今週のReview
9/13-18
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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.
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オバマの信認問題:医療保険・アフガニスタン、 G20金融サミット、 金融システムの改革1,2,3、 中国:製鉄とピープル・パワー、 ブレアの信仰政策、 鳩山ショック、 アメリカの移民労働者、 自由貿易論、 アフリカの奇跡
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ただしBG: Boston Globe, CSM: Christian Science Monitor, FEER: Far Eastern Review, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, IHT: International Herald Tribune, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia
WSJ SEPTEMBER 3, 2009 Obama and the Perfect Political Storm By KARL ROVE
The Guardian, Friday 4 September 2009 US healthcare reform: Obama's Waterloo
FT September 6 2009 A make or break speech for Obama By Clive Crook
WSJ SEPTEMBER 7, 2009 ObamaCare's Crippling Deficits By MARTIN FELDSTEIN
FT September 8 2009 Obama can avoid midterm blues By James Carville
LAT September 9, 2009 Obama on healthcare: 'The time for games has passed' By Mark Silva
The Guardian, Wednesday 9 September 2009 Another fine speech will not be enough Timothy Garton Ash
LAT September 10, 2009 Obama's healthcare address: The middle man returns Doyle McManus
WP Thursday, September 10, 2009 Mr. Obama's Prescriptions
FT September 10 2009 Obama’s healthcare pitch to the nation
(コメント) 有権者がほしがっていないものを、政府が彼らに与えることはできない、というわけです。おまけにそのコストは莫大だ、となれば。戦争もそうですが、ナショナリズムや脅威論が高まれば、好戦的な世論が形成されます。金融救済も、誰の負担でだれを助けているのか、政治的な議論が抑え込まれました。少なくとも今のところは。
社会保障制度は、何によって正当化できるのでしょうか? 特に、自分はそんな形で政府の世話にならない、と信じている富裕層に。景気は悪化し、失業も増え、財政赤字が心配されているときに、医療保険制度の議論で時間を費やすことはないだろう、という国民が増えています。
保険業界も強く反対します。決まった契約の国民保険を競争して売るだけでは大きな利益を得られない、と心配するからでしょう。しかも議会の運営に失敗し、民主党は超党派の妥協案を作らず、共和党の反対キャンペーンを強めました。政治の混乱でオバマの支持質が急落します。新大統領への友好的な感情を早くも使い尽くしたか・・・?
改革には様々な反対派や不安があるだけでなく、支持派の理由もいろいろです。それゆえ、議会における演説で、オバマが直接に合意を呼びかける手法も、それで十分な効果をもたらすか疑問です。左派のオバマ支持者は共和党との妥協を嫌うでしょう。右派と左派は、多くの政策において対立しており、そのすべてにわたる反目が妥協を難しくしています。
医療制度改革に合意する見返りに共和党が何を要求するか、とオバマの支持者は疑心暗鬼に駆られます。そして、たとえ改革の利益を訴えても、オバマは増税の必要を否定し続けたことで、演説の信頼性を損なっています。
MARTIN FELDSTEINは、オバマの改革が、結局、増税と債務の増加、高金利によって、アメリカ国民の生活水準を低下させる、と主張します。
すなわち、不況と財政刺激策、医療保険制度改革により、現実的な仮定を取ると、2019年の財政赤字はGDPの8%、公的債務はGDPの100%に達する、と予想します。そのように巨額の債務は金利を引き上げ、民間投資を妨げるでしょう。また、アメリカがインフレを抑えられない、という不安を海外の投資家が抱けば、即座に金利は上昇して景気回復を挫折させる、と指摘します。
オバマと民主党は中間選挙で勝てるか、という重要な問題に直面しています。大統領が迎える最初の中間選挙は、有権者が野党にバランスを回復させる傾向があるからです。
上下両院議員総会の前で特別演説を行うオバマ大統領は、ブッシュ大統領が9・11のテロ攻撃後に行ったのを最後の例とする、特別な説得を試みました。それが効果を発揮するでしょうか? Ashは懐疑的です。リンドン・ジョンソンがケネディー暗殺後、そして、市民権について、二度演説しました。また、F.D.ルーズベルトは真珠湾攻撃を受けてから日本に宣戦布告するとき、その一度だけ行った説得の試みです。
むしろ華麗すぎる未熟な指導者は、保守派のコメンターであるKrauthammerが見るように、争い続ける政治家たちの前で、そのロウ細工の羽根が溶けるのに気づかないまま、墜落し続けるのでしょうか?
優れた演説、さまざまな選択肢、妥協案、・・・しかし、解決するのは議会だ。
BBC 2009/09/03 Finance ministers face tough talks By Andrew Walker
(コメント) 4月のロンドン・サミット(G20)は、危機を回避できるか、という世界的な注目を集めて開催されました。先週末のサミットはその続きでしたが、すでに危機感は薄れ、各国の関心や政治文化の違いがさまざまな衝突を引き起こしたようです。
二つの重要な課題が残っています。一つは危機回避のための非常手段が残した債務や緊急措置を正常な状態に戻すこと、「出口戦略」です。もうひとつは、危機の原因を見極め、国際金融市場や金融規制を改善して、危機の再発を防ぐことです。そして不均衡を円滑に処理できる国際金融制度の改革論争が続きます。
ガイトナー財務長官は、持続的な成長をもたらす民間投資の復活を重視します。イギリス、ドイツ、フランスの指導者たちは、銀行家のボーナスを抑える議論にこだわりました。それは富裕層を懲らしめる点で政治的に好まれるというより、金融部門の極端なリスクや取引の肥大化を防ぐためでした。このような抑制策を取り入れることは、いずれの国にとっても金融部門の国際競争力を損なうために、一国ではなく、国際合意を条件に行いたいのです。
危機の再発防止に関しては自己資本規制が重視されています。他方、IMF改革が進まないのは主要諸国がその既得権を失いたくないからです。
FT September 4 2009 Timing is the soul of economic policy
(コメント) もし先のG20でもっと踏み込んだ合意を得ていたら、今回の確認作業も政治的に重要な転換点となったはずです。
しかし、日本やドイツ、アジアの、輸出に依存した「重商主義的」諸国の回復は著しく、危機前の状態を再現しつつあるようです。他方、アメリカやイギリスのような、過剰支出諸国の回復は遅れ、しかも政府支出に頼っています。財政赤字がこの先どうなるのか、決して楽観できません。
財政均衡化を求める圧力は国によって異なっており、それに抗して、G20は辛うじて国際合意の外観を保ったわけです。
BBC 2009/09/05 G20 pledges tougher bank action
WP Saturday, September 5, 2009 Bank Battle
(コメント) ボーナスの抑制というのは、金融業をもっと長期的なパフォーマンスによって評価するべきだ、という考え方です。しかし、個々のボーナスを抑える特別な手段については、独仏の主張に対して、英米とカナダが反対しました。
WPが指摘するように、4月のG20ではアメリカが財政支出の国際協調を要求し、独仏が世界金融制度の改革を求めました。今回も、世界金融と貿易の回復策については合意できていません。
BBC, Saturday, 5 September 2009 G20 do what needed to be done Stephanie Flanders
NYT September 6, 2009 G-20 Ministers Back Stimulus, but Pay Limits Remain Elusive By NELSON D. SCHWARTZ and JULIA WERDIGIER
The Sunday Times, September 6, 2009 Cut bankers’ bonuses and we will all suffer Dominic Lawson
The Observer, Sunday 6 September 2009 The G20 has saved us, but it's failing to rein in those who caused the crisis Will Hutton
(コメント) Will Huttonは、財政刺激策を支持し、早くも強まっているインフレ懸念や赤字削減論に反対します。保守派が何と言おうとも、政府は不況を回避するために赤字を増やし、債務を引き受け続けねばならないし、それと同時に、金融制度を改革するために介入しなければなりません。ボーナス批判はその一部です。
特に、Will Huttonは、英米に支配的な「ボーナス文化」を批判し、寡占体制と金融緩和を背景に莫大な利益をボーナスとして得てきた人びとが、公的な支援を受けながら平気で再びボーナスを手にしていることを放置する主張に反論します。
「たとえばアメリカのメリル・リンチは、2008年に270億ドルの損失を出したが、700人が100万ドル(約1億円)を超えるボーナスを得た。世界最大の保険会社、AIGは、405億ドルの損失を出した金融商品部門の377人に2億2000万ドルのボーナスを支払った。」
Gillian Tettの指摘では、1980年代のS&L危機よりも、今回の危機において、はるかに少ない数しか金融犯罪者として逮捕されていません。むしろ政府は、ボーナスを規制しても無駄だ、という宣伝に協力しています。しかし、とWill Huttonは考えます、銀行家が海外の金融センターに逃げるというのは嘘だ。ドバイでも、香港でも、ダブリンでも、それほどの取引は行えないし、ボーナスも支払われていない、と。
自己資本を増やすべきだ、というガイトナーの主張は正しいでしょう。しかし、金融制度も改革しなければならず、ボーナス規制も必要です。どちらの方針も、これほどの危機を収拾するためには、政府が金融寡占体制の利益に反して、攻撃的に行うときなのです。
FT September 6 2009 G20 calls for better capital buffers at banks By Norma Cohen
The Times September 7, 2009 We will sink, not swim, in a sea of new rules William Rees-Mogg
(コメント) William Rees-Moggは政府の規制に反対します。パニックによって導入された規制は機能しない、と。政治家たちは何かしなければならないという圧力に流されているだけだ。
1349年の黒死病や、1945年の広島・長崎の原子爆弾投下を例に挙げて、イギリスは人口の半分を失ったが、政府による物価や賃金の統制は失敗し、その後は賃金が上昇して経済的繁栄をもたらした(日本も、天皇が無条件降伏を決断し、その後の繁栄をもたらした)、と考えます。・・・賃金の上昇を政府が阻止したり、日本が戦争を継続したりしていたら、どうなったか、というわけです。
銀行のボーナス規制も同じである。抜け穴をふさぐことに終始し、結局、失敗に終わるだろう。政府規制は危機の解決策ではなく、その原因に含まれていたことを忘れるな、とWilliam Rees-Moggは主張します。
The Times, September 7, 2009 Summitry and Sense
(コメント) もし有権者に支持されて、政府が所得格差を縮小したいなら、それは税制によって行うべきだ。しかし、政府は特定の職業が、どの程度の所得を得るのが適当か、「社会的に有益である」か、決めることはできない。金融監督局は、リスク回避に努めている銀行をシステム全体のリスクを減らすために奨励する役割を担うだろう。しかし、それは自己資本比率を下げることで十分だ。
財政赤字についても、景気が回復したら直ちに増税して、赤字を減らすべきだ。経済政策はタイミングとバランスが特に重要だ。金融危機は支出を抑制するが、アジアは需要を刺激しなければならない。タイミングが異なれば、その成否も異なる。
SPIEGEL ONLINE 09/07/2009 No Time for Complacency
FT September 7 2009 Capital ideas for financial reform
FT September 8 2009 Why it is still too early to start withdrawing stimulus By Martin Wolf
(コメント) 回復を予想して、インフレ抑制と財政再建に政策目標を転換するべきか? この問題を考えると、危機についての見方が異なっていることが分かります。
もし市場が自然に均衡すると信じるなら、失業者の急増は労働者たちが集団で休日を取りたいと望んだからでしょう。他方、過剰な融資と投資が崩壊したのだから不況は避けられない、というのも間違いだとMartin Wolfは考えます。経済はいつも必ず均衡状態にあるわけではないし、資産市場が縮小し、消費が抑制されるからと言って、必ずしも、不況は避けられない、とあきらめるべきではないのです。
前例のない金融緩和と救済策、そして財政支出によって、世界経済は底値を与えられました。政府や企業の経済予測は改善した数値へと修正されつつあります。
インフレを懸念して財政刺激策をやめれば、むしろ(世界不況で)将来の債務は増し、ハイパー・インフレを招きます。今は、過剰生産力と低金利によって、逆に、回復が頓挫しないように刺激策を続けることが重要です。緊急避難的な政策は民間部門が大きく損なわれたから必要なのであり、その原因が解消されるのを見極めるべきです。
The Times, September 10, 2009 Hasty action on public spending would jeopardise economic recovery Anatole Kaletsky
The Times, September 10, 2009 Beyond Boom and Bust
SPIEGEL ONLINE 09/10/2009 Tough Oversight Planned for Banks
FT September 10 2009 Turner is asking the right questions on finance By Martin Wolf
(コメント) FSAのLord Turner長官が指摘した金融部門に関する問題をMartin Wolfも取り上げています。すなわち、1.金融監督、2.金融部門の肥大化、3.自己資本規制、4.トービン税、5.金融部門の報酬、です。
金融市場に委ねることが効率性と安定性を実現する最善の方法だ、という考え方は危機によって退けられました。また、金融部門の規模に関しても、中央銀行や政府による保護を受けていることに見合った制限を受けねばなりません。
そこで、自己資本規制や報酬に関する上限が問題になっています。しかも、ここでのMartin Wolfの意見は興味深いものです。すなわち、たとえ自己資本を十分に持つよう求めても、利益を得るために一層危険な取引を行い、簿外取引での抜け道を見つけるだろうし、規制されないシャドー・バンキングが膨張するからです。
それらが十分に監視できるとすれば、途方もない巨大な監視機関が必要であり、Martin Wolfはその機能を信用できないし、これを嫌います。すなわち、むしろ「トービン税」のような課税が望ましいでしょう。しかし、国際金融センターが同時に導入することは難しいし、弱体化した金融部門は追加のコストを強く嫌う、と否定的です。
市場の流動性を高めることが必ずしも良いことではない、という反省もありますが、結局、どうすれば金融市場が危機を回避し、公的な介入で救済されることを繰り返さないようにできるか、答えは見つかりません。
FT September 10 2009 To fix the system we must break up the banks By Philip Augar and John McFall
(コメント) いまG20で議論されている金融規制は、アメリカでインターネット・バブルが破裂した後に議論された金融規制とよく似ている、とPhilip Augar and John McFallは指摘します。その効果は予測できるわけです(・・・失敗する)。では、どうするのか?
さまざまな規制や改善ではなく、グラス=スティーガル法を超える、根本的な転換を求めます。すなわち、金融サービス部門のビジネスモデルを変えるのです。
現在は、単純な預金集めから、高リスクの投資銀行まで、同じ銀行が兼務できます。彼らは取引の両側に登場し、仲介者ではなく所有者としても行動します。資本市場では資金を提供し、また、資金を調達できます。そのため利益相反はシステムに深く内在しており、その他の利用者にとって不公正な取引が行われます。
金融システムの改革は、このビジネスモデルを解体することから始まります。企業の資金調達、投資家への助言、所有者としての取引、それらは互いに切り離し、また、預金を取り扱う業務(銀行)とも切り離します。こうして、もっと小規模の、利益の少ない金融サービス機関が多く誕生します。それは金融機関の過剰な取引がもたらす問題を解消します。またこのシステムは、金融部門とその他の産業とのパワー・バランスを修正し、産業部門の投資にとって好ましいものに変えます。
銀行のボーナスや、「大き過ぎてつぶせない」問題も解決します。ナロー・バンキングの考え方はG20で取り上げられていません。危機のたびに問題はいろいろに論じられます。しかし、そこに連続しているのは、金融部門の権力(パワー)が社会的・経済的に見て大き過ぎることです。
・・・政治家や金融監督部門に世界的な金融サービスのそのような再編を求める熱意があるとは思えない。出発点は銀行委員会を開くことだ。そして情報を集めて、もっと産業界の人々を多く加える。構造変化を考慮し、金融サービス部門がより広く社会的な、そして、生産的な目的に役立つ仕方を考えることだ。
・・・金融危機は、「公正さ」という人々の基本的な概念を損なった。もし政治的な安定性の基礎になるよう、市場経済がうまく機能するとしたら、努力と報酬とが比例していなければならず、競争の条件が等しくなければならない。
WSJ SEPTEMBER 3, 2009
How China's Steel Mess Was Forged
By JOE STUDWELL
(コメント) 中国のリヴァイアサン(政府権力)に人びとは監視され、抑圧されている、という観察は、リオ・ティント社の幹部が産業スパイの疑いで35日間も拘束された事件を機に、ますます強まったでしょう。国家管理型の開発モデルがもたらす致命的な弊害です。
JOE STUDWELLは、事件のもうひとつの側面にも注目します。それは、「世界の工場」としての中国の特徴です。
かつて製鉄所は炭鉱の近くに建てられました。しかし、海上輸送の技術が革新され、輸送コストが大幅に低下したため、第二次世界大戦後は日本や韓国、ドイツなどが製鉄量を増やしました。その際、日本の産業政策は石炭や鉄鉱石の供給さえも組織して、(韓国とともに)安定した価格で供給先を確保する契約を年に一回だけ結びました。炭鉱も長期的な投資計画を立てたのです。
ところが、近年、急速に製鉄量を増やしてきた中国は、国内の炭鉱によってもっぱら製鉄していました。それでは不足する分を海外の炭鉱から補うようになりました。その結果、日本とは逆に、スポット価格で激しく競争する形になります。こうした中国の需要が増えてきたために、国際価格は急速に上昇し始めたのです。
中国の需要は、供給先に優位を与える結果となり、今回のような鉱山会社への中国からの投資や、産業スパイ疑惑が生じた、というわけです。
中国の指導者たちが「アングロサクソン型の競争市場」を信奉しているはずもなく、将来は、圧倒的な消費市場の支配を利用して、世界の供給地をも支配すると懸念されています。また、中国政府は新エネルギーの研究開発にも莫大な投資を行っています。
YaleGlobal , 8 September 2009
Between China and India: Is Tibet the Wedge or Link?
George Yeo
FT September 9 2009
Beijing strains to hear the voice of the people
By David Pilling
(コメント) シンガポールの外相、George Yeoがチベットを訪問しました。チベット騒乱以来、初めての外国首脳による訪問です。中国は暴動鎮圧後、巨額の開発援助を行いましたが、漢民族の流入も伴っています。そして、グローバリゼーションの下では、異なるエスニシティや信仰集団が、異なる経済機会と所得水準を示すにつれて、その対立を回避することは難しくなります。
David Pillingは、中国における「ピープル・パワー」を取り上げます。ウィグルで、チベットで、広東の化学工場閉鎖や、ドル建外貨準備が価値を減らす問題で、四川省の地震で倒壊した学校、粉ミルクの犠牲者、オリンピックの聖火リレーや、日本大使館に集まった愛国運動に対して、・・・地方政府も北京政府も、「ピープル・パワー」を恐れ、あるいは、それを利用します。
「ピープル・パワー」はもちろん民主主義ではありません。David Pillingは、選挙や自由なメディアに比べて制限されており、それがせいぜい恣意的にしか政策に反映されず、多くの声を無視していることを指摘します。政府はインターネットの規制に熱心です。国民の反応を期待して、事件の処理や政策変更を(大げさに)演出します。
北京政府はナショナリズムの扱いに苦慮するでしょう。政府に対する支持を得られる場合もあれば、政府を批判する場合もあります。中国の外交政策も「ピープル・パワー」の影響を受けます。海外で多くのビジネスや中国人の滞在が増え続ける中で、中国人の生命や財産、権利を守れ、という声によって政府が行動する、「帝国」の時代、を予感させます。
FT September 9 2009
China’s love-hate relationship with the dollar
David Marsh and Andy Seaman
WSJ SEPTEMBER 10, 2009
Internationalizing the Yuan
By CHRISTOPHER A. MCNALLY
(コメント) ドルをめぐる米中の相互依存関係を、ときには共棲や麻薬中毒にたとえますが、ここでは「ストックホルム・シンドローム」と呼んでいます。すなわち、誘拐された被害者が犯人に感情移入し、その共犯者に変わってしまう現象です。
David Marsh and Andy Seamanは、中国政府と人民銀行が、SDRsの構成比を大幅に変更することを望んでいる、と考えます。たとえば、ユーロと並んで、中国の人民元が最大の割合20%を占め、ドルは16%、円は9%、ポンドとルーブルが各5%です。
もしそうであれば、中国はドルの減価を非難するより、SDRsが国際的な準備通貨となる場合に、重要な役割を担うべき人民元の国際化を今すぐに進めることだ、と主張します。それは、中国自身が金融システムや企業の資金調達を開放的な市場型に向けて改革し、また、為替レートや金利を政府が固定できなくなることを意味するから、と。
CHRISTOPHER A. MCNALLYは、人民元の国際化、を紹介しています。香港で、初の人民元建政府債券が発行されました。香港ドルを拠点に、為替リスクや債券市場について中国の金融機関も学び始めているようです。また政府は、二国間の通貨スワップを増やしています(長期的にはラテンアメリカや中東へも)。日本を除くアジア諸国とは、人民元での貿易取引も始めています。
中国政府は、アメリカの財政赤字を警戒し、ドル暴落を恐れているのです。その際にも世界貿易のすべてを失わないよう準備を進めている、と言えます。しかしまだ資本自由化を避けて、ドル市場に依存した方が有利だろう、と。
The Guardian, Friday 4 September 2009
How the collapse of Lehman Brothers pushed capitalism to the brink
Andrew Clark in New York
Asia Times Online, Sep 5, 2009
We are all Japanese now
By Chan Akya
The Guardian, Saturday 5 September 2009
Banking crisis: Lessons from a man-made tragedy
(コメント) リーマン・ブラザーズの倒産1周年、その前には9・11の8周年がありました。アメリカにおける二つの人災は、世界的な影響を及ぼした点で比較されます。
Chan Akyaは、ケインズ主義的な資本主義の救済を信じていません。世界経済は次第に日本的な「資本主義」(そしてソ連的な)になって、その本質を変えてしまうでしょう。資本主義は繰り返し、金融取引と資産価格の膨張により、資源を間違って配分する問題に直面しました。しかし、それは資本主義的に解決できる、とChan Akyaは考えます。すなわち、・・・
1.銀行のバランス・シートを整理し、2.借り手の債務削減、3.世界的なデフレ、4.利潤の上がらない、債務の大きな企業の倒産、5.生産能力が利潤をもたらす水準まで経済規模が縮小する、6.生き残った資本家が投資を再開する、7.利潤を伴う成長が再開する。
ところが、ケインズ主義は間違った解決策を押しつけました。・・・1.政府債務が膨張し続ける、2.銀行のバランス・シートには膨張した資産を残しておく、3.融資は損失にならず、資金供給を増やして、企業債務を維持する、4.投資家は、株式市場で、ランダムな賭けにふける、5.世界経済の回復という意味のない掛け声を繰り返す。
・・・日本の選挙では民主党が勝利したことを世界のメディアが歓迎した。しかし、自民党政府による企業への補助金が、今度は家庭に向けられるだけであり、何も変わらない。2007-08年の危機でアメリカ政府も変わったが、「改革」は言葉だけだ。今や、世界中が「日本人」だ。
The Japan Times: Saturday, Sept. 5, 2009
Moving from financial crisis to debt crisis?
By KENNETH ROGOFF
NYT September 8, 2009
DealbookA Breakdown on Handling Big Failures
By ANDREW ROSS SORKIN
Asia Times Online, Sep 9, 2009
Possible October surprises
By Martin Hutchinson
(コメント) なぜ危機を予測できなかったのか? イギリスのエリザベス女王も、シカゴの自動車労働者も、それを聞きたいはずです。同じエコノミストたちが、すぐに危機は再発しない、と言っても信用できるでしょうか?
KENNETH ROGOFFは、金融システムを守る政府の姿勢を投資家たちが確認したから、と答えています。しかし、金融危機は次第に政府の債務危機に変化していくでしょう。
政府債務を増やせる限り、金融市場の危機は回避できます。しかし、政治家たちは政府債務が数年で危機に至ることを無視しています。アメリカの債務は、特に、中国政府の投資に依存している点で危険です。1970年代に、同じようにアメリカの債務を蓄積したヨーロッパや日本がインフレの危機に見舞われて資産を大幅に失ったように、アジア諸国も危機に瀕するでしょう。
金融危機は予測できない、とKENNETH ROGOFFは書きます。それは心臓麻痺のように、危険な人を特定できるとしても、いつ起きるかはわからないし、危険だと言われない人にも起きる、と。
ANDREW ROSS SORKINの論説は、冒頭にポールソンの言葉が引用されています。「大き過ぎて潰せない」ということはない。秩序ある破産処理を示す必要がある、とポールソンは説明しています。金融改革の核心はこの問題を解決することです。それは金融再生機構“resolution authority”のようなものを創ることだ、とFrederic S. Mishkinは考えます。
それによって破産処理を避け、しかも政府主導で金融機関とその債権債務を整理できます。議会には公平さを示し、市場参加者には意思決定に伴うコストを示し、大き過ぎて潰せない、というジレンマを緩和します。
Martin Hutchinsonは、むしろ、もっと近い金融危機を予想します。2009年10月に、銀行の破たんではないが、アメリカの政府証券に対する信用の危機が起きる、と。金利は上昇し、金や国際商品価格も上昇する。こうして新しい資産バブルが破裂するのです。「大恐慌」を回避する「(金融危機の)大緩和」という、バーナンキによる介入政策の効果は続きません。
BBC 2009/09/04
WTO rules on huge plane dispute
CSM September 04, 2009
Boeing vs. Airbus – clash of the dwarfs?
NYT September 5, 2009
W.T.O. Says Airbus Got Some Illegal Subsidies
By NICOLA CLARK
FT September 6 2009
Europe and US air their differences
(コメント) ボーイングとエアバスとの貿易摩擦をWTOが裁定しました。EUがエアバスに開発に補助金を与えた、とボーイングは訴えてきました。しかし、実際は、双方が政府補助金を得て、航空機製造の寡占状態を続けています。EUやアメリカがWTOの法的な裁定に従うのか? という疑問が強くあります。経済危機は様々な分野で政府補助金を増やしています。
アメリカとEUが報復合戦を始めるとしたら、それが最も愚かな結末です。
Foreign Affairs
The Fed's Political Problem
Alan S. Blinder
NYT September 4, 2009
Bernanke: Greenback’s New Father
By FLOYD NORRIS
NYT September 6, 2009
The Wait for Financial Reform
By ALAN S. BLINDER
The Guardian, Monday 7 September 2009
What exactly did the Fed do with $2tn?
Dean Baker
(コメント) 連銀を議会の監視下に置こうとする法案にAlan S. Blinderは反対しています。
NYTの論説では、エマニュエルの原則(オバマの政権幹部を指名したエマニュエル補佐官の方針)を指摘して、金融改革に取り組むよう求めています。すなわち、「どうせやらざるを得ない重要な改革なら、危機のチャンスを逃さないことだ。」 しかし、すでに議会や国民には改革への熱意が薄れつつあります。なぜか?
改革の遅れた理由として、すでに過去の問題だ、余りにも多くの法案が提示されている、すべてのロビーの母とも言える金融サービス、官僚の内部抗争、焦点の曖昧さ、を指摘します。そして改革の焦点に、金融監視・監督局の整理、失敗した金融機関の安楽死メカニズム、デリバティブ市場の改革、を掲げます。
他方、Dean Bakerは、たとえバーナンキが強く反対しても、議会は連銀の融資先を知る必要がある、と主張します。連銀の莫大な救済融資や債務保証は、その本来の権限を超えて、巨大なパワーを握ってしまいました。バーナンキは、政府が連銀の独立性を損なうことは、経済的・金融的な安定性を損なうだろう、と警告しました。
・・・誰がこの不安定性をもたらしたのか?
The Guardian, Friday 4 September 2009 Nato's mission impossible Olivia Hampton
SPIEGEL ONLINE 09/04/2009 Dozens Dead in Afghanistan: UN Calls for Investigation into Air Strikes
WP Friday, September 4, 2009 In Afghanistan, No Choice but to Try By Michael Gerson
NYT September 4, 2009 Can the U.S. Lead Afghans? By MARK MOYAR
(コメント) NATO軍によるアフガニスタンの戦闘では、兵士の数が不足する中で、空爆を多用します。しかし情報の不足は誤爆をもたらし、民間の犠牲者を増やす結果になっています。地上の外国人部隊に対する現地の反感が広がり、ドイツ国内では反戦平和運動からの批判もあって、再建部隊の派遣を見直す動きが強まります。
アメリカは本当にアフガニスタンで勝利できるのか? 右派であれ左派であれ、ますます多くの論説がアフガニスタンで戦うことの根拠に疑問を呈し、オバマの苦境を指摘します。反対派は「ジェノサイド(大量虐殺)」と非難します。しかしMARK MOYARは、アフガニスタンの兵士の質が低いことを指摘し、アメリカ軍の将校がアフガニスタン軍を補佐するように求めています。
FP Fri, 09/04/2009 The Afghan phoenix By Peter Bergen, Afghanistan
LAT September 6, 2009 Afghanistan isn't Obama's Vietnam – yet Doyle McManus
(コメント) アフガニスタン戦争とベトナム戦争を比較しています。国民の支持や軍の規模、分析は、ベトナム戦争のような混乱を示していない。しかし、同じように、現地の政府は腐敗し、能力が低い。「スマート・アプローチ」の限界が露呈し、増派をめぐる決断を迫られています。
WP Sunday, September 6, 2009 In Afghanistan, Let's Keep It Simple By Ahmed Rashid
NYT September 6, 2009 The Afghanistan Abyss By NICHOLAS D. KRISTOF
LAT September 7, 2009 Should Obama go 'all in' on Afghanistan? By Andrew J. Bacevich
(コメント) アメリカ国民にこの戦争を支持するよう説得するためのポイントは何か?
1.安全保障上の死活問題だ、2.治安回復と自衛国家の再建が必要、3.アフガニスタンの戦争史には意味がない、4.アメリカには十分な力がある、5.たとえ多くの犠牲を払うとしても、この問題を後回しにできるような内外の情勢はない。
The Guardian, Monday 7 September 2009 Afghanistan: Dig in or walk away? Simon Tisdall
FT September 7 2009 President procrastinator By Daniel Dombey in Washington
CSM September 08, 2009 Dim prospects in Afghanistan Zbigniew Brzezinski.
(コメント) 民主党系の国際戦略家であるZbigniew Brzezinskiが応えています。
アフガニスタンに異教徒の外国人部隊がいることだけで、保守的なパシュトン人の反感を強めている。アメリカは、民主的なアフガニスタンを建設するより、ゲリラの討伐だけに関わる方がよい。しかし、腐敗した政治システムにおいて、アメリカの方針に従ってくれた人々を見捨てることはできない。国際会議の要請により、治安回復をアフガニスタン政府にゆだねる方向へ転換することで、外国人による戦争という反感を抑え、また、ヨーロッパ諸国の協力を続けてもらうことだろう。
CSM September 08, 2009 Afghanistan is still worth fighting for Francis Fukuyama
(コメント) オバマは間違った場所で国家建設を始めているのではないか? 保守派の戦略思想家、Francis Fukuyamaが応えています。
ゲリラに勝つには地元の住民に支持されねばならないし、有能な統治を伴うものでなければならない。アフガンでの戦争は必要だ。アフガニスタンの国家制度を強化しなければならない。アメリカの目的はソ連と異なる。それを住民が支持するかどうかだ。全体としてみれば、アメリカ軍の来たことを彼らは喜んでいる。
他の選択肢はある。治安を回復した北部を隔離して、アル・カイダとは無人操縦機や空爆だけで対抗する。しかし、隔離した地域が「新しいパキスタン」になるかもしれない。この戦略を地域の他の協力国はどう見るか? オバマは確かに優秀な軍事戦略家たちの助言に従いアフガニスタンの戦争に深入りしつつあるが、それが敗北するとは限らない。
SPIEGEL ONLINE 09/08/2009 Can the War Be Won? Disillusionment over Afghanistan Grows in West By Susanne Koelbl
SPIEGEL ONLINE 09/08/2009 The World from Berlin: 'Germany Has Become a Warring Party under US Command'
(コメント) ドイツ軍の要請で行われたNATOの空爆が民間人に50人もの犠牲者を出した、というニュースは、非戦闘地域でアフガニスタンの復興のために協力する、というドイツ軍の派遣条件が強く疑われる事態となりました。ドイツの政治党派別に、メディアの反応が紹介されています。
WP Tuesday, September 8, 2009 Will Obama Fight For Afghanistan? By Anne Applebaum
Asia Times Online, Sep 9, 2009 Afghan war reaches a tipping point By M K Bhadrakumar
The Guardian, Wednesday 9 September 2009 Afghanistan: Making things worse
FT September 9 2009 Germany shoots first and thinks again By Constanze Stelzenmüller
(コメント) 抑止のために暴力を先制使用する、という考え方が失敗に終わりました。ドイツ政府がアメリカを批判した通り、アメリカは戦略を転換し、逆にドイツの失敗が批判されます。
ドイツ国民が信じた二つの話が否定されました。ドイツ軍はアフガニスタンで良いこと(治安回復と復興事業)をしている。だから攻撃されるはずがない。それは選挙に向けた論争となるでしょう。
同盟を維持するには、兵員や装備だけでなく、弾力性、相互信頼、忠誠心が必要です。
FP Wed, 09/09/2009 Why is Afghanistan so hard? Stephen M. Walt
FP SEPTEMBER 4, 2009 No Exit? BY LOUISE ARBOUR
CSM September 09, 2009 Can Somalia be saved? By Alexander Noyes and Richard Bennet
(コメント) 資源豊富な国(チャド)の統治問題と、破綻国家(ソマリア)を考えます。
The Guardian, Friday 4 September 2009 Walking the climate talk Anthony Giddens
The Guardian, Tuesday 8 September 2009 A green deal for rich and poor nations Helen Clark
(コメント) 気候変動について、政治党派や貧富の差はどのように関係するのでしょうか?
WP Friday, September 4, 2009
Obama, the Mortal
By Charles Krauthammer
WP Wednesday, September 9, 2009
Obama's Crisis: Credibility
By Michael Gerson
(コメント) “His wax wings having melted, he is the man who fell to earth.” ・・・オバマは人であって、いくら弁舌が巧みであっても、しょせんはロウの羽根を付けた天使でしかない。就任時には高い支持率があったのに、舞い上がりすぎて地に落ちてしまった。・・・
Charles Krauthammerは、オバマが多くの点でアメリカ国民にとって左派に偏った人物だった、と批判します。バナナ共和国の独裁者にでもなった気分で、そのイデオロギーを実現しようとした、と。アメリカン・システムの大改造など、妄想だ。
・・・オバマは普通の人になって、普通の政治家として振る舞うしかないだろう。今までのような姿勢は、我慢ならない。・・・
Michael Gersonは、アメリカの政治システムが危機に応じて指導者にユニラテラルな行動を促す、と指摘します。それゆえ、政府は危機の意識を煽ります。それを知っていたジミー・カーターは、1977年の石油危機に際して、問題を戦争にたとえました。
国民の関心は一気に高まり、カーター政権は法案を提出しますが、重要な点で議会は対立したまま行き詰まります。その間に、主要な関心は、ソ連のアフガニスタン侵攻、イランにおけるアメリカ人の人質事件、へと移ってしまいました。
医療保険制度に関してオバマは国民に訴えましたが、政治対立が克服されるとは思えません。
NYT September 6, 2009
How Did Economists Get It So Wrong?
By PAUL KRUGMAN
(コメント) NYマガジンの論説です。マクロ経済学の楽観論は死んだ(暗黒時代の到来)、という議論に反対する主要な理論家たちを、PAUL KRUGMANが攻撃しています。マネタリストなどのシカゴ学派とケインジアンが正面衝突します。・・・明快です。
シカゴ学派からの反論もあります。John H. Cochrane, “How did Paul Krugman get it so Wrong?”
FT September 7 2009
Why some economists could see the crisis coming
Dirk Bezemer
(コメント) 誰も危機を予測しなかった、というのは、経済モデルに危機の条件が仮定されていなかったという意味で正しい、と考えます。しかし、危機を予測した者もいたわけです。たとえば、Kurt Richebächer(an investment newsletter writer)、Wynne Godley(the Levy Economics Institute)、Michael Hudson(the University of Missouri)の研究が指摘していた、と名前を挙げています。
彼らのモデルにあって、OECDなど、他の多くの研究にないものは、フロー(融資、金利、利潤、賃金)とストック(債務、資産)を区別し、実物経済と金融部門との間に明確な区別を設けて、資本を奪い合う関係を仮定していることです。金融部門は流動性を供給できますが、同時にインフレーションやバブルも生じます。債務の支払いは実物経済に依存しており、金融部門の肥大化は実物経済への融資を奪います。
バブルの発生は予測しがたく、その効果についてもモデルに入れることは難しい、として、通常は省略されてきたのです。
FEER September 2009
by Tobias Harris
(コメント) Tobias Harrisは、鳩山が『Voice』に載せた論説を抄訳した英文エッセーが元になって、その「友愛社会」論を「反資本主義」であると批判する論説が出ていることに反論します。
もちろん、日本では誰も、民主党や鳩山を「左派的」とは考えないでしょう。民主党は新しい資本主義を求めていますが、それは長い歴史的な試みです。全く「反資本主義」ではなく、国債の心配で「ケインズ主義」に向かうことも難しいため、自民党よりも「改革」を優先しています。
FT September 6 2009
Japan’s debt
(コメント) アニメの殿堂を破棄しても、日本の国債発行は容易に減りません。しかも、ほとんど国内で消化されています。それは日本の投資家がリスクを嫌い、国債以外の投資機会を見つけられない、という悲惨な状態を示しています。つまり・・・Homer Simpsonがビールについて述べたように。・・・「人生のすべての問題は、ビールがその原因であり、解決策でもある。」
Sept. 7 (Bloomberg)
Knew Tom Cruise in Past Life, Aliens in This One
William Pesek
NYT September 8, 2009
Japan Comes of Age
By RYU MURAKAMI
Sept. 9 (Bloomberg)
‘Princess Corps’ Shakes Up Male-Dominated World
William Pesek
(コメント) 鳩山幸夫人の宇宙人語録が英語メディアを刺激します。斬新な発想で、政治を退屈させない、成長の新しい機会も刺激する、そんな指導者像を示せたら。鳩山ショックを歓迎しよう。
他方、村上龍は、自民党を政権からたたき出したのに、なぜ国民は幸せそうでないか? と書きます。それは、国民が覚めているから、あるいは、成熟したから、と。日本の様々な問題を簡単に解決できる政府はない、と知っているのです。
この叙述は経済問題を憂鬱な小説の時代背景にしたように見えます。心象風景であって、政治経済分析ではありません。
もうひとつのWilliam Pesekの論説は、選挙で54人の女性議員が誕生したことを考えています。政治の世界に限らず、女性は差別されています。女性を労働力として活用しないままでは、日本は高齢化に対処できません。妊娠すれば退職を強いられるような日本では、女性たちが子供を産まなくなりました。
新しい女性議員たちは、こうした問題に解決策を見出す力になるでしょう。
FT September 9 2009
Japan’s green gift to Copenhagen
(コメント) 鳩山次期首相の発言で、これほど世界の論争に影響を与えたと評価されたものはありません。日本が思い切った温暖化ガス排出量の削減(8%ではなく、25%)を目指す、と宣言したことです。鳩山の勇断に主要諸国は従うべきだ、とFTは称賛します。
もしかすると、これによって日本の煙突工場は消えてしまうかもしれません。それは技術革新によるのか、あるいは、製品輸入や工場の海外移転によるのか、脱工業化やグローバリゼーションと失業をめぐる論争が活発になるでしょう。
The Japan Times: Wednesday, Sept. 9, 2009
In Hatoyama's 'fraternity,' people the end, not means
By YUKIO HATOYAMA
(コメント) 鳩山由紀夫の「私の政治信条」を英訳した文章です。「友愛社会」への外国メディアの誤解を質す目的で公表されました。鳩山一郎とCoudenhove-Kalergi、そして、フランス革命の理想を継承したい、という趣旨でしょうか?
YaleGlobal , 10 September 2009
Will Japan Finally Get a Cabinet That Makes Policy?
Karel van Wolferen
The Japan Times: Thursday, Sept. 10, 2009
Words of wisdom from Hatoyama
By TOM PLATE
(コメント) 日本の政治家は、1960年代以来、政策決定ではなく、権力抗争をもっぱら担ってきた、とKarel van Wolferenは書きます。政策はすべて官僚に任せた、というわけです。内外の官僚支配を打破できれば、特に、有力な政治家を陥れるスキャンダルを回避し、政策の決定権を取り戻せば、日本は国際関係においても存在感を増すでしょう。アメリカ、中国、ロシアとの関係を、民主党がどうしたいのか、問われてきます。
鳩山の政治信条はGlobal Viewpoint Networkで世界に広まった、とTOM PLATEは書いています。そして、アメリカのエリートたちが鳩山を責めているが、むしろアメリカ国民の多くはグローバリゼーションに反感を強めており、その他の点でも鳩山の主張は強く支持できる、と考えます。
BG September 6, 2009 A bad sign - illegal immigrants are leaving By Jeff Jacoby
IHT September 7, 2009 Helping Migrants Weather the Storm By WILLIAM LACY SWING
LAT September 7, 2009 L.A.'s warehouse workers: invisible and exploited By Harold Meyerson
(コメント) 不況は移民のプラス評価を失わせ、マイナスの見方を広めます。IOM(国際移住機構)は移民送金が逆転する事態も報告しています。しかし、移民の機会は閉ざされないでしょう。豊かな国が経済を回復する過程にも彼らが必要なのです。
アジアからアメリカをつなぐグローバル・サプライ・チェーンの連結点として、オンタリオやフォンタナの倉庫群は重要です。ウォルマート、ターゲット、ホームデポ、など、アメリカ中の店舗が商品を求めて来ます。南カリフォルニアの倉庫に働く労働者たちは、見えない労働者です。どこが倉庫なのかもわからず、彼らの存在も隠されているからです。非合法移民や一時雇用の労働者は、こうして搾取されている、とHarold Meyersonは告発します。
エアコンも窓もなく、激しいスピードで、危険な作業を強いられる、という一時(下請け・派遣)労働者の叙述は、まるで中国の工業都市のようです。
BBC 2009/09/08 Recession moves migration patterns By Andrew Walker
BBC 2009/09/08 Migrants to UK 'returning home'
BBC 2009/09/08 Recession migration in graphics
BBC 2009/09/08 Woman forced back into prostitution By Anelise Infante
BBC 2009/09/08 Turnstiles not floodgates for Polish workers By Rob Broomby
(コメント) 経済危機における移民の特集記事をBBCが載せています。おもにヨーロッパにおける移民の変化、世界の移民パターン、特に中国の国内移民、を紹介しています。そして、豊富な図表があり、興味深いです。・・・投資と同じように、移民たちも、世界で少しでもよい機会がある場所を求めている。
FT September 6 2009
Europe’s failure of ambition stunts growth
By Wolfgang Münchau
IHT September 11, 2009
Advice for Western Europe
By MOJMIR HAMPL
(コメント) 経済危機の長期的な結果として、マクロ政策の混乱から、ヨーロッパの調整は長引き、成長率が低下する、とWolfgang Münchauは憂慮します。EUが追及すべきマクロ経済の問題点は6つです。・・・刺激策を一斉に止めない、5年間の成長戦略を立てる、財政安定協定の改正、危機回避と危機管理の改善、東欧のユーロ導入を急ぐ、ユーロ圏の経済政策代表を決める。
他方、チェコ中央銀行の副総裁であるMOJMIR HAMPLは、「東欧」を一括りにして分析したり、助言・批判したりする、西側(と国際機関)の悪弊を痛烈に批判します。
The Guardian, Monday 7 September 2009
Tony Blair
(コメント) 「多くの発展途上諸国において、良くも悪くも、宗教は最も強いパーソナリティーの表現である。」と、イギリスの元首相、トニー・ブレアは書き始めます。アイデンティティーを理解することは、紛争の和解や政治を理解するために不可欠であり、貧困の解決にも重要です。
国家が弱体化すれば、人びとは教会のような宗教組織によって生活必需品を手に入れます。信仰心のつながりは人びとを活動的な市民にし、ケニヤの選挙やビルマの抵抗運動が示したように、社会変化をもたらします。
それゆえ、The Tony Blair Faith Foundationが設立されました。ブレアは宗教組織を開発目標の実現に有効な媒体と見るようです。貧困の解消や、援助、貿易について、宗教組織は強い関心を示します。もちろん、彼らはそのためのNGOsではなく、基本的な信仰のために協力するのです。しかし、人間的な発展や平和、正義を広く実現することは、彼らの神の慈悲や憐憫が示されることでもあるのです。だから宗教組織には、その本質において、人びとの能力開発や統治の改善に資源を費やす用意があります。
確かに、信仰をマイノリティーの依拠する閉ざされた文化として固執する極端なケースもあります。しかし、そのような少数のケースによって宗教を非難してはならないでしょう。ブレアは、モザンビークの優れた試みとして、異なる信仰集団から一緒に指導者を育てるプログラムを紹介しています。彼らはコミュニティーの衛生について教育できる能力を身につけ、協力して病気のデータも集めます。異なる宗教組織に依拠して知識を広められるでしょう。
1980年に開発を論じたブラント報告のゴーストライターがアンソニー・サンプソンであった、というのも面白いですが、彼は当時、委員会にエコノミストが多すぎて、人類学者は少ない、という感想を持ったそうです。政策に及ぼす文化や信仰の問題は、今も、まだ十分に理解されていません。
・・・われわれはグローバル・コミュニティーに生きています。利用できる資源や水、石油はますます限られるでしょう。気候変動であれ、地球規模の金融危機であれ、われわれの相互依存は顕著に示されています。14億人の貧困解消、飢餓に苦しむ9000万人への食糧供給、といった問題に、政府も宗教組織も直面しています。共通の安全保障を目指して、われわれは宗教や文化の違いを超え、隣人たちと協力しなければなりません。
WSJ SEPTEMBER 7, 2009
Which Way Did the Berlin Wall Fall?
By HENRYK M. BRODER
(コメント) 1989年の東西ドイツの再統合は、言うまでもなく、東ドイツを西ドイツのように変える試みでした。しかし、10年後に、旧東ドイツ市民たちは、ますます西ドイツとの格差が拡大していると嘆き、自分たちは二流の市民だ、と感じていました。さらに10年が経って、統一後のドイツは日に日に東ドイツの政治に似てきた、とHENRYK M. BRODERは考えます。
その視点だけでも刺激的ですが、論説全体は現在のドイツにおける複雑な政治風景を伝えています。・・・抄訳する余裕はありませんが。
The Guardian, Wednesday 9 September 2009
This rewriting of history is spreading Europe's poison
Seumas Milne
FT September 10 2009
A misreading of the past holds a lesson for future
By Philip Stephens
(コメント) 歴史の解釈は、未来を予測するのと同じくらい、非常に複雑で、政治的な思考に左右されます。誰が第二次世界大戦を始めたのか? と問い直す者がいます。
今から見れば、ドイツの再統一を議論したサッチャーも、ミッテランも、大きく間違っていたようです。ドイツは拡張主義を取りませんでしたし、東欧は旧時代の権力争いに戻りませんでした。コールがミッテランと、ユーロの受け入れ(マルクの放棄)で取引した、ということだけではありません。
Asia Times Online, Sep 10, 2009
Obama in showdown over Chinese tires
By Patrick Chovanec
FT September 10 2009
Obama can help free trade with tariffs
By Clyde Prestowitz
(コメント) Patrick Chovanecは、アメリカのタイヤ産業が競争力を失ってしまい、企業は海外生産に生き残りをかけている、と指摘します。オバマは貿易について、雇用の維持を主張する組合などの側に立つか、アメリカの主要貿易相手国とともに自由貿易を実現する側に立つか、決断しなければならない、と。
他方、Clyde Prestowitzは、逆に、国際貿易委員会の提案を受け入れずに「自由貿易」を支持する方が、アメリカは開かれた貿易システムやグローバリゼーションを危機に向かわせる、と主張します。・・・本当に?
Prestowitzは明快に主張します。オーソドックスな自由貿易論はウィン・ウィン・ゲームである。アメリカが中国からのタイヤ輸入を増やしても、国内の労働者たちはタイヤ産業から他の産業に移動して雇用される。しかし、もし彼らが雇用されないなら、消費の利益など意味がない。
中国との貿易政策は、自由貿易ではなく、新重商主義的な国家管理の輸出指向成長戦略である。為替レートの管理、輸出産業への補助金、直接投資には優遇策、外国企業は輸出を求められる。タイヤ産業には規模の経済が働き、市場競争は不完全である。
こうした中国との貿易は、典型的なゼロ・サム・ゲームであって、しっぺ返し戦略が求められる。それは十分に予想されたことであったから、アメリカ政府は中国がWTOに加盟する際、貿易不均衡が過度に生じた際のルールを合意しておいた。国際貿易員会はそのルールに従って輸入を抑制する関税を勧告している。
だから、ルールに依拠した自由貿易を守るためにも、政府は関税を採用しなければならない、と。
BBC 2009/09/10
Will UK interest rates go negative?
By Kabir Chibber
(コメント) 金利を下げる限界に達した? 量的緩和政策を増大するべきか、あるいは、マイナス金利を導入するか? イングランド銀行は悩みます。
7月にスウェーデンがマイナス0.25%の金利を採用して論争を起こしています。あるいは、それは実際にはマイナス金利ではないのか?
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The Economist August 29th 2009
Big is back
The lesson from Sodom and Gomorrah
Africa’s population: The baby bonanza
(コメント) 大企業の復活、という記事が面白いです。アメリカで大企業が嫌われるようになったのは、経営的には無意味な企業合併をくり返したからでしょう。大企業病になって、革新的な新興企業に淘汰される運命でした。それは、1.規制緩和と競争の促進、2.パソコンとインターネットの普及、によって決定的になったのです。
しかし、その後、二つの要因が大企業の復活を用意した、と記事は考えます。1.下請けやグローバル・チェーンに含まれるリスクへの関心、2.大企業病を免れる経営手法の開発、です。その結果、将来の世界経済は、こうした大企業再興と新興企業の入り乱れた、ダイナミックで、しかも安定したエコ・システムに近付くのではないか、と予想します。
次に、面白いのはアフリカの人口転換に関する特集記事です。「アジアの奇跡」がそうであったように、多産多死型の社会が少産少死型に転換するとき、死亡率は低下したのに出生率がまだ低下しない、多数の子供から労働人口が大量発生する「大当たり」に直面します。言い換えれば、無制限労働供給型の経済発展を実現する好機です。
アフリカが次の中国であっても不思議ではない、と記事は考えます。ただし、そのためには戦争や疫病を解決し、経済活動にふさわしいガバナンスを確立しなければなりません。それができなければ、この好機は通り過ぎてしまうでしょう。それどころか、すでに地域によっては始まっている「マルサスの罠」に落ち込むのです。
The Economist August 29th 2009
Afghanistan’s presidential election: The vote nobody won
Charlemagne: Summertime blues
Charles Taylor on trial: Man of peace, man of war
Refugee trends: Lost in limbo
Economics focus: Jackson’s Hole
(コメント) アフガニスタンの大統領選挙はオバマの政治的資本を消尽させる病かもしれません。他方、ヨーロッパの財政赤字と政治についても、国際刑事裁判所についても、難民をめぐる国際合意についても、悲観的な記事が並びます。
「ジャクソン・ホール・コンセンサス」と呼ばれた、世界の中央銀行家たちが頼りにする、合意されたルールが、今回の危機によって壊滅しました。すなわち、中央銀行の仕事はインフレを抑えることであり、そのためにはインフレ目標の採用で良い。インフレ期待を抑えるためにも、透明性や金融政策の予測可能性を重視することだ。
危機に際して、異常な政策が取られ、その後、中央銀行に要求されることも変わりました。正しい手段や効果は誰にもわかりません。