IPEの果樹園2009

今週のReview

2/9-2/14

IPEの風

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世界の英字紙HPからコラムを要約・紹介します.著作権は,それぞれ,元の著作権に従います.

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******* 感嘆キー・ワード **********************

ダヴォスに救世主はいない、 財政刺激策、 銀行の不良債権処理1,2、 アイスランドと日本、 米中の景気回復合意、 ロバート・ライヒ、 保護主義批判とジェフリー・ガーテン、 ユーロ10周年、 ロシア、 銀行と金融システム

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ただしFTFinancial Times, NYTNew York Times, WPWashington Post, LATLos Angeles Times, BGBoston Globe, IHTInternational Herald Tribune, CSMChristian Science Monitor, WSJWall Street Journal Asia


FT January 28 2009

The humbling of Davos Man

By John Gapper

Jan. 30 (Bloomberg)

Davos Man Finds BRICs of Little Help in Crisis

William Pesek

NYT January 30, 2009

Global Worries Over U.S. Stimulus Spending

By NELSON D. SCHWARTZ

The Times, January 31, 2009

Four sober steps on the road to recovery

Peter Mandelson

IHT Sunday, February 1, 2009

There's no magic bullet

By Thomas L. Friedman

FT February 2 2009

When globalisation goes into reverse

By Gideon Rachman

FT February 3 2009

Why Davos Man is waiting for Obama to save him

By Martin Wolf

(コメント) スイスに集まる「ダヴォス・マン」たちにも、世界経済危機に対する処方箋は描けません。彼らの起業家精神や民間部門の自信は、世界不況への防壁になりませんでした。魔法の森か山に登っても、世界経済危機を避ける方法は見つからないのです。There is no magic bullet for this economic crisis, no magic bailout package, no magic stimulus.

グローバリゼーションの勢いが失われて、逆転すれば、ダヴォスの鬨の声も消え去ります。ビジネス・エリートたちの法外な報酬は、世界を混乱と破滅に導いたことの証に変わります。ダヴォスが恐れているのは経済危機だけではありません。アイスランドで起きたように、世界各地で、金融危機や不況が政府を崩壊させるでしょう。

誰もがマドフのように見られるでしょう。インドで発達したオフショア生産から、素晴らしい起業家群が現れた、とThomas L. Friedmanは自慢してきました。しかし、彼らも含めて、アフリカの銀行家たち、砂漠の夢の開発都市群、・・・危機の後に、その中の何が残るか、誰も知りません。

危機から生まれた権力、すなわち、オバマは彼らにとっての救世主なのでしょうか? アメリカだけが原因ではないように、アメリカだけでは救世主になれない、とMartin Wolfは考えます。オバマ政権は大胆に行動し、指導力を発揮することで、世界が協力して景気回復を実現します。すなわち、

1.需要不足を全力で補充する。2.政策担当者たちは「衝撃と恐怖」をもたらすほど劇的に行動する。3.将来の正常化を信頼できるものにする。4.一致して行動する。5.保護主義を回避する。6.弱者を助けるために国際機関を強化する。

しかし、アメリカの財政刺激策は、規模が小さく、無駄が多く、焦点が間違っている。いまさら不良資産を抱えた銀行や企業に一時的延命策として追加の資金を与えても何も解決しない、と。政治家たちは保護主義と非難ゲームに向かっています。

Martin Wolfは悲観します。オバマは勇気と革新を欠き、ECBやドイツも行動を起こさず、日本は溶解し始めている。中国やIMFが世界景気の助けになるほどの力はない。オバマは議会をおだてて同意を得るより、世界経済危機に果敢に挑戦する方が強い支持を得られることに気付くべきだ、と。


WSJ JANUARY 29, 2009

The Entitlement Stimulus

FT January 30 2009

Support demand, not employers

WSJ JANUARY 30, 2009

'Think Long' to Solve the Crisis

By GEORGE P. SHULTZ

Asia Times Online, Jan 31, 2009

Keynesian bomb is ticking

By Chan Akya

(コメント) 財政刺激策に関する批判が噴出しています。すでに医療保険にはカネがかかり過ぎている。雇用を生み出さない。長期的な目標を考えていない。債務の負担が増えるばかりだ。・・・

NYT February 1, 2009

Reinvention or Recovery?

By DAVID E. SANGER

NYT February 1, 2009

A Stimulus Plan With Dual Goals: Reform and Recovery

By DAVID E. SANGER

FT February 1 2009

Bad politics and urgent remedies

By Clive Crook

FT February 1 2009

The US needs its stimulus now

FT February 1 2009

YES WE CAN!! have a global depression if we really continue to work at it

Willem Buiter

BJ February 1, 2009

Money for nothing won't grow the economy

By Jeff Jacoby, Globe Columnist

(コメント) Willem Buiterは、世界恐慌を回避することはできる、という楽観を失い始めています。金融政策、保護主義、財政政策、国際不均衡を解決する力が、主要国の政府と政策協調に迷いと齟齬が生じる中で、彼の確信を蝕むからです。

WP Monday, February 2, 2009

Too Little Bang for The Bucks

By Robert J. Samuelson

BG February 2, 2009

Stimulus just digs debt hole deeper

By Russell Roberts

WSJ FEBRUARY 2, 2009

Neo-Socialism Down Under

Feb. 4 (Bloomberg)

No One Gets Out of This Financial Crisis Alive

William Pesek

WSJ FEBRUARY 4, 2009

Kiwi Stimulus Smarts – II

(コメント) WSJは、オーストラリアのKevin Rudd首相を批判しています。経済危機を政治家たちは権力・財源の拡大に利用している、というわけです。WSJが憤慨するのは、首相が資本主義と社会主義の中間"social capitalism"を支持する、と明言したからです。

この論説は、オーストラリアが1970年代のすでにこのモデル(医療と教育の国有化、公的部門の高賃金)を実現し、結果として激しい不況に苦しんだ、と指摘します。それゆえ、1980年代、90年代には、同じ労働党による劇的な自由化政策へと転換しました。

政府介入と自由化という振幅の大きさに興味を覚えます。

William Pesekは、世界経済に深く統合されているオーストラリアが巨額の財政赤字に転落することに注目します。金融危機からは切り離されている経済であったにもかかわらず、どこであれ、世界不況を免れません。中国にも、そして日本にも、言えることです。3.25%と、金利を下げる余地はまだ十分ありますが、それでも不況を免れない、とWilliam Pesekは断言します。

財政赤字だらけのG7や旧体質のIMFには、この経済危機を乗り越える力がない。解体せよ、とオーストラリア放送で、元首相のPaul Keatingは述べました。政治家たちが恐れるように、崩壊はスローモーションで起きています。住宅価格の高騰や中国向け資源・農産物輸出によるブームは終わるでしょう。

WSJ FEBRUARY 4, 2009

My Economic Wish List

By ALAN S. BLINDER

(コメント) 魔法使いが現れて、三つの夢をかなえてくれるとしたら、・・・ALAN S. BLINDERは考えます。しかもこの魔法使いは、個人の利益を実現せず、政府に実行できないような魔法も約束しません。

1.財政刺激策を効果的に行う。8000億ドルが少なすぎるとは言わず、それを早期に実施せよ、と主張します。時間で観て、効果が早く、確実なものを。例えば、消費税を一時的にマイナスにせよ。2.住宅の差し押さえをなくす。選択的で自主的な借り換えではなく、債務額を減らして強制的な政府ローンへの転換を行う。減額のコストは政府も分担する。3.金融市場を介して十分に資金供給する。金融機関ではなく、金融市場を救済する。財務省証券との利率の違いを狭めるように、FRBが様々な資産を担保と認めて融資し、特別な融資枠を用意する。

Feb. 5 (Bloomberg)

Obama’s ‘Screw-Up’ Leaves Geithner on Thin Ice

Caroline Baum

WP Thursday, February 5, 2009

The New Landonists

By Harold Meyerson

FT February 5 2009

Keynes and the triumph of hope over economics

By Benn Steil

(コメント) 政治家たちは今ほどエコノミストの意見を聞く姿勢を示すときはない。しかし、エコノミストは何を言うべきか? ケインズを使って、財政刺激策を積み増しを求める。しかし、その内容は? その効果は? 有給資源や貯蓄が政府によって利用できるのか? ・・・オバマに対する希望が強ければ、雇用をもたらすだろう。


FT January 30 2009

US set for ‘big bang’ financial clean-up

ByKrishna Guha in Washington

LAT February 1, 2009

'Bad bank' is a bad idea

(コメント) 不良債権を買い取り、融資に保証を与え、差し押さえられる住宅所有者に補助金を与える「ビッグ・バン」アプローチが準備されている、ということでしたが、その結果は期待外れでした。不良債権処理も、ブッシュ政権の手法が繰り返され(買い取り価格を決めることができない)、効果をあげない、と批判されています。

NYT February 1, 2009

Good Bank, Bad Bank; Good Plan, Better Plan

By MAX HOLMES

(コメント) MAX HOLMESは、“bad bank”でも、国有化でもない、4つの主要銀行によるBad Bank設立を提案します。ある公的な仕組みを与えれば、銀行は自分たちで不良債権処理を行うでしょう。

The Guardian, Monday 2 February 2009

Bad bank, bad plan

Dean Baker

NYT February 2, 2009

Bailouts for Bunglers

By PAUL KRUGMAN

(コメント) 他人のカネを使って大きな損を出したら、どうなるか? 政府から褒美がもらえる! それが金融救済案だ、とPAUL KRUGMANは批判します。納税者は損をし、銀行の株主や経営者は利益を維持する。

不良債権を処理して資本増強が必要なら、市場で民間投資家から調達するか、それができないようなら、政府が公的資金で株式を買い取るしかない。その結果が国有化であれば、それを実行することだ。ところが、オバマ政権の経済チームはそれを拒む。

オバマの「ボーナス批判」はそのための政治ショーに過ぎなかった。

NYT February 2, 2009

Big Risks for U.S. in Trying to Value Bad Bank Assets

By VIKAS BAJAJ and STEPHEN LABATON

FT February 2 2009

Beyond the age of leverage: new banks must arise

By Niall Ferguson

(コメント) 銀行の資本増強もしくは国有化と、住宅債務の低利・長期債務への転換、を支持しています。モラル・ハザードや損失に対する不満はあっても、債務の膨張によってマクロ経済の不安定化を招くよりも、債務削減と安定化をもたらすことで得られる利益によって十分に報われるでしょう。

WP Tuesday, February 3, 2009

$100 Billion and No Change Back

By Richard Cohen

FT February 3 2009

There is no need to be afraid of a big bad bank

By Daniel Gros

(コメント) 「レモン問題」(情報の非対称性によって、腐ったレモンばかり押し付けられる)を回避するには、債券の売却を法律で強制するしかない。政府が買い取り価格を決めて、銀行は資本増強されるか、破産処理する。

WSJ FEBRUARY 4, 2009

We Can Do Better Than a 'Bad Bank'

By GEORGE SOROS


NYT January 30, 2009

In Harsh Words, Obama Criticizes Wall St. Bonuses

By SHERYL GAY STOLBERG

LAT January 31, 2009

Wall Street's bone-headed bonuses

WP Tuesday, February 3, 2009

Idiots of the Universe

By Eugene Robinson

FT February 4 2009

Curbing a few bankers’ earnings is a small price

By John Gapper

NYT February 5, 2009

Obama Calls for ‘Common Sense’ on Executive Pay

By EDMUND L. ANDREWS and VIKAS BAJAJ

LAT February 5, 2009

Obama's crackdown could pay off

(コメント) 金融ビジネスのボーナスをめぐる論争です。公的資金を受ける銀行の幹部は給与の上限を50万ドル(約4500万円)に抑える、とオバマは述べました。


The Guardian, Friday 30 January 2009

The lure of the euro in Iceland

Eirikur Bergmann

BBC 2009/02/01

First gay PM for Iceland cabinet

FT February 3 2009

In praise of Iceland

(コメント) アイスランド経済を回復させるためにはユーロが必要です。しかし、ユーロを採用するにはEUに加盟しなければなりません。Eirikur Bergmannは、アイスランドの政権崩壊は、ますます反EUに向かうだろう、と推測します。

アルゼンチンで起きたように、主婦や学生が政府に対する不満を表すために街頭に集まり、鍋やフライパンを叩いて抗議しました。有効な対応策も示せないまま、信頼を失った政府は政権を投げ出したわけです。

18年間政権を維持した独立党は、明確にEU加盟を拒んできました。独立党の指導者から首相となり、現在は中央銀行総裁であるDavið Oddssonは、かつて、「人類が作ったものの中でも最悪の反民主的な怪物」と非難しました。

政権に参加していた社会民主同盟(SDA)はEU加盟を支持しており、独立党に転換を求めましたが、独立党は党内協議に失敗し、大衆抗議に拠ってGeir Haarde連立政権が崩壊したわけです。その後、SDAが左派緑の党と連立で、進歩党の協力も得て、同性愛を表明している世界初の女性首相、Johanna Sigurdardottirを誕生させましたが、政府のEU加盟推進の姿勢は不透明です。

IMFによって生命維持装置を継続してもらうだけの政府に、ユーロは何としても得なければならない条件です。新政権は経済再建を最優先し、中央銀行の理事会を一新し、EU加盟に関して議会に検討委員会を設ける、と約束しています。

FTの短い論説は、アイスランドが回復する条件を持っている、と考えます。海洋資源、地熱エネルギーとアルミ精錬業、電力輸出、大西洋航路、観光、・・・ アイスランドは金融ビジネスがなくなっても貧しくはない。バナナ共和国ではないのだ、と。

しかし、安定した金融秩序、政治秩序を回復しなければ、経済全体の縮小は止まりません。そのためにはEUに加盟し、ユーロを採用することですが、もし政治がそれを許さないなら、伝統的な北欧地域同盟(デンマーク、ノルウェイ、スウェーデン)が選択肢になるかもしれない、と。


FT January 30 2009

The US and China: A grand bargain?

By Eswar Prasad

(コメント) ガイトナー財務長官が中国の為替操作を非難したため、中国政府はアメリカの金融政策が失敗したことを指摘し、反撃しました。米中が通貨・貿易戦争を始めたら、世界金融恐慌が爆発するのは明らかです。アメリカと中国は、今こそ、景気回復のための大同盟を結成するべきです。

その内容は、1.財政刺激策と金融緩和によって内需を拡大し、景気を回復する。

2.中国は為替レートの弾力性を拡大し、アメリカは景気回復後に財政赤字を減らす、と約束する。しかも、中国は資本流出によって短期的に人民元を安くするだろうし、アメリカにとって財政再建は金融市場の信頼を回復するカギである。貿易不均衡を決定しているのは、現時点では需要の減少であり、為替レートではない。

3.アメリカは、国際金融機関における中国の役割が増大することを支持する。ただし、中国国内の改革をその条件として要求する。

その延長として、もっと具体的な内容、例えば、金融部門の改革や政治的民主化、安全保障の情報交換、などが扱われるかもしれません。

YaleGlobal, 30 January 2009

US and China: Grappling Over Economic Rescue – Part I

Xu Sitao

YaleGlobal, 2 February 2009

US and China: Grappling Over Economic Rescue – Part II

Edward Gresser

China Daily, 2009-02-04

Recession calls for good currency management

By Colin Speakman

(コメント) 中国では「消費振興券」が地方政府によって競って発行されています。Edward Gresserによれば、ガイトナーの証言は、当面、為替レートを問題にせず、米中が協力して内需を刺激しなければならない、というものでした。

人民元は過小評価されていないし、為替レートの変動を管理することは、今のような混乱する状況では、望ましいことだ、とColin Speakmanは主張します。その際、EMSに言及しているのは、アジア貿易・市場統合を示唆するものかもしれません。


WSJ JANUARY 30, 2009

IMF Considers Issuing Bonds to Raise Money

By BOB DAVIS

(コメント) アメリカやヨーロッパ諸国は、それぞれの理由で、IMFが債券を発行して資金調達することに反対し、日本がアジア通貨危機の際に救済融資の基金を設立することに反対しました。しかし、今、IMFが債券を発行する意図を持ち、日本はIMFに外貨準備を預けて緊急融資枠を拡大することを提案していますが、反対する声はありません。

WSJ FEBRUARY 3, 2009

What Other Financial Crises Tell Us

By CARMEN M. REINHART and KENNETH S. ROGOFF


WP Sunday, February 1, 2009

Once the Stimulus Kicks In, the Real Fight Begins

By Robert B. Reich

(コメント) Robert B. Reichはリベラル(あるいはラディカル)の重鎮です。今や、深刻な不況が迫る中で、財政刺激策については誰もが支持しています。レーガン政権の経済諮問委員会委員長であった保守派のM.フェルドシュタインも含めて。

しかし、本当の論争は、刺激策が成功してから始まるのです。一方は財政赤字を解消することだけで良いと考えるサイクリスト(景気循環派)、他方は、アメリカ経済の根本的な問題を解決しなければ、本当の景気回復は実現できない、と考えるストラクチャリスト(構造派)です。

Robert B. Reichは、不況からの回復期にあったクリントン政権が、この対立の中で、構造的問題の解決を阻まれたことを想起します。オバマは不況の入り口にあるから、その対立が激化するまでに時間があるでしょう。しかし、景気回復に問題が一層の重大性を帯びています。

構造的な問題、とは、不安定で不確実な職場、長時間の低賃金労働、所得分配の不平等拡大、富裕層の所得が生産された富全体に占める割合の増加、などです。また、気候変動や、中東の席に対する依存、中国や日本、産油諸国からの資本流入に依存した経済と財政、を指摘します。

景気回復に成功したときこそ、GDPに対する債務の比率を抑えるだけが目標ではなく、オバマ政権は構造問題への対応策を強めなければなりません。


NYT February 1, 2009

If We Buy American, No One Else Will

By DOUGLAS A. IRWIN

(コメント) 1930年のスムート=ホーレイ関税法を繰り返してはならない。財政刺激策に、アメリカ製品の購入を義務付けることは間違いだ。それは高価な国内製品を調達することで、景気刺激の効果を殺ぐ。また、インドや中国の建設プロジェクトは、アメリカ国内以上に続くと予想されるにもかかわらず、アメリカ製品を購入しなくなる。

The Guardian, Monday 2 February 2009

Paying the price for free trade

Pamela Meadows

FT February 3 2009

Economic nationalism

The Guardian, Wednesday 4 February 2009

Making globalisation work for us

Brendan Barber

FT February 4 2009

Obama must fight the protectionist virus

By Jagdish Bhagwati

(コメント) 自由貿易の意味を問い直す声は起きるでしょう。保護するよりも協力して財政刺激策を取る方が良い、と政治家たちが合意することは重要です。また、金融ビジネスの行き過ぎが生じた激しい債務の圧縮に、金融システムの再編が必要だ、と国際協議を呼びかけたのも重要です。経済ナショナリズムは、現代の経済活動にそぐわない、とFTは指摘します。

しかし、戦争や人種差別がそうであるように、保護主義も再び起きることがないとは言えないわけです。

Brendan Barberが主張するように、労働者の求めるグローバリゼーションを保護主義として攻撃することは間違っています。保護主義が不況を拡大したことを知った上で、かつて国内で達成していたような、グローバリゼーションを通じた雇用の拡大、賃金引き上げ、所得の再分配、を労働組合は求めています。

Globalisation will not work without consent, and that will not come without more social protection and a level playing field for workers as well as employers.

しかし、バイデン副大統領を介して、アメリカの組織労働者から保護主義の要求はオバマにも強まっている、とJagdish Bhagwatiは警告します。すなわち、「バイ・アメリカン」条項と、「人民元レートの人為的操作」批判です。

アメリカ議会は、これによって他国も財政刺激策を取るだろう、為替レートを自由に変動させるだろう(そして人民元はもっと増価し、資本移動も自由化できる)、と考えます。しかし、外国の目から見て、それは不当な要求です。

クリントン政権は成立して日本叩きに奔走し、ブッシュ政権は鉄鋼関税を支持しました。その後、彼らは転換します。しかし、経済危機のただ中に成立したオバマ政権には、そのような時間がありません。

The Japan Times: Wednesday, Feb. 4, 2009

Protectionism not the answer

By HUGH CORTAZZI

YaleGlobal, 6 February 2009

Is Protectionism Unavoidable?

Jeffrey E. Garten

(コメント) 自由貿易vs保護主義を超える、重要な論説です。「保護主義についての非難を繰り返しても無駄である。」むしろ、国内政治によって必要となるかもしれない保護主義について、最悪の側面を抑制する国際合意を得ること、です。

Jeffrey E. Gartenは、保護主義は否定されているが、その形はいろいろであり、すでに行われている、と指摘します。G20の声明にもかかわらず、ロシアやインドは関税を引き上げました。しかし、それは他の非関税障壁に比べて深刻ではない、と考えます。

もっと深刻な保護主義は、たとえば欧米諸国の政府が行っている、赤字の大企業(自動車など)に対する補助金や差別的な優遇策です。他にも、自国製品の購入を優先し、自国企業への融資を強制したりしています。また、為替レートの操作についても疑いがあります。保護主義を避けることが、民主的な支持を得て成立する法案や政府にとって、難しい局面は現実にあるわけです。

・・・もしオバマが、財政刺激策を議会で一日も早く成立させるためには、どうしても「バイ・アメリカン」条項を外せない、と分かったなら、財政刺激策が遅れるか、「バイ・アメリカン」を許すか、選択しなければならない。どちらが重要か、と言えば、財政刺激策の早期成立だ。

・・・また、ゴードン・ブラウン首相は、経済危機の中で、外国人が雇用契約を結ぶことに憤慨する労働者たちの抗議を聞きながら、銀行が国内企業への融資を継続することを強く求めたのも無理はない。

・・・あるいは、中国で、2000万人の労働者が職を失っているときに、政府が人民元を増価させて輸出を難しくすることを求められても、認めると思うか? 人民元のレートよりも、中国で社会・政治不安が爆発する方が、中国にとっても世界にとってもはるかに深刻な影響を及ぼす。

有権者たちは短期的で、世界への影響を考慮しない。だから、IMFやWTOのような国際機関が保護主義を規制するのは難しい。むしろ、さまざまな保護主義を記録し、その影響を分析して、各国に知らせることだ。そして保護措置は範囲をできるだけ限定し、時間を限る。また、保護措置によって被害を受ける労働者たちへの財政支援を十分に行う、ということに国際合意するのである。

China Daily, 2009-02-06

Sino-US trade war will worsen global crisis

By Deng Yuwen


The Japan Times: Sunday, Feb. 1, 2009

Pros and cons of the euro at 10

By MICHAEL BOSKIN

(コメント) 1999年に誕生したユーロは、10年を経て厳しい経済危機に試される。単一通貨のメリットは、価格が透明で、取引に関わる煩雑な作業とコストをなくしたことだ。しかし、もしそれがメリットであるなら、世界中が単一通貨を採用するだけで良い。

それにはデメリットもあるのだ。もし地域によって異なった需要の変化が起きた場合、不況地域は金利を下げたり為替レートを変更して、需要を刺激したいだろう。ユーロ圏では、それができない。アメリカ国内でもできないが、その代わりに労働者たちは不況地域から好況地域に移動する。ヨーロッパの地域は、言語や文化、その他の要因から、アメリカよりも労働者の移動が少ない。

すなわち、不況になれば、ユーロ圏を離脱して、自由に金利や為替レートを変更したい、と思うはずだ。実際、財政に関する厳しい合意(や財政的移転)、保険や銀行救済に関する合意がないので、ユーロ圏の各国は不況対策の結果、国債の金利やデフォルト・リスクが大きく異なっている。

それでも、単一通貨であるために、弱い経済でもインフレになるリスクは抑えられ、為替レートの変動(資本流出)のリスクも存在しない。その意味では、デンマークやポーランドが、今後、ユーロを採用することにも理由がある。


Feb. 2 (Bloomberg)

Japan’s Economy Is Killing Far Too Many Japanese

William Pesek

(コメント) 確かに、年間3万人、毎日100人近くが自殺する国だ、というのは恐ろしい数字です。ストレスの国、過労死の国、自殺大国。


FT February 2 2009

Downturn slashes 20m jobs in China

By Jamil Anderlini in Beijing and Geoff Dyer in London

The Times, February 3, 2009

Selling China

Asia Times Online, Feb 4, 2009

China warns against protectionism

By Antoaneta Bezlova

FT February 3 2009

Asia to the rescue

FT February 4 2009

China should raise wages to stimulate demand

By David Pilling

(コメント) 2000万人の出稼ぎ労働者が職を失って帰郷する、という政府の統計について、FTの記事は紹介しています。温家宝首相がケンブリッジ大学で講演した日の記事です。・・・日本の首相は、どこで、何をしているのか?

世界不況が避けられるとしたら、それはこんな風に世界を変えている。銀行の危機は介入によって安定化し、消費の減少は金融緩和や政府の刺激策で埋め合わす。そして、欧米に代わってアジアの消費者たちが世界の供給能力に応じた支出をする。

そのためには、社会保障が整備され、資本勘定も自由化され、アジア通貨危機の再発を防ぐ制度が信頼されて、もっと高賃金で、通貨価値の増した、資本財よりもサービスを重視した、豊かな生活を享受するアジアの消費者を中心にする政治経済秩序が現れることです。

・・・日本の投資家がロックフェラー・センターを買ったどころではない。

Asia Times Online, Feb 5, 2009

China's tide of migrant labor turns

By Olivia Chung

FT February 5 2009

Asia’s migrant workers face uncertainty

By John Aglionby in Jakarta

China Daily, 2009-02-05

China has proved ability for crisis management

By Ding Yifan

(コメント) 世界不況は中国の減速によって悪化する、という欧米の見方を否定しています。中国経済は単に欧米市場向けの輸出で成長したのではない。中国の経済管理は欧米よりも優れており、成長を維持できる、と。しかし、これは具体性に欠ける、政治宣伝です。


WP Monday, February 2, 2009

Four Keys to Success in Afghanistan

Fareed Zakaria

LAT February 3, 2009

Prepare for North Korean instability

By Paul B. Stares

(コメント) オバマ政権が、アフガニスタンや北朝鮮に対して何を実現できるのか? オバマ政権は、金正日の後に、どのようなアジアの秩序を構想しているのか? 日本や中国との交渉を導く方針は何か?

NYT February 4, 2009

Don Try This at Home

By THOMAS L. FRIEDMAN

BG February 4, 2009

A new day in US Middle East policy

By Samuel W. Lewis and Edward S. Walker

(コメント) イラクや中東情勢についてはどうか?

FT February 5 2009

Shifting horizons

By Gideon Rachman


FT February 5, 2009

A strategy of contingent nationalisation

By Jeffrey Sachs

WP Friday, February 6, 2009

Rules for A Bank Bailout

By Anders Aslund

(コメント) TARPによる銀行の不良債権処理には問題があって、なかなか処理が進みません。評価が難しいのです。しかし、ワラントを利用すれば問題が回避できる、とJeffrey Sachsは提案しています。

ブラック・ホールにお金を投げ入れるのは愚か者だけだ、とAnders Aslundはブッシュ政権の金融救済を批判しています。危機の進行中に救済しても市場の信頼は回復しません。明確な原則で、不良債権を示し、新資本を調達させることです。スウェーデンが成功した経験から、5つの原則をオバマに求めます。

1.明確かつ一般的な原則を示して救済する。2.透明性を確保する。外部の専門審査機関を作って、不良資産を査定する。3.不良資産の管理を、健全な銀行業務と法的に分離した形で、処理させる。4.資本増強は不良債権処理が終わってから行う。そうすれば、政府の公的資金だけでなく、民間投資も集められる。5.資産をあわてて売却してはいけない。それは危機を拡大し、損失を膨らませる。スウェーデンは数年かけて行った。


LAT February 5, 2009

Russian evolution

By Timothy Garton Ash

The Japan Times: Thursday, Feb. 5, 2009

Can Russia's economy be saved?

By SERGEI GURIEV and ALEH TSYVINSKI

(コメント) Timothy Garton Ashの論説も、いつもどおり、興味深いです。石油や天然ガスをロシアに頼って大丈夫か? ドイツはロシアに接近し過ぎている、とブッシュ政権は批判したわけです。Ashはオバマに同じような態度を取ってほしくないのでしょう。そしてこの考察は、ロシアとドイツの問題を再構築します。

ロシアは帝国を失い、その核兵器や資源を用いて、新しい国際的な役割を模索している。それはロシア人自身が見出さなければならないが、ロシアの描く国際秩序はヨーロッパにとって無視できない。だからヨーロッパはロシアの秩序形成に影響を与えるように、対ロシア政策を明確にしなければならない。

Ashは、反プーチンは正しいが、反ロシアにしてはならない、と主張します。プーチンがいなくなってもロシアは存在し続けます。そのカギは、再びドイツです。1970年代に、ウィリー・ブラントが築いた「東方政策」は、冷戦を転換してベルリンの壁を崩しました。今も、ベルリンからヨーロッパの新しい「東方政策」が形成されます。

石油価格がピークから70%下落し、モスクワの株価も70%下落して、ロシア経済の危機は深刻です。いくつかの銀行を国有化した。しかも、経済情勢はもっと悪くなる、と予想します。

政策の失敗として、1.株価を維持しようとして破たんした企業の株を買い続けた。2.外貨準備があったからルーブルが下落するのを長く阻止した。最近になって急落している。3.輸入自動車への関税を引き上げた。それはルーブルの下落で十分に保護されていたはずだし、関税引き上げに富裕層や輸入業者が政治的な離反を示した。

しかし、危機によって経済政策は正気に向かうかもしれない。銀行システムを守ったし、大幅な国有化は避けている。彼らは体制の崩壊がありうると感じているからだ。経済危機を抜け出すことが最優先課題であり、そのためには経済を理解した者の手に政策決定をゆだねようとしている。ただし、気付くのが遅過ぎた・・・?


WP Thursday, February 5, 2009

The Action Americans Need

By Barack Obama

(コメント) 緊急事態だ。今すぐに行動せよ。アメリカの社会保障、住宅、教育、情報ハイウェイを再建する。・・・ワシントンの政治を変えよ!

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The Economist January 24th 2008

Inside the banks

Greed-and-fear: A special report on the future of finance

Global economic imbalances: When a flow becomes a flood

Buttonwood: Beware of Greeks bearing gilts

Economics focus: The spectre of nationalisation

(コメント) 金融危機の背景にある、現代の銀行に関する論説と特集記事が並びます。

しかし、金融システムや銀行が何をしているのか、本来、どのような姿であるべきか、記事を読んでも分かりません。銀行は歴史的に見て成長のダイナミズムを実現する重要な条件でしたが、同時に、危機の発生メカニズムでした。それが金融市場の本質なのだ、と言われているようで、納得できません。経済停滞と金融危機、二人の悪魔の間で、自分の娘に許嫁を選ぶわけです。

同時に、アメリカとアジアとの間に生じた国際収支不均衡と過剰な融資が危機を醸成した、と主張しています。これも、分かっていた話ですが、納得いきません。確かに、ドル暴落は起きず、むしろドル体制が再強化されています。貯蓄過剰論、通貨危機の自己防衛策、為替介入と輸出成長戦略(ブレトン・ウッズU)、など、さまざまな議論は、不均衡の調整に関する国際合意を求めていると思います。

金融危機から脱出する道も見えません。「バッド・バンク(不良債権処理銀行)」の設立には政治家たちが及び腰で、ましてや「銀行国有化」にはエコノミストたちが拒否反応を示しています。ユーロ圏では、財政赤字と不況の厳しい国ほど長期金利が上昇し、財政が破たん(そして、ユーロ解体)する心配を生じています。

本当は、すべて間違っているのではないか?

The Economist January 24th 2008

The inauguration: Yes you must

Ex-communist reform: Mass murder and the market

China’s flagging economy: Strong as an ox?

Charlemagne: Iceland hunts the euro

Japan: Early in, early out

(コメント) メキシコは危機に政策で対抗し、逆に、フランス、スペイン、東欧が、不況において政策に行き詰まるなら、街頭における抗議活動の波が起きるのを覚悟しています。

オバマの就任演説に関する記事よりも、ロシアの市場自由化をめぐる「大量自殺」を批判した科学雑誌の記事に反対する、という内容が興味深いです。中国の輸出は落ち込むが、景気を回復する手段も持っている。何より、中国は金融市場を切り離している、という次の覇権揺籃?論があります。そして、アイスランドの記事です。国内の政治的混乱が続けば、早期のEU加盟やユーロ採用が難しくなります。

日本は、AIGやアイスランドのように、政府やIMFの生命維持装置につながれていません。集中治療室から出たのか、出てないのか、気がつけばまたデフレや不況が再発したわけです。この治療に立ち会っている医師たちは、いつもすでに悪名高いLDP(自由民主党)の出身です。改革を唱えて政治や経済を機能マヒさせた点で、解体処理が必要だ、と書いているように読めます。