今週のReview
10/19-24
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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アフガニスタンの戦略見直し、 ノーベル平和賞と経済学賞、 ドル安と「トリフィンのジレンマ」によるドル退位、 新しい文化大革命、 ミャンマー・北朝鮮・イランの核問題、 ニュー・ノーマルシー
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ただしBG: Boston Globe, CSM: Christian Science Monitor, FEER: Far Eastern Review, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, IHT: International Herald Tribune, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia
FP OCTOBER 6, 2009
BY GORDON M. GOLDSTEIN
(コメント) オバマ政権のスタッフたちは読書クラブを持っています。最近は、アフガニスタンの戦略を練り直すために、Gordon M. Goldstein, Lessons in Disaster, 2008.が紹介されたといいます。ホワイトハウスの読書クラブ、というのが素敵な響きです。ベトナム戦争における戦略の選択を扱った研究です。
戦死者が増加し、世論の反対が増え、受け入れ側の政府の正当性や能力が疑わしく、戦地の将軍たちは増派を強く求めている。・・・ベトナム戦争の選択と似ています。その教訓とは、「曖昧な目的のために軍を展開してはならない」です。
ケネディーとジョンソンの二人の大統領に従った国家安全保障担当補佐官、McGeorge Bundyを中心に、増派を決定した経過が語られています。
The Times, October 8, 2009
Fight this war in Afghanistan, not Whitehall
Michael Evans
WP Thursday, October 8, 2009
Testing Obama's Doctrine
By David Ignatius
WP Friday, October 9, 2009
Young Hamlet's Agony
By Charles Krauthammer
(コメント) グローバルな権利や責任に関する多くの祈りは「オバマ・ドクトリン」と呼べるでしょう。問題は、それが現実の厳しい選択に応えられるか、ということです。アフガニスタンは、それを求めています。プラグマチックな助言をする顧問ばかりで、戦略家がいない、とDavid Ignatiusはオバマ政権を批判します。
「新しい責任の時代」・・・「相互利益」、「相互尊重」。オバマ・ドクトリンとは、これらのバランスです。イラクの核開発について、平和利用を認めるが、核兵器の開発はやめるように求めます。イスラエルとアラブ諸国との平和共存を求めると同時に、イスラエルの入植地建設をやめるよう求めます。・・・しかし、それらは軽い、と。流血と情念を欠いた、美しい言葉でしかない。
オバマは「グローバルな法の支配」を求めます。ここでも、楽観的で、合理的で、実際的です。・・・それは現実を変える戦略ではない。問題解決の公式を述べているに過ぎず、グローバルなリーダーシップではない。オバマはアフガニスタンで実行できるのだろうか? 国際社会は、国連やNATOがオバマを助けています。しかし、それは限定されます。アフガニスタンの軍隊を育てること。治安を回復すること。経済を復興すること。ガバナンスを改善すること。アフガニスタン政治を通じて和解が進むこと。それらはすべて別々に行う重要な課題です。
それが困難であれば、アメリカはアフガニスタンを放棄できるはずです。しかし、オバマの理想はどうなるのか? オバマはアフガニスタンを誘導爆撃機に委ねて、見捨てることができるか?
WP Sunday, October 11, 2009
In the Afghan War, Aim for the Middle
By Richard N. Haass
(コメント) アフガニスタンの戦争を重視する理由としては、1.テロリストの拠点になる、2.人権を無視する結果になる、3.アメリカの威信を損なう、4.パキスタンが不安定化する、と主張されています。しかし、いずれも提唱者が考えるほど強力ではない、とRichard N. Haassは批判します。アフガニスタンの重要性は計算し直すべきなのです。
特に、アメリカにとって重要なのはパキスタンの安定化です。そして、そのパキスタン政府は、アメリカ軍がアフガニスタンで戦うことを、認めるけれど、それほど重視していません。
Richard N. Haassは、増派に反対します。アメリカは戦闘ではなく、もっとアフガニスタン軍の訓練や装備の増強に力を入れます。アフガニスタンのパシュトン人にもっと援助し、タリバンから分離します。カルザイ政権を支持しますが、もっと広い政治基盤を約束させます。そして、人口集中地域の治安維持に限定し、周辺の大国と協力します。
パキスタンへの援助は大幅に増額するべきです。そして、パキスタンとインドとの関係を改善するために、外交的な努力を加速します。アフガニスタンやパキスタンの平和と繁栄を実現する、という目標ではなく、もっと現実的な目標、すなわち、核兵器の管理やテロリストの国境地帯における封じ込め、などに引き下げます。
軍事的な勝利に向けて増派を繰り返す、というのは間違いです。
WSJ OCTOBER 11, 2009
The Real Afghan Lessons From Vietnam
By LEWIS SORLEY
WP Monday, October 12, 2009
What Failure in Afghanistan?
By Fareed Zakaria
(コメント) LEWIS SORLEYがベトナム戦争の敗北を見る時期や教訓はかなり異なります。
また、Stanley McChrystal将軍が大統領に増派を要請した報告書が問題視されています。Fareed Zakariaは、そもそもアメリカが敗北しつつあると考えません。なぜなら、その主要目的であるアルカイダの討伐に成功してきたからです。主要メンバーは死亡し、資金源は枯渇し、テロ組織を再建する余地はなかったからです。
ほとんど人の住まないような広大な土地も含めて、3万5000のアフガニスタン村落をすべて制圧する必要があるのか? と問います。しかも、治安が悪化している主要な理由は、カルザイ政権が腐敗し、無能であるからです。それはアメリカの軍事力で解決できない問題です。
アルカイダの中核組織はパキスタンの山岳地帯にいるのです。アフガニスタンにアメリカとその友軍が10万人も駐留し続けるコストを考慮しなければなりません。
CSM October 13, 2009
Seven steps to a secure Afghanistan
By Prince Turki al-Faisal
CSM October 13, 2009
The road to stability in Afghanistan runs through Pakistan and India
By Joshua Gross
(コメント) サウジアラビア諜報部のトップであったPrince Turki al-Faisalは、アメリカが軍事介入するこの地域をどのように見ているのか? アルカイダやテロリスト集団と、カシミール地方の紛争、麻薬貿易の問題・・・ オバマは地域のッ問題を解決することで協力を得るのです。
1.カルザイは選挙のために地方の軍閥と提携した。カルザイに代わる選択肢がないなら、批判するのは無駄だ。2.アフガニスタンの敵をアルカイダと「外国人テロリスト」と呼ぶべきだ。そうすればタリバンとも交渉できる。3.パキスタンとアフガニスタンの国境を確認し(the Durand Line)、双方の信頼とアメリカの支援で地域の開発を促すべきだ。4.アルカイダの脅威を認めているロシア、中国、サウジアラビアを加えた情報交換を行う。5.パキスタンとインドのカシミール紛争を解決する。経済援助や核協力関係をテコに、アメリカ政府が強い決意で双方に働きかければ可能である。6.遠隔誘導爆撃機による民間人の犠牲者を増やすのではなく、地上軍を展開してテロリストだけを攻撃するべきだ。7.ヘロイン取引を一掃するべきだ。(1960年代のトルコでやったようにヘロイン以外の作物を植えさせ、農民から直接に収穫物をすべて買い取ることで可能になる。)
オバマは決断し、熟慮し、選択する指導者だ。困難に直面しても使命を全うするために、自分を信じて従うように説得する力を持っている。もしアフガニスタンとパキスタンの指導者がオバマの要求を受け入れて協力すれば、パシュトン人はビン・ラディンを切り捨てる。インドとパキスタンは、アメリカが仲介することでカシミール紛争を解決できる。ロシア、中国、サウジアラビアは、アルカイダを掃討することに協力できる。アメリカがアフガニスタンの開発に十分な金融支援を行えば、アフガニスタン国民はアメリカを支持する。
Joshua Grossも、地域全体の安定化、すなわちパキスタンとインドの和解・協力を求めます。
第一に、オバマは増派を続けねばなりません。アメリカが手を引くと思えば、地域の同盟は崩壊します。アメリカが長期的に目標を実現すると示し続けることが重要です。そして・・・
パシュトン人の反発や山岳地帯に依拠してアルカイダが潜む余地を完全に排除するため、アメリカがパキスタンの軍部に働きかけるには、インドからの圧力を介して効果的に行うべきである。
「平和主義の民主党員と孤立主義の共和党員が共鳴して、アフガニスタンにおけるアメリカの国益をめぐる論争が矮小化されている。そして、迅速な撤退が避けられない、という気分が膨張している。彼らは特殊部隊と誘導爆撃機によるアルカイダへの対テロ作戦に縮小することを考えている。これはアフガニスタンにとって破滅を意味する。中途半端な国家再建がソマリアで失敗したように、アフガニスタンも同じ宿命を負うだろう。」
それは、「帝国の墓場」というアフガニスタンに墓標を増やすだけです。
FP OCTOBER 13, 2009
A Recipe for Somalia
BY RICHARD BENNET
(コメント) アフガニスタン戦略をめぐって、ワシントンやホワイトハウスの論争は増派と縮小に分裂しています。バイデン副大統領は、対テロ作戦への縮小で、財政負担を軽くし、アメリカ兵の犠牲をゼロにする、と主張します。計画は、かつてソマリアで主張されたものだ、とRICHARD BENNETは批判します。ソマリアはテロ対策としての軽度な関与政策がいかに欠陥の多いものかを示す見本でした。同じことを、もっとも危険な地域で再現するのです。
ソマリアは、単にアメリカの軍事介入が失敗した例となっただけでなく、イスラム過激派への支持が高まり、周辺諸国の不安を強め、国際機関や地域協力への信頼も破壊しました。また、各地においてアメリカの関与を疑わせたのです。
NYT October 14, 2009
Not Good Enough
By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) もしオバマがアフガニスタンとパキスタンを平和にする兵力を正確に計算できるなら、それはノーベル賞に値するだろう。平和賞ではなく、(それほど困難な政治計算を完成できる)ノーベル物理学賞だ!
アメリカが兵力や財政負担を計算できないのは、アメリカの関与と住民とをつなぐ橋となっているカルザイ政権が腐敗し、能力を欠くからです。アフガニスタンがスイスのような国でないとしても仕方ないでしょう。しかし、それでも、正当な政府がなければなりません。しかし、カルザイ政権は、ますますマフィアのファミリーに見えてきます。
If Karzai says no, then there is only one answer: “You’re on your own, pal. Have a nice life with the Taliban. We can’t and will not put more American blood and treasure behind a government that behaves like a Mafia family. If you don’t think we will leave — watch this.” (Cue the helicopters.)
SPIEGEL ONLINE 10/07/2009
Guest Commentary: Now Is the Time for More EU!
By Thorsten Benner and Stephan Mergenthaler
The Guardian, Wednesday 7 October 2009
The US has lost its focus on Europe. It's up to us to get our act together
Timothy Garton Ash
(コメント) ドイツが中心となって、外交・安全保障におけるEUの統一を強め、また、世界経済管理に占めるG20の重要性が高まる中で、EUの発言権が確立されるだろう、と考えます。
Timothy Garton Ashは、アメリカのオバマ政権とヨーロッパとの関係を描いています。オバマは多くの点でヨーロッパの世辞的価値観に近い人物です。しかし、オバマは完全に冷戦後の指導者であって、ヨーロッパが統一していくことにアメリカの特別な利益を見出していません。ヨーロッパが政治的・戦略的に統一され、アメリカとの協力関係を深めることを望むでしょうが、それに積極的に手を貸すわけではない、と。・・・こうした議論は、私たちに日本のことを再考させます。
NYT October 10, 2009
Financial Crisis Puts Europe Back in the Slow Lane
By NELSON D. SCHWARTZ and MATTHEW SALTMARSH
The Japan Times: Saturday, Oct. 10, 2009
TEN YEARS OF EUROPEAN SECURITY AND DEFENCE POLICY: EU making the world safer
By JAVIER SOLANA
(コメント) 世界金融危機の処理を巡って、ヨーロッパ諸国は政府介入を増やし、市場改革を後退させました。日本型の債務処理が続き、大きく成長を損なう危険が指摘されます。「ヨーロッパ硬化症」が再発した、と。
EU代表部の共通外交・安全保障政策the Common Foreign and Security Policy (CFSP) 担当者であるJAVIER SOLANAは、これまでの10年間で3つの大陸における20の作戦を展開した、と指摘します。リスボン条約の成功は、EUの対外戦略をさらに明確にするでしょう。
暴力の鎮圧や人権を重視したEUの介入は、従来の外交や介入に比べて、その包括的・多面的なアプローチに特徴がある、と主張します。「われわれは人道援助と制度構築とを組み合わせ、管理能力、技術的・財政的な支援、政治的対話と調停とをともなう、優良なガバナンスの構築を目指す。・・・今日の紛争はこれまで以上に、特に危機を安定化する期間、軍事的な解決策が最善の選択にはならない。」
WP Thursday, October 8, 2009 A Nobel prize for hope Daniel Levy and Amjad Atallah
The Guardian, Friday 9 October 2009 The peace prize is an incentive Gwladys Fouché
(コメント) Daniel Levy and Amjad Atallahは、オバマが受賞したのは中東和平を完成するためである、と考えます。オバマはこの受賞を、和平に向けた努力を支援するために得たものだ、と正しく理解しました。イスラエルの和平推進派であるペレス元首相も、ハマスのユセフ代表も、ともに歓迎する声明を発表しました。
オバマ大統領が中東のゲームを変化させる人物であると、誰もが期待しているのです。
ブッシュ政権のユニラテラリズムに戻らないように、世界から核兵器を廃絶できるように、ノーベル賞はオバマを励まします。
The Guardian, Friday 9 October 2009 More No-Bush than Nobel Julian Borger
SPIEGEL ONLINE 10/09/2009 Obama's Nobel Prize Is More of a Burden than an Honor By Claus Christian Malzahn
WP Friday, October 9, 2009 What Does the Nobel Peace Prize Mean for Obama?
(コメント) アメリカは再び、世界が期待するような国になった。日々、困難な選択に直面するオバマの理想を支える必要がある今だからこそ、受賞は素晴らしい、とROBERT SHRUMが支持しています。
もちろん、オバマは平和賞の半分だけもらったわけです。むしろ、温室効果ガスの排出規制法案を通過させ、イスラエルとパレスチナの独立国家並立案を合意させ、アフガニスタンの混乱から抜け出す収拾策をまとめ、インドとパキスタンが相互に核の脅威を排除し、世界が核廃絶に向けて動き始めたときに、完全に受賞するべきでしょう。
反対派から見れば、オバマはまた立派な言葉だけで称賛されるような政治家であることを示した、というわけです。
FT October 9 2009 Urgency of now?
CSM October 09, 2009 Obama's Nobel Peace Prize hangs with a heavy weight
LAT, October 9, 2009 Obama and the Nobel: He loses by winning
(コメント) オバマの国際協調路線に対して、ノーベル平和賞は授与されました。しかし、CSMの論説は、アメリカの理想が世界の多数の国では受け入れられていない、と考えます。国連加盟諸国の過半数が、アメリカの描くような民主主義を持ちません。国際協調がどのように実現できるのか? オバマの外交戦術は困難なものです。
アフガニスタンへの増派を認めるか? ノーベル賞を得たことで、オバマの困難な選択はさらに難しくなったかもしれません。
LAT, October 9, 2009 For his noble words, Obama deserves the prize Tim Rutten
The Times, October 10, 2009 Mandela, yes. Tsvangirai even. But Obama? Malcolm Rifkind
The Times, October 10, 2009 Prize fools
(コメント) 大統領になってわずか9カ月のオバマにノーベル平和賞を与えたことで、ノルウェーのノーベル賞選考委員会は物笑いの種になって、無視されるリスクを冒した、とThe Timesは書きます。この選考には政治的な意図があって公平ではない。オバマがアフガニスタン戦争に増派するかどうか決断に苦しむ、という都合の悪い受賞だった。ブッシュ政権が終わったことに安どしたヨーロッパの政治的偏向を示すものである。200に及ぶ他の候補者たちが上げた素晴らしい成果が、結局、無視されたのも不当な判断である、と。
国際協調を促すことは称賛に値するが、その成果を示したときに平和賞を授与するべきだった。これは政治的に利用されたノーベル賞である。
The guardian.co.uk, Saturday 10 October 2009 War and peace prizes Howard Zinn
The Guardian, Saturday 10 October 2009 Nobel peace prize: A call to action
NYT October 10, 2009 The Peace Prize
(コメント) オバマの受賞はアメリカ政治の分裂を鮮明に示しました。左派(オバマも戦争大統領だ)も、右派(外交による敗北主義)も、ブッシュ政権の関係者も、このノーベル平和賞を強く批判します。しかし、少なくとも、アメリカ国民はオバマを大統領に選んで、アメリカに対する国際社会の反感を和らげ、フタタ部尊敬されることを望んだのです。この受賞も、それにふさわしい成果なのです。
WSJ OCTOBER 10, 2009 The Nobel Hope Prize
WP Sunday, October 11, 2009 Winning the Prize, Losing the Peace By Ronald Krebs
NYT October 11, 2009 The Peace (Keepers) Prize By THOMAS L. FRIEDMAN
(コメント) THOMAS L. FRIEDMANは、この平和賞がオバマ個人に対してではなく、過去1世紀にわたって、世界中で平和のために戦ってきたアメリカ軍の兵士たち・男女を代表するものだ、と演説してほしかった、と考えます。
・・・アメリカ兵は、ヨーロッパをナチズムから解放し、東アジアを日本軍部から解放した。封鎖された西ベルリン市民を助け、冷戦の下で西ヨーロッパを50年間も守った。今も、パキスタンやアフガニスタンの山岳地、砂漠において、女性や少女たちが自由な人生を送れるように守っている。バクダッドの未熟な政府と選挙を守り、朝鮮半島では共産主義の北朝鮮から韓国を守っている。パキスタンの山岳地帯からインドネシアの海岸まで、人道的な救援活動も行っている。エジプトとイスラエルの安定した関係を守り、太平洋や大西洋では海上交易路を守っている。
・・・平和を守る者がいないところに、平和はない。平和、寛容、自由を守るアメリカ兵士たちを代表して、私はノーベル平和賞を受諾したい。
NYT October 11, 2009 Obama’s Prize, Wilson’s Legacy By JOHN MILTON COOPER
(コメント) 1919年のノーベル平和賞はウッドロー・ウィルソンに授与されました。オバマとの対照は興味深いです。ウィルソンは任期の最後に、しかも国際連盟の加盟を上院が通過させなかった後、精神的にも肉体的にも消耗したときに、受賞の知らせを受けました。彼は感謝しますが、受諾の演説原稿を書く体力もなかったそうです。
二人を単純に比較することはできません。その共通の偉大さは、国債外交に新しい条件を、多角的な外交の重要性を回復し、国連などの国際機関を重視するようにしたことです。ウィルソンはそれが成果を上げる機会はなかったけれど、オバマにはチャンスがあります。
FT October 11 2009 It is too early to laud Obama – or to be disappointed
FT October 11 2009 A chronic condition By Edward Luce
WP Tuesday, October 13, 2009 A Nobel for Us By Richard Cohen
FT October 14 2009 Obama’s Nobel can help him win a bigger prize By Michael Fullilove
(コメント) 保守派は嫌悪し、中道派は困惑し、リベラル派でさえ驚いた。アフガニスタンでも中東でも、オバマ外交は苦しい局面にある。ノーベル賞の選考委員会は、アメリカの外交政策(イラク、アフガニスタン、核廃絶)に受賞が影響すると思ったのだろう。しかし、そんなことはない。あるいは、アメリカ人の態度に影響する、と思ったかもしれないが、そんなこともない。むしろ、オバマが国際社会の助けを求めるときに、それを少し難しくしただけだ、とMichael Fulliloveは批判します。
もし世界が、国際協調に積極的なアメリカ大統領を好ましいと思うなら、ノーベル賞ではなく、アメリカの指導力にもっと協力して行動することで応えるしかない。
Asia Times Online, Oct 15, 2009 Great expectations By Chris Cook
WP Thursday, October 15, 2009 A Peace Prize to Share By Tom Brokaw
The Guardian, Thursday 8 October 2009
The Nobel prize for economics may need its own bailout
Jayati Ghosh
FT October 12 2009
Nobel insights
WSJ OCTOBER 12, 2009
A Nobel for Practical Economics
By DAVID R. HENDERSON
NYT October 13, 2009
Two Americans Are Awarded Nobel in Economics
By LOUIS UCHITELLE
The Guardian, Tuesday 13 October 2009
Elinor Ostrom breaks the Nobel mould
Kevin Gallagher
(コメント) ノーベル経済学賞も、政治的に利用された、という批判があるかもしれません。Jayati Ghoshの紹介は面白いです。アメリカもしくはアメリカで働く経済学者が圧倒的に多く、シカゴ大学が最多数の11人を占めます。英米出身でない受賞者は、アーサー・ルイスとアマルティア・センの二人だけです。発展途上諸国の経済に関する受賞は3人しかおらず、世界人口の比率から見て不当な配分かもしれません。また、学派や政治のバランスを取る選考も目立ちます。
今年は、Elinor Ostrom(Indiana University)とOliver Williamson(the University of California)が受賞しました。初の女性経済学者が受賞した、という話題が大きく取り上げられています。金融危機の後に経済学が何に注目するか? という観点もありうるでしょう。公共機関や企業組織の優れた統治、ガバナンスに関する研究が経済学のもっと重要な地位に付くかもしれません。市場がうまく機能するかどうかは、人間行動の理解、その組織化や制度によるのです。
ロバート・シラーのコメントが直截です。「経済学はこれまであまりにも孤立してきた。受賞者たちは他分野を渉猟することで大きな発見があることを示した。われわれは効率的な市場にこだわりすぎたために、思考を誤らせた。」
SPIEGEL ONLINE 10/09/2009
One Year On: How Iceland Is Coping With a Broken Economy
By Niels Reise
BBC 2009/10/09
Anger as Iceland battles to recover
By Ingibjorg Thordardottir
BBC 2009/10/09
Iceland looks to serve the world
By Simon Hancock
(コメント) ハーヴァード大学が選ぶノーベル賞の風刺版、"Ig Nobel"経済学(不名誉)賞にアイスランドの銀行群が選ばれました。
イギリスがテロ対策法で資産を凍結したことに対して、今もアイスランド人たちは憤慨し続けています。しかし、IMFやEUからの融資は彼らの不幸を大きく軽減したはずです。アイスランドはもちろん不況を経験していますが、アイルランドやスペインのような失業者の不満は目立ちません。それは多くの労働者が旧ユーゴスラビアなどからの移民労働者であったために、失業すれば本国に送り返された、とNiels Reiseは指摘しています。
彼らはまた、通貨の減価で輸入品の価格が上昇し、スーパーなどで買い物をするたびに経済危機を味わっているでしょう。それでも、通貨危機を経験した多くの国の悲劇には比べられない程度で済んでいます。つまり、アイスランド国民は、彼らのヴァイキング銀行たちがもたらした外国における災厄に比べて、はるかに穏やかな暮らしを送れているのです。
BBCの記事は、もっと経済危機の数字を挙げています。通貨価値は半分になり、賃金は低下し、外貨建ての借り入れは返済額が倍増しました。外貨を獲得することが大問題です。かつて、外貨は無制限に供給されていましたが、今では割当制です。国民の不満は、自動車や家に放火するのではなく、アイス・セーブをめぐる政治論争になっています。ランズバンキの預金をイギリスとオランダに対しては全額返済しなければなりません。それは国際機関などからの融資条件になっています。
他方、金融危機は人びとの社会意識を変え、自由な資本主義を否定して、北欧型の福祉国家モデルに関心が向けられています。アイス・セーブとEU加盟の問題は、互いに、政治党派を背景とした対立を強めます。また、金融ビジネスが崩壊してから、伝統的な漁業や地熱エネルギー、羊毛・織物業が復興しています。通貨価値の下落で観光業も急速に拡大しました。
アイスランドの危機は新しい経済的な機会をもたらしています。たとえば、温暖化を防止するために注目される地熱エネルギーです。あるいは、アイスランドはアメリカとヨーロッパとを結ぶ中間地点を抑えます。航空路や海底ケーブルなどに欠かせない位置です。
FT October 9 2009
A strong US needs a weakened dollar
WSJ OCTOBER 9, 2009
The Dollar Adrift
(コメント) オバマを支える国民経済会議の議長であるローレンス・サマーズが、ドル安の加速を牽制しました。「強いドルは強いファンダメンタルズによる。」そして、もちろんドル安を恐れることも、それを阻止することもないわけです。特に、アメリカがインフレを恐れていない現状では、ドル安をむしろ歓迎しています。
サマーズが見るように、こうしてアメリカが所得に見合った消費に抑えて、もっと貯蓄するとしたら、それはアジア諸国の問題になります。韓国、台湾、フィリピン、タイなどの中央銀行はドル買い介入を行っています。為替レートや国際収支の均衡化を、もっと緩やかにしてほしい、というわけです。しかし、自国通貨を安くする介入は、それ自体が国民の貯蓄を失うものであり、インフレの危険も強めるから、いつまでも続けられない、とFTは考えます。
しかし、WSTは、貿易収支よりも資本移動や投資が重要であり、ドル安は技術革新や生産性の上昇に影響する、と考えます。これはアメリカ金融市場からの資本逃避に結びつくのか?
FT October 11 2009
Making the case for a weaker dollar
By Wolfgang Münchau
FT October 11 2009
How to avoid greenback grief
By Roger Altman
(コメント) Wolfgang Münchauは、むしろ財政赤字や金融緩和の限界から、インフレなしに景気刺激できる限り、ドル安が大いに必要だ、と考えます。他方、グローバル・バランスの回復には、主要経済圏が経常収支の不均衡の上限を設けるべきだ、というFred Bergstenの主張に賛成します。
他方、ドルは国際通貨でなくなる、と考えています。その場合、ドルの暴落が回避されるべきでしょう。Fred Bergstenは、ドル外貨準備の振替勘定をIMFが設定するべきだ、と提案します。為替レートが当面ドル安に向かうことは正しく、また、ドルが国際通貨から退位することも長期的にアメリカの利益である、とすればそれが安定的に維持されるような制度を工夫します。
しかし、Roger Altmanに言わせれば、ドル危機は対外不均衡ではなく財政赤字の急増から生じるのです。アメリカは金融危機を克服するために莫大な資金を供給し、財政赤字も膨らみました。ドル安が生じるのは当然です。1978-79年にカーター政権が陥ったドル危機のように。
WSJ OCTOBER 12, 2009
Deficits and the Chinese Challenge
By ZACHARY KARABELL
IHT October 12, 2009
China and the Sickly Dollar
By PHILIP BOWRING
(コメント) ZACHARY KARABELLは考えます。債務は超大国にとっての資産である。しかし、戦後のイギリスに起きたことを思い出すべきだ。ドイツの台頭に抗し、アメリカの助けを得て、イギリスは2度の大戦争を生き延びました。しかし、1946年初め、デフォルトの危機にひんしたイギリス政府に対して、アメリカは融資(ゼロ金利で50年返済の50億ドル)を拒みました。
アメリカは2%の金利で37億ドルを融資し、ブレトン・ウッズ合意を受け入れるように求めました。それは、ポンド・スターリングではなくドルが為替レートの基準であり、ポンドも交換性を回復するように求めていました。何よりも、帝国特恵関税が廃止されて、インドなどを含む、大英帝国の死滅が求められたのです。
アメリカが中国からの同様の要求を拒むためには、経済を回復するしかない、と考えます。中国人はハングリーで、ダイナミック、失敗を恐れない。アメリカもかつてそうであった。アメリカが世界の支配的地位を維持できると思いこむなら、それはイギリスと同じ道である、と。
PHILIP BOWRINGは、中国政府にとって、今でも、為替レートの変動や資本移動の自由化は受け入れがたい要求である、と指摘します。中国を除いて、他の主要諸国は、開放型の国際貿易・決済を守るため、その責務が何であるかを自覚しています。不均衡を反映してドルが減価するとき、人民元をドルに対して安定化することは、国際経済にとって問題です。ドルが減価するときの調整コストを、国際社会は分担しなければなりません。
中国が輸出用の組み立て加工基地であるなら、世界中の多国籍企業や他のより高度な生産諸国はそれを利用するメリットを享受しました。しかし、中国が工業化の水準を上げて、競争国になってしまえば、人民元の過小評価は批判されます。むしろ、将来は、アジア経済共同体が為替レートを調整し、あるいは統一する方が好まれるでしょう。問題は、中国がそう思わないことです。
FT October 13 2009
The rumours of the dollar’s death are much exaggerated
By Martin Wolf
(コメント) Martin Wolfは、ドル暴落やハイパーインフレーションの警告を抑制します。実際、今のドル安は、危機に際してドル資産に逃避していた人びとが、市場の安定化とともに戻っているから起きたに過ぎません。金融危機が沈静化した証拠です。
ドル価格の上昇も、インフレを心配する一部の投資家がいることを示しますが、全体としてはインフレよりもデフレの心配が支配的です。しかも、ドル安はグローバル・バランスの回復に必要な条件です。・・・ここまでは普通の議論です。この先で、Fred Bergstenを念頭に、Martin Wolfの主張は国際通貨制度全体を点検します。
その要点は、「トリフィンのジレンマ」です。今さら? と思うのは間違いです。ドルに代わってユーロが国際通貨になるとしても全面的な移行は難しく、まだドルが使われるでしょう。その意味で、アジア諸国はドル安を避けようとして介入し、ドルを蓄積します。主要為替レートの安定化を合意するブレトン・ウッズUが必要になるのです。
この場合、アジア諸国がドル準備を蓄積するのは、厳密にはアメリカが短期債務と長期融資を行うことで可能です。しかし、トリフィンが指摘したような経常赤字が増えるでしょう。しかも、アメリカの金融機関が危機後のリスク回避やレバレッジ抑制を目指すとすれば、ドルによる緊急融資はアメリカの公的な融資が大きな役割を担います。
この構造の中に、新しい「トリフィンのジレンマ」が生じるのです。あるいは、新しい「クレジット・アンシュタルト」と言うべきです。中国がますますドル安を嫌ってアメリカを非難し、それはドル不安を生じます。Martin Wolfは、急激なドルからの逃避を避けるには、アメリカ政府が財政赤字を抑制し、健全性を回復すること、また連銀が独立性を維持してインフレを起こさないこと、という当然の要求を確認します。
それらは、しかし、新しい「トリフィン・ジレンマ」の中で、中国政府のアメリカ批判や政治対立によって、容易に抑えられないドル不安から危機を生じるのです。だから、アメリカはドルが国際的な役割、国際金融システム安定化のための最後の貸手、を(国際機関などに)今すぐ譲り渡す準備を始めるべきだ、とMartin WolfもBergstenに同意します。
WSJ OCTOBER 13, 2009
The Message of Dollar Disdain
By JUDY SHELTON
Asia Times Online, Oct 14, 2009
When Volcker Saved the Dollar
By David Goldman
(コメント) アメリカの保守派は、オバマ政権の大規模介入が日本の1990年代における失敗を繰り返す、1980年代のヴォルカーのマネタリスト・ショックを逃げている、という主張を繰り返します。
Foreign Affairs, September/October 2009
The Unbalanced Triangle
Stephen Kotkin
(コメント) 中国とロシアの協力関係は、アメリカにとって重要である、という議論です。中国は、かつてソ連のジュニア・パートナーでしたが、その後、アメリカのジュニア・パートナーに転換しました。そして、「和平演変」を目指して成功します。今やロシアとの関係は、膨大な工業製品を輸出し、資源と兵器を輸入して、ロシアをジュニア・パートナーにするでしょう。
アメリカにとってロシアが重要であるのは、「新冷戦」を恐れるからではなく、中国との関係を重視するからです。中露の協力関係が東アジアの沿海部における軍事支配を確立するなら、ヨーロッパのNATOに匹敵するアメリカの地域安全保障構想が、日本を含むアジアにも必要になる、と示唆しています。
WSJ OCTOBER 9, 2009
China's New Cultural Revolution
By TONY BLAIR
(コメント) アメリカが新しい「トリフィンのジレンマ」なら、中国は新しい「文化大革命」でしょうか? トニー・ブレアの政治的センスに感心します。
中国の規模と社会・政治変化の激しさ、その影響を直視して、ブレアは中国人民の前進に共感し、それに協力する道を探します。中国が変化を模索するとき、われわれが手を貸すチャンスもあるのです。最初の文化大革命が人びとに与えた苦しみを繰り返さず、新しい文化大革命が始まっていることに、ブレアは注意を促し、西側諸国と中国との関係を見直します。
・・・アメリカの広大さを思い浮かべて、それから、その4倍のものを中国だと想像する。・・・56の異なるエスニック集団を一つの結束した国家にする。・・・農業に従事する人口は、アメリカなら4%だが、中国は60%である。・・・1億5000万人以上が1日1ドル以下で生活する。・・・上海や北京はわれわれの近代的な都市と変わらない。しかし、内陸部や西域はアフリカの貧しい村落と同じだ。・・・過去25年間で、世銀の貧困線を下回る人口は80%減少し、一人当たりGDPは倍増した。・・・今や世界最大の自動者市場となり、環境に配慮した輸送システムに莫大な投資を行っている。・・・ヨーロッパ全体を合わせたよりも多くの科学者やエンジニアを卒業させている。
新しい世代が政府の主要部分にも就き、もっと未来を志向して、中国自身の歴史的な認識が変化しつつある。儒教、唐王朝、伝統的な絵画や文学の美しさ、それらが現代中国の演説や思考、生活様式にあふれている。中国映画や芸術、ファッション、ポップミュージックが隆盛しつつある。過去よりももっと健全な、21世紀の中国を生み出す新しい「文化大革命」が、すでに始まっている。
BBC 2009/10/11 China's reverse migration By Chris Hogg
China Daily 2009-10-12 Fight organized crime
LAT October 11, 2009 China's class ceiling By Ian Buruma
FT October 11 2009 The Next Asia Review by David Pilling
NYT October 14, 2009 In Recession, China Solidifies Its Lead in Global Trade By DAVID BARBOZA
(コメント) もちろん、もっとさまざまな、深刻な摩擦が、中国の内外で生じています。出稼ぎ労働者の流れ。組織犯罪者が地方政府を圧倒するか、逆に制圧されるか、という戦い。経済的な機会や富から排除される人々。
Stephen Roach の新著が紹介されています。・・・リカードの比較生産費説を根拠にグローバリゼーションを正当化する「ウィン・ウィン」論を破棄します。中国、インド、旧ソ連圏から加わった15億人の貧しい労働者たちによって、アメリカなど、裕福な諸国の賃金は引き下げられ、国民所得の分配は労働者にとって大幅に悪化しました。
Foreign Affairs
Letter From Tokyo: New Regime, New Relationship?
Kent E. Calder
China Daily 2009-10-10
Potential of Sino-Japanese ties
By Liang Yunxiang
WSJ OCTOBER 12, 2009
Asia's Regionalism Block
By MICHAEL AUSLIN
FP OCTOBER 13, 2009
The New Asianism
BY DANIEL SNEIDER, RICHARD KATZ
(コメント) ワシントンに生じている鳩山政権に対する不安や懐疑論を払しょくするために、主要なテーマで日本政府の考え方を示しています。どれも適当な説明であると思いました。
Kent E. Calderは、インド洋における海上給油問題や沖縄(やグアム)における米軍移転への日本の負担について、鳩山政権が変更を求めることについても許容するべきだと示唆しています。むしろ、もっと重要な分野で日本政府は協力する姿勢を示すからです。たとえば、マラッカ海峡のシーレーン防衛問題や、アフガニスタンやパキスタンの社会復興に関する協力で、積極的な提案を示す可能性が高いでしょう。
1970年代のカーター政権と大平政権が試みたように、エネルギーや安全保障に関する太平洋圏の問題を扱う、21世紀の賢人会議、を日米共同で組織できるかもしれません。そして日本はより積極的に安全保障における負担も引き受けるのです。
Liang Yunxiangは、中国の側から鳩山政権の東アジア経済共同体構想を好意的に紹介しています。地域の重要な貿易・金融関係を維持しているアメリカが参加しないなら、東アジア共同体など成功しない、とMICHAEL AUSLINは断言します。少なくとも、今はまだ。
DANIEL SNEIDER, RICHARD KATZの整理した鳩山政権が目指す「新しいアジア主義」も妥当な評価です。一部は、アメリカ政府自身が日中の和解を求めており、アメリカ抜きにアジアの経済成長もあり得ない、とわかっているのです。アメリカと日本は、互いにアジア戦略を立てる上で、相手を必要としています。しかし、鳩山政権はアジア市場統合に主導権を得たいし、日中間の歴史問題でも新しい認識を目指すでしょう。
Oct. 12 (Bloomberg)
Murder Doesn’t Belong on Capitalism’s Crime List
William Pesek
WSJ OCTOBER 12, 2009
Taming Mr. Kamei
(コメント) 鳩山は亀井のあからさまな投資家蔑視を改めさせるべきだ、とWilliam Pesekは注意します。亀井のナショナリズムは、時代を間違えた政治主導の経済回復モデルである、と。資本主義批判の大声など抑えて、現実から学ぶべきだ。
WSJも、銀行に必要なのは過剰な政府介入をやめることだ、と主張します。亀井を黙らせろ。
The Japan Times: Thursday, Oct. 15, 2009
Japan can learn from Silicon Valley
By RAY K. TSUCHIYAMA
(コメント)
RAY K. TSUCHIYAMAの論説は、日本経済をシリコンヴァレーに変える話です。つまり、アジアからの移民をもっと受け入れて、シリコン・ヴァレーを担う彼らの起業家精神を日本経済の起爆剤にもせよ、です。
The Guardian, Sunday 11 October 2009
Middle East: a Belgian solution?
Khaled Diab
(コメント) 中東和平のモデルを、ジョージ・ミッチェルに代表される、北アイルランド和平にではなく、ベルギー・モデルに求めるほうがよい、と主張します。しかし、ベルギー人がチョコレート以外のことで紛争に陥ったことがあるか?
ベルギー式のプラグマティズムとは、19世紀後半にベルギー社会を構成する二つの異なった集団が対立したことによって生じました。フラマン語とワロン語の集団です。彼らは夜通しでマラソン討論を行い、それが政治文化でした。彼らはどちらも完全な勝利を得られないような中間地帯を見出しました。そして、双方が武器を取るほど不満を持つことがないようにしました。
エルサレムはブラッセルと似ています。ブラッセルは権力分割と平和・統一を維持する要となっています。プラグマティズム、交渉、妥協の重要性を知ることです。結果的に、エルサレムと違って、ブラッセルはEUの首都として繁栄しています。
FT October 11 2009 Latvian contagion
The Guardian, Monday 12 October 2009 Eastern Europe's lingering crisis Thomas Mirow
WSJ OCTOBER 12, 2009 The Coming Korean Bubble By JASPER KIM
FT October 14 2009 Contagion
(コメント) 東欧諸国やバルチック諸国は急激な経済の縮小を経験しています。切下げが他の固定レート制諸国にも波及して、国際的な金融不安を拡大する、という時期は過ぎました。十分に切り下げることで通貨不安を終わらせ、安価な生産コストや輸出基地として投資を呼び寄せる、というのがラトビアの選択肢として好ましい状況になりつつあります。
東欧諸国に見られる弱点は、1.自然資源への依存、2.輸出のアンバランス、3.資本市場の小ささ、4.エネルギーの非効率的な使用、でした。それを変えようとしたEBRD(the European Bank for Reconstruction and Development)の経験と考察です。
あるいは、韓国では住宅バブルの破裂? 危機の感染は?
The Japan Times: Sunday, Oct. 11, 2009
ASEAN response to nuclear risks
By MARK FITZPATRICK
Asia Times Online, Oct 14, 2009
North Korea begins 'Plan C'
By Kim Myong Chol
(コメント) ミャンマーが北朝鮮から核エネルギーに関する情報を得ているという疑いがあります。東南アジアに拡大した核軍拡競争の不安は、ASEANとIAEAとが連携し、非核武装地域の条約(バンコク協定)、また、周辺の大国による監視協力が一層進展することで克服できるでしょう。
北朝鮮の考えを伝えるKim Myong Cholは、クリントン訪朝とジャーナリスト解放後の米朝関係を “Plan C”と呼びます。北朝鮮崩壊論は消滅し、金正日の重病説も、むしろアメリカ政府が彼の健康回復を喧伝するありさまです。すなわち、アメリカは北朝鮮の核武装を容認し、その上で国交正常化交渉に向かうつもりだ、というわけです。かつて、イスラエル、パキスタン、インドがそうであったように。
IHT October 14, 2009
Changing North Korea
By ANDREI LANKOV
(コメント) 他方、Foreign Affairs, Nov./Dec. 2009 から転載されたANDREI LANKOVの論説は、ある意味で、同じような戦略の転換を支持しています。
冷戦においてアメリカが勝利したように、北朝鮮に対しても、経済的な取引と利益を(現体制の関係者に)享受させ、情報の自由な交換(ラジオ、ビデオ、パソコンの普及)を促し、既存の政治支配層に代わるエリート(実際には韓国に逃れてきた脱北者)を支援し養成することが重要です。それを「宥和政策」として拒む強硬派は、それ以外に北朝鮮の変化を促す手段がないことを認めるべきでしょう。
情報を統制することで、現体制が「地上の楽園」を国民に実現している、という宣伝は溶解します。経済取引から情報の交換へと進めば、時間をかけて、しかし確実に、北朝鮮は経済的な格差に気付くでしょう。
The Guardian, Monday 12 October 2009
Take America back from the banks
Dean Baker
NYT October 12, 2009
Misguided Monetary Mentalities
By PAUL KRUGMAN
(コメント) アメリカ銀行協会の年次総会が開催されるシカゴに、金融救済策や不況に強い不満を持つ労働者・コミュニティー・消費者の団体が抗議するため集まりました。ノーベル平和賞を得たオバマは来ないけれど、これこそ彼が戦うべき戦争だ。
Dean Bakerが見ている、エリートたちと幅広い市民との戦い。民主的な要求に対する説明責任を求める連銀の改革、金融破たんがもたらした経済コストを負担する投機的な利益への課税・・・
PAUL KRUGMANは、経済政策論議に広まる「金本位制のメンタリティー」を批判します。P.テミンに従って、大恐慌を拡大したのは国際金本位制の強いるデフレ政策だった、と考えます。今、金本位制が復活することはないでしょうが、同じような、インフレ懸念や財政緊縮を求めるメンタリティーが広まっています。
たとえば、ドル安をアメリカ没落への前兆とみなして、何らかの政策変更を、特に、金融引き締めを求める圧力です。
FT October 12 2009
To avoid crises, we need more transparency
By Lloyd Blankfein
Oct. 14 (Bloomberg)
Time to Hire Bernard Madoff to Run U.S. Treasury
William Pesek
NYT October 14, 2009
That Promised Financial Reform
(コメント) 金融危機の再発を防ぐには、何が必要か? 金融取引の透明性、マドフの二重帳簿、オバマの金融制度改革? 650億ドルのポンツィ・ファイナンスを育て上げたマドフ(メードフ、と発音されますが、過去の記録に一致させます。あしからず。)は、今や懲役150年の刑に服しています。しかし、ガイトナー財務長官に必要な才覚とは、まさにマドフをも超えるような天才です。だから、マドフを監獄から出して、財務省顧問に抜擢します。
FT October 12 2009
Hazards of doing business in Africa
(コメント) 資源の豊かなコンゴやギニアは、ボツワナやタンザニアの成長から何を学ぶべきか? 中国、韓国、日本、などが資源を求めて積極的にアフリカへの投資を増やすとき、彼らは短期的な利益に導かれた契約を、もっと長期的な利益にしたがって再交渉する機会が与えられます。ただし、あまりにも極端な要求は海外投資家を警戒させるでしょう。
FT October 13 2009
A different regime change in Iran
By Richard Haass
WP Thursday, October 15, 2009
How to Engage Iran
(コメント) ある朝、目が覚めたら、カナダとベルギーは核兵器を保有していた。れわれは破滅だと驚愕し、恐怖するだろうか? とRichard Haassは書き始めます。核拡散は、すべて同じ安全保障上の意味を持つわけではないのです。重要なのは、イラン(やイスラエル)がどういう国(その行動を決めるもの)であり、アメリカにとってどのような政治的意味を持つ国か、ということです。
Richard Haassは、正確に、アメリカが持つ選択肢の欠陥を検討します。核施設への空爆、核武装したイランの抑止、あるいは、安全保障や経済条件に関する誘因(と制裁)を示した説得、です。説得は、優れていますが、確実ではありません。
国際協調した制裁の目的は、国際的な監視の下でイランがウラン濃縮や核開発をすることを否定することではない。イラン国民を苦しめることでもない。イランの平和や繁栄にとって、核施設は必要ないし、コストも大き過ぎると理解させることです。イランの体制は国民に説明しなければなりません。
革命防衛隊に下から圧力が強まれば、聖職者、改革派、軍部、一般市民の関係がもっと合理的な連携に変化して、核兵器を保有したとしても恐怖する必要がない体制に変わるかもしれません。
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The Economist October 3rd 2009
A “new normal” for the world economy: After the storm
The long climb: A special report on the world economy
(コメント) 世界経済特集を読みながら、アメリカ発のバブル崩壊が日本型のバランス・シート不況になる、という不安を、竹中平蔵の銀行資産チェックによって乗り切れるか、という話だな、と思っていました。(市場原理を解くだけであれば、ガッカリです。)
しかし、財政赤字による投資・消費の減少分を吸収する(リチャード・クーの)政策も、世界的な不況を回避するために支持され、伊藤隆俊がアメリカの金融危機対応について、これらはすべて日本でもやったことだが、日本より4倍速い、と述べたとか、日本よりスウェーデン・モデルが称賛されたことを批判した(銀行を国有化して最終的に利益も出すような処理だが、小国・小バブル・減価・輸出ブーム、という好条件を利用できた)という叙述に目を留めました。日本は土地バブルと企業の債務処理だったけれど、アメリカは住宅バブルである(だから企業の生産力や投資は回復しやすい)、という指摘を、なるほど、そうなのか、と思って読み流していました。
民間でも政府でも、長い債務処理の停滞期が続くのか(ニュー・ノーマルシー)、あるいは、中国が急速に回復する、という話に期待するのか・・・ と思っていたら、最後になって一気に面白くなりました。
記事は、「ニュー・ノーマルシー」を革新的な世界投資によって回避せよ、と呼びかけているのです。それはしかも、オバマのグリーン・ニュー・ディールではなく、新興経済における活発な投資機会を世界の貯蓄や新興企業が充足する、というイメージです。
その話にも仕掛けがあります。世界金融危機をもたらした不均衡は、ウォール街ともたれ合ってきたアジアの外貨準備累積である、と。そこには、需要が伸びる中で活発な投資を行う新興諸国が生産性を急速に改善し、成長率を高く維持できる、という新興市場開発のエッセンスがありました。ロドリクがこの点を強調し、グローバル・バランスを回復するために、通貨の人為的な過小評価と対ドル固定化をやめて、市場を活用した、積極的な産業政策を提唱している、というのは、とても興味深いです。
この点で、崩壊した英米金融市場は、日本型長期停滞など吹き飛ばして、新興市場の産業政策に活発に投資せよ、とThe Economistは主張しています。新興諸国は、旧産業の衰退する富裕諸国から、多国籍企業の直接投資を吸収し、ヴェンチャー・キャピタルによる企業の育成にも大きく門戸を開放するチャンスなのです。
The Economist October 3rd 2009
China’s other face: The red and the black
The Russia-Georgia war: The blame game
Asian currencies: Hot air
Economics focus: The dog that didn’t bark
(コメント) 中国の闇社会について、グルジア戦争について、アジア通貨の方針転換について、中央銀行・金融監督部門のインセンティブ不整合について、考察しています。