IPEの果樹園2009

今週のReview

11/9-14

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 感嘆キー・ワード **********************

中国、 金融市場と国際的調整過程、 アフガニスタンの増派問題と政治的混迷、 ベルリンの壁崩壊20周年、 米中関係の不安、 ナイジェリアとボツワナ、 金融秩序

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ただしBG: Boston Globe, CSM: Christian Science Monitor, FEER: Far Eastern Review, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, IHT: International Herald Tribune, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia


China Financial Markets, October 26th, 2009

Chinese railways and speculating pig farmers

by Michael Pettis

(コメント) 強気の楽観論を展開したNews Weekの編集長Zakkariaを批判し、Michael Pettisむしろ中国経済の不安を強調します。確かに、高速鉄道網を主要都市間で建設することは、航空機輸送よりも優れた面があるでしょう。しかし、消費を刺激するアメリカの財政政策に比べて、21世紀のインフラ投資に向けた中国の財政支出を絶賛するZakkariaをそのまま信じてよいものでしょうか? すでに中国のインフラは世界の最高水準であり、今後の投資は過剰になります。企業には在庫が積みあがっており、その調整が不況を呼ぶでしょう。

最後に、大学卒業者の就職難、人民元の増加を抑制する介入、そして、バブルの懸念、を挙げて中国の将来について疑問を示します。

IHT October 31, 2009

The China List

By MARK BRZEZINSKI and MARK FUNG

(コメント) オバマ大統領は中国訪問において何を主張するべきでしょうか?

大統領同士の会談で、環境、エネルギー、通貨、など、重要なテーマを話し合うのはもちろんです。しかし、首脳会談を超えて、三つの結び付きを公式に支持することが効果的である、とMARK BRZEZINSKI and MARK FUNGは主張します。それは、パキスタン支援の協力、カブール南東のAynak銅鉱山開発、米中の退役軍人が交流する“Sanya Initiative”、です。

なぜなら、パキスタンの安定化は米中双方の利益です。また、中国がアフガニスタンで大規模な鉱山開発に投資することは、中国の長期的な関与を確実にし、地域社会の発展にも貢献します。そして退役軍人による情報交換のネットワークを確立することは、政府や軍が衝突する問題が生じたときに、対立のエスカレートを回避するうえで重要です。

The Japan Times: Tuesday, Nov. 3, 2009

Missiles crimp Taiwan's thoughts of peace

By FRANK CHING

IHT November 4, 2009

Beijing's 'Marshall Plan'

By BEN SIMPFENDORFER

FT November 5 2009

China faces export inquiry

By Geoff Dyer in Beijing and Peter Smith in Sydney

(コメント) 台湾の馬英求大統領は、中国に対して、台湾を標的として設置されているミサイルを減らすように求めました。他方、中国政府はそれを無視し、アメリカが台湾に武器を売却しないよう、圧力を強めます。しかし馬英求の支持率が下がって、独立派が再び勢力を強めるなら、中国やアメリカにとって難しい状況になります。

中国政府は、気候変動、世界金融危機、イランの核開発、北朝鮮問題など、アメリカが中国の協力をますます必要としている、と考え、強気の姿勢を採るかもしれません。「米中の協力関係が21世紀を形成する」と言うのは真実でしょう。しかし、それは中国にとって台湾の領土を回復することを前提しています。

中国政府は台湾に向けたミサイルを撤去し、馬英求の支持率を高めて協力を強めることで、アメリカも武器の売却を見直せる、とFRANK CHINGは主張します。

他方、BEN SIMPFENDORFERは、中国の外貨準備を発展途上諸国への援助に充てて、中国からの輸出も増やす「中国版マーシャル・プラン」を紹介しています。2兆ドルを超える外貨準備を分散するために、アフリカやラテンアメリカで資源や農耕地を購入(長期契約)する、アメリカ企業を買収する、それに加えて、中国の過剰設備や失業問題を緩和するように、発展途上諸国にインフラ投資し、中国からの輸入を促すことが注目されるわけです。

不況の中で、中国の資源輸出抑制策が国際価格を高騰させている、という貿易政策に対する紛争処理パネルの設置を、アメリカ、EU、メキシコがWTOに求めました。リオ・ティント社の買収問題以後、中国の貿易政策、資源獲得競争、為替レート介入、などが再び紛糾しています。


FP OCTOBER 28, 2009

The Next Steps on Nonproliferation

BY HILLARY RODHAM CLINTON

YaleGlobal , 2 November 2009

Iran and the West at a Crossroad – Part II

Deepti Choubey

(コメント) 核のない世界、を追求するアメリカの新しい外交政策です。それが可能でないとしたら、私たちはますます核の脅威にさらされて生きるしかありません。核兵器の技術と核物質は容易に手に入ります。そして核兵器が国境を越えて移動すれば、どの国にとっても安全保障は維持できません。

核兵器をなくすためには、核拡散防止(NPT)体制を改善し、大幅に強化しなければなりません。クリントン国務長官はそれを説明しています。「アメリカは新しい国際合意の形成を指導したい。」

信頼できるNPTがなければ、核の平和利用もできません。核拡散の非合法なネットワークを監視し、防止するために、アメリカは金融的・法的な手段が有効である、と考えます。国境を越えて軍隊を送り、研究所や科学者を拘束するのではないのです。特に、核燃料の供給国グループを中心に核物質の移動を多角的に監視します。

NPT体制は、強制力を持たねばなりません。そのために、IAEAの査察能力を大幅に拡大し、核物質の貯蔵や管理に関する技術指導を強めます。すべての核保有諸国も協力しなければならず、アメリカ、ロシアも核兵器の削減に合意します。

Deepti Choubeyの論説は、アメリカとイランとの交渉を扱います。


FP OCTOBER 28, 2009

No Place to Hide

BY BOBBY PIERCE

FP NOVEMBER 5, 2009

Planet Slum

BY JONAS BENDIKSEN, CHRISTINA LARSON

(コメント) ソマリア難民たちの暮らしを映像で紹介したシリーズ写真。ぼろ屑でできた小屋の前に立つ少年の姿。この小屋でさえ、13ドルを支払う! 老婆に見える、杖をついた女性が、本当は何歳なのか・・・?

後者は、世界各地のスラムの生活を紹介する写真。ナイロビ、カラカス、ムンバイ、ジャカルタ。


WSJ OCTOBER 28, 2009

Truman and the Principles of U.S. Foreign Policy

By VICTOR DAVIS HANSON

WP Friday, October 30, 2009

The three envelopes

By Charles Krauthammer

(コメント) VICTOR DAVIS HANSONは問います。オバマはハリー・トルーマン(日本への原爆投下を決断し、核の優位を確信して軍の縮小を進め、国際秩序を改革できると信じた。しかし朝鮮半島で危機に直面し、マッカーサーを解任したときからリアリストに転換する)なのか、それともジミー・カーター(旧秩序を解体し、各地の侵略を許し、アイデアリズムと混乱のうちに終わる)か? オバマは、理想主義的な秩序を描きながら、現実のカオスと不安定さに直面している。今こそ、アメリカの軍事的な優位と民主主義の同盟諸国に頼るリアリストの国際秩序を目指したトルーマンになるべきだ、と主張します。

オバマ政権とは、単にブッシュを批判するだけの政府であり、まだ何も政策を示していない、とCharles Krauthammer批判します。ブッシュを批判するのはいい加減にやめて、アフガニスタンで自分の戦争を戦ったらどうか?


FT October 29 2009

Why the renminbi has to rise to address imbalances

By Martin Feldstein

(コメント) 明確で、整然とした不均衡の調整過程論です(ISバランスだけでなく、為替レートの調整を求める)。

アメリカの5000億ドルの経常収支赤字と中国の3500億ドルの経常黒字。グローバル・バランスの回復を目指す国際合意が形成される中で、米中不均衡も調整が求められています。ISバランスは、ある程度、調整を実現しました。

アメリカでは消費者が住宅や資産を失い、貯蓄を増やしました。企業も債務を減らそうとしています。しかし、政府は不況の中で財政赤字が急増しています。他方、中国では財政刺激策や融資の急拡大で支出が増えています。低所得者向けの住宅建設などは消費を促します。

しかし他方で、ドル安が進むことはアメリカの調整を助けますが、中国は人民元の増価を抑え、ドルに対して安定化しています。その結果、アメリカの経常赤字は減りましたが、中国はドル安(ユーロ高、円高)につれて輸出を増やしました。これはグローバル・バランスを妨げるものです。もし調整を進めるとしたら、ドル安はさらに進み、ユーロ高や円高のせいで、EU(や日本)の輸入が増えるでしょう。保護主義(や財政赤字)への懸念が強まります。

さらに、人民元の(ドル安に伴う)減価は、中国の過剰投資やインフレ、バブルを加速します。むしろ人民元の増価を許すことで、資源が製造業からサービスに向かい、インフレを抑制できます。人民元の増価は、中国の国内バランスを実現し、同時に、グローバル・バランスを促すのです。

またMartin Feldsteinは、アメリカが先端的な軍事技術に関する貿易の制限を解除すればよい、という中国政府の主張を退けています。

FP Fri, 10/30/2009

Drooping Dollar IV: A Dollar’s Worth of Foreign Policy

Phil Levy

(コメント) 「ドルの価値と役割は、アメリカの外交政策にとって、どのような意味を持つのか?」とPhil Levyは問います。金融緩和とドル安は、アメリカが自立した政策選択を行う能力を損なう、と心配します。他方、失業率が10%を超える国内景気に関わらず、金融引き締めや財政健全化ができるか、という意味で、ドル安は続き、ドルの地位は低下し、海外における軍事展開が縮小され、同盟諸国の信頼を損なうでしょう。

FT November 1 2009

Mother of all carry trades faces an inevitable bust

By Nouriel Roubini

(コメント) 株式市場、石油、国際商品、など、リスクを取る投資が回復しつつあります。これは金融危機が去って、経済のファンダメンタルズが改善されたことを示しています。しかし、ドル安の進展や債券価格の安定は、大規模な金融緩和と量的緩和政策、すなわち、連銀による手当たりしだいの買取政策が維持している、とNouriel Roubiniは警戒します。さらに、このままでは、もっと事態が悪化するでしょう。

「すべてのキャリー・トレードの母」である、ドルからのキャリー・トレードが世界の市場を結び付けています。ドルの低金利と為替レートの減価、そして金融市場の浮動性が抑えられている状態によって、投機的な資本がマイナス金利で、世界的かつ大規模に、リスクの高い資産の購入に向かっています。

この場合、マイナスの金利で投機資金を得るのは簡単です。ドルの金利は異常に低く、ドル安がさらに進むと期待されるからです。さまざまな市場介入で、金融資産市場では価格の変動が抑えられ、為替レートも変動しなくなっています。投機的な利益を上げるチャンスが拡大するのです。

大幅にレバレッジを効かせて、流動性の高い債券を発行し、流動性の低い、リスクの高い商品を購入します。VARによって金融機関のリスク評価をしても、資産の分散や浮動性が重要ではなくなっています。アメリカの政策は、世界バブルを煽っています。それは世界中で為替市場への介入とドル建て資産の保有を促し、アメリカの財政赤字を容易にします。またドル安によって、アメリカの世界企業が保有する外貨建資産の価値を増やします。

Roubiniは、世界の協調型バブル崩壊が待っている、と考えます。そのきっかけは、1.ドル安が永久に続くことはない、2.連銀の緩和政策は永久に続かない、3.アメリカの景気が回復すると金利の上昇が予測される、4.二番底の景気悪化や安全保障上のリスクが現在化すれば、リスク回避のドル買い、ドル高が生じる、ということです。

今の状態が続くほど、その崩壊は甚大な破壊をもたらします。

The Japan Times: Thursday, Nov. 5, 2009

Dollar dying at the hands of a weak renminbi

By THOMAS I. PALLEY

(コメント) これも、ドル高政策、人民元安政策、の批判です。世界の為替レート(貿易収支)決定はルーブリックキューブだ、と指摘します。中国が人民元の調整を拒めば、世界各地の経済対立を強めます。


FT October 29 2009

The future or the museum? Europe’s moment of choice

By Philip Stephens

(コメント) イギリス(そしてヨーロッパ)の将来の産業は、工業も先端技術も、金融サービスでもなく、「美術館巡り」しかないのでしょうか? 日本のように、その経済規模からは考えられないほど世界政治に小さな役割しか担えない国になる?

イギリスの繁栄には、ヨーロッパもアメリカも必要だ、というのが戦後のイギリスが得た教訓です。保守党のキャメロンが、財政赤字を削るために、軍事費や国際的な関与を放棄する姿勢を示し、リスボン条約後のEUから離脱することも考えるようなら、イギリスは「日本」になるでしょう。

・・・そして日本は、ますますイギリスの模索から学び、知識と経験を共有することでしょう。


The Guardian, Friday 30 October 2009

English tests for migrants will fail

Adrian Blackledge

(コメント) 移民たちは英語を学ぶように、という政策です。英語テストを課して定住化の選別と居住者の社会・経済統合を促すことは、当然のように思いますが、イギリスにはすでに、英語以外の言語で暮らす多くの住民がいます。


WP Friday, October 30, 2009 On the war's front lines By David Ignatius

WP Friday, October 30, 2009 What we can achieve in Afghanistan By Robert B. Zoellick

(コメント) 暴力、麻薬栽培・取引、政府への不信。「帝国の墓場」と呼ばれるアフガニスタンを安定化するために、世界銀行には何ができるか? とRobert B. Zoellickは考えます。

医療や教育、コミュニティー再建、マイクロファイナンス、通信インフラ、などを、世界銀行が20億ドルを融資し、他国からの援助も32億ドルを助けてきました。その教訓とは、1.安全保障と経済開発のリンク、2.政府の腐敗を防ぐ仕組み、3.地元が求めるプロジェクトの優先、4.中央政府による国家レベルの改善、5.住民たちの生活改善と政府への信頼。

NYT October 30, 2009 The Tenacity Question By DAVID BROOKS

(コメント) 何人の兵士を送るか? どのような目標を示すか? 都市と農村をどう扱うか?

退役軍人たちは、オバマ大統領の答えが何であるか、について関心を示しません。大統領は専門官から選択肢の説明を受けているからです。むしろ、彼らはオバマ大統領の決意がどれほど堅いか、を心配しています。

オバマが本当は他の政策課題を優先しており、情勢が変われば、アフガニスタンを軽視するのではないか? アメリカの国内政治に振り回されるのではないか? と恐れているのです。オバマは、その結論が何であれ、兵士たちに自分の強固な決断と、それへの完全な信頼を得なければなりません。

FT October 30 2009 The Vietnam moment By Edward Luce

CSM November 03, 2009 Can Afghanistan be saved?

FT November 3 2009 Pull the plug on the Afghan surge By Charles Kupchan and Steven Simon

(コメント) Charles Kupchan and Steven Simonは、目標と戦略の見直し・縮小を支持します。大統領選挙におけるカルザイの不正が大規模に行われたことで、それは容易になりました。

何より重要なことは、アメリカが信頼できる政府をアフガニスタンの中で構築することです。国家が機能する制度や市場が必要です。また、アフガニスタンの軍や警察を訓練して、治安を委ねるべきです。

アメリカ政府は、アフガニスタンとパキスタンにおける反テロ対策に情報を出なければなりません。また、NATOの協調体制を失敗させるわけにもいきません。これらを維持するためにも、任務の縮小と人口集中地帯へ軍の焦点を絞るべきです。

The Guardian, Wednesday 4 November 2009 Abandoning Afghans is not the answer Malcolm Rifkind

IHT November 5, 2009 Uniting All of the Allies Some of the Time By JAMES P. RUBIN

(コメント) イギリス軍が一方的にアフガニスタンから完全撤退することは解決策になるでしょうか?  Malcolm Rifkindは反対します。イギリスに対するテロ活動の80%はこの地域に関連しており、この地域からの情報が重要です。また、イギリス軍の撤退はアメリカとの関係を損ない、NATO軍の撤退にもつながるでしょう。

アメリカ軍とNATOを介したヨーロッパ諸国との協力関係では、軍事力の問題だけでなく、政治的な意思決定の問題が重要です。タリバンであれ、テヘランであれ、モスクワや北京であれ。


The Guardian, Friday 30 October 2009 The Berlin wall had to fall, but today's world is no fairer Mikhail Gorbachev

WP Sunday, November 1, 2009 Life in Walltown, Germany By Josef Joffe

WP Sunday, November 1, 2009 How it went down By Mary Elise Sarotte

WP Sunday, November 1, 2009 A united country's divided people By Clay Risen

WP Sunday, November 1, 2009 Who killed communism? Look past the usual suspects. By Gerard DeGroot

(コメント) ベルリンの壁崩壊と東欧民主化革命の1989年から20年が経ちました。記念評論集が出ています。

Josef Joffeは、ベルリンの壁を人びとが忘れてしまったから、ワシントンの真ん中を壁が分断し始める様子を描きます。1961813日から1989119日まで、人びとは、月に行けないように、壁によっても隔てられた。壁は、都市を、国家を、大陸を、そして世界を分断していた。・・・

東西の違いはなくなっていません。東の失業率は西の2倍、出生率も低く、人口の12%、170万人が流出した、と書いています。東ドイツには旧体制を回復したいという声もあります。しかし、東ドイツが再現することは不可能でしょう。まだ冷戦の時代よりも短い時間しか経験していません。東はもっと変化し続けるのです。少なくとも、ドイツのメルケル首相は東ドイツ出身です。

アメリカでは、1964年のジョンソンまで、南部出身の大統領は出ませんでした。しかも、深南部からのジミー・カーターが出たのは1976年です。メルケルは、ドイツが再統一して、わずか16年で首相になりました。

Gerard DeGrootの論説も読みました。ロナルド・レーガンがゴルバチョフ書記長を挑発した台詞は有名です(“Mr. Gorbachev, tear down this wall.”)。しかし、たとえ自由な選挙が行われても、「パンのないところに自由はない」という意味では、東ドイツや東欧諸国の多くの市民に、自由はまだないのです。

東ドイツ市民たちは20周年を祝う気持ちになれない。彼らの姿はヒーローではなく、敗残者だから。ある種のギャングが、別のギャングに入れ替わっただけ。・・・自由な市場は、計画経済と同じくらい、効果的に国民を収奪した、と。今や、チェコは主要なポルノ写真の生産地です。イギリスにいる50万人のポーランド人は、イギリスの勤労意欲を自国に持ち帰ってしまった、という冗談が真実も伝えます。

理想的な革命が1989年に起きたと思うなら、それは真実ではない。東欧は、今と同じように、当時も単純ではなかった。

SPIEGEL ONLINE 10/30/2009 Winds of Change from the East: How Poland and Hungary Led the Way in 1989 By Walter Mayr, Christian Neef and Jan Puhl

WP Monday, November 2, 2009 Murderous idealism By Paul Hollander

(コメント) アメリカ人の多くは、ナチズムに強い関心を持ち、研究する一方で、共産主義には関心を持たない。ソ連が何をしていたのか、本当は何も知らない。それは、共産主義が理想主義的な社会の実現から手段を誤った政治運動だ、とみなされ、ナチズムのような人間性への犯罪とは考えられていないからだ。

しかし、共産主義の下で政治的な暴力が、たとえ理想主義を起源としても、その純粋で、客観性を無視した、真実と欺瞞を区別できない性質には、驚くべきものがあった。破壊的な理想主義、手段と目的の均衡を書いた政治運動、それらが理解できなければ、良い社会の条件が根底から失われる。

IHT November 3, 2009 The Gipper or the Guard? By MICHAEL MEYER

IHT November 3, 2009 Now Clear Away the Rubble of the Wall By MIKHAIL GORBACHEV

(コメント) 共産主義崩壊の複雑さを理解しようとしなかったアメリカ人たちは、今、イラクやアフガニスタンで苦しんでいる?

MIKHAIL GORBACHEVは、1980年代のソ連における変化を重視します。ソ連がペレストロイカを始めたとき、ワルシャワ条約機構はソ連が加盟国の政治体制を保障する性格(制限された主権)を変えました。ゴルバチョフが求めたのは、「民衆の声に応えよ。介入するつもりはない。」です。この、あまりにもヨーロッパ知識人のような政治家を、ロシア人は嫌います。

IHT November 3, 2009 The Hinge of History By ROGER COHEN

(コメント) 歴史はいつも「もし・・・だったら」と問いかけます。1989年に中国では天安門事件が起き、その5ヵ月後に、ベルリンの壁が崩壊しました。もし、中国で民衆が権力を動かし、政府が民主化を受け入れていたら、他方、ヨーロッパでは各地の抗議デモが銃剣で圧殺されていたら? しかし、この順序は意味があるかもしれません。天安門で民衆の抗議が圧殺されたから、ある意味で、ヨーロッパはそれを無視しなかったのです。

IHT November 4, 2009 Europe Got Freedom, Asia Got Rich By BRAHMA CHELLANEY

FP NOVEMBER 4, 2009 1989: The Lost Year BY DAVID E. HOFFMAN

(コメント) 19891月、当選したジョージ・H・W・ブッシュの安全保障顧問であったスコウクロフトは、冷戦は終わらないと思う、と答えていました。ゴルバチョフの外交攻勢は、機会ではなく、競争的な脅威、とみなされたのです。

ブッシュ(シニア)大統領の慎重な姿勢を強調しています。他方、ゴルバチョフの顧問が日記に書いていたように、彼らの側では悲観論がそれほど強かったわけです。

The Guardian, Wednesday 4 November 2009 1989 changed the world. But where now for Europe? Timothy Garton Ash

(コメント) 1989年は、1945年に匹敵する世界史上の重要年である。ヨーロッパとソ連から共産主義体制が消滅し、東西ドイツが再統一された。EUもNATOも歴史上の最大領域を拡大し、グローバリゼーションとアジアの台頭が始まった。

1989年は、1879年の暴力革命に代わる、非暴力的な新しい革命のモデルを示した。国際政治は、アメリカ、中国、ヨーロッパの三極による対抗へと変わった。アメリカの新大統領は素晴らしい目標を掲げたが、それを達成する手段がない。中国が残れたのは、ソ連や東欧の失敗をよく学び、グローバリゼーションの機会を吸収して、資本主義のダイナミズムを(政治的支配の維持と両立)可能な限り受け入れることによってであった。しかし、中国は内部に大きな矛盾を抱えた、脆弱な超大国である。

FT November 5 2009 Gorbachev was key in freeing eastern Europe By Rodric Braithwaite

BG November 5, 2009 Who ended the Cold War? By Paul C. Demakis

(コメント) Timothy Garton Ash Rodric Braithwaiteも、ゴルバチョフの決断(軍事介入しない、暴力的に弾圧しない)を称賛します。他方、ポーランド政府と自主管理労組・連帯との、衝突を避ける円卓会議は、その後、非暴力な改革の流れに大きく貢献しました。

Paul C. Demakisも、レーガンより、ゴルバチョフの役割が重要だった、と考えます。ゴルバチョフは、それほどソ連内部の改革は深刻で、困難である、と理解していた、と。


SPIEGEL ONLINE 10/30/2009

EU Summit Dallying

By Christian Schwägerl

(コメント) メルケル首相は、中国やアメリカが明確な目標を示すまで、温室効果ガスの削減について高い目標を掲げません。コペンハーゲンの国際会議において、貧困諸国が温室効果ガスの削減に合意するための援助を支持しません。しかし、十分な援助がなければ、貧しい国は温室効果ガスの除去技術を導入できないでしょう。

メルケルの関心はベルリンにあり、新政権の政策合意です。「世界市民」として、ヨーロッパが政治的指導力を発揮する機会を逸するでしょう。

NYT October 31, 2009

The Carnivore’s Dilemma

By NICOLETTE HAHN NIMAN

FT November 1 2009

Follow the science on climate change

FT November 2 2009

The deal we need from Copenhagen

(コメント) 「肉食をやめて、地球を救え。」・・・!?

確かに食糧生産が気候変動の一因であるとか。しかし、この問題は複雑であり、極端な単純化が行われています。NIMANは、食生活を支える生産や流通システムにまで配慮して選択するように勧めています。それは、容易にできることです。・・・加工した食品、工業化された農場からの食品を避ける。食糧を無駄にしない。そして、地域の作物を、季節に応じて食べる。

FTは、世界経済に対して受け入れられないほどの混乱を引き起こすことなく、気候変動に影響を与えることのできる政策がある、と主張します。さまざまな技術はあります。しかし、どのようにして、誰が行うのか、というのは経済学の問題です。

そのコストを最小化し、経済的な影響を抑制するために、炭素の排出に課税するのがよいでしょう。地球上のどこでも同じ、十分に高い税金を支払います。その結果、光熱費や運賃、炭素集約的な生産物の価格は高くなります。

さらに、温暖化の影響や炭素排出量削減の効果、科学的な理解の変化に合わせて、炭素排出量の取引を介した生産の調整が望ましい、とFTは考えます。また、すでに大量の温室効果ガスを排出してきた豊かな諸国が、これから工業化して豊かになりたい発展途上諸国の将来に対して、同様に課税することには強く反対があります。

そこで、発展途上諸国には世界の排出量により大きな割合を認める、という合意が行われそうです。そして、漸進的、長期的に、発展途上諸国は一人当たり排出量の上限に近付けます。

FT November 4 2009

Carbon has no place in global trade rules

Angel Gurría

(コメント) 気候変動に関する国際合意が、もし発展途上諸国に対して低い上限を受け入れるなら、国際競争が不利になると考えるフランスやアメリカなどは、そのような発展途上諸国からの輸入品に関税を賦課するかもしれません。しかし、そのような関税は、国民の生活を改善することに強い責任を負う発展途上諸国政府からの反発を招くでしょう。

強い関心を集める点は三つです。1.裕福な国がこれまで多くの温室効果ガスを排出してきた、2.排出規制に差を設けると国際競争力が損なわれる、3.国際規制の抜け穴になる。

OECDのAngel Gurría事務総長は、発展途上諸国への譲歩を行っても、企業の立地や競争力、国際規制の抜け穴は懸念されるほど大きくならない、と指摘します。だから温暖化を理由にした関税導入による紛争を避けるべきだ、と。

SPIEGEL ONLINE 11/05/2009

Patent Lies: Who Says Saving the Planet Has to Cost a Fortune?

By Juliane von Reppert-Bismarck in Brussels


The Observer, Saturday 31 October 2009

A year on, has Barack Obama met the hopes of the world?

The Guardian, Sunday 1 November 2009

Putting America back together

Sasha Abramsky

FP NOVEMBER 2, 2009

Grading Obama

WP Tuesday, November 3, 2009

A world of change in 287 days

By Eugene Robinson

(コメント) オバマが大統領選挙に当選して1年経ちます。その時代を変える演説以後に、世界はどう変わったか? さまざまな評価が示されています。

レーガンとブッシュ父子が破壊したアメリカの社会制度を、オバマが再建するために政権に就いた、とSasha Abramskyのように考えた人は多かったでしょう。その後、どうなったのか? 医療制度改革、財政刺激策、自動車労働者の救済、・・・しかし、なによりブッシュ政権の庶民への蔑視、科学の無視、政治的反対への蔑視、がなくなりました。政府は有能で、理性的で、市民に親しい存在に変わったのです。

しかし、不況は深刻であり、人びとの雇用は失われ、社会契約の再建は進みません。

FPの「オバマの採点Grading Obama」には、評価Aから、Dまで、さまざまな分野の専門家が意見を寄せています。

The Guardian, Tuesday 3 November 2009

Obama's year of vitriol and rebuff at home, deadlock abroad. Not a bad start

Jonathan Freedland

NYT November 4, 2009

A Job Too Big for One Man

By ORLANDO PATTERSON

(コメント) 表題が示すように、アメリカ大統領は、一人が担うには大き過ぎる仕事です。しかしORLANDO PATTERSONが指摘するのは人種問題です。オバマは黒人の地位を改善するために特別な措置を望みませんでした。そして、住民たちの分離・分断化をなくし、教育の改善を最大の人種差別解消の道と考えます。


FT November 1 2009

We must not be too late with starting the Big Exit

By Wolfgang Münchau

Asia Times Online, Nov 4, 2009

Bernanke learns from the wrong crash

By Martin Hutchinson

(コメント) Ronald McKinnonが、金融緩和を逆転するには、ゆっくりと、慎重に行うべきだ、と述べました。しかし、Wolfgang Münchauはそれに反対します。バブルが心配だからです。今、超金融緩和が国債増発と一緒に行われています。大恐慌や1990年代の日本が金融引き締めによって景気回復を損なった、というのは正しいけれど、現在のアメリカ市場を説明していない、と。

Martin Hutchinsonも、1929年の大恐慌と比較するのは間違いだ、と主張します。むしろ、1973-75年のイギリス経済を考察します。あるいは、1866年や、1720年の恐慌をもっと見るべきだ。


LAT November 1, 2009 The new Afghan election, just like the old Afghan election By Peter W. Galbraith

The Guardian, Sunday 1 November 2009 The Afghan election: a five-star debacle Simon Tisdall

(コメント) 不正選挙が繰り返されることを理由に、カルザイの対立候補、アブドラが決選投票を放棄しました。Peter W. Galbraithも、その背景となる事情を述べています。

「誰もが敗者である」と、Simon Tisdallは断言します。不正選挙の結果であっても、カルザイの「勝利」は承認され、決選投票には意味がありません。それでもアメリカには、アフガニスタン政府の協力が必要です。国連も、NATOも、アフガン国民も、アメリカ政府も、選挙によって何かを失いました。第1回目の選挙が不正であったと主張したクリントンとホルブルックが、今度は、カルザイの当選結果が失われない、と強調します。

不正選挙を繰り返すより、アブドラ候補の立候補取りやめで終わる方が、茶番ではあるけれど、せめてもの穏やかな幕引きです。カルザイの2期目が権威を損なわれたことも確実です。カルザイ政権が正当性の崩壊を防ぐには、まず、政治制度の改革を推進することです。

増派の決断を延期しているオバマ大統領も、明らかに敗者の一人です。

FT November 1 2009 Abdullah quits Afghan run-off election By Matthew Green in Kabul

BBC 2009/11/02 Obama urges 'new Afghan chapter'

The Guardian, Monday 2 November 2009 Karzai was hellbent on victory. Afghans will pay the price Peter Galbraith

LAT November 3, 2009 Afghanistan: Now what?

NYT November 3, 2009 President Karzai’s Second Term

(コメント) 「第1回投票で、カルザイは存在しない有権者"ghost votes"から少なくとも100万票を得た。」・・・カルザイは不正選挙によって地位を得た大統領である。正当性がない。

当選を認められたカルザイにオバマが求めたのもその点です。もし新政権が信用されるとすれば、それは改革を進め、2度とこのような不正選挙を許さないことだ。そして、およそ2250億ドルを費やし、68000人の兵士を送っているアメリカが、それでもタリバンの復活を抑えられないのは、この問題が関係している、とLATは主張します。

もっと国民の統合を目指すこと、もっと幅広い政治的基盤を得ること、もっと権力を分散し、援助がカルザイの手下によって独占されることがないように、地域の指導者たちの手に渡らなければなりません。正当な政治的指導力、国民のために働く政府と協力することで、アメリカは戦争にも勝利できます。

WP Wednesday, November 4, 2009 Unicorns in Kabul By George F. Will

WP Wednesday, November 4, 2009 The Karzai calculus By David Ignatius

(コメント) アブドラの立候補取りやめを聞いたクリントンの弁解がふるっている、と指摘されています。私は、ほかの国でも選挙の不正が問題になって、結局、(ゴアが)再選挙の権利を放棄したから(ブッシュに)大統領が決まったことを知っている、と言ったのです。だから、カルザイには問題ない? アメリカ並みだ・・・

すでにアメリカがアフガニスタンで費やす資金は、アフガニスタンのGDPを超えている、とGeorge F. Willは嘆きます。これほど腐敗した体制の下で、アメリカ兵は命を落とし、アフガニスタンの軍や警察を訓練して何になるのか? アフガニスタンで正当性に依拠した戦略を探すとしたら、それは一角獣を探すことになる。

これはアメリカが、超大国として、ベトナム、中東、ラテンアメリカで繰り返し直面してきたジレンマです。現地政府の弱さや腐敗を解決する、確実な方法はありません。

「良好な統治」をもたらす企画("good governance" projects)が成長産業になっています。しかし、成果は乏しいでしょう。

Asia Times Online, Nov 5, 2009 Russia, India and China go their ways By M K Bhadrakumar

IHT November 5, 2009 Betting on Thailand By PHILIP BOWRING

(コメント) アフガニスタンや中央アジアをめぐるロシア・インド・中国の外交における包囲網・協力関係を考察しています。彼らは、たとえば、アメリカのパキスタンへの介入を警戒します。あるいは、タイも、国王の王位継承問題などで不安定化が続けば、大国間の外交関係に強く影響され始めます。・・・20世紀ヨーロッパの大国間勢力均衡がアジアで復活するとしたら。


NYT November 1, 2009

Supply-Side Ideas, Turned Upside Down

By N. GREGORY MANKIW

(コメント) 「オバマとは、左派のロナルド・レーガンである。」 N. GREGORY MANKIWによれば、レーガンのサプライ・サイド経済学を逆転した政策をオバマ政権に見ています。レーガンは、限界所得税率を引き下げることで、人びとの勤労意欲を高めました。他方、オバマは、医療保険制度の改革として、中産階級にとって事実上の限界所得税率引き上げ、を計画します。


FT November 2 2009

A fruitless clash of economic opposites

By Edmund Phelps

(コメント) ケインジアンは間違っている。需要を刺激すれば、その影響が残る。新古典派も間違っている。金利は完全に下がらず、通貨価値が下落すれば投資が減ってしまう。インセンティブが歪んでいたからバブルが生じたとか、ボーナスが多すぎた、というのは説明にならない。

さまざまな間違った理論が、政策担当者を現実から遠ざけてしまう、とEdmund Phelpsは批判します。


FP Mon, 11/02/2009

Clinton-Okada summit falls victim to DPJ infighting

Josh Rogin

Asia Times Online, Nov 5, 2009

US frets over Tokyo drift

By Peter J Brown

FT November 4 2009

Roll up for Japan’s medical mystery tour

By David Pilling

(コメント) オバマの日本訪問が遅れるのは、米軍基地の乱射事件が理由である、と言いきれるでしょうか? アメリカ政府が日米会談に政治的な価値を見いだせなくなったのかもしれません。

Josh Roginは、クリントン国務長官の岡田外相との会談が遅れたことに注目しています。ゲイツ長官が普天間基地の移転問題で交渉を進展させなかったのに代わって、クリントン国務長官が来ます。これは、国防省の問題にとどまらず、もっと広い戦略を問い直すことにつながるだろう、と。米軍基地の移転合意を翻そうとする日本の鳩山政権は、イラク、アフガニスタン、中国、その他、あらゆる問題で、アメリカから新しい姿勢を求められます。

Peter J Brownは、中国との「東アジア共同体」をめぐる協調、アメリカとの太平洋とインド洋におけるミサイル防衛システムや「自衛隊」を加えた安全保障上の協調、この二つの関係を考察しています。北朝鮮問題など、オバマの訪問によって得られる約束に応じて、鳩山政権は何を約束するのか?

そして、もっと多くの日本人が心配しているのは ・・・肥満解消や美容のための薬品開発です。


FT November 3 2009

Private behaviour will shape our path to fiscal stability

By Martin Wolf

(コメント) 財政の均衡回復には、それに対応した民間部門と対外不均衡の調整が必要になる、という視点で世界的な改革を求めています。


Nov. 3 (Bloomberg)

Secret Israeli Weapon Can Fix Mideast

Amity Shlaes

(コメント) イスラエルの秘密兵器、とは何か? 投資基金Yozmaが興したハイテク企業群です。軍は安全保障上の理由で新興企業を育成し、成功しました。イスラエルは倒産に寛容で、旧ソ連圏から優秀な移民が流入しました。

同様の投資基金がイスラム教徒が多い周辺諸国にも広まっているようです。女性の社会進出や、アメリカ企業との協力関係も重要です。

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The Economist October 24th 2009

The odd couple

A wary respect: A special report on China and America

(コメント) 米中関係は、国交正常化の頃には予想もしなかった大成功をもたらした? ベルリンの壁やEU統合にも劣らず、中国の世界市場における包摂と成長は、世界の平和と繁栄に役立っています。少なくとも今まで。

米中関係は、最も深く依存した、しかも大きく政治的な価値の隔たる、利益を共有するけれど、互いを信用しない関係です。中国はアメリカに輸出し、アメリカは中国からの投資を受けて低金利で消費を続けています。金融危機後の景気対策や金融システムの再建にも、中国の協力が必要です。他方、中国経済の安定した成長にも、アメリカ経済の回復が必要です。

特集記事は、1905年のアメリカとイギリスを回顧します。文化や政治的遺産を引き継ぐアメリカの台頭は、ドイツや日本と違って、流血の争いを経ることなく、イギリスの権力を浸食して行けた、と。中国はアメリカの最大の債権国になりましたが、「G2」を議論できるほど、中国のパワーはアメリカに並ぶものではなく、市場為替レートを用いるなら、経済規模で3分の1、一人当たりGDPでは14分の1でしかありません。中国が初めての空母を建造したとはいえ、アメリカの防衛予算は中国の6倍です。

何よりも、イデオロギーの違いに加えて、米中間には安全保障上の不安があります。台湾海峡、朝鮮半島、チベット、アフガニスタン、パキスタン、いずれにおいても合意は難しいでしょう。2012-13年のアメリカ大統領選挙と中国の指導部交代、台湾における総統選挙が、国内で激しい政治対立や論争、ナショナリズムに火をつければ、こうした問題が取り上げられるでしょう。

しかし今、アメリカの金融危機にもかかわらず、中国はアメリカへのイデオロギー的な非難を抑制してきました。東アジア共同体に特別強い関心を払わず、むしろASEANとの市場開放やアフリカ、ラテンアメリカへの投資、アメリカの経済秩序回復を求めているように見えます。

中国の台頭によって、真っ先に国際政治から消滅したのは、孤立(国粋主義)を好む日本です。この特集記事において、米中関係を扱うから当然ですが、それにしても日本は全く言及されません。1970年代の貿易摩擦を緩和するために日本の自動車会社が何をしたか、1980年代の貿易摩擦を解消するために日本政府と日本銀行がどのように円高とバブルを生じ、その処理に失敗したか、がわずかに参照されるだけです。

今や、中国の自動車市場はアメリカを抜き、アメリカの自動車会社が中国を拠点にして、発展途上国の市場を開拓しようとしています。また、中国の外貨準備は日本を抜き、アメリカ政府による金融システム改革やドル安の行き過ぎを監視し、世界不況の回避に指導的な役割を担い、あるいは、外交や安全保障において独自の姿勢を世界各地で示しつつあります。

サマーズでたとえたように、金融的な意味での「恐怖の均衡」は、冷戦期の米ソ核武装による均衡に匹敵するでしょう。急速に増大する防衛予算にもかかわらず、中国がアメリカとの軍事的な均衡を達成するのはまだ先です。しかし、わずか20年後には達成するかもしれません。そして、今でも膨張するナショナリズムと安全保障上のさまざまな発火点が、予期せぬ戦争を引き起こす危険は常にあるわけです。

このまま中国が現在の趨勢を維持して20年か30年でアメリカに並ぶ、と心配するよりも、私たちはもっと自国の改革を通じて、中国と真剣に向き合うほうがよいでしょう。中国には、内部の社会対立や経済危機が政治システムの崩壊をもたらし、安全保障上の危機と難民や経済混乱が周辺地域を巻き込むシナリオや、逆に、国内政治制度の改革が始まって、ついには国際秩序の積極的な調整に参加し、平和と繁栄の信頼される指導国の地位を占めるシナリオもあるわけです。

アメリカや日本の変化は、双方向で、中国の変化と結び付いています。


The Economist October 24th 2009

Currencies: The diminishing dollar

Bank bonuses: Compensation claim

Dollar depreciation: Denial or acceptance

Splitting up banks: Too big to bail out

America’s public debt: Tomorrow’s burden

(コメント) ドル安や金融改革をめぐる論争も続いています。中国はまだ人民元を自由化しないでしょう。他方、アメリカの財政赤字と金融緩和は、このままではドル不安を意味します。ただちにドルに代わる通貨が現れないとしても、ドルから次の国際通貨を模索する動きは加速します。

The Economistは、銀行のボーナス規制に反対します。巨大銀行の分割にも反対します。デリバティブ規制やトービン税にも反対します。では、何か問題はないのか? と言えば、政府や中央銀行が金融機関に与えている補助・保証を取り除くべきだ、と主張します。

巨大銀行ほど多くの補助を受けていますから、彼らが自己資本を補充し、市場の条件で競争するとき、本当に能力の高い個人はもっと小規模な銀行に移るか、独立するだろう、と。

その反対に、補助金を与えている側、政府の赤字も問題です。財政赤字の膨張は通貨や金融システムの危機を生じますが、問題は、それが突発的か、あるいは慢性的か、です。

金融市場が世界的に統合化された結果、多くの発展途上諸国、新興市場では、激しい突発的な危機が生じました。しかし意外に、その長期的成長は損なわれていません。他方、日本のように、金融市場の発達した大国は慢性的な低成長と危機を経験します。アメリカも後者です。

アメリカは世界最強の債務国です。ドルの衰退が言われますが、アメリカが激しいインフレに陥るとは、今のところ、考えられません。他方、(日本と違って)スウェーデン(あるいは、カナダ、デンマーク)が財政赤字や金融システムを短期で修復したことと比較されますが、アメリカはスウェーデンのような通貨価値の下落で簡単に輸出を伸ばせる条件がありません。アメリカの金融危機は世界不況と一体なのです。

アメリカの状況は、やはり日本の90年代と近いわけです。しかし、産業構造や企業の革新、中国市場との関係などで、日本よりも高い調整能力を示すかもしれません。アメリカの回復はドルの覇権と一体です。


The Economist October 24th 2009

The crisis in Afghanistan: An unwanted second round

Japan’s new government: In that dawn

Banyan: Hell on Earth

Democracy in Africa: A good example

Nigeria’s hopeful amnesty: A chance to end the Delta rebellion

Botswana’s impatient president: Diamonds are not for ever

Charlemagne: A single-market celebration

(コメント) アフガニスタン、日本、北朝鮮、アフリカ(ケニヤ、ボツワナ)、EU。これらの記事から、世界各地のガバナンスを比較してください。

アフガニスタンでは、もはや腐敗したカルザイ政権を選挙で交代させるより、政治システムそのものを変更することが望まれます。日本の民主党政権は、200%から250%に向かう公的債務を無視したまま、口では財政均衡を唱えて、深刻な信認問題を引き起こします。食糧難を強制収容所で解決するような北朝鮮の政治システムを、非核化だけでなく人権も含めて、オバマ政権は根底から浸食しなければなりません。すなわち、(ブッシュ政権のイラク侵攻ではなく)ベルリンの壁と同じように、ラジオ放送の伝える情報が、国民の忠誠心を砕くでしょう。

アフリカこそ、最もガバナンスの革新が望まれ、最も幅広いガバナンスの模索が続く大陸です。ケニヤの石油は反政府武装集団によって阻まれてきましたが、新しい武装解除と免責、生活保障と職業訓練プログラムへの政治的な関与が顕著な効果を示しています。他方、ダイヤモンドの採掘において世界企業デビアスと提携したボツワナの生活水準向上は、すぐれたガバナンスの成果ですが、世界不況による需要の落ち込みと、ダイヤモンド資源の枯渇に向けた産業転換に挑戦しなければなりません。

ヨーロッパ単一市場の奇跡を、The Economistが率直に称賛しています。各国の政治権力と財源の配分を、単一市場は組み替える方針を示しています。少なくともヨーロッパ規模で。