IPEの果樹園2009

今週のReview

5/11-5/16

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

資本主義と公平さ、 クライスラーとフィアット、 ユーロ圏の不況、 膨張主義への回帰、 ガイトナーの計画、 金融危機の長期シナリオ、 サッチャー革命30年、 ドイツの反論、 分配問題と生産と消費の矛盾、 インフレ懸念、 ドル批判と中国の転換、 EU共通漁業政策

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ただしBG: Boston Globe, CSM: Christian Science Monitor, FEER: Far Eastern Review, FP: Foreign Policy, FT: Financial Times, IHT: International Herald Tribune, LAT: Los Angeles Times, NYT: New York Times, WP: Washington Post, WSJ: Wall Street Journal Asia


FT April 30 2009

A catechism for a system that endures

By Samuel Brittan

(コメント) 「資本主義の教理問答」には終わりがない・・・。資本主義は「不道徳だ」と非難されました。「必然的に崩壊する」とも。しかし、そのたびに資本主義は再生し、繁栄するとまた「不道徳だ」と非難されます。

スミスでも、マルクスでも、資本主義社会が「商品」の集積された社会である、と指摘しました。しかし、それだけではありません。Samuel Brittanは考えます。

1.長期の契約。2.法の支配。もしくは、「ゲームのルール」が確立されていること。3.信頼、4.商業社会、5.私的所有(ただし、生産手段以外はその他の所有も多くありました)、6.生産者間の競争(ただし生産者は競争が嫌いです)、7.ある程度の経済的自由。ただし環境など、市場で解決できない問題がありますから、市場の失敗と政府の失敗とのバランス。

8.所有と支配・経営との分離。9.資本市場、10.安定し、機能する貨幣、11.貯蓄機関。

以上がうまく機能する「資本主義」システムの部品です。1〜7は「実体経済」、8〜11は「金融経済」と考えます。今のように、危機を経験した資本主義が「規制」の強化に向かうのは受け入れますが、規制された社会とはしばしば(公益ではなく)組織された団体の利益を守るものです。必ず「道徳的」に優れているとは限りません。

Samuel Brittanの整理は、私的所有、商品、資本、という発想や、国家について、以前の議論と基本的に同じだと思います。自由主義・保守派の思想家や経済学者も、政治経済体制の問題を議論するときには、かなり共通した理解を示すのです。

これほど資本主義を広く定義すれば、世界の辺境にある、隔絶した集落にでも行かない限り、「資本主義」でない社会など見つかりません。「資本主義」しかなくなった、という主張には、特別な意味はないのでしょう。

いっそ、純粋な「資本主義」などどこにもない、「社会主義」だらけだ、と。

The Observer, Sunday 3 May 2009

Life may not be fair, but that's still no excuse for an unjust society

Will Hutton

(コメント) 不道徳、と非難される問題は、さまざまな社会にあるでしょう。しかし、富を増大させる「資本主義」によって、特に、達成されていないのは「公平さ」です。

もちろん、農奴制であれ、社会主義であれ、資本主義は私的所有が競争的に富を増大させるメカニズムを起動させました。しかし、Will Huttonの論説が指摘するように、人々の生活は不満に満ちています。左派は累進課税と公共施設を唱えましたが、右派は人種差別と移民排斥を扇動します。今、有権者たちの不満を吸収するのが、労働党ではなく、BNP(極右のイギリス国民党)であることに、政治家たちはショックを受けます。

Will Huttonの示す「公平さ」の基準とは、1.公平な扱い。2.怠慢や詐欺によってではなく、不幸な事故や病気に対する支援・補償。3.人並み以上の努力に対する報酬。4.優れた能力に対する比例的な報酬。(3.4.は少し違うかもしれません。)

ところが、左派はこの問題を厳密に扱うことなく、不満に対応しようとして、むしろ右派の人種差別やアイデンティティ政治に流されてしまいました。社会的給付を白人のイギリス人に限るべきだ、雇用を白人に限るべきだ・・・ しかし、長年、イギリスの海外における軍事任務に従ってくれたグルカ兵たちをイギリスでの生活や年金支給から締め出すことには、多くの国民が反対します。

人々が強く嫌うのは詐欺的な給付です。落ち度のない失業者に社会的な支援が機能することを誇りにするとしても、怠慢を奨励するつもりなど決して無いのです。だから、左派は原理を明確に示して、国民に合意の形成を促し、それに依拠した原理的な選択として政策を示すべきなのです。累進課税や、移民をも含めた社会的給付の正当性を、正面から論じなければなりません。

The Guardian, Wednesday 6 May 2009

This epochal crisis requires us to resolve the paradox of capitalism

Timothy Garton Ash

(コメント) この70年間で最悪の危機を経験している資本主義から何が生まれると期待できるか?  Timothy Garton Ashはそれを「新しい持続可能な社会市場経済」である、と考えます。

資本主義には多くの変種があり、どれが正統とも言えません。民営化や規制緩和で、強欲を肯定した、アングロサクソンの一部と旧共産圏で支配的になった変種が、今回の危機で問題になっただけで、資本主義は生き残るでしょう。

かつて、ドイツの戦後復興を支えた「社会的市場モデル」は、企業の厳しい法や制度の規制を加え、株主だけでなくステークホルダーにも意思決定に参加させて短期と長期のバランスを取りました。政府は社会的な最低限度の生活を保障し、企業活動にも倫理的なエートスを求めたのです。ダニエル・ベルを引いて、Ashは、資本主義の下で、生産における倫理規範と消費における欲望の加速が矛盾することを指摘します。

また、イングランド銀行のメルビン・キング総裁が述べたそうですが、金融ビジネスには国際的な営利行為を許していながら、その失敗は本社の国民が支払う、という矛盾もあります。営利活動はグローバルだが、死ぬときは国民の不幸でしかないのです。その活動によって莫大な利益を得る経営者やトレーダーたちは、互いの利益を比べあって個人的な報酬を吊り上げました。しかし、彼らは景気変動も、社会的、環境的なコストもまるで無視して、極端に近視眼的な「パフォーマンス(成果)」だけを報酬の理由にしたのです。(自分の方が多く儲けたのに、奴は5億ポンドも報酬を得ている。自分は、たったの4億ポンドだ!)

資本家の莫大な所得を説明するために、彼らはリスクを取る、と説明する人もいますが、今回、彼らのリスクは、結果的に、その多くを国民が負いました。故意ではなかったとしても、銀行強盗である、と感じるはずです。Ashは、それが行われた時点で合法的であった以上、彼らに返却しろとは言いませんが、自主的に、あるいは、寄付や慈善活動の形で、彼らが富を社会に返すことは正しい、と考えます。

資本主義が生き延びるとしたら、こうしたバランスを回復しなければならないでしょう。生産者と消費者、報酬と社会的な倫理、環境の持続可能性、そして、国際的な貧富の格差、です。

WSJ MAY 7, 2009

Capitalism in Crisis

By RICHARD A. POSNER

WSJ MAY 7, 2009

Britain Will Remain a Global Financial Leader

By ALISTAIR DARLING and WIN BISCHOFF

(コメント) 資本主義の危機は、政府と中央銀行によって供給された貨幣が多すぎたせいか、それは多くの者を滅ぼしたのに、金融センターとして急速に回復し始めるのか?

WSJが恐れるのは、1930年代の不況を再現しないために政府や中央銀行がもたらす莫大な貨幣の洪水です。それは、激しインフレや経済活動の政府による管理、国営化を意味するからです。

しかも、資本主義の危機を招いた原因が、そもそも、グリーンスパン議長の認めた金融緩和の継続でした。あまりにも低い金利で住宅を購入できたことが、バブルを生んだのです。また、金融ビジネスにおける規制緩和が進んだせいで、競争が激化し、ノンバンクの設立やレバレッジが横行しました。こうしたビジネスが破たんして、公的部門がその激しい縮小を防ぐために、次々に債務を引き受け、公的資金を支出しています。ところが金融部門は再建できなまま、資金がため込まれているのです。

RICHARD A. POSNERが得た教訓は、1.ビジネスは政府の創った条件に従う。危機の責任は連銀にある。2.銀行家たちを罰するのは後だ。今は投資の信頼を回復することを優先せよ。3.最も責任があるものを責めよ。バブルの条件を創り、その後の処理を誤ったのは政府である。

しかし、イギリスの蔵相やシティグループの元幹部ALISTAIR DARLING and WIN BISCHOFFが金融センターの再生を国際投資家たちに呼びかけるのは、いかにも時期尚早と感じます。・・・何が変わったのか?


FT April 30 2009

Chrysler files for Chapter 11

By Tom Braithwaite in Washington and John Reed in London

WSJ APRIL 30, 2009

The UAW in the Driver's Seat

By PAUL INGRASSIA

LAT May 1, 2009

Where's Obama's steering Chrysler?

NYT May 1, 2009

The Chrysler Bankruptcy

(コメント) クライスラーを破産処理することについて、オバマ政権と一部の投資家は対立しています。オバマ大統領はヘッジファンドを批判しました。30-60日間、破産処理の裁判期間は北米のすべての工場が閉鎖される、ということです。

破産処理の問題は、労働組合の姿勢についても指摘されています。年金や医療保険など、労働者の債権が重要な交渉事項となるからです。PAUL INGRASSIAは、UAW(全米自動車労組)がクライスラーとGMの最大株主になった。彼らに会社が経営できるか? と書いています。

つまり、ヘッジファンドのトレーダーや銀行の経営陣が責められているように、UAWも社会的に見て過分な給付を受け取ってきたのではないか? という疑問です。経営に参加した労働組合が、退職金の資格や額を引き上げるのは当然だ? しかし、今や一括で設けるはずの基金の一部を株式で受けとることになりそうです。・・・高齢化で騒ぐ日本の政治家と同じことを、企業内部で破産処理をめぐって論争しているわけです。

LATも、オバマの会見はまるで勝利宣言のようであったが、その前提は疑わしい、と考えます。労働組合や銀行が資産の一部を切り捨て、また、組み替え、消費者が受け入れるような自動車を、長年失敗したけれど、今度こそ積極的に生産することができる、という前提です。

NYTも、一層の公的資金を要請されたことを拒む政権の姿勢を支持しますが、破産処理が成功するとは確信していません。多くの問題が未解決です。たとえば、ダイムラーによるクライスラーの買収・合併が失敗したように、企業文化の違いは破局的な結末ももたらしうるでしょう。

FT May 3 2009

Driving on regardless

By Paul Betts and John Reed

FT May 3 2009

Back-seat driving

May 4 (Bloomberg)

Goldman Sachs Foreshadowed UAW’s Chrysler Coup

Kevin Hassett

WP Wednesday, May 6, 2009

What's Good for Chrysler . . .

By Harold Meyerson

(コメント) クライスラーにとっては予想よりもましな、GMにとっては楽観を吹き飛ばす、政府の破産法適用決定でした。FTは、アメリカ自動車産業が回復する条件をふたつ挙げます。1.何十年も制約となってきた過去のコストを切り離す。2.ビッグ・スリーの経営を、より明確で、非情緒的な姿に変える。

ユナイテッド航空について、1995年、給与の削減を含む被雇用者による再建計画が、希望に反して、経営を改善できず、失敗に終わったことにも言及しています。クライスラーの破産法申請は、ビッグ・スリー再生のために新しい道を目指す出発点であるとしても、さらに険しい仕事が山積していることを認めるものです。

I feel like I have seen this bad gangster movie before.・・・とは、どういうことか?Kevin Hassettは、オバマ政権が労働組合に株式の55%を与えたことを批判します。一般の債券保有者は、企業再建のために、大幅な債権の切り捨てを強いられるからです。これは詐欺に近い、と。

投資家たちを「ハゲタカ」と非難することも、労働者たちの解雇費用を高く評価したことも、Hassettは不満です。政府は、AIGを救済するときには、ゴールドマンサックスに129億ドルも注ぎ込んだ。その差は、政治的なコネがあるかどうかだ、と。

Harold Meyersonの論説には、こんな記述があります。「国民、退職者、販売店、部品供給業者、労働者は地獄行きだ。破産について、ヘッジファンドはよく知っている。彼らは何を売って儲けるつもりか? クライスラーにまともな値段で売れるものがあるのか? ミシガンやインディアナの古い工場? 何のために売るのか?

しかし、売れないだろう、と考えます。その結果は、法に従って優先権が決められ、工場や資産は裁判所が再編します。政治的なコネで生き延びた銀行と違って、自動車会社は、公的資金を使って企業を整理するのです。


FT April 30 2009

An ever-fearful Europe risks forfeiting the future

FP Fri, 05/01/2009

Bad counsel

By Desmond Lachman

NYT May 3, 2009

Division, Unity and the Euro

By DEVIN LEONARD

FT May 3 2009

Anniversary blues

(コメント) アメリカが現在の危機を回避するために未来のリスクを無視するのに比べて、ヨーロッパは逆に未来のリスクを恐れて現在も慎重な態度を摂ります(イギリスはその中間です)。大西洋を挟む文化的なギャップは埋まらないでしょう。アメリカやIMFがヨーロッパの不況を警告したのに、ECBはすでにインフレの兆候を見ていました。(経済危機でも、ロシアへのエネルギー依存でも。)

だから、アメリカ人Desmond Lachmanは、この不況に際して、ギリシャ、アイルランド、スペインなどで、財政赤字を削ろうとするEUを激しく非難します。これこそ金本位制が世界を崩壊させられ岸から人類が学んだはずの教訓を無視することではないか? 狂気の沙汰だ。

EU加盟5周年でも、新加盟諸国の市民たちは素直にそれを祝う気持ちになれません。EUは、市場の拡大と競争が、小さな市場内の保護と安定化よりも、優れていることを示さなければなりません。たとえ西欧が失業して東欧に工場を移転しても、成長率は高まった、と。また、EUは金融危機(東欧も)や不況・失業対策(特に西欧旧工業地帯)で、個々の国よりEUこそが、より包括的な優れたプランを示せる、と。

FT May 3 2009

Europe must learn from Japan’s experience

(コメント) 最終ランナーだと思っていた日本が、最近、ますます最先端の世界不況国家(すなわち、国際収支不均衡やアメリカの金融バブル、ドル体制の影響下で、自由化や国際化に動揺した脆弱な金融システムが、金融政策の政治的な混乱、土地・株式バブル、大暴落と長い停滞、莫大な政府債務をもたらした)、バブル後経済管理先端国家、であるかもしれない、と近頃思います。

ただし、その成果の点では「反面教師」です。すなわち、「日本の失われた10年」から学ぶ、繰り返してはならない、という論説です。アメリカが失業を恐れ、ヨーロッパがインフレを恐れるように、将来、日本は重債務国家と経済停滞・空洞化を恐れるようになるのでしょう。

つまり、・・・何度も何度も危機の程度とコストを過小評価し、対策を小出しにして失敗し続けた。政府や金融監督の報告する数字を誰も信用しなかった。銀行の不良債権を強制的に処理させて、公的資金を注入するまで金融システムは回復しなかった。金融危機が続く限り、実体経済との不況の悪循環を回避するために、莫大な政府支出を必要とした。など。

すでに良く指摘されていることです。ヨーロッパは、日本と同じように、官僚制度やルールが強固で、失敗を繰り返しそうだ、と恐れます。ただし、量的緩和策については、効果的な対策というより、単なる結果であろう、と疑います。

さらに、世界不況の中で輸出に頼れない点で、ヨーロッパは日本より不利である、と。

FT May 5 2009

Moment of truth

By Ralph Atkins

FT May 7 2009

Fighting recession in the eurozone

NYT May 8, 2009

Central Banks in Europe Ease Credit Policies Further

By CARTER DOUGHERTY and JULIA WERDIGIER

(コメント) Ralph Atkinsは、WyploszDe Grauweの議論に拠りながら、ECBの金融政策を考えます。深刻な金融危機は、すべての中央銀行や民間金融システムに対する信頼を損ないました。金利を1%まで下げて、無限に流動性を供給した後で、さらに何ができるのか? トリシェ総裁の課題と選択肢を考えます。

ユーロ圏の経済を正しく機能させるために、ECBはアメリカ連銀のように迅速な金融緩和を行いませんでした。今となっては、インフレ懸念をいつまでも指摘したことが間違いだったと分かります。また、イギリスと違って、ユーロ圏の為替レートはドルに対して増価しました。これも多くの国で不況を強めたでしょう。

フランクフルトにある「鋼鉄とガラスの塔」(ECB)から見れば、ユーロ圏の問題はその最大規模のドイツ経済が急速に悪化したことであり、その原因は世界需要の急減でした。世界需要を急減させたのはリーマンブラザーズ・ショック、すなわち、アメリカ発の世界デフレなのであって、ヨーロッパやECBに責任はないのです。フランクフルトでは、アメリカの仰々しい財政刺激策は、ヨーロッパの「自動安定化装置」とほぼ同じ規模である、と語られています。

さらに、ECBから見れば、アメリカ連銀に負けない速さで、ECBは市場に流動性を供給してきました。それが市場の不安を抑制できたことがもっと評価されるべきなのです。ECBによれば、その効果は「量的緩和」に匹敵する、ということです。

ECBが金利の引き下げをためらったのは、インフレ率に関する厳しいルールとハイパー・インフレーションの記憶があるからです。大幅な財政赤字が予想されているのに、今、極端な金融緩和に進めば、後で金融引き締めはそれほど迅速に行えないだろう、と躊躇したわけです。また、金融の独立性を何よりも重視し、財政赤字の貨幣化、という姿勢に傾いた印象も与えたくなかったと言われます。ECBが対決しなければならないのは、1人ではなく16人の財務長官です。

しかも、ECBの政策決定は、16の参加国と6人の専務理事からなる、22人で決めます。会議の規模が大きすぎると革新的な政策は合意できません。各メンバーの経歴も様々で、官僚や政治家、学者、企業重役など、そのうちの9人は経済学教授でした。彼らが集められれば、塔の中で論争することは尽きません。

特に、非伝統的・革新的な政策を採用するとき、ユーロ圏の分割された金融システムがどのように反応するか、誰にも納得できる議論は示せません。Atkinsは、アメリカ連銀とECBの異なる伝統を、仲裁しつつ、ユーロ圏の経済状況が悪化することで失われた信頼を回復することは、当然、彼らの主要な関心だろう、と結んでいます。

次の選択肢として評価しているのは、国債の購入、民間資産の購入、低金利の継続、さらなる金利引き下げ、無制限貨幣供給の継続、担保条件の緩和、介入によるユーロ安促進、何もしない。


May 1 (Bloomberg)

GDP Growth of 6.3% Might Vanish Into Thin Air

William Pesek

Asia Times Online, May 5, 2009

The mirage of recovery

By Hossein Askari and Noureddine Krichene

Asia Times Online, May 6, 2009

The world melts, China grows

By Dilip Hiro

(コメント) 裕福な国は貧しい国の32倍も多くの水、燃料、食料を消費し、さらに多くの温暖化ガス、プラスチックを排出している、というのは、アジア諸国が豊かになる前に地球を滅ぼす問題となります。文明史家のジェレド・ダイヤモンドが心配するのは当然でしょう。それは、過去に滅んだ文明と同じように、人類が決断することで変えられるわけですが、アジア諸国が欧米日の裕福な生活や工業化を同じように実現することを妨げる理由はないし、また、他国が制限しないのに自国だけが宣言する理由もありません。結局、今回の経済危機などの形で、地球がそれを拒むまで続くでしょう。

すでに紹介したように、Hossein Askariは、金融緩和で大恐慌の再現を回避できるというオバマ政権・ガイトナー=バーナンキを否定します。金融危機の原因は過度の金融緩和でした。彼らの発想は逆転しています。むしろ、1920-23年のドイツにおけるハイパー・インフレーションを回避せよ、というヨーロッパの主張をアメリカに適用します。他方、バーナンキが金融緩和の責任を中国・アジアに転嫁する、世界過剰貯蓄論、を批判します。

バーナンキの最大の失敗は、この危機を単なる「流動性の危機」として処理できると考える(あるいは、市場に信じ込ませる)点です。資産の価値が大幅に失われて行く(以前の水準には回復しない)ことを無視しています。

Askariが正しいと考えるのはポール・ボルカーです。彼は1979年に連議院議長となって、逆のことをしました。金融政策を引き締め、19%の高金利を維持して、金融部門の健全性を回復させたことが、その後の持続的な成長の条件になったのです。

Dilip Hiroは、世界不況の中で、中国の成長を考えます。危機の時代にこそ、中国の待っていたチャンスがある、というわけです。2兆ドルの外貨準備を使って、世界各地の資源や企業、技術を買い取り、国内の主要なインフラを整備し、農村部の貧困対策にも取り組むでしょう。

中国が成長し続ける最初の機密は、銀行システムが国営であることです。欧米の金融システムが信用不安で機能停止にあるのと違い、中国の金融システムはそれから隔離されており、基本的に、政府の指令に従います。しかも、一人っ子政策で人口爆発を抑制し、国営企業の整理とともに社会保障システムが失われたことによって、国民は多くの貯蓄を行いました。

同様に、失業対策でも、銀行システムの管理でも、政府の姿勢は明確です。将来の産業発展を担う高度な職業訓練を助成し、銀行の幹部の給与を1540%削って、人々の不満を和らげます。

国際秩序に関わる大きな焦点として、エネルギーの安定的供給と、国際準備資産、国際通貨制度の改革を、中国が要求し始めたことは重要です。


The Guardian, Friday 1 May 2009 The Marxist misanthrope Tristram Hunt

FP Wed, 05/06/2009 Marx Salon By James K. Glassman

FP Wed, 05/06/2009 What Matthew Yglesias still doesn't get about Marx By Leo Panitch

SPIEGEL ONLINE 05/06/2009

POVERTY IN GERMANY: 'People Are Losing Their Faith in the State'

(コメント) ドイツにおける新しい貧困問題と社会不安について、貧困層の救済に取り組むGerd Häuserが語っています。


FT May 1 2009

A lesson for bankers from the birds and the bees

FT May 3 2009

Troubled banks must be allowed a way to fail

Thomas Hoenig

The Guardian, Monday 4 May 2009

Preventing Wall Street's risky business

Dean Baker

(コメント) イングランド銀行のMervyn Kingキング総裁と、イギリス王立協会の元会長、Lord Robert Mayとが、新しい金融システムと金融改革の在り方について研究会を立ち上げました。金融システムの動きは、鳥の群れやハチの行動や生態から何を学べるだろうか、というわけです。

個々の銀行の健全性や行動を規制することに偏った現在の金融システムは、危機によって大きく損なわれ、数理的なリスク管理モデルへの信頼は失われました。動物学やエコ・システムの研究がそうであるように、もっと環境に配慮した、相互の関係を重視する必要があるでしょう。

ところで、かつて発展途上国向けの政府融資が債務不履行になるのを、国家の破産、として処理できる方法が模索されました。また、IMF融資だけでなく、もっと民間銀行に債権の減額や長期への組み換えを請求できるようにすることが求められました。どちらのケースでも、キー・ワードは「モラル・ハザード」でした。

今回の金融危機では、あまりにも巨大な民間銀行の債権・債務が破産処理できない、という問題を、同様の視点で議論し始めています。もし破産ができなければ、モラル・ハザードとは別に、政府融資が膨らみ、連銀の民間資産が増大し、いずれにせよ将来のインフレ管理が難しくなるでしょう。

Dean Bakerは、金融システムの危機を監視する機関を設置する、というワシントンの騒ぎを批判します。金融危機の主な原因の一つ、住宅バブルの発生は十分に示されていました。まともなエコノミストなら崩壊を知っていたはずです。インフレを調整した住宅バブルの規模は8兆ドル以上にも及び、それが失われた衝撃がどれほどのものか、警戒しないはずがないのです。

しかし、それは無視されました。あるいは、報告があっても誰も注意しなかったのです。グリーンスパンは様々な分野で崇拝され、バブルの懸念を否定し続けました。そして、バブルが破裂してからも、誰一人として責任を取ったことはありません。バブルの膨張に手を染めた人物がオバマ政権で財務長官になったくらいです。

ウォール街でも、ワシントンでも、バブルが破裂する予想など聞きたくなかったのです。そんな人物は出世できなかったでしょう。

FT May 6 2009

Insolvent banks should feel market discipline

By Matthew Richardson and Nouriel Roubini

WSJ MAY 6, 2009

We Can't Subsidize the Banks Forever

By MATTHEW RICHARDSON and NOURIEL ROUBINI

(コメント) Matthew Richardson and Nouriel Roubiniは、FTの論説で、Joseph Schumpeterの「創造的破壊」論に注目します。なぜなら、政府の行う「ストレス・テスト」(大手金融機関19社を対象に実施した健全性審査、資産査定)は新しい行動や制度を生み出す「創造的破壊」に向かう契機となる可能性があったからです。

政府は、支払い不能に近い銀行がシステム危機を起こさないか、と問い、大丈夫だ、と結論します。しかし、二人は、支払い不能の銀行を維持しなければならないのか? と考えます。明確な答えは出せない以上、むしろ、銀行が破産してもシステム・リスクが起きない仕組みが重要です。ところが、政府は「創造的破壊」が起きることを恐れて、それを押しとどめているだけなのです。

「リーマン・ショック」や「カウンター・パーティー・リスク」は、すでにほとんど解決されました。金融機関が無秩序に倒産することはなく、健全な金融機関の債務を一定額まで政府が保証するからです。民間債権者たちは、破産という圧力の下で、資産の一部を放棄するように求められます。それは将来の投資や融資を妨げるだろう、という懸念に、二人は反対します。なぜなら、「創造的破壊」が金融システムを変えるからです。

WSJの論説で、同じ二人は、ストレス・テストの前提であるガイトナーの計画PPIP(政府と民間が債権買い取りファンドを設立する)を支持しています。公的資金の投入は民間金融システムの再建に必要であり、それを決めるために市場を機能させる効果的な枠組みになるからです。この計画が支持されて多くの民間投資が集まるほど、市場は競争的になり、批判されているような大幅な民間部門への補助金にはならない、と考えます。

政府は、無制限に民間銀行の債務を保証してはなりません。また、民間債権者の債権放棄を促すには国有化receivershipと破産処理を利用することです。この二つの条件を使って、PPIPを成功させることが、Matthew Richardson and Nouriel Roubiniの望む金融システム・リスクを管理した制度の改革なのです。

WSJ MAY 7, 2009

Banks Need Fewer Carrots and More Sticks

By R. GLENN HUBBARD , HAL SCOTT and LUIGI ZINGALES

(コメント) R. GLENN HUBBARD , HAL SCOTT and LUIGI ZINGALESは、PPIPではなく、FDICの利用を主張します。支払い不能の銀行は、明確かつ信頼できる形でFDICが分割・買収します。これまでの問題点を三つ(1.スタッフ不足、2.買収後の体制が不明、3.政府による大銀行の経営問題)指摘し、分割案を示します。

すなわち、不動産向け融資やモーゲージ証券、すべての長期債務を保有する “the bad bank”と、 その他の資産とバッド・バンク向けのデリバティブ契約や融資などを保有する“the good bank”です。グッド・バンクの短期債務はFDICが全額保証します。分割後、グッド・バンクはFDICの国有化から離れて民間経営に戻ります。


FT May 1 2009

Swine flu politics

(コメント) 多くの論説がありますが、たまたまこれを読みました。貧しい国で起きた感染を防止するい体制が弱いことや、誤った情報、情報の操作に対して、被害が深刻であるほど各国はバラバラになるでしょう。また、結局、貧しい国や底辺層が大きな被害をこうむるのであり、豊かな国が早急に支援しなければパンデミックをもたらします。


LAT May 1, 2009

Tony Blair talks Mideast peace

LAT May 2, 2009

Options for Mideast peace fade fast

(コメント) もっと時間があれば、LAT編集部とトニー・ブレアの対話を読んでみたいものです。とても長い。きっといろいろ話し合って面白いでしょう。・・・残念。


The Japan Times: Friday, May 1, 2009 Shape of Sri Lanka's future By HARSH V. PANT

WSJ MAY 2, 2009 The Taliban's Atomic Threat By JOHN R. BOLTON

WSJ MAY 4, 2009 The Economic Key to Sri Lankan Peace By RAZEEN SALLY

WSJ MAY 4, 2009 Investing in Cross-Strait Relations By DANIEL H. ROSEN

Nepal's democracy tested to destruction Dibyesh Anand The Guardian, Monday 4 May 2009

WSJ MAY 5, 2009 Don't Forget About Foreign Aid By MADELEINE K. ALBRIGHT and COLIN L. POWELL

FEER May 7, 2009 Nepal’s Imperiled Democracy by Nicholas Owen

FT May 7 2009 Africa has to find its own road to prosperity By Paul Kagame

(コメント) スリランカの反政府武装勢力は合い詰められて、政府軍がタミール人民衆を含めた大殺戮を準備しているかもしれません。核保有国のパキスタンに根強いタリバン勢力の恐怖、台湾海峡をめぐる投資の新展開、ネパールの反政府ゲリラが選挙に参加して実現したはずの民主主義のもろさ、ルワンダを治めるカガメ政権と次第に反目する欧米勢力、そして、もしかすると、最貧国への経済援助によって軍事的影響力に代わる国際システムを模索するクリントン国務長官。・・・development, defense and diplomacy


Asia Times Online, May 2, 2009

An illusion of global governance

By Jonas Parello-Plesner

FEER May 2009

Negroponte on Obama's Asia Policy

by Colum Murphy

China Daily 2009-05-05

Prospects of a strategic Sino-US ties high

By David Shambaugh

China Daily 2009-05-06

Task ahead for China, US: Maximum cooperation

金融危機のBy David Shambaugh

(コメント) 確かに中国の国際政治における存在感は、アメリカに並ぶような重要性を帯びつつあります。しかし、中国政府の広報誌でもあるChina Dailyが紹介する論説は、どれも弱い協調関係を称賛するだけで、具体的に提案するときは国内問題が中心です。

アメリカの国務副長官John Negroponteの描くアジア政策も、パキスタンとアフガニスタンが優先です。興味深いのは、両国の現状をベトナムとの関係と比較して議論することです。しかし中国との関係は、北朝鮮問題だけでなく、間違いなく、政治・経済・安全保障上の世界第二の重要国家として、最優先にするでしょう。(・・・日本ではなく。)

The Times, May 7, 2009

America will still rule the post-crisis world

Anatole Kaletsky

(コメント) Anatole Kaletskyは、的確かつ複雑な、想像力にあふれるやり方で、この世界金融危機がもたらす長期的なシナリオを考察しています。

二つのシナリオを考えます。一つは、世界不況が数年に及び、1930年代の破局が再現する。アメリカの支配は弱まって、経済モデルも政治的な影響力も失われます。とはいえ、ヨーロッパや中国が世界を指導することもないでしょう。国際秩序は混とんとして、マッド・マックスの世界が現れます。アナーキーな世界で、唯一の資産は農地と油田。自分たちを守る武器と軍隊です。

なぜなら、中国はまだあまりにも貧しく、技術的にも遅れており、どうしようもなく内向きです。世界の指導特になるどころが、国内の社会制度改革でも民主的世界のモデルになるような望みはありません。また、ヨーロッパは、アメリカ以上に深刻な長期の不況を経験し、制度が破壊されて混乱するでしょう。

もう一つのシナリオは、金融・財政の刺激策が成功する、というものです。経済理論も、最近のデータも、その兆候を示しています。また、もし破局だけが実現すれば、予測しても意味がないのです。パスカルと同じように、私たちも「神がいる」法に賭けるべきだ、とKaletskyは指摘します。

論説の結論は、オバマ政権下のアメリカは、ブッシュ政権よりも、世界的な支配を強めるだろう、というものです。その理由には含蓄があります。

1.アメリカの政治イデオロギーや経済モデルは、オバマになってヨーロッパの特徴と近付いた。

2.エネルギーと社会保障制度の改革に成功すれば、財政のコストを抑制でき、企業の活力・競争力も改善する。

3.ヨーロッパは輸出依存で失敗し、金融危機の回避にも失敗する。一層の内向き政策と、中東欧におけるドイツの求めた緊縮政策が嫌われ、IMF融資への依存や、予想以上に金融危機を自力で回復するロシアの影響下にはいるだろう。

4.中国への覇権移行は進まない。中国の指導部は輸出依存の成長が危険であると理解したが、内需主導の成長は、生産性の上昇率や消費を刺激することへの政治的な矛盾に制約され、もっと遅くなるだろう。

5.国際準備通貨としてのドルの廃位は容易でない。なぜなら、ドルを売っても買うべき通貨がないから。唯一の覇権通貨は中国になるだろうが、まだ国際的な利用を許さず、その条件にない。通貨のコンテストは「美人コンテスト」ではない。「不美人コンテスト」だ。嫌いな通貨を取り去るうちに、以前より信頼できないドルが残る。国際政治も似たような選択だ。アメリカは相対的に弱くなるが、指導的影響力は強まるのだ。


The Times, May 2, 2009

The Iron Lady's legacy will not rust easily

Charles PowellMargaret Thatcher's Private Secretary from 1983-90

FT May 3 2009

Lady Thatcher would despise today’s vision

By Maurice Saatchi

WSJ MAY 8, 2009

Bring Back the Thatcher Revolution

By TOM SWITZER From today's Wall Street Journal Asia.

(コメント) サッチャーはまだ生きていますが、死ぬ前から復活したような話題性があります。政権獲得から30年を経て、サッチャーによる保守・自由主義革命の再検討が盛んです。長年、サッチャーの私設秘書であったMaurice Saatchiによれば、「サッチャーの時代が終わった、などと信じてはならない。鉄はそれほど簡単に錆びない。」

たとえ今の政府が銀行を国有化しても、政府はその経営に失敗するだろうし、それを恐れて早期に民営化するだろう。富裕層に課税したり、懲らしめたりすることは、これまでの経緯から支持されるだろうが、それは結局、改革を遅らせ、世界が税率の低さを競い合う中では投資を失うだけだ。いずれ逆転される。・・・サッチャーには、正しいことを主張し実行する、強烈な政治的本能があった、と。

Maurice Saatchiも、サッチャーには「不道徳」と責められても、それを跳ね返す「不滅の価値」があった、と主張します。政治思想における、ロック、ルソー、ジェファーソン、など、自由民主主義の神聖な価値がサッチャーを守っている。臣下の者を子供のように愛する支配者の好意を前提した、父権主義的な政府というものは、最悪の専制国家体制をもたらし、人々の自由を破壊する、と。

TOM SWITZER も書いています。1979年当時、イギリスはArthur Scargillの戦闘的組合主義に屈服した「ヨーロッパの病人」であり、アメリカはジミー・カーターの「国家的麻痺」という説教に示された「信認の危機」を味わい、オーストラリアとニュー・ジーランドは過剰な規制と保護でインフレに冒された「バナナ共和国」であった。

サッチャーはアングロサクソン世界のすべてを変革した。さらに、レーガン、ハワードという盟友を得て。

SPIEGEL ONLINE 05/04/2009

THIRTY YEARS OF THATCHERISM: How Maggie Came to Power

By Carsten Volkery

The Guardian, Wednesday 6 May 2009

Thatcher's legacy is in ruins, but Britain is still in its thrall

Seumas Milne

(コメント) サッチャー教の話は尽きません。しかし、私にはCarsten Volkeryの記事が面白いです。サッチャーは、その前年に政治生命が終わりかけていた、と指摘します。

1978年の夏、イギリス経済は回復の兆しを見せていました。数年前に26.9%に達したインフレ率は1ケタに落ち着き、労働党が有利でした。政治論争はキャラハンが好む穏健なテーマに傾いていたのです。

危機感を強めた保守党は、政治宣伝のポスターをthe Saatchiに依頼します。それは、失業者の長い列を示した写真と「労働党は働かない!」("Labour isn't working.")というスローガンのポスターでした。同じようなポスターが次々に現れ、労働党の激しい抗議にもかかわらず、選挙の雰囲気が変わります。キャラハンは立候補を取りやめました。

サッチャーが登場したのは、このイギリスにおける「不満の冬」があったからです。インフレを抑えるために、政府が企業が賃金引き上げを5%以下に抑えるよう求めました。それを破った企業は政府との契約から排除する、と。この「5%ルール」に国民の怒りが向かいます。各地でストライキが起き、トラック運転手、清掃婦、病院、ガソリンスタンドや商店がストに参加しました。リバプールでは墓掘りまで仕事を放棄したのです。・・・30年に一度、人々の政治意識が変わる。「変化」を求めて。その気分をつかんだのが、当時のサッチャーでした。Thatcher's moment had arrived.

彼女は注意深い政治家であって、政治が求めている激しい対決姿勢を身にまといます。自分こそ、国家の大義に従って、戦闘的な組合員とも戦う覚悟のある指導者である、と。彼女は人々の心をとらえ、保守党の支持率は上昇して、ついには労働党を20%も超えてしまいます。

ジョン・キャンベルは自伝で書きました。19795月まで、誰もサッチャーがなんであるか知らなかった。彼女自身でさえ。しかも、選挙後でさえ、サッチャー主義のブームは予想できませんでした。1982年のフォークランド紛争で、サッチャーが国民的な英雄となってから、彼女は規制緩和の思想を推し進めるほどの力を得たのです。そしてイギリスでもっとも称賛され、同時に、憎まれる指導者のひとりになりました。

その後のすべての首相たちはサッチャーの影響下にあります。特にブレアは、労働党を保守党と同じく変革しました。サッチャーは一つではなく、二つの政党とも変えた、言われます。

サッチャーは83歳になり、認知症になって、公衆の前に現れません。今も世論は激しく分裂し、彼女の住む町では銅像を建てようとしません。そして再び、30年を経た「政治の変化」が求められているのです。

Seumas Milneの論説も面白いです。1970年代のイギリスが、いかにソビエト圏の姿と似ていたか、また、サッチャーの登場で、イギリスがいかにアメリカのような貧富の格差を称賛する社会に変わったか。その変化を、保守党と労働党の政権が継承し、実現し続けたのです。

たとえ今、サッチャー革命が終わるとしても、誰がそのチャンスをつかむのか? 政治的な真空状態が待っています。


NYT May 2, 2009

The World Economy, Still Waiting

NYT May 3, 2009

Depression Scares Are Hardly New

By ROBERT J. SHILLER

The Japan Times: Sunday, May 3, 2009

World's biggest shock absorber

By HANS-WERNER SINN

(コメント) 世界は待っている。NYTは、G20の政治的な不協和音が回復を妨げている、と考えます。そして、世界不況を回避するために、主要諸国や国際機関が一貫した政策を採ることを求めています。ROBERT J. SHILLERも、世界不況に対する恐怖心が消費者を抑制してしまう、と心配します。

欧米でこっぴどく非難され、クルーグマンには挑発・嘲笑された、まともな刺激策を採ろうとしないドイツのエコノミストとして、HANS-WERNER SINNprofessor of economics and finance, University of Munich, and president of the Ifo Institute)は反論します。

ドイツは合計で800億ユーロの二つの刺激策を採りました。それはGDPの3.2%、2009年の効果としてGDP1%に匹敵します。その数字は、アメリカの刺激策がGDPの6.2%、2009年に2%の効果をもたらすのと比べて、小さく見えます。しかし、ドイツの自動安定化装置を考えれば、世界経済の安定化に十分貢献しているのです。

例えば、ドイツの寛大な失業保険の給付は、失業した労働者たちの消費を維持しています。また、ドイツの成人人口の40%が、なんらかの社会的給付を受けています。このことは財政負担を増やし、構造改革の焦点となっていますが、現状では景気変動に抵抗する、安定化装置となっているのです。中央や地方の財政赤字も増えるでしょう。

同様に、ドイツはアメリカやイギリスと違って家計の債務依存体質が低く、銀行も住宅融資を制限しているため、経済の安定性を維持しています。クレジット・カード債務の問題もありません。ドイツはアメリカに並ぶ世界経済の主要輸入国であり、その消費水準が維持されていることは世界経済にとって重要なのです。輸出の減少は、日本よりも多くの貿易収支の悪化によって、ドイツ向け輸出国の需要を支えました。

アメリカの住宅市場で、この2年間に7兆ドルが失われたことは、世界経済の原子爆弾に匹敵する、とSINNは嘆きます。ドイツや日本はその衝撃波を吸収しているのであり、もっと称賛してほしいものだ、と。

YaleGlobal, 4 May 2009

Two Views on the Cause of the Global Crisis – Part I

Branko Milanovic

NYT May 4, 2009

Falling Wage Syndrome

By PAUL KRUGMAN

(コメント) Branko Milanovicは、金融危機の真の原因は世界の、特にアメリカの個人や社会階級間で所得分配が不平等化したことだ、と考えます。富裕層はその富を自分で投資せず、金融機関に運用させます。資産運用の競争は、ますますリスクの高い投資を増やすのです。

また、資金需要の側では、アメリカの中産層が所得を改善できていないことがあります。彼らは所得再分配を求める政治的圧力を高めます。政治的な再分配には富裕層の抵抗が強かったために、財政的な赤字による給付や金融緩和をそれに代えました。中産階級の経済的・政治的不満は、ますます債務によって膨らむ消費(そして住宅バブル)が吸収したのです。

その解決策は、もっと中産階級の所得を増やして、彼らが貯蓄することによるバランスの取れた成長に向かうことです。

Krugmanは、「倹約のパラドックス」、あるいは、低賃金(の予想)や債務の罠、貧困の悪循環、と呼びたくなる、開発経済学のテーマをアメリカの不況について議論しています。

Businessworld, 4 May 2009

Capitalism Divides

Nayan Chanda

BBC, Wednesday, 6 May 2009

Stephanomics: Remembering 1931

Stephanie Flanders

YaleGlobal, 6 May 2009

Two Views on the Cause of the Global Crisis – Part II

Ashok Bardhan

WSJ MAY 7, 2009

Big Spending and Easy Money Will Produce a Recovery

By MICHAEL T. DARDA

(コメント) Nayan Chandaは、住宅モーゲージや債券市場のバブルでも、アジア諸国の輸出依存と外貨準備の累積もなく、金融危機の原因は消費市場の不足であった、と考えます。世界中で労働者の賃金を削り、搾取して得た莫大な利潤を、投資家たちは増やすためにリスクの高い債券購入、債務の膨張に向かいました。投資と消費の矛盾を、世界的な債務の累積で回避し、拡大し続けたのです。

中国であれ、アメリカであれ、T型フォードを労働者に売るため、会社は高賃金を約束したことを思い出すべきだ、と主張します。

Stephanie Flandersの論説を、もっと読んでおくべきだったな、と思いました。


NYT May 4, 2009

Inflation Nation

By ALLAN H. MELTZER

FT May 4 2009

Inflation can and must be avoided

FT May 5 2009

Central banks must target more than just inflation

The Times, May 8, 2009

Blame this crisis on the myth of inflation

Maurice Saatchi

(コメント) 不況とともに、景気回復後のハイパー・インフレーションこそが危険だ、と議論されています。ALLAN H. MELTZERは、オバマ政権が、成長による完全雇用を目指した1970年代の高インフレ政策に戻る、と予想します。たとえヴォルカーを政権が顧問に迎えていても、バーナンキ議長がインフレの危険を知りつくしていても、オバマ政権は金融政策に干渉するだろうし、金融危機の処理によって連銀の独立性は失われてしまったからです。

いすれ、巨額の公的債務と生産性の上昇鈍化が、雇用を維持するためにインフレ率を高めるしかないのです。


FT May 4 2009

If China loses faith the dollar will collapse

By Andy Xie

(コメント) 中国やロシアがドルに代わる国際準備通貨を模索する、と言えば、何と愚かなことか、と批判する論説を多く読みます。しかし私は、彼らの政治的意図とは別に、その根拠があると思いました。ケインズがバンコールを提案したのも、アジア通貨基金が模索され、ユーロが誕生したのも、共通した背景があるからです。

Andy Xieの論説は、中国政府だけでなく、華僑たちのドルに対する信認問題を重視しています。華僑がアメリカやドルに寄せる信頼、また、中国当局や金融制度・政策に寄せる期待感は、むしろ柔軟に、時には劇的に、変化するでしょう。現在のように世界の金融市場が混乱し、逃避先としてドルが選好されることも続くはずがありません。

世界中から中国人の貯蓄がアメリカの金融機関を救済するために集められるような状態が、また、人民元がいつまでも割安な水準に固執し、海外投資を抑制するような状態が、いつまでも続くはずがないのです。アメリカ政府や金融市場は、長期的に、自ら脆弱性を高める中で、中国政府や経済構造の転換を促しているのです。

危機の後に世界経済の停滞期が来れば、中国の転換は急速に迫ってきます。

FT May 6 2009

Ascendant China eclipses trailblazing Japan

(コメント) 中国は、日本と違って、投資を介してアジアの秩序を転換する強い意欲を持っています。戦後の日本は、援助や投資によってアジア諸国に強い影響を与えながら、同時に、アメリカへの依存と、戦後処理や歴史理解に踏み込むことができず、今になって、中国による急激な秩序再編にも明確に対応できない状況ではないでしょうか?


NYT May 5, 2009

Obama Calls for New Curbs on Offshore Tax Havens

By JEFF ZELENY and BRIAN KNOWLTON

FT May 5 2009

How tax havens helped to create a crisis

By Sol Picciotto

FT May 5 2009

Level the field for tax competition

(コメント) オバマが考えるタックス・ヘイブンの廃止、あるいは、世界課税システムへの挑戦が、グローバリゼーションの話題となるのは当然でしょう。金融システムや規制のゆがみを正す、という大義によって、いよいよ富裕層にも逃れられないときが来たか。

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The Economist April 25th 2009

A glimmer of hope?

The Geithner: Baptism of fire

Central banks: The monetary-policy maze

Ukraine’s troubles: The Viktor and Yulia show, continued

Poland’s economy: Not like the neighbours

(コメント) 景気が底を打った、という指標を揃えて、バーナンキやオバマが希望を高めています。銀行の資産検査が迫っていたという事情もあるでしょうが、信用しても良いのか? 記事は回復への期待を否定します。

アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、中国を検討して、いずれの国でも回復の条件は現れていない、と考えます。たとえ生産の落ち込みが一時的に安定しても、この先に消費の回復がないから、企業の業績は悪化します。世界の景気はますます政府支出に頼るのです。デフレの心配もともなう、低成長の時代が来るでしょう。それを抜け出そうとすると、公的債務の累積からインフレ加速の不安が強い。つまり、その中間で、停滞の時期が長く続くのです。

これは「日本病」が世界に」広まっただけではないか? 改革も債務も、まだこれから取り組む問題です。例えば、ガイトナー。そして、「インフレ目標」と「効率的な市場」を前提としてきた理想的な単一の金融政策原理を、人々がもはや信頼しなくなった今、中央銀行はこの先、何を、どうやって、補えばよいのか? 自ら金融システムの生命維持装置となってしまい、政治的な論争から逃げておける「独立性」も急速に失われます。

ユーロ圏の金融危機が及ぶウクライナとポーランドの話は、対照的で面白いです。ウクライナは民主化革命以来、ロシアの干渉もあって、危機が常態化しています。ユリア・ティモシェンコ女史とヴィクトル・ユシュチェンコ氏との権力闘争は、同じようなレトリックで改革を怠り、国民や企業家の不満を高めているようです。ポーランドは、中東欧諸国の仲間ではない、改革派だ、と考えています。危機に際して何をするのか、ドイツ、あるいはドバイも、紹介されています。


The Economist April 25th 2009

Charlemagne: Fishy tales

Face value: Pedal to the metal

Economics focus: Not quite so SAFE

(コメント) EUの共通漁業政策も問題がいっぱいです。漁獲権を個人やボートに与えて、その条件を規制し、互いの売買を認める、という市場型の解決を勧めています。アイスランドやニュー・ジーランドは、その成功例です。他方、EU内にはフランスなど、反対派の政治勢力も根強く、政治家たちは補助金を与えるばかりで、対決を避けようとします。

クライスラーの買収を提案するフィアットの社長とは、どのような人物か? なぜ買収するのか? 再建に成功する見込みはあるのか? Sergio Marchionneについての記事は見逃せません。彼はフィアットを再建したから、もちろん、同じことをやるつもりです。スピード、そして、無駄な政治談議を排除して、市場のダイナミズムを学ぶこと。

同時に、Marchionneがここまでやろうとするのは、世界自動車産業の再編を覚悟しているのです。フィアットだけでなく、世界全体で供給体制や販売市場の効率的な再配分や合理化を迅速に実行できる体制でなければ、競争に残ることは難しい、と。

中国の外貨準備に関しても、私は詳しい数字を理解できずに議論していたのか、と反省しました。中国には資本規制があるので、金融危機から隔離されている、とは言い切れないのです。外貨準備の増減や分散化だけでなく、隠れた外貨準備や、隠れた民間資本移動(ホット・マネー)を紹介した、この記事を読んでください。


The Economist April 25th 2009

Sri Lanka’s war: Dark victory

China’s navy: Distant horizons

The new politics of Israel’s foreign policy: A grand bargain?

(コメント) スリランカの反政府軍討伐に巻き込まれる民間人、中国海軍の拡大、そして、オバマ政権の登場で不安や期待が高まる中東和平。