を強めて来た、と考えます。なぜ中国は生産性を急速に上昇させながら、その労働者たちは貧しいのか? 西側が問題にする中国の貿易黒字や外貨準備の累積は、むしろ中国の労働者の貧困が国内市場を制約することで生じています。
ルイス・モデルに言及していませんが、これは低賃金労働力が豊富に存在する国の二つの側面です。急速な資本蓄積と低価格による輸出の増大。ルイスは、賃金の上昇を農村の生産性上昇や労働力の枯渇で説明しましたが、Henry C K Liuは、ドル支配の終わりに結びつけます。
ヘンリー・フォードと比べて、中国の近代化された生産力も、労働者に高賃金を与えることでしか吸収できない、と。確かに、ヨーロッパや日本はそれを模倣する「収斂グループ」であったかもしれません。しかし、多くの発展途上諸国はそうではありません。新自由主義と呼ばれるような自由市場を押し付ける貿易体制は、しばしば低価格輸出という貿易構造を強制した、と。
中国はそれを変える力を得ました。そのために(あるいは、その結果)、ドルによって投資し続け、アメリカの消費者や政府に融資し続ける体制を離脱しなければならない、と考えます。工業力を実現し、ドルの外貨準備を累積した末に、今や金融危機によって揺らいでいるドルへの世界貿易体制の依存を破棄しようとしています。ドルによる石油市場、ドルによる国際金融センターに代わって、中国市場が中心になります。
世界不況からの回復を指導しつつ、中国は物的・社会的なインフラを整備し、活発な酷な市場に依拠した消費と貯蓄によって成長を維持します。そして中国の(豊かになった)労働者と(増価する)人民元が中心となって再編される「新しい世界経済秩序」は、Henry C K Liuの考えるような理想を掲げて登場するのでしょうか? すなわち
1.無制限な自由市場は国民的発展を妨げる。国益や尊厳を重視した計画によって市場を指導する。2.中国政府は完全雇用と賃金の上昇を目標にする。3.ドルの覇権を離脱し、人民元による貿易や投資にとって成長する。4.国際貿易を、中国の金融センターから他国を支配するのではなく、互いの経済発展に基づくものとする。5.中国はグリーン投資を刺激策として採用し、環境保護と成長を長期的には両立できる。・・・?
The Japan Times: Wednesday, Jan. 13, 2010
Asia's changing dynamics
By BRAHMA CHELLANEY
(コメント) アジアの新しい権力構造をダイナミックに転換するのは、1.中国の積極的な外交政策、2.日本の新しい民主党政権が目指す日米同盟の見直し、3.インドと中国との間の、国境紛争を再発させる可能性もある、厳しい対抗関係、です。
オーストラリアのケヴィン・ラッド首相がインドを訪問し、日本・インド・オーストラリアの安全保障を、民主主義や人権など、共通の価値を唱えて(それゆえ中国に対抗して)、協力関係を強化しました。多くの紛争事項と急速に成長する地域を持つ、軍事費を急増させるアジア地域の分断は、政治的価値を明確にし、次第に顕著な勢力圏争いに向かいます。EUのような安全保障のための地域同盟は、アジアで前提できません。
アジアの将来(そして世界秩序の将来)は、中国、インド、日本の相互関係によって決まります。アメリカ一極のアジア秩序から、中国・インド・日本の多極化した秩序へ、平和的に移行する道はまだ見えません。
FT January 7 2010
A fresh look at liberalism
By Samuel Brittan
(コメント) 市場経済とその政策について、今回の大失敗は根本的な反省をもたらすはずです。経済学を再検討するにはまだ早いと断りながら、Samuel Brittanは「リベラル」(個人の自由を重視する、その意味で、個人の自由を否定するような障害を取り除くことを主張する政治思想)の再定義を試みます。
社会主義者や社会民主主義者がリベラルを批判するのは、それが実質的な意味を持たないからです。十分な食事や働く機会、適当な教育を受けなければ、文明生活を営む上で、人は自由を享受できません。
リベラル派はどう反論するのか?
FT January 13 2010
Intolerance of small crises led to big one
By Jacek Rostowski
(コメント) ポーランドの財務大臣であるJacek Rostowskiは、金融危機をグローバリゼーションの結果ではなく、景気変動を平準化するという「深層ケインズ主義的計画」の結果である、と批判します。すなわち、資産価格の大きな下落はないという意味で、投資家たちの投機を煽ってしまいました。
政策による景気変動の抑制にもモラル・ハザードがある、と主張します。
FP JANUARY 8, 2010
BY RICHARD KATZ
(コメント) 自民党のように無駄な公共工事をしても、民主党のように消費者を助けても、日本経済は容易に立ち直らない。需要側も供給側も対策が必要だ、と。特に、人口が減少するから、生産性を高めなければなりません。
そこで、アメリカはどうやって生産性を引き上げたのか、と考えます。それは、小売業や銀行業など、旧来の産業でも、激しい競争によって生産性を高め、それができない企業を潰す、という過程を実現することでした。
RICHARD KATZは、セーフティー・ネットを用意して、競争を促進する以外に、成長を高める政策はない、と考えます。日本の政治家も、民主党政権になって、農家の個別保障制度を用意し、農産物市場の開放を支持する方向に転換しつつある、とその方針を支持します。
Asia Times Online, Jan 12, 2010
Hatoyama to Nanjing, Hu to Hiroshima?
By Kosuke Takahashi
(コメント) アジアの重要性が高まる中で、2010年の重要な転換点があるとしたら、その一つは日中の和解が進むことだろう、と考えます。
フランスの新聞Le Figaroが伝えた記事に、中国共産党が民主党に鳩山首相の中国訪問を提案した、とあるそうです。それは、鳩山首相が南京大虐殺の記念館を訪問し、中国国民に対して明確に謝罪する。その数ヵ月後に、胡錦濤主席が広島を訪問する、というものです。そして、(中国を含む、すべての核保有国は)核攻撃を始めず、非核国を攻撃せず、核兵器を輸出しない、という非核原則を宣言するのです。
読売新聞、東洋経済、WSJ、などの記事が言及されて、中米日の外交関係が複雑化している背景を読み取れます。
FT January 12 2010
What we can learn from Japan’s decades of trouble
By Martin Wolf
(コメント) 20年前、日本は世界で最も成功した高所得国でした。しかし、20年たって、日本は長期の低迷が続くと考えられています。何を間違ったのか? 日本の新政権は何をなすべきか? われわれは何を学ぶべきか? とMartin Wolfは核心的な問いを発します。
「鉄道システムや食べ物の質から判断すれば、イギリスから日本に来た者は、自分の国が大幅な後進国だと思うだろう。もしこれが衰退であるなら、衰退も大歓迎だ。」
しかし、日本は間違いなく衰退しています。この20年間、日本の平均成長率は1.1%でした。さらに、アンガス・マディソンの推計を引用しています。購買力平価で、日本の一人当たりGDPは、1950年、アメリカの20%でした。それは1991年にピークで85%に達しました。しかし、2006年、72%に落ちました。日経株価指数は、実質で、4分の1に減りました。特に、財政赤字と国債の累積額のGDP比率は、1991年の13%と68%から、2010年には115%と227%になると予測されています。
この説明として、Martin Wolfはリチャード・クーの「バランス・シート・デフレ」に注目します。すなわち、企業も家計もバブル崩壊でバランス・シートが悪化し、もはや返済するだけで、借り入れたくなくなった。だから金融政策や金融理論は役に立たない。民間部門が需要を減らす分、不況を避けるために政府部門が債務を発行して支出を続けるしかなかった。それは、民間部門のバランス・シートが回復するまで続く、と。
それゆえ、クーは財政赤字を攻撃する人々を批判しました。それは激しい不況を意味するからです。それに代わる政策は、輸出を増やすことであり、大幅な円安です。しかし、この政策は中国の人民元レートや、アメリカの保護主義によって、受け入れられなかったでしょう。
Martin Wolfは、クーの議論を批判します。クーは、なぜ民間部門が最初、それほど債務に依存していたのか、なぜグローバル・ショックにそれほど弱かったのか、また、なぜバランス・シートの調整が終わっても企業は投資しないのか、説明していない、と。
その理由は、日本経済の構造に問題があったからだ、と考えます。キャッチ・アップ型の成長が終わったとき、日本は投資機会が不足し、企業に過剰貯蓄が生じたのです。日本はどうしたのか? 1980年代、金融政策でこの貯蓄を吸収しようとした。すなわちゼロ金利と無駄な投資を続けた、とMartin Wolfは批判します。これがバブルの背景だった、というわけです。また、2000年に入ってからは、中国向けの輸出と投資ブームでした。
そのあとで今の世界金融危機が起き、中国向けの輸出が落ち込んで、日本は前例のない大きな景気後退を被りました。G7諸国で最悪の、頂点から底まで、GDPの8.6%が失われた、と指摘します。日本は今、(長く言われ続けてきたように)内需による成長を実現しなければなりません。
それは、Martin Wolfに言わせれば、企業の貯蓄を大幅に減らすことです。すなわち、企業の富を旧経営者から切り離し、市場で再分配させることです。企業行動の変更を求める法案を、民主党政権は用意するでしょう。また、デフレを止めなければなりません。日本銀行は、政府と協力して、円高を抑えなければなりません。今の為替レートであれば、日銀はもっと金融緩和できるはずだ、とMartin Wolfは考えます。
世界は日本の経験から何を学ぶべきか? まず、過剰な生産力とバランス・シートの悪化が生じた経済では、大幅な財政赤字と金融緩和を続けてもインフレが生じる心配はない、ということです。そして、回復には長期間を要するでしょう。これはアメリカの状況です。
また、キャッチ・アップ過程で急速な政党を実現し、企業が貯蓄を増やして固定資本に多くの投資を行っている国が、需要を管理することは非常に難しい、ということです。特に信用の増大と資産価格のバブルが、需要の維持に組み込まれていた場合、内需に転換するのは難しいでしょう。これは中国の状況です。
・・・日本は、世界の不均衡を解明する最良のテキストを書きました。その対策も書くべきです。
Jan. 8 (Bloomberg)
Deficit Reduction and Rebalanced Growth Are Key
Laura Tyson
WSJ JANUARY 11, 2010
Global 'Imbalances' and the Crisis
By DAVID BACKUS AND THOMAS COOLEY
(コメント) アメリカは正しく「日本」というテキストを学んだでしょうか? Laura Tysonは歴史を振り返っています。しかし、その考察は、Martin Wolfとそっくり合致します。そして、アメリカも中国も「日本」から多くを学んだ、ということです。
アメリカは財政再建よりも、当面の雇用を刺激する追加の財政政策を採用するべきでしょう。金融緩和がインフレをもたらす心配もない、と。他方、財政再建を遅らせ、赤字が続くために、むしろ輸出によって刺激を得たいとアメリカは考えます。
世界のバランス回復政策が必要です。すなわち、中国の政策が重要です。中国の財政刺激策は、輸出部門より地方のインフラ投資、消費を刺激する、と考えます。野心的な教育や年金の支出も計画されています。また、人民元の通貨バスケットに対する計画的な切り上げも再開されるでしょう。
こうして、世界危機からの救済を契機に、日本の失敗から学び、米中の国際政策協調(機関車論Uとプラザ合意U)はすでに暗黙裡に進められているわけです。
DAVID BACKUS AND THOMAS COOLEYは、「グローバル・インバランス"global imbalances"」について、資本移動が責められていることに反対します。
国際収支不均衡がある、というだけでなく、かつてはオーストラリアの鉄道やインドに、イギリスから流れた長期資本が、今では豊かな諸国の財政赤字を埋めている、という問題があります。他方、発展途上諸国への資本移動が短期化し、移転しやすくなっています。また、それは中国の外貨準備がアメリカに投資され、金利を以上に低下させていたからだ、と批判されています。
しかし、この論説は、国際収支不均衡が金融危機の原因になったから無くすべきだ(グローバル・リバランス)、という主張に反対します。円滑な融資が行われたことで、世界経済は成長を高めたのであり、今後もドルによる投資・融資がアメリカから開発地域に向かいます。それを抑制することは間違いです。
アメリカが今後も資本移動の中心になる理由をいくつか指摘しています。1.ドルが国際準備通貨である。2.アメリカ国債市場が最大の(深く、流動的な)債券市場だ。3.アメリカの金融制度は他国に対して最も開放的で、友好的だ。4.アメリカの人口は移民流入もあって増加し続ける(ヨーロッパ、日本、インドは高齢化する)。アメリカが将来も長期資本を輸出できる。
SPIEGEL ONLINE 01/12/2010
China's Aggressive Exports: Beijing Economic Policy Rocks the Global Boat
By Wieland Wagner
(コメント) 人民元の減価に対してドイツやユーロ圏の政府・失業者たちは怒っています。輸出産業の大量失業に対して、中国政府は人民元をドルに固定し、ドルとともに減価する政策を取りました。人民元の価値は、2009年、ユーロに対して17%も下落し、ドイツを退けて、中国が世界一の輸出国になりました。そして、中国における輸出産業の雇用は急速に回復しています。
中国は、アメリカやユーロ圏よりも、近隣諸国とも貿易摩擦を強めています。ベトナムを通貨を5%切り下げ、インドはWTOにダンピングだと訴え、インドネシアは保護関税を用意しています。他方、豊かな諸国の企業は中国を生産拠点と使用して輸出しています。人民元の為替レートを批判する声は、今のところ、ありません。
しかし、政府はそうではない、と論説は指摘します。世界の製造業を犠牲にして中国だけが輸出を伸ばすことを、政府は受け入れられないでしょう。また、中国政府も人民元の切上げによる経済改革を目指しています。なぜなら、現在の為替レートを固定する限り、金融政策はアメリカから輸入され、極端な金融緩和とバブルを続けるでしょう。そして、アメリカの金利が上がるとき、バブルが破裂します。
NYT January 13, 2010
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) 中国を「1000個のドバイ」と考えたJames Chanosの売り投機について、THOMAS L. FRIEDMANが取り上げています。香港や台湾の人々(彼らも資産を中国に投資している)と話し合った後で、しかし、中国の指導部には利用できる貯蓄がある、と考えます。そこがアメリカと違うところです。
中国経済には多くの問題がありますが、指導部は問題を解決するために策を練っており、そのために十分な資源を支配しているのです。1979年以来、中国について書かれた多くの悲観論を思い出してみることです。
今の成長モデルが失われることを、中国の指導者は恐れているでしょうか? 中国にはブロード・バンドの利用者が4億人います。中国の若者はますますインターネットと直結し、企業を立ち上げようとしています。そして、中国の企業は賃金や生産コストの上昇する沿海部を捨てて、もっと内陸部へシフトするでしょう。しかし、製造業を失った台湾と違って、中国の成長のエンジンは移動するだけで、中国から外へシフトすることはないのです。
むしろ、ユーロ圏の解体に賭けるべきだ、と書いています。
FP JANUARY/FEBRUARY 2010
Eurabian Follies
BY JUSTIN VAÏSSE
(コメント) ブルッキングズ研究所のJUSTIN VAÏSSEは、愚劣な「ユーラビア」騒ぎを批判します。それは、アラブの脅威を、ソ連崩壊後の冷戦思考に取り入れただけです。ユーラビアとして、宗教的、文化的な不安を煽る者は、その背後にある貧困や差別の問題を軽視・無視しています。
イスラム圏からの移民はヨーロッパを圧倒するほど増加せず、その出生率も急速に低下しています。彼らの多くは新しい土地の文化を取り入れるように努めており、その子供たちがさらに柔軟に対応するでしょう。長期的には、彼らがヨーロッパの一部になります。
FT January 10 2010 The New Old World Review by John Lloyd
(コメント) Perry Andersonの論文集の紹介です。
NYT January 11, 2010 Learning From Europe By PAUL KRUGMAN
FT January 12 2010 Europe: Higher aspirations By Neil MacDonald and Stefan Wagstyl
The Guardian, Wednesday 13 January 2010 Europe can lead on the world stage Carl Bildt
(コメント) アメリカの保守派はオバマの目指す社会保障制度を批判するために、ヨーロッパの失敗を例にしてきました。しかしPAUL KRUGMANは、ヨーロッパは成功したのだ、と主張します。経済が成長し、民主主義が機能している。実際、アメリカ人がヨーロッパの都市を訪れるなら、アメリカのような貧しい者や荒廃した地区を見るだろうか?
1980年以来の成長率を見て、アメリカ(3%)の方がヨーロッパ(2.2%)よりも成長率が高いことを自慢する前に、人口増加率を見るべきだ。それを考慮すれば、ヨーロッパの方が高いだろう。技術も、雇用も、ヨーロッパは優れている。その事実を全く逆の見方で論争するのは、アメリカがイデオロギー的に分断されているからだ。
ヨーロッパにおいては、社会正義と進歩とが両立している、とPAUL KRUGMANは(オバマ政権に改革を求めて)訴えます。
スウェーデンの外務大臣であるCarl Bildtは、リスボン条約にしたがってヨーロッパ諸国が外交政策をプールすることに、グローバル・ガバナンスの前進を見ます。協力と統合化はEUのDNAである、と。
The Guardian, Friday 8 January 2010
Ann Pettifor
FT January 10 2010
Iceland would benefit from paying up
By Risto Penttilä
FT January 10 2010
The Icesave deal is unfair and unreasonable
By Magnús Árni Skúlason
(コメント) Ann Pettiforは、アイスランドが請求された支払いは不公正であると考えます。なぜなら、イギリスにも共同責任があるからです。アイスランドの金融機関が活動し、基盤としていたのはロンドンです。また、イギリス王立経済学会のR. Portes教授は、2007年の報告書でアイスランドの金融システムや銀行の健全性を称賛していました。今では、それが大きな間違いであったことは明らかです。
それにもかかわらず、イギリスの民間投資がアイスセーブで失った額を一人当たりにすれば36ポンドでしかないのに、アイスランドに一人当たり6800ポンドも支払うように強制するのでしょうか?
Risto Penttiläは、フィンランドの例を挙げて、アイスランドが債務を返済するように勧めます。すなわち、フィンランドは2度の危機を乗り越えたのです。最初は、第1次大戦中のアメリカに対する債務を支払ったときです。1917年に独立したフィンランドは、内戦で多大の犠牲者を出し、さらに、魚と木材をロシア帝国内に輸出して債務を支払っていました。しかし、独立によって、ソ連は輸入を拒みました。フィンランドはそれでも契約を交わして、債務の支払いを続けた、と。
それは、フィンランドの信用を高めました。1939年にスターリンがフィンランドを攻撃し、多くの支援が届くようになりました。そして英米やスウェーデンの新聞が、唯一、第1次大戦の債務を支払った国として報道します。戦後、領土交渉は有利になりました。
また、1990年にソ連が崩壊したとき、フィンランドは貿易の20%を失い、銀行破綻と20%の失業率に苦しみます。しかし、銀行は融資を継続したのです。
Magnús Árni Skúlasonも、アイスランド国民会議The Althingが認めた条件付きの支払いに、イギリスとオランダの政府が応じないことを批判します。アイスランドの銀行が行った投機的な行為を取り締まるべきでしたが、それに失敗したのはバーナンキも同じです。金融監督においては、アイスランドだけでなく、イギリスやオランダにも責任があります。
アイスランド経済の状態に配慮する、という付帯条件は正当なものです。それはイギリスやオランダも参加した財務大臣の閣僚会議で合意されたものです。またイギリス政府は、その反テロ法を利用した「砲艦外交」がアイスランドに与えた損害を知るべきです。
FP JANUARY 11, 2010
The Many Ants of Iceland
BY ALTHEA LEGASPI
(コメント) ALTHEA LEGASPIは、アイスランドの国民会議The Althingの様子を伝えています。国民の0.5%、ランダムに選ばれた1500人が会議によって国民の将来を再生する重要な価値を決めます。これはテレコム起業家でレイキャビク大学の教授でもあるGudjon Gudjonssonが、シンクタンクHouse of Ideasを動かして企画しました。
具体的な政策や解決案が決められるわけではありません。しかし、「アイスランドの人口はGEと同じ規模だ」とGudjonssonは応えます。そして、金融機関によって破壊された経済の一部になり、受身であるよりも、国民の一人ひとりが解決策の一部であると知ってほしかった、と主張します。
Asia Times Online, Jan 13, 2010 Iceland points to the future By Julian Delasantellis
SPIEGEL ONLINE 01/13/2010 Crippled by Debt: Iceland Needs Debt Management, Not 'Macho Posturing' Sweder van Wijnbergen
SPIEGEL ONLINE 01/13/2010 Rebooting Iceland: What Comes Next for the Crisis-Stricken Country? By Hauke Goos
(コメント) アイスランドの大統領があえて署名を拒否し、(GDPの40%に及ぶ)債務の支払いを拒んだとき、オランダのテレビ放送で、Wouter Bos財務大臣はEU加盟申請やIMF融資を止めると脅しました。
しかし、オランダの経済学者、Sweder van Wijnbergenは考えます。財務大臣は預金者個人のために責任を負うものではない。オランダの金融秩序の安定性を維持することに責任がある。アイスセーブの破綻は金融秩序の安定性を損なうような問題ではないのです。それにもかかわらず、預金を取り戻すために、法的な根拠も明確でないことで、懲罰行動を取って返済を強いるのか?
さらに、1980年代の第三世界の債務危機について、ブレディー・プランでは、GDPの60%に達したメキシコの債務を減額し、証券化しました。また、GDPの10倍もの債務を負ったニカラグアは、当然、それを返済できませんでした。アイスランドも同様です。
メキシコは、債務の40%を減額して、その後、資本が流入し、残りを返済できます。もし巨額の債務を負って、それを返済しなければならないとすれば、増税(そして政府支出を削減)するしかありません。それは投資を減らし、不況をもたらし、さらに財政赤字と債務を増やすでしょう。こうした悪循環の中で、経済停滞が長期にわたって続くのです。これを「債務の過剰"debt overhang"」と呼びます。
それゆえ債権者は協力して、イギリスとオランダの行動を許さず、アイスランドの債務を減額するべきです。スウェーデンがその役割を期待されます。また、IMF融資を政治的に利用してはなりません。他方、アイスランドは銀行を売却し、その債務を明確にします。そして、成長を回復しつつ、返済できる額を明確にし、厳格な財政措置によって問題が再発しないことを債権者に認めてもらいます。
力でねじ伏せるより、こうした合意を得るほうが、はるかに効果的に返済を促せるでしょう。
FT January 14 2010
How the Icelandic saga should end
By Martin Wolf
(コメント) Martin Wolfも、債務の返済は求めるべきではない、と考えます。債務の返済には上限がある、と考えるようになったから、有限責任の考え方や債務者監獄の廃止が可能になりました。民間銀行の債務を政府が保証しなければならない、もし足りなくなれば、国民に増税すべきだ、という主張は受け入れられません。
実際、イギリス政府もアイスランドへの低利融資を前提に返済を求めています。しかし、そうであれば、債務を減免した方がよいのです。近隣諸国の友好関係を保ち、金融システムの健全性を回復します。ただし、銀行の海外における債務を、本国政府が保証する、という約束だけは信用してはいけない、ということです。
NYT January 8, 2010
Bubbles and the Banks
By PAUL KRUGMAN
FT January 12 2010
Why Obama must take on Wall Street
By Robert Reich
(コメント) PAUL KRUGMANは、今こそ、金融規制の改革を求めています。また、レバレッジを抑制し、影のバンキングを規制することです。それができないとき、銀行批判のポピュリズムに乗って、次の選挙で共和党が民主党から票を奪います。
Robert Reichも、危機以後、真剣な改革の少なさに注意します。政府に救済され、連銀の低利融資を受けて、大銀行はますます巨大化し、大きな利益を挙げています。金融危機のせいで、多くのアメリカ人が住宅を失い、製造業では今も失業が増え続けているのに、銀行家たちには巨額のボーナスが支給されます。
議会は本気で改革しようとしてません。彼らの用意する改革法案は、むしろ将来の銀行救済を約束するためのものです。たとえば、アメリカの破産法は住宅保有者の破産を認めません。債務を返済可能な水準に減額することもありません。それは銀行業界が最も強く嫌うからです。また、議会は商業銀行と投資銀行との分離を強制する法案を準備していません。かつてグラス=スティーガル法が行っていたことです。また、だれも大き過ぎて潰せなくなった銀行をダンピングで告訴し、分割しようとしません。
大統領と議会が、もっと銀行業の誤りを正すために国民に説明しなければ、銀行家たちのロビー活動と献金の圧力は圧倒的です。それは大統領の約束にもかかわらず、言葉を圧倒してしまいます。銀行家たちは「太った猫」と呼ばれ、大統領にボーナス支給を批判されたとき、強いショックを受けた、と述べ、ロビーストたちを動員して改革法案を潰しました。
政治を麻痺させるような彼らの介入は間違っています。銀行ビジネスと実体経済との乖離は広がって、その感情の相違は危険なほどに高まっています。二大政党のアメリカ政治に憤慨するポピュリストの声は、たとえば、ラジオを聴けば、サラ・ペイリンとその相棒の放送にあふれています。
IHT January 11, 2010 U.S. Bankers Are Fed Up With British Regulations By LANDON THOMAS Jr.
Project Syndicate, 2009-12-29 The Fairness of Financial Rescue J. Bradford DeLong
NYT January 13, 2010 Tax Them Both
The Times January 14, 2010 Bankers are just bonus-snaffling Marxists Anatole Kaletsky
BBC, Thursday, 14 January 2010 Obama's bigger rod for banks Robert Peston
(コメント) 銀行家たちのボーナスに課税するべきだ、とNYTは政府を支持します。それが効果的であるように、大西洋の両岸で、イギリスやフランスとも協力して課税することです。そして、G20やIMFの合意により、将来の金融救済にも民間部門が救済費用を負担するルールを明確にすることでしょう。
Anatole Kaletskyは、銀行はその存続を政府・中央銀行の保証に頼っており、かつてのユーゴスラビアにおける労働組合のように、銀行と政府は利益を共有している、と述べています。だから、救済のコストを銀行家のボーナスにも課税することは正当化される、と。
Asia Times Online, Jan 9, 2010
Reds ready to rumble in Thailand
By Nelson Rand and Chandler Vandergrift
FT January 13 2010
Thailand: Faded smiles
By David Pilling and Tim Johnston
(コメント) 亡命したタクシンと高齢のプミポン国王を含む、タイの社会・政治対立が激化したまま、解決策が見えません。その背景をFTが分析しています。バンコクの伝統的なビジネス階級による政治家との癒着が、国民の利益を軽視し、民主的な形で意見を聞かなかったことが、タクシンのポピュリスト的な政策と制度改革に大きな力を与え、これが旧勢力に強く嫌われたわけです。高齢のプミポン国王が道徳的な権威を失い、さらには亡くなったときに、タイの政治改革が激しい騒乱を再現する、と人びとは恐れています。
FP JANUARY 11, 2010
Four More Years of Bernanke? No, Thanks.
BY JAMES KWAK
WSJ JANUARY 10, 2010
The Fed and the Crisis: A Reply to Ben Bernanke
By JOHN B. TAYLOR
(コメント) 世界で最も影響力のある人物になりましたが、だからと言って、バーナンキの再任を多くの人が支持するわけではないのです。さまざまな不信任の理由が書いてあります。
JOHN B. TAYLORは、テイラー・ルールの視点で金融政策を批判します。
The Guardian, Monday 11 January 2010
China in a mood to punish Britain
Simon Tisdall
(コメント) イギリス人Akmal Shaikhの処刑をめぐる英中関係の悪化について。イギリス外務省は、人類の基本的な権利を重視するように求め、中国政府は国家主権を損なうイギリスの発言に強く反発します。
FT January 11 2010
Why Greece will have to leave the eurozone
By Desmond Lachman
(コメント) Desmond Lachmanは、ギリシャがユーロを離脱し、デフォルトと切下げを選択するしかない、と考えます。それは、アルゼンチンが2001年に経験したことです。
最初、金融政策の規律とその信頼を輸入するために、本当はふさわしくない通貨と為替レートを固定します。アルゼンチンは、1991年、ハイパーインフレーションを止めるためにドルと固定しました。ギリシャは、ユーロの誕生時に基準を満たせなかったけれど、その後、予算の統計をごまかして2001年にユーロに参加します。この通貨同盟には離脱の選択肢がありません。
しかし、その後もギリシャ政府はユーロ圏の合意された基準を守りません。予算赤字をGDP比3%まで、国債残高をGDP比60%まで、と決めたルールですが、ギリシャは2010年、12.7%と120%になりそうです。この膨張する財政赤字と輸入の増加が、ユーロ圏の政策と矛盾し、離脱に向かうでしょう。なぜなら、高賃金とインフレがギリシャの競争力を失わせたからです。
対外赤字を融資するのは、アルゼンチンの場合、IMFでしたが、ギリシャにはECBが融資します。ただし、その条件は、財政赤字の削減です。アルゼンチンは不況を2年続けて、固定レートを放棄し、デフォルトしました。ギリシャも、競争力を回復するためには不況を続けて賃金と物価を下げるしかないでしょう。
避けられない過程であれば、遅らせるよりも、むしろ早く離脱する方が良い、と。
The Times January 13, 2010
Ignore the doom-mongers. The euro’s end is not nigh
Oliver Kamm
Asia Times Online, Jan 14, 2010
Things fall apart in eurozone
By John Browne
(コメント) Oliver Kammは、ギリシャがユーロを離脱するメリットなどない、と主張します。アイケングリーンがレポートで示したように、ユーロ建債務の多い国が離脱して独自通貨の価値が大きく下がると、その返済負担が急増するのです。また、ギリシャを例にユーロを拒むイギリスの論者は、単一通貨によるコスト比較(競争促進)のメリットを考えるべきだ、と。
FT January 14 2010
Europe cannot afford a Greek default
By Simon Tilford
(コメント) Simon Tilfordは、ギリシャを離脱させることはない、と考えます。カリフォルニアがドルから離脱しないように、ギリシャもユーロ圏を維持できます。ただし、ユーロ圏内の他の諸国が支援する必要があるのです。ギリシャに憤慨するのは当然だけれど、財政赤字を削るだけではデフレが続き、投資家は不安を強めます。それは失業や社会不安を生じ、政治を崩壊させる危険があります。通貨同盟の内部でギリシャのような問題は必ず起きることだ。だからこれを解決する方策を決めておかねばならない、と。
ギリシャがデフォルトになれば、ユーロ圏も大きな被害を受けます。なぜなら金融市場がユーロ解体を予想して、ユーロ圏内の不況に苦しむ諸国、スペイン、アイルランド、ポルトガル、から資本を引き揚げるからです。金利が上昇し、財政赤字はますます増えて、財政危機と不況が深まるでしょう。財政赤字の削減に取り組むのは当然です。
他方、ドイツがこうした諸国に自国のやり方を押し付けるのは間違いです。ギリシャが同じように財政黒字を出して需要を削っても、その分どこかで需要が追加されねば経常収支は黒字になりません。ユーロ圏内の赤字と黒字は相殺します。むしろ、圏外に輸出ができなければ、域内の需要不足と不況を強めるだけです。
ユーロ圏内の赤字・黒字を制限するには、財政的な移転を認めること、すなわち政治同盟だ、とSimon Tilfordは主張します。
FT January 11 2010
A pipeline to prosperity in Afghanistan
Rob Sobhani
(コメント) 中国とトルクメニスタンとをつなぐ、全長1833キロの天然ガス・パイプラインが正式に始まりました。それが成功すれば、カスピ海から出るパイプラインがアゼルバイジャンを解放するように、中央アジアを支配するロシアのパイプラインからトルクメニスタンが独立する地政学的な大転換です。
Rob Sobhaniは、このパイプラインがオバマ政権のアフガニスタン復興にも大いに有益であると主張します。トルクメニスタンから、アフガニスタンを経由してパキスタン、さらにはインドにいたるパイプラインを敷設すれば、アフガニスタンには雇用と安定した財政収入がもたらされます。また、アフガニスタン兵士たちが戦意を高揚させるでしょう。
もちろん、この計画を「地獄から出て、地獄を経由し、地獄に至る計画だ」と批判する者もいます。しかし、Rob Sobhaniは、石油・天然ガスのパイプラインがそれに関わるすべての国にとって共通の財産になる、と主張します。それは地域の安定化に貢献するでしょう。アフガニスタンを経由するパイプラインは、エネルギーの不足に苦しむ南アジア経済を、エネルギーが豊富な中央アジアに結びつけます。
この計画を実現するには指導力が欠かせません。すなわち、オバマが軍事的、外交的な支援を行うだけでなく、関係諸国の指導者をホワイトハウスに招いて、この計画を全面的に保証し、投資家や地域の協力を得るのです。アフガニスタンの山岳少数部族やタリバンも例外ではありません。
パイプラインの成功は、安全の確保にかかっています。この点で、同様の問題を解決したカスピ海からトルコ、地中海に向かうBaku-Tbilisi-Ceyhanパイプラインから学んで、地中に敷設するでしょう。またアメリカ政府はその輸出入銀行による融資やエネルギー企業の投資を促すでしょう。パキスタンとインドは、アフガニスタンをめぐって争うことをやめ、アフガニスタンの人びとは現体制の維持を望み、西側がアフガニスタン復興に本気で取り組むと信用するのです。
The Guardian, Tuesday 12 January 2010
We need new energy governance
Ann Florini
(コメント) 世界が必要としているエネルギーの管理体制はまだ遠い目標です。1.世界のエネルギーに関する課題は、温暖化ガスの排出を減らし、化石燃料への依存から離脱する。2.エネルギー獲得への世界的な競争激化は新しい地政学的な衝突を予感させる。3.世界経済の不安定性はエネルギー価格の不安定性と連動している。4.経済発展はエネルギー不足の克服にかかっているが、他方でまだ、基本的なエネルギーも供給されていない人々が16億人もいる。
こうした問題の解決には、エネルギーの確保、その利用、配分に関するグローバルな意思決定と協力が必要です。その課題に応えるには、1970年代のOPECによる石油価格引き上げに対抗して裕福な消費国(OECD)が作ったIEAでは不十分です。その後の消費大国、中国やインドも含みません。経済紛争や環境破壊を回避したいなら、私たちは環境のグローバルな管理体制が必要です。
FT January 13 2010 Google stands up to China’s censors
BBC, Wednesday, 13 January 2010 Google's puzzling logic Robert Peston
FP Wednesday, January 13, 2010 Doubting the sincerity of Google's threat By Evgeny Morozov
FP JANUARY 13, 2010 Do No Evil BY YANG JIANLI
The Guardian, Wednesday 13 January 2010 Google prompts soul-searching in China Xiao Qiang
The Guardian, Wednesday 13 January 2010 China's cyberwar goes beyond Google Tim Stevens
(コメント) 中国政府のインターネット検閲に協力しなければならないこと、中国の警察や特殊な民間団体による知的財産や個人情報の窃盗・略取、あるいは、閲覧を妨害し、検索を麻痺させるような攻撃、安全保障に関わるサイバー・ウォー、など、西側の政府や企業には不安があります。ついにグーグルは、中国の秘密警察による人権活動家の捜査にGメールなどが不正にアクセスされている、と批判し、中国からの撤退を示唆した、ということです。
すばらしい人権と民主主義への貢献だ、グーグルの姿勢に、他のインターネット企業や団体も追随するべきだ、と称賛されています。あるいは、これは中国市場において検索エンジン利用の1位になれないことから思いついた、グーグルの宣伝用社会・政治アピールなのでしょうか? グーグルの株主は、本気で、中国市場からの撤退を認めるでしょうか?
WSJ JANUARY 13, 2010 Clash on the Great Firewall
WSJ JANUARY 13, 2010 The China Calculation By JOSEPH STERNBERG
WSJ JANUARY 13, 2010 Google Gets On the Right Side of History By REBECCA MACKINNON
WP Thursday, January 14, 2010 Google vs. China
NYT January 14, 2010 Google’s Threat Echoed Everywhere, Except China By ANDREW JACOBS, MIGUEL HELFT and JOHN MARKOFF
IHT January 14, 2010 Foreign Companies Resent China’s Rules By KEITH BRADSHER and DAVID BARBOZA
IHT January 14, 2010 Google Exit Threatens Chinese Internet, Analysts Say By DAVID BARBOZA
The Times January 14, 2010 Google was right to do a deal with Beijing George Walden
The Times January 14, 2010 Authority against liberty
Jan. 14 (Bloomberg) ‘Don’t-Be-Evil’ Guys Tell China to Google This William Pesek
The Guardian, Thursday 14 January 2010 Great firewall of China: A colossal folly
SPIEGEL ONLINE 01/14/2010 The World from Berlin: What Are Google's Real Motives in China?
WSJ JANUARY 14, 2010 Clash on the Great Firewall
(コメント) 外国企業の活動がWTOの共通のルールによって平等に扱われているか、また、WTOのルールの下でも希少生物や文化的な価値を保護することは認められるか、今後も議論されるでしょう。インターネットの閲覧やメール交換の中身が、知的所有権やプライヴァシーとして十分に保護されているか、これも議論されるでしょう。
「中国のテレビ番組が、インターネット中毒をやめさせるために、それを『人民の電子的アヘン』と呼んだことは、マルクスの宗教批判とアヘン戦争とを合わせて、批判の効果を高める点で見事なやり方だ。」とGeorge Waldenが書いています。
安定した秩序を損なう恐れのあるダライ・ラマや天安門事件の民主化運動・人権活動家を弾圧する中国政府と、ロシアからアメリカに来て成功した、Googleの創設者、セルゲイ・ブリンの思想が注目を集めます。あるいは、むしろインターネットの世界覆うGoogkeの情報独占とその莫大な利益・資本を恐れるべきでしょうか? 中国語が消える心配は(まだ)ないでしょうが、情報の格差や優位、より少数の者が使う地方言語は生存の危機にさらされています。
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The Economist January 2nd 2010
Wome in the workforce: Female power
Climate change: Planet B
Japan’s two lost decades: An end to the Japanese lesson
Deflation in Japan: To lose one decade may be misfortune
Harsh justice in China: Don’t mess with us
Emerging markets and recession: Counting their blessings
East Africa’s common market: It really may happen
Agriculture and climate change: Why farms may be the new forests
Buttonwood: Paying the price
Mobile-phone culture: The Apparatgeist calls
(コメント) 女性が労働力の半分以上を占める時代が来た、という宣言です。機械化され、コンピューターが導入された結果、体・筋肉が強いよりも、知能・技能が高くて忍耐強いことが、現代の労働市場では求められます。ただし、大せいではなく女性が子供を産むのであって、彼女たちが労働市場で十分に両方の能力を発揮できない社会は停滞し、衰退する、という議論が支持されています。もちろん、日本はこの社会的能力を大幅に欠いています。
気候変動の国際会議がその組織や方針を転換し、もっと成果を期待できるものに変わるだろう、と記事は期待しています。それと一緒に、農業こそが重視され、グローバルな支援体制によってアフリカや貧しい地域が農業地帯として富を形成し始めるかもしれません。同じEACでも、東アジア共同体は迷走したままですが、東アフリカ共同市場は躍進も期待できます。
日本の衰退の20年をどう学ぶか、再び論争テーマになっています。もちろん、欧米金融危機の反面教師になったわけです。しかし、The Economistの解説は浅薄で、失望しました。デフレになって、投資意欲を失い、銀行の不良資産や企業の整理を行わず、金融の超緩和、財政赤字で不況の深刻化を回避し続け、正規労働者は低賃金の派遣労働者に代えられ、増税や円高、輸出市場の景気悪化で繰り返し回復を挫かれたまま、子供を減らし、老人たちの貯蓄を頼りに暮らすしかない。
他方、新興市場経済が適切な政策を選択して、その力強い成長を早期に回復し、旧中枢諸国の財政赤字と長期停滞から離れて、自分たちの成長経路を進みつつあるようです。その全体像を描く点で、Buttonwoodの短評はなかなか秀逸だな、と思います。結果的に、選挙政治では右派が勝利しますが、街頭では左派の反体制運動が激しくなるだろう、と予想します。