IPEの果樹園2009

今週のReview

9/21-26

IPEの風

*****************************

世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

******* 感嘆キー・ワード **********************

9・11記念、 9・15の教訓、 金融危機後の政府:Anatole Kaletsky; Will Hutton; Adam Posen、 アフガニスタン、 オバマの保護主義、 日本民主党政権、 エンゲイジメント戦略、 カリフォルニア

******************************

ただしBG: Boston Globe, CSM: Christian Science Monitor, FEER: Far Eastern Review, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, IHT: International Herald Tribune, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia


LAT September 11, 2009

9/11 showed us who we can be

By Rebecca Solnit

(コメント) 約2600人が犠牲となりました。アルカイダはニューヨークのツイン・タワーを攻撃し、建物が倒壊、一帯が汚染され、世界経済に混乱をもたらしたのです。しかし、市民の誇りは失われなかった、とRebecca Solnitは考えます。

旅客機が爆弾と化し、ビルが燈火となって、粉塵と煙によって闇が訪れました。人びとは恐れたけれど、パニックは起きませんでした。多くの人々が互いに助け合って、避難したのです。マンハッタン南端部~非難した人口は30万人から50万人に達しました。

北棟の87階で働いていたAdam Mayblumは仲間たちと地上までのがれた後、インターネットに書き込みました。「やつらはわれわれを恐れさせることに失敗した。われわれは冷静だった。・・・攻撃によって我々は団結した。アメリカに対するテロ攻撃は、この点で失敗だった。」

多くのニューヨーカーが連帯感を示しました。それは、多くの災害において人類が示す感情です。人びとは恐怖に駆られて、避難しました。しかし、パニックにはなりませんでした。

灰燼の中でパキスタン出身の若者Usman Farmanが倒れたとき、ユダヤ教徒の男性が立ち止まり、「兄弟」に手を貸しました。

ニューヨーク消防署のリクルーターであったErrol Andersonは、粉塵の覆う屋外に立っていました。何も聞こえなかった、と言います。・・・自分は死んだか、別世界にいる、と感じた。生き残ったのは自分ひとりだ、と思った。何も見えず、何をすべきかもわからなかった。パニックになりそうだった。そのとき、若い婦人の声が聞こえた。彼女は泣いており、「主よ、私を死なせないで下さい。助けてください。・・・」と言った。

私は言いました。「話し続けなさい。話し続けてほしい。私は消防士です。あなたのいる方へ向かって、必ず見つけ出します。」 そしてついに見つけて、二人は一緒に避難しました。知らぬ間に手を取り合って。

ニューヨーカーたちは、あの日、テロに勝利しました。その時に示された冷静、強固、寛大、創意、親切において。

もしその後の8年間も、それが続いていたらどうなったか、と思わずにはいられない。ステレオタイプ化、欺瞞、捏造、恐怖を煽る宣伝、そういったブッシュ政権の行動は、われわれを傷つけた。すなわち、アメリカ人、イラク人、アフガニスタン人、他にも多くの人々を。

犠牲者地のことを忘れることはない。しかし、普通の市民たちが非常時において助け合い、平和のうちに共存する姿を思ってほしい。市民社会は、あの朝、輝きを取り戻した。われわれが何であったか、何になりうるかを、思い出すべきだ。

Asia Times Online, Sep 11, 2009 Fifty questions on 9/11 By Pepe Escobar

SPIEGEL ONLINE 09/07/2009 Eight Years after 9/11: The Bloody Legacy of Cheney's Failures By Gerhard Spörl

NYT September 11, 2009 After the Storms, an Island of Calm — and Resilience By ERIC SANDERSON

China Daily 2009-09-11 Attack that sowed seeds of new world order By Chen Xiangyang

(コメント) 中国から見たとき、9・11はアメリカの時代の頂点が過ぎ去ったことを示すわけです。イラク戦争、アフガニスタン戦争は、アメリカを急速に疲弊させています。

脱冷戦の国際秩序は新しい変化の局面に入りました。それは昨年のロシアとグルジアの戦争にも示されています。また金融危機は、アメリカと新興経済勢力の台頭によって生じた不安定さを示しています。アメリカの覇権とイスラエル寄りの立場は、イスラム原理勢力と激しい対立を生じていました。しかし、ブッシュ政権は復讐を目指しました。

ブッシュ政権は国際社会が示した同情と支持を利用して、テロを名目とした先制攻撃、体制転換、ユニラテラリズムを追求したのです。大量破壊兵器やテロ支援を理由に始めた長期の二つの戦争は、冷戦後のアメリカの覇権が終わることを示すでしょう。

そしてオバマ・ドクトリンは、グローバルな問題を解決するために、アメリカが他の大国との協力を必要とすることを明確に認めました。


SPIEGEL ONLINE 09/11/2009 One Year After Lehman Brothers' Bankruptcy: The Flight from Risk By Ben Steverman

IHT September 12, 2009 Beyond the Crisis By JOHN REID

(コメント) JOHN REIDは、リーマン・ブラザーズが倒産した影響を国際秩序に見出します。政府に対する抗議デモが起きた国は、ブルガリア、ギリシャ、アイスランド、ラトビア、などに及びます。

金融システムが世界的に融合し、その中でデリバティブを利用した複雑な商品が取り引きされるようになっています。そのことが大きな破壊的影響を及ぼすことを、リーマン・ブラザーズの倒産は示しました。そして、デリバティブは金融の「大量破壊兵器」である、と言ったバフェットの予言が的中したわけです。

JOHN REIDは、金融犯罪が個人だけでなく、犯罪組織や企業、そして国家によっても行われているだろう、と問題を示します。その複雑さと不透明さが増す金融市場の影響は、国家や国際秩序の安全も脅かすのです。これに対抗できるような金融規制や政府・国際機関の側の能力が求められます。

「その目標は、グローバリゼーションや金融革新が世界中で実現している生活水準の向上を不当に妨げることなく、われわれをショックから切り離す、より良い方法を見出すことである。」

The Observer, Sunday 13 September 2009

A year after Lehman, the pain remains

Jeffrey Sachs

(コメント) 2008915日から17日のたった3日間で、リーマン・ブラザーズが倒産し、AIGが政府に救済され、メリルリンチはバンク・オブ・アメリカに吸収されました。

危機は回避されましたが、問題は残っています。中産階級は多くの資産を失い、消費を抑制して企業の生産を減らし、失業・不況が深まっています。石油や食糧価格の高騰も苦しみを強めます。

Jeffrey Sachsは、世界中で財政刺激策に関する論争が起きているけれど、住宅債務の返済に消えるだけなら減税策の効果は薄い、と考えます。また、将来の増税を心配するなら、一層、効果は失われます。

むしろ、選挙戦でオバマが主張した「グリーン・リカバリー」を実行する時だ、と考えます。再生可能エネルギー、殿堂輸送手段、効率的な「グリーン」ビルディング、環境に健全な農業、などに投資します。ところが、財政赤字の不安を論争の焦点になって、投資の目的を見失っています。

消費が抑制される分を政府が補う必要があるのだから、これをグリーン・エコノミーの建設と普及に利用するべきだ、と。

The Observer, Sunday 13 September 2009 After Lehman Brothers' fall, we must look beyond the banks Alistair Darling

FT September 13 2009 The legacy of Lehman Brothers

FP SEPTEMBER 14, 2009 Bouncy Castle Finance BY MARK BLYTH

The Guardian, Monday 14 September 2009 Lehmans – one year on: have we learned the lessons?

(コメント) 教訓は学ばれたか? という質問に、グローバルな賢人たちが応えています。

Gavyn Davies 金融機関はリスクを強くするようになった。しかし、記憶は短いから、政府は協力して自己資本規制を資産価格の変動に合わせて調整することに合意するべきだ。

Andrew Graham イデオロギーの崩壊が起きた。しかし、改善策は何も実現していない。

Jayati Ghosh 悪化した。正しい規制なしの救済によって、モラル・ハザードが強められた。ますます大き過ぎて潰せなくなった。社会的な好ましさよりも短期的な利益が求められる。資本主義の支配についてパワー・シフトが起きなかった。

Robert Skidelsky 将来は不確実で、危機は再来する。経済学には根本的な改善が求められている。高度な数学が経済学に間違った信念を広めた。リスクは計算できなくなって、不確かさにおびえ、取引が停止した。政府と規制が市場の崩壊を防ぐしかない。

Barry Eichengreen 危機の分析は進んだが、改革は進んでいない。1.金融市場の一部しか監督されておらず、規制が不十分である。モラル・ハザードが深刻だ。2.デリバティブ取引の増大によるカウンター・パーティー・リスクを解決しなければならない。清算所を設けるより、取引の組織化・標準化が有効だろう。しかし、改革の目指す方向は逆だ。

Bill Emmott 日本の90年代の経験が正しい教訓を示している。1.問題があることを認める。2.公的資金を投入し、必要なら国有化する。3.景気を悪化させないように金融・財政政策を積極的に使う。さらに、4.刺激策を逆転するのが早過ぎてはならない。5.金融機関に新しいルールを早く示して、ビジネスの再開を促す。

Ann Pettifor ブッシュ=ポールソンの遺産が引き継がれた。株価でバブルを起こせば、危機は終わる(国有化も、低利融資も必要ない。賃金の下落も、銀行部門のボーナスも問題ない)、と。金融部門の支配を再生することが最優先されている。銀行のバランス・シートが悪化し、経済が湯割っていることも無視し、2010年にも起きる銀行危機に取る政策はもう残されていない。

Aditya Chakrabortty 決済や融資を扱う銀行は、水道や公共輸送手段と同じ、基本的な公共部門である。しかし、政府はイギリスの金融サービス部門にある競争力を損ないたくない、と言うばかりだ。それなら、グリーン・エコノミーへの投資など、もっと公共財を供給させるべきだ。

Bethany McLean 短期思考が今も支配している。金融機関はさらに巨大化し、モラル・ハザードは強められた。改革は起きていない。

The Guardian, Monday 14 September 2009

For all Obama's talk of overhaul, the US has failed to wind in Wall Street

Joseph Stiglitz

(コメント) われわれの集団的努力は間違っていたし、十分でなかった、事態はもっと悪化している、という不安をJoseph Stiglitz抱いています。そもそもリーマン・ブラザーズが倒産したから金融システムがマヒしたのではなく、リーマンは間違った融資や金融監督の結果なのです。

リーマン・ショックは、問題が起きてから救済するのではなく、問題が起きる前に金融制度を改革する方がよかった、ということをわれわれに教えています。しかし、金融市場の短期的な売買による利潤とボーナスのシステムは変わらず、優れた金融サービスにではなく、政治家へのロビー活動に投資していたわけです。

Stiglitzは、銀行の救済が、その銀行家や株主、債券保有者を救済することではない、区別します。融資に失敗した銀行の株主はすべてを失うべきなのです。ところが政府は、システム危機を理由に彼らをすべて救済してしまいました。その後も、銀行の規模は大きくなって、大きなリスクを取り、結び付きを強めています。

連銀や財務省はもっと有能でなければならない、というわけです。

The Guardian, Monday 14 September 2009 Heroes of Wall Street Dean Baker

The Guardian, Monday 14 September 2009 Greed is not good for the economy Tony Dolphin

The Guardian, Monday 14 September 2009 Don't regulate banking – liberalise it Anthony Evans

NYT September 14, 2009 Reforming the Financial System

(コメント) ホワイトハウスと議会で、金融改革案の調整が行われています。新しい制度では、規制の包括的な適用を進め、損失に応じて自己資本の必要な率を変化させるでしょう。NYTは、行政府と立法府との争点を整理します。

消費者保護。不健全な融資行動が現れたら、初期に厳しく取り締まるべきでした。銀行の利益は安全性や健全さの証明ではなかったのです。政府はConsumer Financial Protection Agencyを提案しましたが、議会(そして、背後の金融業界)は政府規制を嫌います。

デリバティブ。数兆ドルに及ぶデリバティブの取引は金融危機の源泉でした。2000年の規制緩和でデリバティブは、逆に、投機の手段となり、リスクを増幅させた、と記事は批判しています。政府案は、厳格な規制を求めているが、抜け穴が多い。デリバティブを二つに分けて、標準化したデリバティブに規制を強めた。また、ヘッジ・ファンドなどのデリバティブを規制から除外した。

システム・リスク監視。政府は連銀の役割を拡大しようとしている。しかし、議会(そしてNYT)は反対しています。なぜなら連銀の金融政策はシステム・リスクの一部だから。住宅価格のバブルはそれを示しました。また、連銀は銀行の立場と近すぎて、システムを客観的に監視できません。

監視機関よりも、これまで行われてきた規制緩和を見直して、新しいルールを作ることだ、と記事は主張します。また、巨大化した金融システムを改革する長期的な見通しが必要だ、と。

FT September 14 2009

Why a Lehman deal would not have saved us

By Niall Ferguson

(コメント) リーマン・ブラザーズの倒産は避けられたし、避けるべきだった、という論者が多くいます。元連銀副議長のアラン・ブラインダーも、フランスのChristine Lagarde財務長官も。ダヴォスの世界経済フォーラムでNiall Fergusonはこれに反対しましたが、支持者は少なかった、と。

リーマンが倒産しなかったら、金融ひっ迫はなく、住宅価格や株価の暴落は起きず、大統領選挙でオバマが地滑り的な勝利を収めることもなく、マッケインが大統領になったかもしれない? そしてマッケイン大統領は、大規模な財政刺激策など採らないし、医療保険制度を改革したいなどと言わない。イランの民衆デモをアメリカは支持し、アフマディネジャドは大統領になれなかった?

しかし、こうしたあり得たかもしれない世界をいくら想像しても、現実のニック・ファルドの決定は変えられません。彼は帳簿上で不動産の価値を過大評価し続けたし、リーマンを売る気などまったくなかった。

しかし、また違う世界であれば、違う財務長官や違う連銀議長がリーマンに資金を与えて、(ベアスターンズでやったように)商業銀行と売買契約を結ばせたかも知れません。あるいは、リーマンを国有化したかもしれません。

Niall Fergusonは、現実の世界はパラレル・ワールドにはならなかったことを考えろ、と主張します。もしリーマンが倒産しなくても、違いはないのです。リーマンは一部であって、金融危機の流れは同じです。それがTARPの7000億ドルを要したのです。もしTARPが議会で拒まれたら、シティグループが倒産したでしょう。その規模は、リーマンどころではない。

歴史に「もし」を考えることは正しい。しかし、「もしリーマン・ブラザーズが倒産していなかったら」というのは無意味な仮定だ。

The Times September 15, 2009 The Lehman Collapse: One Year On

BBC 2009/09/15 Bank crisis lessons 'not learned'

Sept. 15 (Bloomberg) Obama Invites Same Meltdown He Promises to Avoid Amity Shlaes

LAT September 15, 2009 A rebuilt Wall Street

SPIEGEL ONLINE 09/15/2009 02:17 PM Niall Ferguson on the Ascent of Money

'We Need New Banks'

WP Tuesday, September 15, 2009 The Wall Street Casino, Back in Business By Eugene Robinson

(コメント) ウォール街の利潤が再生しボーナス文化も生き残ったことに対して、今なお増大する失業者たちや、財政赤字を支払い続けねばならない納税者は、オバマ政権を批判します。しかしまた、不動産価格の上昇は広がらず、銀行は不良債権に苦しんで次の危機を準備している、と警告されています。

ウォール街のギャンブラーたちを処罰せよ、という声が再び高まりそうです。

FT September 15 2009

Do not learn wrong lessons from Lehman’s fall

By Martin Wolf

(コメント) 20089月に将来の見通しを聞かれて、「石油価格が安定すれば、我々は実物経済に大きなコストを強いることなく、金融危機をやり過ごせると思う」と、IMFの調査局長に指名されたOlivier Blanchardは応えました。そして、それはすぐに間違っていたとわかります。

金融システムは政府と中央銀行によって支えられたのです。その規模は(IMFの推定額)、米欧英で8兆9950億ドル(!)です。流動性の供給、資産の買取、債務保証。こうして納税者が、望まずして、壊れた金融システムの債権者になりました。

リーマン・ブラザーズ倒産による間違った教訓とは、結局、危機においてはシステム全体を(味噌もクソも同じく)救済するしかない、とか、空前の金融緩和・財政支出による刺激策には十分な効果があった、というものです。

もしリーマンが倒産しなかったら、これほど極端な措置はとれなかった、という意味で、リーマン倒産は必要だった、という意見があります。Niall Ferguson がそうであり、Martin Wolfもそれを認めます。だからこそ、正しい教訓は、金融機関の倒産を可能にすること、です。それは金融機関の「支援された安楽死“assisted euthanasia”」と呼ばれます。

第二の間違った教訓は、バブルは予測できないから予防的な引き締めはせず、事後的な緩和策で対応する、という古い態度(グリーンスパン)に戻ることです。また、第三に、世界経済は均衡に向かっている、という楽観も間違いだ、と批判します。

危機後の私たちには、Blanchardによれば、公的支出から民間投資や消費に転換し、国際的な不均衡を調整する、という課題が残っています。

WSJ SEPTEMBER 15, 2009 Lehman and the Financial Crisis By JOHN H. COCHRANE AND LUIGI ZINGALES

Asia Times Online, Sep 17, 2009 A deluded G-20 By Hossein Askari and Noureddine Krichene

NYT September 17, 2009 E.U. Seeks Global Agreement on Bonus Curbs By STEPHEN CASTLE

(コメント) シカゴ学派や正統的な資本主義の考え方に従えば、金融機関の救済も、景気刺激策も、危機を緩和できないし、むしろ悪化させるでしょう。政府や連銀が深夜2時に少数の関係者を集めて会議を開くようなシステムは、結局、危機を繰り返すのです。正しいルールを決めて、銀行を倒産させよ、と。

他方、ヨーロッパの求める銀行部門の報酬に対する監視や処罰は、G20で英米政府の姿勢と対立します。

The Guardian, Thursday 17 September 2009

The rich still run the US

Mark Weisbrot

(コメント) 不正や腐敗は所によって異なった形を取ります。アメリカでは、判事や税官吏に賄賂をわたすことは多くないでしょう。しかし、選挙において献金することは合法です。医療保険制度改革への反対でも、金融制度改革の骨抜きでも。

リーマン・ブラザーズの倒産から1年が経っても、金融改革は進まず、公的な支援を受けて銀行家たちのギャンブルは復活しています。金融改革は、クリントン政権以来、常に右派の圧力を受けて、富裕層に有利な形で富の分配を変えてきた、とMark Weisbrotは主張します。

オバマ政権は、金融制度改革、医療保険制度改革、労働組合の再建、によって、このバランスを回復しようとします。

SPIEGEL ONLINE 09/17/2009 One Year after Lehman: It's Business as Usual Again for Wall Street's Casino Capitalists

(コメント) 時間とともに金融改革の論争を追っています。

FT September 16 2009 Asia banks for a world turned upside down By David Pilling

FT September 16 2009 A tax on finance to help the world’s poor By Bernard Kouchner

The Times, September 18, 2009

9/15 is another date we should never forget

Anatole Kaletsky

(コメント) 「リーマン・ブラザーズの倒産で、多くの人が無用な失業を被り、多くの住宅が無用な差し押さえにあい、何兆ドル、ポンド、ユーロも、世界中の政府が無用な債務を負った。」

Anatole Kaletskyは、それらが無用(needless)であった、と強調します。もしリーマンが秩序ある仕方で倒産できたら、そのような失業やホームレス、政府債務は発生しなかったでしょう。

それは避けられなかった、という者は間違っている。たった24時間後にはAIGを救済した。リーマン倒産を容認したのは、ブッシュ政権が、イラクとアフガニスタン、そしてニューオーリンズで示した失敗を超える、莫大なコストをもたらした歴史的な政策ミスであった、と。金融危機でも、戦争と同じように、健全な指導力が最も重要です。

さて、ポールソンもラムズフェルドも去りました。モラル・ハザード、世界的な不均衡、金融政策の目標について、多くの論説が書かれています。しかし、リーマン・ショックのもっと長期的な意味は、市場変動と政治イデオロギーとの共生関係を再認識させたことだ、とAnatole Kaletskyは考えます。

30年前にマーガレット・サッチャーがその誕生を宣告した市場原理主義の時代が終わって、世界資本主義の新しい局面に入った」。リーマン・ショックはこの転換を促しました。

その特徴とは何か? 1.市場経済は積極的な政府介入を必要としている。2.金融危機は政府の積極的な需要管理を必要にする。

その政治的な含意は明らかです。3.合理的な市場というドグマが消えて、人びとは倫理的な問題を議論し始めました。企業重役たちの高額報酬について、所得分配について、環境規制と補助金について、など、以前は門前払いされたはずのテーマです。市場の力が現実を支配していました。今では、住宅債券や石油などで投機することを規制するなど、政府がミクロの経済決定にまで関与します。

しかし、金融危機は市場の失敗であると同時に、政府の失敗でもありました。すなわち、4.経済は、本質的に、何が起きるか予測jできない、とすべての人が認識した。市場も政治家もともに間違いうる。そして、このことを認めるなら、国家は麻痺している場合ではない。国家を強化しなければならない。

小さな判断ミスを正すとき、市場は迅速に機能します。しかし、群集心理が投資家をとらえると、市場は失敗を増幅します。同様に、民主的な競争は小さな失敗を正すけれど、イデオロギーが支配すれば、民主主義は失敗を増幅する、と。

・・・急速に移動し、相互依存し、予測不可能な世界では、懐疑と実験と柔軟さが決定的に重要だ。イデオロギー的に柔軟で、失敗を認めることが、政治家と中央銀行家の基本的な美点となる。それはビジネスマンや資産運用家だけの美点ではない。

・・・以上のような教訓を学べば、政府と金融とビジネスとの新しい関係が構築されるだろう。金融政策も規制も、経済理論も、それに従う。サッチャー=レーガンの市場原理主義は払しょくされて、危機後の世界に、新しい資本主義の種族を生み出す知的な成長が始まるのだ。


NYT September 11, 2009

To Save Afghanistan, Look to Its Past

By ANSAR RAHEL and JON KRAKAUER

(コメント) アメリカを中心とした多国籍軍によって守られた選挙結果は、余りにも多くの不正と、投票率の低さによって、新大統領の正当性を損ないました。新政府が各地の軍閥と権力を分け合うことでは、民主主義や短期的な平和を得られません。このまま、西側が多くの兵士を送っても、アフガニスタンの政治は安定しないでしょう。

国民政府の正当性を確立する、新しい指導者の選出が必要だ、と論説は主張します。それはアフガニスタンの伝統的な部族会議、ロヤ・ジルカです。それは憲法にも認められ、パシュトン族の伝統に長く根を張った制度であり、しかも西側の代表民主主義とも矛盾しないでしょう。

アフガニスタンの政治情勢を変え、再出発に向けた希望をよみがえらせる、と。

FT September 11 2009 Crisis in Kabul

(コメント) カルザイの支持者が過半数を得ようとして行った不正投票は、アメリカなどの予想をはるかに超えるものでした。タリバンは選挙を破壊することに失敗しましたが、その代わりに、カルザイがそれを実現した、とFTは批判します。選挙委員会が選挙結果の無効を宣言すれば、再投票(あるいは、決選投票)が必要になります。そのための西側の支援が続けられるべきです。

FP Mon, 09/14/2009

Withdrawal without winning?

By Robert Jervis

(コメント) Robert Jervisは、アメリカが勝利しないまま撤退する選択肢を検討します。オバマのアフガニスタン戦争遂行は、大統領選挙において「タフ」な姿勢を示すために主張したことであって、冷静な分析の結果ではなりません。

たとえタリバンがアフガニスタンの南部や東部を支配しても、その住民にとって害をもたらすとしても、彼らがアメリカを直接に攻撃するとは信じられない。むしろ、2001年以前に起きたように、アルカイダの拠点となるかもしれないが、タリバンはそれが再現することを望まないだろう。ソマリアでも、パキスタンでも、その意味では非常に危険である。

米軍の「撤退」とは何であり、アルカイダの「基地」とは何か? アルカイダがアメリカを攻撃するために、アフガニスタンの基地が必要か? アメリカは地域に米軍を駐留させているし、空爆でも対応できる。情報収集能力がどの程度低下し、どの程度は補えるのか? アフガニスタンで勝利しなければ、アルカイダを抑えられない、という議論は非常に浅い。

また、パキスタンを安定化するためにアフガニスタンを安定化しなければならない、と主張されています。Robert Jervisは、この現代的な「不安定な辺境」理論も、十分な根拠がない、と退けます。そして、第三の議論は、ベトナム戦争でも繰り返された、アメリカへの信頼を世界中で損なう、というものです。これはさらに根拠がない、と。それぞれの事態は独自に進行しており、誰が、どのような影響を受ける、と主張しているのか?

もっと現実的に政策を評価して、重要な戦争の選択を再検討するべきです。

WP Monday, September 14, 2009

Time to Deal in Afghanistan

By Fareed Zakaria

(コメント) Fareed Zakariaは、9・11以後にテロ攻撃が再発しなかった最も大きな理由は、アメリカ軍がパキスタンとアフガニスタンで戦争し、アルカイダを奥地に追い込んだからだ、と主張します。だから、撤退の選択肢はありえない。

しかし、オバマのように増派も正しくない、と考えます。アフガニスタンの安定化にはパシュトン人と協力する必要があり、それには話し合う(取引する)ことです。かつてイギリスが占領時に行ったように、パシュトン人の支配権を認め、彼らを買収し、地代を支払います。また他の指導者を見つけることもなく、カルザイを非難するのもやめるべきだ、と主張します。

The Japan Times: Monday, Sept. 14, 2009 An advantageous U.S. exit By BRAHMA CHELLANEY

WSJ SEPTEMBER 13, 2009 Only Decisive Force Can Prevail in Afghanistan By LINDSEY GRAHAM, JOSEPH I. LIEBERMAN AND JOHN MCCAIN

FP SEPTEMBER 15, 2009 Don't Waste the Afghan Election Crisis BY DANIEL MARKEY

The Guardian, Thursday 17 September 2009 We are on the brink of failure in Afghanistan. This is our last chance Nick Clegg and Paddy Ashdown

WP Thursday, September 17, 2009 Rethinking Bagram

The Times, September 18, 2009

Afghanistan is hard all the time, but it’s doable

David Petraeus

(コメント) 住民を守ることがテロ対策の基本だ、という方針転換が成功するでしょうか? 有能な政府を樹立し、彼らの力で平和を維持できるでしょうか?

「誰も孤立して存在するのではない。“no man is an island.”」 安全保障の問題を孤立させて考えることはできない、とDavid Petraeusは主張します。西のエジプトから、東はパキスタン、北のカザフスタンから、南はイエメン、ソマリアの海上まで、それらが一つの地域安全保障をなします。

5億3000万人の人口と、大きなエスニック集団だけでも22を含み、18の言語がある。石油と天然ガスは豊富でも、飲料水は不足している。一人当たり所得水準が世界の最高水準から最低の諸国を含む。人口の40%以上が18歳から25歳の若者で占められ、しかも経済的機会は不十分な国が、20カ国のうちの18カ国である。・・・アメリカの平和構想とその負担は甚大だ、と思います。

安全保障とは、その土地の住民たちに基本的必要を満たしてやることである。反政府軍の中にも信頼できる者を見つけ出す、と。

WP Monday, September 14, 2009

The 'Forgotten War'

(コメント) 他方、イラクはどうなっているのか? 米軍の撤退が進む中、米兵の犠牲者は減少し、イラク人の犠牲者が増えています。イラク政府と中東地域の安定が脅かされるという記事です。


WSJ SEPTEMBER 11, 2009 A Protectionist Wave

NYT September 14, 2009 China Opens Inquiries Into U.S. Exports as Tensions Rise By KEITH BRADSHER

FT September 13 2009 Obama’s decision on tariffs is calculated cynicism By Charles Freeman

FP Mon, 09/14/2009 Since when did trade policy become a covert operation? David Rothkopf

FP Mon, 09/14/2009

Obama tires of free trade

By Phil Levy

(コメント) オバマが中国からのタイヤ輸入に関税を課したことには、どのような意味があるのか?

中国の通商官僚はアメリカの保護主義に強く反対すると発言しました。それは4月のロンドンG20における宣言に反している、と。

オバマは国際政治で協調を重視するが、国際貿易では慎重な、敵対的アプローチを取るのか? 鉄鋼に関する関税と比べて、タイヤに関する関税はオバマの姿勢が示されました。Phil Levyは、アメリカが関税を採用するには様々な仕方があり、特に、三つのケースを区別します。1.議会が関税を決める(スムート=ホーレイ関税法のように)。2.反ダンピングや相殺関税の国際合意に従う。3.セーフガードの発動。

タイヤのケースはこのセーフガードを勧告した国際貿易委員会の案を、オバマが引き下げた形で採用しました。ブッシュ政権は勧告をすべて無視しましたから、自由貿易のイデオロギーに惑わされ、中国を宥和するためにアメリカの労働者を売った、と非難されました。

Phil Levyは、タイヤの生産で中国が世界の最低コストを示し、アメリカ企業が海外生産に向かっており、国内に目を向けないとすれば、オバマの決定は大きな違いをもたらさない、と結論します。すなわち、タイヤ産業の国内雇用は増えない。タイヤの国内価格は少し上がる。中国から振り替わった注文を受ける第三国が利益を受ける。他国に保護主義が広がる。中国はアメリカからの家禽や自動車の輸入に報復する。ピッツバーグのG20で市場開放を主張できなくなる。そして、少なくとも、オバマは労働組合の支持を得る。

NYT September 15, 2009 China-U.S. Trade Dispute Has Broad Implications By KEITH BRADSHER

FT September 14 2009 China makes gains in its bid to be top dog By Gideon Rachman

YaleGlobal , 14 September 2009 Obama's Trade Policy Taking Shape – Part I Edward Gresser

WSJ SEPTEMBER 14, 2009 Mr. Obama's Trade War

WSJ SEPTEMBER 14, 2009

A Dangerous Game of Trade 'Chicken'

By ESWAR PRASAD

(コメント) 世界貿易の大国であり、その他の問題でも国際協調を必要とするアメリカと中国が、貿易問題で関税引き上げと報復の動きを強めていることは重大な判断ミスである、とESWAR PRASADは考えます。

アメリカも中国も、すでに財政刺激策でも自国の生産者を保護する姿勢を顕著に示しており、多角的な貿易自由化の交渉を損なっています。中国も、その成長モデルが輸出に大きく依存しており、人民元レートや補助金など、アメリカ政府に比べて自由貿易を支持しているとは決して言えません。他方、アメリカも、中国がWTOに加盟する際の二国間合意を理由にしていますが、それは保護主義と見られるでしょう。

国内生産者を保護しても、それは双方の国民を貧しくし、国際協調の雰囲気を破壊します。オバマ政権が関税を引き上げたタイミングは、国内労働組合に配慮したことを示しているから、この関税引き上げは間違いであった、と。

The Guardian, Tuesday 15 September 2009 Fix America's trade regime Kevin allagher

(コメント) オバマは選挙公約であるNAFTAなど、自由貿易協定の見直しを進めるべきだ、と主張します。自由貿易協定は、たとえば、メキシコの労働条件や所得水準、環境基準を改善することはなかった、と指摘します。しかも、金融危機と貿易の減少によって大きな被害を受けました。

FT September 15 2009 Getting a grip on Chinese tyres

WSJ SEPTEMBER 15, 2009 A Protectionist President

CSM September 16, 2009 Will Obama rue his trade tariff on China's tires?

YaleGlobal , 16 September 2009 Obama's Trade Policy Taking Shape – Part II Doha Round & Bernard K. Gordon

WP Thursday, September 17, 2009 First Strike in a Trade War? By David S. Broder

WP Thursday, September 17, 2009 All Talk on Trade

(コメント) David S. Broderの論説です。この貿易戦争の第一撃は、わずかな労働者に関係しているだけです。すなわち、国際貿易委員会の推定したタイヤ輸入によるアメリカの失業は5000人です。これによりオバマは輸入されるタイヤに35%の関税を課します。

その結果、米中間の貿易戦争が起こるかもしれません。また、アメリカが関税を課すのは、その多くが中国で生産されたアメリカ企業のタイヤです。中国が排除された分は、第三国のタイヤが輸入されます。

オバマが選挙戦で広言した保護主義的な措置やNAFTAの改訂は、クリントンがそうであったように、世界貿易の拡大を重視する政策に転換されるでしょう。しかし民主党は自由貿易を疑っており、まっすぐには進めない? その間に、中国からの報復があれば、どうなるか?


The Japan Times: Friday, Sept. 11, 2009

Shifting balances of power

By HUGH CORTAZZI

(コメント) 「勢力均衡」"Balance of Power"に代わる平和を維持する効果的な方法を、国際連盟も、国際連合も求めてきた。しかし、現在の安保理も機能していない。勢力均衡は常に変化する。それは日本政府を最も悩ましている。

日本の勢力均衡にとって重要な、アメリカ、中国、ロシア、韓国、東南アジア、オーストラリア、そして、ヨーロッパと、拒否権を持つイギリスとフランス、を取り上げています。

また、日本は国連で常任理事国の地位を求めているけれど、それはますます難しくなりそうです。むしろ、日本政府は国際的な会議で自分の姿勢を明確に説明し、対等の条件で論争に参加できなければならない、と主張します。

Sept. 14 (Bloomberg)

Buffett Is Coming to Town in Search of Winners

William Pesek

(コメント) オバマより先に、バフェットが日本に来る。鳩山政権が投資家にとって日本市場を魅力的にするかどうか、試しに来るのです。そしてバフェットのお墨付きをもらえたら、日本経済が世界の投資家から大いに注目されるでしょう。

日本企業の間違った姿勢や、政策、制度による外国人投資家からの「保護」を変えるかどうかは、鳩山政権の一つの試金石です。・・・いつもと違って、平凡です。

The Japan Times: Wednesday, Sept. 16, 2009

Back to Earth with the DPJ

By BRAD GLOSSERMAN

WSJ SEPTEMBER 16, 2009

Japan's Wooden Cabinet

By JESPER KOLL

FT September 17 2009

A steady start for Tokyo’s new rulers

(コメント) バフェットのお墨付きが出る前に、JESPER KOLLの鳩山政権に対する日々強いマイナス評価を検討しなければなりません。日本経済は日本企業が海外で生産し、海外市場で上げる利益によって成り立っている。ミクロでも、マクロでも、日本はフリー・ライダーでしかない、と。

FTの日本に関する論説の多くは優れていると思います。新政権が構造問題を解決して成長を加速する、と期待するよりも、中国の台頭ほど目立たないとしても、高齢化社会を維持するために、世界市場の圧力と日本社会の結束とを調和させることが、日本の有権者にとっての勝利である、とまとめています。


The Observer, Sunday 13 September 2009

Slashing the national debt can wait. First we must invest, invest, invest

Will Hutton

(コメント) 保守党のDavid Cameron and George Osborneが債務のGDP比率を80%以下に抑えるべきだ、と主張したことに、Will Huttonが反論しています。

戦争の時も、産業革命の間も、80%を超えていた。政府の赤字は公共部門の労働組合だけが理由ではない。何よりも、金融危機が不況に落ち込むのを空前のケインズ主義的な財政刺激策が回避したことを称賛するべきだ。

国家は、資本を使って雇用と技術革新を実現する枠組みを構築しなければなりません。国家は集団的な投資家であり、リスク管理者なのです。税金が少ないだけで良いと主張するのは、信用ブームとその崩壊を招いたのと同じ間違った発想です。

金融危機から学んで、活発な投資を行う、公正な資本主義を築くことです(公的債務や税金を減らせ、ではなく)。自己組織する資本主義(資本市場)は、新しい企業家を育てることに失敗しました。金融危機で多くの中小・零細企業が倒産したのです。

科学や技術の機会が豊富にあるのに、それを生産的な企業に転換することができないのであれば、国家がそれを促すべきです。世界最高水準のインフラ(高速鉄道や優れた高等教育機関)を整備すること。普通の人々から企業家を育て、誰もがリスク管理を学ぶこと。生涯にわたって新しい職業訓練を受けられること。

その費用は、幸い、イギリス政府が低利の債務を発行すれば得られるのです。

FT September 16 2009

How to prevent an unruly rush for the exit

By Adam Posen

(コメント) 国際政策協調による「脱出戦略」がG20での合意目標だ、とAdam Posenは考えます。

「脱出戦略」は、単に金融緩和や財政刺激策を逆転させる際のタイミングを問題にするべきではありません。それは、通貨・為替レート、財政、金融・資本調達、の3分野に関連する、シークエンス(政策順序)の問題であり、国際協調の問題です。

Adam Posenは、G20が、政策目標ではなく、ベスト・プラクティスを示すべきだ、と主張します。目標を達成することは難しく、好ましいわけでもない。たとえば、ボルカー=レーガンの失敗に学んで、中期の財政再建が金融引き締めに先行するべきだ。銀行部門の改革や民間資本調達は、財政再建のための税制改革が終わってからがよい。

国際政策協調も重要である。危機の際に、預金の全額返済保証が各国に波及したように、「脱出」の過程では、銀行の負担を軽減するために、競争して保証が引き下げられる(それは健全化の遅れた国で問題を生じる)。また、銀行の株式売却による資本調達も、資本市場が飽和する前に、競って行われる危険がある。それは混み合った劇場で、人びとが出口に殺到するようなものだ。

先行して「脱出」する国(引き締め国)は、通貨が増価し、回復の遅れた他国から資本を引き寄せるだろう。それは影響を阻止するための為替市場介入を引き起こし、通貨摩擦が生じる。保護主義を採らず、世界的なインフレ期待の抑制によって安定を追求しながら、主要国が刺激策とデフレ回避を継続するのが望ましい。もしインフレ目標が大きく相違すれば、誰もが苦しむだろう。

国際政策協調は3層である。1.G20による国際協調の利益は大きい。各国が独自に最善の策を採る。2.目標ではなく、政策手段と順序を議論する。3.あわてて制度改革するより、現実的な改善策を採る。政策のサーベイランスより為替市場介入の停止を、銀行部門の公的資本を監視するより共通の銀行株式売却を促進する。

そして、「脱出戦略」の国際協調が成功した後、健全な国際体制を構築することに向かうべきだ。

The Times, September 17, 2009

Public spending: the black hole is deeper than I thought

Robert Chote

WSJ SEPTEMBER 17, 2009

The Stimulus Didn't Work

By JOHN F. COGAN, JOHN B. TAYLOR AND VOLKER WIELAND

(コメント) オバマ政権の財政刺激策the American Recovery and Reinvestment Actは機能しない、と批判します。政府はケインズ主義のモデルによってGDPの増加と360万人の雇用を予測しました。しかしこの論説の筆者たち、その6分の1しかGDPが増えないと予測しました。また、Robert Barroは、ほとんどゼロと予測したのです。

半年の経過を踏まえて、この論説は書かれています。すなわち、恒久所得やライフ・サイクル説が考えるように、一時的な減税策は効果がなかった、と。そして、確かに成長率がマイナス6.4%からマイナス1%まで改善したことは重要だが、その原因は財政刺激策ではなく、投資の落ち込みが終わったことと、軍事支出であった、と主張します。


The Observer, Sunday 13 September 2009

Myths of the middle class

Mukoma Wa Ngugi

(コメント) オバマが社会保障制度をアメリカに持ち込むためには、第二次世界大戦後に起きたマッカーシズムが再現するのを阻止しなければならない。アメリカの「ミドル・クラス」を守る、という幻想を打破することだ。


FT September 13 2009

A pre-crisis treaty for a post-crisis world

By Wolfgang Münchau

(コメント) アイルランド国民投票がリスボン条約の批准を拒んだとき、政策の決定権を失うことへの小国の不安であり、EU統合から消滅する道を選んだ、と批判されました。しかし、金融危機においてEUの指導者たちが小国に示した狭隘な連帯感と支援策は、今後の拡大EUを消滅の危機に立たせるかもしれません。

The Guardian, Tuesday 15 September 2009 From Celtic tiger to timid puss Simon Tisdall

BBC 2009/09/16 Bid to kickstart Celtic tiger By Mark Simpson

FT September 16 2009 Irish banks

WSJ SEPTEMBER 16, 2009 Fear and Loathing in Dublin

(コメント) アイルランド政府は、銀行の不良債権を買い取って国営のNational Management Agency (Nama)に管理させる、と提案しています。こうして銀行は融資を再開できるだろう、と。しかし野党は、なぜ国民が失敗した銀行家や不動産開発業者の債務を肩代わりしなければならないのか? と憤慨します。それは、アイルランドを救うためなのか、それとも後世に債務を残すだけか?

リスボン条約の国民投票は迫っています。


The Observer, Sunday 13 September 2009

The great GDP swindle

Joseph Stiglitz

FT September 13 2009

Towards a better measure of well-being

By Joseph Stiglitz

(コメント) GDPと成長率で経済成果を測定することの間違いが指摘されています。この金融危機により、欠陥は致命的なものになった、とJoseph Stiglitzは主張します。過剰な消費、医療サービスの悪化、投機的な金融ビジネス、不平等な所得分配、・・・何が市民の満足や幸福をもたらすのか、という研究も、GDPの間違いを示しました。

フランスのサルコジ大統領が設置した委員会the International Commission on the Measurement of Economic Performance and Social Progressの委員長として、報告書をまとめたということです。


FT September 13 2009

Wheel of fortune turns as China outdoes west

By Martin Wolf

(コメント) 中国の高度成長は続くのか? 中国が世界経済を牽引するのか?

銀行融資と固定資本の投資によって成長率を回復しました。Martin Wolfは、(人民元は増価するので)インフレの心配もないし、(債務の比率は低く)財政赤字が爆発する心配もない、と考えます。銀行の不良債権が増加するでしょうが、資本増強されるでしょう。

問題は、この成長モデルの性格です。固定資本形成に大きく依存しているために、過剰生産力が生じ、輸出を増やそうとするでしょう。雇用や国内消費を増やすという政府の約束に一致しません。世界経済を牽引する帰還者にもなりません。しかし、中国が成長を回復したことは素晴らしい成果だ、と称賛します。


NYT September 14, 2009

Terms of Engagement

By CHESTER A. CROCKER

BBC 2009/09/15

US foreign policy: 'No we can't'?

By Paul Reynolds

(コメント) イランとの対話を主張するオバマの外交政策は、その期待を裏切る厳しい時期を迎える、と懸念します。外交における“engagement”とは何か?

国家の行う「エンゲイジメント(婚約、という意味もある)」は決して楽しい会話ではない。エンゲイジメントは、正常化ではないし、関係改善を目指すものでもない。それはデタントや、親善、宥和でもない。

エンゲイジメント戦略とは、直接対話である。それ以外に公式の意見表明をする機会がなく、相手の反応を知る方法がない。対話は最初の一歩でしかなく、エンゲイジメントの目的は、その国の国益や現実の選択肢について、他国の認識を変えること、それによって政策や行動を変えることにある。

ソ連、南アフリカ、アンゴラ、モザンビーク、キューバ、中国、リビア、シリア、などに対して、アメリカはこれまでもエンゲイジメントによって成果を上げてきたが、成功する簡単な公式はない。しかし、共通に言えることは、エンゲイジメントが過程であって目的ではないことだ。相手に問題を投げかけ、その国が政治的にどこまでいっしょに行く意志があるか、試すのである。国内の反対派は妨害するだろうし、互いに前提条件を押し付けるだろう。

エンゲイジメントには、相手国の正当性を認める欠点があり、好ましくない体制の権力を強化し、長期化する。そして、最大のリスクはその成功である。相手が賛成すれば、我々も行動しなければならない。それを最も嫌う批判者がいる。オバマは、エンゲイジメントによって何を求めるのか、国民にはっきりと説明するべきだ。

もうひとつは、ロンドンの国際戦略研究所the International Institute for Strategic Studies (IISS)の分析を紹介する興味深い記事です。オバマは国内で変革を求めるのと並行して、国際政治では負担を避け、行動しなくなる、と指摘します。

The Guardian, Wednesday 16 September 2009

Merkel leads the quiet revolution

Alan Posener

(コメント) ドイツのメルケル首相に関する評価です。困難な国際政治において、EUをまとめ、アメリカとも親しい関係を結ぶことに成功しました。


WSJ SEPTEMBER 15, 2009

Germany Scores an Own Goal on Immigration

By KLAUS F. ZIMMERMANN

(コメント) 多くの懸念には根拠がない。ドイツのプロ・スポーツ界が東中欧からの選手によって多いに活気づいているように、ドイツはもっと自由な移民政策を採って、経済を活性化するべきだ、と主張しています。


The Guardian, Wednesday 16 September 2009

California's golden dream has turned sour. Only a great reform can revive it

Timothy Garton Ash

The Guardian, Wednesday 16 September 2009

America's failed model for the world

Steven Hill

(コメント) Timothy Garton Ashの論説がいつもながら面白いです。「ゴールデン・ステート」であるカリフォルニア州の目に余る混乱と荒廃に、「過剰な(異常な)民主主義」を非難する声から始めて、その理由や改革運動を取り上げます。

・・・アメリカ最高の公立学校や大学、高速道路を持つ州でしたが、今や最悪の一つです。医療も最悪、水の供給もエネルギーの浪費、アメリカ最悪の大気汚染10都市の中から6都市が位置する。州財政も破局にあり、毎年、予算案は否決され、イタリアが財政の手本に見えるくらいです。

・・・なぜこうなったのか? カリフォルニアは自然資源も人的資源も豊かで、第二次世界大戦と冷戦で産業が潤い、すぐれた発明家、ダイナミックな起業家、勤勉な労働者が、ヒトラーのドイツ、イギリス、ベトナム、インド、中国、メキシコから集まってきた。魅力と機会にあふれた土地であったから、これほど政治が悪化しても今まで続けてこられた、とAshは考えます。

そもそもは、少数の集団利益(特に学校と刑務所の公務員)が議会を支配する弊害を抑えるため、住民投票制が活用されたといいます。しかし、直接投票型の法改正と予算編成は、さまざまな集団の利益を既得権化して、政治を動けなくしてしまいました。そして、これは極端な形であれ、21世紀のアメリカを示している、と。

次の資本主義として、Timothy Garton Ashはアメリカの復活を期待しますが、Steven Hillはヨーロッパを見ます。


NYT September 17, 2009

Justice in Gaza

By RICHARD GOLDSTONE

(コメント) 3週間にわたったガザ地区におけるイスラエルの軍事行動と支配を、戦争犯罪に問う声に対して、国連の調査報告書が出ました。RICHARD GOLDSTONEがその調査委員会the United Nations Fact-Finding Mission on the Gaza Conflictの責任者です。特に、非戦闘員に対する戦争行為を禁止する法律を守らせることがGOLDSTONEの動機でした。

市民の犠牲者を減らすように、双方はもっと多くのことをすべきでした。そして、犠牲者たちの正義を回復することが土地の政府にできないなら、国際社会がそれを行うべきだ、と述べています。

******************************

The Economist September 5th 2009

The vote that changed Japan

Japan’s election: Lost in transition

Business in Japan under the DPJ: New bosses

(コメント) 自民党の支配する政治経済体制が機能しなくなっただけでなく、それゆえに有権者の求めるものと食い違っていることを、記事は敗北の原因と考えます。自民党・官僚・産業界(特に地方の建設業)という「鉄の三角形」では、バブル破裂や中国の台頭、高齢化、などに対応できなかったのです。小泉改革は自民党の崩壊時期を遅らせるだけで、その集票マシーンの耐用年数が伸びたわけではなかった、と。

「システムは余りに硬直的で調整できなかった。有権者の要求は増えてきた。道路工事、ダム建設、一時・低賃金雇用、では満足しなかった。経験を積める職業を求めた。医者、介護付きの老人ホーム、若者たちが老人を置き去りにして都会へ出てしまうのを防げるような、立派な学校を求めた。・・・自分たちの年金が引き出せるように、政府が支払い可能であることを求めた。それは、国家債務がGDPの200%に近付く国にとって危険な賭けである。」

The Economistは、今も小泉改革を支持し、民主党の政策が一貫したものでないと批判しています。民主党は、グローバル化した世界で新しい不安に駆られる有権者の支持を得ました。日系ブラジル人から始まって、派遣労働者たちの解雇、ホームレス、所得格差、老人だけでなく、若者や女性が貧しくなり、希望を持てず結婚しません。高度な規制社会である日本では「競争」が健全な意味を持たず、機会の平等も欠けている、と考えます。

いまのところ、民主党は様々な給付で貧しい家計を直接に支援し、無駄な公共工事や企業への補助金や優遇をやめて、社会保障や年金を充実させる、と考えています。内需主導の成長を目指すわけです。しかし、財政赤字は抑えられず、増税や国際競争力の低下が日本企業をますます海外に逃避させる?


The Economist September 5th 2009

Digital publishing: Google’s big book case

Electric cars: Charge!

The electrification of motoring: The electric-fuel-trade acid test

An East African Federation: Big ambitions, big question-marks

Child welfare: The nanny state

The stigma of wealth in China: Original sin

Bank’s funding needs: Total liabilities

(コメント) グーグルの世界図書館は魅力的です(自動翻訳ソフトも付けてほしいです)。電気自動車への転換も社会を変えるでしょう。金融改革や金融政策の迷走について読むより、楽しい内容です。

しかし、特に興味深いのは、ケニア、ウガンダ、タンザニア、の東アフリカ連邦です。中国からの資源調達で貿易と投資が増え、道路やパイプライン、港湾の建設がその背景にあります。The Economistは悲観的ですが、東アジア共同体より先に実現する・・・か?