今週のReview
11/30-12/5
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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ガバナンス:1.デトロイト、2.ヨーロッパ大統領、3.中国対US、4.日本、5.資本規制、6.環境、7.メキシコ対ブラジル、 オバマ外交、 アジア・バブル、 人民元の国際化、 極右
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ただしBG: Boston Globe, CSM: Christian Science Monitor, FEER: Far Eastern Review, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, IHT: International Herald Tribune, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia
NYT November 19, 2009
The Wrong Side of History
By NICHOLAS D. KRISTOF
NYT November 21, 2009
An American Catastrophe
By BOB HERBERT
The Guardian, Monday 23 November 2009
America's broken politics
Jeffrey Sachs
(コメント) 歴史を振り返るなら、医療保険制度は正しい選択であるとわかるだろう。しかし、その制度が導入されるときは、今と同じような反対の声があった。「社会主義」、「増税と同じように雇用を減らす」、と彼らは反対した。・・・誰が歴史によって裁かれるのか?
BOB HERBERTが取り上げるのは地域・産業政策です。「多くの点で、それはゴースト・タウンだ。不気味に静まり返っている。真昼間に車で走っても、かつてはこの星で最も生産的であった都市に、走っている車はなく、商業活動もなく、歩行者さえいない。」
閉じられたオフィスや商店、朽ち果てたホテル、アパート、住宅。廃墟と崩壊の景観が胸を打つ。「まだ90万人の人々が暮らすアメリカの主要都市であるはずだが、戦後のベルリンや、古代文明の遺跡を見るようだ。」
・・・デトロイトは、第二次世界大戦における民主主義の兵器庫であり、アメリカ中産階級の揺籃の地であった。世界に大量生産方式を広め、デリバティブではなく、自動車やトラック、形のある製品を輸出していた。人びとに職場を与え、まともな賃金を支払うという、アメリカ的な発想の神髄が形成された都市だ。
デトロイトはなぜ衰退したのか? 1967年に暴動があった。政治が混乱し、無能で腐敗した権力者が多かった。しかも、自動車産業は時代の変化に遅れ、自滅してしまった。・・・それらの理由を挙げるとしても、BOB HERBERTはアメリカ政府と企業が取った政策こそ決定的であった、と主張します。都市暴動より、1980年代初め(レーガン政権)の不況こそがデトロイトを破壊したのです。それはアメリカ経済全体に影響を及ぼしました。
過去30年か40年の間、経済を支配した考え方が、金融詐欺師と同様に、中身のない繁栄を称賛してきました。技術進歩であれ、グローバリゼーションであれ、古い職場が失われて新しい仕事が必要なときに、経済はそれを提供できなかったのです。複雑な金融商品を売ることで繁栄できると信じて、多くのアメリカ人家族を支えてきた製造業の基盤をアメリカは放棄しました。
Highland Park工場の跡地には、ミシガン州歴史委員会の記念碑があるそうです。「ここでヘンリー・フォードが組み立てラインによる自動車の大量生産を始めた。1915年までに、100万台のT型フォードが生産された。1925年には、1日に9000台を生産した。大量生産はここからアメリカのすべての産業に広まり、20世紀の豊かな生活をもたらした。」
アメリカの家族がこの先豊かに暮らすためには、新しい産業の全体が興るような産業政策が必要だ、とHERBERTは考えます。
他方でJeffrey Sachsは、「アメリカのガバナンス危機は史上最悪であり、しかも、今後それがさらに悪化するだろう」と書いています。
医療保険制度、気候変動、金融システム改革、など、オバマの改革方針がいずれも行き詰まっています。オバマ個人は高い支持を得ており、民主党が上下両院で多数を占めているのに、アメリカのイデオロギー対立は悪化するばかりです。Sachsは、こうした対立の背後に、アメリカ社会の分裂、両極化を見ます。
貧富の格差、エスニック集団、信仰、移民、その他、さまざまな社会対立が深まっています。アメリカの政治は極右の政治集団に占拠され、さまざまな異なる集団間の「ゼロ・サム・ゲーム」が強調されます。
政治はロビー活動による政策の取引に終始し、ウォール街、自動車業界、保険産業、軍需産業、不動産業など、巨額の政治資金を使って、国民の手が届かないところで政策を決めてしまいます。予算編成は麻痺し、財政赤字が膨らむ中でも、国民は増税を強く嫌います。それは政府の公的な機能を破壊し、ますます税金を支払うことに反発を感じさせます。
慢性的な財政赤字と債務を免れるには、ヨーロッパ諸国のような付加価値税が必要です。また、イラクやアフガニスタンの軍事目標・駐留規模を見直す必要があります。オバマは改革の緊急性を国民に理解させて、ガバナンスを回復しなければなりません。
CSM November 19, 2009 Welcome, to Mr. and Ms. Europe
BBC, Friday, 20 November 2009 EU back to the future? Gavin Hewitt
(コメント) リスボン条約によるEUのガバナンス改善が実った大統領と外交代表ですが、選ばれたのはベルギー首相のファン・ロンパイHerman Van Rompuyとイギリス人のアシュトンCatherine Ashtonでした。・・・トニー・ブレアではなく。
6カ月おきに交代する欧州委員会の委員長ではなく、恒久的な大統領と、EUの外交政策を代表する人物が決まることは、東欧からの加盟国が増えてEUの方針が見えにくくなった状況を整理するのに役立つ、と期待されます。
この人選は、加盟諸国の首脳たちがどのような意味で選択したかを示しています。彼らは自分たちの政治的影響力を失うことなく、(国際政治で影響力を示す人物より)合意形成に長けた人物を選びました。ヨーロッパが、その経済力に見合った政治・外交的影響力を発揮するには、統一した方針が必要です。全会一致を前提とした27カ国の外交には限界がありました。
この人選を仕切ったのはフランスのサルコジ大統領とドイツのメルケル首相です。ファン・ロンパイはヨーロッパの合意を重視する人物であり、最も反対の少ない選択であった、と言われます。逆に、もしブレアが大統領になれば、EU内の(彼らの)政治力学が壊れてしまう、と嫌ったようです。ゴードン・ブラウンもブレアをあきらめました。アシュトンを外交代表にできるなら、それは悪い取引ではなかった、とBBCの記事は評価します。
スウェーデンの新聞も示したように、ヨーロッパ大統領の条件は、ブレアに適当でないような性格へと再定義されてしまいました。ファン・ロンパイは、もちろん、ヨーロッパ国家を目指す政治指導者ではないでしょう。
The Guardian, Friday 20 November 2009 A great EU stitch-up that demeans democracy John Palmer
The Guardian, Friday 20 November 2009 Ashton underlines EU's significant moment John Palmer
The Guardian, Friday 20 November 2009 Herman Van who? Sholto Byrnes
The Guardian, Friday 20 November 2009 European Union: Fading presidential ambitions
SPIEGEL ONLINE 11/20/2009 Who is Van Rompuy? By Jeroen van der Kris in Brussels
(コメント) ファン・ロンパイなんて知らない? President Hu sits down with President Who? 誰がそんな大統領に会ってくれるのか? ブレアは断然優位になるはずだけれど、イラク戦争を決断し、ヨーロッパの統一を破壊した人物です。イギリスは、ヨーロッパの共通通貨も、共通の国境管理も、受け入れません。この選考によってフランスとドイツは、EUが加盟諸国の連合であって、政治統一を目指すものではないことを明確にしました。
ファン・ロンパイは、俳句とビートルズが好きなベルギー首相です。とはいえ、ベルギーの首相になったことも意外なことであり、そのベルギー自体が言語対立で分裂の危機にあります。「私は内気過ぎるから、とてもその仕事は務まらない」と言っていたそうです。その政治生命とは、「相互理解」にあった、と述べています。「対話、統一、そして、行動。」
FT November 20 2009 Europe risking irrelevance as world moves on By Tony Barber
FT November 22 2009 Van Rompuy is the right man for the job By Wolfgang Münchau
(コメント) 「国際政治には、4頭か5頭のヒョウがおり、さまざまな蛇がおり、一群のサル、そしてジャングルの地を這う無数のアリがいる。EUはその群衆、温厚で多頭の、ヒドラのような怪物から抜け出そうとしたようだ。」
この人選が意味することを、世界は誤解する余地もないでしょう。EUの誰が権力を握っているにせよ、ファン・ロンパイがヨーロッパ大統領として、オバマや胡錦濤と話し合える資格はありません。それはヨーロッパ議会の多数派である中道右派と中道左派のグループが好み、各国政府の力を弱めない候補でした。
EUは、スター政治家を指名して、グローバルな指導力を発揮する機会を逃したのか? そうではない、とWolfgang Münchauは考えます。
ヨーロッパが次の10年に直面する課題は、ブレアのような政治家が解決する問題ではなく、政治的代表とコミュニケーションの問題であるから。すなわち、加盟諸国による協調と危機管理です。たとえば、金融危機において、サルコジの提唱する政策をメルケルは支持せず、彼らを協力させる者がいなかった。
独仏関係は、EU協力の必要10県ではあるけれど、十分条件ではない、とMünchauは注意します。ファン・ロンパイは昨年、ベルギーが分裂の危機に直面した時、異なる言語による政治集団をまとめる優れた政治手腕を発揮し、ヨーロッパの政治家たちに強い印象を与えました。
ヨーロッパが必要とする政治的指導者は、異なる政治集団を合意させる能力によって評価されます。それは、交通を遮断して大演説を行う、通りで握手してヨーロッパを売り込む、オバマやブレアのようなの政治指導者と異なります。
WP Sunday, November 22, 2009 President Who?
WSJ NOVEMBER 22, 2009 Europe's Gray Mice
(コメント) キッシンジャーがヨーロッパへ電話する相手は見つかったか? 欧州連邦を建設する運動は、憲法を目指して失敗し、8年かけて、嫌がる小国を脅し、何とかリスボン条約を成立させたものの、その結果、得たのは小さなネズミである、とWPは描きます。
ファン・ロンパイは62歳、引退直前のベルギー首相だが、ヨーロッパでもほとんど知られていない。他方、アシュトンは53歳、労働党のキャリア官僚で一度も選出されたことがない。外交の経験もない。サルコジとメルケルは、多くのすぐれた候補より、小国の無名の候補を選んだ。・・・つまり、彼らはワシントンから頻繁に電話を受けたいのだ。
ヨーロッパは、アメリカと中国がG2を形成して国際秩序を変えてしまうことを恐れました。しかし、経済規模の点で、また、安全保障においてアメリカと同盟を組む点で、ヨーロッパは国際政治上の重要な地位を失わないでしょう。・・・キッシンジャーが誰に電話するにせよ。
WSJは露骨に失望し、政治のトップに自称「灰色のネズミ」を据えるヨーロッパのバランス政治を軽蔑します。実際、彼らは選挙を経るわけでもないため、できる限りバランスを反映することでしか正当性を得られないのです。WSJは、むしろ、この選択は政府の間違った「代表」理解による、と批判します。
EUはむしろ、誰の声を代表するのか、5億に及ぶ市民すべてではなく、選択しなければならなかった、と。
The Times November 23, 2009 A gross insult to the people of Europe William Rees-Mogg
(コメント) この指名はヨーロッパ民主主義に対する侮辱である、とWilliam Rees-Moggは憤慨します。何の民主的な手続きもなく、まったく恣意的に決められた。
すべての政治制度と同じように、EUも不断の改革を必要とします。ヨーロッパ市民の多くは、EUが親しみのない、不明瞭な、官僚の作ったものだと感じています。EUに民主的な価値が欠けていることは、イギリスのようなEU懐疑論者の重要な根拠でした。人びとは、より民主的と感じる自分たちの国から権限を奪う、完全な連邦制への移行を望みませんでした。
この民主主義の赤字が、ジスカール・デスタン大統領の下、8年前にヨーロッパ憲法を含む改革を決意した理由です。その後、憲法案は否決され、成立したリスボン条約はインドやアメリカの憲法に比べて民主主義が欠けています。
彼らは無名であり、指名は余りにも突然で、受諾演説も用意できませんでした。リスボン条約は、それが解決する以上に多くの問題を生み出しました。
The Guardian, Monday 23 November 2009 After the Van Rompuy spectacle Adrian Pabst
FT November 23 2009 Europe needs action, not quiet consensus By Peter Mandelson
(コメント) オバマがベルリンの壁崩壊の記念式典の後、アジアへ向かって、北京を訪問したことにPeter Mandelsonは注意します。グローバリゼーションが進む中で、ヨーロッパの影響力が失われているのです。
しかし、ヨーロッパにできた二つの新しいポストをだれが占めるかで、EUの将来が変わることはない、とMandelsonは主張します。ヨーロッパ各国の政府は、協力して新しい課題を解決しなければなりません。EUが重要性を増すとしたら、それは経済が成功するときです。新興経済からの挑戦に対抗し、経済を脱炭素化し、何千万人もの雇用を創り出さねばなりません。もしこうした問題が解決できなければ、ヨーロッパ大統領は無意味です。
ヨーロッパは新しい成長戦略を示し、そのために、専門職など、重要な分野で単一市場を完成しなければなりません。そして、加盟国の利害を考慮するだけでなく、ヨーロッパの利害を考慮した政策を形成することです。われわれはどのようなヨーロッパを望むのか、という問いは、誰がヨーロッパの大統領であるか、よりも重要です。バローゾ欧州委員会委員長はその方向と推進力を見出し、ヨーロッパがその将来を諸政府の展望と野心において切り拓くのを助けます。
The Guardian, Wednesday 25 November 2009 With this timid choice of leaders, the EU may have the faces it deserves Timothy Garton Ash
(コメント) EUができたのと同じ政治的理由で、この二人の使命はよく理解できる、とGarton Ashは述べています。ファン・ロンパイは、フランスとドイツと、ヨーロッパ議会の中道右派が合意したから、決まったのです。他方、アシュトンは、ヨーロッパ議会の中道左派が右派に大統領を与えたから、ゴードン・ブラウンがブレアをあきらめたときイギリス人であり、女性であるから、決まった。おそらく50人以上も適当な候補者がいただろう、と。
ファン・ロンパイもアシュトンも、ワシントンや北京と同じような意味で、EUを代表するとは言えないでしょう。しかし、EU政治の内側を露出し、宣言した点で、明確にEUを表しています。彼らは、播基文が国連を代表するのと同じ意味で、EUを代表するのです。
楽観的に見れば、次第にEUの戦略的文化が育ってくるでしょう。ヨーロッパ人が同じ外交問題を、異なった言葉で、しかし同じ仕方で議論するようになります。しかし、悲観的に見れば、政治家たちは常に自国民の求めることしかしないのです。知識としては強調することが望ましいとわかっても、政治的には自国の政治に縛られています。欧州サミットが終われば、それぞれの政治家が自国に帰って、その成果や勝利を自慢します。
ほとんどのヨーロッパ人は、ヨーロッパのパワー、特に軍隊を、世界に拡大することになど関心がないでしょう。むしろ自分たちの息子を早くアフガニスタンから帰国させて、放っておいてほしい、と願っています。自分たちの生活が快適であれば、それで十分なのです。繁栄と、多様性と、余暇と、社会保障です。
一部の高級紙が載せる高尚な議論では、ヨーロッパ外交政策を長期的な視点でヨーロッパの価値を守るために定義しています。しかし、それはごく少数派です。現代の脅威は、気候変動、グローバルな貧困、ロシア、中国の台頭、など、緊急でも衝撃的でもなく、ヒトラーの第3帝国やスターリンのソ連のような、ヨーロッパ人の心を揺さぶって行動を起こすものではないのです。
こうしてヨーロッパはソフトな、緩やかな、分裂と衰退に向かいます。快適な生活の博物館として、今は明るく近代的であるが、次第に暗く、老いぼれていく。悲観論者なら、11月の雨の日に、ここをグレイター・スイスと呼ぶだろう。
The Guardian, Wednesday 25 November 2009 To rule Belgium, do nothing Laurens de Vos
(コメント) ベルギー分裂の危機を回避した、と称賛されるファン・ロンパイの政治的才能とは何か? 何の野心的な改革もせず、問題を閉じ込めただけだ、と批判します。ベルギーで首相になるとは、最初からレイム・ダックであることを意味する。
LAT November 19, 2009 To succeed in Afghanistan, we must fail By Gerard Russell
WP Monday, November 23, 2009 A Plan C for Afghanistan By E.J. Dionne Jr.
LAT November 24, 2009 Obama's Afghanistan strategy must be more than more troops
The Guardian, Monday 23 November 2009 We can't buy peace in Afghanistan Seumas Milne
The Guardian, Wednesday 25 November 2009 Afghanistan: time to go Caroline Lucas
FP Wed, 11/25/2009 Can Japan bring peace to Afghanistan? Josh Rogin
WP Thursday, November 26, 2009 Obama's skeptic in chief By David Ignatius
(コメント) さらに4万人の兵士を送ってアフガニスタン政府のセーフティー・ネットを続けるより、早く政府を破綻させ、縮小した方がよいのではないか? 外国の兵士は永久に駐留することはないし、アフガニスタン国民は自分たちで政治勢力の均衡を達成するしかない。・・・アメリカ国民は、国内の金融救済にも不満を抱いています。
E.J. Dionne Jr.の論説から。オバマは、強硬論と撤退論の折衷案という、だれも喜ばない、しかし、最も危険の少ない選択肢に向かうしかありません。オバマの苦境とは、一方では、テロとの戦いが恒久化されてしまい、他方では、戦争のコストが社会改革の予算を奪ってしまうことです。
オバマは、アフガニスタンがイラクでもベトナムでもないことを示さねばなりません。この戦争こそ、オバマのイデオロギー的ではないプラグマティズムを問うものです。
唯一、アフガニスタンの戦場に積極的な提案を準備している国があります。日本の貢献策です。
David Ignatiusは、バイデン副大統領の懐疑論による増派の修正を支持します。
FT November 19 2009 A wary willingness By Geoff Dyer and Edward Luce
(コメント) オバマの訪中が多極世界の照明であった、という記事の中に、アジア訪問の最初の国、日本で、オバマが天皇に深いお辞儀をしたことがアメリカのメディアで悪評されたことも触れられています。いずれにせよ、英米メディアはこの外交を、アメリカのグローバル・パワー・シフト容認政策と見たわけです。・・・ブッシュからオバマへ、「カーボーイ外交から、お辞儀外交へ」!
ドイツや日本は、安全保障でアメリカに大きく依存していました。イギリスは、アメリカと言語や文化を共有しています。しかし中国は違います。しかも、中国はソ連と違って、アメリカと共通の市場で争い、資源やエネルギーを奪い合っています。アメリカと中国は、大きく異なる政治システムや価値を維持しながら、互いの繁栄を必要とし、まだ「安全保障のジレンマ」を解決していません。
Geoff Dyer and Edward Luceは、アメリカが新しい国際秩序の動き方を決める話し合いを申し込んだのは中国であり、それ以外にはない、と指摘します。中国の経常収支黒字と外貨準備は爆発的に増大しており、その影響で、各地において国際的な政治摩擦が避けられません。
オバマのアメリカは二つの点で方針を転換しました。一つは、多極世界を受け入れたことです。現代では、繁栄も安全保障も密接に結びついている(our world is now fundamentally interconnected)。21世紀におけるパワーは「ゼロ・サム・ゲーム」ではない、とオバマは語りました。景気刺激策を続けるためにも、中国の外貨準備(ドル債保有)から目を離せません。
もうひとつは、対中外交の転換です。冷戦が終わって、初めて、オバマのアメリカは中国と対等な「グローバル・パートナー」と認めました。Beijing’s more assertive foreign policyという表現に、かつて安倍首相の登場を同じ表現で英語メディアが捉えていたことを思い出します。
しかし、その提案は中国で激しい論争を起こしていますが、結局、中国はグローバルな指導的国家としてのコストを負うつもりはないでしょう。特に、安全保障面で、中国が追加のコストを引き受けるとは考えられません。また、たとえば国際的な資源投資を見ても、中国が国内の経済目標を達成するには、フリー・ライダーであることが好ましいのです。
中国指導部は、公開の議論で、アメリカと協力することを約束しないでしょう。むしろ水面下での駆け引きであれば応じるでしょう。オバマが望むような、米中間で、人間同士の交流と信頼関係は実現しません。また、中国側には、アメリカがアジアで果たす役割について根深い疑念があります。アメリカは、日本や韓国、そしてインドとも同盟して、中国の台頭を阻む意図がある、という疑念です。歴史的に、アメリカが中国に対する「近代化」を教えようとしたことを繰り返している、と中国人は嫌うのです。
アメリカは、ほぼ同時に、インドのシン首相を国賓として歓迎しています。これに対して、中国共産党の人民日報は新首相を批判する一連の論説を載せたそうです。その論調は、1962年の中印国境紛争に至る激しいものである、と記事は懸念しています。
NYT November 21, 2009 Assessing the China Trip
WP Sunday, November 22, 2009 Foreign policy specialists assess Obama's trip to Asia
(コメント) いずれの重要問題にも具体的な成果が乏しく、オバマ外交への期待は失望に変わります。NYTの論説も、さまざまな識者(Michael Auslin, Michael Green, Victor Cha, Danielle Pletka, Douglas E. Schoen, Richard C. Bush, Elizabeth C. Economy, David Shambaugh and Yang Jianli)の評価を並べたWPも、オバマのアジア外交・訪中に対して消極的な評価です。アジアのダイナミズムと中国外交の姿勢は基本的に変わりません。論争が迷走する中で、もし日本側が積極的に動くなら、日米関係の亀裂から再構築が重要視される可能性もあります。
Yang Jianliは書いています。「オバマが中国社会の反体制派や知識人など、拘束されている人たちと会えたら、私は喜んだだろう。米中関係の確立が・・・社会正義や個人の自由、方の支配などについて、中国政府と直接に交渉する土台となってほしい。」
WP Sunday, November 22, 2009 For blue skies, first clear the air on human rights By Zhang Zuhua and Jiang Qishen
NYT November 22, 2009 Advice From Grandma By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) 私は21世紀が中国のものだとはまだ思わない。
・・・われわれは最高に統合された世界へ向かっている。原料、デザイン、加工、流通、組み合わせ、金融、ブランド、商品は世界中のどこからでも、誰にでも利用できる。しかし、商品化されないものが二つある、とTHOMAS L. FRIEDMANは考えます。一つは、イマジネーション(想像力)、もうひとつは、グッド・ガバナンス(優れた統治)です。
アメリカが想像力を生み出す世界最高の国(the world’s greatest dream machine)であるのは21世紀でも変わりません。逆に、グーグルを検閲し、インターネット接続を遮断し、多くの政治犯を投獄する中国は、想像力を妨げています。
しかし、こうして文化的な差異を楽しむアメリカ人が、他方で、グッド・ガバナンスを失いつつあるのは深刻な問題です。社会の指導者たちが長期的な観点を失い、問題の最適な法的解決策を示さず、すぐれた才能ある人々が政府に集まらないことをFRIEDMANは考えます。教育、公的債務、金融改革、医療保険制度、環境など、重要な問題で、アメリカ政府は最適な対応が取れません。
その理由を6つ挙げています。・・・1.政治資金が法律を決める。2.選挙区を変更して政治家が有権者を選ぶ。3.絶叫し、人びとを孤立させる有線TV文化。4.大統領選挙が永久に続く政治的分断化。5.インターネットの最悪部分として、極端な見解が流布され、デジタル・リンチが横行する。6.余りにも世界化したビジネス界が、自分たちの求める法律を通すこと以外に、医療保険、教育、市場開放、など、国民の問題を無視する。
その結果、権力は分割され、妥協が強いられ、政治は麻痺する。異なる利益集団がむっすの妥協を重ねて作る、誰も望まないような法律や制度ばかりが増える。アメリカ最大の「破綻国家=州」であるカリフォルニアと同じである。
カリフォルニアの有権者たちは政治のアウトサイダーであるシュワルツェネッガーを知事に選んで、この機能しないシステムを破壊してほしかったのだ。しかし、それはできなかった。オバマも同様の理由で選出された、と言えます。他方、中国は権威主義的な支配において、最適な解決策を選択できます。
中国に対して、アメリカは優れた指導者を、また、すぐれた有権者を育てることです。犠牲を厭わず、高率の税金も支払い、負担を求める政治家を罰しないような有権者です。想像力だけでは、優れた成果をもたらしません。
LAT November 22, 2009 Understanding China By Martin Jacques
WSJ NOVEMBER 22, 2009 President Obama Didn't Impress Asia By JOHN BOLTON
The Japan Times: Monday, Nov. 23, 2009 Two smart guys trying to figure it all out By TOM PLATE
(コメント) Martin Jacquesは、欧米諸国が中国を誤解している、と考えます。中国は西側の価値など求めていない。市場も資本主義も、全く異なった形で理解している。西側のような近代化も、国民国家形成も、中国には存在しない。国家と社会の関係が、西欧とは全く異なる文明である。選挙制度などなくても、権力は正当性を示し、自然な権威を得られる。それは彼らが中国文明の擁護者であり、衛兵であるからだ。
中国を理解し、説得するために、われわれの社会や政治を前提してはいけない。中国の台頭は、まったく異なる世界、普遍的な文明、に直面することを意味しており、われわれは互いに相手を対等に扱うことを学ぶしかない。・・・
米中合意も、米中協力も、期待するほどは実現しない。しかし、唯一両国が一致する点は、アメリカも中国も、失業者が増加することは政治的に耐えられない、ということだ。米中は、互いに相手の国で失業者を増やすような行動を取らない、という点で合意できる。
WP Tuesday, November 24, 2009 Superpower without a partner By Anne Applebaum
(コメント) たがいに反対の地点から飛来した二つの流星が宇宙で衝突したようなものだ、とAnne Applebaumは米中首脳会談をたとえます。一つではそれほど重要でないことが、衝突すれば「生命誕生」の衝撃をもたらします。
温家宝首相は述べました。中国はG2を支持しない。中国はまだ発展途上国の一つである。・・・その意味は、イランへの制裁に協力しない、北朝鮮の核ミサイル開発を妨げない、アフガニスタンであれ、中東であれ、中国はアメリカを助けない。中国はアメリカ外交のパートナーの役割を引き受けるつもりはない。
同時に、ヨーロッパでは大統領と外交代表の人選が進んでいました。その結論は、ファン・ロンパイ大統領と、アシュトン外交代表です。どちらも無名で、アメリカ政府の考えていた、もっと優れた候補ではありません。・・・その意味は、オバマが電話する番号が一つ増えただけで、今もヨーロッパは統一した外交政策を決められない。イラン、北朝鮮、アフガニスタン、中東、その他、どこであれ、ヨーロッパはアメリカ外交のパートナーの役割を担えない。
アメリカはもはや単独で超大国の役割を果たせない。しかし、その役割を一緒に担ってくれる国はない。それは世界の割ではないが、オバマ政権には打撃である。世界最大規模の市場であるヨーロッパも、世界最高速度の成長を続ける中国も、時間が経てば、超大国の役割を学ぶだろう。
ブッシュは大統領の任期中に「ユニラテラリズム」を放棄しなければならないことを知った。ヨーロッパに呼びかけても返事がない中で、中国と手を組む必要があるなら、オバマも「民主主義」を放棄しなければならないことを学ぶのか?
IHT November 25, 2009 Obama Loses a Round By YING CHAN
The Japan Times: Thursday, Nov. 26, 2009 U.S.-China relations shifting By FRANK CHING
(コメント) オバマ訪中の最後のイメージは雄弁である。すなわち、彼はたった一人で万里の長城の険しい坂を歩いていた。若者たちとの対話集会も偽物だった。
台湾でも、チベットでも、人権問題でも、米中が解決できるような信頼感はない。21世紀における米中関係は、プラスの、協力的な、包括的関係になる、という声明には遠いものだ。それが失敗するなら、世界の将来は荒涼としたものになる。
The Guardian, Friday 20 November 2009
Give North Korea a break
By JOHN DELURY
(コメント) 誰も、今の北朝鮮のような世界の未来を予想したくはないでしょう。しかし、北朝鮮の経済を世界市場に組み込む積極的な関与政策を、アメリカが韓国や日本、中国に売り込むのは難しいのです。
SPIEGEL ONLINE 11/20/2009
Not at Home in Germany
(コメント) ドイツには、約300万人のトルコ人が住んでいます。ドイツ人、ドイツに住むトルコ人、トルコ人に対する世論調査の結果が発表されました。統合化は進んだものの、移民たちの多くはどちらの国にも受け入れられないと感じており、若者ほど保守化している、と。
WP Friday, November 20, 2009
Threatening the Fed's independence
By Alan S. Blinder
(コメント) 連銀に対する議会の批判は強まっています。金融政策(そして資産の悪化)が間違っている、と政治家たちは主張し、特別な監視を行う必要を訴えます。The Federal Reserve Transparency Actが成立すれば、金融政策の自律性が失われ、むしろ、連銀の能力を損なうでしょう。連銀の独立性があるから、金融政策は長期的な視点で、経済全体の専門的な評価が尊重されるのです。
NYT November 20, 2009
The Big Squander
By PAUL KRUGMAN
NYT November 20, 2009
What Geithner Got Right
By DAVID BROOKS
Nov. 23 (Bloomberg)
Geithner’s Crisis Sleepwalk Is Reason He Must Go
Kevin Hassett
The Guardian, Monday 23 November 2009
Vampire banks rise again
Dean Baker
WSJ NOVEMBER 24, 2009
Bailout Nation
By JOSEPH R. MASON
(コメント) 政府が国有化より、性急に金融機関の救済を続けたことについて、PAUL KRUGMANは批判します。TARP(Troubled Asset Relief Program)で、もっとほかの方法があったのに、ウォール街は政治家と結託して救済を行わせた。そして、政府や金融システムへの信用が失われ、不況が引き延ばされた、と。その費用は、銀行に支払わせるべきだ。
ガイトナー財務長官はあらゆる方面から批判されています。しかしDAVID BROOKSは、金融システムが安定し、TARPの緊急融資は返済され、銀行国有化は必要なかった、と考えます。ガイトナーの判断は正しかった、と。ガイトナーは、政権の優先順位を比較しながらバランスを取り、回復への道を進んできた「狐」であり、オバマのプラグマティズムを代表しています。
The Japan Times: Friday, Nov. 20, 2009
The difference is in the will to destroy a wall
By DOMINIQUE MOISI
The Japan Times: Sunday, Nov. 22, 2009
'Happiest' revolution of 1989 was in Prague
By MICHAEL MEYER
(コメント) ベルリンの壁は崩壊したのに、なぜ他の壁は残っているのか? 壁を崩す力の大きさは、ベルリンの場合、誰一人予想し得なかったのです。キプロスの壁と、イスラエルの築いたセキュリティー・フェンスが比較されます。東ドイツの市民たちは、自分たちもドイツに帰属することを疑いませんでした。他方、キプロスはそれを願わず、イスラエルは無くなりません。壁は現実の反映です。現実が変わらなければ、壁は崩れません。その逆ではない、とDOMINIQUE MOISIは考えます。他方、MICHAEL MEYERが描くチェコスロヴァキアの「ビロード革命」は、1989年の革命の中で最も優れた無血革命でした。
The Japan Times: Monday, Nov. 23, 2009
Ramping up hope for Roma with education
By GEORGE SOROS and JAMES WOLFENSOHN
The Japan Times: Thursday, Nov. 26, 2009
The long journey from Kafka to Gorbachev
By NORMAN MANEA
(コメント) ロマ(ジプシー)への迫害は、金融危機と経済不況が来る前からありましたが、最近になって各地で強まっています。殺害する事件も増え、人種差別や憎悪を煽る政治集団も現れている、と言います。
ロマは社会に貢献したいと願っており、子供たちのために生活を改善したいと願っています。しかし、あまりにも貧しく、教育を受けていません。ロマの25%、女性では33%が文字を読めません。66%が小学校も終了していない、と国連は報告しています。
彼らを教育課程に参加させるために、ソロス達は世銀とともに基金を設立しました。そして、学校に来るロマの子供たちに食事を提供しています。「貧困の壁」が教育を閉ざしてはならない、と。
NORMAN MANEAは、1989年の革命後も、ヨーロッパに広まる人種差別や社会集団の対立を指摘します。ベルリンの壁が共産主義体制に与えた不信と崩壊を、金融危機がリベラルな資本主義に与える、と言う者もいます。エコノミストたちのナイーブさは、かつての「弁証法的唯物論」を科学的社会主義と称した気質と似ているからです。
China Daily 2009-11-20
Paradigm in Sino-Japanese ties
By Wang Ping
WSJ NOVEMBER 26, 2009
Tokyo Deflation Deflections
WSJ NOVEMBER 26, 2009
Now Is Not the Time to Fret About Tokyo's Debts
By RICHARD KATZ
(コメント) Wang Pingは、日米関係に代わって、日中関係がアジアの秩序を指導するべきだ、と主張します。アメリカは東アジアの統合にも参加し、その前進を助けるべきだ、と主張します。しかし、克服すべき問題については全く言及していません。
デフレ問題が再燃した日本では、政治家たちが犯人捜しで騒いでいます。日銀は、投資できる環境が欠けていることを政府の責任と考え、財務大臣はデフレが日銀の金融政策によるものだ、と非難します。しかしWSJは、彼らの責任だ、と考えます。
アメリカ連銀が金融緩和を続ける中で、日銀は金利正常化を目指しています。それは円高を強め、デフレにも影響が及んでいるでしょう。実質金利は高く、銀行融資は中小企業に向かわず、ゾンビ企業は生き残って市場を奪い合う、と以前からの批判が繰り返されます。
日本が最近までデフレから離脱していたのは、アメリカや中国からの需要があったからです。もしそれが減れば、デフレが再現します。WSJは、規制緩和と減税によって「アニマル・スピリッツ」を刺激せよ、と主張しています。
日銀にも日本政府にも、デフレ対策はほとんどないような状態です。RICHARD KATZは、景気対策として、財政赤字の正しい使い方を要求します。
IHT November 21, 2009
Fears of ‘Lost Decade’ Grow for British Economy
By LANDON THOMAS Jr.
IHT November 21, 2009
Balancing the Getting and Spending
By DOMINIQUE STRAUSS-KAHN
(コメント) イギリスの日本の道をたどるのか? イギリスは、次の選挙で保守党が政権を執って、日本よりも迅速に不良債権処理や銀行の整理を行う、と言われます。しかし、他方で日本よりも、通貨危機や債務危機のリスクが予想されています。
IMFのSTRAUSS-KAHN専務理事は、金融危機後の公的債務急増に対して「出口戦略」を急ぎ過ぎないように、また、国際収支不均衡が、特にアメリカと中国が、調整政策を協力するように、求めています。
FT November 22 2009
Could sovereign debt be the new subprime?
By Gillian Tett
FT November 23 2009
Divisions emerge over exit strategies
By Brian Groom, Business and Employment Editor, and Ralph Atkins in Frankfurt
(コメント) Gillian Tettは、政府の債券を全くリスクを無視して購入し続けることに反対します。中央銀行も、民間銀行も、債務不履行ではないにしても、政府が赤字を減らさず、結局、インフレによって債務を減らそうとするリスクを無視できません。債券の購入者がいなくなったり、中央銀行が量的緩和政策をやめたときに価格が急落するかもしれません。それゆえ、政治家たちは債務を減らす努力を真剣に続けなければなりません。
出口戦略、財政赤字をどのように減らすべきか、については、各国政府の考え方が異なります。IMFやECBの意見も異なります。
Asia Times Online, Nov 24, 2009
US should regulate cross-border cash
By Henry CK Liu
FT November 24 2009
Give us fiscal austerity, but not quite yet
By Martin Wolf
(コメント) マレーシアが資本規制したとき、厳しく批判されました。アメリカも、投機的な資本移動を規制する方法を検討し始めねばなりません。
同様の債務を歴史上は政府が戦争によって負ったにもかかわらず、金融危機後の債務が懸念されるのは、1.戦争には終わりがあるけれど、この債務には明確な終わりがない、2.戦争が終われば財政赤字を削れるが、平時において財政赤字を削るのは政治的な困難が大きい、と指摘しています。投資家が、債務返済に関する政府の管理能力を信じられなくなったときには、金融危機が発生します。
他方で、日本の経験が示すように、債務危機後に時期尚早の財政再建を試みることは、再び不況と金融危機を招くでしょう。それは、インフレ、通貨危機、財政再建をめぐる国際的ジレンマも含んでいます。各国は長期的な返済方針を明確にして、景気回復とともに自動的な債務の削減を進め、特に、歳出の削減が難しい年金などの増大を抑えべきだ、と求めています。
アメリカやイギリスでも、債務危機の危険はあるのです。
FT November 24 2009
Heed the danger of asset bubbles
By Robert Zoellick
(コメント) Robert Zoellickの論説は、いつものように鋭く、しかも、重大な変化を見逃しません。
グローバリゼーションの時代には価格競争が激しく、組合は弱められ、需要面でも供給面でも、インフレは起きにくい。これほどの通貨供給が行われているのにインフレは起きない? 貨幣はどこへ行くのか? ・・・アジアを見よ。そこに未来の資産バブルが蓄積されています。
中国やインドの高成長が注目され、アジアで住宅や土地、金などの価格が上昇するのは当然です。資産バブルは物価の上昇よりも見分けにくく、それに対する一般に有効な対策もありません。バブルが破裂してから救済し、需要を補えばよい、という対応では失敗することがわかりました。
一方では、アジア諸国が為替レートをドルに固定し、アメリカの金融政策を輸入することは非常に危険です。しかし、アジア諸国の独自の試みを欧米諸国が否定することも間違いだ、とRobert Zoellickは考えます。
シンガポールは開発業者に土地を供給して、借入による購入を抑え、過熱を避けようとします。ほかにも、国によっては銀行融資の伸びを制限したり、融資全体の中で不動産向け融資の割合を制限したり、銀行には自己資本の追加を要求したりします。欧米諸国は、緊急時の協力に備えて、アジア諸国やオーストラリアの金融状態を詳しく監視しておくべきです。
G20は、資産バブルの監視を過大にするべきでしょう。そして、通貨の増価にも競争力を維持できるような経済を追求し、保護主義を避け、どの国にも当てはまる解決策などないことを知るべきだ、と。
WP Sunday, November 22, 2009
Let's go with cap-and-innovate
By Ralph Izzo
WP Sunday, November 22, 2009
A hotter planet means less on our plates
By Lester R. Brown
WP Sunday, November 22, 2009
Drowning in the Garden of Eden
By Helen Benedict
WP Sunday, November 22, 2009
Awash in fossil fuels
By George F. Will
(コメント) 終末論であれ、未来技術のユートピアであれ、環境問題は私たちの想像を強く刺激します。世界中の市民を参加させるという意味で、最も重要な政治問題なのです。
・・・As the number of hungry people has risen, so too has the number of failing states. How much hunger will the world be able to absorb before we have not just failing nations, but a failing global civilization?
・・・Imagine your country disappearing underwater forever. Where do you belong? Where do you go?
・・・Today, there is a name for the political doctrine that rejoices in scarcity of everything except government. The name is environmentalism.
The Times November 23, 2009 Copenhagen will fail – and quite right too Nigel Lawson
WP Thursday, November 26, 2009 The right call on climate
FT November 26 2009 Mr Obama goes to Copenhagen
(コメント) 地球環境問題も、従来の政治思想を一歩も出ることはできません。あるいは、だから解決できない。オバマが登場することで、ここでも、何かを変える可能性はあるか?
WSJ NOVEMBER 22, 2009
Kiwi Monetary Muddle
By STEPHEN KIRCHNER
WSJ NOVEMBER 25, 2009
The Price of Poor Governance in the Philippines
By BRETT M. DECKER
(コメント) ガバナンスを感じる論説として。一方は、ニュージーランドの中央銀行とインフレ目標。他方は、フィリピン、ミンダナオ島の地方政治家に加えられた大虐殺。
WSJ NOVEMBER 23, 2009 China Goes Treasure Hunting By PETER NEVILLE-HADLEY
Asia Times Online, Nov 24, 2009 Power struggle behind revival of Maoism By Willy Lam
WSJ NOVEMBER 26, 2009 The Second Chinese Stimulus By PAUL CAVEY
(コメント) 中国についての多面的な話題です。英仏による150年前の略奪について。毛沢東主義の効用について。第二次の財政刺激策について。
The Guardian, Monday 23 November 2009
We must seal the deal on world trade
Pascal Lamy
The Guardian, Wednesday 25 November 2009
Time to kill off Doha
John Hilary
(コメント) 金融危機と世界不況は、2009年の世界貿易を縮小させ、貿易自由化交渉を再開する必要性を強めた、とWTOのラミー事務局長は考えます。
他方、John Hilaryは、ドーハ・ラウンドが貧しい国をさらに貧しくする、と主張します。なぜなら欧米諸国は貧しい国に工業製品やサービスの市場開放を要求しながら、自分たちの農産物市場を開放する気はないからです。市場開放は職場を奪う、と多くの国で労働組合が反対します。
WP Monday, November 23, 2009 Don't neglect India By Fareed Zakaria
(コメント) Fareed Zakariaは、中国の台頭について議論するばかりで、インドを考えないのは間違いである、と主張します。インド政府の高官は、共和党政権下でブッシュが認めた21世紀のインドの重要性を、オバマが民主党とともに軽視するのではないか、という疑念を示しています。それはアフガニスタン戦争でパキスタンを支持する姿勢に不安を抱くからです。
Zakariaは、パキスタンよりもインドの方が、アフガニスタンの安定化について、アメリカと目標を共有している、と主張します。
YaleGlobal , 23 November 2009 Mr. Singh Goes to Washington – Part I Ashley J. Tellis
WSJ NOVEMBER 23, 2009 Putting Indo-U.S. Ties Back on Track By WALTER LADWIG AND ANIT MUKHERJEE
BG November 24, 2009 Ways Obama can tend bonds with India By Nicholas Burns
YaleGlobal , 25 November 2009 Mr. Singh Goes to Washington – Part II David J. Karl
(コメント) インドについての考察です。
SPIEGEL ONLINE 11/23/2009
US Foreign Policy
By Gabor Steingart
NYT November 24, 2009
Obama in His Labyrinth
By ROGER COHEN
(コメント) オバマの理想主義は外交に成果をもたらすだろうか? あるいは、ジミー・カーターになるのか? 21世紀は、同時に多数の理想を追求するのではなく、「自由市場民主主義体制」と「自由市場権威主義体制」との対立になる、とROGER COHENは整理します。
FT November 23 2009
Mexico moves from Latin leader to laggard
By Moisés Naím
(コメント) メキシコは失墜し、ブラジルは飛躍しました。かつては全く逆でしたが。なぜか?
メキシコは1990年代の模範的な政治・経済核核を実行していました。ナショナリズムを抑えて、国際統合に向かい、NAFTAの交渉に加わって合意を得ます。OECDにも加盟しました。競争的な政党政治と選挙で政権交代を実現し、1994年の通貨危機から急速に回復して、経済的な安定を達成します。石油開発や観光業、そして市場規模が魅力的でした。
他方、ブラジルは政治も経済もガタガタで、ビジネス環境が悪く、暴力と極端な貧困が蔓延していました。
今は、その評価が逆転しています。昨年、ブラジルは5%成長し、メキシコは1%でした。ブラジルの雇用、銀行、株式市場は好調で、資本流入に課税し、抑制したほどです。ブラジルでは油田も開発され、国際的な影響力も高まりました。他方、メキシコは自滅的な法律、ポピュリスト政治家、特殊な利益集団が、そのエネルギーを奪ってしまいました。
しかし、ブラジルにも深刻な問題(犯罪、貧困、不平等)が残されているし、メキシコの不利な条件(新型インフルエンザ、アメリカの金融危機、中国の台頭)は避けられない面がありました。しかし、メキシコが遅れた最大の理由は、特権や拒否権を持つ内部のカルテルが多かったことである、とMoisés Naímは考えます。企業グループ、労働組合、政治集団、大学、メディア、専門職の団体、などがメキシコの前進を阻み、その活動力を削いだのです。
メキシコがこれらのカルテルを打ち破る意志を持つことは可能です。そして、ブラジルとの競争によって、国内の競争を刺激できるはずです。
SPIEGEL ONLINE 11/24/2009
Brazil's President Lula
By Jens Glüsing
(コメント) ブラジルには優れた大統領、Luiz Inácio Lula da Silvaがいました。その出身や考え方、経済政策や貧困層への支援を、Jens Glüsingは紹介しています。ブラジルはかつてビジネスマンたちに「ベリンディア」と呼ばれました。ベルギーとインドです。ヨーロッパ的な富裕層と、アジアの貧困層が住む国。ルーラは、この二つを統一します。
WP Tuesday, November 24, 2009
The currency quarrel
Nov. 26 (Bloomberg)
Bernanke Goes From Helicopter Ben to Beijing Ben
William Pesek
(コメント) 米中間の通貨・為替レート・金融政策をめぐる論争は重要です。
WPが求めるのは、米中が双方で国内の生産と支出の不均衡を是正するだけでなく、為替レートを調整することです。それを「21世紀のプラザ合意」と呼びます。しかし、中国が合意することは容易でないし、プラザ合意自体が不満を残した形で解消されました。
アメリカが今すぐに金融引き締めや財政赤字の削減を行うことは、中国の一部の間違った意見があるけれど、米中双方にとって大きな犠牲を強いるでしょう。むしろ、アメリカは信用される「出口戦略」を示すことで、中国の近隣窮乏化的な通貨政策を無効にし、ドルの安定性を得るだろう、と主張します。・・・
バーナンキは、ヘリコプターで貨幣をばらまくこともできる、というM.フリードマンのたとえに言及しました。実際、アメリカで株価の急落や金融危機が起きたとき、連銀は貨幣をばらまいて救済に駆け付けたように思います。しかし問題は、中国などアジアにも大量にばらまくことです。アジアにバブルの危険があります。
連銀は、世界の金融情勢に応えることができません。他方、中国や日本は莫大な外貨準備を蓄積しながらアメリカの保護主義を非難します。
「連銀の国際化は、この20年間、エコノミストたちを魅了した。1994年のメキシコ、1997年のアジア、1990年代後半のロシア・・・そのたびに連銀が世界救済に駆け付けた。韓国からチリまで、投資家たちは、しばしば、自国の金融当局より、ワシントンで起きることに一層注意をむけた。」
2008年10月には、ブラジル、韓国、メキシコ、シンガポールに対して、それぞれ300億ドルの融資枠を合意しました。しかし、アメリカの金融危機が深刻化する中で、日本と同様、量的緩和政策を実行し始めます。
外貨準備や、人民元切り上げが議論されましたが、今や、アジア・バブルです。バーナンキはアジアの金融情勢に責任を負いません。・・・確かにドルはアメリカの通貨だが、アジアのインフレはアジアのものだ!
The Japan Times: Thursday, Nov. 26, 2009
The irresistible rise of the Chinese renminbi
By BARRY EICHENGREEN
(コメント) 人民元の国際化が急速に進められています。ブラジルとの2国間取引にドルを使用せず、アルゼンチン、ベラルーシ、香港、インドネシア、韓国、マレーシアと人民元のスワップを合意し、香港などと人民元による決済、さらに人民元建債券の発行。こうして中国は、ドルに頼らず、人民元による貿易や投資を行い、人民元を準備通貨とした諸国との弾力的な金融市場を得るわけです。
問題は、それがいつ実現するか、ということです。ずっと先であろう、という予想も多くありますが、EICHENGREENはアメリカの歴史を振り返って、わずか10年でも、つまり2020年に上海を国際金融センターにする、という中国政府の目標と同時に、人民元も国際通貨になる可能性を否定しません。弾力的な金融市場を築き、為替レートを変動させて、金融取引を自由化できるでしょうか?
アメリカも、1914年には、ドルが国際通貨ではなく、通貨や金融取引はロンドンに頼っており、中央銀行もなかったのです。すでに経済規模はイギリスの2倍になり、工業生産、貿易額、国際投資額において、イギリスを超えていました。1914年に連邦準備制度が成立し、貿易信用でニューヨークによる引受けを支援します。取引額が多くなれば、その手数料は低下し、取引も安定します。その後、1920年代半ばに取引額がロンドンを超えると、連銀の支援はなくして民間取引に委ね、20年代後半にはポンドの準備よりドル準備が増えていきました。わずか10年です。
・・・しかし、日本の歴史と比較すれば、また異なった教訓が得られるでしょう。
FT November 26 2009
Free-market ideals survive the crunch
By Alan Beattie in London and Geoff Dyer in Beijing
(コメント) アメリカ発の金融危機は、「金融資本主義」や「市場自由化」を放棄させたのではない、と主張します。実際、自由化を抑制したことで危機を回避したとはいえ、中国もインドも金融自由化への意欲を示しています。
ブラジルが資本流入に課税することで増価やバブルを避ける試みが資本市場の反発を招かないのであれば、新興市場全体に資本の管理が広まるでしょう。それにもかかわらず、自由化が否定されるのではなく、各国は経済条件や金融制度の改革に合わせて、慎重に自由化を進めることが必要だ、という合意が形成されるのでしょう。
The Guardian, Tuesday 24 November 2009 We want Blair's head. But Chilcot won't give it to us Simon Jenkins
The Times November 25, 2009 A Search for Truth
The Times November 26, 2009 The ghost of Robin Cook haunts Chilcot’s feast
The Guardian, Thursday 26 November 2009 It was all about Blair Diane Abbott
(コメント) イギリスは、イラク戦争に関する真相究明委員会を設置しました。そして、ブレア元首相がブッシュ政権と組んで、イギリス国民を無謀な侵略戦争に巻き込んだ経過を解明したい、と議会は考えます。
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The Economist November 14th 2009
Brazil takes off
Getting it together at last: A special report on business and finance in Brazil
Nigeria: Hints of a new chapter
Japan’s government: Out of tune
Singapore and immigration: A PR problem
The far right in Russia: Cracked up
The far right in eastern Europe: Right on down
Charlemagne: Single market bargaining
Japan as number one: Land of the setting sun
Derivatives: Over the counter, out of sight
Buttonwood: Paper promises, gold hordes
(コメント) ガバナンス、ガバナンス、・・・そして、ガバナンス!
ブラジルの成長に関する特集記事があります。まあまあの面白さです。むしろ、ナイジェリアの武器回収や、日本の政策崩壊(?)の方が面白いでしょう。鳩山首相がボコボコになった風刺漫画が痛そうです。ジャパン・アズ・ナンバー・ワンの短評と一緒にどうぞ。
シンガポールの移民問題や、ロシアと東欧の極右勢力が深刻です(ジャーナリストの暗殺や人種差別が公認される政治)。共通の視点から、EUが目指した「グランド・バーゲン」に関する考察も重要です。市場統合は社会的なセーフティー・ネットと一緒に合意されたはずでした。金融危機や税率引き下げ競争は、この合意を実現不可能にしてしまいます。
最後に、デリバティブ擁護論や、IMFの放出した金をインドが購入した事件や金価格高騰から、金本位制に復帰する話も出てきますが、この記事は否定します。不況になれば、民主主義国家には耐えられないからです。